ヴァーミンロード   作:ベルゼバビデブ

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コキュートス単身転移のオーバーロード二次創作、ヴァーミンロード

お察しの通り、出オチ(タイトルオチ)です。


第一話にして最終話 蟲王"ヴァーミンロード"

 ユグドラシルサービス終了日、ナザリック地下大墳墓の第五階層に青白い外皮鎧を持つ蟲王"ヴァーミンロード"が一人…一匹?静かに佇んでいた。

 

 至高なる御方々に仕える階層守護者コキュートスは終わりかける世界で、かつてプレイヤーを含めた1500名によるナザリック襲撃における闘いを思い出していた。地の利を活かし、幾人の強者をその四つ腕で屠ったものの、最後には討ち取られ侵攻を許した屈辱の日。

 しかし、武人であるコキュートスにとっては屈辱だけではなく、真の死闘を繰り広げることが出来た有意義な日でもあった。

 強者との対決、それは武人であれと定められたコキュートスにとって大切な想いであった。

「叶ウコトナラ…強者ト再度ノ対決ヲ…」

 呟いた言葉は世界の崩壊に掻き消され、コキュートスもまた光の中に消えていった。

 

……………

 

「…ムッ!?」

 眩い光に包まれたと思ったら何故か森の中にいた。蟲王であるコキュートスの表情は変わらないが、頭は大パニックである。

「ウウム…ココハ、ドコダ?」

 キョロキョロと左右を見渡す。仮にここがナザリック地下第墳墓の第六層の森だったとしても、それ以外の森だったとしても第六層の階層守護者であるアウラやマーレならまだしも、木の違いなど分からないコキュートスにはあまり意味のない行為ではあるし、そもそもコキュートスは第六層の円形闘技場にギルメンとのPVNの為に時折行ったことはあるものの、森林の事は知識としてあると言うことを知っているだけなのだ。

 結局、第五階層から何かの手違いで第六階層に降りてしまったのだろう、とコキュートスは結論付けた。あの眩い光は転移の時の光だと思えばおかしいところはない。

「アウラ、マーレ居ルカ?」

 第六階層守護者のである彼女ら名前を呼んでみるが、残念なことに返事はなかった。

「ウウム…コンナコトナラ、探索用ノスキルデモ覚エテオクベキダッタナ…」

 コキュートスは武器を扱い闘うのは得意だが、探索などは得意ではない。友人のデミウルゴスが居れば何か知恵を貸してくれるのにと思ったりもしたが、残念ながらここにはいない。無いものは仕方が無いので、自分の足で情報を稼ぐ。過去に至高の御方々の一人であるたっち・みー様も「捜査は足でするもの!」と仰っていたな、と思い出していた。

「お姉ちゃん!」

 コキュートスが得意でも無い思考の海に意識を潜らせていると、前方から声が聞こえてきた。勿論コキュートスに向けての言葉では無い。

「マサカ、マーレカ!?アウラニ何カアッタノカ!」

 仲間の危機かも知れないと巨体を懸命に走らせる。理想よりも随分と遅い自分の肉体に思わず悔しい気持ちになる。自分もシャルティアのように飛んでいければすぐに向かえるのに…と思っていると、声の主の元まで辿り着く。

 

…なお、コキュートスの心の中での比較対象が早すぎるため、コキュートスは気付かないが彼の全力疾走はこの世界ではとんでもなく早い部類に入ることは言うまでも無い。

 

「…マーレデハ、無カッタカ…」

 声の主は見知らぬ人間者の幼女、その幼女を大切そうに抱えているのがその姉なのだろう。仲間では無かったのでコキュートスは少し肩を落とした反面、仲間の危機ではない事には少し安堵した。

「何だ!この化け物は!」

 声の主は姉妹の奥に居た鎧の男、その手に握られた剣には血が滴っている。妹を守らんと蹲っている姉の背中には真新しい傷があったので、その娘が剣の血の主だろうと結論付けた。

 コキュートスはガチン!と顎を鳴らしフシュー!と息を吐く。そう、ちょっと怒っていた。

「力ヲ持タヌ女子供ヲ背中カラ斬リツケルトハ…武人トシテノ誇リハナイノカ。」

 コキュートスは身を挺して妹を守らんとしている姉の姿に好感を持っていた。

「ドウシタ、挑ンデ来ナイノカ?ソレトモソノ武器ハ飾リカ?」

 クイクイッと右手の指で挑発し、血のついた剣を握っている鎧の男を睨み付ける。…まぁ、コキュートスは蟲王なので、本人は睨み付けているつもりだが顔に変化は無い。人語を喋る巨大な二足歩行の昆虫の存在に、鎧の男はヒッと情けない声をあげると尻餅を付き、みっともなく逃げようと手足を動かしている。あまりの恐怖にパニックになっていたのでうまく逃げることは叶わなかったが…。女子供は襲えるのに、毛色の変わった相手には敵わないと見るや逃げ出す…コキュートスは腰抜けに興味も無ければ弱者にのみ力を払うような輩への慈悲などもないので、手に持つハルバートを軽く一振りし、胴体を真っ二つに叩き斬る。

「うわぁぁぁぁ!」

 仲間を殺されたもう一人の鎧の男は半狂乱でコキュートスへ突っ込んでいく。振り上げられた剣を右手の1本で受け止め、空いているもう一本の右手で鎧の男の首を鷲掴む。

「は、離せぇ!」

 ジタバタともがく様を見てコキュートスは溜息を吐くとそのまま宙に放り投げ、ハルバートを振り下ろし、鎧ごと叩き切った。

「…弱過ギル」

 かつての闘いでは似たような外見の…但し質は月とスッポンだったが…鎧を着た人間と斬り合い、コキュートスは自身の二本の手を犠牲に辛くも勝利したという記憶がある。そんな闘いとは似ても似つかない一方的な闘いの結果にフシュ〜…と冷気の溜息を吐くと、コキュートスは未だ蹲って必死に妹を守らんとしている姉を見やる。

 その昔、自身の創造主である武人建御雷様が「親戚の子供に怖がられているので、子供達と仲良くなるにはどうすれば良いか」と至高の御方々の一人であるやまいこ様に相談し、「子供と話す時は目線の高さを合わせるのが良いよ!」と返事していたのを思い出し、必死に目線を比較しようと身体を屈ませて声を掛ける。

「オ前達ヲ傷付ケルツモリハ無イ。立テルカ?」

 コキュートスは現在、人間を殺せと言う命令を受けているわけでも無いし、戦う術を持たない女子供をいたぶったり拷問する趣味は無いので襲う様なことはしない。「誰のこと言ってるんすかね〜?」ええい黙れ駄犬。話がややこしくなる。

「た、助けて…くれるんですか…?」

 喋る巨大な二足歩行の昆虫…しかも鎧を纏った人間を鎧ごと叩き斬る戦闘力を有する異形は恐怖でしか無いが、襲って来ないのであれば、先程襲ってきた鎧の男達の方が恐怖度は勝る。表情の読み取れない蟲の顔がドアップというのはトラウマ物だったが。

「助ケル…カ、治癒ノ術ハ持チ合ワセテ居無イ。済マナイナ。」

 自己再生系のスキルは持っているが他人を回復させるスキルや魔法をコキュートスは持っていなかった。

「そ、それでも…守ってくれてありがとうございました。」

「…ございました。」

 姉妹はペコペコと頭を下げていた。相手がどんな姿形であろうとも、ちゃんと感謝を口にする娘にコキュートスはますます好感を持った。

 

 村を助けて欲しいと姉妹にせがまれたコキュートスは強者と出会える可能性を考え了承した。

 コキュートスが着いた時には既に村人達は全滅していたようだが、「異形だ!殺せ!」と向かってくる鎧の男達をちぎっては投げちぎっては投げ、お金が何だと騒ぐ不愉快な男を叩き斬る。

 ガチン!と顎を力強く鳴らし、手に持つハルバートの石突で地面を叩き周りを見渡すとコキュートスは相手の動きを伺った。

「数はこちらの方が有利だ!囲め!」

「フム、コノ人数差ナラバ定石ダナ」

 人語を喋り、あまつさえ戦術を理解する、指示を飛ばした男はすぐさま自身の判断ミスを理解した。

 一斉に飛び掛かり、武器を振るうがハルバートの薙ぎ払いだけで半数が吹き飛ばされ、残りの全ての攻撃は3本の腕に掴まれるか回避されていた。

「撤退だ!この化け物の存在を本国にお伝えせねば!」

 指示を飛ばすものの、腕に掴まれていた者達は武器の引っ張り合いに負け、そのまま持っている武器を投げつけられ絶命、先程ハルバートによって吹き飛ばされていた者達も既に絶命、残りの者達も振りかぶられたハルバートを見て自身の末路を悟った。辛うじてハルバートの範囲を免れていた数人も、背中を見せた途端に飛んできた氷の針に身体を貫かれその場に崩れ落ちた。最後の1人…指示を飛ばしていた男の眼前にも既にハルバートが迫っている。

「これも…天罰か…」

 上官の命令とはいえ、何の罪もない村々を焼き人々を虐殺した報いなのかもしれない、そして最初から撤退を…全員が蜘蛛の子を散らしたように逃げていれば一人くらいは助かったかもしれないなどと考えながら、その胴体は真っ二つに斬られていた。

 

 姉妹は村の有様を見て泣き崩れていた。お父さん、お母さんと動かぬ骸に泣き付く姿に残念ながらコキュートスは特に何の感情も沸かなかった。

 その後、みんなを埋葬したいと懇願されたコキュートスは渋々…慣れない作業ながらも四本の腕に穴掘り用の道具を持ち穴を掘り、死体を担ぎ、埋めていった。

「すみませんでした…こんなことを頼んでしまって。」

 顔に涙の跡をつけながら姉妹の姉の方が頭を下げる。

「気ニスル必要ハ無イ。普段ト異ナル身体ノ動カシ方ハ、研究スレバ新タナ技ノ型ニ繋ガルヤモ知レヌ。」

 今まであらゆる武器を振るってきたコキュートスだったが、鍬など農具を扱ったことはなかった。穴を掘ると言う独特の動きに得るものがあるかも知れないと考えたコキュートスなのだった。

 ふと、コキュートスは視界の端に騎馬に乗る戦士の群れを捕らえた。先程の鎧とは少し見た目が異なるが、コキュートスにとっては今度こそ強者が居てくれると嬉しいなとしか思わなかった。

 

「ガゼフ戦士長!魔物の近くにまだ生きている村人がいるようです!」

「うむ、なんとか彼女らだけでも助けなければ…!」

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは焦っていた。村々が焼かれ、悉く村人は死亡、ようやく辿り着いた村も家々は焼かれ生き残りと思われる女の子もそのすぐ近くに巨大な昆虫が佇んでいるのだ。

「君達!すぐに助ける!待っていてくれ!」

 ガゼフは馬から降りると剣を構えつつ、女の子を安心させようと声を掛ける。四つ腕の青白い二足歩行の昆虫は手に持つハルバートを構えていないが隙が見当たらない。人外の存在と戦ったことは何回かある。その中には巨大な物もいたし、武器を使う物も当然いた。だが、四つ腕は初めてである。初めて見るタイプの敵に正直どう攻めようか分からないでいたのである。

「待ってください!この人…人?えっと…虫?虫…で、良いんですかね?」

「…構ワナイ。」

 ガゼフが攻めあぐねていると急に女の子が慌てたように異形なら前に立ち塞がる。

「この虫…さんは、悪い人…ええっと、悪い虫じゃ無いんです!私たちを守ってくれたんです!」

 少女の発言にガゼフ達は困惑していた。悪い虫じゃ無い?何かの冗談だろう。というか今喋らなかったか?という感じだ。

「勘違いをして済まない。剣を向けたことを謝罪する。…事情を聞かせてくれないか?」

 ガゼフは剣を降ろすと、警戒したままコキュートスを見つめる。

「構ワナイ。人間カラ見レバ、コノ姿ハ警戒シテ当然ダロウ。」

 コキュートスは不思議とガゼフを襲うようなことはしなかった。ガゼフの行動が姉妹を守らんとするための行動だと理解していたからである。その他を守らんとする為に敵に向かおうとする姿にコキュートスは少しだけ好感を持ったのだ。

 その後、姉妹の姉の方から事情を聞いたガゼフ達は村を守れなかった無力感と、姉妹を守ってくれた恩人…恩虫に対して申し訳ない気持ちになった。

 

…因みにこの間コキュートスはすっかり懐かれた妹の方にせがまれ、高い高いをしたり肩車をしたりと、普段と異なる身体の動かし方に四苦八苦していた。

 

「エンリ・エモットくん。君はこれからどうするのかね。」

 事情を聞いたガゼフは姉妹の姉…エンリに尋ねた。幼い妹を抱えた姉が村を焼かれ、帰る場所を失ったのだから当然の質問だった。

「とりあえずは…エ・ランテルに知人が居るので頼ろうかと思います。」

 今のエンリの唯一の救いはエ・ランテルに住む薬師の知人の存在である。優しい彼とその祖母であればきっと助けになってくれるだろう。

「そうか、とりあえず安心したよ。」

 残念なことにガゼフには姉妹を養えるような裕福さは無かったが、この場で助けた姉妹をそのまま見殺しにするのも心苦しいものがあったので、彼女自身に頼れる先があることを知れたのは幸いだったのだ。

「ところで…あー…コキュートス殿…は、どうするのかね」

 その見た目で考えなしに街に入れば大混乱は間違いない。王国は幸いにも直接ビーストマンなどの亜人から侵攻されているわけでは無かったが、巨大な虫を受け入れられるような度量のある国で無いのも確かなのだ。

「分カラヌ。我ハタダ強者トノ闘イヲ所望スル。行ク宛モ無ケレバ、帰ル場所モ無イ。」

 コキュートスはガゼフ達の話を聞いて、ここが第六階層では無いと言うことを理解してしまっていた。そして不思議な事に、この世界のどこにもナザリック地下大墳墓や至高の御方々もその僕も自分以外居ないと心の中で確信していた。

 帰り護るべき場所、切磋琢磨できる同僚、そして…仕えるべき主。一振りの剣でありながら、鞘も砥石もそれを振るってくれる主人すらも何も無い、己と言う剣はこれからどうすれば良いのか、正直分からなかったのだ。悩んではみたものの、やはり考えるのは得意では無い。剣は振るわねば錆びるだけ、コキュートスとしてはそれだけは避けたかったが、良い方法は思いつかなかった。

「ガゼフ戦士長!報告です!謎の魔法詠唱者の集団が近付いています!」

「なんだと!?」

 ガゼフの部下による報告により、コキュートスは出口の見えない思考の海から這い上がった。

 

「馬鹿な…あり得ない!あり得るかァ!?ガゼフ…いや、王国め!こんな化け物を隠し持っていのか!?」

 謎の魔法詠唱者の集団を率いていた男は絶望していた。村々を焼き払い、漸く釣り出したガゼフ・ストロノーフを抹殺しようと企んでいたが、当のガゼフは謎の異形…四つ腕の青白い二足歩行の昆虫を連れて現れたのだ。差し向けた天使は手に持つハルバートの一振りの前に倒れ、魔法詠唱者の魔法も通じない。ガゼフはガゼフで武技を組み合わせたその剣技に中々歯が立たず、化け物は時たまガゼフの武技に感心したように頷くのだ。

「我ら陽光聖典が舐められている…!?たった2人に!?あり得ない!」

 化け物の方を人と数えるのが適切では無いなどと言うツッコミができる余裕のあるものは読者以外に存在しなかった。

 

 コキュートスは感激していた。ガゼフの放つ武技の数々は今まで闘った何の強者も持っていない独自のものだったからだ。スキルでも魔法でも無い武技!その存在にコキュートスは己を磨ける可能性を感じ、大いに昂ったのだ。自身を生み出した主もライバルを倒さんと、技を磨き武器を鍛えたのという事を知っている。己も主のように強くなれるのであればどんなものでも吸収したいと思ったのだ。

興奮しすぎて戦闘中にも関わらず、コキュートスは顎を鳴らし息を吐くと興奮を隠さない口調で…迫り来る天使をハルバートで軽く叩き斬りながらだが

「ガゼフ殿、ソノ武技ナル技ヲ伝授シテ貰エナイダロウカ!?」

 と言った。これにガゼフは天使と壮絶な鍔迫り合いをし、息も絶え絶えに

「も、申し訳ないが…後にしてくれないだろうか!?」

 と返した。

 確かにこの状況で聞く事じゃ無いなとコキュートスは思ったので、残りの天使をハルバートと氷の針で殲滅し、魔法詠唱者の大半も続けて薙ぎ払い殲滅すると隊長らしき男に狙いを定める。男は自身の背後に控えさせていた天使をけしかけるが、それをハルバートの振り下ろしで叩き割ると狼狽し、懐を弄った後

「最高位天使を召喚する!」

 と魔封じの水晶を構えた。その姿にガゼフはまずいと攻撃を仕掛けようとするが、コキュートスはそれを手で制する。

「コキュートス殿!?何故止める、奴は最高位天使とやらを召喚する気だ!」

「ガゼフ殿、我ハ強者トノ闘イヲ所望スル。最高位天使デアレバ相手ニトッテ不足ナシ。是非トモ闘ッテミタイ。」

 これを聞いた男はほくそ笑んだ。本来、召喚するまでの時間を稼ぐ必要があったのだが、既に部下は全滅していた。止められる可能性を承知で遅過ぎる切り札を切ったのだが、相手は止めようともしない。勝った!と確信していた。

「馬鹿め!己が力を見誤り、最高位天使の威光の前に平伏すが良い!」

 召喚された最高位天使(?)を見たコキュートスはがっくりと肩を落とした。

「な…!?これが…最高位天使…!なんと言う凄まじい力だ…!」

 ガゼフは初めて見る最高位天使を見て焦っていた。コキュートスに止められ、召喚を辞めさせなかったことを心底後悔したのだ。これには勝てない。仮に自身が王国の至宝を身に纏ったとしても勝てそうに無い、そう思わされるものがあったのだ。ガゼフはチラリとコキュートスの方を見る。肩を落としているコキュートスを見て、彼ですら絶望していると感じ、自身の選択の愚かさを呪った。

 

「コノ程度ガ最高位天使トハ笑ワセル。」

 

 言うが早いかコキュートスはその両脚を持って巨体を宙に浮かし、二本の腕でハルバートを振り上げる。

「"善なる極撃"の前に沈…なに!?」

 召喚した余韻を堪能し、いざ攻撃を仕掛けようとしたら巨体が想像以上の速さで攻撃に移っており、既にそのハルバートを振り下ろさんとしていた。

 振り下ろされた斬撃は最高位天使をまるで紙のように叩き斬り、その斬撃の余波が自身にも伝わるのを感じた。視界が不思議な事にズレる。ズレる?何が起こっている?わからない。

 次の瞬間、死を悟り、自身の身体が最高位天使を叩き切った斬撃により真っ二つになっていることに気付いた。気付いたと同時にその身体は崩れ落ち、事切れた。

「コキュートス殿…助かった。私一人では…いや、私と部下が居ても到底勝てない相手だった。協力に感謝する。」

「ガゼフ殿、武技ナル技ヲ伝授シテ欲シイ。」

 ガゼフは感謝の言葉を述べたが、当の本人………本虫は礼は良いから技を教えてくれという様子だ。

「んんっ!?あ、あぁ…無論教えるのはやぶさかでは無いんだが…」

 ガゼフはコキュートスに現在王の命令を受けてここにいる事、命令が済んだ以上報告を含めて王都に戻る必要がある事を説明し、すぐに教えるのは難しいと説得した。

「ガゼフ殿、ドウニカシテ街ニ入レナイダロウカ」

 ガゼフの部下とエンリ達が待つ場所に帰る際、コキュートスはガゼフに相談していた。四つ腕、青白い巨体、昆虫の外見、全てが人間とかけ離れたその姿でどうすれば混乱をもたらさず街に入れるか…というかガゼフについて行き、師事を請えるのかコキュートスには考えても分からなかった。

そして、そんなものガゼフにも分からなかった。

 

……………

 

 エ・ランテルに入ろうとした時、エンリ・エモットは全力で止められた。

というか、その背後に立つ二足歩行の以下略が異質過ぎて門に近づけてすら貰えなかった。

 エンリの妹…ネムと慣れた手つきで戯れるコキュートスを遠目に観察しながら、ガゼフ、エンリ、エ・ランテルの門番は話し合っていた。

「…ですから、コキュートスさんは魔物を倒した時にその呪いを受けて昆虫の様な姿に変えられてしまったんです。」

 とエンリは事情を説明した。嘘を吐くのに申し訳無さはあったが、恩虫のコキュートスに協力したいという気持ちもあったのだ。

「な、なるほど…確かに見た目ほど害はなさそうですが…」

「私からも頼む。彼の安全は私が保証しよう。」

 とガゼフが身元を保証した。王国最強の騎士が安全だというのなら受け入れよう…という気持ちになって欲しいとガゼフは顔に出しはしないが必死に祈っていた。

 因みに、コキュートスは当初魔物の呪いで今の姿になったという案を「我ガ創造主カラ賜ッタコノ姿ヲ呪イノ姿ナド不敬デアル!」と怒ったのだが、他に手が無いと半日掛けて説得したところ不本意ながら受け入れた。

 エンリは兎も角、コキュートスがエ・ランテルに入る理由としては、王の住まう都市にいきなり異形の姿で入るのはガゼフの立ち合いがあっても無理だと言う判断からである。まずはエ・ランテルで異形の呪いを受けた冒険者として名を売り、その存在を十分に人々に慣らしてからという作戦だ。ガゼフは本来王の警護などで王城から中々出られないのでこの方法以外思いつかず、エンリ達の住んでいた村からエ・ランテルへの道中に武技のいろはを口頭で教わったコキュートスはとりあえず独学で鍛錬しつつ、冒険者として名を挙げるのが目的となった。

冒険者組合に入った瞬間、全員が目を丸くしてコキュートスを見て武器を手にしたが、よく見ると女の子を肩車しており、そばにいる女の子が必死に無害ですとアピールし、コキュートスが

「冒険者登録ヲシタイノダガ」

 と言った後どよめいた。

 エンリによる必死の事情説明と、ガゼフ・ストロノーフの身元保証を信じて冒険者登録された。

 

…その後、紆余曲折と様々な偉業をもって、コキュートスはアダマンタイト冒険者になるのだが、それはまた別のお話。

 

 今日も人気のない丘の上で一人の………一匹の蟲王"ヴァーミンロード"が武器を振るう。

「武技…斬撃ッ!」

 その手に持つ剣は錆も刃溢れもない、実に美しい青白の刀身をしていた。

 

- ヴァーミンロード 完 -




〜言い訳〜
初めに言い訳ですが、私アニメ以外オーバーロードの作品に触れておりません。
ご容赦ください。(震え声)

と言うわけでコキュートス単身で転移したらどうなっちゃうの?というお話でした。
ニグン救済?しません。(無慈悲)

楽しんで頂けたら幸いです。

〜捏造設定〜
・至高の御方々関係の台詞
・コキュートスの移動速度は転移世界基準では早い方という設定
・1500大侵攻の際にコキュートスが何人か屠ったということ、及びやられ方
・鎧のプレイヤーと死闘を演じて腕を二本切られた云々
・コキュートスが探索系(関知系)スキルを使えない(多分使えないよね?)
・コキュートスの自己再生スキル云々
・コキュートスの行動理念全般(エンリ達を助けるとかその辺)
・ナザリックとかモモンガ達を感じない事+探そうとかってしない事
・王国の人達がコキュートスの姿を受け入れちゃう事
・コキュートスが武技を使える様になる事
・コキュートスが最後に使ってた青白い刀身の剣
ほぼ捏造だな???

〜追記〜
1話完結と言いましたが、書いたみたら書いてみたで案外短髪の小話くらいなら書けるなと思ったので、
半続編の小話集を執筆中です。期待せず待っていただければと思います。

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