最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第八十五話叛逆者達

マスターシロンは江ノ島目指して、真っ昼間の東京を走り抜ける。しかも一発免停とかのレベルを超越した、時速300kmという速度を出しながらの爆走である。

 

「こ、これは結構怖いわね」

 

「悪いが全開ドライブで行く。しっかり捕まってろよ!」

 

この速度で交差点に突っ込むので、グリップではまず曲がりきらない。そこでドリフトを用いて無理矢理曲げるのだが、お陰で車内はジェットコースター以上の強烈な横Gが掛かる。

 

「所で、撃って良かったわけ?」

 

「良かったって?」

 

「自衛隊よ。これであなた、完璧なテロリスト。国賊の犯罪者よ?」

 

「知るかよ。どうせおさらばする国だし、俺の優先順位的に江ノ島の連中のが上だ。そもそも霞桜は、味方だろうが邪魔者は排除する。それに従ったまでだ」

 

本郷1佐以下、銃を向けてきた特殊作戦群の隊員達に恨みや怒りは覚えていない。寧ろ、多少の申し訳なさすら覚える。彼らは職務を忠実に全うし、任務に就いた。

だが生憎と、戦場は職務に忠実でも報われる場所ではない。任務中に死ぬなんて、日常茶飯事だ。彼らは国家の為に長嶺へ銃を向け、長嶺は家族を守る為に殺した。それだけであり、これが戦場のスタンダードなのだ。

 

「.......無理してない?」

 

「悪いがこっちは親友を殺した男だぞ?たかだか任務で一度共闘した奴には、申し訳なく思わないって言えば嘘だが、別に何も思っちゃいない。化けて出てこないことを祈るだけだ」

 

そんな事を話していると、パトカーのサイレンが聞こえてきた。イカついおっさんの声で「止まれ」と怒鳴られている。

 

「めっちゃ怒鳴られてるけど?」

 

「止まるかバーカ。三十六計逃げるに如かずだ!」

 

ミラーでチラッと見えたが、普通のクラウンのパトカーだ。マスターシロンに追いつけない。と言うかそもそも、マスターシロンと対等に殴り合えるパトカーはGTRとかレクサスLFA位だろう。

 

「このまま逃げ切れる?」

 

「さぁ、どうだろう。ここは警察無線を聞いて考えよう」

 

マスターシロンは武装やアフターバーナー等の機能も搭載しているが、この他、各種無線や電話の傍受、都市システムへの自動ハッキング、交通情報への自動ハッキング等ができる。これにより信号や高速情報を操り、こちらに都合の良い状況を作る事もできる。

 

『至急至急、警視庁から各局、警視庁から各局。本日10時47分頃に、防衛省本庁舎にて銃器、爆発物を使用したテロ事件が発生した。本件につき、11時1分、特別緊急配備を発令する。人員体制は甲号とし、各警戒員は配置につかれたい。

現在マル被車両は、国道20号を半蔵門方面に東進中。進路上の各PCは、直ちにマル被車両を捕捉せよ。尚、マル被車両については黒のスポーツカー、ブガッティ・シロンに酷似してるとの情報あり。以上警視庁』

 

「.......これ、どういう意味?」

 

「都内の警察が、血眼になって俺達を捕まえに来るとさ」

 

「ヤバいじゃない!」

 

「そりゃ国賊だもの。ヤバくない訳があるかよ!!」

 

マスターシロンはそのまま、高速に突入する。例えパトカーが何台こようと、こちらの敵ではない。いざとなれば、機関銃でボコボコにすれば良いだけだ。

 

『警視庁から各局、警視庁から各局。マル被の逃走先は、神奈川県江ノ島、江ノ島鎮守府である事が分かった。各PCは先回りの上、マル被車両を停車させよ』

 

警察無線からは、さらに様々な情報が入ってくる。どうやら既に湾岸署の水上警察の警備艇や、ヘリコプターも動員しているらしい。だがどれだけ動員しようと、問題はない。

 

ピーピーピー

 

「オイゲン!ちょっと無線出て!!」

 

「はいはい。こちらオイゲン、誰かしら?」

 

『オイゲンの嬢ちゃんか!そこに総隊長は居られるな?』

 

無線の相手は霞桜の隊員で、本部大隊に所属するオペレーターからの無線だった。何やら、嫌な予感がする。

 

「えぇ、勿論よ。今運転中で手が離せないけどね」

 

『そうか。でだ!総隊長、それにオイゲンの嬢ちゃん。江ノ島鎮守府が、セイレーンの攻撃を受けて現在応戦中です。陸上には謎の武装集団が展開しています』

 

「オイゲン、俺の口元に近づけてくれ」

 

「え、えぇ!」

 

「俺だ!詳細を伝えろ!!」

 

オペレーターの報告によると、江ノ島近海に突如、セイレーンの雑魚艦が大量に現れたらしい。すぐにグリムが当直艦隊を出撃させて迎撃に当たったらしいが、数が多すぎて当直艦隊の物量では抑えきれなかったそうだ。

しかも陸上からは謎の武装集団が攻めて来ており、こちらはイタリアのチェンタウロ戦闘偵察車やポーランドのPL01を装備し、兵士の格好もパワードスーツらしき装甲服を見に纏い、RM277を装備している。明らかに何処かの正規軍並みの装備であり、アメリカでも自衛隊でもない。こちらは取り敢えず睨み合いで、何もしてはないが時間の問題だろう。

 

『ご指示を、総隊長!』

 

「判断はそっちに任せるが、こっちは江ノ島を捨てられるまでの時間稼ぎ。要は遅滞戦闘だ。殲滅する必要はねぇ!!全員の生還を最優先に、好きに暴れさせろ!!」

 

『了解!!』

 

こんな時の為に、江ノ島鎮守府は要塞化してある。元々鎮守府の建物の外壁には、戦車の攻撃に耐えられる程度の装甲板を忍ばせてあるし、内部に関しても基本、ライフル弾を防ぐ装甲板は貼ってあるし、ガラスは全て防弾な上に防弾シャッターも付いている。戦闘時にはこれが自動で下がるので、ある程度の戦闘には耐えられる。

更に江ノ島全域の至る所に、武器も隠されている。戦闘状態に入れば地下から数万セルものVLS、レールガン、荷電粒子砲、レーザー砲、長、中、近、短の対空ミサイル発射機、対艦ミサイル発射機、速射砲、機関砲が大量に出てくる。しかも鎮守府内部にも自律式のM250、AA12、対戦車ミサイル、Mk47自動擲弾銃がが至る所に隠されているので、例え中に入られた所で問題はない。

 

「ッ!掴まれ!!」

 

「へ?きゃぁぁぁ!!!!」

 

長嶺はブレーキを踏み込んだ結果、マスターシロンは白煙を上げながら急減速し、身体が前に押し付けられる。

 

「ど、どうしたの!?」

 

「どうやらこっちにも追手らしい」

 

見れば目の前のシボレーサバーバンの屋根から、男がこちらにM134ミニガンを向けている。それだけではない。周りのSUVの屋根には重火器が装備され、ミニバンは重武装の兵士がこちらにライフルを向けている。しかも完全に囲まれて、退路がない。

 

「所でオイゲン。お前、グロ耐性ってあるか?」

 

「いきなり何!?」

 

「いいから!答えろ!!」

 

「一応あるわよ!これで満足!?」

 

「あぁ、大満足だ。戦闘モード起動!!」

 

マスターシロンの車体が変形し、各種武器が出てくる。たかだかサバーバン如きSUV、こちらの敵ではない。例え防弾プレートを装備していようと、手数でゴリ押し耐久勝負に持ち込めば問題はない。

 

「まず1台!!」

 

ドカカカカカ!!

 

防弾プレートは装備していたらしいが、やはり手数でゴリ押せば多少は粘ったが問題なく撃退できた。次は右のミニバン、ステップワゴンからLMGを乱射しまくる奴だ。

 

「オイゲン。今、右は見るなよ?グロいから」

 

「は?」

 

マスターシロンを幅寄せして、右についてる丸鋸をステップワゴン車内に突っ込み、ギュィィンと断ち切る。高速回転する丸鋸が人間を切断すれば、肉やら血やら臓物やらが飛び散る訳で、かなりグロい。ぶっちゃけ死体を飽きるほど見て来た霞桜の面々でも、ちょっと引いたりするレベルだ。

 

「ね、ねぇ雷蔵。この赤いベッタリしたのって.......」

 

「ちょっと新鮮な生のミートソースだ」

 

「それオブラートに包めてないわよ!?」

 

ミートソースに使うミートはミンチ肉。お察しである。因みに窓には血の他にも、なんかブニブニした塊もくっ付いている。これ以上は敢えて語るまい。

因みにこんな会話の中で、左サイドのステップワゴンにも同じ攻撃をしでかしていたりする。

 

「これで前と横はやったが、後ろはどうするかな」

 

後ろから3台のサンバーが、前のサンバーと同じ様にミニガンを撃ちまくっている。流石に7.62mmではマスターシロンを破壊できないが、何やら1台だけ様子が変だ。ミニガンを撃たずに、何かでこちらを狙っている。

次の瞬間、射手が身を乗り出してランチャーを構えた。

 

「掴まれ!!!!」

 

長嶺は反射的にアクセルを踏んだ。敵が使ったのは、携行式対戦車ミサイル。恐らく形状からして、ジャベリンだろう。流石にそれはヤバい。取り敢えずアクセル全開で距離を離しつつ、トップアタックモードならミサイルで撃墜し、ダイレクトアタックなら気合いで避けるしかない。

 

「今度はなに!!!!」

 

「対戦車ミサイルだ!!!!」

 

どうやらダイレクトアタックだったらしく、ジャベリンは外れて正面のカーブの外壁に命中し、大穴が開いた。

 

「追っ手をこのまま撃退する。マキビシ散布!!」

 

車体下部のケースが開き、マキビシがばら撒かれて3台のタイヤがバースト。火花が散る。

 

「続けてオイル散布!」

 

更にオイルをばら撒いた事で、3台のステアリングとブレーキは機能不全を起こす。3台は何も出来ず、そのままカーブをオーバランして自分達が開けた大穴から下の一般道に落ちていった。

 

「撒いた?」

 

「多分!このまま江ノ島まで突っ走る!!」

 

もうこれで追っ手はパトカーだけかと思いきや、まだ追っ手はいた。しかも長嶺も予測できない、空からの刺客である。UAVのXQ-58ヴァルキリーが、視界の遥か外から空対地ミサイルであるブリームストーンを放ったのだ。

とは言えマスターシロンにはレーダー波探知機能もあるので、ロックオンされた時点でアラートはなる。

 

「ミサイルアラートってマジかよ!?」

 

「それかなりヤバいんじゃないの!?」

 

「ヤバいもヤバい、マジでヤバいわ!!相手物持ち良すぎだろ!!何処の軍隊だよ!?」

 

流石の長嶺でも、この物量は予想外すぎた。単なる武装勢力にしては物持ちが良すぎる上に、明らかに何処かの国家の後ろ盾がある様なレベルだ。いくらなんでも、これだけの兵器群を日本に突っ込めるのはかなり無茶である。戦車や装甲車、更には航空機とは個人や一組織には無理がありすぎる。確実に何か大きな権力が動かなければ、こんな事は実現不可能だ。

 

「どうするの!?」

 

「目には目、歯には歯、ミサイルにはミサイルだ!!!!近SAM発射!!!!!」

 

マスターシロン後部の、多目的ミサイルランチャーからスティンガーを発射。ブリームストーンの迎撃を行う。だがレーダーの動きを見る限り、ミサイルはそれたらしい。

 

「オイゲン!この先にトンネルはあるか!?」

 

「1km先にあるわよ!」

 

「アフターバーナー点火!!トンネルに突っ込むぞ!!!!!」

 

アフターバーナーの点火で一気に加速し、身体がシートに押し付けられる。だがこれだけ加速すれば、ミサイルの接触時間を延ばすことはできる。接触前にこちらがトンネル内に突入できれば、ミサイルはトンネルの屋根や外壁に当たって撃退できるはずだ。

 

「ねぇ、ミサイルがトンネルに当たったらどうなるの?」

 

「そりゃ外壁が壊れて終わりだろ」

 

「それ、生き埋めになったりしない?」

 

「それよりも先に突破するだけだ」

 

マスターシロンがトンネルに突入した数秒後、後ろから爆音が鳴り響いた。爆音に続けて、ガラガラという何かが崩れる音も聞こえる。ミラーで見れば、外壁が崩れて完全に入り口が瓦礫で塞がれてしまっている。これで東京方面からの追っ手は、物理的に追い付くのは不可能になった。

 

『至急至急、本部から各局。本部から各局。新保土ヶ谷料金所出口に、バリケードを設置した。各車、バリケードまでマル被車両を誘導願いたい』

 

『こちら警視08。トンネル入り口が瓦礫で塞がれており、これ以上の追跡は不可能。神奈川県警に引き継がれたい』

 

『本部了解』

 

「バリケード突破できる?」

 

「愚問!」

 

何をバリケード代わりに置いてるかは知らないが、こっちは重武装かつ戦車並みの装甲を施したモンスターマシン。たかだか日本警察のバリケード、突破できずして何がモンスターマシンであろうか。

 

「見えた!装甲車4両と、バリケード!!」

 

「どうするの?」

 

「フロントミサイルで吹っ飛ばす!!フロントミサイル、発射!!」

 

ミサイルがバリケードに降り注ぎ、警察車両を警官ごと破壊。残骸を無理矢理突破し、江ノ島へ直走する。無論これ以降も警察からの妨害はあったが基本的に速度でぶっちぎり、全てを無力化したので問題はない。数十分後には江ノ島へと到着したのだが、案の定、江ノ島の周囲には戦車が数多く展開しており突破の仕様がなかった。

だが、そこは頼れる副官のグリムが手を回してくれている。すぐにF3Aストライク心神を運用するカメーロ、レジェンド両隊による爆撃とシービクターによる支援が行われる。

 

『アロガリアより総長!!進路はクリア!!!!』

 

「ナイスだアロガリア!そのまま援護頼む!!」

 

『おまかせあれ!!!!』

 

残骸と化した戦車と兵士達の死体の横を高速ですり抜けて、そのまま橋を渡り江ノ島鎮守府の敷地に突っ込む。何処が司令部になっているかは分からないが、司令部庁舎に行けば何かわかるだろう。という訳で取り敢えず、中心部にある司令部庁舎前の車寄せにマスターシロンを滑り込ませる。

 

「到着だ。オイゲン、生きてるか?」

 

「もう一生乗りたくないわね.......」

 

「そりゃ残念」

 

どうやら吐いたりまではないが、それでもかなりキツかったらしい。とは言えこの状況では、例え気分が悪かろうが吐いていようが戦って貰うしかない。

 

「総隊長殿!!」

 

「グリム!状況はどうなっている?」

 

「.......状況はかなり面倒ですよ。敵の配置は中で詳しく話します。こちらへ」

 

グリムが言うにはこうだ。現在江ノ島が海からはセイレーン艦隊、陸からは謎の武装勢力から攻められているのはご承知の通りだが、その規模はかなりの物だった。

海はセイレーンが倒しても倒しても一向に減る気配が無く、倒した側から新しい艦が現れる始末らしい。幸い雑魚ではあるので対処はできているが、何分数の暴力で膠着状態だという。陸の方は陸の方でチェンタウロ戦闘偵察車、PL01の他、後方には対空戦車ツングースカ、LAR160自走多連装ロケット砲、カエサル自走砲までいるらしく、こちらの状況は芳しくない。籠城でどうにか持ち堪えているという状況だそうだ。

 

「提督、お帰りなさい。申し訳ありません、敵の侵攻を許してしまいました」

 

「気にすんな大和。こうなったら、こっちも暴れるだけよ。戦力配置は?」

 

「はい。この様に」

 

地図上に示された戦力図は、江ノ島艦隊が最も得意とする水雷戦隊を重巡を先頭に突入させつつ、それを戦艦と空母が全力支援する戦法だ。アクティブディフェンスは悪くない手だが、この状況下では破滅へフルスロットルする様な物になりかねない。

 

「撤収までどのくらい掛かる?」

 

「凡そ30分です」

 

「.......よし!大和、W武蔵、ニュージャージーをセイレーン迎撃から外す。4人は敵砲撃陣地への艦砲射撃を実施しろ。その後、航空隊は空爆を開始。沿岸地区に展開する戦車部隊を蹴散らせ。残ったのは、シービクターで掃討させろ。

艦隊各艦は引き続き迎撃戦闘を行いつつ、徐々に戦線を江ノ島付近まで縮小させろ。素早く撤退出来る様にする」

 

「総隊長殿、あなたは最前線にお向かいください。ここは私が」

 

「頼む!八咫烏、犬神!!暴れるぞ!!!!!!」

 

長嶺は犬神と八咫烏を引き連れて、表へと出る。つまらない逃亡も、息が苦しくなる防衛戦もこれで終わり。ここからはこっちのターンだ。

 

「さぁ、やるわ。砲雷撃戦、用意!」

 

「遠慮はしない、撃てぇ!」

 

「ファイアコントロール、頼むわよっ!」

 

「時は来たれり!」

 

攻勢の号砲を切るのは、江ノ島の誇る最強の戦艦達。たった一撃で砲撃陣地は吹き飛び、間髪入れず航空隊が沿岸部に展開する機甲部隊に攻撃を開始。敵の損耗率は加速度的に上がる。

 

「総長!」

 

「バルク!!暴れてこいや!!!!!!」

 

「うおっしゃぁぁぁぁぁ!!!!!!野郎共!!総長からのオーダーだ、暴れるぞ!!!!!!!!」

 

最前線に展開し弾幕で敵を拘束していた第三大隊が、前へと飛び出す。本来なら混乱の1つや2つ起こりそうな物だが、敵は全く動じる気配を見せない。いや、恐らく驚きはしている。だがそれに順応し、カウンターを合わせてきているのだ。

 

「奴ら、かなりやり手だ。こりゃ面倒だぞ」

 

「思えば私の部下達が、君達と正面切ってぶつかるのは初めてだったねぇ、長嶺雷蔵くん?」

 

真後ろからバサバサという、細かい紙が靡くような音が聞こえた。この上品でエレガントなトーンをした男の声。聞き間違いようがない。

 

「なんでまたお前が出てくるんだよトバルカイン!」

 

「久しぶりだねぇ、総隊長。いやはや、この間の出会い方は本意ではなかったよ。仕事とは言え、あんなクズと共に居たのは私としても屈辱の極みだ」

 

「団長だろう?嫌なら、蹴ればいいだろ」

 

「我が戦闘団とて、所詮は飼い犬。上の駒でしかない。君達の様に、自由気ままにする訳にはいかないのだよ。さて、宣戦布告よりかなり時間が経っているが、本格的に戦争を始めようか」

 

どういう仕組みかは分からないが、トバルカインが右腕を広げると大量のトランプが落ちてきて、そのトランプ達はトバルカインの背中で円を描いている。恐らく、トバルカインは本気で来る。こちらも相応の準備をすべきだろう。

 

「あぁ。お互い楽しもうぜ!!」

 

そう言ったのと同時に、長嶺は朧影SMGで弾幕を展開。無数の弾丸がトバルカイン目掛けて飛んで行くが、やはりと言うべきか、これでは倒せないらしい。トランプは円環を描きながら、弾丸を全て弾いてしまう。

 

「ダメか」

 

「今度はこっちのターンだ!!」

 

突如、トランプが長嶺を取り囲む様に円状に展開し、長嶺はその真ん中に囚われてしまう。何が起こるか検討もつかないが、明らかにここから出なければならないのは確かだ。

 

「我が主!!」

 

八咫烏が長嶺を持ち上げて、そのまま外へと連れ出した。案の定、外へ連れ出された直後、トランプが対角線上のトランプに向かって電撃が走った。流石に何Vとかは分からないが、死ぬか良くて失神程度のダメージは入る強さなのは間違いないだろう。

 

「今のを避けるか。お見事お見事」

 

「どんな手品だ?アレをマジックってことで世界に売り出せば、忽ち今世紀最大の奇術師となるだろうな」

 

「フフフ。あの程度で全てだと思われたら、とてつもなく心外だよ。まだまだ技はある。是非ご賞味あれ」

 

「それはごめん被るね!!」

 

長嶺はジェットパックを最大推力で吹かし、バックステップの様に後方に飛ぶ。トバルカインの獲物は一応、トランプという紙の武器。距離を取れば恐らくは安全だろう。

 

「つれ」

 

「ない」

 

「じゃ」

 

「ない」

 

「か」

 

「総」

 

「隊」

 

「長」

 

どういう仕組みかは分からないが、行く先々にトランプが舞い、そこにワープしてくる。だが言葉が飛び飛びになるのでぶっちゃけかなり聞き取りにくい上に、ぷつりぷつりと細切れになるので違和感がすごい。

 

「だぁーもー!!止まってやるから普通に喋れ!!」

 

「き、君、年長者はもっと.......敬ったら.......どう.......なんだい.......?」

 

取り敢えず止まってみたが、なんか凄い息切れしてゼーハーゼーハー行ってるトバルカイン。コイツ、そんなにジジィなのだろうか?

 

「あれ結構、体力、使うんだよ」

 

「お、おぉ、そうか」

 

この姿に、長嶺は一瞬気が抜けてしまった。トバルカインはそれを突いて、炎を纏ったトランプを投げる。

 

「ッ!?」

 

寸前で避けたが、脇腹の辺りを掠った。強化外骨格が壊れた訳でも、体に傷も負ってはいないが、避けなければ普通に直撃コースだったので当たっていたらどうなったかは分からない。

 

「惜しい。今のを避けるか。流石、というべきかな?やはり絡め手ではなく、真正面からぶつかるべきか」

 

「トバルカイン。アンタ、ハリウッドに行った方がいいわ。アカデミー賞物の演技だぜ、全く」

 

「あんなポリコレに支配された世界に飛び込むなんて、身の毛が弥立つねぇ。昔のハリウッドはいいが、今のはダメだ」

 

「そうだな!!」

 

長嶺はトバルカインの懐に飛び込んで、最も得意とする刀での攻撃を仕掛ける。これまでの相手なら初撃か、2撃目、3撃目で倒せていたが、この男、やはりそれだけでは倒れないらしい。人間でここまでやれる者は、久しく会っていない。長嶺は自分でも気付かぬうちに、口角が上がっていた。

 

「楽しそうだな総隊長」

 

「あぁ!こんなに楽しいのは久しぶりだ!!」

 

「そうか。では、もっと楽しもう!!」

 

後ろに転がっているトバルカインが捨てたトランプが、突如爆発した。それもトランプのサイズ感には不釣り合いな、手榴弾並みのまあまあ大きな爆発である。

 

「物騒なトランプだなおい!」

 

「これでも倒せないか。人のみならず、装備も良いようだ。だが、それもいつまで持つかな?」

 

「知らねーよ!!」

 

次の瞬間、トバルカインの背後から犬神が襲い掛かる。足音も息遣いもない、完全な奇襲攻撃。並の相手なら、気付く間も無く殺せる一撃だ。だがトバルカインは、まるで見えていたかのようにカードで防いで見せた。

 

「えー?今の防げるの?」

 

「犬を使うなんて、少し無粋ではないかね?エレガントに欠ける」

 

「戦争にエレガントも何もあるかよ!!!!」

 

「そうかい?では、まずは修行してくるといい!!」

 

トバルカインは強烈な蹴りを長嶺に加え、長嶺はガードするも威力を殺しきれず吹っ飛ばされる。しかもその威力は壁すらもぶち破り、庁舎の外壁を突き破って建物内まで押し込まれてしまった。

全身がバラバラにならそうな位痛い上に、頭がクラクラする。恐らく軽く脳震盪を起こしているのだろう。だがそれでも、今はトバルカインを倒さなくてはならない。

 

「レッスン1。プレゼントを贈ろう」

 

土煙をトランプが突き破って飛んでくる。咄嗟に身体を倒して避け、トランプは壁に突き刺さった。今更だが、爆発したり燃えたり電気が流れたり、これは本当にトランプなのだろうか?

 

「レッスン2。プレゼントはセンスの良い物を」

 

次の瞬間、トランプが爆発した。咄嗟に腕に格納していた平泉を展開し、爆発から身を守る。

 

「レッスン3。情熱的に振る舞おう」

 

トバルカインがトランプを持って、長嶺目掛けて突進してくる。長嶺も阿修羅HGで応戦するが、トバルカインはそれをまたもトランプで防ぐ。だが、おかげで動きは止まった。少しはマシだ。

 

「レッスン4。熱くなりすぎず、時には冷静に」

 

トバルカインは銃弾を防ぎながら、土煙に紛れて外へと撤退した。長嶺としても、これは好機だ。こちらとしても、体勢は立て直したい。長嶺は廊下を走り、とにかくトバルカインから距離を取る。

 

「レッスン5」

 

長嶺の目の前に、トランプが舞った。

 

「常に優雅にエレガントに振る舞い、紳士の名に恥じぬ振る舞いを」

 

トバルカインが優雅に礼をしながら、トランプの中から現れる。この男、ふざけた言動ではあるが、かなり強い。長嶺としても、久しぶりに血がたぎってたぎって仕方がない。だが今は、死闘に興じるタイミングでもない。トバルカインと殺し合うよりも、家族達を逃すことの方が遥かに重要だ。

 

『総隊長殿!機材の運び出しが完了しました!』

 

「了解した」

 

長嶺は考える。トバルカインを倒す方法を。犬神、八咫烏による奇襲は恐らく意味を為さない。こちらの銃はトランプに防がれる上に、対深海徹甲弾の待ち合わせはない。かと言って接近戦を仕掛けても、互角かつ相手の獲物が未知数で対応しきれない可能性が高い。切り札たる『鴉天狗』も呼び出しから装着までは無防備になりやすい上に、時間がかかる。神授才なら余計にだ。神授才の場合、小出しで使えなくもないがアーマー無しは連発するとこっちの身がもたない。

だが一方で、可能性がある戦力は『鴉天狗』か神授才であるのも事実。となれば考えるべきは、どのようにして発動させる時間を稼ぐかである。幸い、ここは戦場のど真ん中。しかも戦場は、隅から隅まで知っている江ノ島鎮守府。地の利はこちらが圧倒的にある。

 

「そろそろ策は練れたかな?」

 

「あぁ。練れたぜ!!犬神、八咫烏!!」

 

「吹雪の術!!」

「翼旋!!」

 

八咫烏の巻き起こした旋風に、犬神の生み出した氷が入って、擬似的なブリザードを生み出し、視界を奪う。その隙に長嶺はバックステップでその場を離れ、反転して最大推力で廊下を飛ぶ。今度は直線的ではなく、グラップリングフックを用いて角を曲がったり、上の階に登ったりしてランダムに逃げる。

 

「また鬼ごっこかね!?」

 

正面に現れて進路を塞がれれば、真横の壁をぶち破って無理矢理逃げ道を構築し、トランプが飛んでくれば阿修羅で撃ったり近くの残骸を投げて迎撃する。

 

「これはこれは。本気を出してきたのかな?では、こうしてみよう!!」

 

長嶺が隣の建物に繋がる渡り廊下に差し掛かった時、トバルカインが爆弾トランプを真上から投げてきた。結合部に当て、そのまま爆破。支えを失った渡り廊下は、地面に落下する。更に追い討ちをかけ、真上から無数のトランプが降り注ぐ。燃えるカード、爆発するカード、電撃が流れるカードと大盤振る舞いだ。

 

「流石にこの攻撃には耐えられるまい。全く、この程度で死ぬとは拍子抜けだ。是非、煉獄の主人と戦いたかったのだがな」

 

1人勝った気でいるトバルカインの真後ろから、炎の槍が飛んで来た。間一髪で避けるが、今度は真下から炎の柱が襲う。更に頭上からも、炎の柱が降ってきて、避けれられない。

 

「チィッ!!!!」

 

トランプで球体を作り、自らはその中に入って防御する。柱はトランプこそ破壊したが、トバルカイン本体までは倒せなかった。

 

「いやぁ、危ない危ない。だがお陰で、神授才を使う時間ができた。災い転じて福となる。この為にあるような言葉だ」

 

「くふ、ふふふふ。ハハハハハハ!!いい!良いぞ総隊長!!!!やはり君は面白い!!さぁ、第二ラウンドと行こうじゃないか!!!!!!」

 

「あぁ。付き合ってやるよ!!」

 

だが生憎と、長嶺の脳裏には『正々堂々』とか『フェア』とかそういう考えは浮かんでいない。今長嶺がすべきなのは、敵を倒すのではなく時間を稼ぐこと。できれば殺しておきたいのは確かだが、かと言って積極的に殺しに行く必要もない。という訳で、ここはとにかく非道に行くまで。

 

「翼刃!!」

 

「氷柱の術!!」

 

まずは八咫烏が羽で斬りかかり、犬神が氷柱を飛ばして撹乱する。そっちに気が向いてる隙に、長嶺が突っ込む。

 

「焔槍!!」

 

「このタイミングでくるのかい!?」

 

とか言いつつ、しっかりトランプで防ぐトバルカイン。だが、それでは終わらない。防ごうと、それごと吹き飛ばす。建物を壊しながら地面に堕ちたトバルカインに、更に追い討ちを欠ける。

 

「オールビットビーム!!」

 

後方に控えるビットのビームを浴びせ、トバルカインを焼いてみる。更に他の術も併用してみるが、トバルカインはどうやったのかその場から逃げ仰せていた。

 

「いきなりすぎるよ、総隊長。やはりこの装備では、君の本気は相手にできないようだね。ここは一度退こう。彼が来たことだしねぇ」

 

「彼?」

 

「平たく言えば、今の雇い主みたいな物だ。ほら、佐世保の河本だったかな?あの者と関係性は近い。アレだって、本当はお嬢さん達を攫うなんて蛮族行為はしたくなかった。だから君の邪魔は、基本的にはしなかった筈だよ?」

 

次の瞬間、海の東京とか千葉のある方向に真っ黒な稲妻が堕ちた。閃光で目がやられたりはなかったが、明らかに嫌な予感がする。

 

「おい今の雷はなん.......」

 

その場にトバルカインの姿はなかった。代わりに無数のトランプが宙に舞っているだけで、多分逃げられたのだろう。犬神と八咫烏も逃げた瞬間は見ていなかったらしいので、もうどこにいったのかは検討もつかない。

 

『指揮官様!指揮官様!』

 

「赤城か!どうした?」

 

『オロチです。オロチが現れましたわ!』

 

「はあぁ!?!?」

 

オロチといえば、かつて重桜が、正確には赤城と加賀がセイレーンと協力して作り出した大型航空戦艦である。知っての通りアズールレーンとレッドアクシズ、更に長嶺率いる江ノ島艦隊と霞桜が協力して倒し、それ以降、今日に至るまで残骸は回収されていない筈だ。

しかもアレはセイレーンの技術を用いているとはいえ、レッドアクシズの研究成果や人類側の技術を取り入れたワンオフ艦。量産はされていないと、赤城達は語っていた。2隻目が現れる筈は無い。

 

『兎に角、こちらにお越しください。あの船は、そう簡単に倒せる物ではありませんわ!!』

 

「すぐに向かう!取り敢えず、合流までの間に時間を稼いでくれ!!」

 

『承知しました!』

 

赤城との通信を切ると同時にグリムに連絡を取り、霞桜の人員も総動員で当たらせる。幸い、沿岸の敵は粗方倒していたので、取り敢えず橋を落として来てもらう。橋さえ落ちていれば、江ノ島に部隊を送り込めなくなるし、例え第二波が来ても迎撃までの時間を稼げる。

 

「オロチじゃん。しっかりオロチじゃん!」

 

「Wow!なんてbigな戦艦なの!?!?」

 

「アイオワ、アレそんなノリノリになれるヤツじゃないわよ?かなり面倒なヤツよ」

 

来て見て分かったが、しっかりオロチである。マジオロチである。横でアイオワが目をキラキラさせているが、陸奥がそれに突っ込んでいるし、周りも驚きはしているが臆している者は少ない。いい傾向だ。

 

「指揮官様!」

 

「赤城!状況はどうだ?」

 

「未だ動きはありません。しかしあのオロチ、どうやら私達が作っていたオロチよりも強化されているようですわ」

 

「は?」

 

「オロチは三胴船で、真ん中が戦艦機能を有し、両サイドの船体は空母機能をメインにしていました。16インチ三連装砲10基、600mmレールガン2基、四連装砲ビーム機関砲80基、大型ミサイル発射管2基、特ミサイル発射台1基、艦載機60機を武装として備えています。

しかしどうやら中心に置いていた船体と同サイズの物が両サイドに繋がっており、中心の船体は更に巨大な物になっています。ですので16インチ三連装砲14基、16インチ四連装砲17基、600mmレールガン4基、600mm連装レールガン2基、四連装ビーム機関砲多数と、かなり毛色が異なります」

 

写真も見せられたが、確かに巨大化してる上に禍々しさも増している。威圧感も半端ない。これは倒すのに骨が折れそうだが、幸いにして今の江ノ島艦隊は更に火力が上がっている。艦娘の数もKAN-SENの数も、倍以上に増えている。霞桜の装備だってシービクターが装備され、更に上がっている。長嶺自身も神授才を解禁しているので、打てる手数は前とは比較にならない。

 

「総隊長殿!霞桜全大隊、集結いたしました!!」

 

「江ノ島艦隊、全艦娘動けます!!」

 

「KAN-SENも同様だ!!」

 

「よーし野郎共!!これより作戦もへったくれも無いが、今後の行動を説明する!!!!兎に角奴をぶん殴れ!!!!!!!撤退まで、奴の相手をしてやるんだ!!!!!倒さなくていい!!!!!生き残るために、奴をぶん殴ってやれ!!!!!!!!」

 

このまま居座られては、撤退中に背中を撃たれてしまう危険もある。ここは倒さなくていいから、せめて搭載兵器、取り分け対空火器を無力化しておきたい。鴨撃ちは好きだが鴨撃ちの鴨になるドM趣味は長嶺には無いし、他の江ノ島の家族共も無い筈だ。

 

「テメェら!!シービクターの力を見せつけてやれ!!!!!弾幕は救いなり!!!!!!」

 

「第一大隊、攻撃を集中させます。HUDに送った場所を正確に撃ちなさい。私自慢の部下である貴方達ならできる筈だ。撃て!!」

 

「第二大隊、突撃。撃ちまくれ」

 

「野郎共!!カチコミじゃぁ!!!!!」

 

「みんな!ベーくんに続くよ!!!!」

 

霞桜の面々も艦娘とKAN-SEN達も、一斉に持てる全火力をオロチに撃ち込む。その間にグリムがシールドを解析する。前回倒した時はシールドの弱い結合部を、同時にピンポイントで破壊しシールドを引っ剥がした。今回もそれをやろうとしたのだが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。

 

「ダメです!!今回は完璧に繋がっています!!!!」

 

「マジかよ!?」

 

「しかし攻撃を当て続ければ、シールドの耐久が限界を迎えるかもしれません。賭けですが、どうしますか!?」

 

「やるに決まってんだろ!!総員、全力でシールドを破壊しろ!!!!なりふり構わず、攻撃し続けるんだ!!!!!!!!!」

 

そういう訳で、長嶺も持ち合わせる全力を持ってオロチに攻撃を仕掛け続けた。だが一向に、シールドが破れる気配はない。しかも応戦までして来ているので、一筋縄ではいかない。

 

「硬っ!」

 

「どうする相棒!?このままではジリ貧だぞ!!」

 

「面倒だな、鴉天狗の素粒子砲でも使ってみるか!」

 

艦娘の武蔵の問いに、長嶺は懐から7枚の式神を取り出しながら答えた。正直、素粒子砲もダメだったら、いよいよ持って神授才の本気モードを使うしかない。しかしそれを使えば最後、神授才の効果が切れる。また一定時間置けば使えるが、できれば使いたくはない。その術は長嶺の持つ神授才を使う魔力的なエネルギー全てと引き換えで撃つ最強の技であり、足りない分は体力とかの生命力から補填される。

なので例えば神授才のエネルギーが底をついた状態で発動すれば、もはや発動すらせず長嶺が死ぬ。残量25%位ならなんとか自らの死と引き換えに使える位で、30〜35%であれば運が良ければ生き残れる位。50%なら行動不能にはなるが、生還するくらいの生命力を持っていかれる。威力絶大だが、引き換えに死にかねない切り札中の切り札。それを切る時は、本当に追い詰められた時だけである。

 

「子鴉共!!!!」

 

いつもの様に子鴉達がF27スーパーフェニックスに代わり、スーパーフェニックスの先導を受けて空中超戦艦『鴉天狗』が現れる。そしてそのままいつもの様に、その身に『鴉天狗』を纏わせるのだが、ここでいつもと違う事が起きた。

今回は神授才を解除せずに『鴉天狗』を纏わせた為か、火球が2つに増えている。しかもその2つはやがてぶつかり、そのまま更に巨大な火球を作り上げた。火球が晴れると、そこに立っていたのは長嶺なのだが、明らかにいつもの鴉天狗ではない。何もかもが違う。武装も、その配置も、装備もだ。例えば主砲は86cmの四連装砲が9基の筈だが、12基に増えている。副砲も46cmの三連装砲13基の筈だが、3倍の39基にまで増えている。それだけではない。艤装も全長が増し大型化して、足回りもエンジンのノズルが増設され、ここにも副砲が搭載される様になっている。全身が文字通り武器だらけとなり、極め付けは背後にビットを備えていて、神授才使用時の面影が残っている。

 

「空中超戦艦『鴉天狗』.......いや!!空中超戦艦『鴉焔天狗』見参!!!!!

 

オロチは『鴉焔天狗』に攻撃を集中し始め、無数の砲弾が長嶺を掠める。だが、一切臆さない。

 

「舐めるなよ。シールド展開!!!!」

 

ビットがシールドモードに切り替わるが、いつもの様に3つとか4つくらい集まってシールドを展開するのではなく、その場で変形して長嶺をスッポリとシールドで覆う。

 

「指揮官!!!!」

 

例のレッドアクシズとアズールレーンの本部があった島を一撃で破壊した、超強力なミサイルが直撃してもシールドはビクともしていない。その姿に皆、希望を見出す。さっきまで軽く心が折れかけていたが、再度攻撃を再開する。

 

「お返しだ、受け取りな!!!!全シールド、左舷艦首に集中!!!!!!」

 

さっきまで全身を覆っていたシールドが、左の艤装へと集中していく。その艤装を左腕に構えて、そのまま最大推力でオロチへと突っ込んだ。途中でオロチのシールドに阻まれるも、シールド同士の耐久勝負になった結果、長嶺の方に軍配が上がり艤装が貫通。刺すことができた。

 

「撃て!!!!!!!」

 

左舷に搭載している全火器でオロチを攻撃し、前部の武装を破壊。更にシールドのシステムか何かも破壊できたのか、シールドが外れた。その決定的な瞬間を、皆、見逃す事はない。全火力をオロチに投射し、程なくしてオロチは轟沈した。

海に沈んでいくオロチの姿に歓声が上がるが、長嶺はそれを黙らせる。まだ作戦は終わっていない。

 

「テメェらオロチ倒して終わりじゃねーぞ!!!!!!喜ぶ暇があれば撤退準備に入れ!!!!!!!!」

 

そう。これはあくまで時間稼ぎとかの為の戦闘であって、オロチを倒すことが目的では無い。江ノ島艦隊の勝利とは、ここから逃げ切れた時である。まだ勝利では無い。

 

「輸送機到着しました!!みなさん、撤退を!!!!」

 

タイミングが良いことに、戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』が帰還し、皆を乗せ始める。そもそも混乱なく素早く乗ってくれているが、各艦隊、各部隊の長がしっかり取りまとめてくれるので素早く撤退が進んでいる。

長嶺も輸送機に乗ろうかとしたその時、頭上から3人の人間が攻撃を仕掛けて来た。

 

「うおっとぉ!?!?」

 

間一髪で避けたが、直撃したら確実に持っていかれていたであろう強い一撃であった。というか空中から攻撃仕掛けてくる時点で、一体何者なのか見当も付かない。

 

「親父!!!!」

 

「いい!!俺に構わず退け!!!!」

 

「クッソ!!向こうで待ってますよ!!!!」

 

助けに来そうだったベアキブルを帰し、長嶺は降って来た3人に向き直る。武器はそれぞれ戦斧、大剣、ハルバードと近接特化。重装甲のパワードスーツと思われる装備を身につけ、顔も隠されていて分からない。

 

「で、アンタら何者だ?空中からいきなり現れるなんざ、早々ない登場だぞ」

 

「僕が答えるよ長嶺」

 

3人の後ろから、思いもよらない声が聞こえた。3人の後ろから現れたのは、なんと葉山であったのだ。しかも多分オロチの物と思われる、艦娘タイプの艤装を装備している。

 

「いやもう、なんなのお前。なんでここにいるんだよ!!!!」

 

「僕は君から全てを奪われた。地位も名誉も金も女も産まれも家族も!!君があんな事をしてくれたお陰で、僕は全てを失った。でもね、女神達は僕に微笑んだ。セイレーンという美女達がね」

 

「あー.......」

 

取り敢えずその一言だけで、コイツが何でオロチを身に宿したのかが分かった。傷心状態の葉山に何が目的かは知らないが、まあ何かしら利用するために近付いて、力を与えられたのだろう。目的が何かは知らないが、確かにコイツはハマれば一番操りやすいタイプではある。何処まで気の毒なのだコイツは。

 

「しかもそれだけではない。女神達は僕に、前とは比べ物にならない権力を与えてくれた。僕は学校から、この世界の裏の支配者に名を連ねたんだ!!トーラス・トバルカイン率いる、シリウス戦闘団を僕の私兵として動かせる!!!!更にセイレーンの技術を応用した人に移植可能な艤装で、僕は更に強くなった。そしてセイレーンの量産艦を持ってすれば、僕はこの世界を救った救世主となれる!!」

 

聞けば聞くほど、バカらしくて仕方がない。なんかもう、ここまで来たら一周回って哀れみすら覚えてくる。

 

「それで未来の救世主殿。テメェは何しにここに来た?まさか俺にそれを宣言するがためだけに、態々ノコノコと来た訳でも無いだろ?」

 

「あぁ!僕の力で、君の大事な物を奪ってあげるよ!!!!」

 

「はぁ?」

 

葉山は艤装を撤退する黒鮫へと向け、迎撃体制を取った。だがこの近距離で、長嶺がそれを許す訳ない。葉山が照準を定めるよりも先に、長嶺が魚雷を叩き込む。

 

「この間合いで俺を出し抜くなんざ、できるわけがないだろ?テメェは力を得て強くなったのかもしらねぇが、こっちは元から最強やってんだよ。たかだかポッと出の貴様が、こっちの経験に勝られてたまるか。場数が違うんだよ!!!!!」

 

そう叫びながら長嶺が吶喊する。だがそれを葉山の前に控えていた内の大剣持ちが防ぎ、戦斧とハルバードの2人が両サイドから攻撃を仕掛けてくる。

 

「クソッ!!」

 

流石に3つの別方向からの攻撃を同時に防げない以上、どうにかして全力で回避する他ない。大剣を勢いよく蹴って後方に飛びつつ、腕に装備した速射砲とか機関砲で牽制しつつ距離を取る。

 

「おいおいマジかよ。こりゃ、こっちも本気を出さねぇとな」

 

平静を保ってはいるが、長嶺の右脇腹には激痛が走っている。さっき回避した時、ハルバードが地味に掠っていたのだ。しかも掠っていたという表現ではちょっと足りないくらいには、ザックリとやられている。

 

「我が主!」

 

「八咫烏、犬神を連れて退け。ちょっと本気で暴れるから、少しここから離れろ」

 

「.......心得た!」

 

いつもの八咫烏なら無理矢理にでも共に戦いそうだが、今回は長嶺の覚悟か何かが伝わったのだろう。すんなりと退いてくれた。家族達も恐らく、そろそろ搭乗が終わって飛び立ち始める頃だろう。もう少しだけ、コイツらをこっちで引き付ければ勝利だ。

 

「さぁて、始めようぜ」

 

長嶺の攻撃に3人はしっかり連携して対応し、攻撃を無力化していく。本来長嶺ともなれば大多数戦闘であっても余裕でこなせるが、この3人は別格だった。まるで互いの考えをテレパシーか何かで読み合っているかのように完璧に連携し、長嶺の攻撃全てを的確に無力化していく。初見だろうと無かろうと大抵の敵は一撃で終わっていた長嶺の攻撃が、全く通用しないどころか初見でカウンターすら撃ってくる事もあった。

 

「何をしてる!早くやれ!!」

 

(可笑しい。明らかにコイツら、俺の動きを知っている。まるでずっと俺を見て来たかのようだ。これまで全開戦闘で、ここまで俺が追い詰められた事があったか?)

 

葉山がヤジを後ろから飛ばす中、長嶺は言い得ない不安感に駆られていた。ここまでの相手、逝った親友達を除けば初めてだ。こうなったら、出し惜しみなしで神授才もバンバン使うしかない。

 

「焔倫!!」

 

炎の戦倫を飛ばし、3人を撹乱しつつ更に技を繰り出していく。炎の煙を生み出し吸ったものの体内から燃やし尽くす『焔煙』。超高温の火の玉を生み出す『焔球』。いつも通りの焔槍、焔柱、焔槌、焔龍、焔舞などなど、持てる技は兎に角出しまくり、艤装も使って攻撃を加え続ける。

 

「下がれ将軍共!!僕がやってやる!!!!」

 

中々決着が付かない事に痺れを切らしたのか、葉山が攻撃に加わる。だがその攻撃というのが、セイレーンの量産艦を大量に出すという物。こんなの拍子抜けも良いところである。

 

「焔雨!!」

 

これだけの雑魚を片付けるなら、焔雨はかなり楽だ。炎の雨を降らせてくれるので、楽にお掃除ができる。尤も家でやろう物なら、その家ごとお掃除する羽目になるが。だがこういう相手なら、別に本体が消えたって問題はない。

 

「その程度か葉山!!!!」

 

「いや、これからさ」

 

葉山は艤装を艦船形態へと変化させ、またあの巨大戦艦を顕現させる。流石に驚きはするが、さっきと同じようにシールドを一部に貼って、そのまま突っ込む戦法をとった。

 

「取ったぁぁぁぁ!!!!!!」

 

シールドに左側の艤装をぶつけたが、貫通には至らない。一応ダメ元でミサイルと砲弾をぶつけてみるが、やはりダメだった。

 

『甘い甘い。この超戦艦『レグネヴァ』の性能は、僕の憎悪に比例する。今僕は、君に激しい憎悪を持っている。その炎はこの船の原動力となる。さっきのように仲間がいれば可能性もあったが、君1人では貫通できないよ?』

 

「何をする気だ!!!!」

 

『そこで見ているがいい!!ノイ・フリッツで、貴様の家族を滅ぼしてやる!!!!!」

 

オロチ、いや。『レグネヴァ』は例の超大型ミサイルの発射シーケンスに入ったようで、艦後部のミサイル発射管が組み立てられていく。発射されてしまっては迎撃できるかは分からないし、かといって素粒子砲はチャージする前に撃たれてしまうだろう。

 

「腹ァ括るか」

 

『なんだ?何か言ったか?」

 

「天に輝きし旭陽よ!その天界に縛られし楔を解き放ちて、我が眼前に跪き、その姿を顕現せよ!!

堕天旭陽失墜焔(だてんきょくようしっついえん)!!!!!!!」

 

堕天旭陽失墜焔。長嶺が使う神授才最強の技にして、己の身を滅ぼしかねない秘奥義でもある。この技は直系数百メートルの火球を産み出すだけなのだが、その温度は太陽の中心核以上なのだ。太陽の中心核は約1600万℃とされているが、こちらは約1億℃。更に数兆気圧を誇る。全てを焼き尽くすどころか、灰すら残さず消滅させる。これを用いればありとあらゆる物体を、この世から抹消できるのだ。

ただしこの技は、先述の通り神授才に使うエネルギー100%と引き換えである。足りない分は生命力から補填されるが、今の長嶺の残量と体力的に生き残るか微妙なラインであり、かなりの賭けでもある。

 

『な、なんだアレは!!!!!!』

 

「チェックメイト、ゲームセットだ.......」

 

強大な火球が海水に触れると、即座に蒸発しそれが水蒸気爆発を起こす。下からは水蒸気爆発の圧力と衝撃が加わり、上からは気圧と熱が加わる。いくら『レグネヴァ』でも、耐えきれず轟沈。長嶺も吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは.......。俺の勝ちだぜ。これで俺達の勝ち.......だ.......」

 

どの位の時間が経っただろうか。長嶺は海に放り出され、漂っていた。長嶺の脳裏に浮かぶのは、家族達の顔だった。死んだら悲しむだろう。荒むだろう。仮に死んだら、前を向いて欲しい。そうあって欲しくないが、やはり1人の人間として少しは死んでも気にして欲しい物だ。

まだやりたい事がある。死にたくはない。だが、身体が言う事聞かない。それにこう言う死に方なら、満足である。

 

「いた!いたわよ大和!!指揮官!!!!!!」

 

「提督!!提督!!!!」

 

「おいげ.......ん?やま.......と.......?」

 

「そうよオイゲンよ!助けに来たわ!!」

 

「ひどい怪我.......。提督!!気をしっかり持ってください!!!!すぐ運びますから!!!!」

 

オイゲンと大和は半ば引き摺るように、長嶺を連れ出した。実はこの2人、撤退する時にこっそり抜け出して途中の海に降下したのだ。他の者に「長嶺と合流して連れ帰る」と言って押し切り、戦闘の一部始終は大和の零式観測機が捉えており、長嶺が飛ばされたのを確認して救出にやって来たのだ。

 

「全く、なんて無茶をしたのよ!!」

 

「あーす.......しか.......な.......った.......」

 

「帰ったら一杯怒りますから今は気をしっかり持ってください!!」

 

長嶺は薄れゆく意識の中で、2人をしっかりと感じていた。なんだか走馬灯みたいになっているが、それは長嶺が受け入れない。必ず復活してやると固く決意した。だが、現実問題として意識は飛びそうなのを無理矢理気合いで抑えている状態だ。今できるのは生き残れるように願掛けするくらいであろう。

 

「おーいこっちだ!!」

 

暫くすると、聞き覚えのある声が聞こえた。霞桜の医官隊員の声だ。2人は長嶺を医官隊員に預けたのだが、その医官隊員も絶句した。

 

「なんて怪我だ。とにかく運ぼう。早くここを離れるんだ!!」

 

医官のその言葉を最後に、長嶺は意識を手放した。この日、世界中のトップニュースはこの見出しが踊った。『新・大日本帝國海軍連合艦隊司令長官 長嶺雷蔵元帥、謀叛により江ノ島鎮守府の艦娘と消える』である。

この行動が後に世界の命運を左右するのだが、それをまだ誰も知らない。

 

 

 

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