ヴァーミンロード   作:ベルゼバビデブ

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特別小話 漆黒と氷獄


ヴァーミンロード特別小話

-特別小話 漆黒と氷獄-

 

 ある日のこと、帝国から定期的に送られてくるジルクニフの手紙を読んだコキュートスはエンリに「暫ク留守ニスル」とだけ伝えて王国を出た。元々コキュートスはこちらの文字読めなかったが、幾分時間だけは余していたのでどうにかこうにか大概の文章を読む事と簡単な文章なら書く事ができるようになっていた。いつかコキュートスは自身の武芸を綴り世に広め、強者を増やしいつか己に匹敵する強者が現れることを願っていたりするが、それを聞かされていたブレインは自分が代わりに書くから是非読んでみたいなどと思っていたが口にはしなかった。

 話は戻るが、今回何故コキュートスがこれほどまでに急ぎ王国を出たかと言えばジルクニフの手紙の内容に全ての原因がある。肌身離さずもはや体の一部ともいうべきハルバートを片手に朝昼夜と問わず雨降れども風吹けども何のその、たまに襲いくるアンデットや魔物を速度ある突進のみで打ち捨てる程夢中で駆け抜けるコキュートスは只管に止まる事なく帝国を目指していた。

「陛下の言う通り、王国との最短ルートを本当に直進してきたわね…」

 半ば呆れたように駆けるコキュートスを眺めてそう言うはレイナースである。かき上げられた前髪は今昔変わらぬ美しい顔と、今尚悍ましい呪われた顔を晒し、すっかり堂々としたものであった。彼女はアレからも鍛錬を重ね、ついでに呪いごと愛せる器量を持つ殿方を見つけんと女を磨いたりしていた。因みに今のところ成果はない。

 コキュートスは視界にそんなレイナースと馬車を捕らえスピードを落としやがて立ち止まるとレイナースへ声を掛けた。

「久ジブリダナ、レイナース殿。」

「あぁ、コキュートス殿。また会えて嬉しいですよ。さぁ、こちらの馬車にお乗り下さい。その為に私はここで待っていたのですから」

 レイナースは馬車と言ったが、その風貌はどちらかというと荷車である。但し、普通の荷車ではない明らかにデカくゴツいし、それを引く馬も普通の倍は居る。規格外の存在たるコキュートスを載せて走るにはそれだけの頭数が必要であったし、寧ろ帝国は短時間でよくやった方であるとも言える。そんな訳でコキュートスも好意を無下にはできず馬車に乗り、レイナースと向かい合う。馬車は走り出すが、そのトップスピードは正直言ってコキュートスと大差はなく、寧ろ少し遅かった。

「シテ、我ニ匹敵シウル者ガ居ルトハ本当ダロウカ」

「えぇ、少なくとも武王を軽く捻る程の強者であることは補償します。」

 コキュートスはイマイチ彼らの物差しに懐疑的ではあったが、あの武王を軽く捻ると言うのであれば最低でも今の刃向助並はあると予想し、強者との対峙を心待ちにしていた。

 

「ムゥ…早イ…ソレニ中々ノ力ダ」

 コキュートスはグレートソード二刀流の漆黒の騎士からの斬撃をハルバートで受け止め、その力と速さを冷静に評価していた。

「私の力を"中々"と評するとは、しかし今のはほんの小手調べ。アレでわかった気になられては困りますとも」

「!」

 先程とは見違える程の斬撃、硬い動作から放たれた先ほどとは打って変わり、まるで水流のような身体の滑らかな動きは実に美しく、特に腕部は先ほどの撃ち合いで知り得た重量を振るうとは思えぬほどであった。

「ヌン!」

 コキュートスは咄嗟にブロードソードを両手に構え、グレートソードを受け止める。

「武技-流水加速-…しかしこれを止めますか」

 コキュートスは確信した。この敵は強い。記憶にあるツアーという強敵、確実にアレに匹敵すると。その一瞬、コキュートスが思考する一瞬に漆黒の騎士はコキュートスとの距離を詰めていた。振るうはグレートソードの一撃。止めるは簡単…に見えるが、コキュートスの武人としての勘が警告を鳴らした。

 

 結果、ブロードソードを交差し、受け止め、コキュートスは後ろへと吹っ飛ばされた。

 

「武技-重撃-…しかし見事ですね、ダメージを受けているようには見えない。」

「見事ナ一撃ダッタ。片手デ止メテイレバ腕ガ捥ゲテイタ」

 そんな会話を聞き、彼らの手合わせを見ていたレイナースはグロテスクだな、などと考えていたし、コキュートスにそれほど言わしめる彼の実力に少し嫉妬していた。

「ところでコキュートス殿、打ってこないのですか?」

「良イノカ?腕ガ捥ゲルカモ知レヌゾ」

 コキュートスの発言は本気であった。彼が本気で振るうハルバートならば並みの人間の腕など軽く捥げる。捥げない場合は砕け散るのだ。

「良いですとも。」

 漆黒のフルプレートに身を包む偉丈夫はグレートソードを交差し構え、コキュートスの一撃に備える。それを確認したコキュートスは冷たく息を吐き、ハルバートを握る手に力を込めた。

「武技-斬撃-」

 コキュートスの体がズレたかと思えば、瞬間既にハルバートは振りきられていた。レイナースには何が起きたか分からず、気付けば漆黒の騎士も姿が見えない。よく見れば地面には何かを擦ったような跡があり、もしやと思い視点を動かせば、グレートソードに寄りかかるように膝をつく漆黒の騎士の姿を捉えた。

「武技-不楽要塞-…」

「…耐エタカ、素晴ラシイ!素晴ラシイ強者ダッ!」

 続け様の振り下ろしをグレートソードでいなしつつ、そのまま地面に突き刺すとそれを支点に体全体を使い遠心力を伴う一撃を振るった。それをコキュートスは2本のブロードソードで受け止める。

「ソウ言エバ名ヲ聞イテイナカッタナ」

 コキュートスは距離を取る為に放たれた蹴りをハルバートの柄で受け止めつつそう投げかけた。

「名前ですか?良いですとも、私はモモン。ワーカーのモモンだ。」

「モモン殿カ。」

 その名前にどこか懐かしさを覚えつつ、コキュートスノはモモンの次の動きに目を光らせていた。モモンは突き立てたグレートソードをブラインドにし、もう一方のグレートソードをコキュートスへと投擲した。すかさずそれを弾き飛ばすコキュートスだったが、コキュートスはそこで己の浅はかさを感じ取った。

「余リニモ軽過ギルッ…!」

 咄嗟の回避。巨体を右へと転がるように動き、腕への痛みを感じれば左腕の一本が切り飛ばされていた。

「コレハエドストレームト同ジ魔法カ…!」

「驚きました。まさか今の攻撃を回避されるとは」

 今までの撃ち合いで隠し切った切り札たる一撃、モモンは魔法が使えることを隠していたのだ。ただの投擲ではなく、舞踊による操作を受けた投擲、弾いたと思わせて不意を討つ一撃だった。続けるはモモンの回転斬撃、モモンは二つのグレートソードを構えそのまま道楽のように自身を回転、飛行と舞踊の魔法を同時使用し、流水加速によるスピードを上乗せしたその一撃…否、無数の連撃はコキュートスを追い込んだ。

両手のブロードソードで弾けど弾けど高速回転するモモンのグレートソードは止まらない。とはいえ一度過てば簡単に次の腕を刈り取られてしまうことは明白だった。

 ならばと次の手を打つのはコキュートス。伊達に毎日鍛錬を積んでいない。魔法こそ使えないが、至高たる御方々から賜りしはスキルがあった。日に制限こそあれど、並みの劣勢などひっくり返し得るそれらに会得した武技が有れば敗北など有り得ない。

「見事ダ!モモン殿!」

「そちらこそ。コキュートス殿。」

 更に速度を増すモモンの回転斬撃をブロードソードで弾くコキュートスは的確に襲いくるグレートソードを弾きつつその右腕を右回転、そして左腕を左回転させ、徐々にその速度を増していく。その必殺の動きにモモンは気付けない。己の回転速度が上がり続ける以上、それに対応するコキュートスの回転が早まることに疑問を抱けなかった。それが不味かった。

 

 コキュートスは氷獄たる蟲王"ヴァーミンロード"である。当然氷や冷気と言った力を扱う事は容易だ。高速回転する両手に合わせ、冷気を送り続ける。コキュートスの持つスキルの片鱗たるそれは徐々に低温となっていき、次第に景色を白く染めていく。

 

…側で見ていたレイナースもあまりの事態にガクガクと顎を鳴らし身体をさする。そんな事をしても焼け石に水…否、この場合は氷山に水と言った感じである。

 

 モモンとしても止まるわけには行かず、攻撃を繰り返していたがある時自身の回転が鈍っていく事を感じた。感じた時には遅かった。限界まで達していた周囲の空気が瞬時に凍てつき氷塊を成していく。特に冷気の発生源たるコキュートス周辺にいたモモンはあっという間に氷に体を絡め取られ身動きが取れなくなってしまった。

「コレゾ武技-氷獄-ダ。」

「…完敗だ。コキュートス殿。」

 流石に氷で身動きの取れなくなったモモンは敗北を認め、コキュートスと武器を下ろした。切られた腕はまだ戻らないが、暫くすれば生えてくるので問題はなかった。

 

 しかしながら、ここで問題が起こる。

 

「…済マナイ、我ハソノ氷ヲ溶カス術ヲ持ッテ居ナイ」

「…え?」

 コキュートスがただ自身のスキルで凍らせたのであれば即時解凍が可能だ。しかし、今回はそうではない。コキュートスが行ったのは冷気の放射に武技の力を合わせた物だ。どういうわけか武技というコキュートスも理解しきれていない技術と掛け合わせたこの技による氷塊はコキュートスにも解除できない。モモンの顔から血の気が引いていく。勿論フルヘルムなので周りからは分からないが、モモン自身にはそれが分かった。

「レ、レイナース殿!直ぐにフールーダ・パラダイン氏をお連れ願いたい!!!このままでは凍え死んでしまう!!!」

 

 この後、馬車を駆り爆速で帰ったレイナースとコレまた爆速でやってきたフールーダの尽力によりモモンが一命を取り留めた事は言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コキュートスの旦那、戻ってたんですか」

「ブレインカ、今戻ッタ」

 ブレインは心なしか満足げなコキュートスを見て少しだけ察した。

(旦那を満足させる相手と闘えたんですね、そいつは良かった)

 暫くブレインがコキュートスの様子を見ていると、コキュートスは徐にブロードソードを取り出し、軽く素振りを2回、ガチガチと顎を鳴らした後、空気を裂くような一振りを1回、2回、次に何やら刃物に液体を塗り、再度振れば瞬く間に刃が炎を帯びる。

「フム、紅蓮一閃ガアレバ今後氷ヲ溶カスノガ捗ルナ」

 そう、コキュートスが塗っていたのは油、ブレインが必死な思いで到達した居合と刃の高速振動を掛け合わせて発動させる必殺の武技-紅蓮一閃-をコキュートスは物の数回で体得してしまったのだった。

「旦那ァ!あんまりでさァ!!」

 

 その日ブレインは一人路地裏で頬を濡らした。慣れたのは涙か、はたまた降っていた雨か、それは誰にも分からない。




〜言い訳〜
●このモモンは何者?
・ヴァーミンロードだけどエイプリルフール次元だと思ってください。
・モモンさんは原作のモモンさんでも中身がモモンガだったりもしません。ガワだけのオリジナルキャラクターみたいなもんです。
・今後は出ません。
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