正直すまんかった。
ソシャゲは時間が溶けるって初めて知った。
週3投稿のペースで頑張るぞい。
俺たちに休日が訪れた。
依頼は大体消化しきった。この時期なので急に舞い込む大依頼、というのも無い。
つまり冒険者の空白期間。暇をもて余す時期である。
休日の過ごし方は人それぞれだ。
読書を楽しんだり、友人と楽しい一時を過ごしたり、恋人とイチャイチャするやつだって当然いる。
そして俺のように何をすればいいのかよくわからず頭が空っぽになる奴だっている。
冒険者。命知らずで向こう見ずなバカ共だからこそ休日なんてものは稀である。
うちのギルドマスターは暇だったらすぐ依頼受けるし。血の気が多い奴らがいっぱいいるわでうちのギルドは普段暴れまくってるのだ。付き合わされる俺の身にもなってほしいところである。
本当に血の気の多い一部のバカは今ごろ『旧大陸』で蛮族相手にヒャッハーしている頃だろうが。依頼があろうとなかろうとバカには関係ないのだ。ご冥福をお祈りしたい。
ともあれ、休日である。
一部のバカを除き平穏を享受する時間。
その中でも。師匠にしごかれる休日というのは中々に珍しいものではないだろうか。
「ふっふっふ、アルベルトよ。これが力の差だ」
「結構今の惜しかったと思うんですけど」
「一応言っておくが俺はまだろくに魔力を使ってない」
「......」
「更に言えば俺は全然本気を出していない」
「......」
「アルベルトよ。―――これが力の差だ」
「もう一回」
「体力お化けめ。俺少し休憩ー」
太陽が燦然と輝く、いつもの『ギルドホーム』の庭にて。
俺はいつも通り師匠にしごかれていた。剣を杖にして立つのがやっとの俺に対して、師匠はまったく息を切らさず、どこか飄々とした様子で木刀をくるくると回している。
本当に底が見えない。
率直に言えば強すぎる。
隔絶した実力差があるわけではない。実力差は少しづつ埋まっていく感触がある。
それでも俺が師匠に勝てるビジョンがまったく思い浮かばない。
どこまでも最適化されたその剣に、心を見透かすようなその目に、底が見えないその力に。
俺は一切、勝てる気がしない。
俺も強くなっている筈なのに。
その背中がまったく見えないのだ。
「ほい、アザミ特製ポーション」
投げやりに渡されたポーション瓶をキャッチし、そのまま勢いで飲み干す。
これで体力は戻った。もう一回やれる。そう思い立ち上がったところで師匠に手で制止された。
「おいアルベルト。お前はここで油を売ってる場合か?」
「と、言うと?」
「俺は今すごい真面目な話をしようとしているんだが」
「アンタが前もってそういうときは大抵ろくでもない案件です」
「なんでお前はアリシアちゃんとイチャイチャしてないんだ!?」
「なにいってんすかギルドマスター」
本当に何を言っているんだこの人。
強さは認めるがそういうところは正直軽蔑する。人の気持ちも知らないで。そんなことができたらとうの昔にしている。
接し方と、話す話題も思い付かないから
急に何を話せばいいか分からなくなるあれだ。月一のペースで訪れるそれが急にやってきた。
だから今日は剣で煩悩を払いに来たのに。
「さて、休日なのにわざわざ俺にボコされにきたアルベルト君に一つ聞きたいことがあるんだが」
「なんですかギルドマスター」
「二人きりの時は師匠かダリウスのおっちゃん以外の呼び方は許さないと会議で決まったばかりだが」
「......師匠」
「よろしい」
なんなんだろうこの人。呼び方に拘る二十九歳のおっさんは初めてだ。
ちなみにそのよくわからない会議は休日前のダンジョン帰りの時に突発的に開かれ二対一で可決された。世界の理不尽さを少し知った気がした。
「俺の貴重な時間を消費してこの訓練と言う時間が成り立っているわけだが」
「どうせ休日は師匠剣振ってるだけなんだからいいでしょうが」
「お前にアザミとほぼ二人きりの時間が邪魔されたことが気に食わないんだ」
この空白期間、実家に帰ったり恋人とイチャイチャしたりという奴らが大半である。
『ギルドホーム』に住んでいる奴らも普段ならいるがそいつらも出払っている。アザミさんと師匠は特にそういうのがない人たちなので結果、二人きりの状況が出来るわけだ。
「二人きりで何か変わったことありますか?」
「聞いて驚け。今日の朝ごはんはアザミ特製のカレーだった」
「師匠のも一緒に作った方が楽なんでしょうね」
「昨日今日と続いて一緒にご飯を食べた」
「一緒に食べないと師匠がうるさいだけでは?」
「なんでお前はこうことごとく俺の希望を打ち砕くんだ」
「事実ですから」
アザミさんは世話焼きな人なので師匠のようなアホでも優しくする。
俺個人としては師匠の恋は応援したいところだが、アザミさんには気があるのだろうか。
その恋が実ればいいと、影から応援している。
「そういうお前はどうなんだ。進捗は」
「なんもありませんよ」
「マジでなんもないの?」
「マジで何もありません」
「ほらハプニングとか」
「そういうことは俺が特に気を付けているので」
「このボケが」
唐突に頭を殴られた。理不尽である。
「痛いんですが」
「大丈夫だ。お前の耐久力を信頼しての威力だ」
「理不尽だ」
「世界は理不尽だ。慣れろ」
世界は本気で理不尽である。
慣れろといってもこの理不尽に慣れたくない。
「マジで進展無いならあれだ。口実作ってデートと洒落込め」
「俺にはハードルが高過ぎです」
「いいか。女って言うのは単純だ。夜景が見えるレストランで愛を囁けば勝ちも同然だ。それだけで落ちる」
「そんなに単純なもんでもないですよね?」
「いけるいける。俺も試したこと無いけど多分行ける」
「実体験が伴ってないから尚更不安!!」
こういうのって実体験が伴っているから説得力があるのであって、万年童貞のおっさんが言ったところで説得力も糞もないのだ。
というか童貞のおっさんに何を言われても心に響かない。この年で童貞なのだ。うちの師匠は。
「まずそういうのは自分で試してから言いましょうよ」
「試す度胸が俺にあると思うか?」
「ええ、知ってましたとも」
このおっさんはビビリなのである。そのデカイ図体に似合わず。
拒絶されるのも、関係性が関わるのも怖い。そういう面では俺と似ているかもしれない。
「空白期間で何らかの進捗をだな」
「頑張ってください」
「お前もな」
「まだ、難しいですよ」
「難しい。それは分かるが、平穏がいつまでも続く訳でもないわけだ。俺たちが平穏を享受できているうちに色恋沙汰なんかは片付けておくべきなんだよ」
そりゃそうだ。平穏がいつまでも続くわけでもなし。色恋沙汰は冒険中に足を引っ張る要因な訳で。そういうのはこの期間のうちに終わらせてしまえばいいと言うのは頷ける。
だが、このギルドに入ってこれは何度めの空白期間なのだろう。数えたことがあるわけではないが。
進展はまったく無い。だから、今回もなんの進展もないと思っている。
「なあ。このまえのドレイクマーキス覚えてるか」
「はい?そりゃ覚えてるに決まって―――」
「そのドレイクは、お前とアリシアちゃんを求めていた。てかぶっちゃけアリシアちゃんはおまけかもな」
だからなんだ。そうはやる気持ちを押さえつけてその先の言葉を待った。
「お前はとてつもなく希少な神の加護を受けた神子。アリシアちゃんはもう伝説に匹敵するレベルの魔力の持ち主だ。どっちもすげぇ希少。だがお前は歴史的に見て類を見ないレベル。そこまで分かれ」
神妙な顔で師匠は言った。
「優秀な奴らがちょっと出張でいないタイミングのあの依頼。ドレイクは決闘だって言ってるのに部下も連れてた。あのレベルの蛮族だ。奇襲と俺の『魔剣』で上手く行ったが、お前一人で行ってたら―――
冗談、と笑い飛ばせる剣幕でもない。
端からみたら楽勝に見えたかもしれない。だが、実際あのドレイクが放っていた魔力は本物で、師匠たちの力がなかったら危なかったかもしれない。
少しだけ熱に浮かれて一瞬でも一人で行こうと思い上がっていた自分が今では恥ずかしい。
「なんかきな臭い。殺せるだろうとは思ってないだろうが、なんつーか。引っ掛かる。何者かの意図を感じないでもない」
こういうときの師匠の勘は残念なことに大抵当たる。冒険者としての経験則というやつなのだが、本当に当たる。
「国も第二王女さま以外は親しみ深くねぇし。王族の護衛したときなんかもうピリピリしてるんだよ。雰囲気」
「で、なにが言いたいんです」
「自分の希少性については理解してるな?」
「ギルドに入ったときにみっちり教え込まれました」
神の加護、というのは希少なものだ。
俺たちが普段祈ることで気まぐれに『奇跡』を起こす神が一定の個人に興味を持ったということなのだから。
種族は関係なしに神のお気に入りに与えられる恩寵。それが加護だ。
歴史上確認されているのは俺を含めて十二人。
俺は、とんでもなく希少だということになる。
「その希少性がある以上お前は怪しい集団やらなんやらに狙われる危険性を孕んでるわけだ。どこに逃げても虫のように湧いてくるからな。変な奴は」
変な奴はどこにいても湧いてくる。これが真理だ。
どうしようもない脅威に、どうにかして対抗する力を手に入れた。
それでも、安心する暇なんてない。
「一年前の丁度この日。何があったか覚えてるな?」
「はい」
目に焼き付いた光景が未だに忘れられない。
時折とんでもなく強い奴が現れて、俺たちの平穏を奪おうとするから。
だから俺は、強くならないと。
「―――また思い詰めてんな?」
頭をぶっ叩かれた。さっきより強く。
痛い。めっちゃ痛い。俺より頭一個分は上。そこを見上げると不敵な笑みを浮かべた師匠がいた。
「いいか。俺が言いたいのはこれだけだ。迷わず頼れ」
頭を固い掌で撫でられる感触。師匠が俺の頭を撫でていた。ごつごつした掌だ。
まめだらけで傷だらけの、強い掌だ。
「やばいと思ったらすぐに俺を頼れ。どんなときでもまず俺の顔を思い浮かべろ。そして頼れ。絶対に俺がお前を助けてやる」
「 ―――ッ」
「絶対に助ける。だから迷うな」
このとき、俺が思わず泣きそうになったのは、俺の心に生まれたさざ波は、なんなんだろうか。
今はその背中の大きさに感謝すればいいのか。その度量の大きさにただ感謝するだけでいいのか。
「本当に、師匠には敵いませんね」
「当然だろ。俺はお前の師匠で、お前は俺の弟子だ」
「その背中が遠すぎる。遠すぎるんですよ」
「お前は誰より俺を近くで見てるから、俺の背中が大きく見えるだけだ。俺は意外と大したこと無い人間なんだよ」
そんなことない。
なんなんだろう。本当に、この人は。
強くて、遠い。どうしようもなくその背中は遠い。
「師匠は、すごい人です」
かけてほしい言葉をくれる。その掌を差し伸べてくれる。
それだけで十分だ。そうだ、思い出した。俺がこのギルドに入ろうと、そう思ったのは。
「馬鹿め」そう一言いって師匠は笑った。
「―――俺の剣は仲間を守るためにあるんだよ」
その強い笑顔に、憧れたからだった。
憧れは理解からもっとも遠い感情だと、そういうが。
その背中に手を伸ばすのは傲慢だろうか。その遠い背中に、手を伸ばすのは。
強くなりたい。師匠の横に立ちたい。だから俺は今日も学ぶ。
「師匠」
「なんだ?」
「もう一回」
「はぁー。これで最後な。中でアリシアちゃんとアザミが昼食の準備してる頃だろうし」
木刀を構える。師匠も構えて、それで戦いは始まる。
燦然と輝く太陽が、俺たちのことを明るく照らしていた。
ダリウスさんまじダリウスさん。
突然顔を出すシリアスさん。しっかりラブコメするから安心してもろて。
休日とかいいつつ『ギルドホーム』に入り浸ってる。結局一番居心地いいから仕方ない。
アルベルトのその加護のせいで結構頻繁に狙われる。
というかダリウスさんがイケメン過ぎるのとギルメンが離してくれないのでアルベルト達は亡命しようとか考えません。思考の幅が狭いのは仕方ない。
ちなみにダリウスさんとアザミは同郷。
一緒に冒険しようと旅立った。ちなみに村は蛮族に燃やされたので帰る場所は『ギルドホーム』しかない。
誤字報告本当に助かってます。
感想もよろしくです。本当に頻度上がるかもです。
感謝してるので評価ください。