近界の帰還者   作:黒い角持ち

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帰還者の対応

「ベッドは柔らかいし、テレビもある。良いところだ。ネット環境はまだないけど」

 

 テレビの『懐かしアニメシリーズ』を見ながらすれ違った男から受け取ったぼんち揚げを食う叶。先程あった男の目を思い出す。

 

「居る所には居るものだね、全部背負えると思ってるあたり、結構面倒くさい性格してるみたいだけど」

 

 

 

 

 

「現状、彼がボーダーと敵対する未来はありませんでした。太刀川さんと切り合いしてる未来は見えましたけど、あれ仮想フィールドですね」

「そうか………」

 

 S級隊員。

 それはボーダーが所有する(ブラック)トリガーを扱うランク規格外の隊員。それが今上層部の目の前にいる迅悠一と言う男だ。

 

「しかし、なんとも扱いに困りますねえ」

 

 額の汗を拭いながら言うのはメディア対策室の根付だ。

 近界(ネイバーフッド)からの帰還者。それだけならば良いニュースだろう。公には出来ないが。公にすれば間違いなく2年前、家族や友、恋人が攫われた者達が彼等彼女等も早く助けてくれとなり、現状不可能だという事実を受け入れずにボーダーを怠慢、贔屓だなんだと責めたてるだろう。

 

「しかも12年も近界民(ネイバー)の国で戦い続けたなどと、そんなの殆ど近界民(ネイバー)のようなものでしょうに」

「根付さん」

 

 と、根付の発言に城戸が反応する。元々威圧感がある城戸が目を細め、根付はビクリと震える。

 

「その事実は当時の私達の失態だ。それを理由に、彼を色眼鏡で見ないでほしい」

「も、申し訳ありません………」

「………ただ、彼を完全に信用していいかと言われれば、たしかに話は別だ。鬼怒田さん、脳の一部がいじられているという話だったが、それは彼の記憶、性格に現在、または今後に影響を与えうるものだろうか」

「まだなんとも言えませんな。我々はトリガー技術において、近界民(ネイバー)共に劣っていますからな」

 

 12年。人生の半数以上の近界(ネイバーフッド)で過ごし、道徳を学ぶ機会は戦場にて失われた。一般人と呼ぶにはあまりにもズレすぎている。

 

「失踪宣告を取り消すのも大変そうですしねえ」

 

 元々は死亡扱いになって居たが、死体が見つかっていないからと彼の母と彼自身は祖父母から捜索願が出され続けていた。彼等の帰る場所を守るためにと祖父母は彼等の家を改めて買ったらしく、おかげで叶が写真を元の家で見つけられた。その祖父母も、大規模侵攻の際に亡くなっている。

 とはいえ、失踪宣告自体を取り消すのは出来る。問題は、そんな彼がボーダーに保護されているとなればいらぬ邪推をする者が現れるだろうという事だ。しかもそれが真実。

 

「間違いなくメディアが食いつきますよ」

近界(ネイバーフッド)で戦士やってたなんて知れた日には、彼奴自身に2年前の憎悪が向くでしょうな」

 

 と、林藤が煙草を咥えながら呟く。

 彼は間違いなく被害者だ。だが、世間は加害者として扱う可能性の方が高い。アンチボーダーも水を得た魚のように騒ぐだろう。

 

「まあそちらは私に任せてください。昔の伝手を上手く利用してみますよ」

 

 と、外務・営業部長唐沢克己が応える。

 

「どうにか出来るのですか?」

「ええ、取り敢えずだいぶ前に検挙された外国の人身売買組織の名前を貸してもらいましょう。多少無理はありますが、世間的には近界民(ネイバー)が接触してきたのは2年前。何割かが真実に気づいても、大多数を騙せれば数の力で黙らせられる。ま、そのあたりは根付さんにお任せしますよ」

「仕事が増えますねえ………」

 

 とはいえやらぬ訳には行かない。現実に存在する人間を居ないものとして扱うのはバレた時の世間の批判が強くなるだろう。

 

「………彼のトリオン量は、攫われるだけあり多いのだろう。また狙われる可能性は高い」

「でしょうな。現状最大のトリオン量を誇る二宮の3倍以上。元々高い資質に加え戦場にて常に酷使した結果でしょう……身体のことを考えれば、トリオン器官そのものを強化されてる可能性もあります」

 

 その言葉に城戸は目を細める。

 

「その技術は、模倣可能か?」

「まだなんとも」

「では再現可能、人体に対する負荷がないと解ったら使用も視野にいれよう」

 

 トリオン量はそのまま戦闘継続能力、或いは射手(シューター)銃手(ガンナー)の強化に繋がる。そうでなくても、豊富なトリオンは遠征などにも役立つ。

 

「……彼が奴隷兵であったことを考えると、まともな手段ではない可能性の方が高いがな」

 

 傷口を指で触れながら言う城戸に、空気が僅かに重くなる。

 

「なるべく彼の願いは叶えてやってほしい。が、警戒は怠らぬように」

「「「了解」」」

 

 

 

 『蒼の霧(ミステス)』を一部展開、解析モードにして端末を作る。今日得た玄界(ミデン)のトリガーの情報を整理する為だ。

 玄界(ミデン)のトリガーは専用トリガーとは異なり汎用型。一対一の場合、余程の使い手でない限りは近界民(ネイバーフッド)の遠征隊に選ばれる精鋭には勝てまい。

 

「やっぱり、(マザー)トリガーあるなあこれ……」

 

 そんなことを考えながら、ふと下を見る。向こうもトリガー技術が直接肉体に埋め込まれている人間相手にまさか探られないとは思ってもいないだろうから、探らせてもらった。

 玄界(ミデン)には12年前からすでにトリガー技術があったようだが、発展したのは最近だろうと考えている。似たようなトリガー技術を見たことがあるが、それには若干劣るからだ。真似したばかりなのだろう。緊急脱出(ベイルアウト)は類を見ないが、そもそも戦えないなら死ねが向こうでは普通だったしそんなものだろう。

 

「この技術は……アリステラ辺りに近い………」

 

 確か2年前辺りに滅んだのだったか。ボーダーの設立時期とも一致する。アリステラの(マザー)トリガーを得たのだろう。当時の玄界(ミデン)に滅ぼして奪えるほどの戦力があるとは思えない。周回軌道的に、アリステラと同盟を結んでいた可能性が高い。

 それなら(マザー)トリガーを使用出来るのも解る。

 

(彼処って何処が滅ぼしたんだっけ……? 事前調査とやらで数日滞在しただけで結局うちは攻めなかったんだよな)

 

 玄界(ミデン)との同盟は知らなかったがあの国は他2国とも繋がっていた。性質上多くの国に恨まれているステマナスは離れた星に遠征隊やトリオン兵を大量に送る余裕はないし、態々攻め入る旨味もない。

 身分を隠してるつもりだったであろう、いいとこ育ちと少女と知り合ったぐらいしか特筆すべき事はなかった。あの女はいざという時亡命先に使えそうなどと言っていたが滅びたのでは意味がない。

 

(そういえばステマナスの星が滅ぶところは見たし、他の遠征艇は事前に壊してたけど、遠征に出てた奴等は無事かも。一応後で報告しとくか)

 

 遠距離遠征隊ともなれば()()()()()()()()()()()()()()使()()()()。だからこそ体もトリオン器官も相当弄られている。ただの人間とは基礎能力(スペック)が違う。

 ステマナスのトリオン兵も厄介な奴が居るし。

 と、その時ポーンと電子音が鳴る。確か来客を知らせる音だったか。壁に取り付けられたモニターを操作するともじゃもじゃ頭の青年が映る。先程あった、太刀川と呼ばれていた戦士だ。

 

『よお、暇だったらうちの隊室に来ないか? 遊ぼうぜ』

「……………」

 

 やたらワクワクしてる少年のような目をしている。こういう目は、よく知っている。戦いを楽しむ者の目だ。

 あの場にいたということは、たまたま近くに居た秀次達と違い確実に精鋭。玄界(ミデン)の強さを正確に測るにはいい機会だろう。

 

「解った、直ぐ行く」




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