デイジィ 女剣士
アベル 勇者
サマンサ 豪商の令嬢
ローラ 謎の女
マイク 謎の剣士
カナック ターバンの男
ダナック 油断ならない男
ジョージ アッサラームを牛耳る豪商
十三歳の頃から世界中を旅して来たあたしにとっても、アッサラームの街並みは新鮮だった。
様々な国から人々が訪れ、彼らの持ち寄った文化がこの地で融合する。夜の街路には赤や青の派手な照明が林立し、うるさいほど眩しい。でも、街に張り巡らされた水路を進む遊覧船からの眺めは美しい。
あたしたちはカザーブを起ち、アッサラームにやって来ていた。そこで最初に興味を持ったのがこの遊覧船だ。宿を抑えると早速アベルはあたしの手を取った。
「早くあれに乗ろうよ」
田舎育ちのアベルは、バラモス討伐の世界旅を終えたというのに、都会に来るとはしゃいでしまうようだった。
「ああ」
あたしは笑顔で答えた。
遊覧船に乗り込み、窓を向いて二人並んで座った。あたしたちはぶどう酒で口を濡らし、肩を寄せ合った。
「アッサラームも凄いところなんだな。オイラ、ドランの都を思い出すよ」
「そうだろうな。ここもドランと同じで、世界でも五本の指に入るほど発展している町だからさ」
「賑やかで明るくて、こっちの方が好きかもしれないよ」
言われてみれば、ドランの都にいたような怪しげな連中は見当たらないし、周りで騒いでいる奴らも底抜けに楽しそうだ。
「オイラたちがバラモスをやっつけたことが、もう伝わってるのかな?」
そう言って、アベルは歯を見せて笑った。
「あれから一月経ってる。これだけ人の出入りの多い町なら、もうアリアハンから噂が届いてるだろうな。やっと恐怖から解放されたんだ、楽しく騒ぎたくもなるだろうな」
アベルがあたしの肩を引き寄せた。
「一緒だな。オイラもデイジィと楽しく旅がしたいよ」
船は水路を進み、一時間かけて繁華街を一周する。その間あたしたちは食事をしながら静かに夜景を眺めていた。アベルにもたれ掛かっていると、身体が火照り、頭がぼぉっとした。
あたしたちは宿に戻った。今回は豪華な宿を抑えた。スイートルーム。値段は張るが、懐の暖かいあたしたちには問題ない。ドランの都では安宿しか取れなかった。あの時はヤナックもモコモコも一緒の大所帯で町も旅人でごった返していたから宿が取れただけ助かった。でも、今回はアベルと二人きりの滞在なんだから、贅沢をしたい。
そういえば、あたしが弟を探して旅をしていることをアベルに告げたのドランの都でだった。人買いがドランで商売をしているという情報を掴んで、漸くその地に辿り着いたというのに、いくら探しても弟に似た男の手がかりは探し出せなかった。
港で悔しさに打ちひしがれている時にアベルに声をかけられ、初めてあたしの旅の目的を打ち明けた。アベルは、自暴自棄になりかけていたあたしを優しく励ましてくれた。
あのときは明確に意識していなかったが、はじめて異性に心惹かれた瞬間だった。そして今、その人と想いが通じ、アッサラームの宿で二人過ごしている。
次の日、あたしたちは街を散策した。アベルはあたしを気遣って洋服屋や宝石屋、カジノに連れて行ってくれた。意外にもアベルはギャンブルが得意なようで、ルーレットを楽しんでいた。
「また当たりだ。やるじゃないか」
「オイラがこれだと思うと、なぜか当たるんだよ」
「へぇ、でもそんな小金を稼いでどうするつもりだ?」
「何もないさ。デイジィが隣にいてくれたら、それでいいよ」
「馬鹿……。でも、いずれは馬車なんか買って、もっとゆったりと旅するのもいいかもな」
あたしたちは笑い合って、ルーレットを続けた。
その日は街並みを一通り見たので、次の日は別行動を取ってみることにした。昼過ぎに宿屋を発って、夕方に戻る。何を見て来たかを肴に、二人でしっぽりと飲むつもりだ。
アッサラームの町には様々な店が立ち並ぶ 。珍しい装飾品や服、食器など。ただ、どうしても眼が行ってしまうのは武器だった。 バスタードソードやドラゴンキラー。どれも一級品だが、あたしの隼の剣に勝るものは見つからない。
武器屋から出ると、その向かいには黒幕を垂らした怪しげな店があった。
「何だぁ、この店は?」
毒や魔法の薬を扱う闇の道具屋だろうか。興味をそそられ、黒幕をくぐってみると、そこは煌びやかな服を扱う店だった。ブレスレットやネックレス、ナイトローブなんかが置いてある。なんでこんな怪しげな店構えしているんだろうか。
店の奥に進むと、女物の下着が多数飾られていた。赤や青の原色に染められた、派手でかわいいパンティやブラジャーが並んでいた。
「何かお探しですか?」
店員に声をかけられた。
「ちょっと気になってね。何かお勧めのものはあるのかい?」
せっかくだから、色々と聞いてみたい気になっていた。
「どのようなものがお好きでしょうか。かわいいもの、セクシーなもの、男性がお喜びになるものなど、多数取り揃えておりますよ」
「お、男が悦ぶものぉ?」
いきなり飛び出た卑猥な言葉に、つい反応してしまった。
「はい。この店には女性の身体をより魅力的に見せるためのアイテムを取り揃えております」
そうか、ここは夜の営みのためのグッズを扱う店だったんだ。だから入り口から中が見えないように黒幕を垂らしていたんだ。
「そ、そうだなぁ……」
声がうわずった。
よく考えてみたら、下着のデザインなんて気にしたことがなかった。そもそも人に見せることなんて想定してなかったし、世の中にどういう下着があるかも判らない。だから、白い布で出来た簡単な作りのパンティとブラジャーしか持っていない。
でも、今では毎朝毎晩アベルに下着姿を見せている。アベルだって女の身体に欲望を持つのだから、少しは目で楽しませてあげることも考えた方がいいのではないか。
「今日はとても良い物が入って来たんですよ」
あたしが逡巡していると、店員の女が口火を切った。
「今、世界で大人気の有名デザイナーであるエンデ氏がデザインした下着の上下セットです」
「エンデって、あの?」
その名は聞いたことがある。元々は鎧や兜の鍛冶で財を成した男だ。そこで得た資金をもとに、装飾品まで商材を拡げ世界で大儲けしているという話だ。いつの間に下着にまで食指を伸ばしたのか。
「はい。こちらでございます」
そう言って女が見せたのは、黒い布で編まれたパンティとブラジャーだった。生地が薄い。パンティの後ろに、女の顔が透けて見えていた。
「な……こ、これは……」
言葉が出てこなかった。
こんな布では局部を隠すことはできない。これを着てアベルの前に出たら、布の裏を見透かされてしまう。ほとんど裸も同然だ。
こんなのを身につけた自分の姿を想像すると、耳まで熱くなった。いったいエンデというのは、どんなスケベジジイなんだ。
恥ずかしさのあまり、下着を突き返そうとした時だった。
「とてもエッチな下着ですので、これを着てあげるとどんな淡白な男性でもお喜びになって、激しく求めてくると評判なんですよぉ!」
聞き捨てならないセリフだった。
アベルは淡白などころか、ベッドの上では凶悪なモンスターのように激しい。そんな男が更に凶暴になったらどうなるのか。
「男性は、女性の頼りない部分に欲情するようです。こんな薄手の生地なら、あなたのような意志の強そうな女性も、頼りなく見せてあげられますよ」
「そ、そうなのか……」
確かにあたしは、どちらかと言えば弱そうに見える女ではない。幼少期から剣ばかり振って、賞金首やモンスター相手に闘ってきたから、身体は筋肉質になり眼つきも鋭くなってしまった。そんなあたしを守れるほどの強さを持っているのはアベルくらいだが、もしかしてあたしでは物足りなかったりするのだろうか。
そう言えば、コナンベリーではか細いパフパフ娘相手に鼻の下を伸ばしていたし……。
「これを着れば、もっと魅力的に……?」
あたしに向けて獰猛な視線を浴びせるアベルの顔を想像した。
「このエッチな下着ですが、今ならお安くなって……」
固唾を呑んで待った。 あたしの耳元で、女の口から驚くべき価格が飛び出していた。
「四百ゴールドだとぉ!」
あたしは憤慨した。バカバカしいにも程がある。ドランの都では銅の剣がたったの二十ゴールドで売られているというのに、こんな薄っぺらい布切れにそんな金など出せるはずがない。
「はい。でも効果はてきめんだと評判です。お客様のような綺麗な方なら、どんな下着でも男性はお悦びになりますけど、これを着ていただけたらきっと……」
これ以上聞く必要はない。女の口を遮り、あたしは店を出ることにした。
バッグには四百ゴールドの代わりにエッチな下着が収まっていた。