お前はもう絶対に本気を出すな   作:最条真

2 / 9
筆が...動くッ!?


2. お前が本気を出したところで、恐らく世界はそんなに変わらない。

俺の怠惰な朝は、幼馴染みに起こされることから始まる。

頬をぺちぺち、と叩かれる感触。アイツは魔力と頭以外に取り柄がなく、たいした筋力があるわけでもなく、はっきり言ってまったく痛くない、が。

 

ベッドからガバッと起きて、奴の手を掴む。よくもまぁ隣の部屋からはるばるとここまでやってきたものだ。本当に。

 

そうして奴の顔を覗き込むと、なにやら驚いているようだった。

 

「おい」

 

「私の予想より起きるのが3秒早い...!?」

 

「やり返される覚悟はできてるな?」

 

「待って欲しい。私女の子だよ?」

 

「だから?」

 

「かわいいでしょ?だからーー」

 

「痛いの一発行くぞー」

 

「ちょっと待って、その拳、魔力を伴ってるから!????」

 

たまには、こいつにやり返す朝も良いだろう。

とりあえず今日は、奴のほっぺをつねることに成功した。

 

「ねえ、アル」

 

「なんだ。アリシア」

 

「ほっぺが痛くて動けない...」

 

「...そのまま一生そこから動くな」

 

「それは私を一生養ってくれるっていうプロポーズ?」

 

「違うわボケが」

 

ベットの上でぐでーっとしているアリシアを尻目に、とりあえず俺は朝ごはんの準備をすることにした。

 

「あ、ご飯とパンならどっちがいい?」

 

「...私朝はパン派閥ー」

 

「知ってた」

 

はいはい、と適当な了承をし、ベットでぐてーっとしている駄目人間に、今日も今日とて朝ごはんを作ることにした。

 

そういえば、とアリシアが声を上げて、

 

「今日、変な夢見たんだ」

 

「へえ、そりゃどんな?」

 

「私とアルが結婚する夢」

 

「馬鹿も休み休み言え」

 

そんな感じのやり取りが、俺たちの朝の一連の流れである、が。

寝室の扉を閉め、奴との空間を隔離。

 

そうして、俺はようやく溜め息を付く。

 

 

「冗談も、休み休み言え...ッ!」

 

 

こちとら年頃の男の子だぞ。

無防備過ぎるのが怖い。理性をどうにか保っている俺にグッジョブと言いたい。

 

「なんで男の部屋になに食わぬ顔で入ってくるんだアイツ...」

 

ぶっちゃけていえば奴はかわいい。絹のような銀色の髪に、吸い込まれるみたいに大きい空色の瞳。極めつけは整った顔。

 

天使かよ。

 

意識してるのが自分だけ、となると途端に悲しくなる。

とりあえず、朝ごはんを作らなくては。集中、集中。

 

今日もアイツの笑顔を見るために。

 

 

 

甘やかしている自覚はあった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

冒険者。

剣と魔法と来て、次に子供が思い浮かべるのは間違いなくそれだ。

ダンジョンに潜って遺物(アーティファクト)を見つける。一人、群れからはぐれたはぐれ竜を狩る。誰も見たことない魔法の真価を最前線で発揮する。蛮族に占拠された『旧大陸』を開拓する。

 

かつて魔王討伐に成功した勇者とやらもその冒険者という括りに入る。

 

であるからして、冒険者は夢に溢れた職業だ。

 

とは俺は思わない。

 

冒険者とは、夢に溢れた職業だ、と民衆は言うが。

冒険者は、夢ではなく現実を直視させられる職業だ。

実際に、死亡率はダントツで一位。ただし、夢さえ見なければ。

剣と魔法の世界で、効率よく生き残るための手段は冒険者だ。

 

冒険者とは夢に溢れた職業ではなく、夢で舗装された職業なのだろうと思う。

 

ダンジョンがわざわざ目立つところにあるのは何故だ。

それはあんぐりと口を開けて獲物を待っているからだ。

そう、養分となる人間たちを待っているからだ。

 

二つ名付き(ネームド)』の魔物がある一定の場所で挑戦者を待ち続けるのは何故だ。

それは蛮勇で愚かな挑戦者を自分の糧にするためだ。

 

冒険者の常識。

冒険者は、冒険をしてはいけない。

 

そんな常識も知らずに、たった八歳のガキが冒険者をするなんて馬鹿げている、と今なら客観視できる。

 

思えば、金のために必死だった。

ガキに働き口なぞない。だから、唯一の光が冒険者だった。

 

冒険者は来るもの拒まず。ただし、自己責任。

それも、冒険者の常識。

 

思えば、思い直すほど、俺がどれだけ愚かだったかが分かる。

アリシアに本気を出すなといったのは自分の癖に、ダンジョンにつれてきたのは何故だ。アリシアの安全を重視するなら連れてくるべきじゃなかっただろ。

 

結局、自分はアリシアの力に頼ろうとしていたのだと。

 

子供心に気づいて、思わず笑った。

 

ボロボロの剣一つ。それで魔物に勝てるわけないだろうが。

考えが回らない。計画性がない。即断即決。全部自分の悪いところだ。

 

また、アリシアに本気を出させようとした。

 

もう二度と本気を出させないって言ったのは誰だよ。俺だ。

 

アリシアを背中に庇って、無我夢中で剣を振った。

流派なんてなにもない。ただ無我夢中で戦っただけ。

 

それなのに。

 

 

ーー俺は気づけば魔物を倒していた。

 

 

俺はどうやら天賦の武の才能があったらしい。

相手の次の動きや、どうやったら勝てるか、とかを瞬時に理解することができる。

 

俺は『武神の加護』を受けたいわゆる神子と言う奴らしく、アリシアの魔力が暴走して俺が生きていたのは加護があったからだった。

 

神の加護を受けている。その事実に俺は浮かれた。

 

その結果、俺は調子に乗りまくり、挙げ句の果てにアリシアを死なせかけた。

その時に助けてくれた冒険者ギルドが、『黒翼』。

 

今でも運命的な出会いだと思う。

 

その結果、俺たちは『黒翼』に所属することになり、色々な事件を乗り越え、Sランクまで上り詰め、いつのまにかこんなところまで来ていた。

 

あのとき、助けてもらった時から、俺はもう慢心しないと心に誓った。

 

この力はアリシアを守るための力だ。

俺はこの力をそうだと信じて疑わない。

 

だから、今日も剣を振るう。

 

目を瞑って、最初に思い浮かべるのは彼女の姿だ。

 

馬鹿みたいな初恋は、今でも続いている。

 

冒険者とは、夢で舗装された職業だ。

しかし、そこに夢がないわけではないのだ。

 

しみじみと、日々を過ごしてそう思う。

 

突然だが、俺たちの所属している『黒翼』。

まがりなりにもSランクギルド。冒険者区分で最強に値するギルドであるからして、国からの依頼を請け負うことがたまにある。

 

まあ、国から公認をもらって好き勝手できることはなかなかに良いことかもしれない。

 

半年ごとに来る、国からの『依頼(無理難題)』。

絶対受けろよ?という意思が文章から伝わってくる。

 

俺はサブマスターを勤めているので、俺たち宛の依頼はギルドマスターの次、二番目に見る権利がある。

 

と、いうわけで。執務室にて。

 

「なぁ、アルちゃん」

 

「どうしたんですギルドマスター」

 

「昔みたいにダリウスのおっちゃんでいいから」

 

「言いませんよ、そんなん」

 

そう、それは若気の至りというやつだ。

所属当時、ギルド一の凄腕と言われて、決闘を挑み腹パン一発でゲロをぶちまかしたのは記憶に新しい。それも、俺の向こう見ずな性格を矯正するのに繋がった。ギルドマスターには感謝している。

 

そんなことより、だ。

 

王国有数の使い手、俺よりも強いギルドマスターが、依頼を見て震えている。

 

「俺、まだ妻も嫁もいないんだけど...マジかぁ」

 

強面で髭がダンディなこのおっさんは現在彼女募集中らしい。

童貞である。それは俺もだが。早く嫁さん探せよとは思う。もう三十路だろ。

 

「で、どうしたんです...か」

 

その依頼を見て、俺は絶句した。

 

「なぁ、俺は冗談だと思うんだが、お前はどう思う?」

 

「俺も冗談だと思いたいですよ。はい、ええ。...えぇ?」

 

依頼には、『ドレイクマーキスの討伐』と書かれている。

ドレイクとは蛮族の支配階級に値する存在で、竜のような翼と羽に人間の知能を兼ね備えた存在だ。

おまけに彼らは実力に応じて名乗る階級を変える。彼らは完璧な実力主義で血統は関係なしに、強さで序列が決まる。ちなみにマーキスは人間で言うところの侯爵。つまり、上から二番目に強いドレイク。

 

そして極めつけにはーー、

 

 

「...『アルベルト・フローレンとアリシア・ヘルティゼルの二名との決闘を求めている模様』。すいぶん他人行儀だな。それをあちらは求めてるってよ。どーする?サブマス」

 

 

それはドレイクの戯れ言だ。

しかし、その言うことを聞かなかった場合。

 

なにが起こるのか。それは、想像に易い。彼らは報復に走るだろう。

ドレイクは武を重んじる存在。相手もルールを守るなら、こちらもルールを守る。逆もまたしかりだ。自分の誇りのために奴らは戦う。誇りを汚すことがなきように、奴らは戦う。

 

腹いせのつもりか?

 

奴らは武神を信仰している。

俺は『武神の加護』を受けてる。

自分の愛している神様がそっぽを向いたから、気にくわないのか。

 

だから、アリシアを巻き込むのか。

 

気にくわない。

 

「ちなみに、受けなかったらどうなると思います?」

 

「めんどくさいことになる」

 

端的に言いきった。だろうな、と思った。

矜持とかは、ぶっちゃけどうでも良い。

 

ただ、彼女を。

 

アリシア・ヘルティゼルに、俺はもう傷ついて欲しくない。

本気を出して欲しくない。傷つくのも、彼女のために頑張るのも俺の仕事だ。

 

「ねえ、先生。これ、期限は?」

 

そこで俺はわざと昔の呼び方にする。少しでも俺のわがままを通すための策だ。

 

「二週間以内に決めろって書いてある。で、その呼び方はおじさん知ってるぞ。わがままを言うときの顔だ」

 

 

そうして、俺は満面の笑みを浮かべて。

 

 

「ーー師匠の『魔剣』、ちょっと貸してもらえます?」

 

 

彼女を傷つけたくない。故に、俺だけが傷つく道を取る。

彼女の悲しむ顔はみたくないし、死ぬのは嫌だ。だから、この二週間で絶対に勝てるようにする。

 

『魔剣』ーー、ダンジョンから取れる『遺物(アーティファクト)』のなかでも最高位に位置する『王の遺産(ロストレガリア)』と呼ばれる幻の存在。同じ剣は一振りもないという唯一の存在にして、剣の頂点に位置する存在。

 

師匠のその『魔剣』があれば、間違いなく勝てる。

 

と、いうわけでお願いをしたのだがーー、

 

「絶対だめですー。いまのアル君には貸せませんー!!」

 

「大のおっさんがその語尾はどうなんですかね」

 

「まだ二十九だから!!」

 

「四捨五入したら?」

 

「三十路だけれども!!」

 

そんなやり取りをしているうちに、頭が覚めてきた。

ギルドマスターは、神妙な顔で問い掛ける。

 

「落ち着いたか?」

 

「はい」

 

「それならいいんだよ」

 

この人は、凄い人だと、改めて実感できる。

感情的で、直情的で、結論馬鹿なのが自分の悪いところだ。分かっている。

今のは、冷静じゃなかった。

 

ようやく、頭が落ち着いてきた。

 

「よぉーし、落ち着いてきたところでサブマス君。君には一ついっておきたいと思う」

 

「はい」

 

「お前が本気を出したところで、お前が思ってるよりお前は無力だ」

 

頭を金槌かなにかで叩かれた気がした。

正論だ。厳しく現実を見せてくる。でもそれは、優しく諭すような声だ。

 

「単体で考えるな。集団で考えろ。冒険の基本は集団戦だ。幸いにもお前は考えるのがうまい。素敵な相棒(パートナー)もいることだし、な?」

 

その言葉と同時に、執務室の扉が開く。

キィと音を立てて、こちらにはいってくるなり、俺の胸に飛び込んできたのはアリシアだ。

 

「...アリシア」

 

「前から一人で思い詰めすぎだと思ってた。私は本気を出せないけど、それでも手を貸せない訳じゃないから」

 

今さら、そんな当然のことに気づいて。

俺はまた慢心していたことに気づいた。

 

自分がアリシアを守るとは、とんだ笑い種だ。

確かに、彼女は本気を出さない。それでも弱いわけがない。

 

むしろ強い。

俺の後ろで、いつもサポートをしてくれるのだ。アリシアは。

 

馬鹿だ。俺は。

ずっとアリシアを対等に扱ってきたつもりなのに、俺はいつのまにかアリシアを守る対象として、下に見ていた。

 

「ごめん」

 

「分かってるなら今日はカレーね」

 

「うん」

 

そんな様子をギルドマスターはにこやかな笑顔で眺めて、

 

「十五歳の少年少女って、こんなに尊いのか...。仕込んだかいがあったぜ」

 

「色々台無しだよ」

 

駄目な大人だ。この人は。

正直、今回の件に関しては感謝してもしれないけど。

俺は毎回、馬鹿みたいに慢心して、それに気づけなくて。

 

正直、この人がいなかったら俺もアリシアも死んでいた。

この人は、一歩引いた位置から辺りを見回して、人間関係を取り持つのがうまい。

 

いい人だ。なのに、なぜ童貞なのだろうか。

 

「失礼なこと考えてるのは分かってるが、ぶっちゃけこれ、限界まで気配殺せば、お前らについていけるのが何人かいるんだよな」

 

「「へ?」」

 

二人揃ってすっとんきょうな声が出た。

 

「つまり、だーー」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

ひでぇ有り様だ。

俺の心情を正直に吐露すると、こうなる。

 

待ち合わせ場所で律儀に待っていたドレイクと、その部下であろう蛮族の集団。

俺とアリシアが正面から来ると見て、ドレイクはこちらに向かって一歩踏み出しーー、

 

ぶっちゃけその瞬間に全てが終わっていた。

 

背後での大爆発。これで部下の蛮族は大体殺った。

それと同時にドレイクの手足が雷の鎖によって束縛され、成す術もなく、ドレイクは俺の剣によって心臓を貫かれ、瞬時に人型から、竜の形に変化し、こちらを憤怒の形相で睨みつけていたが、我らがギルドマスターの『魔剣』によって一刀両断。

 

そして最後にーー、

 

「おい、そこのコボルト。これ持って帰れ」

 

部下の蛮族の生き残り。ゴブリンについで最弱といわれる二足歩行の犬、コボルトにギルドマスターが無理矢理手紙を渡し、帰るように手で促すと、コボルトはものすごい勢いで走り去っていく。

 

いまもギルドメンバーによって生き残りの粛清は続けられており、おそらくこの悲劇の目撃者はあのコボルトだけになるだろう。しかし、魔法によってこの悲劇の記憶は靄が掛かるようになっているので、真実を語るのはその手紙。

 

『正々堂々とした勝負の果てに人間が勝利した』と書いてあるであろう手紙。

 

「正々堂々...かぁ」

 

「私たちもこういうずる賢いところ盗んでいくべきなのかもね」

 

死人に口なしとはよくいったもんだ。

 

そんな俺たちに我らがギルドマスターは笑って、

 

「ほら、お前が本気を出したところで、たいしてなにも変わんないんだよ。頼るべきは仲間。分かったか?」

 

その笑顔がこの悲劇の後に浮かべたものでさえなければ、俺はきっとこれからもずっとこのギルドマスターに心酔していたと思う。

 

「「何か違う...」」

 

「なにも違わない!ほら、帰ったら宴だぜ」

 

今日はチームプレイの大切さを学びました。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダリウス・アッシュグロウ
29歳。独身。童貞。
はじめては初な子が良いらしい。冒険者家業が忙しすぎてそんな暇があんまりない。みんなの頼れるお兄さんポジなSランクギルド、『黒翼』のギルドマスター。アルとアリシアのいびつな関係にはちょっと気づいてる。今んところは良い傾向かなぁ、とは思ってるけど。まだ危ないよ!!
王国最強の剣士。腰に差した『魔剣』を本気で振るったことが未だないので挑戦者に飢えている。そのためアルベルトには目をかけている。サブマスは早すぎたか、と思いつつ、なんとかなるさ精神でなんかうまくいってて自分でもビックリ。

『魔剣』の性能がぶっ壊れ。
独身、童貞、三十路。を考えたときに真っ先に思い付いたキャラ。
ダンディなおじさまってかっこいいよね?

ちなみにやること成すこと大体外道。

明日にも期待してくれていいんだよ...?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。