毎日投稿ギリギリだー♪
眠すぎる。
冒険者がパーティからギルドへと規模を変えるとき。
もっとも重要となるのは人数でも、腕っぷしでも周りからの評判でもなく、拠点だ。
当然、冒険者たるもの強さも、腕っぷしも、周りからの評判は必要ではあるが、それは冒険者に求められるものであって、ギルドに求められる要素ではない。パーティに所属するメンバーが安心して寝られる場所と、美味しいご飯を食べられる場所と、所属するメンバーが寝る場所。『ギルドホーム』。それがギルドには求められる。
拠点を持った上で、冒険者としてCランク以上の実力を持ち、国からの認可を受けた上でギルドは成り立つ。
ギルドが樹立するまでの過程はめんどくさいものではあるが、自分達の拠点で好きなように自由に活動を行うというのは存外に良いものである。
一緒に過ごすことで知れる側面もあるし、日々の時間を共有することで深まる絆がある。
冒険者に焦がれる少年少女が憧れるのはそういうギルドの生活でもある。
伝説に語られる英雄も日常的な営みをもって成長していくものだ。
まあ俺もアリシアも『ギルドホーム』に住んでいるわけではない変わり種ではあるのだが、休日だろうと依頼が特にない日でも俺たちはそこに入り浸っている。単純に居心地がいいのもそうだし、ご飯がただで出てくるのもそうだし、自分を高める場所だからというのもある。
家はただただゆっくりする場所だが、ここは違う。
その剣速に、目を見張る。
剣を振られたと思った瞬間、その頃には大抵がもう遅い。
咄嗟の判断で、迫り来る剣と自分の間に魔力による障壁を生じさせる。
が、それすらも無駄と嘲笑うかのように障壁は破壊され、喉元に剣が突き立てられる。
「これでまたお前の負けだぜ、アルベルト」
「流石ですね。また負けました」
ここは、俺にとって強くなるための場所だ。
自分の力に自惚れないように。自分の実力不足で後悔する日がないように。
このギルドには化け物がたくさんいる。目の前に立つ男ーー、ダリウス・アッシュグロウも例に漏れずその一人である。
が、化け物の中でも彼は抜きん出ている。
王国最強の剣士と謳われるだけある。その称号は、今彼を表すのに最も相応しい。圧倒的だ。彼と対峙するした者はそう語る。
間違いなく人類の頂点。その男は俺の剣の師匠でもある。
きっかけは単純で、俺が彼に剣を教えてほしいといったからだ。その時から彼は俺の師匠で、未だに越えられぬ存在として、依然俺の前に壁として立ちふさがっている。
こうして無駄に広い庭で行う模擬戦は今となっては恒例行事となりつつあるが、俺は未だにただの一回ですら師匠に勝てたことはない。負けることが死ぬほど嫌いで、弟子である俺にすら一切の容赦はない。そういう人なのだ。
「大人なんだからちょっとは手加減したらー?木刀でも痛いもんは痛いんだからー」
「アルは、そういうの気にしない。むしろ強くなるためなら大体なんでもするバーサーカーみたいなものだから」
「流石アリシアはアルベルトの良いところ分かってるねー」
「いいところ、なのかな?かっこいいとは思うけど」
そんな特段珍しくもない模擬戦の観戦者は二人。
現在、師匠が熱烈に猛アプローチを仕掛けている紫色のくせっ毛が特徴的な女性、アザミさんと、銀色の長い髪が特徴的な俺の幼馴染み、アリシアだ。
彼女たちは観戦の常連だ。俺が師匠に一矢報いるのを期待しているらしい。いつかその時が来れば良いとは思っているが、その背中はあまりに遠い。
「アリシア、ちょっと治してくれ」
「ん。分かった」
やはり木刀でも痛いもんは痛い。師匠の筋力で振るわれるもんだからその威力は洒落になってない。少しだけ師匠の攻撃に対応できるようになってきたからか、師匠の攻撃がさらに激しくなった気がする。相変わらずそこの見えない人だが、師匠に本気を出させることはできるのだろうか。
「ん、しょ」
覇気のない声と共に彼女の掌から緑色の光粒が溢れだし、俺の体をゆっくりと包み込む。染み込むようにその光粒は俺の体に浸透し、そしてたちまち傷は癒えた。
「よし。これでまた戦える」
「...まだ戦うの?」
「どうせ暇だからな...何その目」
「ジト目」
じぃーっとこちらを見るアリシア。
何故か分からんが罪悪感で心が抉れそうになる。
「分かった。次で終わりにする」
「次もやるんだ?」
「ああ」
「...パフェ奢りね」
「了解した」
そうして俺が師匠と向き合うと、師匠は既に木刀を構えていた。
「お前がこんなに骨がある奴に育って師匠としては鼻が高い思いでいっぱいだぜ、まったく」
「はい。ギルドマスターの指導のおかげですよ」
「昔みたいにもっと先生とか師匠とかダリウスのおっちゃんとかフレンドリーに呼んでも良いのよ?」
「気が向いたらそうします」
「まったく、可愛げのない奴だ。アリシアちゃんを待たせるのも悪いし、ー瞬で終わらせるぞ?」
やれるもんならやってみろ、そう俺は好戦的に笑みを浮かべ、師匠とまた同様に木刀を構えて見せた。そう簡単に勝てる相手ではないが、そう易々と負ける相手でもない。
その剣に焦がれて、その剣をどれだけ見続けてきたと思ってる?
剣に焦がれるのは男の宿命と言うべきか。
しかし、彼の剣に俺は届くことができるのか。
やる前から結果は分かってる?
馬鹿を言うな。その当然を凌駕するから冒険者なんだろうが。
ーー今日も戦いの火蓋は、切られた
◆◆◆
『ギルドホーム』の壁にもたれ掛かってアリシアは二人の男の戦いを見る。隣にはアザミも一緒だ。
その戦いを見て思うのは、やっぱりアルベルトは馬鹿だと言うこと。
漠然と、これ以上強くなる必要も理由もないと思っている。アルベルトとアリシアより強い存在なんてこの世にそう存在しない。
Sランクギルドの最高峰『黒翼』の最高戦力に数えられるからこそ言える客観的な事実だ。冒険者として普通に生きていく上で、これ以上強くなる必要はないと。背伸びをしなければ良いのだ。
単純に、自分より強い存在がいるのは人間として、常識的にどう覆しようもない理だろう。だが、それを。アルベルトは覆そうとしている。
アルベルトは最強に成ろうとしている。
最強を目指そうなんて、馬鹿か英雄か、それとも両方か。
アルベルトは両方だ。アルベルトは馬鹿で、英雄だ。
少なくともアリシアが描く英雄像にはアルベルトはぴったりだ。
無駄に諦めが悪くて、困っている人がいれば放っておけなくて、優しくて。かと思えば普通の少年のよう振る舞うこともあって。
アルベルトは馬鹿でお人好しだ。
そもそも自分のような人間を積極的に世話をする時点で当人の気質などとうに知れているが。
「ほんっと、馬鹿」
彼が最強を目指すのは自分の暴走を止めるためだ。
自らの力に宿った、圧倒的な魔力。その魔力を一気に操ろうとすると、私が本気を出すと、その魔力は暴れだす。
制御できない力は、自分の力ですらない。
正直アリシアとしては今すぐにでもスローライフを送りたい。田舎でのんびりとアルベルトと暮らすだけで、それでいい。
でもそれじゃあ駄目だ。
アルベルトはそんなこと望んでない。
幼い頃に語った彼が語った夢。
アリシアは覚えているが、アルベルトは覚えているのだろうか?
綺麗に星が見える丘で、彼が高らかと、腕を上げて語った夢を。
『おれは、英雄になる!』
『英雄?』
思わず聞き返したのを覚えている。
『うん!そして、隣にいるのがお前だ』
そういって、彼が笑ったのも覚えている。
五歳の頃だったか。きっかけは、たぶんそれだ。
その頃から、私の初恋は始まっている。
馬鹿みたいな初恋は、今でも続いている。
彼がそうなりたいと望むなら、私もそれに応えるだけだ。
これ以上強くなる必要はないだろう。普通に生きていく上で。単純に、背伸びをしなければ良いだけなのだ。
自分より強い存在がいるのも当然で、どうしようもないことなのに。
多くの人は、彼を馬鹿だと笑うのだろう。
彼は馬鹿だと思う。だけど私は笑わない。
その男たちの、くだらない戦いを見て思うのだ。
彼は馬鹿だが、それ以上にかっこいい、と。
やはり自然に、アルベルトに目にいく。
それは隣のアザミも同じようだ。彼女の視点も自然に、ダリウスを見ている。
「ねえ、アザミ」
「ん、どった?」
「私、強くなりたいかもしれない」
アルベルトの隣に相応しい存在でありたい。
意外そうにアザミは目を丸めて、笑って見せた。
「アタシも同じこと考えてたとこだった」
「それは何で?」
「察しろー?」
分かってるよ、と笑みだけで返す。
アザミがダリウスを好きなのは、今のところ私しか知らない乙女の秘密だ。
「男って鈍いよね。好意も視線も、まったく気づかない」
「それなー?」
「でも、ちょっとかっこいい」
「...うん」
「もうちょっと強くなろうかな」
「アタシも魔法なら分かることは教えるよー?」
「じゃあ、お返しに無詠唱のコツくらいは教える」
「助かる」
こうして今日も乙女の密約は交わされる。
(ちなみにアルベルトが何事もなく負けた)
男ってかっこいい生き物だよね。