1週間後 江ノ島鎮守府 執務室
『雷蔵。今日、閣議決定された事を話す。3日後に行われる、防衛省での会議中にてお前を逮捕する。その前に逃げるんだ、いいな?』
「親父。その事なんだが、俺は決めた。悪いが、この国を出るつもりだ。霞桜と、多分江ノ島にいる人員の大半を連れて」
『何だと!?!?』
「他国の軍の傘下には入らず、適当な所で独立武装国家でも作るさ。現状、俺達は深海悽艦の他、シリウス戦闘団やURといったテロ組織共とも敵対している。流石に連合艦隊司令長官という肩書き上、動きづらい状況になってきているのも確かだ。
今回の一件、良い機会だ。敵となって日本を出ていくよ。もしこっちから離反者が出たら、そっちに預ける」
『.......はぁ。ならばもう、止めるまい。親として、子を送り出そう。だが私も、ポーズくらいは付けさせてもらう。場合によってはお前達に銃を向けるが、悪く思わんでくれ。離反者に関しても、その時は私がどうにかしよう』
東川も、こうなった時の長嶺はテコでも動かない事を知っている。例え謀反人となろうと、犯罪者の汚名を着ようと、己が信じた道を突き進む。
「そうしてくれ。じゃあな、親父」
『あぁ。死ぬんじゃないぞ、雷蔵。いや.......蔵茂』
「.......その名前、何年振りに聞いたかな」
長嶺がまだ東川だった頃。かつて組織の犬として、組織が定めた敵を滅ぼす戦闘マシーンだった頃の名前。本来なら聞きたくないが、今回ばかりはその名を聞いて温かい気持ちになる。
「これで親父への筋は通した。こちら派閥の鎮守府には、流れに乗れとだけメールを送ってある。後は、あいつらの意思を問うか」
長嶺は大淀に頼んで、江ノ島にいる全ての艦娘、KAN-SEN、霞桜、航空隊の面々を大講堂に集めた。皆、それぞれが上の者から話を聞いているので、薄々、この招集の意味も分かっている。
『お前達。既に薄々勘付いているのが殆どだと思うが、敢えて俺の口から事の経緯を説明させてくれ。先日、霞桜本部よりセイレーンのオブザーバーの手によって俺と深海棲艦2人とのツーショット映像が盗まれていた事が発覚した。そしてこの映像を根拠に新たに提督の任に着く隼人・レグネヴァが、総理に俺を告発。現在俺は外患誘致とテロ等準備の容疑で逮捕命令、という名の実質の殺害命令が降っている。逮捕は3日後、俺が防衛省に行った際の会議内で行われるそうだ。
これを受け俺は、この国を脱出しようと考えている。そこでだ。お前達に、今後どうするかを聞きたい。例え鎮守府を離れる決断をしていたとしても、誰も咎めはしない。俺がやろうとしているのは、立派な国家への反逆。軍規違反どころか死刑コース確定の、マジの犯罪だ。捕まれば最後、例え霞桜の隊員だろうと、艦娘やKAN-SENだろうと、みんな仲良く処刑台の上へと登ることになる。仮にここから逃げ仰たとしても、まあまず間違いなく良くて国際指名手配。世界を敵に回して、世界中の軍事組織から追われる可能性も充分にある。ここから離れたとしても、親父が残留組を守ってくれる。残ったとしても、問題はない。
だがもし、この話を聞いても尚、俺についてきてくれるのなら。俺といつもの様に、世界を股に大暴れがしたいのなら。俺についてこい。以上だ』
長嶺の演説が終わった数秒後、まずはグリムと、グリム指揮下の本部大隊の隊員達が立ち上がった。
「霞桜本部大隊総員、総隊長殿と共に何処までも駆け抜けます」
「霞桜第一大隊。総隊長に全員付いていきます」
「霞桜第二大隊。全員、行く」
「霞桜第三大隊!総長、お供しますぜ!!」
「霞桜第四大隊。ボス、みんな付いていくわ」
「霞桜第五大隊!親父ぃ!我ら西條会組員、何処までも付いて行きますぜぇ!!渡世の親守るは、子の務めじゃ!!!」
霞桜の面々は戦闘時に見せる狂気に染まった笑顔と共に、全員が立ち上がった。続いて、大和が立ち上がる。
「江ノ島鎮守府、全戦艦艦娘。提督と共に参ります!」
「江ノ島鎮守府、全空母艦娘。提督、みんなあなたに付いて行きますよ」
「江ノ島鎮守府、全重巡艦娘。提督の行く道を共に歩みます!」
「江ノ島鎮守府、全軽巡艦娘。提督、何処までもお供します」
「江ノ島鎮守府、全駆逐艦娘。司令官!私たちは司令官の艦隊です!いつまでもついて行きます!!」
「江ノ島鎮守府、全潜水艦娘。司令官に付いていくわ」
「江ノ島鎮守府、全補助艦娘。提督。私たちが必要なくなるまで、私たちは何処までも行きますよ!!」
「重桜全KAN-SEN、指揮官様と共に参りますわ。うふふ」
「ユニオンもだ、指揮官。指揮官の為なら、喜んで行こう」
「ロイヤルもよ下僕!感謝なさい!!」
「主人に付き従うはメイドの務め。ご主人様。我々ロイヤルメイド隊、お暇を頂くまでお使えします」
「指揮官、鉄血には破滅願望者が多いわ。こういう話、みんなノリノリで乗るわ」
「北方連合は革命に生きる。同志指揮官と共に、世界相手に革命するのもいいだろう」
「サディア帝国の威光は指揮官様と共に。我々もお供しますわ」
「東煌も付いていく。どうせなら、派手に暴れる方に行くさ」
「時に神の思し召しは気まぐれな物です。それが悪に見えても、時には善行なのです。故に今回の謀反、自由アイリス教国は指揮官様と共に行きますわ」
「オレ達ヴィシアは元より、国とか堅っ苦しいのが嫌いな連中だ。首輪が外れるのは万々歳ってヤツさ」
「我々、江ノ島鎮守府航空隊も付いて行きます。これまで何度も提督には命を救われてきた。今度は、俺達が返す番です」
講堂にいた全員が立ち上がった。つまり、全員が長嶺と共に日本を脱出し、新たな戦場へと旅立つと言うのだ。指揮官として、ここまで嬉しい事はない。
『.......やっぱりお前達は馬鹿だな。だが、それでこそ俺の家族だ。愛してるぞ野郎共!!ではこれより、当日までの予定を発表する。江ノ島鎮守府脱出計画を『オペレーション・
エンドデイ当日は、会議の迎えが来る前にとっととトンズラするぞ!!!!総員、これまでで一番困難な任務だが、お前達ならやれる筈だ。人生で一番慌てず、急いで、正確に仕事しろ!!!!』
講堂にいた全員が一斉にワッと声をあげる。既に霞桜の本部機能、燃料武器弾薬や予備のパーツといった物資類、食料、水、重要なアレコレは全部新たな拠点に運び込んである。後は鎮守府機能な訳だが、この辺りも新拠点には元から揃ってある物もあるので、書類とか重要なデータが入ってるサーバーとか各種資源を持っていくだけで済む。
とは言えど、かなりの量があるので48時間でもギリギリだ。取り敢えずその辺は手空きの霞桜の人間に任せて、長嶺は未だ大量に残る私物の搬出作業へと戻った。因みに長嶺の場合、酒とか衣類とかかなり大量にある為、霞桜の人間に手伝ってもらっている。
「うおっ!何じゃこりゃ!!」
「ブラジャー?なんでこんなのが」
隊員の1人が手に取ったのは、レースのふりふりがついたセクシーなブラジャーであった。明らかに勝負下着と言われるヤツである。
「(バカッ!それは勿論、艦娘かKAN-SENの嬢ちゃんのに決まってんだろ!!)」
「(そういや、よくギシあんしてますもんねぇ)」
「(総隊長いいよなぁ)」
「ご歓談の所悪いが、なる早で頼みたいんだが?」
背後からいきなり聞こえてきた長嶺の声に、手伝いに来てた隊員の男3人は揃って凄い声をあげる。
「あ、あはは!そ、そうですよね!」
「よーし、とっととやろう!」
「何も変な物は持ってませんよ!」
「ん?これは.......」
「バッ!!」
「あちゃー」
長嶺はさっきのブラジャーを手に取る。絶対気まずい空気になりそうだが、長嶺は逆に大笑いし始めた。3人とも、何が何だか分からない。
「そういうことか。お前ら、これを艦娘かKAN-SENの忘れ物だと思ってたな?コイツは俺の変装道具だよ」
「変装道具?」
「コイツをだな、普通につけるだろ?そんでもって、スマホの専用アプリで操作してやると.......」
長嶺がスマホを弄ると、いきなりブラジャーの後ろが膨らみだし、見事なおっぱいが長嶺の胸に現れた。服の上からだし、目の前にいるのは男だしで偽物だと分かるが、これがもし素肌に面していたり長嶺が女装していたら、本物と見紛う出来栄えだ。
「す、すげー」
「大きさは勿論、柔らかさなんかの感触も自由自在だ。流石に裸になっちまったら意味がないが、服の上とかなら普通に効果がある」
「じゃ、じゃあこれは!?」
「それは.......あー」
まさかの物を目の前に出されてしまった。目の前の隊員が持つのは、コンドームの箱。何か仕掛けがあるのなら良かったが、コイツの仕掛けは精子を子宮内に入るのを防ぐという物。つまり、極めて普通のコンドームである。
「コンドームだ」
「どんな仕掛けが!?」
「ない!!」
「え?」
「普通の、何の変哲もない、ただのコンドームだ.......」
一気に気まずい空気が流れ出す。2人の隊員がコンドームを持ってきた隊員に、目で「何つう物を持って来やがった」という目で見ている。
「に、にしても、総隊長もするんすね。ゴム」
「避妊できねぇ奴は挨拶できねぇ奴と同じだからな」
「あー、いや。俺基本、生だぞ?それは何かの時に買っといたヤツで、一度も開けてない」
今度は長嶺が原因で凍り付く。なんか生々しすぎて、逆に笑うな笑えなかった。この後、どうにか搬出作業を終え、いよいよエンドデイ討伐当日となった。
のだが、ここで一つ問題が発生した。非常にまずい事に、搬出作業が遅延して間に合わなくなったのだ。というわけで急遽、作戦を変更。長嶺がオイゲンを連れて、時間稼ぎのために防衛省に乗り込む事になった。
「入るわよ、指揮官」
「あぁ」
「ねぇ、雷蔵。なんで、私を選んだのかしら?武闘派っていうなら私よりも適任、たくさんいるんじゃない?」
今回のお供にオイゲンが選ばれたのは、オイゲン本人としても謎だった。何せオイゲンは地上戦での強さは、たかが知れている。今回は身分を隠して、何処かに潜入する訳ではない。江ノ島鎮守府提督、長嶺雷蔵連合艦隊司令長官として防衛省に真正面から入る。人員は選り取り見取りな上、何なら霞桜の人間を秘書とか適当な理由を付けて連れて行ったって問題にはならないだろう。
「.......確かにお前の言う通り、単純な戦闘力だけで言えばお前以上のはたくさんいる。だがな、俺はお前についてきて欲しいんだ。お前は俺の正妻、なんだろ?なら、俺を横で支えてくれ」
そう言いながら長嶺が差し出したのは、総武高校潜入時に長嶺が作ったオイゲン専用の拳銃、グロック26だ。だが前とは違い、今回は塗装が黒一色から赤と黒の鉄血カラーになっている。
「少し変えたのね」
「いや、カラーだけじゃない。中身も変えてある。サイレンサー機能をキャンセルして、代わりに銃身を対深海徹甲弾に耐えられる物に換装して、弾丸にも小型とはいえ徹甲榴弾を装填している。例え相手が完全武装の兵士であっても、余裕で殺せる性能だ。言うなれば、グロック26Prinz-Eugen-Ausgabeだな」
「気に入った。ありがたく使わせて貰うわ」
「オーライ。なら、作戦会議と行こうか。今回俺達は、正面から堂々と防衛省本庁へと入る。まずは普通に、迎えの車に乗って会議室へと行く。
そして会議中、必ずレグネヴァが来るから、そこで恐らく俺が確保されるだろう。俺はこの時に、レグネヴァとの対話で情報収集を試みる。そして場合によっては殺害、離脱する。離脱には一般車に偽装した、俺のマスターシロンを使う予定だ。質問は?」
「邪魔者は殺していいのよね?」
「あぁ。指示はその場で出すから、臨機応変に頼むぞ」
オイゲンは妖艶ながらも、何処か戦闘狂を思わせる笑みを浮かべながら舌舐めずりをした。どうやら、オイゲンも良い感じに狂って来たらしい。
数時間後 東京都市ヶ谷 防衛省本庁舎
「オイゲン、気づいているか?」
「なにが?」
「フロア、廊下、至る所に私服警官がいる。それに来る途中、何台もパトカーが隠れていた。それも覆面、刑事課仕様だ」
「つまりここはもう、罠のど真ん中って訳ね」
「そういうことだ。気を引き締めていけ」
2人は重厚感ある会議室の扉を開けて、会議に臨む。だが最初は、いつも通りの和やかな雰囲気だ。
「雷兄!」
「雷蔵兄さん、ご無沙汰してます」
「おう影ちゃん、いつも通りだな。そして白ちゃんは硬い」
「長嶺、久しいな」
「ええ、山本長官」
「(後で、時間を作ってくれるな?)」
「(無論です)」
今は極々普通の時間だ。いつものように提督達と談笑しつつ、その流れで会議がスタートする。今回の議題はこの間の北方方面と、欧州方面の報告。そしてレグネヴァの紹介だ。因みに、長嶺とレグネヴァはここで初対面となる。
北方方面に於けるペルーン作戦は、知っての通り多大な犠牲こそ出したが戦略的には充分成功と言える。一方の欧州方面も戦略目標だったスエズ運河と地中海の解放に成功し、アジアと欧州方面を結ぶ航路の奪還に成功した。後は残敵掃討を残すばかりである。
「さて、では最後に新たに提督に着任する者を紹介します。隼人・レグネヴァくんです」
長嶺がそう言って、外に待つレグネヴァが入って来た。だが、その姿に長嶺、オイゲン、そして比企ヶ谷が目を見開いて驚く。
「やぁ、桑田くん。いや、長嶺雷蔵、と言った方がいいかな?」
「.......おいおいおいおい、こりゃ何の冗談だ。なぁ、葉山ぁぁぁ!!!!!!!」
そこに立っていたのは、隼人・レグネヴァではなかった。総武高校に於いて比企ヶ谷に全てを押し付けたり、長嶺とオイゲンに迷惑をかけまくった結果、最終的にはオイゲンを長嶺に寝取られた(?)葉山隼人だったのだ。
「僕は葉山を捨てた。君のおかげで、我が家は全てを失ったよ。君の下劣極まる行動のおかげで、僕の精神は病んでしまった。だから僕は、君に正義を持って報復しよう」
「テメェのどの口が正義を語るか!!!!」
「エミリア、いや。オイゲン!君をすぐに迎えに行くからね!!」
「来なくていいから今すぐ視界から消えてくれる?」
オイゲンさん辛辣である。目は勿論、口も全く笑っちゃいない。不快感と怒気が同居して、なんか物凄い迫力だ。オイゲンみたいなクール美女って、怒ると結構怖い顔になる。
「長嶺!今ならオイゲンを差し出すだけで、僕は君の全てを許そう!!オイゲンもそれを望んでいる!!!!」
「耳、大丈夫?それとも脳みその方か?」
「っていうか、呼び捨てにするのやめてくれない?」
数ヶ月ぶりだが、この葉山劇場は中々にイラつく。聞いていると耳が腐りそうな上に、話が飛びすぎて理解が追いつかない。ついでにオイゲンの事もちゃっかり呼び捨てにしやがってくれている辺り、かなーり不快だ。
「おい葉山!お前、何しに来たんだ!!」
「ヒキタニ。今、君とは話していない。僕は長嶺と話している」
「君!仮にも上官である、長嶺長官にその物言いはなんだ!!例え知り合いでも、ここでは弁える場面だぞ!!」
珍しく川沢が声を荒げて、葉山に食って掛かる。それに合わせて、周りの提督達も葉山に対して色々言い始めた。だがそれを葉山は半笑いで聞き流すと、「次はこっちのターンだ」と言わんばかりに話し始める。
「英雄ですか。コイツが?確かにそうかもしれませんが、果たしてこれを見ても英雄と言えますかね?」
「な、何だと?」
葉山はそう言うと、例の写真を見せた。それだけではない。霞桜の本質、つまり拷問の記録映像や証拠写真なんかも提示し、ついでにでっちあげの横領の記録なんかも見せ始める。
「.......葉山、何のつもりだ?」
「これを持って英雄と名乗れるなら、名乗るがいい。ご覧の皆さん!これが英雄の真実です!!コイツは敵である深海棲艦と接触し、八百長をして今の地位を築き上げた売国奴!!いや、世界を売り渡したと言っていい!!!!そんな男を野放しにはできない!!!!」
「なにが「ご覧の皆さん」だ。まるで、国民にでも語りかけてるみてーだな」
「その通り!これは今、YouTubeで全世界に発信している。この会話も全て!!これで隠し通せなくなった。さぁ、正義の名の下に全てを受け入れるんだ!!!!」
いやーもう凄い。ここまで来たら、一周回って清々しい。普通にでっちあげも含まれているが、これが国民にもバレてるのが痛い。この演出のおかげで、真偽はどうあれ葉山が正義となってしまった。今や長嶺は悪。ここで何を言っても、全部逆効果になるだろう。
ラッキーな事に、他の提督達も呆気に取られて殆ど何も言葉を発せていない。これはこちらとしても好都合。このまま長嶺が悪者としての空気感を保ってくれれば、こちらとしても思惑通りだろう。
「それで、俺をどうするんだ?世界の裏切り者の末路っていうのは、一体どんな物なのかね?」
「へぇー。余裕だね、長嶺。でも、これでどうかな?」
葉山が指をパチンと鳴らすと、中に大量の陸上自衛隊員が入ってきた。だが装備が明らかに、通常の隊員の物ではない。アメリカ軍に採用されているFASTヘルメットに、バラクラバ、18式防弾ベスト。その下にはコンバットシャツを着用し、手に持つ銃は20式小銃ではなく、SIG MPXかM5カービンを装備している。
「雷蔵.......この隊員達って.......」
「陸上自衛隊陸上総隊隷下、特殊作戦群。自衛隊が誇る最強の特殊部隊だな。で、どうするんだ?」
「動かないでください!」
「その声、本.......いや。ブック1佐だな?」
長嶺は真横で銃を突き付けてくる隊員の声に聞き覚えがあった。ペルーン作戦にて、新型深海棲艦の調査に投入された特殊作戦群部隊の指揮官、本郷1佐だ。
とは言え普通に本郷と言えば、特殊作戦群としても不味いだろう。取り敢えずブック1佐と言えば、分かってくれるはずだ。
「覚えておいででしたか。残念です、私は個人的に軍神・長嶺雷蔵のファンでしたし、まさかこんな形で再会するなんて.......」
「俺としても残念だが、俺にも俺で事情があってね。さーて、ブック1佐以下、この部屋にいる一個分隊の特戦群の戦士達よ。いきなりで悪いが、最後通告だ。武器を下ろし、部屋から退室しろ。信じないかもしれないが、俺はこの状況下であっても君達を殲滅する事ができる。
君達が日本、いや、世界でも有数の精兵であることは俺も理解している。だが今、君達が銃を突き付けている相手は精兵だとか世界最強だとかを超越した、一種の戦闘マシーンである事をご理解頂きたい。俺としても無用な争いや犠牲は望む物ではないし、ここはお互いハッピーエンドといかないか?」
「.......閣下。我々もこれが任務なのです。そしてあなたは、世界を裏切った大罪人だ。本来なら警告なしで射殺するところを、最後の慈悲で生かしているに過ぎません。あなたは人類に必要な人だ。お願いです、どうか抵抗する事なく大人しく我々の指示に従ってください!!!!」
「ブック1佐、それが君達の答えの様だな。そうか残念だよ、実に残念だ.......」
長嶺はこっそりと靴に仕込んでいる小型EMPグレネードを葉山の下まで転がして、そのまま起爆させた。これで奴のカメラは使い物にならない。
そうなれば、こちらのターンだ。本来なら殺したくないが、もう仕方がない。
「焔柱」
次の瞬間、隊員達の足元から炎の柱が飛び出し、隊員達を貫通して天井に突き刺さった。炎をセンサーが感知し、火災警報とスプリンクラーが作動。水は降るわ、サイレンは鳴るわ、ついでに提督達も叫び出すはで一気に騒がしくなる。
「雷兄!!」
「雷蔵兄さんなんて事を!!!!」
「長嶺、貴様.......」
「雷蔵くん、落ち着こう、ほら、ね?」
「長嶺閣下何を.......」
「長嶺長官!それでよろしいのですか!?」
「何だよこれ.......長嶺!なんて事を!!」
「あ...あ.......」
「長嶺お前、一体なんなんだよ.......。ふざけるなよ!!」
「お集まりの諸君に、改めてご挨拶申し上げよう。俺こそが、かつて朝鮮半島を壊滅に追い込み、中華人民共和国を崩壊させた張本人。鴉天狗四柱が筆頭、煉獄の主人アマテラス・シンその人である」
長嶺の名乗りを聞いても、誰もピンとは来てないようだ。だが唯一、山本だけは違った。その名を聞いた瞬間、顔を青くし出したのだ。
「やはり、山本さんはご存知ですか」
「フーファイターの類いか都市伝説としか思っていなかったが、実在していたのか.......。ははは、ハハハハハ!!!!アハハハハハハハハハハ!!!!!!!」
山本は狂った様に笑い出し、周りの提督達の恐怖をさらに掻き立てる。だが葉山は、そんな中でも拳銃を長嶺に向けた。
「お前はただの裏切り者だろ!!!!!!」
「オイゲン!!」
この状況下でも銃を向けれる勇気は評価するが、長嶺とオイゲンの方が経験や練度は上だ。葉山が照準を定めるよりも先に、2人がホルスターから抜いて照準を合わせる方が早い。1マガジン、つまり長嶺は2挺の阿修羅HGの12発、オイゲンはグロック26の10発を即座に叩き込む。
「出会った時にこうすればよかったかしら?」
「かもな」
「.......オイゲェェェェン!!!!僕はまだ死なないよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
なんと葉山、まだ生きてやがる。身体中から蒸気を出しながら、普通に堂々と立ち上がった。
「一応これ、25mm弾なんだがな。オイゲンのも9mmとはいえ、徹甲榴弾だぞ.......」
「ハァ!!」
あれだけ弾丸を食らい、そもそもの威力も普通なら1発即死クラスの弾丸にも関わらず生きているので驚いていたが、今度は葉山、2本の黒い触手を走らせてくる。
即座に長嶺が迎撃するが、いよいよ持って葉山が人間を辞めたことがこれで分かった。なんか背中の辺りに、まるでセイレーンの艤装の様な禍々しい触手とか翼とか砲身を装備している。
「僕の新たな力で、オイゲンを手にしてやる!!」
「オイゲンは俺の女だぞ。タコは蛸壺に入ってたこ焼きにでもなってろよ!!焔舞!!!!」
長嶺は焔舞で2本の太い炎の塊を生み出し、それを操って葉山の周りを取り囲み目隠しを作る。その間にオイゲンに合図して葉山の後ろにあるドアに向かって走らせ、長嶺自身も机の上を走って葉山に肉薄する。
「この程度、僕には効かない!!!!」
葉山は触手で炎を打ち払い、視界が戻る。だがその時にはもう、長嶺が眼前に迫っていた。
「幾ら無敵でも、痛みくらいはあんだろ!!長官からのお祝いだ、取っときな!!!!」
そのまま葉山の顎目掛けて、全力の膝蹴りをお見舞いし顎を砕きに掛かる。骨を破砕する時独特の感触と「ゴキャァ!!」とかいう、聞くからに鳴っちゃいけないヤバい鈍い音が鳴ったので多分、顎をかち割っている。
長嶺は蹴った勢いのまま、ドアの真ん中にあるラッチ部分に弾丸を叩き込んで破壊。そのまま蹴破って、廊下に着地し会議室から離脱した。
「脱出!?」
「YES!!だが階段とエレベーターは論外だ!階段は登るか降るか、エレベーターは個室!退路がない!!!!」
「撃退しながら進めば!?」
「時間が掛かる!面を固められたら面倒だ!!」
「ならどうするのよ!!」
「飛び降りる!!」
長嶺は走りながら阿修羅を構え、正面のガラスを撃つ。強化ガラスとは言え、所詮はビル用のガラス。25mm弾の破壊力の前には無力だ。すぐに粉々に割れて、長嶺が考える脱出路が出来上がった。
「行くぞ!!」
「分かったわよ!!!」
勢いそのままに長嶺は飛び降りて、オイゲンは少し迷ったが長嶺を信じて飛び降りた。長嶺は空中でオイゲンをキャッチし、自分の胸の中にオイゲンを左腕でしっかりホールド。空いている右腕で、装備しているグラップリングフックをビルの外壁に打ち込み制動させて着地する。
「ま、まるでハリウッド映画ね」
「これで今年の主演女優賞、主演男優賞は決定だ」
そんな馬鹿話をしていると、1台の真っ黒なハイパーカーがターンして止まり、ドアが開く。長嶺の愛車、マスターシロンだ。
「脱出カプセルも来たことだし、とっとと逃げるぞ」
「オッケー!」
幾らモンスターマシンとは言えど、元は日本円にして2億7000万円もする超高級なハイパーカー。内装はとても豪華であり、黒と赤を基調とした本革製である。シートもセミバケットシートでありながら、高いクッション性を持っており座り心地はマイバッハやロールスロイスのシートにも引けを取らない。
「いいわよ!!」
「よっしゃぁ!!!!」
長嶺はアクセルを一気に踏み込む。1秒で300kmまで到達するパワフルなエンジンにより急加速したマスターシロンは、白煙を撒き散らしながら正門を突破。都内に飛び出す。
茨の道は、今この時から始まるのだ。