近界の帰還者   作:黒い角持ち

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炒飯

「おい国近、トレーニングルームの設定頼む」

「ん? いきなり何さ……おや、そちらの男前は?」

「どうも、男前の神崎叶です」

「どうも〜。国近柚宇です。こっちのモサモサした男前は烏丸恭介、あっちのフワフワした男前が出水公平」

 

 太刀川隊作戦室に入ると太刀川はゲームをしていた少女に声をかける。

 少女、国近は他にくつろいでいた隊員も紹介する。

 

「どうも、モサモサした男前です」

「あ、これ俺もやる流れ? フワフワした男前で〜す」

「国近、俺は?」

「モジャモジャした男」

「前は?」

 

 隊員同士仲は良さそうだ。結局、前を付ける事のない国近に若干不服そうながらも太刀川はそれよりも優先したいことがあるようで、トレーニングステージを用意させる。

 

「この人強いの? 期待のB級?」

「いや、報告にあった帰還者だ。近界(ネイバーフッド)のトリガー持ってるからいっちょバトろうと思ってな」

「ええ〜。勝手にやっていいの? 怒られるのやだな〜私」

 

 国近の言うように、本来上の許可無く保護されている近界(ネイバーフッド)のトリガー使いと戦うなど、咎められる行為だろう。だが、それは近界(ネイバーフッド)の場合。玄界(ミデン)において、そんな取り決めはない。

 

「大丈夫だろ、模擬戦以外の戦闘禁止は隊員同士の話だし」

 

 近界民(ネイバー)を保護するという行為自体するつもりがないのならそもそもそれを取り締まるルールは無いのだろうが、褒められる行為ではないのは違いない。

 

「それにこれだって模擬戦だろ」

「う〜ん。まあ太刀川さんが責任取って怒られてくれるなら」

「へいへい、怒られたら俺だけ怒るように言うよ」

 

 薄情なオペレーターだ、と肩を竦める太刀川。国近はカタカタとキーボードを操りトレーニングステージに町並みを形成していく。

 

「よーし、行くぞー!」

「『蒼の霧(ミステス)』」

 

 太刀川が剣を構えると同時に叶の服装が軍服に変わり蒼い粒子が霧の如く溢れ出す。

 

「おっと……」

 

 一見煙幕にしか見えないそれに、特に報告も受けていない太刀川は距離を取る。拡張された空間内に広がる蒼い霧はあっという間にステージ全体に広がり、3階建ての屋根の上に着地した太刀川は静かに見下ろす。

 

『えっとね〜、三輪隊の報告によるとあれ全部細かいトリガーで、霧の中に入ったら斬られるよ。後、自己申告だけど肺の中に入れて内部から破壊も出来るってさ』

「マジか、出水もまぜときゃ良かった」

 

 そうすれば炸裂弾(メテオラ)で吹き飛ばせたのに。

 まあ仕方ない。霧に入った瞬間感知されたとしても反応に時間がかかると信じて突貫してみよう。その前に……

 

「旋空孤月っと」

 

 ザン、と家の屋根を切り取る。ブレードトリガー『孤月』のオプション、『旋空』だ。その効果は、攻撃範囲の拡張。刀身が伸び、まるで斬撃が飛んだかのような錯覚を与える。

 

「よっと……」

 

 そのまま切られた家の上部をトリオン体故に強化された脚力で蹴り上げる。

 

「グラスホッパー」

 

 ジャンプ台を生み出し加速、立体機動を可能にするオプショントリガーにより砲弾のように吹き飛ぶ家の一部。その影に隠れるように飛び出す太刀川。ほんの一瞬なれど、霧が存在しない道が生まれる。

 

「そこだ!」

 

 微かな足音を頼りに放つ2発の突き技。これも旋空を使用した。距離が開くほどに狙いが付けにくい突き技。しかし、そこそこの至近距離ならば太刀川は外さない。集中シールドさえ容易く貫くであろう孤月の先端は確かに何かを砕いた感触を手に伝え………太刀川の首が宙を舞った。

 

『トリオン伝達系切断』

 

 設定上、緊急脱出(ベイルアウト)せずにビーッとブザーが鳴り、負けたか、と叫ぼうとした太刀川の頭を叶が踏み潰した。しかし直ぐに再生。またブザーが鳴る。

 

『待った待った! まだ再スタートしてないよ!』

「? ああ………」

 

 国近の言葉に一瞬首を傾げるも、そう言えば模擬戦だったと思い出す。

 

「悪い、つい癖で。僕はもう戦士じゃないのに」

 

 癖、つまりはトリオン体が崩壊してその場に残った本体の頭を踏み潰していたということだろう。大丈夫? と心配そうに手を差し伸べてくる姿からは、いささか想像しにくい。だからこそ危険とでもいうか。

 

「さっきのあれ、どうやったんだ?」

「足音を偽装した。『蒼の霧(ミステス)』は形だけなら何でも真似出来るからな。特殊な効果のあるトリガーとかはだいぶ劣化するけど」

 

 よっと、と手を借り立ち上がる太刀川。近接戦しか行えないトリガー構成故に相性もあるが、かなり強い相手だと言うことは解った。

 

「じゃあ次は剣だけで相手してあげるよ」

「お、言ったな? 俺剣ならすげえ強いぞ」

 

 

 

 

 

「失礼するわ」

「どうも、加古さん」

「あら烏丸君。どう、ウチのチームに入らない?」

「すいません、来年から転属先決まってるんで」

 

 太刀川隊作戦室にA級部隊隊長の一人、加古望が入ってくる。入っていきなり勧誘するがあっさり断られた。

 

「そう言うと思ったわ」

 

 顔の横に✧が出るのはA級隊員の特徴である。

 

「それで、本日はどういったご要件ですか?」

 

 勧誘、拒否の流れはいつもの事。つまり目的はそれではないのだろう。

 

「神崎叶さん、故郷のご飯も味わいたいだろうと思って食事に誘いにいったのに部屋にいなかったの。もしかしたら太刀川君が戦ってみたいって誘ったのかと思って」

「ああ、それ当たってますよ」

 

 と、出水がモニターの前で振り返り名が答える。モニターには孤月二刀を構えた太刀川と蒼い刀を振るう叶の姿が映されており、上部には10: 3と表示されている。

 

「あら、中距離型だと聞いていたけど中々やるのね。太刀川君から3本も」

「逆です加古さん……」

「え?」

「太刀川さんが3本しか取れてねーんす」

 

 と、モニターで叶の腕がぶれ、太刀川の孤月ごと胸から上が切り飛ばされた。スコアは11:3に変わる。

 

「今のは剣に反応出来てたのにね〜。切れ味が半端ない」

「トリガー性能の違いでしょう。それでも、太刀川さんの受け太刀失敗が今のだけって考えると太刀川さんが負けてるんでしょうけど」

「トリオン体の性能も違うよ。それがなかったらもっと勝ってる筈だもん!」

 

 国近の言葉もあるのだろうが、傍目から見ても彼の剣技は中々のものだ。加古も素直に感心した。最後の一本、太刀川と叶のどちらもトリオン伝達脳を斬られ引き分けた。

 

 

「なんだよあの切れ味、ウチの弧月にも組み込めねえかな」

「あれは剣を構成してた粒子に隙間作って高速往復させてるから、一塊の孤月じゃ難しいかな」

「コーソクオーフク………なるほどなぁ」

「………早い話、斬ると言うよりは剣の接触面を削り取ってるんだよ」

「なるほど! コーソクオーフクで削るのか! 鬼怒田さんに相談してみるぜ!」

「…………………」

 

 こいつは駄目だな、とでも言うような視線を向ける叶に気付かず太刀川は上機嫌。ふと、加古に気付いた。

 

「お、加古じゃん。どうした?」

「神崎さんを食事に誘いに来たのよ。太刀川君達もどう?」

「すいません、俺これからバイトなんで」

「ゲーム今日中にクリアしたいんで」

 

 出水は太刀川が出て来る前に逃げていた。太刀川の顔が引きつる。

 

「ほ、本気か加古。神崎さんに、お前の飯を?」

 

 因みに叶の方が太刀川達より1歳年上である。故にさん付け。

 

「ええ、神崎さんも故郷の味を久しぶりに味わいたいでしょ?」

「そうだね。メニューは何かな?」

「炒飯よ」

 

 

 

 加古隊作戦室。リビングルームにて死を覚悟した顔の男が3人。太刀川、三輪、そして一人の男が。

 

「どうもはじめまして、堤と言います」

「これはご丁寧に。僕は神崎叶と言います」

「コウザキ………もしかして、勧誘された?」

「いや、この人はまだ隊員じゃねーよ。でも隊員になったら面白いな。俺のとこ来ませんか?」

「太刀川さんも誘うほどなんですね」

「ああ、負け越してる」

「え!?」

 

 その言葉に堤が驚き、三輪は忌々しそうな顔で叶を睨む。

 

「それだけの力があるのなら、2年前姉さんも救えたろう」

「…………」

「父さんと母さんが言っていた、お前と姉さんは、子供のお遊びといえども結婚の約束もしていたと。10年も前の、昔の事を覚えていたのはお前にとっても姉さんが特別だったからじゃないのか? なのに、お前は何をしていた!?」

「み、三輪君?」

「おい秀次、そりゃ暴論が過ぎるぞ。だったら2年前この街にいた俺等はどうなんだよ」

 

 三輪も、太刀川の言葉の正当性がわかっているのか口を噤む。そんな彼に対して、叶は……

 

「………彼奴を救えなかったのは、僕の不得だ」

 

 暴論を、肯定した。

 

「いやいや、神崎さん帰ってこれなかったんでしょう?」

「どうにか手段を講じれば帰れたはずだ。事実、()()()()()()()()

 

 本当に申し訳無さそうな顔をする叶に、三輪は思わず立ち上がり掴みかかりそうになる。

 否定してくれた方がマシだった。心では解っていても、頭では目の前の男を拒絶出来たから。

 だけど、その顔に、その声に、その言葉に、目の前の男が本当に姉を想い、救えなかった事に心を痛めていると解ってしまう。巫山戯るな、ふざけるな。俺と同じはずがあるか。命惜しさに近界民(ネイバー)の兵士として戦っていた奴に、俺の気持ちが解ってたまるかと否定したくても、言葉が出て来ない。

 

「はいはい、そこまでよ。仲良くなるための食事会なのに、険悪な空気になってどうするの」

 

 と、張り詰めた空気を切り裂くように加古が皿を持って戻ってきた。三輪は叶から目を逸らすように顔を背け乱暴に座り直す。

 

「今日も自信作。『イチゴジャムさば味噌炒飯』よ」

「おかわり」

「はや!?」

 

 何時の間に食い終えたのか、叶は空の皿を加古に渡す。

 

「え、てか食ったの? これを?」

「味がある」

「もしかして、あたり?」

 

 太刀川は恐る恐る炒飯を口にして、ぶっ倒れた。

 

「あら、太刀川君たら疲れてたのかしら?」

「……その、神崎さん食べてなんともないんですか?」

「向こうで食ったものに比べたら」

 

 おかわりをよそいに加古がキッチンに向かい、堤が小声で尋ねると簡潔に返された。これ以上……いや、これ以下の料理?

 三輪の中の嫌悪はほんの少しであるが、同情に変わった。




『教授』
ポジション(推定)完璧万能種(パーフェクトオールラウンダー)
年齢NODATA 誕生日NODATA
身長172cm 血液型B型
星座NODATA 職業トリガー解析・開発者
好きなもの 味のあるもの トリガーいじり 弦楽器 授業 弟子
Family
NODATA

トリオン29 攻撃31
防御・援護23 機動5
技術15 射程9
指揮4 特殊戦術10
トータル122
トリガー
GLAYTRIGGER
深層の泥(デイロスダウト)
叶の『蒼の霧(ミステス)』が持つトリオン体への侵食と同調、解析は元々このトリガーの性能をデータ化して書き写し模倣している。ユーマの(ブラック)トリガーと異なり強化は出来ないが侵食したトリガーの模倣が出来る。



5年前(叶14歳)のとある事件により故人。
叶の師匠。先代のステマナス最強。
本来の立場は(グレイ)トリガーを植え付けられてることからお察し。しかし技術所主任にまで上り詰めた。
料理が壊滅的で、酸味をたすために塩酸ぶち込む、色合いの為に油絵の具を入れる、形を整えるために粘土を使う、米を洗うと聞いて洗剤を使う、スープの中に溶けかけの鍋の取手が混ざる、掬おうとしたお玉が何故か黒く染まり崩れるなどと暴走と謎の化学反応を上げればきりがない。
改造人間だから耐えられた。
改造人間じゃなかったら危なかったと次代ステマナス最強は語った。
彼女が生きていたら叶の脱走は3年は早まった。
断じてショタコンではない。
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