北方海域攻略の翌日 江ノ島鎮守府 執務室
「失礼します、総隊長殿」
帰還してからもう24時間が経ったが、長嶺の仕事に終わりは見えない。何せ、今回の戦いはかなりの地獄だった。グリムの顔から察するに、今回持ってきた報告は恐らく死者の報告だろう。
「グリム、何人だ。最終的に何人死んだ?」
「本部大隊6名、第一大隊7名、第二大隊13名、第三大隊21名、第四大隊16名、第五大隊23名の86名です。これに加えて負傷により、除隊せざるを得ない者が12名います」
「.......明日、亡骸を見送る。葬り方は各々のやり方に従う。準備を頼む」
「了解しました」
グリムが退室すると、長嶺は椅子に深く腰掛けた。今回の戦闘で死んでいった86名は、何も弱かったわけでも油断していたわけでもない。ギリギリの戦闘の中で仲間や艦娘達を護り、身代わりとなって死んでいった。霞桜としては、本懐を遂げたと言っていい。死に方としても、彼らは何も悔いはないはずだ。
それにこの部隊は元々、全員が表では死んだ人間。常にゴーストであり、死ぬ事も覚悟している。とは言えど、やはり仲間であり家族と呼んだ者達の死は悲しい。だが彼らのおかげで、またも江ノ島鎮守府の艦娘とKAN-SENに轟沈者及び、生き残ったが艦娘としては戦えなくなった者への措置である退役もいなかった。
「約一個中隊か。痛いな」
個人としても、指揮官としても、この数は辛い。個人としては先述の通りだが、指揮官としての立場から見れば霞桜という非合法の特殊部隊員になれる人材は、基本的に物凄く限られる。比企ヶ谷達、元総武高校の連中みたいに表から引っ張ってくる事もできるが、それは正直なところ特例中の特例。そう何度もできる訳ではない。基本は元から裏にいるか、犯罪者や死刑囚、テロリストといった連中から集める。
実際、今の霞桜は大半が前科者や表に出てないだけで、犯罪を犯してた奴というのが多い。普通なら艦娘とかKAN-SENに霞桜の隊員が襲いかかってレイプする、なんて事案が起きかねない位にはヤベェ連中の吹き溜まりなのだ。これが起きないのは一重に長嶺のカリスマ性と、徹底的な規則を恐怖と共に叩き込んでいるからだ。
「入るわよAdmiral!」
「どした、アイオワ?」
「Damage reportの提出に来たわ。轟沈、退役こそいないけど、Fleatのみんなは、かなりやられるわね」
ザッと目を通すが、まあ酷い。よくこれで轟沈、退役が出なかったものだ。そんな感想が出てくるくらい、かなり手酷くやられてる。例の深海棲姫戦で、見事に全艦ボコボコにされている。大破中破は当たり前、中には轟沈一歩手前まで行っている者までいる。ついでに言えば、他の鎮守府では轟沈も退役も続出している。
「ホントまあ、よくこれだけやられて、轟沈と退役が出なかった物だ。入渠状況は?」
「みんな風呂に入ってるわね。覗いちゃNOよ?」
「覗こうにも仕事に忙殺されて、それどころじゃねぇよ」
余談だが、まだ霞桜の隊員が死んでいる事については伏せている。無論付近にいた者は別だが、敢えて公表はしていない。今は回復に専念してもらって、回復してから改めて合同葬を執り行う予定だ。遺体については腐るので、手早く埋葬する。霞桜はその性質上、世界中から人員を集めている。その為、宗教宗派の見本市な上に一癖も二癖もある連中なので、かなり無茶苦茶な埋葬方法を生前に頼まれているのもある。
土葬、水槽、散骨、火葬といったポピュラーな物から、植物とか自然が好きだった者は自らを堆肥にして好きだった植物を育ててほしいとか、サバンナとか海岸に遺体を放置して、獣とかに食べ尽くして貰いたいという者もいる。一番ぶっ飛んでるのは、火薬で爆破してくれという物だろう。尚、第三大隊の人間である。
「.......Admiral、なにかあった?」
「どうしてだ?」
「元気がないわよ」
「そりゃな。流石にこの量は疲れる」
アイオワは長嶺が何かを隠している事に気付いたが、敢えて追求せずに放置した。長嶺は気付いていないが、今の長嶺の声には悲しみが含まれている。いつか長嶺が自身の過去を打ち明けていた時の様な、深い悲しみだ。
「そう。でも無理はしたらダメよ?」
「わかってんよ」
これより一週間後、鎮守府のポールには半旗が翻る。霞桜には格式ばった葬儀だとか、式典というのは存在しない。霞桜で死人が出た場合、葬儀とかそういうのをしない代わりに、宴を開く。死んでいった者の死に様を語り、その者との思い出を語り、心に刻み込む。それが霞桜流の死者の送り方なのだ。
だがその中に、長嶺の姿はなかった。長嶺は1人、死者の写真が安置される『英雄の間』と呼ばれる場所に居たのだ。
「総隊長、こちらにおられたのですか」
「マーリンか」
「.......やはり、慣れませんな。こんな風に仲間が死んでいくのは」
「あぁ」
霞桜の隊員は基本異常者、狂人、変人、奇人の集まりだが、それでも人の死を悼む心はある。とは言え死が隣にある世界である以上、常人よりも慣れてはいる。だがそれが仲間の死なら、慣れるという事はない。
「総隊長、ご自分を責めないでください」
「いや、そんな事はない。分かっている。俺が最初から前線で暴れなかったのは、俺が国家機密であり人目を機にする必要があり、本作戦では人の目が多すぎたこと。それで死んだからといって、この事について責めるほど心が狭い奴らでもないこと。そんな事は分かっちゃいるが、それでもなぁ、考えるさ。もし最初から俺が動けば、もしかしたらってな。
今更何言おうが、コイツらが戻る事もない。過去も変わらない。無駄であり、そもそもそんなこと考える必要もないとは分かっていても、やはり考えちまう」
「.......それがお分かりなら、私から何も言うことはありません。私はもう行きます、どうか無理だけはなさらないように」、
マーリンはそう言い残すと、英雄の間から出て行った。だがその日、長嶺はついにそこから動くことはなかった。
1ヶ月後 江ノ島鎮守府 執務室
「…で、こりゃどういう状況だ?」
「増ヤシタダケダ」
「増やすなよ!!!!」
現在執務室には戦艦棲姫と港湾棲姫がいるのだが、その後ろには更に大量の深海棲艦がいる。それも全部姫級。なぜこうなったのかと言うと、今朝方にいきなり戦艦棲姫がコイツらを連れ帰って来て「仲間ダ。仲間ニシロ」的な事を言ってきて、取り敢えず長嶺の元に連れてきたのだ。
「不満カ?」
「普通に考えて一応お前ら俺達の敵!!人類滅ぼし軍の幹部!!それがなんで人類反抗の砦に来るのよ!!」
「提督。ダメ.......ナノカ.......?」
「港湾!涙目上目遣い&胸を寄せてもダメ!!ってか、その手の話じゃないの!!」
ぶっちゃけ長嶺自身、今の状況がぶっ飛びすぎて何が何だか分かってない。ただ仲間が増える分には一向に構わない。仲間の経歴その他も不問にする。だがこれは、それ以前の問題だ。流石の長嶺とて、現在進行形で人類の敵である彼女達を二つ返事でOKはできない。
「で、なんでこんなに連れてきたの仲間。ってか安全な訳?」
「ドウイウ意味ダ?」
「コイツらは深海棲艦。人類の敵だ。早い話、お前達は俺達に危害を加えるつもりか?」
「ソレハナイ。私ガ保証スル」
港湾棲姫がそう言うが、一応敵が敵の推薦をしている状況なので信じられる訳ではない。だが港湾棲姫も戦艦棲姫も、何度か戦闘に出ておりその中でもしっかり働いてくれている。
「.......取り敢えず、自己紹介しろ」
「空母棲姫。何度デモ、何度デモ沈メテアゲル.......」
「装甲空母姫!アハハ、アンタニ私達ヲ束ネラレル?」
「泊地棲姫。壊シテヤルゾ」
「集積地棲姫。修理、改造、資源採集ハ任セロ」
「超重爆飛行場姫。飛行機ナラ任セテ」
「中間棲姫。何デモデキル」
「バタビア沖棲姫デスゥ。ヨロシクネェ」
「欧州装甲空母棲姫ダ。コノマスクガ気ニナルカ?」
「北方棲姫。オ姉チャンガオ世話ニナッテマス」
11人。戦艦棲姫と港湾棲姫を含めれば、敵の幹部級が11人もいる。既に頭とか胃とか、色んなところが痛い。
「失礼します、総隊長殿」
「グリムー。これ、どうしよう?」
「その件ですが、我々の総意を持って参りました」
そう言ってグリムは、スマホに書かれた書き込みを長嶺に見せる。江ノ島鎮守府専用掲示板なので、こういう時には便利だ。見たところ、面白い事に仲間にしようという声しか無かった。艦娘、霞桜、KAN-SEN共にである。
「これが我々の総意です」
「.......はぁ、取り敢えず親父に連絡だ」
流石にこれを1人で決済するわけにはいかない。一応、形式的にでも上にお伺いを立てるべきだろう。
『おー、雷蔵!どうした?』
「なぁ親父。深海棲艦、増えた」
『はい?』
「深海棲艦、増えちゃった。ウチに置いていい?」
『そんな捨て猫拾ってきたみたいなノリで言うな!!!!!』
もう長嶺、ヤケクソである。長嶺だってどう説明すりゃいいのか分かんない。だっていきなり敵だったけど味方になった奴が、一応敵を大量に呼んできた。で、仲間になりたいと言っている。これ、どういうテンション報告すりゃいいんだろうか。
「俺だってな、色々ツッコミてぇよ!!」
『知るか!!!!あーもー、お前の判断に任せる!!!!!』
「あいあいさー。という訳だ、お前達。ようこそ江ノ島鎮守府へ。歓迎しよう」
東川のお墨付きも出た訳で、無事仲間に迎える事となった。なんか色々複雑だが、この際どうでもいい。なんかもう、考えたくない。
『あ、そうそう。おーい雷蔵?』
「あ?なに、親父?」
『佐世保鎮守府の件だがな、新たな提督が見つかった。詳細は後からメールで情報を送るから、精査を頼む』
「了解」
正直今すぐ脳死モードで、オイゲンとかのケッコン艦とイチャコラしたい。何も考えたくない。だが、そうも言ってられないのが連合艦隊司令長官というものだ。
「では総隊長殿、私は彼女達を案内してきます」
「よろしくー」
グリムと入れ違える様に、今度はレリックが入ってきた。手にはノートPCを持っており、多分何かしらのデータでも見せられるのだろう。
「総隊長。これ、見ろ」
「穏やかじゃないな。なんかあったか?」
「物凄くヤバい。マジヤバイ。ので、見ろ」
半ばノートPCを押し付けるかの如く見せられた。中に入っていたデータは、どうやらペルーン作戦中の鎮守府内の監視カメラ映像のログらしい。
「何か問題があるのか?」
「さっき、サーバールームのハードな点検をしてたら、こんなのを見つけた」
そう言ってレリックが取り出したのは、1つのUSBだった。だが普通のUSBとは違い、後ろにアンテナの様な物が伸びている。
「コイツは.......ハッキング用のヤツか!?」
「霞桜のサーバールーム、というよりここのシステムは全て、スタンドアローン。表の江ノ島鎮守府は防衛省とかと繋がっていても、霞桜と江ノ島はローカルネットでしか繋がっていない。グリムみたいな現場型ハッカーでないと、ハッキングできない」
「しかもサーバールームへのデータアクセスは、基本的に中からか専用の部屋じゃないと出来ないからな」
霞桜のサーバールームは、かなり強固なプロテクトが敷かれている。それをネットから越えるのは、ほぼ不可能と言っていい。さらに内部、つまり江ノ島鎮守府や地下の霞桜本部からデータを取り出すとしても、サーバーへのアクセスが可能なのはサーバールーム、長嶺と各大隊長の執務室、そして長嶺の自室のみなのだ。
「奪われたデータは分かるか?」
「グリムが必要」
「案内に行かせるんじゃなかったな」
すぐにグリムを呼び戻し、案内にはマーリンを付けた。事情を話すと、すぐにデータを呼び出してくれたのだが、ここで問題が発生した。
「うわぁ、マジですか.......」
「どうした!?」
「データがクラッシュしてますね。どうやらデータを抜き取ると同時に元データを破壊しつつ、それを隠蔽するウイルスを流し込んだみたいです。発見が今の今まで遅れたのも頷けます」
「どうにかなるか?」
「ちょっと時間が延びますが、データをサルベージして修復すれば問題ありません。全部は無理でも、一部はいけます」
「どの位だ?」
「15分、いえ!10分で!!!!」
そう言うとグリムは長嶺の執務机に座り、物凄いスピードでキーボードを叩いていく。なんかブツブツ言いながらやっているが、あまりに専門的すぎて何が何だか分からない。
だが10分後、本当にサルベージと修復を完了させてしまった。しかも「全部は無理」とか言っていたのに、ちゃっかり全部修復している。やはりハッキング関連で、右に出る者はいないらしい。
「早速再生しますよ.......」
まず初めに再生されたのは、江ノ島鎮守府内の映像だった。普通の江ノ島鎮守府の映像である。指令室やドックといった重要区画ではなく、普通の艦娘とKAN-SEN達が日常を送っている、その一コマが適当に切り取られているだけだ。
これが例えば重要区画ならスパイだと分かるし、風呂やトイレ、或いは艦娘とKAN-SENの自室とかなら変態だろうが、その辺は全くの手付かず。ついでに言えば盗まれている日は特段何もなく、いつも通りの日常が送られている、ありふれた平和な日だった。
「これ、何の意味ある?」
「言っちまえばホームビデオだもんな」
「これに価値、ありませんよね?」
なんて言っていたが、3人共この映像の価値に気付いてしまった。映っているのだ。港湾棲姫と戦艦棲姫が長嶺と歩いている所が。
「総隊長、これヤバい?」
「ヤバくない訳がないでしょ.......」
「すぐに盗人を特定しろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
もしこれが表に出れば、確実に長嶺の表の人生が終わる。人類の敵である深海棲艦の幹部たる姫級2人と、人類の希望たる艦娘艦隊のトップが仲良く一緒に歩いている姿とか世間に出れば、確実に大炎上待ったなしだ。
大炎上するだけならまだしも、至る所に飛び火する。恐らくこれまでの戦果もマッチポンプだとか何だと騒がれ、江ノ島鎮守府はおろか帝国海軍の地位自体が地に落ちる。更には江ノ島鎮守府の家族達にも、確実に色んな被害が出るだろう。
「このデータ!!恐らく泥棒の入った時刻の本部内のログです!!!!」
「回せぇ!!!!」
消された本部内の映像には、何やら紫色のタコの触手みたいなの纏った白い肌の少女が映っていた。グリムとレリックは誰か分からないが、長嶺は一眼で分かった。
「確かコイツは.......オブザーバーだ」
「誰?」
「セイレーンだ。とは言え、何で今になってセイレーンが?」
「ここは、関わりのあった者に聞いてみませんか?」
「赤城か。よし、呼び出そう」
知っての通りKAN-SENの赤城、というか重桜と鉄血は元々アズールレーンとは違う道を進んだ事でレッドアクシズを作り、その中でも赤城はオロチ計画という計画でセイレーンと深く関わっている。装備や技術なら鉄血のビスマルクとかが適任だろうが、内情云々なら赤城だ。
「お呼びですか指揮官様♡?」
「お呼びだとも。とは言え、ちょっと今回は真剣に頼む」
「.......どうされましたか?」
入ってきた時こそ指揮官LOVE、重桜のやべー奴としての赤城だったが、そこは流石、長年摂政を務めてきただけはある。すぐに空気感が変わった。
「赤城。俺とお前がオロチが眠っていたドックで出会った、オブザーバーというセイレーンを覚えているか?」
「はい。というより、私は彼女以外のセイレーンと接触したことがありませんわ」
「オーケー。ならオロチ計画におけるオブザーバー、或いはセイレーンの目的について教えて欲しい」
「実験だと言っていましたわ。これは大いなる計画の一歩にすぎないと、何度も言っていました。しかし、何故それを今になって?」
「それがだな…」
赤城のさっきの映像を見せつつ、事情を話した。赤城としても寝耳に水らしく、かなり驚いている。だが、いずれにしろオブザーバーの目的がわからない。確かに盗まれた映像は痛いが、かといってセイレーンであるオブザーバーが動画をリークしても余り意味を為さない。やり様によっては、長嶺の権力を持ってすれば握り潰す事もできる。
「赤城、何かこういう行為に心当たりはあるか?」
「分かりかねますわ。しかしこの行為に意味があるのかは、少し疑問が残ります」
「だよなぁ。ぶっちゃけ労力に似合ってないもんな。しかも相手はおそらく、この手の謀略とかに長けていそうときた。なんか逆に不気味だ」
4人して暗い表情を浮かべる。何がしたいのかわからない割に、やっている事は物凄い労力がかかる事な上に、その労力と似合う成果を得られない。不気味でしかないだろう。
4人が頭を抱えていると、長嶺の携帯が鳴った。相手は再び東川である。
『浩三。何度もすまんな』
「いや、構わない。俺もそっちに報告しておきたい事がある」
『なんだ?』
「俺と深海棲艦とのツーショット映像が、外部に盗み出された。しかも相手がセイレーンだ」
『はぁ!?!?』
東川も驚きである。だが取り敢えず、現状では目的が不明な上にネットへのリーク等も確認されてない上に、恐らくネットへのリークは早々行われない事を伝えた事で、少しはマシになったらしい。
『.......その件の後で伝えるのもアレなんだが、例の新人提督。海道や反海軍、反艦娘の政治家と接触している事がわかった。念の為、探っておいてほしい』
「分かった。こっちでも両件共に探るから、そっちも何か掴んだら教えてくれ」
『わかった』
長嶺は電話を切るとすぐに、東川から送られてきている新人提督のデータを確認した。名前は隼人・レグネヴァという、アメリカ人とのハーフ。20歳で、提督になる前は都内の大学に通っていたとある。
「コイツか.......。レリック、すぐにコイツとその周囲を探らせてくれ。グリム、オブザーバーの足取りをカメラで出来る限り追ってくれ」
「了解しました」
「わかった」
「赤城、取り敢えずこの事は他言無用で頼む」
「承知しました、指揮官様」
3人を帰らせた後、長嶺自身も動き出す。長嶺派閥であり、深海棲艦が居る事を知っている風間、山本、比企ヶ谷の3人であれば何か力になってくれるかもしれない。少なくとも何か向こうからアクションを起こした時、それを察知したり中身を知る可能性は上がる。
「網は張ったし、ローラーも掛ける。これで何か分かればいいが.......」
数日後 江ノ島鎮守府地下霞桜本部 幹部会議室
「さて、取り敢えずの情報説明を頼む」
「はい。調査の結果、隼人・レグネヴァは反艦娘派、反海軍派の議員や有力者と数多く接触しており、海軍内でも反長嶺派の人間、元河本派閥だった士官を中心に接触しています。会話の内容の詳細こそ分かりませんが、どうやら何かしらの弱味を握っている様ですね。恐らく、オブザーバーと繋がっていると見て間違いないでしょう」
確証こそないが、タイミングが良すぎている。重桜の様に、協力関係があると見ていいだろう。しかも提督という立場の者がリークすれば、確実に信用されるだろう。実際本物な訳だが、事実無根だ何だとは言えなくなる。
「消すか、そのレグネヴァとかいう奴。姉貴なら余裕だろ?」
「勿論!久しぶりに、ハニートラップでも仕掛けましょうか?」
「カルファンなら鬼に金棒だわな」
「いえ、ここは慎重になるべきでしょう。私がレグネヴァの立場なら、何かしらの策を用意しておきます。少なくとも英雄たる総隊長を蹴落とそうと考え、しかもそのフィールドが相手のホームベースたる海軍となれば備えはするでしょう」
「マーリンの言う通りだ。現段階でオブザーバーとの関わりが証明された訳ではない以上、消すわけにもいかない。それに相手は曲がりなりにも、艦娘を率いる提督だ。河本を筆頭としたクズなら殺しても大義名分が立つが、今回の場合は悪者はこっち。正義が向こうにある上に、例え外部では事故として決着しても内部では禍根が残る。そうなれば後々、こちらの首を絞める事になるだろう。
今回はこれまで以上に、慎重に事を運ぶ必要がある。取り敢えず今後も、殺しは絶対に控えてくれ」
今回は本当に相手が悪い。これが一般人なら長嶺も「お前は知り過ぎたんだよ」的なノリでサクッと殺すが、相手は候補生とは言え提督。人類の英雄だ。そう簡単に殺す訳にもいかないし、そもそも殺せない。
「なら総隊長。どうする?」
「どうしようか」
とは言えど、長嶺だって何かしらの策がある訳ではない。そもそも情報が少ない以上、どうしようもない。長嶺も頭を抱えていると、不意に電話が鳴った。山本からである。
『.......長嶺、今いいか?』
「えぇ、構いませんが」
『単刀直入に言おう。川沢くんと小清水くんに、例の深海棲艦の事がバレた。さっき、私の所へ相談に来たぞ』
「.......マジか」
最悪の知らせはまだ終わらない。今度は霞桜の隊員が会議中であるが、大急ぎで入ってきた。
「新たな調査結果です!レグネヴァが総理大臣と非公式ながら接触が確認されました!!」
「総隊長殿.......」
「山本提督。現在こちらも、その件で大忙しです。今はとにかく時間が惜しい。また後ほど、詳しく聞きます」
長嶺はそう言って電話を切った。そして今度は、トドメと言わんばかりに東川との秘匿直通回線が鳴る。もしかしなくても、総理大臣との接触についてだろう。
『雷蔵、落ち着いて聞いてくれ。総理はお前に深海棲艦の件で外患誘致罪とテロ等準備罪の容疑で、お前を逮捕する命令が出た。いや、実質的な殺害命令と言っていい。更に逮捕と並行して、江ノ島鎮守府への家宅捜索も行われるそうだ。実行日は恐らく、1週間後だろう。雷蔵、今すぐ逃げろ!!』
「少し考えさせてくれ」
状況を纏めるとこうだ。当初敵はレグネヴァと反海軍、反艦娘、反長嶺だと思っていたら、まさかの事態である。事情を知らない日本という国全体が敵になってしまったという訳だ。
長嶺単身であれば、日本という国自体を破壊し尽くす事もできる。艦娘、KAN-SEN、霞桜も動員すれば余裕だろう。だがそれをしてしまったら、いよいよ持って世界を敵に回すことになる。戦闘で勝てても、持久戦となれば世界の方が上だ。
そもそも日本相手に、そんな正面切って大戦争をしでかすつもりはない。被害が大きすぎる上に、メリットよりもデメリットの方が勝つ。
「.......総隊長殿。ご命令を」
「私はあなたに救われた。他の隊員だって救われるか見出されてきた者達です。あなたの為なら、何処まででもお供しますよ」
「総隊長、メカニックは大事。ついていく」
「総長と一緒なら、世界が見れる。その世界で俺の弾幕教を広めるのも楽しそうだ!!」
「優秀な暗殺者は、諜報員としても使えるのよ?」
「親父。俺達、元極道組はアンタの子。極道の世界では白かろうが黒かろうが、親であるアンタの言った色がその物の色となる。ただ一言「付いてこい」と命じてください」
流石、長嶺の腹心達。多くを語らずとも、既に察してくれていた。そして彼らの返答も、長嶺の予想通りだった。彼らは頭が良い。だが、馬鹿でもある。こういう時、何故か勝ち負けではなく楽しそうな方につく。平たく言えば、戦闘狂なのだ。そして現在、彼らにとっての「この世で最もついて行って楽しそうな陣営」というのが長嶺雷蔵だ。
「お前達ならそう言うだろうと思っていたよ。とは言え、だ。俺達は今後、日本、或いは世界を相手に戦う事となる。しっかり準備しなければならない。
まず本部機能、燃料、武器、弾薬等、全ての機能を江ノ島から、例の場所に移す。レリック、廃墟島の状況は?」
「問題ない。すぐにでも使える」
「ではすぐにでも始めてくれ。くれぐれも秘密裏にな」
「了解」
「他の者は引き続き、各自の任務を行え。いいな!」
霞桜の方はこれで良しとして、次の問題は艦娘とKAN-SEN達だ。こちらにも説明しなくてはならない。
「あ、提督。お疲れ様です」
「大淀、丁度いいところに来た。悪いが、代表達を俺の部屋に集めてくれ」
「会議室ではなく、ですか?」
「あぁ。頼む」
「分かりました」
念には念を入れて、霞桜本部をのぞいて最も防諜性の高い長嶺の自室で会議を行う事にした。この部屋は高い防音性を誇り、妨害電波が様々な周波数帯で飛ばされている。これにより、遠隔での盗聴はできない仕組みになっている。録音による盗聴は可能だが、場所が鎮守府最奥であり構造上、そう簡単に入り込めない作りになっている為、潜入も容易ではない。
数十分後、いつもの代表艦娘&KAN-SEN達が集まった。場所が会議室ではなく、長嶺の自室だというのもあって皆少し浮ついている、
「お前達、よく集まってくれた。まあ、適当に座ってくれ」
因みに自室である為、本来こういう大人数の収容は元より想定していない。その為、みんなには適当に床やベッドとかに座ってもらっている。
「提督、一体どうされたのですか?」
「.......今日、霞桜本部よりセイレーンのオブザーバーの手によって俺と深海棲艦2人とのツーショット映像が盗まれていた事が発覚した。そしてこの映像を根拠に新たに提督の任に着く隼人・レグネヴァが、総理に俺を告発。現在俺は外患誘致とテロ等準備の容疑で逮捕命令、といえかまあ実質の殺害命令が降ったそうだ。
これを受け俺は、この国を脱出しようと思う。そこでだ。まずはお前達に、今後どうするかを聞きたい。あくまで今回問題になっているのは俺だけだから、お前達の身の安全はどうにかする。江ノ島を出て別鎮守府に行くも良し、一度死んで一般人として生きるも良し、俺と共に日本や或いは世界を相手に戦うも良しだ」
「提督、愚問ですよ、それは。私達は何処までも、提督と共に歩んで行きますよ。あなたの艦隊ですからね」
「指揮官様の為なら、たとえ火の中水の中ですわ♡」
「指揮官は私達に居場所をくれた。これからも、あなたの航路が終わるその時まで付いて行こう」
「我々は女王の艦隊だが、それと同時に貴方の艦隊でもある。艦がAdmiralに付き従うのは自然な事だ」
「私は何が何でも付いて行くわよ。あなたの初めての女よ?付いて来ないと話にならないわよ」
「旅をするにも戦うにも、傍らに相方が居ないと楽しくないぞ?」
「指揮官様への恩返し、まだ終わっていませんもの。それに世界相手にサディアの威光を示すというのも、悪くありませんわ」
「貴様の様な男、世界広しと言えど同志指揮官のみだ。私は同志指揮官と共に歩もう」
「貴方程、自由な人はいません。私達はあなたに付いていきます」
「オレもだ。お前みたいな組んでて楽しい奴、これまで会ったことが無い。オレとお前なら、世界相手にでも遅れはとらねぇ」
薄々分かってはいた。きっと彼女達もこう決断してくれるとは分かってはいたが、やはりとても嬉しかった。だが同時に心配でもあった。彼女達自らの意思とはいえ、今から歩む道は修羅の道。苦しい事もあるだろう。それに巻き込んでしまったのは、やはり考える物がある。
「お前達の気持ちは嬉しい。ありがとう。とは言え、お前達以外の意見がどうかは分からない。お前達の方からみんなに伝えてくれ。今度、全体で結論を聞く。もし江ノ島から去る者がいても、俺は止めないしお前達も共に来ることを強要するな。自由意志の下、好きにさせてやって欲しい」
彼女達の決断がどうなるかはまだ分からないが、これで一先ず艦娘とKAN-SENの方も済んだ。次はレグネヴァ対策を考えなくてはならないし、書類関連も移す必要がある。やる事は山積みだ。