皆さん、沢山のアイデア本当にありがとうございました。
いよいよです!
是非、錦山の勇姿をその目に焼き付けて下さい!
それではどうぞ!
2005年。12月7日。東京、神室町。
時刻は午後15時。
神室町が段々と夜の雰囲気を纏い始め、居酒屋やバー、風俗店といった神室町を彩る"夜の店"達が開店のために準備を始める時間帯。
「あ?」
錦山の目に留まったのは、そんな夜の店の目の前。
茶色のスーツを着て項垂れている一人の青年の姿だった。
「はぁ……ホントにどうすっかな……」
「おいユウヤ。何してんだ?」
「あ、錦山さん!お疲れ様です」
声をかける錦山に元気よく挨拶を交わす青年の名前はユウヤ。
彼が入口前で項垂れている夜の店"スターダスト"に所属するホストだ。
「元気ねぇな?何かあったのかよ?」
彼らは一昨日、風間の手紙を頼りに錦山がここを訪れたのをきっかけに出会った。
最初こそすれ違いから揉めてしまったが、互いに根っこに同じものを抱える性質上すぐに打ち解け、今ではそれなりに親しい仲と言える間柄だ。
「え、えぇ……実は今日、とても大事なお客さんがいらしゃるんですが、ホストの数が足りてなくて」
「大事なお客さん……上客ってことか」
「はい。"銀座の鮎美ママ"って人で、夜の世界じゃさぞ有名な人なんです。何百万って金を一晩で使ってくれるって噂なんですよ」
「ほぉ、そりゃ随分太っ腹なんだな」
どの業態においても上客というものは存在するものだ。
そういったより多くの金を落としてくれる客は、出来る限り大事にした方が良い。
「ただ、その人ちょっと変わってて……」
「変わってる?」
「えぇ……実はその人、若い男はあまり好きじゃないって言うんですよ」
「はぁ?ホストクラブなのにか?」
ホストクラブと言えば、美形の男性キャストが女性客を接待する形態の店だ。
当然、イケメンと呼ばれるような若くて格好良い男性が中心となる。
「そうなんです。一輝さんの話じゃ"イケメンでありながらも若すぎず、どこか大人な色気や危険な香りのする男性"がタイプらしいんです」
「なるほど……美形でありながらダンディさも欲しいって事か。中々欲張りな注文だな」
いかに無茶な注文であろうと、上客ともなれば決して無碍にはできない。
客商売、特にホストクラブやキャバクラのような接待業だと避けては通れない道だ。
「当然、そんなキャストはうちにはいません。だから代わりに大勢のキャストで精一杯盛り上げようと思ったんですが……今日に限って当日欠勤が相次いで……」
「そうだったのか……」
泣きっ面に蜂とはまさにこの事だろう。
熱血漢で根性のあるユウヤが項垂れ、途方に暮れるのも致し方ない事と言えた。
「ユウヤ……ここに居たのか」
そこへ、スターダストのオーナーを務める一輝が現れる。店を離れていたユウヤを心配し、様子を見に来ていたのだ。
「一輝さん!」
「よう、一輝」
「錦山さん、お疲れ様です。例のホステスの件、こっちでも調べてるんですがまだ目立った情報は…………お役に立てず申し訳ありません」
「いや、そっちはアテがあるから心配すんな。それよりも、話はユウヤから聞いたぜ?なんだか大変な事になってるみたいだな」
「えぇ……お恥ずかしい話です」
いつも毅然としていた一輝が俯く。
神室町No.1ホストクラブのオーナーも、この局面を前に渋い顔をしていた。
「ですが、この局面を乗り越えなければ未来はありません。今日いらっしゃるお客様は、それだけの影響力を持っているのです」
「そんなにすげぇ人なのか、その"鮎美ママ"ってのは」
錦山の問いに、一輝は大きく頷いた。
「えぇ。銀座でNo.1の会員制高級クラブでママを務めていらっしゃる方で、その年収は億を下らないと聞きます」
「なんか、バブルみてぇな話だな」
「えぇ、その方はまさにそのバブルの頃からホステスとして成り上がって今の地位を築いた女傑なんです。ついたあだ名が"銀座の女王"」
「銀座の女王……すげぇ通り名だな」
錦山は会ったこともないその女王に対し、勝手に尊敬の念を抱いていた。
どんな世界であったとしても、そこで頂点に立つのは並大抵の事では無い。
今まさにのし上がろうと踏ん張っている最中の彼にとって、その女性は眩しい存在とすら言えるだろう。
「一輝さん……このままじゃお客さんを迎え入れられません。なにか対策を考えないと……」
「そうだな…………ん?」
ふと、一輝が錦山を見る。
下から上にかけて順番に、まるで品定めをするかのような目線で。
(イケメンでありながら若過ぎず、大人な色気と危険な香り……もしかしたら……!)
「一輝?」
いつになく真剣な目で見られた錦山は怪訝な顔をする。
一輝は表情を崩さぬまま、錦山に言った。
「錦山さん……以前俺が言った話、覚えてますか?」
「…………お前、まさか」
一輝の思惑を察した錦山は思わず一歩後ずさる。
直後、一輝がその腰を直角に曲げた。
「お願いします、錦山さん!今晩だけ、ウチで働いてくれませんか!!?」
突然の提案に驚愕を隠せない錦山は、慌ててそれを拒否した。
「いやいや無理だって、冗談はよせよ!」
「冗談なんかじゃありません!今日お店に来られる鮎美ママの好みは"若すぎず、大人な色気と危険な香りを併せ持つイケメン"なんです!この条件に当て嵌るのは、錦山さんしかいません!」
「"若すぎない"じゃねぇ、実際もう若くねぇんだって!」
一般的にホストの適正年齢は20代が全盛期とされている。
しかし、錦山は今年で37。
服役前の27の時ならいざ知らず、40代を前にした今の彼にとってホストという職業はあまりにも遅過ぎると言えた。
「大丈夫です!錦山さんはルックスも良いですし、危険な香りは十分です。何よりその大人な魅力は俺達じゃ出せません」
「いや、そんな事言われたってなぁ」
「お願いします、報酬はきちんと支払いますから……!」
「錦山さん、俺からもお願いします!このままじゃスターダストがヤバいんです!」
「ユウヤまで……!」
二人に迫られ困惑する錦山。
現役時代にシノギの関係で方々に顔を売ったりしていた彼はコミュニケーション能力こそ高いが、接客業としての経験は無い。つまり全くの素人なのだ。
そんな彼が、いきなり夜の世界の大物を接待というのは荷が重過ぎるというもの。
突然の無理難題に難色を示す錦山だったが、彼はそこでふと思いとどまった。
(待てよ?ホストって言やぁ、歩合制で給料が変わる事でも有名な仕事だ。上手くやれば一晩で100万単位の金を稼ぐ事も不可能じゃねぇ……)
夜の世界はいつも莫大な金が動く。
それが、キャバクラやホストの世界であれば尚更だ。
情報料を稼ぐのにはうってつけと言えるだろう。
(確かに今は纏まった金が必要だ。仮出所の身で危ないシノギをする訳にも行かねぇし、他に稼ぐアテも無い……)
仮出所とは、その名の通り仮の出所だ。
定められたこの期間の間にもし何らかの問題を起こせば、彼の仮出所は取り消しとなり再び刑務所へと逆戻りする事になる。
(何よりここまで頼み込まれて何もしねぇってのは男が廃る、か……仕方ねぇ)
覚悟を決めた錦山は、二人の頼みを聞く事にした。
「……分かった。こんな俺で良ければ、引き受けるぜ」
「本当ですか!?」
「あぁ、俺もちょうど纏まった金が必要だったんだ。ド素人からのスタートだが、よろしく頼む」
「錦山さん……ありがとうございます!詳しい話は中でしましょう」
「あぁ」
言われるがままに、錦山はスターダストへと足を踏み入れる。
錦山彰ホスト化計画が始動した瞬間だった。
2005年12月7日。午後18時。
神室町の天下一通りに居を構えるホストクラブ、スターダスト。
この日、その店の前に一台の高級車が止まった。
車の後部座席から出てきたのは、一人の女性。
美しいブロンドの髪を靡かせ、紅いドレスを身にまとった彼女こそ、一輝達の言っていた幻の上客。
"銀座の女王"こと鮎美ママ、その人である。
「鮎美さん、お待ちしておりました」
店の前で、オーナーの一輝が自ら出迎える。
誠心誠意のおもてなしを心がけたその姿勢に、鮎美ママもまた笑顔で応えた。
「一輝くん、今日は招待してくれてありがとう。一度、貴方のお店に来てみたかったの」
「こちらこそ、来て頂いて誠にありがとうございます。まだまだ未熟ですが、今日は楽しんで頂けるよう精一杯おもてなしさせていただきます」
「そんなに謙遜しないで?その歳で、自分のお店を神室町でNo.1の店にまで育て上げたのだから。もっと誇っても良いのよ?」
「鮎美さん……ありがとうございます。それでは、どうぞ中へ」
「えぇ。お邪魔します」
挨拶もそこそこに、店の中までエスコートする一輝。
店内に入った鮎美ママを待っていたのは、煌びやかな内装と粒揃いのホスト達だった。
「いらっしゃいませ、お客様!」
「「「「「いらっしゃいませ」」」」」
ユウヤをはじめ、他のキャストや従業員達が笑顔で出迎える。
活気のある彼らの姿勢に応えるべく、鮎美ママは優しげな笑顔を振り撒いた。
「ごきげんよう、皆さん。今日は楽しませて貰うわね?」
「「「「「あっ……」」」」」
瞬間、店内がしんと静まり返った。
その魅力と美貌にその場の全員が一瞬で心を奪われたからだ。
キャストや黒服を含めた従業員は勿論、驚くべき事にその効果は客として来ているはずの女性達にも及んでいた。
驚くべき事に、彼女は笑顔一つでその場の空気や意識を瞬く間に掌握してしまったのだ。
「おい見ろよ、すっげぇ綺麗な人だぜ……」
「なんだありゃ……何処かの芸能人か?」
「もしかしてすっごいお金持ち!?いいなぁ、私もあんな風になりたいなぁ」
「何よあの人、一周まわって負けた気にすらならないわ……格が違うってこういう事言うのね……」
あまりにも自然体で嫌味を全く感じさせず、それでいてあらゆる者を魅了するその姿に男は心を奪われ、女は羨望の眼差しを送り続ける。
これが銀座のNo.1。日本の水商売のトップに君臨した鮎美ママの実力である。
「ふふっ、接客、忘れてるわよ?」
「「「「「し、失礼しました!」」」」」
その一言でホスト達が全員我に返り、そそくさと持ち場に戻る。
その様を見て、鮎美ママは穏やかに微笑んだ。
「ウブな子達ね。こんなオバサンに見とれちゃうなんて」
「ご謙遜を。鮎美さんの笑顔の前じゃ誰もが丸裸です。もちろん私も」
「もう一輝くんったら、おだてたってシャンパンぐらいしか入れてあげられないわよ?」
軽口を言い合う二人だが、一輝は内心で戦慄していた。
(うちのキャスト達は粒揃いで経験豊富な奴らばかりだ。それをたった一言で骨抜きにしてしまうとは……鮎美さん、やっぱり貴女は恐ろしい人だ)
気付けば誰もが彼女の虜、彼女に釘付け。
彼女がその気になれば最後、一瞬の抵抗も出来ぬまま彼女の世界に引きずり込まれてしまう。
そんな彼女の圧倒的とも言える魅力に、一輝は底知れぬ恐怖を感じていたのだ。
(錦山さん……大丈夫だろうか……?)
この日のために呼んだ助っ人の事が脳裏を過ぎる。
ほとんど素人の身でありながらこれほどの人物といきなり対峙させる事に、一輝は今更ながら罪悪感を感じていた。
「鮎美さん、こちらへ。足元にお気を付けて」
「えぇ、ありがとう」
一輝は階段を上がり、二階のVIP席へと鮎美を案内する。
そこは店内が一望出来る特別な空間だった。
「すっごくいいお店ね。No.1なのも頷けるわ」
「ありがとうございます」
鮎美が中央のソファに座り、一輝が対面へと腰掛ける。
これから来る助っ人を隣に座らせる為だ。
「鮎美さん。お飲み物の前に一つ、良いですか?」
「なに?」
「鮎美さん、以前自分に好みの男性のタイプを聞かせてくれたこと覚えていらっしゃいますか?」
一輝の問いに鮎美は直ぐに思い出す。
それは数年前、当時まだ新人だった一輝が世話になっている先輩ホストと共に鮎美ママの店を訪れた時の事だった。
「えぇ、覚えてるわ。それがどうしたの?」
「実は今日、そんなママ好みのキャストをお呼びしてるんです」
それを聞いた鮎美ママは少しだけ目を丸くした後、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うそ、ほんとに?」
「はい。まだ新人で荒削りな所もあるのですが、当店期待の有望株です。紹介しても良いですか?」
「もちろんよ!是非連れてきて?」
「分かりました。……アキラさんを呼んできてくれ」
「かしこまりました」
一輝に声をかけられた黒服が、すぐさま階段を降りていく。例の新人を呼びに行ったのだ。
(私の好みのタイプ、結構無茶な注文だと思うんだけど……本当に大丈夫?)
美形でありながら若すぎず、大人の色気がある男性。
それが鮎美ママのタイプだった。
美形や色気はともかくとして、若さというのはホストクラブにとって一番の武器である。
それを封じられてしまう以上、鮎美ママの好みの男性をホストクラブで用意するのはかなり難しい。
(あまり期待しない方が良いのかな?でも、一輝くんの見立てだし……)
「おや……来たようですね」
物思いに耽っていた鮎美ママが一輝の一言で我に返る。
その直後、一人のキャストが階段を登りきってVIP席へと辿り着いた。
「ぇ……………………」
鮎美ママの口から、そんな声がかすかに漏れる。
彼女は今、目の前のキャストに目を奪われていた。
「おまたせしました、お客様」
スーツ越しにも分かる見事なモデル体型にプラムレッドのジャケットとシックな黒シャツを合わせたその格好はホストとしてはやや落ち着いた色合いであるものの、それが却って成熟した大人の雰囲気を感じさせる。
僅かに開いた胸元からは地肌が見え隠れし、最低限のナチュラルメイクだけを施した風貌と相まって彼が持つ男の色気をより際立たせていた。
だがそんな彼の落ち着いた大人の魅力と相反し、鮎美を見つめるその瞳は野望や野心に満ち溢れたギラギラした光を宿しており、そのアンバランスさが何処か危険な香りを醸し出す。
「紹介します、鮎美さん。彼がこの店の有望株……アキラさんです」
「へっ、ぁ、えぇ…………」
先程の余裕が消え去り、一転して生娘のような反応をする鮎美。
無理も無いだろう。何せ今彼女の目の前にいるのは紛れもなく、鮎美が理想としている男なのだから。
「失礼します」
アキラはそんな彼女の隣にゆっくりと腰を下ろすと、丁寧な所作で名刺を差し出した。
「初めまして、アキラです。よろしくお願いします」
「あ、はい……鮎美です……」
言われるがまま名刺を受け取る鮎美。
そのあまりの反応の違いに、一輝は度肝を抜かれる。
(あ、あの鮎美さんがこんな反応を!?し、信じられない……!)
頬を赤く染めて目線を忙しなく動かすその顔はまさに、憧れの人を目の前にした恋する乙女の表情そのものだった。
開いた口が塞がらない一輝の顔を見て、鮎美がふと我に返る。
(はっ!?いけないわ私ったら、一輝くんの前でだらしない顔して……!)
銀座の女王としての威厳を取り戻すべく、笑みを浮かべる鮎美ママ。
しかしその表情は先程までの穏やかな笑みではなく、どこかぎこちない愛想笑いのような微笑みだった。
見蕩れてしまいそうになる自分を律するが故の表情だった。
「何か、飲まれますか?」
「えっと……クリコーヌ、頂けるかしら」
「分かりました」
アキラは黒服を呼び付けると、その場でクリコーヌを注文する。
程なくして運ばれてきたボトルとグラスを使い、一輝が慣れた手付きでドリンクを作り始めた。
「オーナーから聞きました。銀座のママなんですって?」
「えぇ、そうなの。この業界は結構長いわ」
「そうなんですか。なんて言うか、やっぱりオーラが違いますね。タダ者じゃないって感じが凄くします」
「あら、それを言うなら貴方もよ?」
俺もですか?と聞き返す錦山に、鮎美が冷静に頷く。
会話をしていく中で落ち着きを取り戻したのか、その表情には先程まで失われていた余裕が現れ始めていた。
「アキラさんからは、なんだかただならぬ雰囲気を感じるの」
「そうですか?自覚は無いですけど……」
「そうよ。ふふっ……なんだか今夜は、素敵な夜になりそうね」
「えぇ、なにせ鮎美さんのような美しい女性と過ごせる貴重な一時だ。俺にとっても、忘れられない夜になりそうです」
「お待たせしました」
会話が盛り上がってきた所で、一輝が出来上がったドリンクを二人に差し出す。
一輝を含めた三人がグラスを持ち、アキラが静かに掲げて言う。
「それでは今夜の、素敵な出会いを祝して……乾杯!」
「「乾杯!」」
三人の喉を酒が潤していく。
新人壮年ホスト、アキラの長い夜が幕を開けた。
スターダストに入店して早数時間。
シャワールームにてプロ仕様のシャンプーやリンスを使ってトリートメントをし、突貫工事でスーツとメイクを仕上げてもらい、数名のフリーのお客を相手に練習を重ねて接客の極意を詰め込み学習で身に付け、ほとんど付け焼き刃のまま挑んだ"銀座の女王"との接待。
素人に毛が生えた状態の俺など完全に手玉に取られると思っていたが、その予測は大きく外れた。
結果は大好調。
初対面の時の反応からして、俺が好みのタイプって一輝のリサーチはどうやら本当だったらしい。
「アキラくんがこの業界に来たキッカケってなんだったの?」
「キッカケですか?偶然、オーナーにスカウトされたんです。」
「そうなの一輝くん?」
「はい。アキラさんとは先日ふとしたキッカケで出会って、そこでスカウトしたんです。絶対向いてるって」
「その時は自分には向いてないと思ってたんで、本当は断ろうと思ってたくらいだったんですが、あまりの熱に押されてやる事になったんです」
「一輝くん大正解ね、有望株って言ってたのも納得だわ!」
「えぇ。俺もアキラさんに来て貰えて良かったと思ってます」
「おいおい……おだてないでくれよ。むず痒いじゃねぇか」
「ふふっ、照れてる所も可愛いくて素敵ね」
行う会話の全てが弾んで、俺としても悪い気分じゃない。何より、仕事で酒が飲めるっていうのは貴重な経験と言えるだろう。
(よし、上手くいってるな……!)
今回ホストをやってみて、分かったことがある。
それはお客を楽しませる事を第一に考えるのは当然だが、それさえ大事にしてればある程度応用が利くという事だ。
あれやこれやら創意工夫が自由に出来る楽しさは、この歳じゃ中々味わえない貴重なものと言えるだろう。
(それに昔の経験も活かせるな。あちこちに通ってた甲斐があったぜ)
今から17年前。
当時20歳の若造で組の兄貴分に顔を売ってのし上がろうとしていた俺は、色んなホステスと繋がりを持つために神室町中のキャバレーやクラブを飲み歩いていたのだ。
実際に女の子を口説いた事も一度や二度じゃない。
一輝達のような接客のプロ程とはいかないが、女性を喜ばせるトークにはある程度自信があった。
「鮎美さん、喉乾きませんか?」
「そうねぇ、沢山話したから喉が渇いたわ」
「何か飲まれませんか?ゴールド、冷えてますよ」
「ふふっ、アキラくんってさり気なくアピールするのねぇ」
顔を赤くした鮎美ママが穏やかに微笑む。
その表情は飲みたての頃と比べて弛緩しきっており、とても毅然とした態度とは言えない。
俺が何かを働きかける度に余裕の笑みが崩れ、僅かに素の笑顔が顔を覗かせるのは見ていて中々に愛らしい。
こういった不意に見せる"隙"もまた、鮎美ママの魅力の一つかもしれない。
「そりゃ、鮎美さんと美味しいシャンパン飲みたいですから。オーナーも、そうでしょ?」
「えぇ、是非自分もご一緒出来ればと」
「そうね……じゃあ、みんなで飲みましょう?」
「え、それって……」
そう言うと鮎美はメニューを開き、ひとつのボトルの写真を見せてきた。
「ルシャランテを開けるわ。これでシャンパンタワーを作りましょう!」
「ルシャランテ……!?」
一輝が驚愕の声を上げる。
俺もまた、メニュー表に記載されている値段を見て同じ感想を抱いた。
「一本、300万円……!?こんないいものを開けてくれるんですか!?」
「もちろんよ!アキラくんのために、特別よ?」
「鮎美さん……ありがとうございます!」
俺の身を言い知れぬ興奮と多幸感が包む。
それは、葬儀場で嶋野との戦いが終わった直後の達成感に酷似していた。
「ルシャランテ、頂きました!」
「「「「「イェェエエイ!!」」」」」
最高級品の注文にフロアが湧く。
すぐに数名の黒服が集まって、シャンパンタワーの準備を始めた。
「アキラさん、お見事です……!」
サムズアップと共に賞賛してくれる一輝。
むず痒いだけだったその賞賛も、今なら素直に受け入れられる。
「へへっ、悪くねぇもんだな……ホストって言うのもよ……!」
この後、俺はスターダストに彗星の如く現れたNo.1おじさんホスト"アキラ"としてこの店で長いこと噂される事になるのだが、それはまた別の話だ。
という訳で、ホスト錦山の回でした!
如何でしたか?
活動報告でのアイデア募集の結果、錦山は赤や赤紫などの暖色系が好まれる傾向にあると判断しました。
中には白ジャケットや黒ジャケットという声もあり非常に悩みましたが、自分の中でこれが一番しっくり来たので決めさせて頂きました!
今回、37の錦山にホストをやらせるという事で色々と考えてみました。いかにもホストな感じを出すには歳を食い過ぎているし、場合によっては"キツい"感が出てもおかしくありません。
なので、今の錦山にしか出せない魅力をクローズアップしようと決めました。
そして、大人な色気と危険な香りというコンセプトにした結果今回の結果になりました。
言わば、ちょいワル親父レベル100って奴ですかね(笑)
改めて、たくさんのご意見ご応募ありがとうございました。
他にも錦山にこんな格好似合いそう、と言ったアイデアがあればぜひぜひ遠慮なく送って頂けると嬉しいです。
今後も、錦が如くを何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m