呪術廻戦×「巣くうもの」(洒落コワ話より)ネタ   作:蜜柑ブタ

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かなり苦労しながら書きました。


呪いやら曰く付きの物が溢れているであろう高専に『巣くうもの』が行くとどうなるかというのを。

高専に行った瞬間に、というか呪術界の結界の近くや内部に入った瞬間に『巣くうもの』が牙を剥きそう……だったのでどう抑えるか悩みに悩みました。

でも被害は少なくないというのも。

あと、予定としてはこの場面で最初で最後となる原作では最重要位置にいた両面宿儺が登場し、ネタ内から退場します。





両面宿儺ファン超注意!!


原作キャラ死亡のタグを付けます。



それでもOKって方だけどうぞ。





いいですね?






SS3  命がけの教育現場と××××の一矢

 

 

 

「いつでもどこでも寝れるのが俺の長所じゃないの?」

 

 虎杖悠仁はキョトンとした顔をして首を傾げた。

 

 東北にある一般の高校から、東京都呪術高等専門学校、通称高専への転入が決定され、虎杖悠仁は高専の生徒として高専の学生寮で暮らすこととなった。

 祖父を亡くして間もなく、元々末期の病のため遠くない死亡後にしないといけない手続きをほとんど用意していたので15歳の子供でもできるように担当してくれていたお役所職員の手助けもあってすべての手続きを終わらせた。

 葬儀はしていない。これは死ぬ前に悠仁の祖父の頼みで葬儀無しの火葬と四十九日を待たずにすぐに納骨をした。墓に関しては虎杖家が代々眠るための墓があったので墓石のことは問題なかった。すぐにそれらのことを済ませるように祖父が頼んだのは、15歳という若すぎる孫息子が自分が亡き後に天涯孤独の身となるからできる限り負担を減らそうとしたのかもしれない。実際入院中は悠仁の一人暮らし状態だった虎杖家の中は必要なくなるであろう物を早々に片付けて処分し、東北から東京への引っ越しの荷物は引っ越し処分を含めてもかなり少ない方だった。

 身元を国の機関などに証明する書類や表向きは呪術師の専門の学び舎の生徒になるのだから、やるべき手続きや、やるべきことは色々とある。

 ましてや悠仁は体内には、『巣くうもの』と名付けられた得体の知れない凶悪な何かが住み着いている状態で、下手な呪いより圧倒的に危ない人間であった。厄介なのは虎杖悠仁自身が『巣くうもの』の存在を知らず、知らされていないことだ。

 

 そんな虎杖悠仁が高専に転入するのにやるべき重要なことのひとつは、まず健康診断だ。

 まあ、これは建前で、実際の所は体内にいる『巣くうもの』を怒らせないように気をつけながら調査するためだ。

 

「寝過ぎだ。」

 

 高専で医師として保健室にいる家入が事前に行うアンケート形式の問診の紙を手に、悠仁の日常生活について聞いてズバッと言った。そして言われた悠仁自身はそれが悪いことだという認識がなく最初での台詞を吐いた。

「成長期の育ち盛りで寝る子は育つと言うが限度があるぞ。長くても24時間以上寝るのは睡眠障害の疾患の疑いがある。周りに言われなかったのか?」

「すいみんしょうがいって…、不眠症とかああいうの?」

「眠れないのが不眠症。その逆が過眠症。いずれも何かしらの原因があって、体内時計が狂って起こるとされる睡眠障害の一種。ナルコレプシーというのは聞いたことあるか? 突然眠りに落ちてしまう症状だが、どこで、いつ、それが起こるか分からないせいで場所が悪いと高所からの転落や運転事故、倒れた際の打ち所で怪我や死ぬこともある。たかが眠気と思って甘く見るな。」

「は、はい…。」

「で…、虎杖、お前の症状についてはナルコレプシーと過眠症の疑いがあるが……。これといって眠気を誘発する薬も服用してもいないし、十代の若者に起こりやすい一般的な過眠症という可能性もある。それなら成長と共に変わるかもしれないが、改善しないようなら別の原因を突き止める必要がある。睡眠は肉体を回復させるもっとも有効な手段だが、睡眠が多ければいいというものじゃない。睡眠無呼吸症候群だった場合は、長時間の酸欠がもとで体内の血管に負担を掛けすぎて高血圧とかの生活習慣病とかが一気に進行し、10年も経たずに若くして死ぬかもな?」

「寝過ぎで死ぬってこと!?」

「原因によっては死ぬ確率がグッと上がるというデータがあるというだけで必ずしも早死にするとは言わん。生まれつきの体質というのは千差万別だから。」

「えっ? でも、さっき睡眠障害の疑いがって…。」

「医者目線で病という枠に嵌めると当てはまりそうだということだ。疑いは答えじゃない。問題の無い健康な人間の睡眠時間の差なんて大食いか小食の違いみたいなもんだ。」

「じゃあ、俺の場合は?」

「それはこれから詳しく調べないといけない。」

「えー…。」

「病気なんざ自覚した時点で手遅れってことは少なくない。健康診断が推奨されるのは、早期発見と日々の積み重ねで予防するためのもんだ。自分が問題ないって他人事の奴ほど自覚してから後悔するんだよ。アルコール依存症だの、タバコ依存症だのの末路はよく聞かない?」

「あー…、よく聞くっす…。死んだじいちゃんも肺がんって診断されて医者からタバコが原因かもしれないって言われてたし…。」

「若い頃の不摂生が将来に響くなんてよくあること。後悔先に立たずって言うだろう? 虎杖、お前が後悔しながら老後を過ごしたいなら止めないぞ?」

「できたら後悔を残さずに死にたいです。」

「それが理想だな。じゃあ、理想に近づけるように転入までに健康診断をしっかりするぞ。検査のためのスケジュールを立てるから都合の悪い日を教えろ。」

「もしかして胃カメラとかもすんの?」

「当たり前だ。あと、診るのは胃袋だけじゃないからな?」

「ひえ~!」

 それはつまり胃袋以外の内臓も診るために色々とするということだ。

 家入がそう説明し悠仁に高専への転入前の健康診断をやることとその理由を説明しているが、家入は本当の理由を知っている。

 すなわち本当に調べることは『巣くうもの』のこと。健康診断はそれを秘密にするための嘘だ。

 『巣くうもの』は悠仁の体内に住んでいるので特に内臓は調べたい。あと『巣くうもの』の存在が悠仁という存在にどう作用しているのかも知りたいところだ。

 そんなこんなで悠仁に本当のことを教えずに『巣くうもの』の調査が行われる。やる側は命がけだが。なぜなら『巣くうもの』の逆鱗に触れないように細心の注意を払う必要があるからだ。下手すると検査中に殺される可能性がある。

 命がけの調査は健康診断を装って行われ、なんとか無事に終了することができた。

 結果言えば、虎杖悠仁はびっくりレベルの健康優良児だった。

 身長に対して体重が重いが、これは身体を占める筋肉量が多いからであって、脂肪より筋肉の方が重いので問題は無い。15歳の成長期男子にしては運動能力を司る部分や肉体が発達しすぎている感があるし、天与呪縛による肉体全振りのフィジカルギフテッドであるのなら説明はつく。何かしらの欠点を持つ代わりに呪いのような縛りによって極端な長所を与えられている、そういう生まれつきの体質を指す。一般人でも稀にいる、例えば高い知力(IQ)を持つが善悪などの感情に欠陥があるなどがこれに該当するだろう。呪術師なら呪術師に欠かせない呪力がない代わりに肉体が異常に頑丈だったりする。その逆で呪術師としての力と引き換えに虚弱体質という例もある。

 とはいえ、『巣くうもの』という異物が体内に住み着いている悠仁の場合は、フィジカルギフテッドじゃなく、『巣くうもの』が体内から悠仁の肉体に働きかけて意図的に頑丈で身体能力を発達させることで生命力が高い肉体に育つようにしたという可能性が否定できない部分がある。

 寄生虫の中には、宿主の肉体に目に見えるほどの異常をもたらしたり、最悪思考さえ支配してしまうと言われる種がいると言われているからだ。例えば、カマキリに寄生するハリガネムシは、水辺に近づくよう宿主のカマキリを誘導するとされているし(※雨の日に死んでるカマキリはだいたいハリガネムシで死んでる?)、海外に住むカタツムリに寄生する寄生虫の一種は最終寄生先である鳥に寄生するために宿主であるカタツムリの長い目をイモムシのように変形させて鳥に食べさせる。(※ググる時は要注意。グロイので)

 『巣くうもの』が攻撃に入るときに悠仁を眠らせるのだから眠らせる以外のことをしていない可能性は低いようにも思われるが、『巣くうもの』自体が謎だらけなので疑惑は尽きない。

 しかし今現在のところ転入前の検査と六眼で観察した限りでは悠仁自身の肉体も魂も、間違いなく人間なのだ。レントゲンやCTとかそういう検査機器では『巣くうもの』を確認できなかった。もちろん内臓への内視鏡カメラでの視認もできなかった。

 ただ、体内のどこかにいる『巣くうもの』は存在している。悠仁が寝なくても、その身体から影のような黒い不定形が出てこなくても呪いや神霊などのすべての神秘を弾き、無効化し、あるいは破壊する。

 

 というか、こうなることは分かっていたはずなのだが……。

 

「あー…………………、言いたいことはメチャクチャあるのは分かりますよ? えーと…………………、とりあえずチョコ食べます?」

 

 五条が気まずそうにタハハ…っと笑いながら、五条が両膝、両手を床について項垂れている東京の高専の学長の夜蛾を見おろす。

 夜蛾の前には山積みのぬいぐるみ…のような人形のような…何かの残骸があった。

 それは呪骸(じゅがい)という呪物だったもの。そして夜蛾が製作した作品だ。出荷前の。明日出荷予定の。

「予想以上だったんですよね……。『巣くうもの』の発する力が呪物に及ぶす影響力の大きさが……。うわーー…、犬猫や熊とかの方がもっともマシに思えますね。生き物がやる殺し方じゃない。あれ…、あーアレだ。情も容赦のヨの字もない制御不能になったロボットとかの機械がただただ破壊するために破壊した感じ?」

 五条が目撃した『巣くうもの』がこしらえた呪霊のスプラッターホラーな惨殺現場を血が通っていない無機物の人形で行われたのが、眼前にある光景だ。

 なお、『巣くうもの』の影響による被害は夜蛾作の呪骸だけではない。

「…………………問題の………、虎杖悠仁は…?」

「寝てます。熟睡ってか、空爆どころか核弾頭が落ちても起きないような爆睡って感じでグッスリと。校門の前でいきなり寝てしまったので1年寮に運びました。」

「……………………………………自覚もなにもないということだったか………。」

「はい、おそらく『巣くうもの』が戦闘態勢に入ると、意図的に悠仁を眠らせているのかと。」

「…………………………………………………………………………ココ以外の被害をまとめて来い!!」

「イエッサー!! いってきまーーーーす!!」

 五条はビシッと敬礼をして呪骸が納められていた倉庫から急いで出て行った。

 

 高専側が『巣くうもの』に備えていなかったなんて無防備な真似はしていない。

 しかし備えていた予防策を超えて台風でも通り過ぎたみたいな被害が高専敷地内に起こってしまった。

 倉庫の呪骸の破壊は被害のひとつだが、武器として置いてあった呪物が半分以上ぶっ壊れたり呪いが消えたり、呪いにとっては大敵の神聖な神社のような場所で清められた聖なる神霊の力が込められた物もぶっ壊れるか力が消えたりなどなど、呪術を学ぶ学び舎が阿鼻叫喚になったのだった。

 

「ちなみに被害総額はどれくらいになりそうです?」

 その後、一通りの被害報告をまとめ終えて提出し、夜になる頃になって五条が学長室で突っ伏している夜蛾に聞いた。

 夜蛾は何も言わずに、顔も上げずに左腕だけ動かし、ある書類を五条に渡すように持ち上げたのでその書類を五条が受け取って内容に目を通した。

「うわ~~~~~…、上の腐ったミカンが何人首吊りしますかね? 呪術界の歴史に刻まれる首吊り祭りかいさ~い?」

「そんな祭りは冗談でも願い下げだ!!」

 突っ伏していた夜蛾がヘラヘラ笑ってそんなことを言う五条に我慢の限界なのか見える範囲の肌に血管浮かせて叫んでいた。

 夜蛾はこんな怒鳴るタイプではないのだが、今回の『巣くうもの』がもたらした被害総額にストレスがマッハになっているらしい。

 五条は学長室のソファーに腰掛けながら、京都にある高専の姉妹校の学長でもぶっ倒れそうだ、なんてケラケラ笑いながら物騒なことを言っていて夜蛾の頭痛を誘発していた。

 京都の方にも虎杖悠仁と『巣くうもの』の話は行っているだろうが、当事者でないから情報だけでは『巣くうもの』の恐怖は向こうには伝わらないだろう。

「京都のジジイも巻き添えにしましょーよ!」

「後任が決まっとらんのに、まだ死に追いやれん!」

 巻き添えにするのは否定しないが後任さえいれば死んでもかまわないという問題発言をするほどには夜蛾は追い詰められていた。

 なお、これは悠仁が高専に来て初日のことである。

 

 ちなみに自他共に夜蛾の息子扱いの、自我を持つ特殊な呪骸である高専2年生のパンダは、今任務で高専にいないので今回の被害者にはならずに済んだ。納品前の呪骸の破壊され方を見ればパンダがこの場にいたらどうなっていたかなど火を見るよりも明らかで、『巣くうもの』の攻撃の基準とそれを掻い潜る手段が見つかるまでパンダには高専に戻らないよう配慮されることとなった。もちろん攻撃対象の範囲のことも考えて、高専からは県を跨ぐぐらいの距離を取ることになっている。

 何も知らずに、何も教えてもらえずに『巣くうもの』の大暴れのことなど欠片も知らないまま、悠仁は夕ご飯頃に目を覚まし時計を見て寝過ごしたと慌てて宛がわれた部屋から飛び出し、外で伏黒とぶつかったりして、当初の予定より遅くなった高専内の案内とかをしてもらったり五条から今日は転入祝いに食べたい物食べさせてあげると伏黒も一緒に外食に連れて行ってもらったりしてご機嫌になったりした。

 外食を理由に高専から連れ出されたのは、高専内で破壊された呪物類の片付けの邪魔を『巣くうもの』にされないための配慮だったが、当然悠仁にそのことが知らされることはなかった。理由を察している伏黒は悠仁に真実を知られないようにポーカーフェイスを保ちつつも気遣いレベル高い善人の悠仁の嫌味の無い自然な気遣いと心の底から食べることを楽しんで料理を食べる姿にマイナスイオンを感じてホッコリしていた。そんな伏黒の心境を読み取っている五条は楽しそうにニコニコしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

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 あな憎しや……

 

 あな…憎しや……!

 

 許さぬぞ……、ああ、忌まわしい……呪わしい…!!

 

 

 

 どこまでも真っ黒く、上も下もすべてが黒くて光も欠片もない世界で、四つの目と、四つの腕を持つ異形の巨漢が呪詛を吐き出し続けていた。

 年輪を重ねた神木のように神々しいとさえ見る者に印象づけるたくましい肉体には、黒い模様が刻まれており、普通の人間にない身体特徴をより際立たせている。

 この異形の巨漢の名は、両面宿儺。千年以上も昔に存在した呪いの王と呼ばれ、現在まで最悪最強の呪いとして伝えられる存在であった。

 しかしその両面宿儺は、今、彼を知る者が目を疑うほどの無力な状態に晒されていた。

 ここがどこなのか両面宿儺は理解している。

 ここは、虎杖悠仁の夢の中だ。眠った際に落ちる無意識の世界だ。千年前に呪術師によって四つの腕にあったすべての指を残して死んだ最悪最強の元呪詛師の両面宿儺は肉体を失った状態で悠仁の夢の中にいた。

 両面宿儺の性格はまさに暴君であった。向かうところ敵無しと言えるほどの圧倒的な呪力と暴力で暴虐の限りを尽くして悪名を轟かせて残した。しかし今そんな暴君が千年以上未来で生まれ育った15歳の少年の夢の中で暴君ぶりはどこへやらで他者を憎み、呪いの言葉を吐き散らしている有様となっていた。

 

 両面宿儺は、『巣くうもの』に完全敗北したのだ。

 呪術師や呪詛師達が聞いたらまず信じられない事件である。両面宿儺が全盛期だった頃の時代の人間もみんな信じないだろう。

 それぐらいの大事件だ。

 

 両面宿儺の指は全部で20本あり、その1本1本が巨大な呪力を宿した壊れない屍蝋として最強最悪の呪物としてこの世のあちこちに散らばっている。

 その時々の状況などにより、指に宿る呪力を求めた呪霊や、呪術師、呪詛師が利用しようとして巡り巡って現在に至る。

 だが……、まさかこんなことになるなどとは、死んで指に宿る呪いになった両面宿儺自身も考えもしなかった。

 虎杖悠仁の先輩達によって封印が解かれた指は伏黒によって回収される予定であった。封印が解かれたことでダダ漏れになった呪力に惹かれて集まった呪霊により、学校が呪われた場所になるところであった。

 しかし恐れられていた事態はおかしい方向にぶっ壊れた。

 虎杖悠仁の中にいる『巣くうもの』が集まってきていた呪霊を惨殺し、ついでとばかりに両面宿儺の指に宿る呪力を消し去りただの屍蝋に変えてしまったのだ。

 そうして『巣くうもの』に消し飛ばされようとしていた両面宿儺は運良く…運悪く(?)、あの場で寝ていた悠仁の夢の世界にたまたま引っかかりあの時に完全消滅するのを免れた。

 だが免れたと言っても少しだけ延命しただけに過ぎない。現に今夢の世界にある両面宿儺の形、意識、記憶などのすべてがなんとか存在しているだけであって、そこにかつての呪いの王としての力は欠片もないのだから。

 取るに足らない人間の小僧の夢の世界にくっついた汚れ同然の状態であることも、こんな形ではあるが得体の知れない存在である『巣くうもの』に負けてこんな状態にされたことも。

 絶対壊れない呪物であるはずなのにただの屍蝋になったのだから、他の指も同じ末路を迎えるだろう。指1本ぐらい残っていて運良く適合する器に入れたとしても、完全復活にどれぐらいかかるのか……。そもそも他が完全消滅した状態で一欠片だけあってもそこから再構築したものが果たして本物と言えるのだろうか?

 腹は立つが伊達に呪いの王の異名を持っているわけじゃないぐらいには執念も持ち合わせている両面宿儺は、夢の中にいると理解した瞬間には夢の中を通して復活したら悠仁の肉体を利用するなり体内から猛毒になってやって『巣くうもの』を苦しめ抜いて殺してやろうと考えていた。

 しかしすぐにダメだと分かってしまった。

 なぜなら悠仁は『巣くうもの』のせいでとにかく呪いを含めた神秘の力がはね除けられてしまう。つまり悠仁は呪術の根本的な源である呪力が欠片も無いし、生産できないし、外から呪力も流れてため込むこともできない。それすなわち、そんな悠仁の中にこびりついている両面宿儺は絶対に復活できない。力の源である呪いを供給できないから。両面宿儺ほどの意志力を持つ呪いなら呪力の自家生産もできるのだが、悠仁という超なんてもじゃない呪い系統無効化に引っ付いてしまった時点で終了のお知らせだった。

 さらには『巣くうもの』が自分が住んでいる悠仁という『家』を守るために『巣くうもの』が徹底的に動くことにある。『家』に何かあれば困るし、何かあればすぐ対応して解決する。もし両面宿儺が自らを毒として悠仁を内側から蝕もうとすればすぐに抗体を作ったり毒を分解して解毒をする。

 悠仁を含めた周りを利用する事も不可能。自力でも不可能。

 両面宿儺に残された道は、ただひとつ、悠仁の夢の世界で胃の中に落ちた食物と同じように消化されて溶かされ悠仁の養分になることだけだ。

 そんな自分の終わりをすんなり受け入れて感情を動かさないでいられるほど両面宿儺は潔くないし、下手に意思が残った呪いとして残っているのがこれほど恨めしく考えててしまうぐらいには自分に勝ち目がまったくないというのを理解してしまえる頭の良さがあることも憎悪などの負の感情に拍車をかける。だがどれだけ負の感情を燃やしても負けかが確定している己を虐めるだけで『巣くうもの』には毒にも薬にもならない。

 しかし伊達に呪いの王の異名で暴れた呪詛師で、自他共に最悪最凶の呪いとして現代まで残っていたわけじゃない。無意味なことに最後の時を費やして無駄にするのは馬鹿らしくなったと急に思考を切り替え、その瞬間に負の感情に煮えたぎっていた心境がスッと冷めた。

 冷めてしまえば残るのは諦めという無情だけしかない。どうにもこうにもならなくなる状況に追い込まれてしまうと呪いであろうとこうなるのだなと、両面宿儺は実感した。

 自分という存在が溶けて消えていく感じが早まった気がしたのは気のせいじゃないだろう。諦めたことで呪力の生産がほぼ止まり、延命する力が弱まったのだ。1時間で死ぬところが10分ぐらいに縮まったような感じだ。

 苦痛がないのがせめてもの救いと捉えられるかもしれないが、それが余計に空しくさせる。

 真っ暗な夢の世界に自分を構成していたすべてが溶けて散らばっていくのを四つの目で追う。キラキラと、粒子のように細かく溶けていく自分の一部が真っ暗な世界で月のない夜空の星のように見えなくもない。

 それをぼんやりと眺めていた両面宿儺であったが、ふと気づいた。

 溶けていく粒子がある方向へ流れて行っているのだ。緩やかな粒子の流れる様は小さな傷から流れ出る血液を澄んだ流れる川の水に流し続けてようだ。流れの先に行くほど薄まって見えにくくなるが、確かにどこかへ向かって流れていた。

 あの先に何かがある。両面宿儺はそれを直感した。気づいた時にはその流れの先を目指して移動していた。移動している間も自分が溶けていくがそんなのお構いなしだ。

 やがて、両面宿儺は見つけた。

 真っ暗な世界でほんのりと光って見える存在がいた。

 腹の中の胎児のように身体を丸め、眠っている間に見る夢の世界であるにも関わらずのんきにスヤスヤグーグー安らかに眠っている少年。

 虎杖悠仁。

 両面宿儺から溶けていく粒子は、まっすぐに悠仁の身体へと流れていた。

 それを理解した瞬間、両面宿儺の心に湧き上がったのは、狂おしいほどの喜びだった。

『ケヒっ!』

 彼独特の笑い方が無意識に口から漏れ、ゲラゲラと笑い転げる両面宿儺は目から涙が出るほど笑ったところで、すぐ近くで悠仁に顔を向けた。

 これだけ両面宿儺が騒いでも悠仁は微動だにしない。聞こえていないし何も感じていないのかもしれない。

『あな嬉しや…、あな嬉しや!!』

 泣いたことなどない両面宿儺は、目前に迫る終わりなど忘れたように涙を流し喜び笑う。

『覚えておけ………!! コレは、俺からオマエへの一矢だ!!』

 両面宿儺は、両手を広げて天へ向けて叫ぶ。

 聞こえているか聞こえていないかは分からないし、無視されていても構わないが叫ぶことは楔だ。相手が自覚しているしないに関わらず呪った者勝ちだ。

 これは両面宿儺の最後の呪いだ。

 両面宿儺は、叫び終えると眠っている悠仁の上に覆い被さるように身体を倒した。

 四つの目と腕を持つだけじゃなく、平均身長が低かった千年前じゃなくても人間としてあり得ない巨漢であった両面宿儺の巨体で身体を丸めた悠仁の身体が隠れてしまいそうだ。

 両面宿儺から削れてできた粒子が密着した状態で直接悠仁の方へ流れて吸収されていく。

 

『小僧…………、お前なんぞにくれてやるのは癪に障って仕方がない。だが、お前しかココにはないのでな………。お前が俺の…………一矢と…な…る…………。お前が…………………、殺せ………………、お前だけ…が………………ア…レを……………………………………。』

 

 両面宿儺は、完全に溶けて消えるまで悠仁の耳に言い聞かせ続けた。

 離れていた時には不可能だった。だがこれだけ接近すれば分解がされずに無害のモノはそのままの形で悠仁へと吸収されることに気づいた。

 両面宿儺の術式、呪術の知識、呪術の扱い方の経験などなど。それは力として発現するための燃料である呪力がなければ意味のないモノ。

 燃える物がなければ火は燃えることもできないし火が生まれない。冷え切ったエンジンを動かすには油が必要だ。油さえ投入できれば動かす手順を踏めばいつでも動かせるようになる。

 悠仁は、両面宿儺から明け渡された両面宿儺が持っていた呪術の全てを、呪力以外を魂と肉体に吸収し、それらを扱うために絶対必要な力さえ供給できれば即座に両面宿儺の呪術を使える状態になるのだ。悠仁の意思で。

 勘違いしないで欲しいのは、悠仁は両面宿儺ではないことだ。悠仁にはあらゆる呪いを受け付けない。だから両面宿儺にはなれない。だが栄養として、吸収は可能だ。知識は毒ではない。『巣くうもの』が悠仁が摂取する栄養と得る知識をも毒だと判断していたら悠仁はまともに生きられなかった。そこに隙があったのだ。

 毒だと判断されなければ与えることはできる。眠っている間に教育を施し、覚えた覚えない知識を刻み込ませる睡眠学習と言えるだろうか。

 両面宿儺は、そのことに気づいた。だから悠仁にやらせることを決めた。『巣くうもの』に一矢報いることを。復讐を。

 

 

 『家』に殺されてしまえ

 

 

 声にならない呪いの言葉を悠仁身体を住まいにしてる『巣くうもの』に残してやり、呪いの王、両面宿儺はこの世から完全に消滅した。

 今の悠仁には夢の中で人知れず溶けて吸収された両面宿儺の術式や知識はなんの意味もない。毒にも薬にもならない。

 悠仁は、呪術を扱うことを学ぶ学び舎にいながら呪術を扱えない存在として在籍し、『巣くうもの』のせいで呪術に触れることさえ叶わない。きっかけがなければ潜在してしまった記憶は動かせない。だが悠仁にはきっかけを得ることができない。呪力という呪術に欠かせぬ力に一切触れないのだから。だから悠仁は両面宿儺の術式と知識の存在を知らないまま、知らないから使えないまま誰にもそのことを知られない。

 五条の六眼では呪力が流れていないせいで術式の形はまったく見えない暗闇の中で通電していないから光らず暗闇の一部化しているイルミネーションみたいな感じだ。『巣くうもの』の逆鱗に触れないよう超注意して六眼で遠目に観察しているので、悠仁の身体に入った両面宿儺の術式による変化を知ることもないだろう。術式が入る前を知らないから余計に。

 

 現状では悠仁は呪術を使えない。

 だが、もし悠仁の中にいる『巣くうもの』が消えるなり出て行くなどして呪いを妨害していた障害がなくなれば、あるいは…………。

 ひとつだけ確実なのは、両面宿儺が最後に残した『巣くうもの』への呪い(一矢)は、悠仁が持っているということだ。

 

 

 




夢の世界にいる両面宿儺は、生前の姿です。
虎杖悠仁に受肉できていないので悠仁の姿を取れていません。

こうして悠仁の魂と肉体に両面宿儺の術式と呪術の知識の全てが譲渡されました。
ただし完全に潜在している。
力を発動するための源である呪力などの力が『巣くうもの』のせいで一切無い、触れもなにもできないので気づくきっかけもないし、もし気づいても燃料無しのエンジンが動かないように使い物にならない。
ただし、呪力などを供給できれば某鬱ロボットアニメの主人公達みたいにぶっつけ本番で巨大ロボットの操縦ができる状態。
あれ?使い方わかるぞ!みたいな感じ。


両面宿儺は、ここで退場です。
ただの屍蝋になる指や、名前だけは出てくるかも。


果たして両面宿儺がどうにもこうにもならない状況に追い込まれても、自分を負かした相手に一矢報いるために気に入らない矮小な存在に自分が持つ物を渡して復讐を託すなんてするだろうか?
っという疑問が尽きないけれど、このネタでの両面宿儺は追い詰められて諦めた時に悠仁を見つけ他に何もないのと、『巣くうもの』の隙であることに気づいて実行させるかどうかは抜きにして低確率でもいいから一矢報いてやると行動した結果こうなりました。
悠仁が『巣くうもの』と共に生涯を終える可能性もありますが、何もやらないよりはマシであるというのと『巣くうもの』が悠仁を『家』として利用しているだけに過ぎず善意ある味方ではないので悠仁が『巣くうもの』による被害を知れば悠仁が『巣くうもの』を許す可能性は低いので。



両面宿儺ファンの方々…………、本当に申し訳ありません…………。

どのエピソードを希望しますか?

  • 夏油が巣くうものを探す理由になった過去
  • 乙骨と里香を高専に帰還させるには?
  • 京都との交流戦でひと悶着
  • 悠仁の両親の死と、倭助の行動
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