「なぁアベル、あの宝石を換金してみないか」
あたしは皮の鎧を、アベルは勇者の服を身に纏い、いかにもといった旅人姿で歩いている。
アッサラームに滞在して四日目。ある程度街の雰囲気は掴め、現金を預かり所に入れた後だった。
カザーブで暴れ猿やキラーエイプを倒して手に入れた宝石を換金してみようと思った。預かり所の店員に聞いたところ、ジョージという豪商が原宝石の買い付けを一手に担っているということだった。
このジョージという男は、アッサラームの市場を牛耳る商工会の会長らしい。道具屋、酒場、宿屋なんかの表の商売はもちろんのこと、闇の武器や毒なんかも手広く扱っているらしい。
高い身分にある男だが、金儲けの話なら一見さんの旅人でも会ってくれるようだった。
あたしはアベルを連れて、さっそくジョージ邸へ向かったのだった。
「わぁ、これはずいぶん大きな邸宅だな!」
ジョージ邸は町の中心部にあった。大きな門があり、重厚な鎧を纏った門番がいる。一見お城のように見えるほど立派な作りだった。
「アベル、キョロキョロするんじゃないよ。田舎者だと思われたら、足元を見られるじゃないか」
あたしはアベルの耳を掴んで引き寄せ、その耳元に囁いた後、門番に 声をかけた。
「あたし達は旅の者だ。モンスターから手に入れた宝石を、ジョージさんに買い取ってもらおうと思ってね」
「なにぃ?」
門番の男は、あたしのことを舐めるように爪先から顔に向けて徐々に視線を上げた。
「確かに旅人みたいだが……何者だ?」
そう言われて、あたしはハッとした。賞金稼ぎのデイジィという名なら、アッサラームにも伝わっているかもしれないから都合が良いが、もしかしたらアリアハンから捜索願が出ているかもしれない。それはアベルも同じだ。
「オイラ、アぶっ!」
アベルが口を滑らせそうになったので、鳩尾に肘を入れて止めた。
「ルナ。あたしは賞金稼ぎのルナっていうんだ。こっちの男はトビー。あたしの相棒だ」
あたしたちの仮の名として、妹と弟の名を借りることにした。
「ルナにトビー? 聞いたことがねぇな……。まぁいい。本当に売るほどの宝石があるっていうなら、話は繋いでやるよ」
「疑うのかい? 証拠は見せてやるよ」
あたしは、ジョージに売り捌く物をまとめた宝石袋の口を開いて、門番に見せた。
「おお! こ、これは」
そこにはサファイアやルビーなどの宝石が大量に詰め込まれている。町の中で門番をしている人間には中々お目にかかれない量だ。
「頼んだよ」
その中の小ぶりな物を渡すと、門番は一度奥に引っ込んで、身なりの良い初老の男を連れてきた。
この男はジョージではなく、買い付けを専門にやっている担当者だということだった。この男にも宝石を見せた。
「これだけの宝石をどうやって手に入れたのですか?」
「モンスターを倒してね」
「モンスター狩りを生業にする旅人の方ですか。確か、ルナさんとトビーさんだそうで。これだけの量と大きさの宝石を手に入れるには、たいそう手強いモンスターも倒さなければならないでしょう」
「まぁね」
「かなりの腕前とお見受けしました」
「あたしたちはプロの賞金稼ぎさ。モンスター専門ってわけじゃない、人間の賞金首だって何人も引っ捕らえてるんだ。この剣だけを頼りにね」
あたしは隼の剣を抜いて、男の眼前で四度素振りをして見せた。
「おお……」
男は微動だにしなかった。
「あたし達は世界中を旅して回ってるんだ。宝石の換金をするのも一度や二度じゃない。正当な鑑定を頼むよ」
「わ、わかりました」
男は慌てたように身体の前で手を振り、宝石の品定めに取り掛かった。
灯りにかざしたり、ルーペを覗いたりと、じっくりと鑑定を続ける。
「この袋に入ってい物全てを併せて、一万ゴールドで買わせてもらいましょう」
「ほぅ……」
袋の中には二十三個の宝石が入っていた。平均すると一つ当たり四◯◯ゴールド以上。相場よりも高い気がするくらいの良い値だった。
アッサラームには一月くらい滞在する予定なので、一晩十二ゴールドの宿屋代で三百六十ゴールド。暴れ猿一頭が一月分の生活費になるのなら十分だ。
「……これからも頼むよ」
あたしは笑顔で現金を受け取った。
「また宝石が入ったら、ぜひお願いしますよ……」
宝石商の目が光った。
「ご両人は、用心棒なんかの仕事もしなさるんで?」
「あいにくと、あたしたちは気ままな旅を楽しんでるんでね。肩っ苦しい仕事は控えてるんだ。まぁ、報酬次第だけどねぇ……」
「良い仕事が出てきましたら、紹介しますよ」
「その時は頼むよ」
あたしたちはジョージ邸の出口へ向かった。長い廊下を歩いていると、誰かの話し声が聞こえた。若い女と中年の女のようだ。
「ダメですよサマンサ様!」
「いいじゃないの、メアリー! 四◯◯ゴールドくらい!」
サマンサと呼ばれた少女は、十五歳くらいだろうか。敬称を付けられているし、身なりもいい。ここの主人であるジョージの御令嬢だろうか? 手には大きな袋が握られている。
「金額の問題じゃありません! 繁華街で遊んだらダメだとジョージ様にきつく言われてるじゃありませんか!」
メアリーと呼ばれた中年の女は召使いか何かだろうか? 邸宅の出口で、サマンサの前に立ちはだかっている。
「私が無理やり奪って行ったってお父様に言っておきなさい!」
サマンサは怒鳴った直後、背後に立つあたしたちの気配を感じたのか、振り返った。
興奮気味にしかめられていた顔が徐々に緩められていく。
「あなたたち、誰?」
「ああ、そちらの方々はルナ様とトビー様。プロの冒険家だと聞いています、今日は宝石の取引に参られました 」
「冒険家?」
「そうです。お客様の前ではしたない真似はいけませんよ。さぁ、お部屋に戻りましょう」
サマンサはあたしたちの顔を見て、にっこりと笑った。
「へぇ、あなたたち二人とも若いのに凄いんだね」
「まぁね」
「どんなところを冒険してきたのかしら?」
サマンサは不躾に言った。
「知りたければ話してやるけど、金次第かな」
あたしは挑みかかるように笑い返した。
「冒険家だけあって気が強いのね。そんなんじゃ、隣の彼に愛想を尽かされるわよ」
「なっ!」
次の瞬間、サマンサは駆け出していた。メアリーの脇を擦り抜け、外へ出て行った。
「サマンサ様!」
あたしは、走り去るサマンサの背中を呆然と見送った。