お前はもう絶対に本気を出すな   作:缶古鳥

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誤字報告ありがたすぎる。自分でかいてて気づかないからほんと感謝。
感想もテンションが上がるし、お気に入りが1000届きそうでビックリだし、ランキング上位にいて嬉しいしもうテンション爆上がりです。

なお投稿頻度。

毎日投稿してるひとやべーよ。


8.強すぎる俺達に見合う依頼とかころころ転がってないよね。うん。

時折、夢を見る。

 

夢を見るときは、きまってこれだ。

魔力が暴走したときの夢。

紫色の色彩が、瞳に焼き付いて離れない。

 

その紫色の奔流が全てを切り刻んだこと。

これから続く筈だった平穏が崩れたこと。

自分がその惨状を引き起こした当人だったこと。

 

言い訳ならいくらでもできる。

自分はまだ幼かったし、魔法を扱うにはまだまだ未熟だったし、なにより自分の体はその精神に分不相応な膨大な魔力に恵まれていた。

 

自分は恵まれた。()()()()()()()()

力の扱い方もろくに学んでいないくせに、その力をもって産まれてしまった。

 

どうしようもなく、ふと思う。

 

自分は産まれてきてはいけない存在だったのではないか、と。

あの日の光景は、もう思い出したくもない。だが、頭では理解している。

 

私は魔物と一緒に人間も殺している。

 

子供のときの記憶は靄がかかったみたいに曖昧で、魔力が暴走したあの一瞬しか思い出せないのに、それでもなんとなく分かるのだ。

 

偶発的な出来事だった。そう自分に言い聞かせればその通り。

だけど、過去は消えない。

 

一生自分を戒める傷として残り続ける。

 

もう誰を傷つけたくないから、魔力を制御する術を学んだ。

もう誰にも死んで欲しくないから、傷を癒す魔法を学んだ。

もう誰も殺したくないから、世界を楽に生きる術を学んだ。

 

そうだ。私はあの時なんかよりも成長して、もう魔力なんて暴走させないくらいには強くなって。

それなのに、本気を出そうとすると手が震える。あの光景が脳裏によぎる。

 

アルが死にそうになったときですら私は本気を出せない。

彼の隣に相応しい存在でありたい。それなのに私はーー。

 

その”好き”が深まるたびに自分の嫌なところが浮き彫りになってうんざりする。

 

肝心なときになって、私はきっと後悔する。

それが嫌だから。だから私は本気で、自分の力に向き合いたい。

 

本気を出すな。

 

確かに、そう言われた。

 

だけど、アル。

 

私は、後悔したくないよ。

 

これ以上強くならなくていい。ただ私は守るための力が欲しい。

守られるだけの女なんて性に合わない。

 

 

ーー私は貴方の後ろより、隣が似合う女でいたい。

 

 

夢を見るとき再確認するのは自分の決意。

自分の力に本気で向き合う。いつから私はこんなに前向きになったんだろう。

 

絶対にアルのせいだ。瞼の裏にいつも思い浮かべているのは、自分が好きな男の姿。

すこし笑みが漏れて、私は必ずそこで夢から覚める。

 

 

「ふ、ぁ」

 

 

すこし間抜けに声をあげて、ゆっくり背伸びをしようと腕を挙げようとしたところで違和感に気づく。

 

「手、握ってくれたんだ」

 

あの夢を見るとき。何となく予兆のようなものがある。

そのとき私はきまってこっそりとアルのベットに忍び込む。アルが隣にいると、私が安心するからだ。

アルが朝が遅いせいで、というか私の朝が早すぎるせいで意外と忍び込んでいることはバレない。アルがとことん鈍いのも間違いなく要因の一つだが。

 

そんなことより、右手にアルの手が握られている。

自分から握ったのか、それともアルが握ったのか。

 

「あったかい......」

 

自分より大きい手。マメだらけで傷だらけなその手。それは剣を振り続けた証だ。それは立派に男の手をしていた。

その肌の温もりは毛布なんかよりもあったかくて、すごく落ち着く。なんでこんなに好きでたまらないんだろう。

 

自分でも自分の感情を説明できない。

 

恋は理屈ではないと、アザミが度々口にするのはこういうことなんだろう。

 

好きだ。ひたすらそう思う。

瞼を開けて、最初に見るのはアルの横顔がいい。

 

アルも私と同じことを想ってくれていればいいな、なんて。

 

「ねえ」

 

頬をツンツンとつつく。アルは起きない。

毎度毎度、そんなに気持ち良さそうに寝息を立てちゃって。

 

私が横で寝ているのに気づいて、慌てるとか、そういうイベントはあっていいと思うのに。

 

「......このにぶちん」

 

全くもって、想い続ける側の立場も分かってもらいたい。

鈍いにも程があるでしょ。この馬鹿。でも、そういうところも全部ひっくるめて。

 

 

好き、なんだけど。

 

 

さてと、私のお腹がすく前にアルを起こさないと。

朝ごはんを作るのはアルの役目だ。そのごはんに舌鼓を打つのは私の役目だ。

 

我ながら役割分担がすばらしい。

よし、そうと決まったらいつもどおり起こすか。

 

「起きて」

 

頬をぺちぺち、と。

私の怠惰な朝は、アルを起こすことでようやく始まる。

 

そして腕を掴まれ、やり返されるまでがお決まりだ。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

使い方によっては時にはなんだって凶器になり得る。

食材を切るのに便利な包丁だって使い方を間違えたら立派な凶器だし、フライパンで人の頭をおもいっきりぶん殴れば人を殺せるし、当然魔法も例外ではない。

 

俺が思うに、利便性が人から危機感を奪っているのだ。

 

まあ、つまり。便利で楽だからといって安全だと思ってはいけないという教え。我がギルドマスター曰く、女に色々任せていると大変なことになる。度重なる実体験から得た教訓だそうな。教え自体は正しいが、自業自得である。

 

前方で風の魔法が炸裂する。

風の刃で魔物は切り刻まれ、魔物はあっという間に倒れる。

 

「ーー”フレイムジャベリン”」

 

その魔物に続く影も空中に顕現した炎の槍によって貫かれ、動かなくなる。

 

無詠唱と口頭詠唱の合わせ技、デュアルキャスト。その難度の高い技を軽々とこなして見せるアリシアには驚きだ。

現在、俺達はBランクダンジョンを攻略中なのだがーー、

 

「なあ、アル」

 

「どうしたんですか、ギルドマスター」

 

「アリシアちゃん、気合い入りすぎじゃない?気のせい?」

 

「気のせいじゃないですね」

 

問題は、アリシアが強すぎて、ギルドマスターと俺が仕事がないと言う点である。

 

お気に入りのローブに身を包み、高純度の魔昌石を嵌め込んだ杖を持ち出したアリシアはもう最強だ。強すぎる。

 

「大丈夫。本気は、全然出してない」

 

「それはそれで怖いわ」

 

どやっ、と自慢げに胸を張るアリシア。

可愛いから憎めない。

 

「にしても気合い入りすぎじゃねぇかアリシアちゃん」

 

「ふふ、これが終わったら当分休み。テンション上がる」

 

「ああ、そうだったな」

 

Sランクギルドに所属していて、尚且つ依頼達成回数が基準値を上回っている俺達は、難度が低すぎる依頼は受けられない。後進の育成のためだ。強くなった俺達はもうBランク以上の、いわば中級者以上の依頼しか受けられない。

 

しかしそういったちょうどいい難易度の依頼がそう都合よくゴロゴロ落ちているわけでもなく。

 

大体の依頼はもう消化しきってしまった。

というわけで俺達は暇をもて余す。つまりちょっと冒険者をお休みする期間の完成である。

 

「そういえば今日ギルドの人数少なくありませんでした?」

 

「ああー。依頼がもう王国内なくなるからってちょっと実家に帰るやつとか、他の国で依頼受けてくるやつとか、あとは、ああ『強襲(レイド)』組だな」

 

ちなみにこの機会に先んじて我が親友であるシルクはこの機会に婚約者とイチャラブしてくるそうだ。糞が。リア充が憎い。

 

「というか、なんでギルドマスターが最前線に駆り出されてるんですかね」

 

「暇なんだから仕方ないじゃねえか。アザミがいる以上王国から離れるわけにもいかないし。暇潰しだ」

 

「暇だからってBランクダンジョンいく馬鹿がどこにいるんですか。下手打ったら傷負いますよ」

 

「そういうことにならないように万一の備えはしてるっつーの」

 

腰に指した魔剣をポンポンと叩きながら、それにほら、とギルドマスターは前を指を指した。

 

本来なら脅威である筈の魔物が魔法によって次々と倒されていく。

 

「ふふ、よゆー」

 

「アリシア、魔力の使いすぎで疲れたりしてないのか?もしそうなら殲滅担当代わるが」

 

「二人に剣を抜かせるまでもないかな。私の魔法だけで十分対応しきれる。それに、今日はちょっと調子がいい」

 

「なんで調子がいいんだ?」

 

「ふふ、朝......なんでもない」

 

「なんだ?朝になにがあったんだ!?」

 

照れ隠しをするようにして顔を覆うアリシア。朝になにがあったがすごい気になる、が。女の子の事情とかあるのかもしれないので踏み込みすぎてはいけない。

 

「ここ、上から三番目の等級のダンジョンの筈なんだがなぁ」

 

「アリシアが強すぎて霞んで見えますね」

 

「まぁ、暇潰しにはちょうどいいが」

 

俺の顔を見てニヤニヤと笑うギルドマスター。

 

「どうしました?」

 

「いや、なんでもないが」

 

「そういうのが一番気になるんですけど」

 

「お前らが俺の暇潰しにはちょうどいいって話だよ」

 

ギルドマスターは心底楽しそうに笑みを浮かべる。

と、いっても俺は訳が分からないといった風に返すだけだが。

 

「ねえ、アル」

 

「ん、どした?」

 

「休み、どうする?」

 

「普通に休日を満喫するつもりだが。あ、買い物とか行くか?」

 

「新しい服買いたい。可愛いやつ」

 

「お前は何着ても大体似合うだろ」

 

「......そういうところ、気を付けた方がいいと思う。私以外には、特に」

 

アリシアは顔を赤くしてそっぽを向いた。

なんだそりゃ。

 

「お前が可愛いのは当然の事実だろ」

 

「......馬鹿」

 

「おーい、お前らー?一応ボス前だぞー?」

 

気づけば、ダンジョンの最深部まで到着していた。

目の前には重々しい雰囲気を放つ重厚な扉。

 

「とっとと、終わらせる」

 

そして、アリシアは扉の前まで来て、魔法で扉をこじ開けーー、

 

その奥で鎮座していた蛇(ボス)をあっという間に風の刃で切り刻んだ。

 

「これで、終わり」

 

「......終わり?」

 

「うん。あとはダンジョンコアを破壊したら本当に終わり」

 

「ここ一応Bランクダンジョンだよな?」

 

「ああ、アルベルト。思っているより現実は非情だ」

 

「私たち、強くなりすぎた?」

 

強くなりすぎた代償は、達成感の喪失だ。

確かにこれが終わったら休日が待っているのだが。

 

「もうちょっと、やりごたえのある依頼とかやりたかった......」

 

「休日明けに期待してろ。多分やベー依頼ごろごろしてるから。ほら、帰るぞー」

 

俺達の休日前最後の仕事は、あっけなく幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




砂糖を吐け。介錯してやる。そういう思いで書いてる。

アル君は行動には敏感だが、言動には鈍感。
にぶちん。

蛇(バジリスクドラゴン)瞬殺。
次回から休日です。




アリシア・ヘルティゼル

膨大な魔力をもって産まれた才能の申し子。
しかし、その膨大な魔力ゆえか、幼少期、魔物から村を守るために放った魔法が暴走。結果村が破壊された。彼女にはアルベルトしか残っていない。若干、というか結構依存ぎみ。
村を破壊したトラウマのせいで脳に防衛本能的な何かが働き、幼い頃のことはアルベルトのこと以外まったくと言っていいほど覚えていない。両親の顔すら、覚えていない。
アルベルトのことがめっちゃ好き。

魔法使いとしての実力は、王国最高峰。
本気を出したら真面目に国がヤバイが、制御できないので封印中。

ちなみにお気に入りのローブと杖はアルベルトからの贈り物。めっちゃ大事にしてる。




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