近界の帰還者 作:黒い角持ち
「カナちゃん、カナちゃん。私、大きくなったらカナちゃんをお嫁さんにしてあげる」
「なんで僕がお嫁さん?」
忘れもしない、姉の最期の瞬間。
自身をかばい、胸に穴を開けられた姉の姿を何度も夢に見る。故に必ず
「漸く見つけたぞ! 2年前、俺から姉さんを奪った貴様等をずっと、ずっと殺すと決めていた!」
「………2年前? いや僕が言ってるのは──聞いてないし」
迫りくる少年……三輪秀次に呆れたようにため息を吐く青年、神崎叶。
戦っている相手が秀次だと思うとどうにもやる気が削がれる。とはいえ、トリオン体を破壊しても死なないし
「あ、ならとりあえず殺すか……と」
弾速が先程より速い狙撃が来た。威力が弱く、シールドで簡単に防げる。続いて2発目。爆音が響く。
「なるほど、速度重視、威力重視、スタンダードタイプ……切替可能な数までは分からないけど、
などと考えながら、叶は無数の青い鋲を生み出し放つ。それ等は四方八方から幾何学模様を浮かべて飛んできた無数のトリオン弾を全て破壊し一つの方向に同じく幾何学模様を描きながら飛んでいく。
「くっ!!」
それを防いだのは高身長な少女だ。その後ろには儚げな美少女。
「くまちゃん!」
「大丈夫よ、玲………まさか全弾対応されるなんて」
「おお新規精鋭の那須隊じゃん」
「那須隊現着。これより三輪隊の援護を」
「邪魔をするな!」
と、玲と呼ばれた少女の言葉を無視して秀次が突っ込で来る。玲は驚きながらも援護する為に縦横無尽に動く弾を放つ。
(弾道設定はリアルタイムか。俺と同じだ………とはいえまだ微妙にあらが目立つな)
そのあらを埋めるようにクマチャンが剣を振るう。秀次が先攻しすぎているがそれを上手くサポートしている。
「死ね!
剣を振り下ろし、止められたら至近距離で拳銃を放つ秀次。腹を蹴り吹き飛ばし追撃を放とうとするが再び複数の弾丸。撃ち落とそうとした瞬間、2方向からの狙撃。弾丸の速度からして威力重視、この鋲では迎撃不可能。
円柱型のシールドを展開。同時に、爆発。
(炸裂弾……? これまでの性能を見るに複数の性能入れられないかと思っていたが)
起動変化に加えて爆発。土煙が視界を多い、継続して響く弾丸の激突音。
「っ!」
複数の弾丸が一箇所に集中してあたり、シールドに亀裂が走る。修復前に槍の穂先が亀裂に突き刺さり罅を広げ、秀次が銃口を押し付け弾丸を放つ。
シールドが砕けるのとほぼ同時に解除し上に飛ぶと足場を生み出し後ろに跳ねる。狙撃が通過した。
「逃がすものか! 姉さんを殺した貴様の国、洗いざらい吐いてもらう!」
「…………そうか」
死んだのか、あの女。まあ別れて12年。戦争に投入されて9年。殺し合い自体はやはり12年。今更、知人の死を知りだからなんだと言う話だが。
「それはそれとして、僕はこれ以上戦うつもりは無いんだよね」
目の前のトリガー使いは異世界から来て植民地にした侵略者ではなく、この世界の住人。それが確認できた今敵対する気はない。ないだけで、向こうがあるなら受けて立つが。
本部にいるであろう上と話せたらいいのだが今の秀次にわざとやられても上司に話を通すことなく私刑しそうだし、かと言って全滅させても基地の防衛機能を上げて次のトリガー使いを送ってくるだろう。
「なら取る手は一つ」
「え……」
「くまちゃん!?」
一瞬で背後に移動しクマチャンの胸に青い杭を突き刺す叶。間違いなくトリオン供給器官を狙った一撃。敗北を想像するには十分。せめてもの反撃にと刀を振るうが回避される。
「………?
明らかに戦線離脱の一撃。だが、トリオン体は無事。困惑するクマチャンと玲。秀次と槍使いの少年は気にせず動く。
(狙撃が片方明らかに精度が落ちた。この女のチームで、精神的に未熟か。思いがけぬ好都合。それはそれとして、少し本気でやるか)
「『
「「「!?」」」
瞬間現れる、蒼い煙。いっそ幻想的なまでに美しい煙は一瞬で周囲一帯に立ち込める。
『月見さん、位置の特定は……』
『無理ね、チャフのような効果があるのか、トリオン反応を感知できない』
狙撃手の奈良坂はオペーレーターの月見に連絡を取ってみたが望んだ答えは返って来なかった。流石にあの驚異的な防御能力を持つ
「この程度の目くらまし!」
「不用意に動くなよ、シュウちゃん」
と、秀次の足が斬られ地面に横たわる。
「っ!?」
何が起きた?
見えなかった。速すぎて? いや、違う。
「米屋先輩ふせて!」
「く!」
玲の言葉に慌ててその場でしゃがみ込む槍使い。先程まで首があった場所に鋭い刃の生えた歯車の様な物が現れる。色は、青い。
「この霧、まさか………」
「形態自由のトリガーかよ!?」
「厳密に言うなら、そっちの子が撃ってきた弾道自在のトリガーかな。微小のトリガーを組み合わせて好きな武器を作ったり他人の武器を真似たり………トリガーいじりは大好きだから僕」
と、片手を顔の前に持っていき親指と中指を合わその上に複数の光の輪を出現させる叶。
「『
パチン、と指が鳴る。同時に、秀次達の体が切り刻まれた。
「っ!? これは………!」
「え………」
そして
「うっ……けほ、こほ!」
「玲!!」
「なんだ、トリオン体で健康を保ってたのか。戦闘体と日常用に使い分けてはいないんだな」
咳き込む玲を見て叶は病弱でも戦わせられてるのだろうか、と
「うおおおお!!」
と、秀次が生身で殴りかかってくる。下手に受けたら手を怪我をさせるかもしれないのでかわし、足をかけ転ばせると片足で背中を抑える。
「落ち着きなよしゅうちゃん。僕は2年前、ここを襲ってはいないよ」
「今更言い訳か!? なら何故姉さんを、俺を知ってる!?」
「冷静になって考えなよ。これだけ街を派手に破壊した奴が、一人一人の顔を覚えてるとでも? いやまあ、あの子が知らぬ間にすごいトリガー使いになって戦闘中君を庇って死んだとかならありえるのか?」
まあそのあたりは後でいっか、と切り替える叶。そして、秀次達に取って信じられない単語を呟いた。
「
「…………は?」
瞬間、叶のトリオン体が砕け、
「ひう!?」
那須隊オペーレーター志岐小夜子は突然帰還用の部屋の扉が吹き飛び悲鳴を上げる。
「やあこんにちは。お時間いいかな? 出来るなら司令室とかと通信を繋げてほしいんだけど…………あれ?」
現れたのは映像で確認した人型
「あ゛」
「…………気絶してる」
どうしたものか、と叶は頭をかく。いや、暴れないならむしろ都合がいいか?
と、帰還用の部屋からボス、とマットに人が落ちる音が聞こえた。
「小夜子先輩! 人型
「君があの子達のチームのスナイパーだね。どうも」
「あ、ど……どう、も?」
ペコリと挨拶され慌てて挨拶を返す
「って、違います!
眼前に向けられた剣に気づき腰を抜かす少女。トリオンで形成された剣……つまりトリガーの剣を片手に叶は笑う。
「トリオン体に換装しなくたってトリガーは使える。あの国じゃ、トリオン量が少ない使い捨ては少しでも攻撃に回すトリオンを増やすためにそうしてたからね……」
そう言いながら反対の手で金属の筒のようなものを取り出し、服を引っ張り鎖骨付近を露出させると指で皮膚をカンカン叩く。明らかに人の皮膚の音ではない。カシュ、と皮膚の一部が開き金属の複雑な凹みが見え、そこに筒を差し込む。筒に縦に刻まれた溝が光り、上から下にかけてゆっくり減っていく。
「それにトリオン体は10分もあれば回復するしね。まあ、その間人質になってくれ。その前に上から連絡が来るなら、それでも良いけど」
「取り敢えずこの子そっちのベッドに寝かせてあげてくれる? 折角女の子が来たなら、僕が触れるのも」
「あ、はい!」
ひょっとしたら悪い人じゃないのかも。