近界の帰還者   作:黒い角持ち

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帰還

 瓦礫となった家、無人となった家。人の営みがかつてあったと分かるその光景は、しかし人がいないとなんとも物悲しさを感じさせる。

 人が居ないのは仕方ない。ここは警戒区域。2年ほど前、異世界の(ゲート)が開き『近界民(ネイバー)』と呼称される事となる侵略者の大群が現れた。

 それに対抗する者達がいる。界境防衛機関『ボーダー』。近界民(ネイバー)に対抗するだけでなく、(ゲート)を誘導する技術も有し、その誘導範囲が警戒区域。一般人は勿論ボーダーの持つトリガーと呼ばれる武器が無ければ武装した人間でも危険なその場所に、一人の青年がいた。

 

「まあ、こんだけ派手に壊されてここだけ無事なわけ無いか」

 

 半壊した建物。屋根が崩れた二階の部屋の子供用ベットで横になり空を眺める顔は、何処か達観していた。

 

「しかしあれはなんだろうね? 僕が知らなかっただけで、この世界にもトリガー技術が? なんの為に」

 

 崩れた壁から見える箱型の巨大基地を見て呟く青年。青年が知る限り、この世界にトリガー技術は存在しないはずだ。何故なら()()()()()()()。人間誰しもが持つトリオンではあるが、この世界はそんなものなくても存在し続ける。それが無いと生きていけないからこそ近界(ネイバーフッド)はトリガー技術が発達したのだから。

 

「ああ、でもそもそもこの世界から巣立ったって可能性もあるのか」

 

 前提としてトリガーが無ければ存在不可能な世界だ。その世界の中心たるトリガーも国によって可動方法に差はあれどまあ基本的には『神』を必要とする。で、あるなら世界より人が先のはず。

 まあ世界の外に世界があった以上、トリガーを必要としない世界も別にあるかもだが。

 

「あれはどっちかね? 異世界からの侵略者に支配された象徴か、こっちの連中が偶然手にしたトリガーを研究した成果か………できれば後者であってほしいな」

 

 街を見ればわかるだろう。原住民の顔に陰りがなければ前者。ああ、でも原住民そっくりな顔の作りの異世界人とそっくりそのまま入れ替わってる可能性もあるのか。昔の知り合いでも居たら良いんだけど。

 などと考えながら、不意に目を細め二階から飛び降りる。

 

(ゲート)発生! (ゲート)発生! 座標誘導完了! 付近の隊員は直ちに向かってください!』

 

 ズウンと大きな音を立てて家を踏み潰す巨大なオオサンショウウオのようなトリオン兵。放送を聞く限り、直にこの世界のトリガー使いがやってきて倒すだろう。見つかるリスクは回避すべきだ。だが………

 

「そこは、僕の家だぞクソトカゲ」

 

 青い剣が現れ、振り抜く。明らかに長さの見合わぬ一振り。だというのに、トリオン兵………バムスターは文字通り真っ二つに切れ、地面に横たわった。

 

「ま、家族写真だけ持ち出せたのは良しとするか。生きてるのかね……死んでても、僕にはあんまり違いないけどさ」

 

 懐に写真立てを入れ、走り出そうとした瞬間

 

「お早いおつきで」

 

 遠方より飛来したトリオンの弾丸を剣で斬り伏せる。飛び退きながら振り返った場所には二人の青年と呼ぶには若い男が居た。

 

「まあ君達が近くに居るのは解ってたけどね。それはそれとして、このクソトカゲは僕の手で壊しておきたかったからね」

「人型近界民(ネイバー)と接敵。これより戦闘を開始する」

「話を聞かない奴だ。君、友達少ないだろ…………ん?」

 

 と、不意に青年は目を細める。目の前の短髪の少年とカチューシャの少年2人。トリオン体だが、短髪の方に見覚えがある様な。

 12年も経てば人の顔などだいぶ変わる。さて、どれだったか照合するか。

 

「と……」

 

 放たれたトリオン弾を青いシールドを展開し防ぐ。拳銃型のトリガーだ。性能自体は良くある。と、発砲と同時に迫っていた短髪の少年が刀型のトリガーを振るう。

 後ろに跳んでかわすと槍が迫る。首を狙った槍を僅かに逸して回避しようとするが槍の先端が形を変え片鎌槍のように変形したのでバク転し、槍の少年の顎を蹴ろうとして、接近するトリオン弾に気付き足元にシールドを生み出し蹴りつけ射線から移動し、読んでいたであろう追撃の狙撃を身を捻り交わす。

 

「おう、マジか。一発も当たらんかった」

「いい連携だ。個人個人は僕より弱いが、連携次第では傷を負うかもね」

「傷だけかよ、なめてくれる」

「会話など無駄だ。口より手を動かせ」

 

 短髪の少年は随分とこちらが嫌いらしい。距離を取れば弾丸を、近づけば刀。槍の少年には近接戦以外の武器がなさそうだ。

 

「なるほど、物質として固定してトリオン消費を抑えているのか。トリオンの少ない奴の工夫だね」

「!?」

 

 腕を切り捨て槍を奪う。一瞬の出来事に目を見開く槍の少年を無視して槍を観察する青年。

 

「形を変えるのは……これは、機能を追加したのか。本質的にはそっちの刀型と同じかな?」

 

 銃弾を防ぎ、振るわれた刀を槍で弾く。と、再び拳銃を向けて来る。

 

(弾速が遅い?)

 

 青いシールドを展開するがすり抜け、二重に張った二枚目に当たると六角錐が現れる。

 

「シールドで防いだだと!?」

 

 驚愕する槍の少年。短髪の少年も目を見開く中、再び迫った狙撃を剣で弾く。

 

「狙撃手……片方は優秀だね。もう片方は、予想外の事態に弱い。そこを鍛えたほうがいいよ。その優秀の方も相手の射程もわからず近づき過ぎるのは悪手だけど」

 

 2本の鏃が生み出される。狙いは目の前の二人ではない。

 

「っ! 奈良坂! 古寺!」

「遅い」

 

 トリオン体故に空気の壁に当たることなく音速を超えた速度で飛び出す鏃。光が一つ、空に登りボーダー基地へと向かった。

 

「負けても生き残れるのか。あれ、結構トリオン無駄にしてるなあ………もう片方は対応出来たか。悪手は取り消そう」

 

 感心していると短髪の少年が再び拳銃からトリオン弾を放つ。また速度が違う。通常弾と異なり、速度と威力以外にトリオンを割いてるのだろう。

 

「せめて通常弾の速度をあえて遅くしなよ。騙すにはもってこいだよ」

 

 空中で機動を変えた弾丸を全て正確に小型の盾で防ぐ青年。

 

「君達の強みは連携にある。片腕を失った槍使いと、一人だけの狙撃手じゃ、ただでさえ実力で劣るのにもう勝ち目はないかな。落ち着いて、話をしようじゃないか」

「話だと………近界民(ネイバー)が何を抜かす! お前達は人類の敵だ! 必ず殺す!」

「正義に酔う………いや、復讐者か。面倒くさ………ん、あれ?」

 

 と、青年はそこでようやく思い出す。泣き虫だったあの頃しか知らなかったが、大きくなって。しかも今は戦士だ。

 

「思い出した……と言うか、漸く記憶と一致した。君は……そっか。もうお姉ちゃんに守ってもらわなくて良いのかい?」

「───!!」

「おや……」

 

 その表情の変化を見て、青年はどうやら短髪の少年の地雷を踏み抜いてしまったらしい事を察した。




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