コンクリートジャングルを、一人の少女が駆ける。壁を伝い、屋根を踏み抜き、電柱を切り落とし。
周囲から人のような影が迫ってくる。それは黒い煙のように時々形を変化させ、少女を横から、後ろからも付け狙う。
影のような何かは段々速度を上げていき、少女を取り囲む。
少女を完全に捕捉したとみて、影のような何かは飛びかかってきた。
「rrhbkkihth!!!!」
耳障りな奇声を上げて、影のような何かが迫ってくる。
「あーもうさっきから……うざったい!」
少女は手に持った木刀で影のような何かを一閃する。前、横、最後に後ろ。
微かな手応えと共に影のような何かは雲散霧消した。
「ふぅ…流石に多いな……」
工場の煙突の上に座って一息つく、少女は人間では無くサーヴァントではあるが、多少の疲れはする。
息を整え、周りに敵が居ないかを確認して立ち上がる。
ふと脳内に直接声が響く、仲間からの念話だ。
『こちらランサー。セイバー、そっちは大丈夫か?』
「問題ないよ、この程度なら私1人でも大丈夫。」
『無理はするなよ、呼べばいつでも助けに行く。』
「ありがとう。頼りにしてる。」
念話を終え、もう一度あたりに敵がいないかを確認し、跳び上がる。
「『Take the gale and run』」
詠唱と共に風が少女を覆い、少女を空に飛ばす。
そうして、「疾風の剣士」は目的の地へと向かうのだった―
時を遡る事約百年前の事だった。日本・榊生区で見つかった聖杯、通称九一一号は、冬木の聖杯には及ばないものの強力な力を有していた。
ただ、その聖杯はかなりの「いわくつき」だった。
その聖杯によって引き起こされる聖杯戦争には、一切勝利者がいないのだ。
誰も願いを叶えられない、誰も聖杯を使うことなく戦争が終わり、また聖杯は眠りにつく。
そんな事を何度も繰り返すうちに、聖杯にはあまりにも強大な魔力を溜め込み続けた。
その結果、魔力は地脈から溢れ出し、榊生区は魔力で覆われ、もはや1部の魔術師しか住めない環境へと変化してしまった。
聖杯戦争の開始される周期は次第に短くなり、遂にはマスターすら必要としなくなった。
街には不要に召喚されたはぐれサーヴァントで溢れかえり、人間も居るにはいるが全員が魔術師。
この状況を変えるため魔術協会も動き出すが、下手に膨大な量の魔力を溜め込んだ聖杯を破壊すれば未曾有の事態になりかねない、だが聖杯戦争の露見は避けねばならない。
魔術協会は日本政府と手を結び、「自然保護区のため立ち入り禁止」として一般人をシャットアウトした。
そして榊生区は、正しい姿を地図上から消したのであった。