お前はもう絶対に本気を出すな   作:最条真

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眠かったからふて寝してた。
土日に書きためを作りたいだけの人生だった。


6.貴方にありったけ。でも貴方は知らんぷり。

知ってる天井だ。

 

しかし目を覚ますなり違和感を感じたのは、それが普段では、いや、自分の家で見る光景ではなかったから。

『ギルドハウス』の床。その上で俺は毛布をかけられている。いやそれよりも特筆すべき点がひとつ。

 

むさいおっさんが、俺の隣で寝ている。いや、正確にいうならうちのギルドマスターであり俺の師匠でもあり、普段なら尊敬できるダリウスさん、その人が寝息を盛大に立てながら俺を抱き枕代わりにしている。

 

一瞬マジで状況が理解できなかったが、だんだんと思い出してきた。

 

昨日俺は師匠と模擬戦を行い、いつものように惨敗し、いつのまにか書類仕事を手伝わされ、どういう流れか宴が始まる運びになっていた。そして酒の入ったダリウスさんにダルい絡まれ方をされ、気づいたら翌日。

 

朝になっていた。

 

チュンチュン、と小鳥が鳴く。

おっさんとの朝チュンはごめん被りたい。

 

どうにかして俺に抱きつく手を離そうとするが、このおっさんとんでもなく力が強い。

というか俺の腰がミシミシいってないか。痛い。いや冗談抜きで痛い。

このままだと冗談抜きで俺の腰が砕ける。ーー死ぬ?

 

本気で俺が命の危険を感じている中、キィと音を立てて扉が開かれる。

そちらを見ると、アリシアがいた。アリシアが訝しげな目でジーッとこちらを見つめていた。

 

「アリシア、ちょうど良いところに!助けてくれ。早くこのおっさんを引き剥がしてくれ。さもないと俺の腰が砕ける」

 

「...ゆうべはお楽しみでしたね?」

 

「違う。断じて違うぞアリシア。これは不可抗力だ。というか本気で腰がギシギシいってーー」

 

「つよくいきて」

 

「見捨てないでくれアリシア。アリシア?いかないでくれアリシアー!?」

 

「...なにやってんのアンタたち」

 

遠目からこちらを見つめる救世主(アザミさん)が現れた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

テラステア大陸、イグニス王国ーー首都イグニス。

赤道を南におき、北東へ大きく広がる大陸、その中央に大きくそびえ立つ王国。

神話の時代においては、炎の大精霊、イグニスを使役して見せたという大国。その精霊を神話の人々はなんと驚くべきことに懐柔し、現状唯一、精霊を妃に迎えた国。別名、精霊国とそう呼ばれる。

 

精霊が住まう国。そのせいで魔力の純度が最も高く、魔物の変異種や遺跡(ダンジョン)が発生しやすい環境なため、英雄譚に当てられた冒険者が特に多い。冒険者が一番多い国。冒険者達の最前線。それがこの国でもある。

 

その冒険者の最前線。冒険者の憧れとも言えるSランクギルド。

『黒翼』、そのギルドマスターが朝からなんという体たらくなのだろう。

 

「まさか酒の飲みすぎでギルドマスターが二日酔いとは...」

 

「体質的に酒無理なのに酒好きなのなんなんだろうね」

 

「ほんとなんなんだろうな」

 

なんでもかんでも宴に繋げたがるうちのギルドマスター、ダリウス・アッシュグロウ。

その人は現在二日酔いで完全にダウンしきっていた。

 

お陰で俺たちはそのダリウスさんの二日酔いに効く薬をお使いのついでに買う羽目になったのだ。今さらではあるがうちのギルドマスターの扱いが酷い。二日酔いの件はお使いのついでだ。まぁ自業自得である辺りがうちのギルドマスターである。

 

というかギルドマスターがいなくてもうちのギルドは回るのが凄いところである。『黒翼』には腕利きが多いため、普通にソロで稼いでくる連中がいるのもそうだが、アザミさんが相性や実力を見極めてギルド内で臨時でパーティを組ませるなんて言うのもありふれた光景で、うちはとにかく実働隊が多い。

 

とにかく手当たり次第に高難易度の依頼をこなしていく。

そのせいでお金のことで困ったことはないそうだ。

 

「というか俺たちが手持ち無沙汰なのはどうしてなんだ」

 

「後進の育成の為だよ。私たちばっかり強くても意味がないから。私たちはのんびりと平穏な日常を謳歌してればいいわけ」

 

「暇なのも困りもんだな」

 

「私はこの時間が好きだよ。アルとのんびりと過ごす時間が、一番好きかも」

 

「そうか」

 

「それに、平和なのはいいことだよ。だからあの人は酒を飲んでいるわけだし、私たちも悠長にお使いなんてできるわけだしね」

 

割とあの人は平常運転な気がするが。明日世界が滅ぶとしても酒を飲んでそうなイメージだ。お酒弱いのに。

 

ともかく、俺はアリシアと二人で街に繰り出しているわけだ。

アリシアと二人で。これは実質デートではないのか。お使いという名目はあるが。

 

「というかその格好...」

 

「どう?」

 

白を基調としたワンピースと頭にちょこんと被った麦わら帽子。その白い肌と小柄さも相まって、花畑に棲む妖精のごとき可憐さを感じさせる。何よりも印象的なのはその髪。いつも髪には人一倍気を遣っている、と自負している彼女だが。それがいつもより艶めい宝石みたいに輝いていた。

 

「俺がダリウスさんに抱き枕にされてる間に何をしたんだ」

 

「女の子にそういうの聞くのは野暮。それより、どう?」

 

「どうって...」

 

「かわいいでしょ?」

 

頭一個低い位置からこちらを上目使いで見上げる彼女。

いや可愛すぎか。

 

「...その」

 

「ほら早く」

 

完全に思考が停止してしまっていた。

普段なら、するりと口を滑るようにでる褒め言葉が、これっぽっちも口にできない。というか心臓がバクバクいいすぎてヤバイ。彼女が眩しすぎて直視できない。この込み上げる感情を、どう言葉にすればいいのか。

 

「...可愛いよ」

 

本当に溢れてくる言葉はそれくらいのものであって。

彼女のその美貌に分相応なものであることには違いないが。

 

ただ、それを相手がどう受け取るかは、また別の問題だ。

 

 

「...ありがと」

 

 

そう呟いて俯く彼女の耳は、ほんのり赤い気がした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

私、今可愛いっていわれた?

いや、少なくともそう誘導したのは自分だし、これを好機といわんばかりにすこし気合いをいれたのは事実だけど。

 

ーー可愛いっていわれた。

 

その事実を何度も心のなかで反芻する。

アルはなんというか、卑怯な男で。

 

自分の本音を上手に隠すのが得意だから。素直に、そう言われるとは思わなかった。

 

アルは、実はモテる。本人は気づいてないし鈍感だし馬鹿だから気づいてないけど、本当にモテる。十五歳という若さもさながら、圧倒的な剣の実力。ここらへんでは珍しい黒髪の希少価値も相まって白馬の王子様ならぬ、黒馬の王子様だ。

 

彼に救われた、という冒険者も後を絶たず、ひっそりと、いや大々的にファンクラブがあるくらいなのに、当人はその事実を知らない。

 

というか、公然の場でモテたいとか呟くくらいには馬鹿だ。

ムカついたから割りと真面目に本気でグーで腹を殴った。

 

私一人でいいでしょ、別に。

 

私が貴方の隣にいるから。

私が貴方の側にいたいから。

 

私のわがままだけど、貴方には私だけを見ていて欲しい。

 

そう思うのはきっと傲慢だ。自覚している。

でも、好きだから。私だけを見ていて欲しいというのはきっとおかしな話ではない。

 

アルの服の裾をぎゅっと掴む。

手を握る勇気はまだないから、だから今はこれだけ。

 

「アリシア?」

 

「いいでしょ。どうせ、空いてるんだから」

 

そう、空いているのだ。

だから今は。今日はこの場所は、私のものだ。

 

絶対に譲りたくない。

ずっと隣にいたい。

 

私とあの時、約束してくれた貴方がいるから、私は今ここにいる。

 

あの時私に手を差し伸べてくれた。あの時指切りをした。

私だけの黒馬の王子様。

 

...かっこいい。

 

「それにしても...」

 

「どうしたの?」

 

「髪、綺麗だな」

 

「...触ってみる?」

 

「なんというか畏れ多い気がする」

 

「なにそれ」

 

変な話だ。誰のためにこんなに手入れしていると思っているんだろう。

きっとこの気持ちは億分の一も理解されていないのだろう。

 

そういえば、とアルが声をあげる。

 

「なんでそんなに髪長いんだ?」

 

「長い方が好きでしょ?」

 

「...そりゃそうだけど、邪魔じゃないのか?」

 

「確かにしゃがんだときに髪で掃除してたなんてこととか目にかかって邪魔な時があるけど」

 

「切ればよくないか?」

 

「アルがこの髪を綺麗っていってくれたから」

 

「へ?」

 

「だから、切らない」

 

本当に長くなりすぎたら切るけど。とりあえず今は腰くらいの長さでいい。アルに褒められたこの髪も、親譲りであろうこの銀髪も。顔も覚えてないくらい薄情だけど、それでも大事にしていきたい。

 

「...ねぇ」

 

「...何だ」

 

「撫でてもいいよ?」

 

「じゃあ、ちょっとだけ」

 

遠慮しがちに手を出して、不器用に撫でる。

大きい手で、頭を撫でられる感覚。悪くはない。

というか、私は好きだ。

 

好きな人に撫でられているからだ。

心の底から、この人が好きなんだと、自覚してーー、

 

ちらりと嫌な雰囲気を感じて後ろを見れば、うちのギルドの馬鹿どもの姿が見えた。

 

「ねぇアル」

 

「ああ、分かってる」

 

「走る?」

 

「走る!!」

 

そういいながらアルは私の手を掴む。

 

全力で走り出して、気づく。

 

私、いまアルと手を繋いでる!?

 

アルは気づいてない。というか走るので必死だ。

私だけ意識してるのが馬鹿みたいだ。

 

どうやったら意識してくれるのか。

後ろから思いっきり抱きつくくらいすれば少しは意識してくれるかな。

 

そんなことを考えてる自分を、馬鹿だと一蹴して。

 

やっぱり好きだ。

 

そんな馬鹿なことを考えてる時点でそれは、彼への想いの証明で。

馬鹿みたいな煩悩は自分の中で膨れ上がるばっかだ。

 

綺麗とか、可愛いとか。そういう言葉も嬉しいけど。

 

 

ーーやっぱり、好きって言葉に憧れる。

 

 

好きって言って欲しい。そう思う私はやっぱり傲慢だろうか。

逃避行を続けている中、そう思った。

 

 

 

 




アル「(アリシアに)モテたい」
アリシア「死ね(腹パン)」


おつかい(デート)
ダリウスさんは犠牲となったのだ。


砂糖空間を作るために悩んでいたらいつのまにかこんな時間になっていた。
毎日投稿はできるかぎり頑張っていきたい所存なので見捨てないでください。
明日も頑張ります。

というかハーメルンの機能全然知らんのだけど。
文の始めに空欄空けるやつとか太い文字にするやつとかどうやるの?(無知)
有識者教えて
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