お前はもう絶対に本気を出すな   作:最条真

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アルベルト君が盛大な勘違いをしている。そんなお話。
このお話を読まなくてもそこまで影響はありません。予備知識。


4.まだ、気づかなくて良い。その才能に

天才、とは何をもって定義付けるのか。

中々に難しい議題ではあるが、俺ことダリウス・アッシュグロウはこう結論付ける。

 

誰も止められないのが天才だ。

 

俺は片田舎に生まれ、天才と呼ばれた紛い物で、ただひたすらに努力と運で成り上がり、冒険者を志して早十五年。それだけ経験を詰んできたから分かる。

 

天才は救えない。

神に愛されていると、呪われていると、分かるのだ。俺の場合それを確信をもって言える相手が一人いる。

 

 

ーーアルベルト・ブロークンは天才だ。

 

 

初めてあれを見たとき。

心の底から感じた恐怖を、今さら説明する相手も必要もないが。

 

魔物に襲われているあいつらを見殺しにした方がいいんじゃないかと、血迷った考えが一瞬頭によぎった。

 

心の底から戦慄した。

子供がダンジョンにいるという状況も子供が相対する相手も。何もかもがおかしかったからだ。

 

こんなダンジョンの下層に出てくるはずのないB級モンスター、ミノタウロス。

B級の魔物のなかでも上位に数えられるそれは、当時の俺たちが全力で戦って勝てるかどうか。そんな相手に、子供が一人で立ち向かっている。

 

年端もいかないガキだ。黒い髪が特徴的な、俺より一回りは小さいだろう体で。どうやら足元に転がっている血塗れの少女を守るために必死で戦っているようだった。

 

なぜそんなに小さい体でその魔物に立ち向かえるのか、不思議でならない。

その少女を置いて逃げるべきだろうが。何故逃げないのか。意味が分からない。

 

何故、他者の為に自分をそんなに傷つけられるのか。

 

その背中に『英雄』の面影を重ねて。

 

なにか考えるより先にその少年に手を貸していた。

 

その魔物はあっけなく倒れて。

 

「頼む。コイツを治してやってくれ!」

 

自分の体も傷だらけの癖に。

自分の体なんか顧みず、少女を治してほしいと。

 

そう懇願する少年の姿がやけに眩しく見えた。

 

 

「いいぜ、治してやる。その代わりーー、うちのギルドに入れ」

 

 

その才能が怖くなったから。その才能に焦がれてしまったから。

自分の手中に収めたいなんて、自分勝手が過ぎるとは思った。

 

自分に仕方ないと言い訳をすることは得意だった。

 

なんだかんだと丸め込み、パーティに入れることを無理矢理承諾させた日には今の規模に比べたら、ささやかながら盛大に宴を開いたものだ。

 

今になっても記憶に新しいのは、その時にあいつと、アルベルトとした約束。

 

「あいつに、本気を出させないでください」

 

「へえ、そりゃなんで」

 

そう疑問を口にするとアルベルトは少し考えてから言った。

 

 

「ーーアイツが本気を出したら、全部壊れちゃうんです」

 

 

アルベルトはそれ以上話そうとしなかったが、俺は特段追求することはなかった。頭の片隅に留めておくだけで、大して気にしていなかった。

 

それから、アイツらが入って少しだけ騒がしくなったパーティで色々な困難を乗り越えた。馬鹿だと今なら笑い合えるような、そんな冒険をたくさんした。アルベルトに剣を教えることもあった。先生と呼ばれるのは照れ臭かった。

叱ることもあった。お前らと一緒に学び合う日々があった。

 

お前らが一緒だったから。リーダーとして頼られたから。俺はその間だけ無敵になれた。

 

強くなった自負があった。誰にも負けない自信があった。

 

いつのまにか冒険者パーティはギルドへと規模を変えていて。

大変なこともあったけどそれより楽しさが勝った。依頼の難易度は上がっていった。それでもアイツらと一緒に困難を乗り越えるのが楽しかった。

 

迂闊だったと、今なら思う。

 

『Sランクダンジョン、深淵の攻略』。

伝説に数えられる“それ“に挑んだことが馬鹿だった。

 

 

ダンジョンの最奥に待ち構えていたのは龍。

静謐な空気が漂うそこに立っていたそれは白い鱗と金色の角。三日月色に輝く眼光で知られ、英雄譚でよく語られるーー、

 

エンシェントドラゴン。それに酷く似ていた。神々しい雰囲気と圧倒的なその質量に視界が明滅する気さえした。

 

馬鹿だった。後から後悔するのは自分がそれだけ未熟だった証だ。

 

必死で戦った。それでも勝てなかった。

だから彼女に、アリシアに本気を出させてしまった。俺の記憶の中で、結局、アリシアが本気を出したのはその一回。

ただその一回だけで十分だった。それだけで十分身に染みた。

 

魔力の奔流が暴れ狂う。全てを灰塵に帰さんと、その魔力の渦は襲いかかる。

紫色の色彩。中空を彩る極彩色がこの空間に亀裂を入れた、その瞬間に。

それは”起きた”。

 

いつの間にか、その禍々しい剣が顕現する。

黒い黒いアルベルトの手に握られた一本の剣。

 

全てが一つの剣の元に切り伏せられる。

魔力の渦は霧散し、龍はそれに言葉にならない悲鳴を上げる。

 

そこにたっていたのはアルベルト。しかし、なにかが決定的に違っていた。

そのナニかはなんとも形容しがたいもので。それでも感じる明らかな違和感。

 

圧倒的、なんて言葉じゃ足りない。

そう、アレはーー、

 

 

ーー『絶対的』だ。

 

 

気がついたら全てが終わっていた。

 

俺以外の皆は気を失っていて、その事について誰も覚えていないようだった。

 

後からその事をアルベルトに聞けば、そんなこと覚えてないという。そもそも自分はそんなことしてないと。

 

俺がやった?馬鹿を言うな。

 

()()()()

 

何故覚えていない。お前の才能を俺に擦り付けるな。

 

全部、お前だよ。

何故お前は俺に憧憬の眼差しを向けてくるんだ。

 

お前の主観では俺がずっと最強なのかもな。

でも逆だ。お前は勘違いしている。

 

俺なんかより前にお前がいることを。

 

結局、ダンジョンの奥に眠っていた魔剣は俺のものになった。

 

この魔剣はアルベルトのものなのに。

 

アルベルトは天才だ。天からその才能を与えられた被害者だ。

アルベルトのその力は、才能としか言葉にできないなにかだ。

 

お前のその才能は『呪い』なのかもな。

お前は忘れているのに、周りからは褒め称えられるなんて、そんな気味が悪い現象が起こりかねない。それは『呪い』だよ、アルベルト。

むしろ覚えているのが俺だけでよかった。

 

何故お前がその力のことを忘れているのか。正直それはどうでもいい。

お前の中にどんな力が秘めていようが、どんな秘密があろうが。正直そんなことはどうでもいいんだ。

 

それでもお前は俺の弟子だから。

 

お前のその『呪い』もひっくるめてお前の力だって言うなら。

それより俺がお前より強くなってやる。いつまでもお前が越えられない最強の壁になって見せる。

 

弟子は師匠を越えられない。そんな新しいルールを作ってやる。

お前のその力は怖くない。お前が理解されない化け物なら俺がその力を理解するまで強くなる。

 

お前がその力に気づいて、正しい使い方ができなくなったときには、俺がそれをぶん殴るくらいには強くなるから。

 

俺はお前の師匠であり続けるよ。

俺があの時見たお前の背中はまだ遠いけど、絶対に追い付いて、この魔剣も全部返しにいってやる。

 

だから、まだお前は絶対に本気を出すな。

情けない話だけど、まだ俺はお前を止められそうにないから。その力でお前が過ったことをしたときに、後悔する姿なんてみたくないから。

 

 

俺は二度と後悔なんてしない。

 

 

天才は救えないんじゃない。救わないのだ。

完璧で完結している存在だと周囲が思ってしまうからだれも手を差し伸べない。

 

俺は違うぞ、アルベルト。

だから精々安心して待ってろ。

 

それが十五歳のガキの仕事だ。

 

どれだけ天才だろうが、才能があろうが、何か訳の分からない『呪い』があったとしても。

 

人生経験が俺の半分にも満たないガキが俺に勝てる道理はない。

 

努力してきた大人は強いぜ?アルベルト。

 

しかも俺はまだまだ努力し続ける。

お前が寝てる間もな!!

 

ああ?俺も一緒に剣を振る?馬鹿言うな。ガキはもう寝る時間だ。

 

夢?ああ、これは夢だよ。

 

ほら、分かったらとっとと目瞑れ。

 

こんなむさいおっさんの夢なんか見てもいいことねぇーぞ。

 

俺は寝なくていいのかって?安心しろ。

 

 

 

 

 

 

「夜更かしってのは、大人の特権だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ある日、アルベルトが見た夢。

弟子の曇る顔が見たくない漢、ダリウスさん。
圧倒的な力を押さえつけるための力に飢えている。守らなければいけないと思っている。唯一その力を知っている。

ちなみに次話あたりからはシリアス先生は死ぬ。
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