錦が如く   作:1UEさん

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最新話です。

皆さんには一体誰だか分かるでしょうか……?


謎の刺客

神室町、中道通り。

喫茶アルプスの路地裏。

四方をビルに囲まれたことにより滅多な事では人目につかないこの場所で、乱闘騒ぎが起きていた。

騒ぎを起こしているのは東城会系のヤクザ組織、松金組の構成員達。

そしてそのヤクザ達に真っ向勝負を挑んだ二人の男達だった。

 

「オラァ!」

「セイヤッ!」

 

ヤクザ達を相手に大立ち回りをしている二人の男はそれぞれ、錦山彰と海藤正治という名前があった。

錦山彰は仮出所したばかりの元ヤクザで、海藤は今対立している松金組の構成員だ。

つまり、彼は今自分の組を裏切って錦山の味方をしている事になる。

 

「何してんだ、さっさと片付けろ!」

 

松金組の若頭である羽村が、ヤクザ達に号令をかける。

大挙として錦山達に押し寄せるヤクザ達だが、二人は一向に退く事は無かった。

 

「ふん!せぇや!うぉりゃああああ!」

 

体格が良く頑丈な事が取り柄の海藤は、持ち前のパワーとタフネスを武器に力任せに暴れ回る。

持ち前の剛腕によるフックやボディブローはもちろん、ラリアットやバックドロップなどといったプロレスの技も多様するその豪快なスタイルは、まさに暴力の体現と言えるだろう。

 

「はァ!セイッ!でぇりゃァ!!」

 

一方、怪我をした左手を庇いながら闘う錦山は、器用に闘い方を変えて立ち回っていた。

肘打ちや膝蹴り、頭突きに金的と"なんでもあり"なヤクザ然とした荒々しい闘い方から、即座にボクサーのような構えを取って俊敏な動きで翻弄する。

そして、そうやって懐に入った瞬間に空手や相撲を彷彿とさせる正拳突きや張り手といった力強い一撃で一気に仕留める。

周囲のヤクザ達もその変幻自在な戦い方に対応が追い付かず、次々と数を減らしていた。

そして。

 

「どりゃぁぁああ!!」

 

海藤の右フックでヤクザが吹き飛び、取り巻き達全員が今度こそ戦闘不能に追いやられた。

 

「よぉ、錦山さんよ。アンタ何人やったよ?」

「五人だ」

「へっ、なら俺の勝ちだな。こっちは六人よ」

「お前な……自分の組の奴らボコって自慢げにするんじゃねぇよ……」

「な、なんて野郎共だ……」

 

軽口を叩き合う二人を見て羽村は慄く。

なにせ自分の勢力の中で無事なのは、若頭の羽村だけなのだから。

 

「でもそれは……アンタを倒せば互角になれるってことだよな。羽村」

「くそっ、ふざけやがって……!ナメんじゃねぇぞコラァ!!」

 

ついに羽村が錦山目掛けて拳を振り上げた。

だがその拳が錦山に届くよりも早く、彼は動いていた。

 

「フッ!」

 

左足を振り上げ、前蹴りを放つ。

しかし、靴底を叩きつけて足裏で押し出すようなただの前蹴りではない。

蹴り足の足首はそのままに、羽村の腹部を目掛けて突き刺すように蹴りを叩き込んだのだ。

 

「うぐぉぉっ!?」

 

直後、地獄の苦しみが羽村を襲った。

放たれた蹴りは羽村の右脇腹にくい込む。

そこには肝臓があり、ボクシングで言う所のレバーブローと同じ状況が発生する。

これは空手における蹴り技の一つで"三日月蹴り"と呼ばれる技だ。

本来は足の親指を当てる技なのだが、錦山の履いた革靴の爪先が突き刺さる事でその威力はより凶悪になっている。

 

「オラァ!!」

 

たまらず悶絶する羽村の顔面に、錦山が追い討ちの右アッパーを直撃させた。

文字通りぶっ飛ばされた羽村は、受け身も取る事が出来ずに地面を転がる。

 

「よし、これでタイだな」

「うわっ、容赦ねぇ……」

 

得意げに笑う錦山に対し、羽村が味わっている激痛を想像して青ざめる海藤。

この勝負、錦山達の完全勝利だった。

 

「ぐ、ぅ、ぉぉ……!」

 

地獄の苦しみから解放されず、呻き声を上げてのたうち回る羽村。

錦山はそんな羽村の胸ぐらを掴み上げた。

 

「さて、羽村さんよ。知ってる事を喋って貰うぜ。文句はねぇよな?」

「くっ……!」

 

喫茶アルプスの裏で始まった松金組との乱闘事件。

結果として、錦山側の圧勝に終わった。

 

「か、海藤……!」

 

羽村は、錦山の後ろにいた海藤に恨みがましい視線を向ける。

今回のこの乱闘で錦山が勝利出来たのは、松金組一の武闘派として名高い海藤が錦山の側に付いたことが大きかった。

 

「テメェ……この落とし前は、必ず付けてやるからな……!」

「……」

 

海藤に対してそう宣告する羽村だが、彼は自分の立場を理解していないようだった。

 

「オラァ!」

「ぶげっ!?」

 

錦山が羽村の顔面に肘打ちを落とす。

折れた鼻を抑える羽村の胸ぐらを掴み上げ、錦山が圧をかけた。

 

「おい、こっちの話が終わってねぇだろうが。何を呑気に今後の話してんだ?あ?」

「うがっ!?」

 

胸ぐらを掴んでいた右手を離し、羽村の首を掴んで地面に叩きつける。

最低限、気道を確保出来る程度の力で締め上げながら錦山は殺気を放って羽村に迫った。

 

「お前に"今後"があるかどうかは俺の機嫌次第なんだぞ?喋る気がねぇなら……今ここで息の根を止めてやっても良いんだぜ?」

「へ、へっ……出来るもんかよ。そんな事すりゃ、テメェ、は、っ!!?」

 

錦山は、尚も減らず口が無くならない羽村の首を今度は全力で締め上げた。

呼吸が遮られ、肉と血管が圧迫され、骨と神経が軋み始める。

 

「そんな事すりゃ、なんだ?松金組全部を敵に回すってか?」

「っ!、っっ……!!」

「それがどうした。こっちはもう三代目の葬儀って厳粛な場で暴れ回っちまってる以上、東城会全部を敵に回してるようなものなんだ。今更三次団体の一つや二つにいちいちビビってられるかってんだよ」

 

錦山は今、神室町全域のヤクザ集団から命を狙われている。

いや、より正確には関東地域一帯のほぼ全ての極道組織から目の敵にされていると言った方が良いだろう。

彼はもう、後には退けないのだ。

 

「そこまでだ、錦山」

「海藤?」

 

そんな錦山を引き止めたのは、意外にも海藤だった。

彼は真剣な表情で錦山を諌める。

 

「俺は確かに"アンタを傷付けない"と約束した。だが、羽村のカシラを殺していい訳じゃねぇ。その人は松金組にとって無くてはならない存在だ」

「…………」

「どうしてもカシラを殺るってんなら……俺は嬢ちゃんとの約束を破らなきゃならなくなる。俺にそんな真似させんじゃねぇよ」

「……そうだな。悪ぃ」

 

海藤の説得に応じ、錦山はあっさりと羽村を解放した。

錦山としても本当に息の根を止めるのは最終手段であり、何より遥の想いを裏切ってしまうのは避けたい事柄だったからだ。

 

「げほっ、ごほっ」

「出来のいい舎弟を持ったな、羽村。後で感謝しとけよ」

「テメェ……!」

「さぁ、今度こそ喋って貰うぜ………………ん?」

 

ふと、錦山の動きが止まる。

その顔には怪訝な色が浮かんでいた。

 

「…………なぁ、錦山」

 

そしてそれは、海藤も同様の様子だ。

 

「あぁ……見られてる。誰かに……」

 

海藤は生来備わっていた野生の勘で。

錦山は刑務所で衆目に晒される中で身に付いた感覚で、二人に注がれている"謎の視線"を敏感に感じ取ったのだ。

 

(四方をビルに囲まれた閉鎖的な空間。出入口付近からこちらを除く影は見当たらない。松金組の奴らは羽村以外は全員のびている……となりゃ…………)

 

錦山がある可能性のもとに、恐る恐る視線を上げようとした時。

 

「錦山、上だ!!」

 

海藤の叫び声が路地裏に響き渡る。

錦山が上へと視線を向けたのと、その上にいた"何者か"が銃を発砲するのは全くの同時だった。

 

「ぐぁっ!?」

 

弾丸が空気を切り裂く音と共に海藤の左肩と右足から鮮血が飛び散る。

 

「海藤!!」

 

錦山は即座に羽村から離れると、海藤の肩を担いでビルの階段の踊り場の下へと避難した。

直後、海藤を撃った"何者か"はなんの躊躇いもなくビルの屋上から飛び降り、錦山のいる路地裏へと着地する。

 

(アイツ……何者だ?)

 

錦山は踊り場の下から顔を覗かせ、突如として現れたその人物を視認する。

 

「…………」

 

その人物は、黒いレインコートを着ていた。

背丈や身体付きから男性であると想定が出来るが、フードを目深に被っているので顔は視認出来ない。

そして手には黒い革の手袋と、銃口に円筒型のパーツが取り付けられた拳銃。

 

(なるほどな……だから銃声がしなかったのか……!)

 

消音器(サイレンサー)

文字通り拳銃の銃声を消す事を目的として開発され、周囲に銃声を聞かれる事を防ぐ事が出来る代物だ。

通常の戦闘で使われる事はほぼなく、隠密作戦の部隊や暗殺者が犯行を気取られない為に使われる場合がほとんどであるとされている。

 

(それに、ビルの屋上から正確にこちらを銃撃する程の腕前。そしてそこから飛び降りても危なげなく着地出来るほどの胆力と身体能力……)

 

錦山は直感した。

あの男は"出来る"奴だと。

 

「海藤、平気か?」

「あ、あぁ……どっちも掠っただけだ。これくらいはどうって事ねぇ」

 

海藤の肩と足からは出血が見られるが、本人の言葉通り弾丸は直撃していない。

彼は持ち前の野生の勘、即ち生存本能に従って咄嗟に回避運動をしようとしていた。

その結果、本来直撃するはずだった弾丸の着弾点がズレたのだ。

 

(全く大した野郎だ。でも……その怪我じゃ満足にアイツとやり合うのは無理だ)

 

無理をすれば戦線復帰は可能かもしれないが、そんな手負いで勝てるほど今回の相手は甘くないだろう。

 

「海藤、ここで隠れてろ」

「な、錦山、お前……!」

「今のお前じゃ足でまといだ。良いな?」

 

言うが早いか。

錦山はすぐ側にあったゴミの入ったゴミ袋を手に持ち、路地裏を飛び出した。

 

「……!」

 

レインコートの男がそれに気付き、すかさず銃口を向ける。

 

「オラッ!」

 

それに対し錦山は手にしたゴミ袋を勢いよく放り投げた。

直後、ゴミ袋に複数の風穴が開く。

男が飛んできたゴミ袋に発砲したのだ。

 

(今だ!)

 

錦山はその隙を突いてレインコートの男と距離を詰めるべく、全速力で駆け出した。

しかし、彼我の距離は未だ遠い。

 

「……」

 

男はすぐにゴミ袋から錦山へと照準を合わせる。

しかし、それは錦山にとっては想定内だった。

 

「甘ぇっ!」

 

錦山は、懐から引き抜いたスタンバトンを勢いよく放り投げる。

回転しながら男の元へ飛来したスタンバトンは彼の持つ拳銃の銃身に直撃し、その機能を発動させた。

 

「!?」

 

弾け飛ぶような衝撃と音が男を襲い、その手から拳銃がこぼれ落ちる。

その瞬間を、錦山は待ち望んでいた。

 

「貰ったぁ!!」

 

錦山は叫びながら右足を突き出して地面に滑り込む。

野球選手のようなスライディングキックが、男の足元を刈り取らんと迫る。

 

「!!」

 

男はそれを避ける為にその場から飛び退く。

しかし、それこそが錦山の狙いだった。

 

「そらよっ!」

 

錦山はすかさず左足を軸に回転すると、そのままの勢いで拳銃を蹴り飛ばした。

これにより、レインコートの男がこの場における絶対的なイニシアチブを握る事は不可能となる。

 

「さて、これで少しはフェアになったな?」

「…………」

 

レインコートの男は黙して語らない。

拳銃を無力化されてもなお、その佇まいには余裕さえ感じられる。

 

「一応聞くぜ……何者だ、テメェ。誰の差し金だ?」

「…………」

 

錦山の問いに対して、レインコートの男は静かにあるものを取り出した。

それは、プッシュダガーナイフ。

グリップがメリケンサックのような形状をしており、両刃の刃が拳の前に来るように設計されている。

斬撃よりも刺突に特化した暗殺用の武器だ。

それは、どんな言葉よりも雄弁に彼の目的を語っていた。

 

「なるほどな…………誰かが雇った殺し屋って訳だ」

「…………」

「言っとくがな。俺をそんじょそこらのチンピラと一緒にすんじゃねぇぞ?」

 

錦山は静かにファイティングポーズを取る。

彼としてもこんな所で人知れず殺される訳には行かない。ここは決して、彼の死に場所では無いのだ。

 

「生憎、俺の首は安かねぇ……獲れるもんなら獲ってみやがれ!」

 

突如として現れた、謎の刺客。

この日最後の喧嘩は終わりを告げ、この日最後の"死合い"が幕を開けた。

 

「……!!」

 

先制攻撃を仕掛けたのは刺客の方だった。

右手に持ったプッシュダガーナイフを真っ直ぐに突き出す。

狙いは首元。当たれば一撃で命を刈り取れる、人体の急所の一つだ。

 

「オラッ」

 

しかし、それに反応出来ないほど錦山も愚鈍ではない。

繰り出された刺突に左手を当てて難なく捌く。

 

「っ……!」

 

刺客はそれを予期していたのか、捌かれた勢いのままに左足を後ろに振り上げる。

 

「ぐっ!」

 

直後、刺客が後ろ回し蹴りが錦山の側頭部目掛けて放った。

咄嗟に防御した錦山だったがその威力は高く、ガードの為に上げた腕が僅かに軋む。

 

「!」

 

刺客はその蹴り足を戻し、今度は右足で薙ぎ払うような横凪のミドルキックを放った。

 

「っと!」

 

錦山はその攻撃をバックステップで回避し、刺客の繰り出したミドルキックを空振りさせる。

 

「っしゃァ!!」

 

明確な隙を晒した刺客に対し、錦山がすかさず構えを変えて距離を詰めた。

 

「……!」

 

ミドルキックの勢いのままにその場を一回転して正面を向いた刺客に、錦山の放った右ストレートが襲いかかる。

咄嗟に腕で防御した刺客だったが、彼は直ぐにその選択を後悔した。

 

「っ!?」

 

錦山の拳が腕に当たった瞬間、鈍器で殴られたかのような壮絶な痛みが刺客を襲う。

錦山の放ったのはボクシングの右ストレートではなく、空手における正拳突きだったのだ。

 

「せぇッッ!!」

 

裂帛の気合いと共に拳に力を込める。

錦山は柏木から教えこまれた心得に従い、インパクトの瞬間にのみ拳を固く握りこんだ。

 

「っ、!」

 

刺客はその威力に逆らわず、後ろに飛び退く事を選択した。

僅かでも威力を減らしてダメージを軽減する腹積もりである。

 

(逃がすか!)

 

錦山はすかさず刺客を追撃した。

距離を置かれてしまうと刺客の持つプッシュナイフダガーの間合いを作る事になり、付け入る隙を与えてしまうからだ。

 

「シッ、シッ!」

 

錦山はここで再び構えを空手ベースの構えからボクサー寄りの構えに切り替えた。

瞬く間に距離を詰め、右の拳を連続で突き出す。

 

「シッシッ!シッ、シッ、シッ!!」

「っ……!!」

 

右足を前にしたサウスポースタイルによる右ジャブの連打。

牽制として放たれているはずのそれは、刺客の上げたガードの上から着実にダメージを与えている。

 

「……!」

 

防御に回り防戦一方だった刺客だが、彼は決してただやられていた訳では無い。

重い拳の連打に耐えながら、錦山の隙と弱点を伺っていたのだ。

そして、その機会は訪れる。

 

「シッ、……っ!」

 

刺客は錦山の前手のジャブを左手で受け止めた。

そして、そのまま錦山の手首を掴む事で彼の動きを制限する。

 

「ちっ、クソっ……!」

 

身動きが取れない事に焦る様子を見せる錦山。

そんな彼に対して、刺客は右手に持ったプッシュダガーナイフで刺突を繰り出した。狙いは腹。

本来であればナイフごと右腕を掴まれてもおかしくはないが、刺客には絶対にそうはならないという確信があった。

彼は、錦山の左手に包帯が巻かれている事に気付いたのだ。

そして、これまでの戦いから彼が左手を一切使わない事も。

 

「!!」

 

錦山彰は左手を負傷している。そしてそれはこちらにとっての明確な弱点である。

そう認識した刺客は無事である右手による攻撃を無力化し、錦山にとって反撃も防御もままならない左手側。

つまり自分にとっての右手側から、必殺の一刺しを見舞ったのだ。

しかし。

 

「ッッ……!!?」

 

彼の思惑は右の前腕に走った壮絶な痛みと共に砕け散る事になった。

 

「へっ、なんてな」

 

刺客の突き出した右腕は、錦山の腹部に到達するよりも前に止められていたのだ。

錦山の放った左の膝蹴りと左肘の打ち下ろしに挟まれる事で。

 

「テメェの狙いなんざお見通しだよ、マヌケ!!」

 

錦山はプッシュダガーナイフを取り落とす刺客の頭を掴み、顔面へ膝蹴りを叩き込んだ。

たたらを踏んだ刺客に足払いを仕掛けて仰向けに転倒させ、そのまま腹を踏み付けて完全に制圧する。

 

「ハッ、こんな手に引っかかってくれるとはな。まだまだ修行が足りないぜ、素人ヒットマン」

「……!」

 

彼はとっくに気づいていたのだ。

刺客が自分の弱点を突いてくる事に。

それを見越して、錦山はあえて蹴りをほとんど使わずに右手による攻撃を続けていた。

刺客の目を右手の攻撃速度に慣れさせ、刺客の意識を攻撃が来る右手だけに集中させるために。

そして、右手を封じた瞬間を好機とみなして攻撃に転じた瞬間を叩く。

彼の立てた作戦が見事にハマり、この"死合い"は幕を下ろした。

 

「おい羽村。コイツ、中々腕が立ったが……テメェの差し金か?」

「ち、違う!俺は何も知らねぇぞ!」

 

戦いに巻き込まれぬよう物陰に隠れていた羽村が、疑いをかけられて焦り出す。

この一連の戦いの中で、羽村は自分が決してこの男に勝てない事を痛感していた。

 

「そうかよ……海藤、動けるか?」

「あ、あぁ……」

 

錦山の呼び掛けに応じるように、物陰に隠れていた海藤が肩を押さえて脚を引きずりながら出てきた。

掠っただけとはいえ銃で撃たれた直後でここまで動けるのは、ひとえに海藤のメンタルと屈強さが優れている証拠だ。

 

「コイツをふん縛るぞ。手ぇ貸せ」

「おう、分かった」

「……………………」

 

海藤が錦山の元へと歩み寄る。

錦山はその間、海藤や羽村へと視線を向けていた。

 

「……………………」

 

それ故に、錦山は刺客がレインコートのポケットに左手を入れている事に気付くのが遅れた。

 

「っ、テメェ何してやがる!?」

「!!」

 

錦山が叫ぶのと同時に、仰向けに倒れた状態の刺客が左手から取り出した何かを地面に叩き付ける。

その瞬間、眩い閃光と耳を劈く爆音がその場を支配した。

 

「ぐぁっ!?」

「ぬぅっ!?」

 

錦山と海藤は思わず耳を塞ぐ。羽村も同様だ。

その場の人間が前後不覚に陥る中、刺客はすぐさま錦山の足元から脱出する。

音と光が正常になった時にはもう、錦山に襲いかかった刺客は影も形もなくなっていた。

 

「クソっ、スタングレネードか……!」

 

別名、閃光手榴弾。

強烈な光と爆音で相手の視覚と聴覚を一時的に無力化し、その隙に作戦行動や脱出及び撤退を行うための武器である。

殺傷力こそ持たないものの、こういった局面では何より役立つ代物だ。

そうでなければ、錦山はみすみすあの刺客を取り逃すことも無かっただろう。

 

(野郎、結局顔を拝む事は出来なかったが……何者だ?)

 

錦山を襲った刺客は紛れもない実力者だった。

もしも錦山の作戦が上手くハマって居なければ、錦山の命は無かったに違いない。

 

「兄貴ィ!」

 

混乱収まらぬ中、路地裏に一人の男が飛び込んでくる。

海藤の命令で組事務所に行っていた東だった。

 

「東!組長は!?」

「おう、来てるぞ」

 

そして、そんな東の後ろからスーツを着た壮年の男が現れる。

更にその後ろには、数人のヤクザ達が控えていた。

 

「組長……お疲れ様です!」

「海藤、お前どうした?怪我してんのか?」

「い、いえ。大した事じゃありません」

「そうか……後で手当を受けるんだぞ」

 

海藤を気にかけた後に、壮年の男は錦山に視線を向ける。

その目はどこか懐かしそうに細められていた。

 

「こうして顔を合わせるのはいつぶりだ?元気そうじゃねぇか。錦山よ」

「ご無沙汰しています……松金の叔父貴」

 

錦山が頭を下げたこの男こそ、海藤や羽村のいる松金組を仕切る極道。

東城会直系風間組内松金組組長。松金貢その人である。

 

「あらかたの事情はこの東から聞かせて貰った。が、お前らには色々と聞かせてもらうぜ。そして……羽村」

「親父……」

 

穏やかだった松金の表情が一気に厳しくなり、声が冷淡になる。

紛れもない怒りだった。

 

「一度ならず二度までもとはなぁ……勝手な真似しやがって」

「お、親父……!」

「話は事務所で聞かせてもらう。どう落とし前つけるかも、キチッと考えとけよ」

「くっ……!」

 

歯噛みをして俯く羽村。

こうなってしまった以上、どう足掻いてもケジメは免れない。

彼に出来ることは、もう何も無かった。

 

「よし、テメェら。まずは倒れた奴らを介抱だ。すぐにサツが来る。そいつらを連れてここから離れろ!」

「「「「「へい!」」」」」

 

松金の命令で、ヤクザ達が迅速に動き始めた。

錦山と海藤が倒した構成員達を抱き起こし、担いでその場を後にする。

 

「すまねぇな錦山、ウチのモンがよ」

「いえ、大丈夫です」

「俺も、本部で撃たれた風間の親父の事は気にかけててな……いい機会だ。俺にも色々と教えてくれ」

「えぇ、もちろん。俺が知ってる範囲にはなりますけど……」

「構わねぇさ、頼んだぜ」

「はい、わかりました」

 

錦山は松金の要請に快く応じる。

彼としても、大の風間派である松金の親分の頼みを聞かない訳には行かないのだ。

 

「よし、じゃあまずは場所を移そう。ウチの事務所まで付き合ってもらうぜ」

「わかりました、松金の叔父貴」

 

錦山は松金の指示に素直に従った。

喫茶アルプスで始まった松金組の騒動。

その後始末が今、行われようとしている。




如何でしたか?

今回登場したのはジャッジシリーズにおける最重要人物の一人です。

もしもまだプレイしていない方や展開を知らない方は是非、やってみて頂くか動画をご視聴下さい。個人的には「牛」が付く人の実況プレイ動画がオススメです。

そしていつも感想を書いてくれる皆様は、どうかこの刺客の正体についてはハリーポッターで言う所の"名前を出しちゃいけないあの人"的な扱いで一つ、よろしくお願いします

次回もお楽しみに
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