ヴァーミンロード   作:ベルゼバビデブ

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小話14 コキュートスのお財布事情


ヴァーミンロード小話集Ⅵ

-小話14 コキュートスのお財布事情-

 

「金ガ…」

 元ナザリックの第五層の階層守護者であり、現唯一の単独アダマンタイト級冒険者"氷獄"のコキュートスはその四つ腕を組みウンウンと唸っていた。そう、コキュートスは悩んでいたのだ。

 

「金ガ、多イ!」

 

「随分贅沢な悩みですね…」

 コキュートスとは師弟としてそれなりに打ち解けたブレインは素振りをしつつコキュートスの悩み(?)に対して相槌を返した。生きているだけで金の減るブレインにとって「金が多い」などと言うコキュートスの発言は実に贅沢に思えたのだ。

 

 しかし、コキュートスの悩みも無理はない。アダマンタイト級冒険者であれば当然多少の依頼は飛んでくる。(コキュートスにとっては赤子を捻るように倒せるが)ギガントバジリスク討伐が良い例だった。更には若干の勧誘を兼ねてか、ジルクニフから度々「騎士達に稽古をつけて欲しい」と言う依頼が来るため、コキュートスの懐は潤い続けている。更に懐事情に拍車をかけるのがコキュートスの出費だ。コキュートスはヴァーミンロードである。更に元はユグドラシルのNCP。ではここで問題である。

 

Q.コキュートスは宿に泊まりますか?

A.いいえ、泊まりません。野宿で十分です。というか横になれるベッドがありません

 

Q.コキュートスは飯屋でご飯を食べますか?

A.いいえ、食べません。というか普通の人間のご飯はコキュートスには合いません。

 

Q.コキュートスは依頼前に補給をしますか?

A.いいえ、しません。食事睡眠は前述の通り、さらにこの世界の水準ではポーション等も不要。武器は自分で手入れが可能(しなくても切れ味に影響はない)。というかコキュートスが強すぎるので補助アイテムすら不要。

 

 そう、コキュートスは殆ど出費がないのである。収入があって出費がないのだからお金は当然貯まっていく一方なのだ。そしてコキュートスは富の独占など本望ではない。故にどう使えば良いか悩んでいるのであった。しかし元々武人肌のコキュートスは考えるのは苦手である。なので四つ腕を組んで唸ってみても良い考えなど浮かばなかった。そしてそんな様子を見かねたブレインはある事を思い出す。

「そう言えばコキュートスの旦那は強者を求めてるんですよね?」

「アア。刃向助ヲ育テイルノモソノ為ダ。」

「なら金を払って来て貰えばいいんですよ。自分が強いと思ってる相手に」

 

 コキュートスに電流が走った。

 

 

 

 

「ねえ見てよ。変な依頼が貼ってあるよ?」

 ピンク髪に神官服の女が仲間のフルプレートの女騎士に声を掛けた。

「何々…?『求ム強者』…。随分シンプルな依頼ね…。」

 その時点では「変な依頼がある」程度に掲示板に貼られた依頼書を眺めている2人だったが、報酬を見た瞬間2人の目つきが変わった。

「「勝てたら白金貨100枚!?」」

 思わず依頼書を引き剥がし、2人は再度報酬の欄を一字一句睨み付けるように読んでいた。

「…勝てたら白金貨100枚か…」

「でもよく見たらコレ…アダマンタイト級冒険者の氷獄を相手にするってことでしょ?」

 見た目は抜けていそうだが少しだけ冷静になった女神官はそもそもの依頼内容を確認していた。そう、ブレインのアドバイスを得てコキュートスが打ち立てた金の消費方法とはアダマンタイト級冒険者でありながら「依頼を出す」であった。しかし、女神官が指摘するように単独のアダマンタイト級冒険者であるコキュートスを相手に戦いを挑む者など居なかった。当然である。青の薔薇と呼ばれる有名なアダマンタイト級冒険者でさえ優秀な四人組で構成されているのだ。それと同格の単体など普通の人間であれば尻尾を巻いて逃げ出すであろう。

「待って。『勝てずとも戦いの中で得るものがあれば金貨10枚』とも書いてある。」

「得るものって何…?」

 ちなみにこの一文はブレインが提言して書き出したもの。当然である。コキュートスに勝てる者など居るはずがない。であればお金は減る事はない。ならばと提案したのが「何かしら得るものがあったら授業料として金を払う」であった。更に書かれた注意書きの「氷獄のコキュートスは優秀かつ強力な冒険者である為手合わせの中で致命症を負わせるような失敗はしない」の一文に2人は顔を見合わせる。

「アダマンタイト級冒険者と手合わせして、一矢報いたら金貨10枚か…」

「失敗してもアダマンタイト級冒険者の実力は見れるわけだしいいんじゃない?急ぎの依頼もないし」

 女神官の提案に女騎士は少しだけ悩んだがやがて首を縦に振った。

「そうだな。2人が戻って来たら受けてみるか」

 

 リリオットと2人で受けることを決めてしまったが…いざ氷獄のコキュートス殿を目の前にすると正直気が引けてしまう。コキュートス殿はとある魔物の呪いを受けて青白い外骨格の巨大昆虫のような見た目になったと聞く。そして圧倒的な強さを誇るとも聞いた。だがまさか四つ腕とは思わなかった。

「なぁスカマ、リリオット…本気であれとやり合うのか…?」

 男の癖に既に逃げ腰…チームの仲間として情け無いな…。

「あの背中…氷でしょうか?ならば私の"火球"が有効かもしれません」

 反面流石はチーム最長齢、相手を観察して既に有効な攻撃を考えてくれている。すると、四つ腕を組み仁王立ちしていたコキュートス殿か腕を解いた。

「我ハ…コキュートス」

 コキュートス殿の名乗りを受け、私は仲間の3人に振り返る。3人は小さく頷いた為、私がリーダーとして名乗る事にした。

「我々はミスリル級冒険者の四武器。そして私がリーダーのスカマだ。」

「四武器…。我モ本気デアレバコノ四本ノ腕ニソレゾレ武器ヲ持ツ。」

 そう言って広げられた四つの腕を見て思わず一歩引いてしまった。素手でこの威圧だ。四つも武器を持たれた時を考えたら…。

「…悪イガ、オ前達ニハ一本デ十分ダロウ」

 コキュートス殿はそう言うと空間に手を突っ込んだようにして腕を引き抜いた。なるほど、本気の時に使う武器もああやって何も無いところから手にするのだろう。見たことのない技術だ。…感心していて取り出した武器をよく見ていなかったが、その手には確かに武器が握られ…ていだが、それは刃も何も付いていない唯の棒であった。

「…我々にはただの棒だけで十分だと?」

「如何ニモ」

 …いくらアダマンタイト級冒険者であってもそれは流石に舐めすぎではないだろうか?

「…こちらは本気で行きますよ?」

「無論ダ。ソウデナケレバ意味ガ…」

 私はすぐさま駆け出し、後ろの3人にハンドシグナルを送る。

「"太陽光"!」「"下級俊敏力増大"、"加速"、"下級筋力増大"!」

「ホウ?」

 リリネットの太陽光で相手の目眩し、それと同時に私へのバフを掛けて一気に距離を詰める!

「"二重"ッ!」

 視界を奪っての奇襲、コレならば流石のアダマンタイト級冒険者であっても…

「次カラハ消音効果ノ有ルバフモ掛ケル事ダナ」

 私の攻撃はコキュートス殿の腕払いで弾かれでしまった。

「武器は封じたのに素手でスカマの攻撃を弾いただって…!?」

「目眩シト奇襲ノ手際ハ良イガフルプレートデハ音ガ出過…」

 

 カツン、と何かに何かが当たった音がした。

 

「…ム?攻撃ハ確カニ弾イタト思ッタガ。」

 そう、私の攻撃は二重により自動で二撃目が放たれるのだ。

「これはこの武器固有の二重と言う技です。」

 そう言ってトマホークを構え、半透明も見せるとコキュートス殿がコクリと頷いた。

「面白イ。」

 するとコキュートス殿は棒に付着していた粘着液…2人が魔法を放つ間に投げつけられ、床のタイルと棒を接着していた…を意に返さずタイルごと剥がして振り上げると私に振り下ろして来た。

「武技"重要塞"ッ!」

 武技を唱えてトマホークを掲げるが、ブチ当てられた衝撃は今まで受けたどんな一撃よりも重かった。

「うぐっ!?」

 その一撃はなんとか防げたものの、武技越しに私の手を痺れさせていた。

「武技ガ使エタカ、マダ見極メガ難シイナ」

 そう言って私は腹にコキュートス殿のデコピンを受け吹き飛ばされた。

 

「スカマ!」

 我々の連携は上手くいっていたはず…!それなのにスカマの防御を易々と跳ね除け吹っ飛ばした…コレがアダマンタイト級冒険者…!

「"火球"!」

 しかしながらコキュートス殿と我々の間にはまだ距離がある。間合いを詰めさせず魔法を…

「フッ!」

「そんな…!」

 コキュートス殿が軽く息を吐いただけで私の火球は掻き消えてしまった。

「ちょっと!後ろッ!」

 リリネットの声で後ろを振り返ると何故かそこにはコキュートス殿が立っていた。

「馬鹿なッ!?」

 恐らく…額を軽く小突かれただけだろう。だが、私の身体は吹き飛び、今にも壁に叩きつけられそうである。

「ふ、"飛行…」

 咄嗟に飛行を唱えるが速度は殆ど殺さず壁に叩きつけられてしまった。

 

「…勝負アッタナ」

 

 コキュートスの発言に残された四武器の2人は頷き降参するしか無かった。四武器が感じたのは圧倒的壁、1対4で不意打ちを仕掛けたのに傷一つ付けられなかった。完全敗北である。だが、コキュートスは金貨10枚をリリネットに渡すと心なしか満足気にその場を立ち去ったので有る。

 

 

「コキュートスの旦那、何か得られるものでもあったんですか?」

 素振りをするブレインが帰ってきたらコキュートスに言葉を投げ掛ける。するとコキュートスはその言葉に首を縦に振り肯定を示した。

 暫くしてコキュートスが大金を支払い手に入れたのは一振りの刀であった。しかし、その刀を見たブレインは首を傾げる。それもそのはず、ブレイン程の使い手ならば直ぐに分かったのだ。その刀の切れ味はコキュートスが元から持つ武器とは比べ物にならぬほど劣ると。そしてそれがコキュートスにわからぬはずはないと。だがコキュートスはその刀を抜き、軽く素振りをする。

「マァ、コンナモノカ」

 そしてコキュートスは刀を構え

「"二重"」

 と唱えた。

 

 瞬間、ブレインは理解した。コキュートス並の使い手が振るえば竹光ですら王国の至宝、レイザーエッジと遜色なくあらゆる物を切断するだろう。そんなコキュートスが手にしているのは二重を持つ武器。威力は本来の半分ほどだが持ち主と同程度の精度と速度で敵を自動攻撃する。しかし、コキュートスの攻撃であれば威力が半減したところでこの世界であれば致命傷レベルで有る。

「なっ…」

 そしてブレインが驚愕したのは同じ刀がもう3本あったからで有る。つまりどう言うことか?

 

 実質2回行動のコキュートスが爆誕した。




実質四十八光連斬
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