近界の帰還者   作:黒い角持ち

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数日ぶりの再会

 ボーダーは民間組織だ。

 トリガーという軍事力を一変させる技術の流出を抑えるためだ。そのため警察、自衛隊などの国の力を雇えない。

 そして、トリオン体が成長する期間の者達を集めている都合上、未成年が多い。

 

(まあそれにしたって大人はなにやってんだよって話だけどね)

 

 ネットで簡単に出てくるアンチボーダーのまとめサイトを見る限り、子供を戦わせるなんてと騒ぐだけ騒いで自分は戦おうとしない奴等ばかり。しかもボーダー組織のみならず、その子供達も結局非難しているのだからなんと中身のないことか。

 

「と、そんな風にネット見て思ったけど、この街だとアンチボーダー少ないんだね」

「うーん。私、そういうの考えた事ありませんでした」

「三門の外から見ればここは戦時中で、他人事だからじゃないの? 三門の住人からすれば戦ってくれるボーダーってありがたかったし。入った理由はヒーローになりたいからって訳じゃないけど」

「私はちょっとだけだけど、透君……従姉弟が先に入っていて治療のために誘われたから」

 

 現在叶は美少女達を侍らせていた。那須隊の面々だ。

 儚げな美少女、那須玲。背の高い美少女熊谷友子。そして天真爛漫な美少女日浦茜。

 何故彼女達と町中を歩いているのか、それは少し前の事。

 

 

 

 

「…………やあ茜ちゃん、久し振り」

 

 扉を開けた先に笑顔で立っていた茜に挨拶する。そして、背後の二人にも目を向ける。

 

「君達も久し振りだね。あの時はごめんね、戦場に取り残されるなんて初めての経験だったろうし、怖かったろう? 特に、そっちの君は健康に難があったみたいだし………」

「いえ、私達の方こそ故郷に帰ってこれた貴方にいきなり攻撃してしまい申し訳ありませんでした」

「……ごめんなさい」

「…………………」

「あ、えっと。あたし、熊谷友子って言います」

「那須玲です。よろしくおねがいします」

 

 随分と礼儀の正しい子達だ。というか完全に信用出来ない自分に、太刀川達精鋭はともかく彼女達を接触させていいのだろうか?

 

(一応監視はしてるみたいだけど………)

 

 トリガーを使用していないか常に把握していると言う腕輪。しかし、生身でも人など括り殺せる改造人間相手には心許ない監視だ。それに異変に気付いたとしても、対応される前に目の前の3人はやっぱり括り殺せる。

 

「僕が怖くないの?」

「大丈夫です! 迅さんが言ってましたから!」

「誰?」

「ちょっと茜!」

 

 熊谷の言葉に慌てて口を抑える茜を見て、ふむ、と考える。

 迅と言う何者かからの助言は口に出さないほうが良かったらしい。何故か? 貴方は安全ですと言われました、なんて言われたら心変わりする可能性があるからだろう。そして、それがなければ茜達に何もしないと確信するには………方法の一つ、茜達とあった瞬間心を読む。これは無いだろう。近くにはいないし、大丈夫と言われてきたと言っていた。なら………

 

「未来予知か」

「っ!!」

「知り合いにも居てね………全く、どこの世界でも厄介なものだ。予知者というのは………未来を知るからこそ、より良い未来だなんだと選択者気取り………まあ、良い。予知者が肯定した以上君達と僕の交友は少なくともボーダーにとって損にはならず、むしろ得になるかもしれない。それは僕としても望むところ………」

 

 ボーダーに資金が増えればトリガー後進世界の玄界(ミデン)でもまともな設備が造れる。

 

(いや、緊急脱出(ベイルアウト)機能は結構すごかったな。トリガーの容量食うけど………もっと詳しく解析すれば………『蒼の霧(ミステス)』の簡易解析機は監視中の今使えないし)

 

「? 神崎さん?」

「と、失礼。少し考え事を……」

「あー……あの、もしかして忙しかったですか?」

「まさか。見目麗しい淑女3人の誘いより優先することなど、ありはしないよ」

「ほえ?」

「は?」

「まあ」

「………………今の無し」

 

 国民に英雄として崇められ、貴族の子息やお姫様(のうないおはなばたけども)に尊敬され、形だけでも取り繕わされた英雄時代のキザったらしい対応をしてしまった。

 

「くま先輩くま先輩! 私達見目麗しいって言われましたよ!」

「そうね……あの、でも何で目をそらしてるんですか?」

「きっと、思わず言ってしまったのよ」

 

 困惑しながら少し頬を染める茜と熊谷とは異なり、那須は落ち着いた様子で笑う。

 

「向こうじゃ貴族の子供の機嫌損ねただけで命の危険………は、あの頃は早々手出しできない位置だったけど、まあ酷い目にあったからね。思ってなくてもつい女性相手には言ってしまうんだ。気を悪くしたなら謝るよ」

「あら、冗談だってんですか?」

「…………ま、君達が見目麗しいのは本当だよ」

「ですって、二人共」

 

 男慣れ、という訳ではないだろう。この世界娯楽に溢れているし、体の弱い彼女は文字媒体か映像媒体にしろ、その手の台詞が出るやり取りを二人より多く知っているのかもしれない。

 

「それで? 君達は僕にどんな用事かな? 前回の負い目もあるしね、何でも言ってよ」

「遊園地行きましょう! 遊園地!」

「………遊園地?」

「はい。遊園地って言うのはですね……」

「ああ、それは知ってるよ。良く家族と行ったし。まあ、乗れる物も少なくて、あの子と一緒に身長制限のない乗り物や、屋台巡りをした思い出しかないけど」

「え!? 覚えてるんですか!?」

「それが僕の元から持つ副作用(サイドエフェクト)だからね……」

 

 だから今でも、両親の死を、師の最後を覚えている。師の施した訓練のおかげで、それが脳裏に過らないで済んでいるが。

 

「で、どうして遊園地に?」

「えっと……最初は神崎さんと話したかったんです。その、記憶をどうするかって言われて」

「僕としては、忘れた方が良いと思うけどね。これから先、戦うかもしれない『人型』を、『人間』として見る事になるよ」

 

 人を初めて殺すのは、とても気持ち悪かった。ましてや殺した相手がお互いを支え合った攫われた者同士。その後も、殺せるようにはなった。笑顔を貼り付けることも出来るようにも………でも、心は何時だって。

 

「詳しくは言わないけど、最悪なんだよ、あれ。だから、まだ近界民(ネイバー)を『動物型』と『人型』って区別できてた頃に戻した方がいい」

「神崎さんも、私達を忘れたいんですか?」

「僕は副作用(サイドエフェクト)で記憶の改変や削除、受け付けないから忘れられないかな」

 

 完全記憶能力者自体は、探せばいるだろう。その全員がトリオン能力が優れている訳でもあるまい。

 叶のそれは、膨大なトリオンが脳に影響を及ぼしたもの。その部分を()()()()()いじられていない。少なくともトリガー技術を使った記憶の消去や付与は叶には効かなかった。

 

「自分だけ覚えてるって、悲しくならないんですか?」

「どうだろう。しゅうちゃんは年齢が年齢だから仕方ないと思うし、おじさんとおばさんは覚えてくれていたし……」

 

 忘れない事が当たり前の自分にとって、覚えていてくれて嬉しいと実感するほど強い関係のものに忘れられたことはない。だから、良く解らない。

 

「私も、きっとそれは悲しい事だと思うわ」

 

 と那須が言う。

 

「そう………なら、僕からは何も言わないよ」

「………あ、えっと……えっとですね。でもその……やっぱりそう言うのは相手をよく知ったほうがいいのかなぁと思いまして。それで遊園地のダブルペアチケットの有効期限が近いのに気づいて」

「ダブルペア?」

「本来の目的としてはダブルデートにどうぞってやつだと思います」

「あの目隠れの子………小夜ちゃんは? そう言えば、あの子にも謝りたいんだけど」

「小夜子は、男の人がいる所に出られないので」

「……………なるほど」

 

 あの時の気絶は近界民(ネイバー)への恐怖だけではなかったのか。

 

「それでですね。やっぱり、相手をよく知るためには一緒に遊んだりしたほうが良いと思うんです。どうですか?」

「そこまで言われて、女性の誘いを無下にするほど落ちぶれちゃいないよ。どうぞよろしく、お嬢さん方」




英雄になったのは『教授』の死後だけど教養自体は『教授』に生前学ばされた。何なら遺品に自分の死後の勉強内容を記した本がある。

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