第八十六話英雄譚のフィナーレ
長嶺収容より数十分後 戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』医療支援型 カーゴスペース
「ねぇ、雷蔵は大丈夫なの.......?」
「正直、かなりヤバいな。いつもの総隊長なら、高速修復材でサクッと治る傷だ。だが何故か、今回はそれが使えない。注射で投与しようが、掛けようが、塗ろうがダメだ。取り敢えず応急手当てで出血を止めにかかってるが、これで拠点まで持ってくれるかも怪しいもんだ」
現在の長嶺は右腕及び、右小指と人差し指、左手首、胸骨を骨折しており、左大腿骨にまで到達する大きな破片が突き刺さっている。背中には大きな切り傷を負っており、更に腹部にもは何かの破片が刺さっている上、こちらは臓器にまで達している可能性がある。これに全身の打撲と、多少の熱傷も負っており、満身創痍という状態だ。
各所の傷から出血しており、かなり予断を許さない状況だった。艤装を装備していなければ、恐らく死んでいただろう。正直今だって、呼吸は浅いし心拍数も死なないギリギリを攻めている。
「医務長!急変しました!!血圧低下、心室細動です!!」
奥から看護師資格を持った隊員が飛び込んでくる。すぐに医務長は立ち上がり、手早く準備しながら指示を出す。
「VFA準備!300でチャージだ!」
「了解!」
「2人とも、総隊長の手を握っててあげてくれ」
「手を、ですか?」
「精神論ってのは、存外的外れでもなくてね。どんなに治療を施しても、患者自身に生きる意思がなければ死ぬ。それを呼び覚ます為にも、手を握っててあげて、声をかけ続けて上げてくれ。こればっかりは、俺達むさ苦しい野郎には務まらん。君達だからこそ、効果があるんだ」
大和とオイゲンの答えはもう決まっている。2人は医務長の後ろを付いて行き、処置室に入った。既に長嶺は色んなチューブが色んな機械に繋がっていて、まるでサイボーグか何かの様になっている。
「O-を4単位追加。強心剤投与」
「挿管準備」
「血圧さらに低下!」
「心電図乱れてる!!」
よくわからない単語が飛び交っている中、医療ドラマでよく聞くアラーム音が心電図から鳴り響き、モニターのランプが赤く点滅し出す。
「心肺停止!!」
医療に疎くても、その意味は分かる。心臓が止まったという事だ。数秒もしない内に、医務長の横に台車のついた機械が持ってこられた。見るからに電気ショックをする、AEDの病院版である。
「離れて!クリア!!」
2枚のパネルが長嶺の胸に当てられた瞬間、バチンという音共に長嶺の上半身が仰け反る。
「心拍数戻りません!」
「500でチャージ!!圧迫再開!」
チャージしてる間には、心臓マッサージが繰り返される。オイゲンと大和もより強く手を握りしめ、とにかく祈り続ける。
(提と…いえ、雷蔵さん。どうか戻って来て.......。まだみんな、あなたの事が必要なんです!)
(雷蔵。先に逝くなんて許さないから!何が何でも戻って来て、またみんなで騒ぐわよ。あなたが逝ったら、私寂しくて自殺しちゃうわよ)
「チャージ完了!離れて!!」
再びバチンという音共に、長嶺の上半身が仰け反る。どうやら今度は成功したらしく、すぐにアラームの音は消えて通常の心電図が心音を刻む音に変わった。
「心拍、戻りました」
「呼吸異常なし」
「このまま拠点まで急ぐ!パイロットにもっと飛ばすように伝えてくれ!!」
更に加速した『黒鮫』は十数分後、新拠点となる『セカンド・エノ』に到着。長嶺はそのままストレッチャーでオペ室に担ぎ込まれ、そこから述べ28時間39分に及ぶ大手術の末、無事に一命を取り留めた。
1週間後 セカンド・エノ 医務棟 ICU
「ぁ.......」
知らない天井に、心電図モニターの心音。そして全くと言っていいほど動かぬ上に、地味に痛い身体。どうやらまだ、三途の川を渡らずに済んだらしい。
取り敢えず目を動かして周囲を確認すると、左手の近くにはオイゲンがベッドに顎を乗せて眠っており、右側では大和らしき焦げ茶色のポニーテールが少しだけ見える。
「ふぅ.......。あっ!」
目があった。てっきりこのまま、どうやって大和に起きたことを伝えようか作戦を考える方にシフトするかと思ったが、そうはならないらしい。
「.......よぉ。ただいま..............」
「お帰り.......なさい.......!」
大和はオイゲンを起こすと、足早に医務官を呼びに走る。オイゲンもすぐに目を覚ますと、長嶺に抱きついて来た。力一杯抱きしめたい所だが、そんなことをすれば長嶺が痛みで死にかねないので優しくソフトにである。
「心配かけすぎよ!」
「さーせん.......」
「でも、よかった。もし、雷蔵が死んでたら、みんなバラバラになってたわよ.......」
それに関してはオイゲンに同意である。何せ元から癖が強い所の話ではない霞桜の面々に、元は敵同士だったKAN-SEN達の陣営と、艦娘&深海棲艦。まあまず間違いなく、多かれ少なかれ血は流れるだろう。その上で纏まれば良し、崩壊したっておかしくは無い。
「総長、お目覚めですか。取り敢えず、まずは検査を」
改めて医務官から言われた傷は、まあ酷い物だった。上から中度の脳挫傷、心停止による軽度の脳へのダメージ、肋骨8本が骨折ないしヒビ、右上腕、右小指、人差し指、左手首の骨折、左尺骨にヒビ、脾臓が中度の損傷、右大腸に届く切創、右足首骨折、左大腿骨貫通、その他23箇所に裂傷&切創、5箇所に弾痕、及び全身に打撲痕というボロボロな状態であった。
「なぁ.......」
「はい」
「普通この傷って死ぬか重度の後遺症コースだよな.......?」
「はい。艦娘及び例の神授才の能力なしで、この回復力は明らかに化け物です。人外です。ゾンビとかキョンシーレベルです。アンタは異常です」
ボロクソに言われてるが、明らかに普通じゃない。これだけの傷ならかなりの期間は昏睡するだろうし、そもそも意識取り戻してもマトモに口が効けない。なのにコイツ、普通に喋ってる。明らかに化け物である。その後も色々説明されたが、最終的には今日はこのままICUで過ごし、明日、高速修復剤を投与してみるとの事となった。
翌日、高速修復剤を注射で打ってみると、やはり傷が全て綺麗に消え失せた。念の為レントゲン、MRI、血液検査等々の各種検査も行ったが、完全復活のお墨付きが出た。
「完☆全☆復☆活!!!!」
「おめでとうございます、総隊長殿!!」
「いやー、艦娘やってて良かったわ。これでまた、敵をぶっ殺せる!!で、だ。グリム、この戦いでの被害は?」
「中破が若干、小破がまあまあ艦隊に出てますが、概ね問題はないでしょう。霞桜にも装備が壊れたりはありましたが、その分負傷者は皆無!唯一総隊長殿が、重傷を負われ一時生死の境を彷徨いましたが、完全回復された現在では全く問題無しと言えるでしょう」
「よーし。ではグリム、早速大隊長達と代表者達を俺の部屋に集めてくれ」
「了解!」
長嶺は足早に自室に戻ると、パソコンからとあるファイルを印刷し会議に参加する人数分コピーする。コピーを終えると、そのままコーヒーと紅茶とお茶菓子の準備に取り掛かり会議の準備を整える。
しばらくすると会議に参加する者達が集まった。会議に参加するメンバーは以下の通り。
・艦娘代表 大和、長門
・重桜代表 赤城、加賀
・ユニオン代表 エンタープライズ、ニュージャージー
・鉄血代表 ビスマルクZwei、プリンツ・オイゲン
・ロイヤル代表 プリンス・オブ・ウェールズ、イラストリアス
・サディア帝国代表 ヴィットリオ・ヴェネト
・北方連合代表 ソビエツカヤ・ロシア
・東煌代表 ハルピン
・自由アイリス教国代表 リシュリュー
・ヴィシア聖座代表 ジャン・バール
・ロイヤルメイド隊メイド長 ベルファスト
・深海棲艦代表 戦艦棲姫
・基地航空部隊代表 メビウス1
・霞桜副長兼本部大隊大隊長 グリム
・霞桜第一大隊大隊長 マーリン
・霞桜第二大隊大隊長 レリック
・霞桜第三大隊大隊長 バルク
・霞桜第四大隊大隊長 カルファン
・霞桜第五大隊大隊長 ベアキブル
これまでは各陣営トップと大隊長達だけだったが、今後は在籍数の多い旧四大陣営と艦娘はトップとナンバー2の他、新たにロイヤルメイド隊代表としてベルファスト、航空隊の代表としてメビウス1、さらに深海棲艦の代表として戦艦棲姫が参加する。これまでは機密等もあった為、必要最低限の人員に抑えていた。しかし叛乱し軍隊や国家のくびきから解き放たれた今、もう機密も何も存在しない。今後は代表として、仲間として、全てを話す。
「さーて、野郎共!8日ぶりだな。長嶺雷蔵、完全復活だ。でまあ普通なら盛大にパーティーでもやって、そこで登場してやりたいんだがな、一応俺達は国を出た反乱軍。言っちまえばテロリストだ」
「ラプターに心神、更には特殊部隊と艦娘艦隊を従えるテロリストは、果たしてテロリストの枠組みになるんですかね?」
「まあブラックリストに歴代史上最悪のぶっち切り1位で、堂々ランクインを遂げるだろうな」
メビウス1と長嶺の言葉に、参加者達も思わず笑みを浮かべる。最強の第五世代機F22ラプターとF3心神及びF3Aストライク心神、最強にして最狂の精鋭特殊部隊たる霞桜、かつて最精鋭として数々の困難な作戦を1人の犠牲者なく突破して来た無敵の江ノ島艦隊。控えめに言って他のテロリスト集団はガキのお遊びである。
「だがお前達。俺達が最強のテロリストグループなのは知って通りだが、お前達にはこれも見てもらわないとならない」
長嶺はさっき印刷とコピーをしていた、例のリストを全員に配る。表題には『支援者リスト』とある。
「支援者.......。まさか指揮官様。この反乱行動に賛同者がいると?」
「協力者だがな。まあリストを見て貰えれば分かるが、かなりの大物達だ」
流石に全ては載せられないが、一部抜粋の上で記しておこう。
・日本国第126代天皇
・日本国防衛大臣 東川宗一郎
・新・大日本帝国海軍呉鎮守府提督 風間傑
・新・大日本帝国海軍舞鶴鎮守府提督 山本権蔵
・新・大日本帝国海軍釧路基地司令 比企ヶ谷八幡
・新・中華民国首相 李浩然
・新・中華民国陸軍総司令長官 張趙雲
・新・中華民国海軍提督 習梓豪
・新・中華民国航空宇宙軍総司令長官 黄飛龍
・新・中華民国海兵隊総司令 王雲嵐
・ロシア連邦極東軍管区司令官 ヤーコフ・ラトロワ
・ロシアンマフィア『レニングラード』ボス ヴラースチ
・中東民族独立解放戦線総指導者 ムージャ・トゥルキスターニー・ジブリール
・チェコギャング『パフルスキ』ボス ボス・アブラハムチーク
・ドイツ連邦共和国首相 ケーニッヒ・ベルノハルト
・イタリア共和国首相 マッテオ・ペネルティーモ
・フランス共和国大統領 フライド・コパカバーナ
・フランス共和国首相 ガブリエラ・ポタージュ
・イギリス王女 エリザベス・アレクサンドラ・メアリー
・イギリス王立海軍第一海軍卿 サー・ジョン・アーバスノット・テラブレンテ・マクレガー
・MI5
・MI6局長 サー・チャック・アーノルド・カイオス・ベナンウッド
・アメリカ合衆国大統領 ビンセント・ハーリング
・アメリカ合衆国国防長官 ドーベック・S・フライゼンハワー
・アメリカ合衆国陸軍参謀総長兼参謀長 アーサー・D・マースティン
・アメリカ合衆国海軍作戦部長 ジョージア・デル・トロ
・アメリカ合衆国空軍参謀総長 シモンズ・ケビン
・アメリカ合衆国海兵隊総司令官 マックス・ブラティオン
・アメリカ合衆国宇宙軍作戦部長 ライトニング・S・ナーファン
・アメリカンマフィア『コロンビアン』ボス ザ・トニー
・南米カラーギャング『シカリオ』首領 ボス・ラーチ
見ての通り世界の主要国家の国家元首、もしくは軍のトップ達の他、裏社会において絶大な権力を持つマフィアのボスまでもが、こちらに手を貸してくれるのだ。しかもこれに加えて一部の兵器メーカーの社長や設計者、運送会社、製薬会社、金融機関、傭兵組織の他、各国の裏社会の情報屋、殺し屋、商人といったヤベェ連中も大量にあった。
「おいおい、コイツは.......」
「世界の表裏社会の支配者揃い踏みね.......」
「戦争起こせますよこれ」
「親父こえぇ.......」
「総隊長殿、あなたは世界征服でもする気ですか?」
流石の霞桜大隊長達でも、この交友関係の広さは想定していなかったらしい。これだけの人脈があれば世界を裏から支配する事も、世界征服して世界の覇者になる事も出来るだろう。
「ここに名前が書かれてるのは、俺が軍高官か霞桜総隊長の長嶺雷蔵、あるいは東川蔵茂として関わりがあった者達だ。まあ後者に関しては、中国組とフライゼンハワーのおっちゃん位しかいないがな。
この他、俺の偽造身分やら個人で関わっていた者も世界中にいる。いざとなれば味方になってくれそうな奴もな。俺達は日本という、国家の後ろ盾を失ってはいる。だがその分、俺達は俺達の裁量で、俺達がやりたい事、正しいと思える事を好き勝手に出来る上、こういう世界中のお友達が力を貸してくれる。俺達は孤独であって孤独ではない。安心しろ」
長嶺としては全員が喜んでくれると、安心してくれると思ったし、そういう反応をしてくれるものだろうと勝手に考えていた。しかし実際は全員が無表情な上に、リストを見て固まっている。
「あ、あれぇ?どうしたお前達。ここ、喜ぶというか安心するところじゃね?」
「あのね総隊長、これ見て安心できる奴、多分霞桜にも早々いないと思うんですよ」
「へぇぁ?」
「普通に考えて恐ろしいでしょ!!アメリカ現職大統領に陸海空海兵隊に宇宙軍のトップ、イギリス王室、ロシア極東軍、ヨーロッパ主要国のトップと友達って、反応に困りますよ!!」
マーリンの魂の叫びとも言うべきツッコミに、会議に参加している全員が深く頷いている。長嶺が何処ぞの国家元首とか王族とかなら、この交友関係も理解できる。だが長嶺雷蔵とは、朝鮮半島を世紀末にしたり中国滅ぼしたり非正規特殊部隊のトップやったり人類の英雄たる提督をやったり提督達のトップをやったりはしていたが、所詮は軍の高官に過ぎない。
まだアメリカ軍のトップ連中、ロシア極東軍は分かる。ここら辺は所謂同業者。個人的親交があったって、リーマンが取引先のリーマンと仲良くなったようなものだ。だがそれ以外の国家元首とかは、本当に訳がわからない。ギリギリ天皇及び中華民国は長嶺の過去的に分かるが、それ以外は本当に分からない。
「だって友達なんだもん。そこに理由もへったくれもねぇよ」
正論ではあるが、違うそうじゃないと言いたい。とは言え正論は正論。ぐうの音も出ない。
「なんか可笑しな空気感ですが、もう話を戻しましょう。それで総隊長殿、何故我々を参集したのですか?まさか復活を発表したくて、態々集めた訳でもないでしょう?」
「一言で言えば、現状の確認と今後の方針を決めたい。知っての通り、俺達は少なからず敵を抱えている。まずは深海棲艦。これはもう言わずもがな、人類はこの深海棲艦と戦争中だ。総旗艦たる深海棲姫は倒したが、残党は残っている。俺達が最大級の功績を挙げ続けていた以上、向こうも復讐がてらに攻めてくる可能性はある訳だ」
「提督ノ言ウ通リダ。深海棲姫ハ倒シタガ、他ニモ指揮ヲ取レル者ハ無数ニイル。ダガ総旗艦ガ倒サレタ以上、今ハマダ混乱ガ治ッテイナイ筈ダ。今スグ大艦隊ガ襲ッテクル事ハナイダロウ」
「取り敢えずこれで一先ず深海棲艦の事は考えなくてよくなったが、まだ敵はいる。シリウス戦闘団だ。未だ謎が多いが、これまでの動きからして何処かの組織の実働部隊である事が分かっている。しかもアレだけの装備と実力者を集めているんだ。俺はアメリカが怪しいと思ってた訳だが、襲撃時の装備を見た限りじゃアメリカどころか国を跨いでる可能性すら出てきた。映画の中の秘密結社みてぇにな」
「指揮官様。参考までに、何故アメリカを疑い、今は国を跨いだ組織だと考えたのか教えては貰えませんか?」
リシュリューからの質問に、周りもかなり興味津々だ。霞桜の面々や政治に明るい者。例えばビスマルクや大和辺りは理由がわかってるっぽいが、生憎と意外と事はそう単純ではない。
「アメリカを疑った理由だが、そもそも最初はアメリカというより国を疑っていた。霞桜に関しては矢面に立っていたから分かるだろうが、シリウス戦闘団の装備や練度、そして隠蔽などの情報操作能力は明らかにテロリストのソレを凌駕する。霞桜の様な、何処かの国家ないし国家機関の秘密部隊だと考えていた。それも大国級の、超大物のな。となるとアメリカ、イギリス、ロシア、中華民国、日本だ。
まず日本は霞桜の拠点な上、国内ならこっちの監視網がある。幾らなんでも分かるはずなので除外。中華民国も現政権及び軍内部には、俺が味方の時の心強さと敵になった時の恐ろしさを香港革命の時に嫌ってほど味わっているので除外。ロシアは国内ガッタガタでこっちに構う余裕なしなので除外。イギリスは基本仲良い上に、あっちは東欧が世紀末で忙しいので構う余裕なし。残るはアメリカで、こっちはハーリングのおっちゃんがいるから違うかとも思ってたんだが、そのハーリングのおっちゃんから情報が手に入ってな。なんでもCIA内部の派閥抗争がかなり大事らしくて、ぶっちゃけおっちゃんでも操作できてないらしい。CIA局長が敵対派閥にいるおかげで、独り歩きしてる始末だ。となれば怪しいのはここだろ?
だがいざ、本格的にぶつかってみたらどうだ。相手の装備は世界各国の様々な装備があって、まるで多国籍軍だ。かといってテロリストみたいな型落ち品ではなく、最新鋭ないし現役、もしくは予備役や第二線級とは言え稼動兵器の勘定に入ってる物ばかり。そうなってくると、何か秘密結社みたいな世界に股をかける組織の子飼いという結論になる訳だ」
「そこまで複雑な話だったとは.......」
「ますます謎ね、シリウス戦闘団.......」
「そんな謎のシリウス集団だが、なんと新人提督隼人・レグネヴァ君の下についてましたとさ。しかもその隼人・レグネヴァ、本名は葉山隼人という.......」
その言葉を聞いた瞬間、コーヒーを吹き出したマーリン。霞桜の面々と大和、エンタープライズは一気に怒りに染まった憤怒の顔となり、他のKAN-SEN達は驚いた顔をしている。唯一戦艦棲姫だけは「誰それ?」という顔であるが、それは仕方ないだろう。
「そっちの方向に行くなって言ったのに.......」
「総隊長殿、ちょっと殺してくるので暫しお待ちを」
「グリくん、甘いわ。殺すなんてダメよ。苦しませなきゃ」
「よーし、ちょっと待ってろ。キーラに連絡して、拷問の準備してもらうわ」
「俺の怪力で痛ぶってもいいぜ?」
「実験材料。モルモットにすべき」
「皆さん、私もお手伝いしますよ?」
「私もだ。指揮官にあんな戯言を吐いた上に私達の家を奪ったんだ、痛ぶらなくては」
マーリン以外見事に闇モード入ってる状況に、他のKAN-SEN達はオロオロしている。すかさず大和とエンタープライズが葉山が長嶺にどの様な発言をし、どの様な事をしたかを説明すると、全員がそっち側に行った。
因みにこれまでの葉山の悪行を纏めると、大体こんな感じ。
・比企ヶ谷をヒキタニ呼ばわり。
・自分が王様になるために周りを切り捨て利用し、綺麗な部分を持っていく。
・汚い部分は適当な奴にポイ。
・オイゲンに執拗に絡む。
・何度か長嶺を襲ったり邪魔したりする。
・霞桜の隊員、ジャーロを殺し掛ける。
・それを謝罪しないどころか、むしろ長嶺に暴言を吐く。
・長嶺を引き摺り下ろし、江ノ島鎮守府を壊滅させる。
・というか今回の一件、基本コイツのせい。
流石にこれを聞いたら、確実に怒るだろう。自分の夫ないし愛する人を馬鹿にされた挙句、大事な仲間を殺されかけられ、ストーカー的な行為もされ、最終的には自分達の家を滅ぼされる。完璧な報復対象だ。
「大恩ある提督を愚弄するとは、命知らずだな」
「指揮官様を馬鹿にするなんて.......。フフフ、ソウジしなきゃね。そんな愚物は、この世に居てはならないもの」
「指揮官を愚弄した罪、万死に値する行為だ。姉様、今すぐ攻め込みましょう」
「指揮官を馬鹿にするなんて、いい度胸だ。そんなにロイヤルと戦争したいのか.......」
「このイラストリアスでも、とてもそんな闇は照らせませんよ。故にこの世から消すべきです」
「ご主人様を馬鹿にし、オイゲン様をストーキングした挙句、ジャーロ様を害した上、江ノ島を奪うとは.......。どうやら一切の手加減は不要な御仁の様ですね」
「へぇー。ハニーを馬鹿にする人っているんだぁ。死んじゃえばいいのに」
「直ちに殺すべきね。指揮官にそんな事をして、あまつさえ仲間にまで手を出す。殺すべきね」
「まあ、殺すのは当然よね」
「サディア帝国の威光をもってしても、愚か者の考えは分かりませんね。何故そんなにも死にたがるでしょうか?」
「同志を愚弄し害したばかりか、我らが拠点を奪うとは.......。直ちに粛清するべきだろうな」
「オレの仲間に手を出したんだ。死罪しかないだろうよ」
「神の怒りは当然として、今回ばかりは私情も含むでしょうね。それでも神は許してくださるでしょう」
「相方を貶して仲間傷つけて家を奪う。そんなに死にたいなら、望み通りにしてやろうじゃん」
「オモシロイ。コンナニモ黒イノカ!!」
「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて!!提督どうにかしてください!!そして戦艦棲姫は楽しまないで止めて!!そしてマーリンさんも、落ち込んでないで止めるの手伝ってください!!」
ものの見事にドス黒いオーラを撒き散らす会議の参加者達に、唯一マトモなメビウス1がどうにか止めようとするが、長嶺をそれを見て笑っていた。だが流石に止めないと、このまま日本を焦土にしそうなので一応止めに入る。
「はいはいお前達。悪いが葉山には死以上の末路を持って報復するから、心配しなくていいぞ。それに今の話は報復とかじゃなくて、今の俺達の敵は誰だって話だ。一旦落ち着け」
流石長嶺。一言でしっかり落ち着かせ、全員が元に戻った。なんか不穏な言葉が見え隠れした気がするが、それは気にしてはいけない。
「お前らが大変お怒りなのは分かったが、話を進めるぞ。一応の敵としては大枠ではこの2つだ。本当なら今すぐにでも報復に出るべきだろうが、流石に今回はちょっとやり過ぎた。今は日本もピリついてる。ここは大人しくしておきたいんだが、一つだけ問題がある」
「何か問題があるのか?」
「金が、ありません」
エンタープライズの問いにそう答えた長嶺。次の瞬間、全員が大声を上げた。さっきの葉山の時よりも、かなりの阿鼻叫喚である。
「ちょ、ちょっと待ってください!!アレはどうしたんですか!!私が作った無限仮想通貨製造機!!!!」
「そうだよ!グリムの無限仮想通貨製造機があるでしょ親父!!アレで実質、資金無限じゃん!!」
「あー、すまんすまん。言い方が悪かった。金自体はあるんだよ。問題なのは、今すぐに使える外貨が圧倒的に足りないんだ」
「ど、どういう事ですか指揮官様?」
全員頭に?が浮かんでいる。今どういう状態なのかというと、平たく言えば金はあるのに使える金がないという、言うなれば絵に描いた餅のような状態なのだ。
「霞桜には無限仮想通貨製造機という、文字通り仮想通貨を無限に製造し続けるシステムがある。仮想通貨とはいえデータの塊だからな。実質本物の仮想通貨データを製造できるんだが、鎮守府にしろ霞桜にしろ表沙汰にできない裏取引系統はここから出していた。今後もその方針でいくから、何も金庫がカツカツって訳ではない。
問題なのは外貨及び現金だ。この製造機の仮想通貨を現金化するのは、まあまあ面倒な手順を踏む必要がある。お陰で今すぐ現金化はできないし、俺の偽造身分に毎月入る金の方も引き出しがかなり難しい。お陰で外貨及び現金がマジで足りないんだ」
「提督。一つ質問なのだが、この拠点を運営する上での資金は問題ないのか?」
「あぁ。ここの拠点を運営する基礎的な部分は全て、仮想通貨を使って支払っている。必要最低限の衣食住と作戦行動は可能だ。だが物によっては買いにくいのもある」
「では当面の課題は、現金確保ですかねぇ。また私とレリックでどうにかしないといけませんね」
「頑張る.......」
この手の事はグリムとレリックが何とかしてくれる。天才ハッカーと天才メカニックが組めば、大抵のことはどうにかできるというのが現代社会というものだ。
だがここで、原始的かつ江ノ島の連中にとっては最も得意とするデンジャラスでワイルドな方法を思いついた奴がいた。
「指揮官。一つ、妙案があるのだが」
「どんな妙案だ加賀?」
「足りぬのなら、奪えばよいだろう?」
「あら、銀行強盗でもするのかしら?」
「いや赤城。カジノかもしれないぞ」
「姉様もグレイゴーストも違います。奪うべき相手はそう。いつか我らが防衛省を訪れた時に攻め込んできた、URとかいう組織。あそこには金がたんまりあるのではないか?」
この案を聞いた瞬間、長嶺の目の色が変わった。URことUnstoppable Revolutionはアフリカを拠点に世界中に麻薬をばら撒いている組織であり、麻薬の他にも様々な違法ビジネスに手を染めている。麻薬を筆頭に人身売買、賭博、海賊・山賊行為、ダイヤモンドを筆頭とした宝石採掘、石油を筆頭とした各種資源採掘、傭兵業、密輸等々、かなり荒稼ぎしている筈だ。
特に深海棲艦の出現以降、世界の物流は大打撃を受け輸送にかかるコストは莫大な物になっている。先進国でもヒーヒー言っているのに、資金の乏しいアフリカ諸国や独裁、テロ国家は資源をこういう所から買い付ける。その結果、URの資金力はかなりの物で外貨獲得には好条件だろう。しかも相手の装備は正規軍規模とはいえ、戦闘員の練度や戦略はたかだかテロリスト並み。対してこちらは最新鋭兵器以上の兵器群に加え、艦娘とKAN-SENという地上戦では化け物格の存在がいる。彼女達は自身が軍艦なのだ。つまり、軍艦が陸で暴れるということになる。そして霞桜の練度は、全員が精鋭や特殊部隊かそれ以上の練度を誇る化け物集団。余裕で勝てる。
「加賀。お前天才だ。そうだ、そうだとも!俺達は非正規特殊部隊、泣く子がショック死する最狂の海上機動歩兵軍団『霞桜』と、世界最強の精鋭艦隊である江ノ島艦隊だ。そして今やお尋ね者の最強のテロリスト。つまりあくまでも、テロリストとテロリストの抗争だ。
野郎共、今後の方針は決まった。URを攻め滅ぼし、その全てを略奪しろ。金、資源、武器、市場、顧客、全てだ。全てを奪え!!俺達が正しく使ってやろうなんて言うつもりはないが、少なくとも俺達の方が有意義に使える筈だ。さぁ、楽しい楽しい一方的な戦争の時間だ!!!!!」
狂人連中である大隊長達は当然として、清らかだった艦娘とKAN-SEN達も長嶺と霞桜というカオス狂人共に毒された結果、今やものの見事に狂人グループの仲間入りを果たしている。この意見に嬉々として乗ってきた。
「あの、提督。一つ、提案があります」
「なんだ言ってみろ、大和」
「この際、私達の呼び名を変えませんか?これまで私達は江ノ島艦隊でした。しかし今や日本から離反し、単なる武装組織、テロリストです。それに江ノ島艦隊を使い続けるのは何かと、不便も出てきませんか?」
分からなくもない。大和の言う通り、既にこの集団は軍隊ではない。軍隊とは国家に帰属する武装組織。今の江ノ島艦隊、霞桜には、その依代たる国家は存在しない。今までとは正反対の立場になり、環境もガラリと変わったのだ。名前を変えるのもアリかもしれない。
だがこの意見が出ると、さらに色々変えようと言う意見が出てきた。この集団の名前をどうするのか。この集団のアイコンないし、国旗に相当する様な紋章を作りたい。各部隊、各陣営の色を出してみたい。かなりある。
「おうおう、かなり出たな。お前達の気持ちはよく分かった。だが流石にこの話を、いくら代表者とは言え俺達だけで決めるのもアレだ。取り敢えず名前と紋章は、全員に通達した上で公募しよう。各部隊、各陣営の色に関しては、具体的にどの様な色を出すのかをその隊ごとで意見を纏めて貰って報告してくれ。集約したのち、共有するからそれに沿って決めてくれ。そんじゃ、取り敢えず解散!」
正直長嶺としても、こんな事態になって少なからず不安があるのではないかと考えていた。霞桜の連中はあんまり今も前も状況が変わらないが、艦娘とKAN-SENにとっては環境が違いすぎる。心配だったが、今のを見る感じであれば杞憂だったらしい。少なくとも代表者達は、意外にあっけらかんとしている。一安心だ。