錦が如く   作:1UEさん

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日間ランキング8位!?
最初は我が目を疑いました。
本当にありがとうございます……!
皆さんの声援に応えたくて、早速一話投稿しようと思います。
今回の話で一区切りと考えていますので、次回からはまたゆったり更新のつもりで行きます。

あと、読みづらいとのお声があったので行間を空けて書いてみました。
もしこれで読みやすいという事でしたら、次回からこれで行こうと思います。
それではどうぞ!







破門

1995年10月2日。

堂島組長射殺事件の翌日。

錦山は、神室警察署の取調室で取調べを受けていた。

勿論、堂島組長殺害の犯人としてだ。

 

「ふざけるな!」

 

錦山の対面に座る刑事が、叫び声を上げて立ち上がった。

容疑者を真っ直ぐに射抜くその目から、錦山は逃げるように目を逸らした。

 

「俺が殺ったんです……組長の理不尽な仕打ちに、カッとなっちまって……」

「いい加減にしろ!そんな嘘が通用すると思ってるのか!」

 

覇気のない声で供述する錦山の顔を、刑事がライトで照らす。

彼には錦山の供述が、どうしても納得出来るものでは無かったのだ。

 

「伊達くん、もういい」

「良かぁないですよ!」

 

宥めようと声をかけたもう一人の刑事に、伊達と呼ばれた刑事は激情のままに吠えた。

 

「我々の捜査で、現場には複数の弾痕があった事が確認出来たんです!なのに堂島の遺体から発見されたのはコイツの持ってた拳銃の弾だけ!どう考えたって不自然じゃないですか!」

 

現場から発見された弾痕は全部で三つ。

一つは事務所の部屋の廊下の壁に。もう一つは現場にあった組長の机に。

そして最後の一つは堂島の遺体に刻まれたものだ。

 

「遺体から発見された弾丸と錦山の持っていた拳銃の線条痕は一致している。それ以上になんの証拠が必要だと言うのだね」

 

近代の拳銃は大抵の場合、弾丸を回転させて安定性を上げる為に銃砲身内に螺旋状の溝が彫られている。

弾丸は火薬の炸裂に伴い、銃砲身内でその溝を軸に回転して発射されるという訳だ。

そして、その際には必ず弾丸に浅い傷跡が出来る。

それが線条痕であり、これを調べる事によって弾丸がどの拳銃から発射されたものかを特定することが出来る。

言わば、銃の指紋とも呼ぶべき重要な証拠なのだ。

 

「だったら、組長の机と廊下の壁にあった二つの弾痕はどう説明するつもりですか!」

 

伊達が指摘したのは、残り二つの弾痕。

いずれも弾丸が潰れてしまい線条痕の特定には至っていないが、犯行時に錦山の持っていた拳銃の残弾数と噛み合わなかった事から、伊達刑事は事件現場にいたであろうもう一人の人物が犯行に関与していると推察したのだ。

 

「間違いありません。あの場には確かにもう一人、組にとって重要な誰かがいたんです!コイツはきっと、そいつを庇ってるんだ!出なけりゃ一構成員でしかないコイツが組長を殺っただなんて言うはずがねぇ!!」

「伊達くん、これはヤクザの抗争だ。誰が殺ったかは問題じゃない。」

 

しかし、もう一人の刑事はそんな彼を冷めた目で見つめる。

まるで、時代錯誤の異物を見るように。

 

「事件の迅速な解決。それが今求められている全てだ。」

 

平坦な声でそう告げた刑事が取調室を出ると、伊達は席を立ち上がって椅子を蹴り飛ばした。

 

「クソッ……!」

 

己の信念を踏みにじられた伊達の顔が、苦虫を噛み潰したように歪む。

 

「……刑事さん。頼みがあります」

 

その姿が、自分の兄弟分と重なったからだろうか。

錦山は、ふとした思いで伊達にある事を願った。

 

「俺の持ち物の中に、指輪があります。それを、堂島組の風間に渡してくれませんか?」

 

それは、錦山に出来るせめてもの贖罪。

勝手極まる行動の果てにする償いとしては、あまりにも小さな事。

それでも、行動を起こさずにはいられなかった。

 

「申し訳ありませんでしたって、伝えて下さい」

 

声をかけられた伊達は、瞳に宿る熱はそのままに怒りの視線を錦山に叩きつける。

 

「なんで俺が、お前みたいなチンピラの言う事聞かなきゃならねぇんだ?言っとくが、俺ぁお前を擁護したい訳じゃねえぞ?」

 

警察官である伊達にとって極道である錦山は敵。

しかも、捜査一課の刑事とただの構成員ではそもそもの格が違う。

何より、頼みを聞く聞かない以前に錦山は現行犯逮捕された殺人犯なのだ。

そんな事を頼める立場になど、最初から立てていないのである。

 

「はい、分かってます……」

「はぁ?だったら何で俺に頼もうと思った?」

 

伊達の疑問に対し、錦山はそれまで合わせようとしなかった目線を向けてこう口にした。

 

「刑事さんの目……俺の知ってる奴にそっくりなんです」

 

その答えを聞き、伊達は思い至る。

極道でありながら決してカタギに迷惑をかけず、常に筋の通った生き方をする一人の男を。

 

「……桐生の事を言ってるのか?」

「えぇ……」

 

桐生一馬。

堂島組の中で近々組を立ち上げようとしている極道で、錦山とは渡世の兄弟分。

そして、そんな桐生と幼少期から時間を共にした親友でもある錦山は、桐生がどんな男かをよく知っていた。

故に、そんな桐生の生き様とひたむきに事件に向き合おうとする伊達刑事の姿勢に、心の中で感じ入るものがあったのだろう。

 

「アイツと同じ真っ直ぐな目をした刑事さんだったら

……きっと俺なんかの話にも耳を傾けてくれるって、そう思ったんです」

「……」

 

そう語る錦山の表情は未だ暗く、声にも覇気が感じられない。

しかし、視線だけは真っ直ぐに伊達刑事を向いていた。

 

「ふん、何を言い出すかと思えば。俺を極道なんぞと比べるんじゃねぇ」

「そう、ですよね……すいません……」

 

吐き捨てるように言った伊達は踵を返して、取調室の戸を開けた。

これ以上話を聞いても、錦山は自分がやったと言い張り続けるだろう事は明白だったからだ。

 

「錦山」

「はい……?」

「指輪の件、約束はしねぇぞ」

 

彼は最後にそれだけを告げると、そのまま振り返ること無く取調室を後にした。

 

「っ……ありがとう、ございます…………!」

 

啜り泣く声と感謝の言葉を背に受けながら、伊達の意識は別の所にあった。

 

(錦山のあの目……)

 

伊達が注目したのは、桐生の名前が出た時の錦山の目だった。

憧れの存在を見出してそこに至りたいと願う強い気持ちと、それがもう叶わない事を突き付けられた絶望が綯い交ぜになった悲壮な目。

 

(アイツは桐生に対して強い憧れを抱いている。ともすれば嫉妬にも近いようなものを……もしそれが本当なら……)

 

伊達の中に宿る刑事としての勘が、その目を見た事でこう囁いたのだ。

錦山彰は犯人ではない、と。

 

(なら、俺のやる事は一つだけだ)

 

刑事としての誇りにかけて、必ず真犯人を暴き出す。

決意を固めた伊達は、事件解決の為に突っ走る。

たとえその先に、どんなに深い陰謀があったとしても。

警視庁捜査一課刑事、伊達真。

彼は本庁の中で、誰よりも真実と正義を追い求める男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件発生から数日後。

堂島組長殺害の現行犯で逮捕された俺は留置所に収容されていた。

刑務所とは違い、留置所とは犯罪者が収容される施設では無い。

警察に逮捕された者の逃亡や証拠隠滅を防ぐ為に収容される施設だ。

この間に警察は現場を捜査して証拠を集める事で、自分達が逮捕した者が本当に犯罪者かどうかを確かめる。

金銭支払いにおける和解や示談などで済ませる場合もあるが、たいていの場合は裁判を通じて犯罪者に刑を確定させて執行する。

つまり、刑が確定するまでは犯罪者では無いのだ。

 

(まぁ、俺は有罪判決で確定だろうがな……)

 

俺も極道の端くれだ。

暴行や傷害で警察の世話になり、留置所に入れられた事も一度や二度ではない。

いつもであれば留置所に入る事など、今更対して珍しくもないのだ。

だが今回は訳が違う。

今までは後ろ盾である堂島組からの支援があって示談や和解が成立してきたが、今回の俺の罪状は殺人。

しかも、殺ったのはその後ろ盾だった組織の大幹部なのだ。

示談や和解など有り得るはずもない。

 

(絶縁か……)

 

それは極道にとって最大の処罰だ。裏社会全てからの永久追放。

表にも裏にも居場所が無い、孤立無援の状態で一生を過ごす事になる。

 

「馬鹿な兄貴でごめんな……優子………」

 

病院に残した妹の優子の事が脳裏をよぎる。

優子は今でも、懸命に病気と闘っている筈だ。

本当に申し訳ない事をしたと思う。

肝心の手術の前に俺が側に居てやれない。

いや、側に居れない状況に自分からしてしまったのだから。

 

「錦山」

 

ふと、鉄格子の外から俺に声がかかる。

振り向いた先に居たのは制服を来た警官だった。

 

「お前に面会だ。房から出ろ」

「……はい」

 

俺は指示に従い警察官の開けた房の扉を出ると、すぐに手錠をかけられた。

警察官について行くようにして警察署内を歩き、白い壁に包まれた面会室へと導かれる。

俺がパイプ椅子に座ったのを確認した警察官が、背後にあるデスクと事務椅子に腰かけた。

しばらくすると、ガラス越しの向こうの部屋のドアがゆっくりと開いた。

 

「彰……」

 

現れたのは、右手で杖をついたスーツ姿の初老の男。

貫禄のある眼差しが俺を慈しむように向けられていた。

 

「親っさん!」

 

東城会直系堂島組若頭兼風間組組長。風間新太郎。

親を亡くした俺や桐生を孤児院で育ててくれた恩人だ。

そして、俺をこの世界へ導いてくれた人でもある。

 

「大変だったな、彰」

「親っさん……本当にすみませんでした!!」

 

俺はガラス越しのおやっさんに頭を下げた。

あの時は頭の中が色んな感情で埋め尽くされて、正直覚えていない。

ただ、桐生や由美を……そして優子をどうにかして助けたいというただその一心だった。

それで動いた結果、育ての親である風間の親っさんに甚大な迷惑をかけてしまったのだ。

 

「いや……お前が一人で抱え込む必要はねぇ。手回しが遅れた俺にも責任がある」

 

だが、親っさんはこんな時でさえ俺を責める事はしなかった。

右手で杖をついたまま対面のパイプ椅子に腰掛けた親っさんは、自分が逮捕された後の事を語ってくれた。

 

「今回の一件。事情は全て"組の者"から聞いた。"お前の馴染み"も俺の信頼出来る人間の下で預かっている。心配は要らない」

 

風間の親っさんは事件が起きたその後、誰よりも迅速に動いてくれたらしい。

見張りの警官がいるこの場で余計な情報を漏らす訳にはいかないのだろう。

"組の者"や"お前の馴染み"という言い方をしているが、それが桐生と由美である事は容易に読み取る事が出来た。

 

「親っさん……」

「なんだ?」

「妹は、この事知ってるんですか?」

 

俺の問いに、風間の親っさんは首を振って答えた。

 

「いや、妹にこの事は伝えていない。どんな負担があるか分からねぇからな」

「そうですか……」

 

俺は安堵した。

もしも自分の実の兄貴が殺人犯になったと知ってしまったら、優しいアイツはきっとショックでどうにかなってしまう。

病床に伏せ、心身ともに弱っている優子に余計な心配をかけさせる訳には行かないのだ。

 

「今月末にある最後の手術には"組の者"が立ち会う事になった。これは……お前が望んだ事なんだよな?」

「はい……」

 

優子を助けてやってくれという俺の願いを叶える為に、桐生はきっと動いてくれているのだろう。

本当に、アイツには感謝しかない。

 

「彰、今日はお前にこれを渡しに来たんだ。」

 

親っさんはそう言って懐の中に右手を伸ばした。

そして、そこから取り出した封筒を一枚の白い封筒を俺の前に差し出す。

 

「!!?」

 

しかし、そこには俺が思っていた文字は載っていなかった。

 

「破門……!?」

 

封筒に記されていたのは"破門状"の文字。

それは、東城会側から俺に下された措置が破門であることを示していた。

極道の世界においては絶縁の他に破門という措置がある。

極道社会からの永久追放と組織からは報復があり真っ当な社会復帰が絶望的な絶縁とは違い、破門は極道からの追放ではあるものの組織からの報復の可能性は低く、社会復帰はもちろんの事、場合によっては極道としての復帰も出来る。

カラの一坪事件の際に一度カタギに戻った桐生が組に復帰したのも、その措置が破門であったからに他ならない。

言わば極道にとって"破門"とは解雇通知のようなものなのである。

 

「親っさん!俺は、自分の親を殺しちまったんですよ……?絶縁なんじゃ、無いんですか?」

 

親が絶対である極道の世界で、その親を殺した容疑で逮捕されたのだ。

最大の掟を破ったと言ってもいい俺が、破門で済むのは異例中の異例と言って良い。

 

「あぁ……世良会長がそう決めたんだ。これは決定事項だ」

 

世良とは、東城会三代目会長の名前だ。

かつては日侠連と呼ばれる組織を率いており、カラの一坪の一件で多大な功績を挙げた事から東城会本家若頭に就任し、そのまま三代目を襲名したやり手の極道である。

しかしその世良会長に極道のイロハを仕込んだのは風間のおやっさんで、今でこそ立場が上の世良だが風間のおやっさんには未だに足を向けては寝られないと聞いたことがある。

 

「まさか、親っさんが……?」

「……」

 

おやっさんは目を逸らして黙り込む。

それは、答えに等しかった。

警察の管理下にあるここで堂々と話す事など出来ないが、親っさんはきっと三代目に掛け合ってくれたのだ。

俺みたいな末端のチンピラを護るために。

そして同時に、嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 

「親っさん……一つ聞いても良いですか?」

「……どうした?」

 

その予感を、どうしても尋ねたかった俺は、生唾を飲みこんで恐る恐る尋ねた。

 

「なんで……左手をポケットに入れたまま(・・・・・・・・・・・・・)なんですか?」

「!!」

 

今日、親っさんは右手で杖をつき、右手で懐から破門状を取り出していた。

そこまでは別に問題ない。

俺が気がかりだったのは、歩いている時や椅子に座る時にポケットから左手を出さない事だった。

ただでさえ脚を悪くしている親っさんが歩く時や座る時、左手でバランスを取らないと不便なのは想像に難くない。

そんな状態でも親っさんは決してポケットから手を出そうとはしなかった。

まるで、何か見せたくないものを隠しているかのように。

 

「……」

「親っさん……!」

 

黙り込む親っさんを見て、俺の中の嫌な予感が確信に変わり始める。

俺は心の中で願わずには居られなかった。どうかこの最悪の予感が杞憂であるように、と。

 

「はぁ……やっぱりお前は目敏いな。彰。一馬にはここに来るまでバレなかったんだがな……」

 

風間の親っさんが観念したようなため息と共に、ポケットから左手を出して俺に見せてきた。

 

「あ……あぁ……!!」

 

視界がボヤけ、涙腺から熱いものが込み上げてくる。

俺の、決して当たって欲しくなかった予感は的中してしまったのだ。

 

「すまねぇな、彰。お前のそんな顔が見たくなくて、隠してたんだ……」

 

顔を逸らす親っさんの左手には、包帯が巻かれている。

その小指には、第一関節から先が無い。

その意味を理解した時点で、俺は本当に取り返しのつかない事をしてしまったのだと実感した。

 

「クッソぉぉぉおおおッ!!!」

 

気付けば俺は、自分の膝をぶっ叩いていた。

歯をすり減るぐらいに食いしばって、腹の底から込み上げる感情に抗う。

だがそんな抵抗も虚しく、俺の両目からは大粒の涙が零れ落ち始めた。

まるで、親とはぐれた迷子のように。

 

「おい、そんなに泣く奴があるか。男だろう?」

「でも……でも親っさん!俺の……俺なんかの為に……!」

 

親っさんは、極道としてケジメを付けていた。

自分の拾ってきた子分が、自分達の親を殺してしまった。

絶縁以外有り得ないその処分を、自らの小指を代償にして破門に押し止めたのだ。

 

「親っさん……親っさぁん……!!」

 

涙が止まらない。

身寄りを失った自分達に愛をもって接してくれた育ての親に、とんでもないことをさせてしまった。

その後悔と自責の念が、俺の心を苛み続ける。

 

「気にするな……と言っても、無理なんだろうな。でもな」

 

しかし、親っさんは子供のように泣きじゃくる俺の顔を真っ直ぐ見据えてこう告げた。

 

「誰がなんと言おうとお前は俺の子だ。お前の為なら指の一本や二本なんぞちっとも惜しくねぇ。それが親ってもんだ」

「親っさん……!」

「だからもう泣き止んでくれ。そんなに悲しまれたんじゃ、俺もケジメを付けた甲斐がねぇ」

「……はい」

 

そんな言葉を聞かされていつまでも泣いている訳には行かない。

俺は慌てて涙を拭って、顔を上げた。

本当に俺は、親っさんに世話になりっぱなしだ。

いつか、この恩義を返す事は出来るのだろうか?

 

「それで、親っさん……堂島組はどうなるんです?」

 

そんな不安を誤魔化そうとして俺はわざとらしく話題を変えたが、親っさんも話題を変えて欲しかったのか特に指摘することは無かった。

 

「俺が風間組として面倒を見る事になった。」

 

トップを失った極道組織が辿る道は二つ。

一つはNo.2である若頭が組長を引き継ぎ、二代目組長として運営していく事。

そしてもう一つは解散し、別の組織に組み込まれるかである。

どうやら堂島組は後者の選択を取ったらしい。

 

「だが、中には今回の三代目の措置に納得の出来ない者もいてな。他組織に組み込まれた連中もいる」

 

それは当然の事と言える。

自分たちの親を末端の構成員に殺され、その犯人が破門で済んでしまう。

反対の声が上がらないわけなど無い。

下手をすれば風間の親っさんの立場そのものが危うくなってもおかしくは無いのだ。

 

「彰……破門で済んだとはいえ、組織内ではお前を恨む者が多い。くれぐれも用心しろよ」

「はい、分かってます」

「時間だ」

 

背後で警察官が声を上げた。

面会時間が終わったらしい。

風間の親っさんが立ち上がり、踵を返す。

 

「またな……彰」

「親っさん!」

「どうした?」

 

俺は咄嗟に親っさんを呼び止める。

しかし、ここで俺は躊躇った。

ここまでして貰って起きながら、俺はまだ親っさんに頼み事をしようとしている。

だが、それでも。

 

(いや、これだけは伝えなきゃなんねぇ……!!)

 

俺は胸中の罪悪感を押し殺し、我を通した。

 

「……一つ、伝言を頼んでも良いですか?」

「なんだ?言ってみろ」

 

由美は親っさんや桐生がいれば問題ない。

だが、優子だけは別だ。

手術を控えたアイツには、きっと俺の言葉が必要なのだ。

 

「優子に……俺は信じてる。だから絶対諦めるな、って伝えてくれませんか?」

 

これは、約束を果たせなかった馬鹿な兄貴のせめてもの償い。生きて欲しいという純粋な願いだった。

 

「あぁ……必ず伝える。約束しよう」

「おやっさん……ありがとうございます……!!」

 

力強く頷いてくれたおやっさんに、俺はもう一度頭を下げた。

いつか必ず、この恩を返すと胸に誓って。

 

 

 

 

 

 

 

 

この1ヶ月後。

東京地裁にて、錦山彰の裁判が行われた。

馴染みの女の由美を目の前で強姦しようとした組長に腹を立て、組長と揉み合いに。

その際、錦山は懐から拳銃を奪い、サブマシンガンで撃とうとしてきた組長を射殺。

現場から逃げ出した由美は風間新太郎の手によって保護され、錦山はその場で現行犯逮捕という筋書きだ。

殺人罪と銃刀法違反で起訴された錦山だが、弁護側は強姦されそうになっていた由美を助けるために行った行為である事と、サブマシンガンによる銃撃からの正当防衛であるとして、被告人に情状酌量の余地があると主張。

しかし、検察側は、暴力団員である錦山は過去に暴行や傷害等の前科もあり、警察の取調べの段階で「カッとなって殺った」と発言している事から、被告人は被害者に対して明確な殺意があったとし、正当防衛ではなく過剰防衛であると主張。

厳正な審理の結果、裁判所側は由美の件の情状酌量を認めるも、拳銃による射殺は過剰防衛であると判断。

こうして、被告人である錦山彰には懲役十年が言い渡される形で堂島組長射殺事件は幕を閉じ、この事件において桐生一馬の名前が出てくる事は無かった。




最後の裁判の内容については完全に想像です。
実際はもっと色んな着眼点があるのでしょうが、私にはこれが限界でした(八神先生が居てくれれば……)


次回は、桐生編のお話を投稿しようと考えています。
是非お楽しみに。
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