近界の帰還者   作:黒い角持ち

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交渉

(ブラック)トリガーってさ、何であんなに強いんだろうね」

「なんでだろうね、僕にもさっぱりだ」

「………口調を変えて、常に演じろといったのは僕だけど、そのモデルにされると照れくさい」

「……………」

 

 ケラケラ軽薄な笑みを浮かべる女の言葉に、取り繕っていた仮面が一瞬剥がれる。

 

「怒らせたかな? なら話を戻す。ほら、優れたトリオン器官を取り出して加工しても(ブラック)トリガーには及ばないじゃん? 理屈の上では全トリオンを使ってるのに」

「命を注いでないからじゃない?」

「命ってなんだろうね。生き物を生きてる状態にする力? でも、死体の心臓動かして生きてるようには出来ても、それは果たして生き物なのかな?」

「結局何が言いたい」

 

 話の展開が見えてこない女に苛立ったように素の顔で問いかける。女はやはり、笑うばかり。

 

(ブラック)トリガーの存在は魂の証明だっていう論文を思い出してね。魂があるなら、僕達は死後何処に行くのか。(ブラック)トリガーになった魂は、永遠に現世に取り残されるのかとか考えてみてね」

「…………」

「それに、君達は(ブラック)トリガーに一番近い存在だ。君達の魂が何処に行くのか気になるしね」

 

 トン、と叶の胸に指を当て微笑む女。

 

「幽霊が見える副作用(サイドエフェクト)とか、面白そうだよね」

 

 

 

 

(グレイ)トリガー?」

「正式名称は生体融合同調型トリガー……一々適合者を選ばなきゃ行けない(ブラック)トリガーより扱いやすく強力なトリガーを作る実験として、命のある器にトリガーを融合させる」

 

 レントゲンに映る写真には心臓部付近に黒い影が見える。それは枝分かれするように心臓付近の血管に絡みついている。

 更に右腕に存在するブレスレットは肉を貫き骨に根を張っていた。

 

「………それで、こちらはトリオン技術を用いた上で調べた体の状態なのですが…」

 

 と、技術者は言い難そうに鬼怒田に資料を渡す。

 

「神経系、血管系。さらには脳や内臓の一部などがトリガーチップやトリオン兵などを構成する物質と置き換わっています」

「生身でトリガーの武器を使うには生身にトリオン伝達器官を作るしかありませんからね」

 

 攫ってきた兵士には当たり前のように施されていた処置だ。闘ってきた敵国の兵士にも居ないから、相当非人道的な行為なのだろう。

 

(グレイ)トリガーは(ブラック)トリガーと同じく製作者の性格や感性なんかが強く反映されます。(ブラック)トリガーと違い、その後改良出来ますけど」

 

 元々叶の持つトリガーの力は変幻自在、強度抜群の武器を生み出すトリガーであった。現在のように煙幕にすることもできたがそれは小範囲。実態から非実態を切り替えたりエネルギー状態にして爆発させたり中距離にレーザーを飛ばしたりは出来たが今回のように周囲一体を霧で包むなんて事は出来なかった。

 トリオン量が少なかった訳ではない。潤沢だ。臨機応変な闘いのできる長期決戦型だった。ただし国が欲していたのは敵を多く殺せて広範囲の規模も守れる兵器。

 

「トリガーのデータを書き換える為のアダプターに接続して、色々更新したんですよ」

 

 と、鎖骨あたりを軽く叩けば胸の一部が開き金属のような凹みが見える。アダプターにも確かに見える。

 

「現在の僕のトリガーの特性は広範囲の霧、複数の物質の構築、トリオン体への侵食と同調、解析です」

「武器の構築は映像で見たが、侵食と同調、解析とは?」

 

 鬼怒田が尋ねる。近界(ネイバーフッド)のトリガーの情報を解析せずに使用者から得られるなど滅多にない機会だ。

 

「言葉通り、トリオンで構成された物質を侵食して支配したり、トリガーの機能を停止させたり、トリガーの情報を読み取って利用したり。今回だと緊急脱出(ベイルアウト)機能の停止と利用ですね」

「それは、他の国でも使えるものはいるのか?」

「僕があってきた敵にはいませんでしたけど、だからといって居ないとは言えませんが」

「そうか………その機能。それと、歌川隊員をキューブにした機能、解析させてもらってもいいかね?」

「構いませんよ。なら、これも……」

 

 と、叶は懐から青黒い棒状のものを取り出す。

 

「僕が保有する限りの近界(ネイバーフッド)とトリガーの情報。僕の身の安全と、玄界(ミデン)における生活補助と交換で、渡します」




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