錦が如く   作:1UEさん

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最新話です

みなさんは分かったでしょうか?
そう、少ない登場回数でありながら中々のインパクトを持って登場し、未だなおコアな人気を持つあの男です

それではどうぞ


"西"からの刺客

2005年12月6日。時刻は午後11時頃。

警官の職務質問を躱した俺たちは、すっかり意気投合していた。

 

「さっきはありがとよ、遥。おかげで助かったぜ」

「ううん。おじさんが嘘ついてごまかそうとしてるのは分かってたから合わせただけだよ」

「いやいや、咄嗟にあそこまで言えるのは大した名演技だよ。将来はアイドルか女優にでもなってるかもしれねぇな?」

「えー?それはさすがに言い過ぎだよぉ」

 

軽口を叩き合いながら街を歩く。

警官を欺くために手を繋いで歩いているのが功を奏したのか、その後は職務質問等を受けることは無かった。

そして。

 

「ここだよ、おじさん」

「あ?ここって……」

 

たどり着いたのは、神室町の中央に位置するとある場所。

再開発計画によって建造された大型ビル、ミレニアムタワーだ。

 

「すげぇな……この中に店を構えるなんて簡単に出来る事じゃねぇ」

「きっとお母さん、頑張ったんだよ」

「……そうだな」

「私、こんなに高い建物、登った事ないよ。上からはどんな景色が見えるのかな」

「神室町どころか、東京中が一望出来るだろうな」

「すごいなぁ、お母さん」

 

遥は純粋に母親の努力の賜物であると思っているが、俺は何処か引っ掛かりを感じていた。

 

(麗奈の話によれば、美月がセレナに居たのは約四年間。これだけの規模のビルに店舗を持つなら、その間に金を貯めたのだとしてもまぁ釣り合わない……何か特別なコネがあるのは間違いねぇ)

 

そして恐らくそのコネは、美月にとって強大な後ろ盾として機能している。

昨年"急に"店を出すことになったのも、その後ろ盾として居る何者かの思惑があったからであると俺は考えた。

 

(その裏に居る奴が一体どこの誰なのか……それも今日、分かるはずだ)

 

美月に会って娘の遥と再会させる。

そして二人を連れて、桐生の所へと向かうのだ。

そうすれば俺の知りたかった事が聞けるはずだ。

由美や優子、そして桐生に一体何が起こったのか。

 

「行こう、おじさん」

「あぁ」

 

言われるがままに俺は遥の後について行った。

自動ドアから中へと入り、無人になってるビルのエントランスを進んでいく。

やがて複数あるエレベーターホールの前へとたどり着いた。

 

「アレスがあるのは何階だ?」

「60階だよ」

「分かった」

 

エレベーターに乗り込み、60階のボタンを押す。

しかしボタンに反応はなく、動き出す気配もない。

 

「あ?動かねぇな」

「おじさん、ちょっといい?」

「お、おう」

 

すると遥がいくつかの階のボタンを押す。

その途端、俺達の乗ったエレベーターが大きな音を立てた。

 

(なんだ?)

「おじさん、60階押してみて」

「わ、分かった……」

 

言われた通り60階のボタンを押すと、今まで反応していなかったボタンの明かりが点灯した。

 

「これって……暗証番号か」

「うん。お母さんがね、手紙で教えてくれたの。お店の自慢の一つだって」

「ほぉ、そりゃすげぇな」

 

やがて俺たちの乗った四角い箱が、駆動音と共に最上階へと向かい始める。

最新式なのだろうか、エレベーターは危なげな音もなくスムーズに俺たちを最上階まで運んだ。

 

「な、こいつぁ……!」

 

エレベーターの扉が開いた時、俺は息を飲んだ。

最初はフロアの一部に店舗をこっそり構えているものだと思ったが、そうじゃない。

フロア全てが、店だったのだ。

 

「すごい……お城みたいに広いね!」

「まさか、フロア丸ごと全部だなんて……バブルの頃の六本木かよ……」

 

広大なフロアの中央には踊り場。文字通り社交ダンスでも出来そうな広さだ。

左手にはいくつかのテーブル席に加え、グランドピアノも置いてある。

さらに入って右手にはバーカウンターと、奥にナイトプールまで備わっている。

 

(美月の後ろ盾……いよいよ只者じゃねぇなこりゃ……)

 

こんなにも豪華な店は、余程の財界人や権力者でもない限り入ることさえできない超高級店だ。

セレナ時代にお金を貯めただけじゃ絶対にたどり着くことなど出来はしないだろう。

 

「バブル?おじさん、バブルって何?」

「バブルってのはな、簡単に言うと日本人がみんな金持ちだった頃だ」

 

空前の好景気に見舞われ、誰も彼もが浮かれはしゃいでいた時代。

煌びやかで豪華な反面、今よりも闇が深かった時代だ。

 

「すごい!じゃあおじさんもそうだったの?」

「まぁな。50万円のスーツ着て、500万のスポーツカーを乗り回してたもんさ。今じゃ全部弾けちまったがな」

 

確かにいい時代ではあったが、いい事ばかりって訳でも無い。

あの頃はヤクザが今よりも幅を利かせていて、揉め事や事件が後を絶たなかった。

俺が刑務所でやりあった久瀬の兄貴も、そんな時代の人間だ。

 

(今よりも、酷い所は酷かったな……)

 

好景気に浮かれて遊び呆けた挙句に負債を抱えた若者や老人。そいつらを食い物にするヤクザ。

裏取引や賄賂は当たり前の警察組織。

流れた血や泣きを見た人達は、俺が想像するよりもずっと多く居るはずだ。

 

「あ、おじさん……これ……」

 

俺が思いを馳せていると、遥が何かを見つけたらしい。

近づいてみると、そこにあったのは壁に飾られた美月の写真だった。

 

「これは……!」

 

俺はすぐに懐から桐生から預かった写真を取り出し、比較する。

そこに飾られていたのは、俺が渡された写真の女に間違いなかった。

 

「美月……この女がそうか」

「この人が、私のお母さんか……綺麗だなぁ」

 

子供らしい素直な感想をつぶやく遥だが、俺には考える事が山ほどあった。

 

(胸元に見える花模様の刺青も一致している……確かに、由美に似ている気もするが、こう改めて見てみるとなんだか洗練され過ぎてる気もするな……)

 

麗奈の話によれば、由美自身も自分の妹の存在を知らなかったと言う。

更にいえば、由美達が神室町から姿を消したタイミングでこの女は現れたって話だ。偶然にしては出来すぎている気もする。

 

(この女は本当に由美の妹なのか?)

 

5年前、神室町に突如として現れた謎の女"美月"。

その謎は、調べれば調べるほど深まるばかりだ。

 

「おじさん……」

「ん?どうした遥」

「由美お姉ちゃんと優子先生についてなんだけど……」

 

そこで俺はハッとした。

あまりにも美月について考える事が多く失念していたが、俺が美月を探している本当の目的は由美と優子の行方を探るためなのだ。

遥をここまで連れてきたのは、二人について知っていることを話してもらうのを条件にしたからに他ならない。

 

「そうだったな……頼む遥。俺に教えてくれ」

「うん……」

 

そして遥はボソボソと語り始めた。

その顔に、一抹の寂しさを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が最後に由美お姉ちゃんに会ったのは、もうだいぶ前の事。

私がまだ4歳ぐらいの頃だった。

その日は、ヒマワリでクリスマスパーティーの準備をしてた。

施設の子供たちみんなと飾り付けして、お料理を作って、プレゼントは何が貰えるのかとか、サンタさんは本当に居るのかな?とか、みんなで楽しそうにしていたんだ。

その時施設に居たのは私を入れた何人かの子供たちと、園長先生。

それから、施設を作ってくれた"風間のおじさん"に由美お姉ちゃんに優子先生。

そして、私の"お父さん"だった。

 

『じゃあ遥ちゃん。私たち、ちょっと出かけてくるから』

『お父さんと、いい子にして待っててね?』

『うん!』

 

ある時、由美お姉ちゃんと優子先生がヒマワリから出かけて行った。その時は分からなかったけど、多分プレゼントを買いに行ってたんだと思う。

お父さんと手を繋いで、玄関から出ていく二人を見送ったのは今でも覚えてる。

 

『ねぇ、おとうさん』

『ん?』

『おかあさん、きょうもきてくれないの?』

 

その時の私は、お母さんに会えない不満をよくお父さんにぶつけていた。

お母さんのお姉ちゃんである由美お姉ちゃんは毎年この時期にしか来ないし、優子先生にそんな事を言っても仕方ない。

結果として、私は月に一度顔を見せてくれるお父さんに文句を言う事しかできなかったのだ。

 

『あぁ……お母さんはな、仕事が忙しいんだ』

『おかあさんっていっつもそう……わたしのこと、きらいなのかな……?』

 

私が泣きそうな顔をすると、決まってお父さんはしゃがみ込んで私の頭を撫でてくれた。

そして、私の目をしっかりと見てこう言うんだ。

 

『遥、それは違う。お母さんは誰よりも、お前の事を愛してるんだ』

「ほんと……?」

『あぁそうさ。今は無理でも、お母さんは必ず遥に会いに来てくれる。必ずだ』

 

お父さんの力強い言葉を聞いていると、何故かいつもそうだと思えてしまった。

今考えると、とても不思議だったと思う。

その後私とお父さんは、お部屋の飾り付けを進めていた。

料理も出来上がって、後は二人の帰りを待つだけになった時、お父さん宛に電話が来た。

 

『俺だ…………な、なんだと……!?』

 

電話で誰かと話し始めたお父さんが見た事のない怖い顔をし始めた。

風間のおじさんと何かを話していたが、その時の私にはよく分からない。

 

『遥、お父さんは今から由美お姉ちゃんと優子先生を迎えに行って来る!先にパーティーを始めててくれ!』

『お、おとうさん……!?』

 

そう言ってお父さんは大急ぎでヒマワリを飛び出していった。

あの時のお父さんの必死そうな顔は、今でも忘れられない。

結局その日、お父さん達は帰ってこなかった。

パーティーは風間のおじさんと私達だけで行われ、プレゼントが無いことにみんなが不満を漏らしている中、私は三人のことが心配で仕方が無かった。

そして、それからちょっと経った頃。

優子先生がヒマワリに戻ってきた。

 

『ゆうこせんせい!』

『遥……ちゃん……』

 

その時の優子先生は、なんだか様子が変だった。

目の下は黒くて、顔色も悪くて、とても元気が無さそうに見えた。

 

『どうしたの?ゆうこせんせい?』

『……っ!』

 

すると優子先生は私のことを抱き締めた。

 

『ごめんね、ごめんね……遥ちゃん……ごめんね…………!!』

『せ、せんせい……?』

 

いつもニコニコ笑ってて優しかった優子先生が、その時はそう言いながらボロボロ泣いてた。

何が何だか分からなかったけど、かわいそうだと思った私は優子先生の頭を撫でた。

 

『どうしたの?なかないで?げんきだして?』

『っ……!っ……!!』

 

そんな事があって、更にしばらくした後。

優子先生は急に、ヒマワリの先生を辞めることになった。

あまりにも突然のお別れに泣き出す子供たちもいっぱい居た。

でも私は、小さいながらに何となく思った。

あのクリスマスパーティーの日、きっと私の知らない何かがあった。そのせいで優子先生は泣いてたんだって。

その日から、毎年来ていた由美お姉ちゃんも、毎月顔を出してくれたお父さんもヒマワリには来なくなった。

その代わり毎年クリスマスになると手紙が送られるようになった。今まで一度も顔を見た事が無い、お母さんからの手紙だった。

お母さんが神室町という街で働いている事、お店を出す事が決まった事、お父さんとお母さんは元気でいる事……色んなことが書かれていた。

でも、私が欲しかったのは手紙なんかじゃない。

 

『会いたいよ……お父さん、お母さん……!』

 

私は来る日も来る日も手紙を出し続けた。

お父さんとお母さんに会いたい。その一心で。

それでも、決まって帰ってくる返事は"どうしても迎えに行くことが出来ない"って文字だけ。

そんな時、手紙と一緒にあるものが送られてきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、これ……」

 

遥はポケットからあるものを取りだした。

 

「こいつは?」

「お母さんが私にって、手紙と一緒に送られてきたの」

「これは、ペンダントか?」

 

花のような装飾が施された銀色のペンダント。

小さな鍵穴が付いており、中に写真などを入れるタイプの代物だ。

 

「お守りなんだって」

「お守り?このペンダントがか?」

「うん。でも、これが送られてきた時思ったんだ。"私、本当にもうお母さんと会えなくなるかもしれない"って」

「そうか、だから孤児院を飛び出して……」

 

錦山は合点がいった。

両親に出会う事を切望していた遥に送られてきた謎のペンダント。お守りだと言われて遥の手に渡ったそれは、彼女にとってきっと"虫の知らせ"と言うやつだったのだろう。

何か良くないことが起こるかもしれない。

不安に駆られた遥は、持ち前の胆力と行動力で孤児院を飛び出して神室町にやってきていたのだ。

顔も覚えていない、母親を探し求めて。

 

「ん……?」

 

その時、エレベーターの到着音が錦山の耳朶を打った。

自分以外の誰かがこの場所にやってきたという事だろう。

麗奈は美月から店がオープンしたことを知らされていないことを鑑みるに、この状況で自分達以外にこの店に足を踏み入れられる可能性がある人間は限られて来る。

 

「遥、俺の後ろに隠れてろ」

「わ、分かった」

 

美月本人か、その後ろ盾にいる何者かか。

はたまた、そのどちらかの命を狙う第三勢力。

いずれにしても用心しておく必要があると判断した錦山は、遥を庇うように立ってエレベーター付近を睨みつける。

そして。

 

(ちっ……穏やかじゃ無さそうだな……)

 

中から出てきたのは、スーツ姿の男たちだった。

頭数は七人。いずれもただならぬ雰囲気を出している。

男たちは悠々と歩いてくると、錦山達の前で立ち止まった。

背後に壁があり、逃げる事は出来ない位置関係である以上、錦山はこの男たちと対峙する以外の道が無くなってしまった。

 

「あんた、錦山さんでっか?……元堂島組の」

 

長身の男が先頭に立ち、錦山へと向かい合う形になる。

短髪のパンチパーマに、平べったい顔と細い目。

キッチリと胸元まで締められたネクタイはどことなく誠実な印象を与えるが、その全身からは誠実とは真逆の好戦的なオーラが出ている。

 

「……だったらなんだ?」

「お初にお目にかかります。ワシ 五代目近江連合本部の"林"言いまんねん。噂はよう聞いてまっせ」

 

五代目近江連合 舎弟頭補佐。林 弘。

関東一円を支配下に置く東城会と双璧を成す広域指定暴力団、近江連合。

関西の極道全てを牛耳る一大組織だ。

 

「近江連合だと?関西のヤクザが俺になんの用だ……?」

「いや……」

 

その時、錦山のジャケットに着いたポケットが小刻みに震えた。

伊達から預かった携帯のバイブレーションだった。

 

「……」

「電話鳴ってまっせ?どうぞ気にせんと、取っておくんなはれや」

 

優しさなのか、それとも余裕なのか。

数秒後には死地になり得るこの状況において、林は錦山に電話に出るよう促した。

錦山は決して警戒を緩めぬまま、ゆっくりと携帯電話を取り出して通話ボタンを押す。

 

「錦山だ」

『伊達だ。錦山、100億の犯人(ホシ)が分かったぞ』

 

そして伊達は、電話越しに驚愕の事実を明らかにする。

 

『"由美"だ。お前の追ってる由美と優子。その片割れがホシだ』

「なんだって!?」

 

錦山は危うく警戒が解けそうになるのを必死でこらえる。それほどまでに、伊達から与えられた情報は衝撃的だった。

 

『現場に、ネックレスが落ちていたらしい』

「ネックレス?」

『あぁ……指紋や購入履歴を洗った所、お前が10年前に由美にプレゼントとしたものであると裏が取れた』

「!」

 

それを聞いて錦山は思い出した。

堂島組長射殺事件の数ヶ月前。由美の誕生日が近い事を知った錦山と桐生は、それぞれプレゼントを用意した。

錦山はピンクダイヤのネックレス。

そして桐生は、指輪。事件の日、錦山が現場から拾ったあの指輪それぞれプレゼントしていたのだ。

伊達が言うには、その時のプレゼントであるネックレスが現場にあったという。

 

『とにかく、東城会は彼女とその"共犯の女"を追っているそうだ』

「共犯?」

 

錦山は思わず、背後にある美月の写真に目を向けた。

状況からして、今彼が追っている美月が共犯者である可能性が非常に高かったからだ。

 

『そうだ。明日セレナで話がしたい。大丈夫か?』

「……分かった。じゃあな」

 

電話を切った錦山は、林達へと向き直る。

その目は、完全に林達を敵として捉えていた。

 

「そういう事か……お前らも由美と美月を追っているんだな……?」

 

近江連合はどこからか東城会の消えた100億の情報を知り、それを盗み出したであろう由美と美月を追っていると推測した。

しかし、林はその推測に否を突き付けた。

 

「いや、ワシらが追ってるのはそこのお嬢さんですわ」

「えっ!?」

 

予想外の展開に、錦山は驚きを隠せない。

100億円に関わっているであろう由美や美月とは違い、遥は無関係なただの少女だ。

それを東城会どころか外様の近江連合が狙う理由などある筈がない。

 

「何でこいつを!?」

「ふっ、それは言えまへんなぁ。ワシらも近江連合のモンですさかい。錦山さん、大人しゅうその子渡したってぇな」

「……この状況で渡すとでも思ってんのか?」

 

錦山はすぐさま臨戦態勢を整えた。

身体のスイッチを切り替えて、内に秘めていた闘気を表出させる。

 

「ふん、ワシが優しく言うてる内に渡すのが身のためでっせ?親殺しの悪名が広がっただけで粋がっとるワレのようなチンピラ一人、正直殺すのも面倒なんや」

「言ってくれんじゃねぇか、大仏ヅラが。ヤクザなんかやめて出家でもしたらどうだ?」

「はぁ!?」

 

錦山に煽り返され、林にもスイッチが入る。

周りの部下達も同様だ。

 

「お前らがどう思ってるかは知らねぇけどな、俺はこんな所で殺されるほどヤワじゃねぇよ」

「はっはっは!ほなしゃあないなぁ……おい、殺れや!ぶち殺したれや!」

「遥、下がってろ!」

「うん!」

 

切って落とされる闘いの火蓋。

思わぬ場所からの刺客との闘いは、六人の取り巻きを相手取る所から始まった。

 

「死ねやぁ!」

「オラァ!」

 

一人目のヤクザの一撃に、錦山は左手ストレートのカウンターを合わせて仕留める。

 

「ぶげっ!?」

「このガキ!」

 

錦山はすかさず掴みかかる二人目の懐に膝蹴りを突き刺して引き剥がすと、その顔面に前蹴りをぶち当てた。

 

「うがっ!?」

 

吹き飛ばされる二人目を見て慄くヤクザ達。

しかし、そこへ林が号令をかけた。

 

「何をビビっとんねん!遠慮なく行ったれや!」

「「「「へ、へい!」」」」

 

激を飛ばされたヤクザ達は、勢いのままに四人一斉に錦山に飛び掛かる。

逃げ場のない錦山が取った行動は、意外にも背後に向かって駆け出す事だった。

 

(血迷ったんか……?)

 

怪訝な表情をする林だったが、錦山の狙いは逃げ場の無い場所で逃げようとすることでは無かった。

 

「ふっ!」

 

錦山は軽く息を吐くと、地面を踏んで壁に向かってジャンプした。

そしてその壁をもう片方の足で力強く蹴ると、その反動を利用してヤクザ達よりも更に上へと飛び上がる。

 

「なっ!?」

 

一人のヤクザが驚きの声を上げた直後、錦山のかかと落としがその脳天を直撃した。

 

「がぶっ!?」

 

瞬く間に意識を失う三人目。残る取り巻きはあと三人。

 

「こ、このボケが!」

 

四人目のヤクザが錦山の顎を目掛けてアッパーを繰り出す。しかし彼の拳が叩いたのは錦山の顎ではなく、打ち下ろされたエルボーの肘だった。

 

「ぎゃああああ!?」

「でぇりゃァ!!」

 

拳が割れて悲鳴をあげる四人目のヤクザの顎を、今度は錦山が正確に打ち抜いた。

ムショ仕込みの華麗な右アッパーで。

 

「大人しゅうせぇや!」

 

錦山の背後から五人目が迫り、彼を羽交い締めする。

 

「おっしゃ、そのまま抑えとけ!」

 

それを六人目が正面から襲いかかる。

大股で大きな構えと振りかぶりから、錦山はラリアットが来ると予測した。

そして、彼は六人目が大股である所に目を付ける。

 

「悪く思うなよ!」

 

錦山は近づいてきた六人目の股を蹴り上げた。

金的蹴り。ありとあらゆるスポーツや格闘技に置いてそこを狙うのはタブーとされる人体の、いや男の急所だ。

 

「ぁおっ……っぅぱ…………っ!!!!?」

 

その痛みはまさに世界の終焉。

男として生まれた以上、その痛みは決して避ける事が出来ない。

 

「お、おどれなんて真似を……!?」

 

泡を吹いて悶絶する六人目を見て、五人目がその所業に戦慄する。

その痛みを知る者は、いや知る者であるからこそ"そこ"を狙う者は鬼畜外道と称されても文句は言えない。

だが、錦山はそんな事を言ってられる状況ではない。

負ければ文字通り命は無いのだ。

 

「離せよ、オラァ!」

 

錦山は羽交い締めするヤクザの足を踵で踏み抜き、五人目の拘束を解く。

そしてすぐさま振り返りざまに裏拳を叩き込んだ。

 

「こ、っ…………!?」

 

顎を正確に撃ち抜かれた五人目は、糸の切れた人形のごとく床へと崩れ落ちた。

 

「ほぉ……そこそこの腕利き連れてきたつもりやったが、存外やりまんなぁ」

「……次はテメェだな。かかって来いよ」

「ほな……遠慮はせんでぇ!死に晒せやぁ!!」

 

近江連合舎弟頭補佐。林弘。

"西"から現れた謎の刺客が、猛然と錦山に襲いかかる。

時刻は午後11時20分。

錦山の長い一日が、もうすぐ終わろうとしていた。

 




如何でしたか?

新たな謎が深まり、この日最後の戦いの幕が上がった所で、この章は終わりです。

次回は断章となります。
ついに"あの男"が本編より先んじて登場……!?
是非お楽しみに
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