近界の帰還者 作:黒い角持ち
僕は全てを知っている。今こうして君と星々を渡り歩くことすら、君が初めての景色と感動してる事すら、僕には既知である。
遠征艇の中、たった二人しか起きていない中女は幼い少年に微笑む。
その顔が、ずっと嫌いだった。笑っているくせに笑っていない。女が自分に教えた笑みだから、よく解る。
笑わずに笑う女。そのくせ、時折心の底から笑う。それは決まって自分に視線を向けている時だけだととっくに気づいているし、その目に宿る色が何なのかも解る。忘れられぬ体質など関係なく、忘れることの無いあの人達の目と同じ………
「これが
ボーダー内でも限られた人間しか入れぬ、C級ならばその空間を知っていても確実になんの為の場所かは知らぬであろうボーダー基地の中には。そこに開いたゲートからSFの宇宙船のような物が出てくる。
叶の使っていた遠征艇だ。ボーダーの誘導装置に叶のキーのデータを送り、こちらの世界に持ち込んだ。ボーダーの研究も一気に進むだろう。
「トリオン貯蓄機を見たが、あれでは足らんのでは?」
「省エネというのもありますけど、まあ元々僕ら強化兵専用の遠征艇でもありますから………これを、首の後ろにブスッと」
鬼怒田の疑問に対して叶は貯蓄機からコードを伸ばし首の後ろの皮膚の一部に似せた部位を開き差し込む。
「………とことん、道具扱いするんじゃな」
「場所に寄っては人間並みの扱いを受けますよ。何なら、
まあ、それでも国によってそれぞれだが。一員と認められる国もあれば奴隷として使い潰されることもある。何なら叶達のように実験のサンプルにされた挙げ句戦わされる国もある。
「大概の国はトリオン量が高ければ大事にするし、そいつ等の機嫌を損ねない為にもトリオン量が少ない者も丁重に扱う。大規模侵攻は、むしろ珍しい部類……余程余裕がない時か、王位継承で揉めて実績を欲しがるとかでもなければ起きないでしょうね」
「巻き込まれる此方としてはたまったものではない!」
「でしょうね。僕も同意見です」
まあだからといって、大人しく星と共に滅びろと関係のない人間に言えるほど、向こうの全ての世界について無知にはなれなかったが。
人間が居た。そこには人間が住んでいた。
「なので、僕がボーダーに入るとしたら忍田さん派の玉狛よりですね」
「何がなのでじゃ。というか、玉狛じゃと!? お前は………いや、なんでもない」
憎くはないのか、そう言葉にしようとして口をつぐむ鬼怒田。結構悪そうな顔をしているが、根は良い人なのだろう。
「僕が憎んでいた国は僕の手で滅ぼしましたから」
「こちらが気を使ってやっとるのに……まあ良いわ。で、中のこれがトリガーじゃな? この一つだけ形が違うようじゃが」
「あ、それ
「……………はぁ!?」
「という訳で、僕がボーダーに提供する技術はまずトリオン体の強化。最終的な運動能力は生来の身体能力に左右されますが、出力……一足で飛べる高さや進める距離、ネイバーを吹き飛ばせる膂力などが手に入ります」
資料に纏めたステマナスのトリガー技術。それを見ながら上層部は叶の話を聞く。
「次に仮称『予備タンク』と呼び続けてるトリガーです。これは所持トリガーにトリオンを補充しトリオン体を修復した後もトリオンを少しずつ吸い取り保管する道具です。トリガーと連結させてトリオン体の早期復元が可能になります」
叶が茜の前で胸に突き刺したものだ。叶のは特注品。満タンならば叶のトリオン量でも10分で復元可能。
「………………」
何方もボーダーにとって有り難い。政府公認の組織でなく民間の企業。勧誘も行い、有志を集めていてもその戦力は1000にも満たない。だというのにトリオン体が一度破壊されてしまえば復活に時間がかかる。しかも、トリオン量が多い程時間を要する。
トリオン量が全てとは言わないが、戦闘時間を伸ばすのにトリオンは必要。そのジレンマを解消してくれるのはありがたい。
「僕の場合トリガーが融合してるので肉体に挿しますが、ボーダーの隊員ならトリガーを少し改造するだけですみます。後、トリオン体に取り込ませる事で一時的な強化も可能です。ボーダーのトリガーにもある臨時接続に似ていますね。本人のトリオンを取り込むだけなので、機能障害は起きません」
「おお! 隊員の一時的強化とは!」
と、根付が叫ぶ。事前に聞いていた鬼怒田は驚いていないがウンウンと頷いている。
「この情報に対して、君が我々に求める対価は?」
「ボーダーのエンジニアとして働かせてください」
「……………」
それは願ってもいない要求だ。
元より、叶を今さら一般人に戻すことなど不可能。彼の家族は既に故人。親戚を探すことは出来るだろうが、12年の空白の期間の説明をするわけにも行かないし、何よりトリガーを体に埋め込まれ取り外せないのにボーダーの関われない場所で生きるなど、爆弾を放置するようなものだ。
「良いだろう。技術の問題ではなく、組織に所属するために幾つかの試験を受けてもらうが、それさえこなしたなら『特別技術顧問』として、君を鬼怒田さんの下につける。それで構わないか?」
「ワシは問題ありません」
「僕もそれで構いません」
鬼怒田としてもトリガー技術に関して上を行く技術者が部下になるのは喜ばしい。と、不意に城戸が尋ねる。
「時に、君のトリオン量は計測史上最も高い………それも、ステマナスの技術かね?」
「………あー」
と、その言葉に叶は固まる。一度全員を見回し、再び口を開いた。
「はい、ステマナスの技術です。他人のトリオン器官同士を融合させて無理やりトリオン能力の高い人間を生み出す………ボーダー基準に従うなら、僕の元のトリオン量は38と言ったところですね」
叶のトリオン量の測定結果は51。つまり13も増えた。現在の数値と並べると大したことのない数値に見えるが、トリオン量が10を超える者すら希少であることを考えると、とんでもない変化だ。
「他人のトリオン器官を? 可能なのか、そんな事」
「まあ、普通死にますね。実際生き残ったのは僕を含めて数人ですし………自慢ではありませんが、それでも全員30いくかいかないか程度ですが」
「君達は何故生き残れたんですか?」
「根付さん、その質問は無意味だ。僕が特別だから生き残った訳じゃない、
根付の言葉に淡々と返す叶。
そもそもとして、ステマナスにおいて叶の最初の立場は実験用のモルモット。強化して使う戦士ではなく、案として出た強化方法が可能か調べるために施術する
「トリオン器官の移植も僕の世代で行われた実験です。僕自身死にかけましたし死んだ者もいました」
大丈夫だよ、と慰め続けていた幼子が、叶の腕の中で泣き止み二度と泣くことはなかった。俺が一番年上だから、と皆を支えようとした青年がチリとなって崩れ落ちた。やたら仰々しい、演劇のような喋り方で子供達に物語を聞かせていた少女が喉が裂けるほど叫び破裂した。
「選ぶ基準は、戦いの才能がある者。選び方は、殺し合わせて生き残った方。そもそもトリオン器官を生かしたまま取り出す方が難しいので、ボーダーでは出来ないかと。『人型』としている本物の
「不要だ。人の生き死にが関わる人体実験は、私のボーダーには必要ない」
「それを聞いて安心しました」
何が何でも強い兵を作る、なんて組織だったら、敵対していた。
「僕の体については後日詳しく纏めを提出します。取り敢えず今言える事は、生身でもトリガーを使用できる。トリオン量は実験の結果。同じく実験でサイドエフェクトを複数持ってる。身体の悪影響を気にしなければ『
「サイドエフェクトを………? いや、そちらは後日纏めを読ませてもらおう」
「そうですか………そう言えば、茜ちゃんってB級でしたよね? 記憶処理はなされたんですか?」
遠征部隊は
「僕は色んな所から攫われた仲間達と一緒でしたからね。師もそうですし………僕等の屍の上で何も知らない民が笑ってたステマナスは兎も角、
12年前。7歳までは世界を知ろうとしなかった。しかし今はこの世界を調べ、その上で理解した。
認められるとか、認められないとかは関係ない。何故彼がこんな凶行に走ったのか、やたら調べる。理由を探す。何なら冤罪の殺人容疑者のプライバシー侵害した記事がネットに残り続けるぐらい、人を殺す事から無縁な
「敵だから殺そう。解りやすいスローガンですが、少なくとも茜ちゃんが耐えられる現実とは思えない。かなうなら僕とあの子の出会いを消して貰えると助かるのですが」
「…………日浦隊員達に関しては、日浦隊員がそれを拒んでいる」
「…………拒んでいるからしない、という組織ではないのかとばかり」
「それが違反行為ならば私もそうしただろう。だが、彼女達は偶然知っただけ。規定違反を起こした訳でもない。それに、知った上で戦える隊員が増えるならそれはそれで望ましい限りだ。彼女達が外部に漏らすような行動に出る、もしくはその事実に耐えられない、ボーダーを去ると言うのなら、記憶処理はする。そうでないなら、現状彼女達の記憶に関して君に口出しの権利はない…………すまないな。少しいい方がきつくなった。だが、それが全てだ」
「…………解りました。ボーダーに入れば僕の司令はあなたになる。その判断に従います」
叶はそう言って頭を下げる。話は終わり、叶は会議室から出ていった。
「……話せば話すほど、闇が出て来る子ですね」
「まあ、本人はさして気にしていないようですがねえ。さすが、十年も殺し合いをしていただけはあります」
「根付君にはそう見えるか?」
唐沢の言葉に根付が冷や汗を流しながら紡いだ言葉に、城戸が反応した。
「彼は始終笑顔だった。私が知る限り、それ以外の表情は見ていない。それは、本当に彼が笑っているからか?」
「そ、それはどういう………」
「表情だけで彼の人間性を判断してはいけないと、そう言う話だ」
(一見すると厳格で苛烈。見た目はそうだが、存外隊員思い………いや、子供思い、か?)
城戸とのやり取りを思い出しながら、城戸という人間を測ろうとする叶。
(元々旧ボーダーの一員って話だけど、それなら
少なくとも、茜達への対応や人体実験と聞いた瞬間一瞬見せたあの嫌悪感。それを見る限り、悪人ではない。
真の目的がある可能性が高く、その目的が気にならないのかと言われれば当然気になるが、まあ踏み込んで不和を作るぐらいなら気にしなくて良いだろう。
(ないとは思うけど、本気で
試験まで暇だ。数日空いたが、何をしようか。
外出許可は降りている。生体融合式のトリガーを所持しているため、トリガー反応を計測する機械をつけてだが………。
(あいつの墓参りでも行くか? でも、場所がな………)
秀次は教えてくれないだろうし、バックストーリーが完成するまで彼の両親にも会えない。というか、昔の知り合いに接触できない。まあ接触できる知り合いなんて三輪一家ぐらいなのだが。あれ、交友関係少なくない?
いや、知り合いという意味でなら探せばいるだろうが、多分覚えているほど親しいのは………と、その時来客を知らせるインターホンがなる。また太刀川あたりが来たのだろうか、と特に気にせず扉を開け………
「こんにちは〜!」
クソデカボイスで日浦茜が挨拶してきた。
叶はトリオン回収ができなくても滅びを気にしないミデンがトリオンの枯渇が滅びに繋がるネイバーフッドを幾つも滅ぼしたら孤立し連合にミデンが蹂躙されるの考えてます。ていうか自分がネイバーフッドの人間だったら無限に攻めてこれる国とか他の国に頭下げてでも協力して滅ぼす道を選んだと考えてます。軍人なので
『教授』は灰トリガーのプロトタイプ。普通なら舌が溶けるレベルの酸で漸く酸味っぽいのを認識する。どこぞの炒飯と違って味見はするが、取り敢えず本人が体調崩さなければ大丈夫と判断して出す。実用可能か確かめる為の改造率なので寿命はともかく体の頑丈さは叶達より上だから意味がない