最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

88 / 130
第八十二話北方決戦

数十分後 釧路基地 地下指令室

「敵艦隊、56.8%の殲滅に成功」

 

「艦娘艦隊、全艦の補給と整備完了まで凡そ600秒」

 

「霞桜、損害軽微。戦闘継続」

 

オペレーター達の報告に、長嶺以外の提督達は驚いた顔をしながらモニターを見つめている。さっきまで焦げ付いていた戦局が、明らかにこちら側有利になりつつあるのだ。当然である。

 

「これが霞桜.......凄まじいな.......」

 

「初めて戦ってるのは見たけど、こんなにも強かったんだね」

 

「いやー、雷蔵くんには驚かされるよ。全く、文字通りゲームチェンジャーだね」

 

「えぇ。私が厳選した世界に名だたる精鋭、戦士、猛者達です。この位は造作もありません」

 

霞桜の練度と装備を持ってすれば、長嶺を含めない単独での通常規模の海域解放すら可能である。尤もこの場合、まず間違いなく霞桜側にも相当数の損害が出る。シービクターを持ってしても、恐らくは半数以上が帰ってこない。やるつもりはないが、その位の練度は持っているのだ。

 

「長官。江ノ島鎮守府所属のグラーフ・ツェッペリンから入電です」

 

「すぐに繋げてくれ」

 

『指揮官、聞こえているか?』

 

「あぁ。感度良好だ」

 

『オイゲンからの要請で偵察機を上げたんだが、どうやら敵艦隊の殆どは潰せている様だ』

 

報告では現在の敵損耗率は丁度半分。まだ大量に敵は残っている筈だ。それに正面の巨大モニターに映っているレーダー画面にも、敵を表す赤い光点が無数に光っている。

 

「レーダー上では敵がいる事になっているが?」

 

『すまない、言い方が悪かった。正確には敵の大半が輸送艦なのだ』

 

「なんだと?だが衛星画像では確かに敵がいるんだが.......」

 

『その敵は偽装だ。そこに映っている大半は、人型では無い筈だ。輸送艦が上から、まるで着ぐるみのように他の深海棲艦の外郭を纏っていた。現在は、その偽装を外している最中の様だな』

 

という事はつまり、今のこの攻撃による被害は深海棲艦側に取っても予想外の出来事だと考えていいだろう。恐らくは予想外の被害に、少しでも多くの艦艇を温存するという方針だと思われる。もしそうじゃ無いとすれば、何かしらの策があり準備に入っているか囮として動き出したのだろう。

 

「雷兄、どうするんですか?」

 

「.......前衛の艦娘に通達。無線の回線を開き、周囲の音を拾わせろ」

 

「周囲の音、ですか?」

 

「あぁ。それから、ヘッドフォンを取ってくれ」

 

謎すぎる指示に困惑しながらも、とりあえず従うオペレーターと艦娘達。こればかりは江ノ島の者でも、微妙に困惑していた。

 

「さぁ。戦場よ、俺に教えてくれよ」

 

長嶺は耳にヘッドフォンを当てると、そのまま深く椅子に座って静かに目を閉じた。聞こえてくるのは風の音、波の音、場所によっては誰かはわからないが、艦娘やKAN-SENの声らしき物、鳥の鳴き声が聞こえてくる。だが正直、雑音といった所だろう。

 

「雷蔵くんには、何が聞こえているんだ?」

 

「雷蔵兄さんって、これがノーマルなのですか比企ヶ谷提督?」

 

「俺も長嶺の事は詳しくねーよ。でも、基本よく分からんことをしているからなぁ.......」

 

他の者には単なる雑音でも、長嶺に掛かれば意味のある事なのだ。今回、自らは戦場に立てない。それ故にいつもの様に五感全てで戦場を読み取り、敵味方の状況や環境に合わせた戦術を取ることが出来ないでいる。

だがそれでも、こういう風に少しでも戦場にいるかの様に自らを錯覚させれば少しは何かが分かるかもしれない。いつもの様にはいかずとも、何かを見つけ出せるかもしれないとやってみたのだ。ぶっちゃけ長嶺自身、望み薄の無意味かもしれない行為だという認識である。

 

(何を感じる。俺は今、何を感じている.......)

 

聴覚を研ぎ澄まし、視覚は遮断し、とにかく音に集中する。すると不思議な物で、何かが迫ってきていることがわかった。数は少ないが、一つ一つの音は大きい。

 

「.......エンタープライズ、聞こえるか?」

 

『指揮官、何か問題か?』

 

「何か見えないか?大型の、恐らく戦艦空母クラスか姫級の深海棲艦が」

 

『そんな筈は.......』

 

エンタープライズが水平線の方に目を凝らして見てみると、何か小さな黒い物体が見えた。

 

『エンタープライズ先輩敵です!!!!正面、装甲空母姫2、重巡棲姫6!!』

 

『指揮官!!!!』

 

無線からエセックスとエンタープライズの叫び声が聞こえてくる。敵が来た。であれば、こちらが命じるのは一つしかない。

 

「全艦隊に告ぐ!!敵の親衛隊のお出ましだ。姫級が来やがったぞ。アメリカ、空自の航空隊は一時退避。代わりに空母艦娘は艦載機を上げろ。さぁ、いよいよ最終局面だ。最後にいっちょ暴れてやれ!!!!」

 

この指示を受けた艦娘達の行動は早かった。すぐに隊列を整え出す。だが、やはり江ノ島艦隊はその中でも抜きん出て早かった。艦娘の大和、武蔵、長門、赤城、吹雪。それからKAN-SENの赤城、エンタープライズ、プリンス・オブ・ウェールズ、ビスマルク、オイゲン、ソビエツカヤ・ロシア、リシュリュー、ジャン・バールと言った旗艦級の面々がエセックスの報告直後に、長嶺の命令を待たずに指示を出し、他の者もそう来ることを見越していたので素早く行動に移せていたのだ。

 

「第三大隊!前に出るぞ!!!!」

 

「第四大隊!突っ込むぞ!!カチコミじゃぁ!!!!!」

 

「第五大隊、第四大隊の援護にまわるわよ」

 

「第一大隊、艦隊の皆さんと合流しますよ。援護に入ります」

 

「第二大隊、後衛で待機。敵が来たら倒して」

 

「本部大隊、後方支援に入りますよ。負傷した者を運び込み、治療を行なってください。エンジニア、ドクターは後方待機。メディックは戦闘員と行動を共にし、前線での応急手当てをお願いします。行動開始!」

 

霞桜の面々の行動も早い。いくら頭数が増えていようと、艦娘とKAN-SENが共に戦う時にやる事は変わらない。彼女達が少しでも戦いやすく、戦闘を継続できる様に支援する事が霞桜の任務。霞桜を持ってしても、流石に最強の対深海棲艦兵器は艦娘かKAN-SENである事は変わらない。

であれば我々は少しでも戦いやすくし、犠牲や疲労を最小限に抑える。それが彼ら霞桜の任務なのだ。

 

「一航戦赤城」

「同じく一航戦、加賀」

 

「二航戦蒼龍」

「二航戦飛龍」

 

「五航戦、翔鶴」

「同じく瑞鶴!」

 

「「「「「「第一次攻撃隊発艦!!」」」」」」

 

「一航戦、赤城」

「一航戦、加賀」

 

「「推して参る!!」」

 

「終わりだ!」

 

「終わりだ……Funebre!」

 

「聖なる光よ、私に力を!」

 

「うんうん、きっとこんな感じで……艦載機、飛べ!」

 

「これでどう?」

 

「汝、罪ありき…!」

 

「この行いはすなわち、アイリスの願い」

 

次々に艦娘とKAN-SENから艦載機が上がる。他の鎮守府や基地の空母艦娘は精々が紫電改二か、零戦52型の熟練位であり、一部F4F-4が使われていたりはするがその程度だ。

だが江ノ島の場合、装備は次元が全く違う。最新鋭の設備、長嶺の資金とコネ、マッドサイエンティスト(明石、夕張、レリックetc)共が揃っており、新兵器の開発や改造はお手の物。その為装備が烈風改二戊、紫電改四、震電改、試製 陣風、シーファング、シーホーネット、Me-155A艦上戦闘機、F7Fタイガーキャットといった化け物ばかりが揃っている。

 

「我が国の興廃、この一戦にあり!」

 

「戦に情けなど無用…伊吹、参ります!」

 

「我らが神よ、等しく愛憎をくれ給え」

 

「目障りだ。消えろ」

 

「ふはははは!巻き込め!エーギルのアギトよ!」

 

「全主砲、撃ち続けなさい!」

 

「パーティー始めよっ!!」

 

「五十鈴には丸見えよ?」

 

「見えてる!Fire!」

 

空母が直掩機を上げる中、他の戦艦、重巡、軽巡、駆逐といった艦種は対空戦闘を開始。空は対空砲火の爆炎が覆い、機関砲の火線が空を裂く。江ノ島の場合、最近は港湾棲姫という敵方の大物が味方についたこともあり、姫級相手の訓練で培った戦闘技術が存分に発揮できる。しかも元々、何処の鎮守府の艦娘も対空戦闘演習では、UAVとか空母が持つ演習用の艦載機を使うので対空戦闘は結構得意なのだ。

 

「各艦、戦闘を開始しました」

 

「後方より大型機接近中!恐らく、北方棲姫保有の爆撃機と思われます!!」

 

「比企ヶ谷!!」

 

「釧路基地航空隊に伝達!上空待機中の航空隊は迎撃を開始せよ!」

 

比企ヶ谷の命令を受けた雷電と陸軍の三式戦 飛燕一型丁、キ96が爆撃機に襲い掛かる。爆撃機とて対爆撃機としても有効な20mmバルカン砲を持ってすれば、迎撃は可能である。

しかも今回参加している部隊は釧路基地に配属される前に江ノ島に短期間だが配属され、そこで霞桜の面々や江ノ島の精鋭艦娘&KAN-SEN、航空隊からシゴキを受けた猛者。そんじょそこらの航空隊よりも強い。

 

「釧路基地航空隊、交戦開始!」

 

「いよいよ作戦も大詰め、ってところかな?」

 

「でしょうねぇ。このまま、終わってくれれば良いんですけど」

 

「装甲空母姫1、撃沈!!」

 

「このまま終わりそうですけどね」

 

指令室全体では既に、この海戦に勝った気でいる。確かにこの物量と江ノ島の練度を持ってすれば、勝利は容易い。だが戦争はいつ何が起こるか分からない。故に、終わるまでは気を抜いてはならないのだ。

 

「そっちに3機行くぞ!!!!」

 

「1機でも多く倒せ!!後ろの嬢ちゃん達の負担を軽くするんだッ!!!!!!」

 

「堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ!!ひゃっっっはぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

一方の現場はというと、結構順調に戦闘を継続していた。直掩機が初動の攻撃を行い、第四、第五大隊が敵陣へと突入しつつ二段目の迎撃を行う。更に第三大隊の面々が薄く広く展開して、対深海棲艦用歩兵機関銃イシスの圧倒的弾幕で艦隊への侵入を阻む。

この対空網を潜り抜ければ多数の艦娘とKAN-SENによる迎撃網が待っており、少しでもそちらに気を取られたり別の所に意識が行けば、対深海棲艦用狙撃銃オーバーロードを装備した第一大隊に狙い撃ちにされる。深海棲艦にとっては、単なる悪夢でしかない。仮にこれを抜けれても、最後部に位置する空母を守る様に布陣している第二大隊がこれを阻む。鉄壁の対空迎撃網だ。

 

「対空はリノに任せて!」

 

「リノ嬢ちゃんに続け野郎共!!!!」

 

「ファッッッキュゥゥゥゥ!!!!!!」

 

弾幕を張る中でも特に酷いのが、艦娘とKAN-SENの中で対空に秀でている者。例えば艦娘なら摩耶、五十鈴、アトランタ、秋月型駆逐艦。KAN-SENならモントピリア、リノ、サンディエゴ、五十鈴といった者に、霞桜の面々、特に第一大隊か第三大隊が加わった時だ。

 

「私達が弾幕を貼ります!!」

 

「叩き落とせ。Fire、Fire!」

 

例えば第一大隊との連携を見てみよう。まずは対空に強い艦が弾幕を張って、敵の数を適当に減らしつつ弾幕で進路を固定させてしまう。

 

「ッ!今よ!!」

 

「任せておけ!」

 

「俺達も相手してくれないと、おじさん達泣いちゃうぞ深海棲艦ちゃん!!!!」

 

「無視はダメだと学校で習わなかったかい!?!?」

 

後は用意された道を通らざるを得ない哀れな艦載機達を、オーバーロードを用いた超精密狙撃で撃破するというシンプルな戦法だ。シンプルだが、これが面白い程に当たる。

恐らく深海棲艦にとっての最優先攻撃目標となっているのは艦娘とKAN-SENなのだろう。霞桜の面々は攻撃すれば喰らい付くが、積極的に砲火を交えようという意図は感じられない。つまり深海棲艦にとって、今の霞桜は取るに足らない雑兵という認識なのだろう。であれば、これを最大限活かすまで。目をつけられてないのなら、目をつける存在が気を引いてる間に背後から奇襲すればいい。

 

「敵艦載機、残り20%!!」

 

「このまま押し切ります。第一大隊、もう少し耐えなさい!!!!」

 

「第三大隊!まだまだ祭りは終わってねぇぞ!!!!!!撃ちまくれ!!!!!!」

 

2人の大隊長の鼓舞に、隊員達は雄叫びを上げながらトリガーを引いて答える。後方で対空戦闘が行われている中、第四、第五大隊と水雷戦隊は敵艦隊への突撃を敢行していた。

 

「全く、姫級相手にこの編成って、かなりヤバいよね!!」

 

「北上さんがいれば最強です!!」

 

「そうだぜ北上の嬢ちゃん!大井の嬢ちゃんとのコンビは、最強の重雷装コンビだろ?姫級だろうが何だろうが、相手が水上目標なら勝てる!!」

 

「進路は俺達が切り拓く!!できた華道を駆け抜けろ!!」

 

「全く。おじさん達ってば、かなり武闘派だねぇ〜」

 

第四、第五大隊の多くは元が武闘派極道。こういう時、そう。絶望的な状況での命の取り合いや、そもそも修羅場という物を愛するタチの連中だ。「武闘派」と言われるのは、彼らにとっての栄誉に他ならない。

 

「テメェら!!武闘派の威厳魅せたれや!!!!!」

 

「ッシャァァァァ!!!!!!」

 

「やったんでゴルァァァァァ!!!!」

 

第四、第五大隊が重巡棲姫2隻に突貫。接近戦を仕掛ける。だが戦法自体は正々堂々とは程遠い、多数で囲んでよってたかってボコボコにする戦法である。深海棲艦と人間の差を考えれば、こうなるのは仕方がないことだろう。

 

「オラァ!!!!!!」

 

「これもオマケで貰っとけ!!!!」

 

「グハッ.......キサマラ、覚エテイロ.......」

 

「いーや。覚える必要はないな。そうだろ、お嬢さん方!!!!」

 

何かの合図の如く霞桜の隊員達は一斉に空へと飛び上がり、重巡棲姫への射線を確保。飛び上がった際の水飛沫で目隠しを作り出し、その背後で北上と大井の率いる水雷戦隊が一斉に魚雷を撃ち込む。

 

「海の藻屑と!!」

 

「なりなよ〜」

 

「面白いように当たるわね」

 

「服を切らせて、骨を断つのよ!」

 

「かかってらっしゃい! 一網打尽です!

 

「突撃よ!Open fire!」

 

一斉に避ける場所もないほどの数の魚雷を撃たれて、重巡棲姫ら回避行動も取ることなく沈没した。残る重巡棲姫4隻は艦娘達が倒す。だが装甲空母姫だけは、このコンビが対応していた。

 

「第五大隊大隊長ベアキブル、舐めんじゃねぇぞ!!!!」

 

「第四大隊大隊長カルファン。悪いけど、その命貰うわね?」

 

「愚カダナ」

 

装甲空母姫はそう言いながら、艦載機を即座に発艦させる。だが発艦口前方で、カルファンのワイヤーが空中に散らばっていた。艦載機は漏れなくカルファンのワイヤーに切り刻まれ、大空に羽ばたいていくことなく海に落ちていく。

 

「何ダト!?!?」

 

「この位で驚いてちゃタマ獲れんぞ!!!!」

 

ベアキブルはそう叫びながら、装甲空母姫の左脇腹から腹の中心の方へ深く抉り込ませながら上へと切り上げた。青い鮮血が飛び散るが、それでも装甲空母姫はまだ倒せていなかった。

 

「マダ.......死ナヌ.......死ナヌゾ!」

 

装甲空母姫は何とか立ちあがろうと力を振り絞る。だが次の瞬間、その重巡棲姫の背後には対深海棲艦様の手榴弾が爆発した。カルファンがワイヤーで海中を潜らせて、背後に配置して置いたのだ。

 

「往生せぇぇぇやぁぁぁぁ!!!!!!」

 

爆発で瀕死になりながらも何とか生きていた装甲空母姫を、ベアキブルがドスで首を切ってトドメを刺す。青い血が噴水のように吹き出しながら、装甲空母姫はその場に倒れて沈んでいった。

 

「敵艦隊殲滅に成功!!」

 

「全艦娘に伝達!!全艦、突撃せよ!!!!ここが決戦だ。後方の日米連合艦隊、上空の航空隊も攻撃を開始!!北方棲姫を倒せ!!!!!」

 

オペレーターの報告に、すかさず長嶺が指示を飛ばす。いよいよこの作戦も、最終局面を迎えようとしている。

 

「機体上げるぞ!」

 

「フラップ、ラダー、兵装、すべて異常なし」

 

「射出後、方位230に向かえ。高度400で編隊を組む」

 

「射出まで3、2、1。射出!」

 

一時的に空母へと帰還していた日米の空母航空団は、再度装備を整えて発艦。エルメンドルフ航空基地からもF15EXを有する航空隊が飛来し、北方棲姫への攻撃を仕掛けに行く。

 

『ここまでようやく漕ぎ着けたな、グレイア1』

 

『そうだなカメーロ1。江ノ島のみんなには、被害がそこまでなくてよかった。まあ、他の艦隊はそうも言えんがな』

 

『あぁ。轟沈艦も出てる。だが、それももう終わりだ』

 

グレイア隊とカメーロ隊。影こそ薄いが、江ノ島鎮守府の基地航空隊である。彼らは空自きってのエースであり、メビウス中隊には劣るがそれでも世界的に見れば最強格のエース部隊だ。これまで幾度となく江ノ島の面々と肩を並べて戦ってきたが、1人の戦死者も出さずにここまできている。少なくとも並の飛行隊なら、全滅せずとも何処かで戦死による人員の入れ替わりが必ず起こるものだ。

 

『ところでカメーロ隊は、どのくらいの弾数が残っているんだ?』

 

『さっき補給がてら、釧路まで帰還してきた所だからな。まだたんまりある。そっちは?』

 

『こっちも殆ど霞桜と下の艦隊がやってくれたんでな、余り弾薬に減りはない。燃料も補給してきたからな』

 

こんな話をしていると、他の飛行隊が合流し、更に艦娘の空母艦載機の編隊とも合流した。眼下には艦娘とKAN-SEN、そして江ノ島の者には見慣れた霞桜の面々が隊列を組んで突き進んでいる。

 

『敵が見えたぞ!』

 

『全機、ミサイルのロックを解除!!撃ち尽くせぇ!!!!』

 

『『『『『イェッサー!!!!』』』』』

 

最初に仕掛けたのはアメリカ軍だった。本来なら長射程を誇るAGM158だが、深海棲艦のそれも姫級相手だと接近してから放たなければ高確率で外れるか迎撃されてしまう。遥か彼方から撃てれば楽なのだろうが、仕方がない。

 

『グァァ!!』

 

『ベイルアウガッ』

 

だがその弊害で、北方棲姫にとっては最後の盾たる防空棲姫の射程圏に入ってしまう。姫級の場合、全てが通常の深海棲艦を凌ぐ。例えば通常の深海棲艦であれば、その実はただ硬いだけ。通常兵器でも大量に投入すれば倒せなくはないし、対空戦闘も基本が艦娘相手のレシプロ機への対抗策なので、ミサイルへの防御はそこまで得意という訳ではない。

だが姫級はまずECMでも搭載されているのか、ミサイルは接近してから撃たないと当たらない。一定のラインを超えると、勝手に水面にダイブしてしまう。しかも接近したとしても、通常のそれとは比較にならない猛烈な弾幕を張ってくる。これには現代の戦闘機やミサイルでも、なかなか太刀打ちできる物ではない。極め付けは、通常の兵装で姫級を倒すことは出来ない。周囲に展開する『小鬼』という取り巻きや、一部の装備程度で姫本体には基本通らない。一度、戦略核兵器を用いた攻撃も過去に行われたが、周囲の護衛や小鬼は倒せたが、姫級にはダメージを殆ど与えられてなかった。ついでに言えば、霞桜の対深海徹甲弾を持ってしても、姫級には数の暴力を使うか弱点を正確に撃ち抜くかでないと倒せない。

 

「グリズリー09、13、ロスト!!」

 

「続いてアンジェロ8、6、3、いえ。アンジェロ隊ロスト!!ラックベル隊、04を残して全滅!!」

 

「姫級ともなれば、流石に航空隊の被害が凄まじいね.......」

 

「こればかりは、どうしても避けられませんね」

 

レーダー画面の味方を示す光点は、次々に消えていく。仕方がないとは言えど、やはり見ていて苦しいものがある。だが、主力たる水上の戦力の方はまだ失われてはいない。

 

「全主砲、薙ぎ払え!!!!」

 

「全砲門、開けっ!」

 

しかも先陣を切っているのは、大和と武蔵という戦艦の二大巨頭。否が応でも士気が上がる。霞桜の面々はアイドルの様な存在である艦娘とKAN-SEN達なら、例え誰が先頭でも大盛り上がりするだろう。

だが大和と武蔵は、霞桜の古参メンバーとしては同期である。2人は長嶺の江ノ島鎮守府着任と一緒にやってきた。戦場を共に駆け抜けた数、鎮守府での日常を送った期間は最も多い。そして何よりブラック鎮守府だった江ノ島を建て直し、長嶺政権の江ノ島鎮守府の創成期から今日に至るまで共に見守ってきた存在でもある。そんな2人が先頭を切れば、霞桜の面々も込み上げてくる物がある。

 

「良い女達だよな」

 

「あぁ。俺達みてーな荒くれ者がご一緒するのが、畏れ多いくらいにな」

 

「そーら、まずは防空棲姫だ。俺達の攻撃、耐えられるか!?」

 

防空棲姫に苛烈な攻撃が集中する。弾幕を張って戦うタイプの防空棲姫が、逆に弾幕を張られて攻撃されている。しかも今回はシービクターを装備している為、いつもの数倍の火力が投射できる。反撃や回避はできない。

 

「アレ…ウゴカナイ…? …アハハハ……ウミト ソラガ、綺麗…」

 

「防空棲姫を倒した!!」

 

「皆さん!!お願いしますよ!!!!」

 

「てえぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

大和の号令の下、全艦が一斉に主砲を放った。更に上空からは航空隊が、攻撃を同時に仕掛ける。瞬間的に多数の砲弾を浴びた北方棲姫は、断末魔を上げる間もなく吹き飛んだ。

 

「北方棲姫、反応.......消失!!」

 

オペレーターの報告に、指令室にいた全員の時間が止まった。数秒後、大歓声が上がる。ある者は手に持っていた書類を空高く放り投げ、ある者は隣に座る同僚と肩を組んでみたり、背中を叩き合っていたりする。2階部分に座る提督達も例外ではない。喜びの声を上げて、手を握り合っていたりと、こちらも同じ様に喜んでいた。

 

「やった!やったよ雷兄!!」

 

「これで沈んでいった艦娘達の仇が取れました!!」

 

「ザマァ見ろ!!」

 

「風間提督ってそんなキャラでしたっけ?」

 

「比企ヶ谷、今位はいいだろ?はいはい諸君!喜ぶのもいいが、まだ残敵掃討が残っているぞ!!神州丸とあきつ丸に上陸部隊を出させろ。それから特戦群の皆様も出撃だ。以降、艦娘とKAN-SEN、霞桜は周辺海域の索敵に当たり、敵との遭遇時はこれの撃破に移れ」

 

まだ仕事は終わっていない。残敵掃討をしなくてはならないし、今回は特殊作戦群の支援も場合によっては考えられる。とは言え、ここから先はかなり楽ではある。残敵掃討必要ないくらいに殲滅したし、特殊作戦群の方は霞桜の面々を支援に向かわせる予定だ。これでようやく、肩の荷が下ろせる。そう考えていた。

だが事態は思いもよらない方向へと突き進んでいく。北方棲姫撃破から約1時間後、戦艦棲姫からの無線が始まりだった。

 

『提督。聞コエルカ?』

 

「おー、どしたの?」

 

因みにだが、流石に普通の無線ではない。霞桜でも使う、高度な暗号化がなされた特殊な回線だ。普通の今、他の艦娘やKAN-SENと話す回線では確実に混乱が起きる。当然だが、回線を分けたのだ。

 

『マダ艦隊ハ作戦海域ニイルノカ?』

 

「そりゃまあ、まだ一応作戦中だし」

 

『スグニ逃ゲロ!!深海棲姫ガ来ル!!!!』

 

瞬間、長嶺の脳裏に例の地震計が観測した謎の振動の事が浮かんだ。深海棲姫。当時、神授才と『鴉天狗』を用いなかったとは言え、親友達を殺した極東の死神以来、初めて負けた相手だ。今の艦隊には荷が重い。すぐに命令を飛ばそうとした時には、もう遅かった。

 

「な、なにこれ!何かが海中を高速で進んでいます!!米駆逐艦『ニッツェ』『ベインブリッジ』『キッド』轟沈!!巡洋艦『シャイロー』駆逐艦『ウィリアム・シャレット』大破!!護衛艦『きりしま』『しらぬい』『すずつき』『もがみ』『くまの』『みくま』『によど』轟沈!!空母『いぶき』『のしろ』『やはぎ』大破!!」

 

「一体なにが起きたんだい!?」

 

「分かりません!!情報が錯綜し、何が何だか.......」

 

さっきまでの落差もあって、オペレーター達も提督達も浮き足だってしまう。当然だ。彼らは軍人であっても、その本分は後方から前線で戦う者達を支援すること。こういう不測の事態への耐性は、基本的にない。

長嶺は前に出ると、閻魔の鐺を勢いよく地面に叩きつけた。鈍い金属同士のぶつかる大きな音が指令室に木霊し、オペレーター達の動きが止まる。

 

「喚くな。焦るな。悲しむな。今、俺達後方の人間がすべきは慌てる事じゃねぇ。前線でまだ生き残っている仲間の安全を、1人でも多く確保する事だ。死者に構ってる暇があるのなら、1人でも多くの生者を救う努力をしろ。いいな!!!!」

 

「「「「「「「了解!!!!!」」」」」」」

 

「流石、雷蔵兄さん。全く動じてない」

 

「雷兄だもん。当然だよ」

 

「あの冷静さは僕も見習いたいね。まぁ、できる未来は見えないがね」

 

艦隊の壊滅は直ちに前線にも伝えられ、艦隊は即座に動き出した。まずは潜水艦と霞桜の選抜メンバーが、海中に潜り状況を偵察。その間に水上では、間隔をあけて探知網を構築しアンノウンを待ち構える。

 

「大和、聞こえる?」

 

『オイゲンさん。どうしたんですか?』

 

「これ多分、例の深海棲姫よね?」

 

『......えぇ。確証はありませんが、恐らくはそうでしょう。それがなにか?』

 

「いいえ。ただちょっと、気になっただけよ.......」

 

オイゲンはポケットの中に忍ばせている、今回限りのお守りに触れる。これさえあれば、どうにかできる。例え相手が深海棲姫であっても、きっとどうにかしてくれる。

 

(私達を護ってよね。雷蔵!)

 

オイゲンは軽く叩くと、艤装を構えた。だがその瞬間、グリムの叫びが無線から聞こえてきた。

 

『総員回避!!!!海中から来ます!!!!!』

 

その叫びとほぼ同時に、海中から無数の黒い触手が飛び出してきて無差別に襲い出した。

 

「うおっ!!!」

 

「ガハッ.......」

 

「退避!!退避ぃ!!!!」

 

特に霞桜が展開していた場所が酷く、触手に身体を貫かれており、まず助からないだろう。触手の先端の方で力無く、手足をぶらりと揺らしている。

 

「お前達!!!!」

 

「チッ!やりやがったな!!!!」

 

「撃ちまくれ!!!!!」

 

触手に攻撃を集中させるが、殆ど意味はない。逆に触手が鞭のように撓って、周りにいる者を弾き飛ばす。霞桜の隊員はシービクターのおかげで、とりあえず脳震盪位で済んでいた。だが艦娘の方は、一部には手足を吹き飛ばされる者もおり、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 

「痛い!痛いよぉ!!!!」

 

「足。足が!!」

 

「本部大隊!!すぐに救助を!!!!」

 

だが艦娘の場合、例え足や腕を失おうと入渠ドックと高速修復材を用いれば完治する。とは言え、後送する余裕はない。取り敢えずは水上装甲艇『陣風』にでも押し込む他ない。

 

「痛いよぉ!!!」

 

「痛いな。好きなだけ叫べ。それから、もし気絶できるならしておいた方がいい。その方が痛みを感じなくて済む」

 

艦娘達を後ろへと担ぎ、その間に戦える者で攻撃を加え続ける。少しでも負傷者を後ろへ下げ、生還率を上げるのだ。

 

「愚カダナ。貴様ラモ」

 

瞬間、海中から普通の深海棲艦や姫級よりも禍々しい見た目の艤装を装備した、深海棲艦が姿を表した。病的なまでに真っ白な髪と肌、それに赤い目と角。間違いようがない。深海棲姫だ。

 

「現地艦娘より報告!!深海棲姫が出現しました!!!!!」

 

「艦隊の被害甚大!!大破、轟沈者も出ています!!霞桜、戦死者多数とのこと!!!!」

 

「.......やりやがったな」

 

この報告を聞いた時、長嶺の考えは決まった。もうこうなった以上、国家機密とか連合艦隊司令長官の肩書とか、もうどうでもいい。家族たる仲間達を護るのに、そんな鎖は邪魔でしかない。

 

「現時刻を持って、進行中の全作戦を中止する。現在展開中の全部隊は、深海棲姫撃退に全力を当てよ。また本指令室の指揮権は、風間提督に一任する」

 

「え!?ちょ、雷蔵くん!!君はどうするだい!?!?」

 

「俺が為すべき事を為す。それだけですよ。比企ヶ谷!アイツらを使う!!付いてこい!!!!」

 

「お、おう」

 

長嶺は着ていた軍服を脱ぎ捨てて、強化外骨格の姿になってハンガーへと走り出す。冷静を装ってはいるが、その脳内は今も戦っている家族のことで一杯だった。

一方の戦場はというと、まさに地獄であった。

 

「きゃぁぁぁ!!!!」

 

「大和!!」

 

「ま、まだ、やれるわ.......」

 

「勝手は榛名が許しません!!!!!!」

 

「ヤマート!Are you OK?」

 

既に傷ついていない艦なんてのは居ない。全ての艦が被弾し、江ノ島艦隊ですら大半が中破ないし大破。空母に関しては殆ど機能喪失といった具合で、かなり不味い状況であった。

霞桜も同じである。既にシービクターが使い物にならなくなり、泣く泣く投棄した隊員や、装備こそしているが腕とかエンジンとかが壊れた者もいる。この位ならまだいいが、中には艦娘を守る為に身を挺して庇った結果、満足な抵抗すらできずに死んでいった者もいる。

 

「これは、不味いですね.......」

 

「グリム。何か策はありますか?」

 

「そういうマーリンは?」

 

「迫り来る触手を攻撃して怯ませつつ、攻撃を回避。その間に艦娘とKAN-SENで叩く位しか思いつきませんよ」

 

対深海徹甲弾やパイルバンカーを持ってしても、深海棲姫には歯が立たなかった。精々が攻撃を怯ませたり、当たった衝撃で照準をズラすといった攻撃としては殆ど無意味な事しかできなかったのだ。

 

「かなりヤバいわね.......。こうなったら、やるしかないわね」

 

「オイゲン!何か策でもあるの!?」

 

「ビスマルク!少しの間、持たせて!!!」

 

「わかったわ!」

 

ビスマルクを筆頭とした鉄血艦隊が、オイゲンの前に立ちはだかり攻撃を阻む。触手攻撃もあったが、そこはビスマルクの防御力と戦艦としての馬力で防ぎ切った。

 

「お願い、届いて。小鴉!!!!!!」

 

オイゲンはポケットから取り出した真っ暗な式神を投げた。長嶺が作戦前にオイゲンに持たせていたのは『鴉天狗』を呼ぶ鍵となる、小鴉の式神だったのだ。

小鴉は炎を纏ってF27スーパーフェニックスへと姿を変え、編隊を組んで後ろから炎を出して上空に旭日旗を描く。その旭日旗の中から空中超戦艦『鴉天狗』が姿を現し、艦隊上空にその巨艦を浮かばせた。

 

「な、なにあれ!!!!」

 

「戦艦!?」

 

「敵かしら?それとも、味方?」

 

他の鎮守府の艦娘、そしてオペレーターや提督達は何が何だか分からなかった。何せいきなり宇宙戦艦ヤマトみたいに、巨大な戦艦が空に現れたのだ。常識に当て嵌めればあり得ない出来事だ。

だが江ノ島の者であれば、その姿を見るや否や士気は否が応でも上がる。

 

「指揮官が、来る!!」

 

「テートクが来マース!!!!」

 

「野郎共!!総隊長が来るぞ!!!!踏ん張れぇ!!!!!!!」

 

取り敢えず長嶺が来るまでは『鴉天狗』が、戦艦の状態で砲撃を開始する。この砲撃で深海棲姫の注意を惹きつけ、その間に態勢を艦隊は立て直す。そして再度、攻撃を仕掛けに行く。その様子を長嶺は、上空から見ていた。

 

「お前達、行くぞ」

 

比企ヶ谷らはいきなり飛び出していった長嶺を、大慌てで追い掛ける。今の長嶺は、明らかにいつもの長嶺ではない。戦闘モードなのは間違いないが、明らかに何かが違う。

 

『もう見えなくなった』

 

『多分アレ、かなり怒ってますよね?』

 

『長嶺ってば、アレでかなり仲間思いだべ。多分、かなりキテるっしょ』

 

『些か、敵に回したくない状態であるな』

 

『敵じゃないのに、なんかビリビリくるもんね』

 

『敵には同情するよ』

 

長嶺は仲間を置いて、降下中でありながら速度を上げるためにジェットパックをフルスロットルで吹かしながら降下する。常人なら精神的に耐えられない速さだが、それでも長嶺突き進む。そして数分の降下の後、体制を立て直して『鴉天狗』を装着した。

眼下では『鴉天狗』が炎の玉に包まれるのを見て、長嶺が来たことに気付いた江ノ島の家族達が目を輝かしていた。

 

「空中超戦艦『鴉天狗』ここに見参!!!!!!」

 

続けて犬神と八咫烏も巨大化して着水し、ここにいつもの江ノ島メンバーが揃った。この事実だけで、江ノ島の家族達の士気は作戦開始時よりも遥かに上がっていく。

 

「待たせたな、お前達。本来ならお前らの奮戦を讃えたい所だが、今はそれどころじゃねぇ。グリム!状況を説明しろ!!!!」

 

「既に霞桜では28名の戦死者を出しておりますが、戦闘は継続可能です。しかしながら、弾薬が.......」

 

「問題ない。三浦!!」

 

『任せといて!!』

 

上空にいる三浦が、空から補給物資を投下した。中には多数の対深海徹甲弾が入っており、これで補給の問題は解決した。更に新しいシービクターも詰めてきたので、これで壊れたり投棄した者も問題ない。

 

「艦娘とKAN-SENは!!」

 

「私含め、艦娘の全員が中破ないし大破しています.......。しかし、戦闘継続は可能です!!」

 

「こっちもよ。艤装もボロボロ、身体は傷だらけ。でも、まだやれるわよ!」

 

大和とオイゲンの報告に、長嶺は不敵な笑みを浮かべた。要は全員が力を使い尽くす戦い方をすれば良いだけで、なにも難しいことはないのだ。必ず勝てる。

 

「この戦場にいる全ての戦士に告ぐ!!!!我々はこれより、最後の突撃を敢行する!!!!我が魂に残りを持つ者よ、我と共に進め!!!!!!旗が貴様らの目印ぞ!!!!!!!!」

 

長嶺が指差す先には霞桜の旗、アズールレーンの旗、そして各鎮守府の旗を比企ヶ谷達が掲げていた。その戦闘に、長嶺が立つ。

 

「貴様ハ確カ、前ニ倒シタ男」

 

「はっ!あの程度で勝っているような気じゃ困るな。あん時の俺は万全じゃなかった。来いよ、遊んでやる」

 

深海棲姫は無数の触手で攻撃してくるが、まずはコイツらが止めにかかる。

 

「吹雪の術!!」

 

「翼旋!!」

 

犬神が凍らせて、八咫烏が風系の術で破壊。幾ら深海棲艦の親玉たる深海棲姫と言えども、妖怪と神の力には太刀打ちできない。

 

「邪魔だ」

 

一方の長嶺も、残る触手を全て切り落としてしまう。これまで全く太刀打ちできなかった触手を、1人で易々と捌き切ってしまった事に、江ノ島以外の艦娘達は呆然としていた。だが江ノ島の家族共は、長嶺の戦闘で更に闘志を燃やす。

 

「野郎共!総長に続け!!!!」

 

「まだまだ倒れる時じゃねぇぞ、テメェらぁぁ!!!!!!」

 

「「「「「「「おおぉぉぉ!!!!!!」」」」」」」

 

「全艦、提督に続け!!!!」

 

さっきまで防戦一方だったが、今度は防御的ではあるが、それでも一歩前に出て恐れる事なく攻撃を集中させて各自が触手を確実に撃退していく。

 

「貴様、何者ダ?何故、貴様ガ出テ来タダケデ、コウモ変ワルノダ?」

 

「そりゃお前、こちとら世界最強だ。この位できなくて、何が最強だ」

 

「ナラバ、貴様ヲ倒セバ良イ」

 

深海棲姫は航空隊を発艦させる。その数は飛行場姫並みで、雲霞の如く空を埋め尽くして艦隊に迫る。だが、その程度では長嶺は止まらない。

 

「主砲砲撃戦、弾種、超多重力弾。ぶちかませぇ!!!!!」

 

長嶺は対航空機としては最強の砲弾である超多重力弾を放つ。超多重力弾は起爆後、様々な重力点を形成する事で機体を引き裂いてしまうのだ。

それだけではない。艦載機達も真上から襲い掛かり、敵機への攻撃を敢行。更に対空戦闘も開始され、みるみるその数を減らしていく。

 

「ナラバ!!!!」

 

深海棲姫は海中から、多数の深海棲艦を呼び出す。通常の雑魚艦ではあるが、その全てがflag shipだ。スペックは高い。だが、数の暴力の撃退こそ長嶺の真骨頂だ。

 

「数出しゃ勝てると思ってんのか?舐められたもんだなぁ。第一大隊、本部大隊!!」

 

「「ハッ!!」」

 

「全軍の援護だ!!後方に行け!!第三大隊、第五大隊!!」

 

「「おう!!」」

 

「お前達の大好きな突撃だ!!第五大隊を先頭に、第三大隊がこれを援護!!敵防衛線を喰い敗れ!!!!第二大隊、第四大隊」

 

「ん」

「私達は?」

 

「遊撃だ!近付く敵、片っ端から片付けてこい!!!!続いて水雷戦隊及び各駆逐隊、それから超巡!!お前達も第三、第五大隊と共に突っ込め!!!!重巡戦隊、これを援護だ!!!!戦艦は後方からの砲撃を行いつつ、機を見て突撃!!防衛線を食い破る!!!!空母は艦載機を絶やすな!!!!上空援護、及び火力支援を実施!!突撃部隊を守れ!!!!!暴れろ野郎共!!!!!!」

 

長嶺が指示を出し、それを江ノ島の家族達が実行する。最初の方こそ他鎮守府の面々は動けなかったが、江ノ島艦隊が戦っているのを見ると、こちらも動き出した。それを確認すると、長嶺も暴れ出す。

 

「行くぞ!!!!」

 

接近してくる敵に突っ込んで砲弾を周囲にばら撒き、敵を盾にして敵弾から身を守り、死体をぶん投げて敵を怯ませる。これを繰り返す。

 

「まるで化け物ね.......」

 

「山城。滅多な事を.......。いえ、アレは確かにそうかも.......」

 

「扶桑!山城!直上!!!!」

 

長嶺の戦闘に気を取られていた扶桑と山城は、真上から迫る爆撃機に気付かなかった。時雨が叫んだが、もう遅い。

 

「しまっ……」

 

爆弾が投下される。そう思った瞬間、何か黒い物体が扶桑と山城の頭上を横切った。よく見ればそれは、ナ級IIであった。なんと長嶺、ナ級IIをぶん投げて爆撃機の横っ腹にぶつけ、無理矢理撃墜したのである。

 

「扶桑!山城!!大丈夫!?」

 

「最上、私達は無事よ。大丈夫」

 

「あの長官、凄まじいわね.......」

 

「いや、あの長官もそうだが、江ノ島艦隊と例の霞桜とやらも鬼気迫る戦い方だぞ」

 

矢矧は今も最前線で敵と戦っている艦娘とKAN-SEN達を見ながら、まるで何か化け物でも見るかのように険しい顔で見ていた。江ノ島艦隊の戦闘は、他の艦隊とは一線を画す。艦種によっては文字通り殴り合っていたり、近接攻撃を仕掛けて斬りかかるのは当たり前。駆逐艦から戦艦に至るまで高い練度を誇っており、艦隊運動は一糸乱れず、単艦でも魚雷をジャンプしたりステップで避けて、カウンター代わりに砲撃を当てる。

極め付けは霞桜だ。こちらは今も仲間が倒れていっているにも関わらず、全くそんなことは気にせずにただ前を向いて戦っている。それどころか本来なら当たれば一撃アウトの筈の深海棲姫の攻撃を、機動力で撹乱しながらギリギリの所で惹きつけている。中には運悪く被弾する隊員もいるが、そんな隊員の事なんて知らんと言わんばかりに更に攻撃を仕掛けている。

 

「私はあっちもすごいと思うけど?」

 

今度は霞が、八咫烏と犬神を見ながらそう言った。デカい三つ足の烏と、デカい犬が大暴れする。こっちはかなりファンタジー或いは怪獣映画のようだが、その戦闘模様はファンタジーとは程遠い。謎の術が技で風やら氷やらを生み出しては深海棲艦にぶつけ、犬の方に至ってはバリボリと食らい出す始末。正直、かなりトラウマものである。

 

「何ナノダ。何ナノダ貴様ハ!!!!」

 

「俺は俺だ!!さぁ深海棲姫、俺はテメェに左半身持ってかれた。そして負けという屈辱を味合わせてくれたな?お礼参りだ。行くぞ!!!!!」

 

長嶺は右の艤装に搭載した、素粒子砲のチャージを始める。だがその間も、今回は全開戦闘だ。砲弾をばら撒き、刀で邪魔物を排除し、全速で四方八方に動き続ける。

 

「受け取れ!!!!素粒子砲、発射ァァァァァァ!!!!!」

 

ギュゴォォォォォォォォォ!!!!!

 

紫色の巨大なビームが、深海棲姫を包み込む。対抗することもできず、深海棲姫は消滅した。次の瞬間、海と空が見慣れた青いものへと変わっていく。

 

「海が!!」

 

「変わっていくぞ!!!!」

 

「俺たちの勝利だ!!!!!!!!!」

 

長嶺は空高く、幻月を掲げる。北方棲姫と深海棲姫のいた場所で刀を掲げるその姿は、正に英雄そのもの。その場にいた者は全員が声を上げた。北方海域、これにて開放である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石煉獄の主人、と言ったところかしら?でも、こっちはもっと凄いんだから」

 

「いつか僕が倒す.......」

 

「そう。その意気よ、ハヤ…。いいえ、今はこういうべきかしら?アベンジャー」

 

この海戦、思わぬ所で傍観者が居たのだ。オブザーバー。セイレーンの1人であり、彼女は何かの目的を持ってもう1人のセイレーンと行く末を見守っていた。アベンジャーと呼ばれた金髪の男。彼こそ、江ノ島に混乱をもたらす疫病神である。

そしてもう1人、長嶺への報復を望む者が1人。海中からその怨嗟の炎に、薪をくべ出していた。

 

「殺シテヤル.......。殺シテヤル.......。殺シテヤル.......。殺シテヤル、長嶺.......雷蔵!!」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。