錦が如く   作:1UEさん

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さぁお前ら!
お待ちかねの「真島が如く」最新話や!
いよいよワシが主人公のヤクザアクションスペクタクルが……!

あ?始まらん?
なんやと……そりゃどういうこっちゃ?

なに?本編行けば分かるやと?
しゃーないのぅ。ええやろ、そしたら本編行こか。

納得いかん理由やったら……ぶち殺したるでぇ!!




九死に一生

神室町。吉田バッティングセンターで始まった"嶋野の狂犬"との一戦。

結果は、火を見るよりも明らかだった。

真島の変幻自在なドス捌きと俊敏さに圧倒された俺は、あっという間に血だらけにされたのだ。

格が違うどころの話じゃない。

今の俺と真島では、次元が違ったのだ。

 

「ほな、死ねや」

 

肩と背中、腕に脚を切り付けられた挙句にマウントを取られるという絶対絶命の状況の中、俺の顔を目掛けてドスの刃が垂直に迫る。

そして。

 

「ぐっ、ォ、ぉぉおおあああああッ!!?」

 

真島の振り下ろした刃が、俺を刺し貫いた。

想像を絶する痛みに思わず絶叫を上げてしまう。

傷口が熱を帯び、決して少なくない量の血が流れ出た。

 

「なっ!?」

 

だが、そんな俺の視界の奥では真島の片目が見開かれていた。

そうだ。それでいい。

俺はコイツの、そんな顔が見たかったのだ。

 

「ッ、ゥォオラァァァァッ!!」

 

右手で拳を握り締め、真上に居座る狂犬の顔面を全力でぶん殴った。

 

「ぐぉっ!?」

「ぜェやァァァッ!!」

 

その一撃で真島の身体が仰け反った瞬間、右足の前蹴りで追撃して無理やり引き剥がす。

それにより真島が完全に体勢を崩した隙に、俺はすかさずマウントポジションを脱して距離を取った。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……お前、どういうつもりや……!?」

 

真島の口からそんな言葉が漏れた。

その表情は信じられないものを目撃したかのような驚愕の色に染まっている。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……へ、へへっ……!」

 

今、俺の目の前にいるのはあの真島吾朗。

"嶋野の狂犬"と呼ばれ畏れられた"伝説の男"だ。

そんな男の代名詞であるドスが、その手に無い。

何故なら。

 

「まさか……"自分から刺されに来る"なんて思わなかったか?真島さんよ……!!」

 

紛れもなき狂犬の牙である彼のドスは今なお、俺の手の平を貫いたまま(・・・・・・・・・・・)なのだから。

 

「アンタを狂犬たらしめてるコイツを奪うには……こうするしか、無かったんでなぁ……!!」

 

俺は真島に対してあたかも策の内のように語るが、実際には全くの偶然だ。

朦朧とする意識と霞む視界の中で俺は自分に迫り来る"死"を知覚した。

それを遠ざける為に左手を伸ばして、そしてその手の平に狂犬の牙が食い込んだのだ。

 

(おかげでいい気付けになったぜ……!)

 

それにより俺を襲った激痛は焼き付くような熱さを伴って俺の意識と視界を一気にクリアなものにした。

その後、俺は貫かれた状態のままの左手で真島の持つ手を掴み、渾身の右フックと前蹴りで引き剥がす事でその手からドスを奪う事に成功したのだ。

 

「ワシからドスを奪う為だけに左手を犠牲にしよったやと?お前、頭イカレとんのとちゃうか……!?」

 

真島は俺に対しそんな言葉を投げかける。

よもや東城会一のクレイジー野郎にそんな事を言われるとは思わなかった。

だが、それでいい。

 

「へっ、イカれてるぐらいじゃなけりゃ"伝説"には届かねぇだろうがよ……!!」

 

そうだ。そうでなくちゃならない。

俺が目指すのは数多無数の男たちの上にある頂点。"堂島の龍"がいる領域なのだ。

そんなモノ、真っ当な思考回路を持つ人間なら目指そうだなんて思う筈がない。

だったら、そんな奴は狂っているくらいがちょうど良い。

常軌を逸して狂い果て、たとえどんな奴が相手であろうと構わず喰らって飲み込み邁進する。

そしていつか、その狂気すらも喰らって己の血肉に変えてやるのだ。

 

「ぐっ、ッ、ぬぅ、ぅぉおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

俺は左手に突き刺さったドスの柄を握りしめると、絶叫にも似た雄たけびと共に一気に引き抜いてそのまま投げ捨てた。

今までせき止められていた傷口が開き、多量の血液が溢れ始める。

身体は鉛のように重くなり、痛みで明瞭となったはずの意識が再び遠のき始めた。

残された時間は、きっと少ない。

 

「はぁ、はぁ……さぁ、第二ラウンドと行こうぜ、真島ぁぁぁッ!!」

 

叫ぶと同時にその場を駆け出し、真島との距離を詰める。

 

「オラァ!!」

 

たたらを踏んで勢いを付けると、右のストレートを真島の顔面にぶちかました。

 

「ぐ、ぉぉっ!?」

 

確かな手応えと共に真島が右膝を着く。

俺が左腕を負傷したのと同じように、右足を負傷している今の真島は踏ん張りが効かないのだ。

 

「ダラァ!!」

 

俺はすかさず顔面を蹴りあげて追い打ちをかけた。

全力で繰り出したサッカーボールキックは真島の身体を大きく仰け反らせ、そのままダウンを奪う。

 

「ぐほぉぁっ!?」

「まだだァ!!」

 

仰向けに倒れる真島の上に跨り、真っ赤に染まった左手で左の側頭部を押さえつける。

 

「オラッ、オラッ、オラッ、オラッ、オラッ、オラッ、オラッ、オラッ、オラァァッ!!」

 

そして、地下闘技場でゲイリーにやった時と同じように真島の顔面に右フックを連続で叩き込んだ。

もはや後先など関係ない。

自分の拳ごと相手をぶっ壊すつもりで一心不乱に拳を振り下ろしていく。

 

「でェイヤァ!!」

 

だが相手は"嶋野の狂犬"。

いつまでもこんな攻撃が許されるはずもなく、いとも簡単に押しのけられてしまった。

 

「やってくれよったな、ボケがァ!!」

 

反転するように今度は真島が上の位置に来る。

真島は先程の恨みと言わんばかりに怒号を上げながら俺に拳を振り下ろしてきた。

 

「ぶぎゃっ!?」

 

その一撃は同じ人間から放たれてるとは思えないほどに硬く、強い衝撃で俺の顔面を打ち抜いてきた。

 

「フン!セイッ!ウリャァッ!!」

 

続けて二発、三発、四発と繰り出される狂犬の打ち下ろしは、俺の顔を叩く度に俺の後頭部を地面に叩きつけバウンドさせ、逃げ場のない衝撃が俺の頭部を襲い続ける。

 

「ゥ、ァアッ!!」

 

この後の俺の動作は半ば本能的なものだった。

右手を前に突き出し真島の喉元を掴んで全力で握り潰さんと力を込める。

 

「ぐ、ぉぉっ!?」

 

真島は拳を解くと俺の右手首を両手で掴んで引き剥がそうと全力を込める。

いくら真島が武闘派であっても、人間である以上喉元は急所だ。庇わざるを得なかったのだろう。だが、それこそが俺の狙いだった。

 

「りゃあぁぁぁ!!」

 

俺は未だに血が流れる左腕を、横薙ぎに振るった。

傷口から零れた俺の血が周囲に飛び散る。

それはつまり。

 

「ぎゃあああああああああ!?」

 

真島吾朗の顔に飛び散ったという事に他ならない。

唯一の肉眼である右目に血が入った真島は悲鳴を上げてのたうち回った。

その隙に俺はマウントから抜け出して体勢を立て直す事を試みる。

直後。

 

「あ……?」

 

俺の体がガクンと音を立てて崩れ落ちた。

倦怠感と虚脱感が全身を包み、身体に一切の力が入らない。

急激に瞼が重くなり、意識が急速に遠のいていく。

そこで俺は悟った。

 

(時間切れ、かよ…………!)

 

ここに来てついに、酷使していた肉体が限界を迎えたのだ。

度重なる打撲や裂傷もそうだが、一番の要因はやはり出血多量による身体機能の低下だろう。

自分の身体なのにまるで力が入らず、ただ仰向けで横たわる事しか出来なかった。

 

「ヒヒッ……どうやら、ワシの勝ちみたいやな…………!」

 

気付けば目潰しをしたはずの真島が俺を見下ろすように立っていた。

真島の回復が早かったのか、それとも俺の時間の感覚がおかしくなっているのか。

今となってはもう確かめようがない。

 

「散々手こずらせおって……今度こそこれでしまいや…………!!」

 

そう言う真島の右手には金色に光るものが見える。

あれは金属バットだろうか。

霞んだ視界と混濁していく意識ではそれが何なのかを認識するのは難しかった。

 

「死に晒せ、錦山ぁ……!!」

「…………!」

 

真島と思しき影が両手を真上に上げたのが見えた。

もしもその手に握られているのが金属バットなのであれば、それを振り下ろされれば最後、俺の意識と命はそこで断絶する事になるだろう。

身をよじろうとするが、指一本どころか筋肉の筋一本すらも動く気配がない。

 

(ここまで、か…………)

 

死を覚悟し、意識を手放しかけたその時。

カランという乾いた音が微かに聞こえ、俺を見下ろしていた影が真横に倒れていく。

そして、影が視界から消えるのと同時に俺の近くに何かが落ちた音がした。

 

「お、親父……!」

「おい、親父を運び出すんや!早くしろや!!」

 

周囲が途端に騒がしくなるのを感じる。

どうやら、真島の身体にも限界が訪れたらしい。

あの男は俺よりも先に大出血の大怪我を負っているのだから、致し方のない事と言えるだろう。

だが今となっては大した問題じゃない。

 

(もう、間に合いそうもねぇ、な…………)

 

俺が痛めつけたハズのヤクザ達が懸命に真島の身体を運び出しているのが視界の端に映る。

だが、今の俺は孤立無援。

伊達さんをセレナへ行かせてしまった以上俺を運び出す人手は無いし、今の俺は自力で救急車を呼ぶ事も出来ない。

結局は真島に殺されるか、このまま血を流して死ぬかの違いでしかなかったのだ。

 

「おじさん!」

 

ふと、薄らいでいく視界の中に一人の少女の顔がある事に気付いた。

その子は俺の顔を見ながら懸命な表情で俺の事を呼びかけている。

 

「しっかりして、おじさん!」

 

やがて、俺はその少女の姿を認識した。

遥だった。

 

(そうか……無事だったんだな…………)

 

遥の無事が分かった途端、いよいよ視界が暗くなり始めた。

現実と無意識の境界が曖昧になっていき、やがて意識が途切れていく。

 

(俺じゃ……ここが、限界……か…………)

 

この子は今どういう訳か大勢のヤクザ達に狙われている。このままでは危ない。

だが、未熟な俺ではこの子を守り切る事が出来なかった。

だからもう、祈るしかない。

母親を探し求めて神室町までやってきた一人の女の子の想いに報いる事の出来る誰かが、この子を救ってくれる事を。

 

(誰か…………この子を、守ってやって……くれ……)

 

そんな願いを最後に、俺の意識は暗闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京、神室町。

アジア最大の歓楽街として名高いこの街だが、その規模は決して大きいものではない。

中心に聳え立つミレニアムタワーを中心に、多くの通りが網目や蜘蛛の巣のように張り巡らされているのだ。

そして、そんな神室町の東西を繋ぐ二つの通りの内の一つ"七福通り"。

その通りをとある二人組が、錦山彰の行方を追って彷徨っていた。

 

「なぁ東。本当に錦山の野郎はこの近辺に居るんだろうな?」

「え、えぇ……この辺りで奴を見たって目撃情報があったそうで……」

 

松金組の海藤と東だった。

彼らは今、松金組の若頭から錦山を生かして連れて来いと言う命令を受けているのだ。

 

「そりゃどんな目撃情報だよ?」

「なんでも、嶋野組の連中をぶちのめした後にバッティングセンターの方へと向かっていったとか……」

「嶋野組だと?」

 

その言葉を聞き、海藤が怪訝な表情をする。

 

「嶋野組って言やぁ……俺ら松金組の上部団体、風間組と並ぶ東城会の二大巨頭じゃねぇか」

 

穏健派で通っている風間組とは対照的に、嶋野組は無茶なやり方を力で押し通す武闘派だ。

それに"嶋野の狂犬"を始めとした猛者が数多く在籍している事でも有名な組織で、敵に回せば命がいくつあっても足りない事は明白だった。

 

「東……そりゃ本当の話か?いくら錦山の野郎が腕が立つっつっても、たった一人であの嶋野組に喧嘩売るなんざ自殺行為だぞ?」

「で、ですが実際に嶋野組の連中を蹴散らした錦山の姿を見たって奴が居るんです……!」

 

海藤はあまりにも現実的じゃないその目撃情報の信憑性を疑うが、他に何か手掛かりがある訳では無い。

結局、東の仕入れたその情報を元に捜索するしか無いのだ。

 

「本当かよ、ったく…………あ?」

「兄貴?どうしたんですか……?」

「おい、アレ…………」

 

それは二人が七福通りの東に差し掛かろうとした矢先だった。

バッティングセンターの中から、スーツを着た数名の男たちが大慌てで飛び出して来たのだ。

そしてその中心で、ぐったりとした一人の男が両肩を担がれて運ばれていく様子が見える。

男たちは店前に停まっていたバンに男を担ぎこんだまま乗り込むと、猛スピードでその場を走り去っていった。

 

「あのジャケットって……」

 

一瞬しか見えなかったが、海藤は運ばれている男のジャケットに見覚えがあった。

金色の派手な色のジャケットに、黒のパンツ。

後ろ姿しか見えないものの、その特徴的な見た目は非常に目立つ。

 

「間違いねぇ……真島吾朗だ」

「えっ!?真島って……"嶋野の狂犬"って言われてる、あの……!?」

 

東が震え上がる。

ヤクザ者としては珍しく非常にビビりで怖がりな彼だが、仮に彼でなかったとしてもヤクザ者であれば誰もがその名を聞いて震え上がる事だろう。

それほどまでに"嶋野の狂犬"の異名は神室町中に轟いているのだ。

 

「確かバッティングセンターは真島組のヤサだったな…………」

 

そんな真島の本拠地から当の本人がぐったりした様子で担ぎ出される。

通常では有り得ない事態であると言えるだろう。

 

(東の話じゃ、錦山の野郎はバッティングセンターの方へと向かってったって話だ……そもそも嶋野組の連中とやり合ったってのが現実味無さすぎるが、その若頭の真島が例のバッティングセンターから担ぎ出されてるのを考えると納得出来る部分があるのもマジだ)

 

弟分の東が提供した情報を前提に、海藤は考える。

 

(錦山は何らかの理由で嶋野組と揉めて、あの真島とやり合う事になった。そしてその結果、真島があそこから運び出されていった……だとすれば…………)

 

それはつまり、真島との戦闘を終えた錦山がいる可能性が高いという事に他ならなかった。

 

「どうやら、何かあるのは間違いなさそうだな……東、見に行くぞ」

「ひぇっ!?で、でも兄貴……もしも中で真島組の連中が見張ってたら、俺らタダじゃ済みませんよ!?」

 

東の言う通り、極道がよその組のシマで怪しい動きをしていればそのシマの組織は黙っていないだろう。

ましてや相手は自分達よりも格上の直系組織、かつ武闘派の嶋野組だ。

もしも彼らの狙いが海藤達と同じ錦山なのであれば衝突は避けられないだろう。そうなれば最後、どんな目に遭うのか分かったものでは無い。

 

「そん時はそん時だ!行くぞ!」

「そ、そんなぁ……」

 

しかし、海藤は渋る東を強引について来させ、バッティングセンターへ向けて歩を進めた。

彼らにも下された命令がある。

それが解除されない以上は、動くしか無いのだ。

 

「おいおい、こりゃ…………」

 

バッティングセンターの前まで来たところで、海藤が思わず声を上げた。

出入口から先程バンが停まっていた場所にかけて、夥しい程の血痕が残っていたのだ。

状況から見て、先程担ぎ出されてた真島のものであると見て間違いないと海藤は推測する。

 

(錦山の野郎……あの"嶋野の狂犬"を相手にそこまで……?)

 

海藤はこの世界に入って間もない頃に一度、神室町で真島が喧嘩している所を目撃した事がある。

相手は真島と並ぶ伝説として語り草となっていた東城会の極道で、その闘いぶりはおよそ人間の動きとは思えない程に激しく凄まじいものだった。

そんな真島を相手にこれだけの出血を強いる程の負傷を負わせたと考えれば、錦山の実力は海藤が思っている以上であるという事になる。

もしも中にいる錦山に闘いを挑んだとしても、海藤達が返り討ちになる可能性は非常に高い。

 

(へっ、面白ぇじゃねぇか……!)

 

だが、海藤は燃えていた。

元々彼は、三度の飯より喧嘩が好きな荒くれ者なのだ。

そんな彼が、自分よりも遥か高みにいる男を相手にして闘志を燃やさないわけが無い。

 

「東、もしも錦山が居たとしてもアイツとは一対一のタイマンだからな。お前は手ぇ出すんじゃねぇぞ?」

(それ、自分は必要無いんじゃ……?)

 

テンションが上がる海藤とは対照的に、東は今すぐでも帰りたいというのが本当の所だった。

錦山にはただでさえトラウマを抱えているというのに、それに加えて嶋野組まで絡んで来ているのだ。

命がいくつあっても足りないとは、まさに今のような状況を言うのであろう。

 

「よし、行くぜ!」

 

海藤が意気揚々とバッティングセンターの扉を開いた直後。

 

「きゃっ!?」

「あ?」

 

海藤の足元に何かがぶつかり、短い悲鳴が耳朶を打つ。

ふと海藤が目線を下げると、白いパーカーを着た少女が倒れていた。

 

「子供……?」

「き、君!大丈夫かい?」

 

海藤が状況が理解するよりも早く、東が倒れた少女へと駆け寄って片膝を着いた。

すると少女は、東に向かって大声で訴えた。

 

「お願い!おじさんを助けて!」

「お、おじさん?」

「ん?この嬢ちゃんどっかで…………」

 

突然の出来事に状況が理解出来ない東。

しかし、海藤は少女の姿に見覚えがあった。

各々の反応を示す二人に、少女は再び訴える。

 

「お願い!私一人じゃどうにもならないの!おじさんを助けて!!」

「っ!もしかして…………!」

 

そこで海藤は思い至った。

昨日、錦山を見つけて勝負を仕掛けようとした時に彼が抱き抱えていた一人の少女。

 

「なぁ嬢ちゃん、君の言うおじさんって……錦山って名前だったりしねぇか?」

「えぇっ!?」

 

驚愕する東。

尋ねられた少女は恐る恐るといった様子で答えた。

 

「えっ、う、うん。そうだけど……」

「ビンゴだ。やっぱりな」

「あ、兄貴。これって一体?」

「お前も覚えてんだろ、東。この嬢ちゃん、錦山が昨日抱きかかえてた女の子だよ」

「……あぁっ!?」

 

東はそこでようやく思い出した。

錦山に勝負を挑んだ海藤が、子供と一緒にいると分かった途端に予定を変更し、東と共に錦山が逃げるのを手引きした事を。

 

「おにいさん達って、おじさんのお友達なの?」

「え?あぁ……まぁ似たようなもんだ。それより嬢ちゃん、おじさんを助けてってのは?」

「うん、こっち来て!」

 

少女は味方が出来た安心感から少しだけ表情を緩めると、すぐに二人をバッティングセンターのケージ内へと誘った。

そして。

 

「なっ……!?」

「嘘だろ……!?」

 

二人はそこで、変わり果てた姿の錦山を目撃した。

 

「なんだこりゃ……一体何があったんだ!?」

 

慌てて錦山の元へと駆け寄る海藤。

肩や足の切り傷や顔面の打撲跡など、各所に痛々しい怪我が見て取れるが、いちばん酷いのは風穴が空いてとめどなく血を吹きだす左手だった。

 

「この出血量……マジで命に関わんぞ……!!」

「おじさん、私の事助けるために怖い人達と闘って…………」

「兄貴、その怖い人達ってもしかして……」

「あぁ……真島組の事だろうな」

 

海藤の脳裏には先程目撃したバッティングセンター前での出来事が浮かんでいた。

錦山は真島を退けこそしたものの、自身も大怪我を負ってしまったと言う事なのだろう。

 

「兄貴、自分救急車呼びます!」

 

東が救急車を呼ぶ為に携帯電話を取り出す。

だが、海藤はそれを制止した。

 

「待て、東」

「あ、兄貴……!?」

「俺らの目的を忘れたのか?」

「っ、そ、それは……!」

 

それを聞いた東が言葉に詰まる。

彼ら二人に下されている命令は、あくまでも錦山の身柄の確保と連行だった。

もしもここで救急車を読んでしまえば、彼の身柄は治療のために病院に運ばれ、そこを経由して警察に引き渡されてしまうだろう。

そうなれば自分達の仕事は失敗。若頭からのヤキ入れが待っている。

 

「じゃ、じゃあどうすれば!?」

「ねぇ、どういう事?おじさんの事助けてくれないの!!?」

「あー分かった分かった落ち着けや二人とも!誰も助けないとは言ってねぇだろうが!」

 

慌てる二人をなだめた後、海藤はまず少女に対して指示を出した。

 

「なぁお嬢ちゃん、ハンカチか何か持ってねぇか?」

「え?う、うん……あるけど……」

「よし、そのハンカチでおじさんの左手を抑えるんだ。これ以上血が流れないようにな」

「うん!」

「兄貴。自分はどうすれば?」

 

指示を仰ぐ東に対し、海藤はこう言った。

 

「東、お前のその服。ちゃんと洗ってるか?」

「あ、はい!ちゃんと毎日洗濯してます!」

「よし、じゃあお前はとりあえず服脱げ。ジャケットとYシャツだけでいい」

「へっ……?」

 

あまりにも素っ頓狂な指示に、東は理解が追いつかなかった。

海藤は開いた口が塞がらない彼の頭を叩いて、すぐさま怒鳴りつける。

 

「良いからさっさとしろ!!それとも引きちぎってやろうか!?あァッ!?」

「ひ、ひぃっ!分かりました脱ぎますぅ!!」

 

東は半泣きになりながらも身に付けていたジャケットとYシャツを脱いだ。

黒い長袖の肌着Tシャツだけになる東を尻目に、海藤は東の来ていた白いYシャツを縦に引き裂いた。

 

「お嬢ちゃん、少し離れてくれ」

「う、うん……」

 

海藤は少女にそう言うと、彼女が錦山の傷口を抑えていたハンカチの上からYシャツを巻き付けた。

これ以上血液が流れ出ないようにキツく縛り付け、応急処置を施す。

 

「兄貴……そのために俺のシャツを……」

「気づくのが遅せぇっての。よいしょっと……!」

 

海藤は意識のない錦山を背負うと、その場から立ち上がった。

 

「これからコイツを知り合いの医者んとこに運ぶ。東は嬢ちゃんの事を見ながらついて来い」

「わ、分かりました……!」

「あの、おにいさん……おじさんは、助かりますか?」

 

不安そうな眼差しで見上げる少女に対して、海藤は快活な笑みを浮かべて答えた。

 

「おう、このおじさんは必ず助かる。安心しろ嬢ちゃん。それと……俺は海藤だ。海藤正治。こっちは弟分の東 徹。」

「よ、よろしくね」

「うん……私は、遥。澤村遥です」

「遥ちゃんだな。よし、しばらく俺に付いて来な」

 

そう言って海藤は錦山を背負いながらバッティングセンターを出た。

東と遥もその後に続いていく。

それは紛れもなく、錦山が九死に一生を得た瞬間であった。




ちっ……そういう、ことかいな………

ちょっと、ホンマに……錦山のアホを侮っとったかもしれん…………

しゃーない…………今回は、これで見逃したる………

せやけど、この借りは必ず、返すで…………!!

アカン、頭がぼーっとしてなんも考えられへん…………。
こりゃ血が足りん証拠やな……韓来行かな………

そんな訳でお前ら…………ワシが戻って、来るまでの間…………残り、短い……錦が如く、せいぜい楽しんどくんやな…………


ほ、な……………………
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