いよいよ決闘が始まります
2005年12月10日。
時刻は午後5時。
東堂ビルの任侠堂島一家事務所を出た錦山は、大吾の後を追って階段を上り、ビルの屋上へと辿り着いていた。
室外機等の設備以外は何も無く殺風景なその場所は、決して人目に付くことの無い事が容易に想像出来る。
(なるほどな……)
錦山は確信した。
堂島大吾は本気で自分を殺しに来ていると。
「ここなら邪魔は入らねぇ……俺とアンタ、二人きりだ」
「大吾…………」
大吾は錦山の方に振り返りながら、徐にタバコに火を付けた。
煙を吐き出しながら、大吾は静かに零す。
「アンタに情が移るかもしれない新藤には期待していなかったが、まさか久瀬さんの事も下すとはな。どうやら少し、アンタの事を見くびっていたらしい」
「じゃあ……お前が組を動かして俺を襲わせたのか?」
「あぁ」
錦山の問いかけに対し、大吾はあっさりと事実を認めた。
自分が、新藤や久瀬を動かしていた事を。
それはつまり。
「なら、麗奈を巻き込んだのもお前か……!?」
その問いに対しても、大吾はさも当たり前のように答える。
「そうだ。久瀬さんあたりは自分がやったとでも言ってそうだが、実際はそうじゃない。女を攫ってアンタを誘き出す命令を下したのはこの俺だ」
瞬間。
錦山の中で感情が暴発した。
「ふざけんな!!テメェ、なんで彼女を巻き込んだ!?今回の件、麗奈は何一つ関係ねぇじゃねぇか!?」
目的の為なら一般人すらも平然と巻き込んで利用する任侠の風上にも置けないそのやり口は、まさに錦山の知る堂島組長に酷似している。
陰湿で醜悪な、外道のやり口だ。
「関係ない?それは違うな。あの女はアンタがどういう男かを知った上で店に匿った。この時点であの店が東城会からどう思われるか……この街で商売をしてて知らない訳がない」
「大吾…………」
「俺はどうしてもアンタをこうして誘き出す必要があった。あの女には感謝してるよ」
「テメェ……そこまで俺の事を恨んでいるのか?」
「恨む?くくっ……まさかアンタまで、そんな事を聞いてくるとはな」
大吾は薄く笑った後に錦山を睨み付けた、吐き捨てるように叫んだ。
「そんな甘っちょろいもんじゃねぇんだよ!!!!」
「……っ!」
それを皮切りに、大吾の口からは次から次へとドス黒い言葉たちが零れ落ちていく。
「……俺はこの十年間、徹底的に勢力の拡大や戦力の強化を進めて来た。風間組や桐生組と揉めた事も一度や二度じゃねぇ。外様の組織とだってやり合った事もある」
大吾は語った。
旧堂島組が母体ではあるものの、若手である大吾が旗揚げしたばかりの任侠堂島一家を拡大させるのは至難の業だったと。
「お前、東城会の看板背負ってそんな無茶を……!」
「俺みたいな若造がトップの組織はすぐにナメられる。黙らせるためには徹底的に噛み付いてねじ伏せるしか無かったのさ。それらは全て、錦山…………アンタをこの手でぶっ殺す為だった。」
そこで大吾は言葉を切る。
彼は今にも暴発しそうな怒りを必死に抑え込んでるかのような、そんな表情を浮かべていた。
「だから……十年経った今になって、本当の犯人は桐生だったなんて聞かされた時は自分の耳を疑ったよ。俺は、なんだかんだ言ってあの人だけは本気で信用してたからな」
「…………」
「だからこそ、この怒りは桁違いなのさ……!」
大吾は手に持っていたタバコを握りつぶしながらそう言う。
多くの信用と信頼を裏切られた大吾の心は今、ドス黒い憎しみに染まっていた。
「お袋はアンタを人質代わりに桐生を誘き出そうって肚だが、俺はそんな生温い事をするつもりはねぇ」
「なら……どうしようってんだ?」
「決まってんだろ……」
大吾は静かに後ろを振り向くと、ジャケットの肩を掴んで勢いよく服を脱ぎ捨てた。
鍛え抜かれた上半身が顕になり、背中に彫られた不動明王が錦山を睨み付ける。
まるで、裁くべき相手を見定めているかのように。
「アンタをこの手で殺す。それが桐生に対する何よりの合図になるからな」
「合図だと……?」
「そうだ。アイツは俺から大事なモンを奪っていった。だから俺も、アイツの親友であるアンタの命を奪う。それでアイツは思い知るはずだ。因果応報って言葉の意味をな……!」
殺られたら殺り返す。
それが極道としての性であると主張する今の大吾は完全に復讐に取り憑かれていた。
それ自体は別に不思議な事ではなく、実の父親を殺された彼の立場を考えれば至極当然の事と言える。
だが。
それでも一つ、錦山は大吾に聞きたいことがあった。
「大吾。俺と殺り合うってんなら別に構わねぇ。だが、一つだけ答えろ」
「なんだ?」
「お前にとって、親父は……堂島宗兵はどんな男だった?」
錦山の知る堂島組長は、酒と女に溺れて堕落しきった小物でしか無かった。
挙句の果てには部下の女に手を出そうとし、逆上した上に返り討ちに遭って殺されるその最期は惨めと言う他無い。
とても人望のあった極道とは言い難いだろう。
だからこそ、錦山は気になったのだ。
堂島組長は大吾から見たときに、そこまでして仇を討ちたいと思える程の男なのかと。
「これから死ぬアンタに、それを語って何になるって言うんだ?」
「これから死ぬつもりは毛頭無いが、お前がそこまでこだわる理由が知りたくてな。あんな小物に、お前ほどの男がそれだけやるほどの価値があるってのか……?」
「テメェには関係ねぇ。それより、最後の言葉はそれでいいのか?」
その問いに対する答えと言わんばかりに、大吾はファイティングポーズを取った。
こうなってしまえばもう、錦山が大吾を打ち倒してから聞くしかない。
「なぁ大吾。お前……何か勘違いしてねぇか?」
「なんだと?」
「あたかも自分は怒りに狂ってますって言い草だが……それがお前だけだとでも思ったら大間違いだ……!」
錦山は、今にも爆発しそうな怒りを解き放つように服を脱ぎ捨てた。
刑務所で鍛えた肉体と、背中に背負った緋鯉が顕になる。
「──よくも麗奈を巻き込んでくれやがったな。人の大事なモンに手ぇ出したらどうなるか教えてやるよ、クソガキが……!!」
「それはこっちのセリフだ。お前や桐生の罪が、十年やそこらで消えると思うな……!!」
もう後戻りなど出来ない。
これから始まるのは、喧嘩でも殺し合いでも無い。
「行くぞぉ、錦山ァァァ!!」
「来やがれ、大吾ォォォ!!」
東城会直系任侠堂島一家総長。堂島大吾。
十年越しの因縁に決着を付けるための"決闘"が幕を開けた。
「おぅらァ!!」
先に仕掛けたのは大吾だった。
大吾は素早い踏み込みで一気に間合いを詰めると、飛び込むように右の一撃を繰り出した。
跳躍した時の足のバネと体重を乗せた、スーパーマンパンチと呼ばれる技だ。
「ッ」
しかし、威力が高い分大振りで分かりやすい動きで放たれるその技を回避するのは容易であり、錦山もその例に漏れなかった。
錦山は拳の間合いから外れるように後ろに飛び退いたその攻撃を回避するが、大吾は動きを止めずに追撃する。
「でぇいやァ!」
「チッ!」
スーパーマンパンチの勢いのままに地面を蹴って、錦山の胴に放たれたボディ狙いの左膝蹴り。
錦山が咄嗟に両腕のガードを下げてその膝蹴りを受け止めた、その直後。
「が、ぁ────?」
錦山の顎に衝撃が走り、一瞬だけ彼の意識が途切れた。
膝蹴りよりも一拍遅れて打ち込まれた大吾の左フックが、ガラ空きになった錦山の顔面を捉えたのだ。
「ぐ、ッ!?」
膝から崩れ落ちそうになった錦山だが、どうにかすんでのところで踏みとどまる。
そんな彼に待ち受けていたのは、追い討ちで放たれた大吾のバックスピンキックだった。
「はァあッ!」
「うごぉっ!?」
胴を蹴り抜かれた錦山は受け身も取れずにコンクリートの床を転がる。
(なんだ、一体何が起こって……?)
「ぅおラァ!!」
「くッ!?」
大吾が追い討ちで放ってきたサッカーボールキックをその場から転がるように回避して距離を取る錦山。
彼はまだ何の一撃を貰ったかの理解が追いついていない。
だが、それを分析させる時間を与えることを大吾は許さなかった。
「うぉぉぉおおおお!!」
雄叫びを上げながら勇猛果敢に殴り掛かる大吾。
久瀬のようなボクシング仕込みの打撃とは違い、大吾は総合格闘技のような一見すると大振りに見える打撃で圧力をかけていく。
「チッ、ぐッ、ぬぅッ──!」
錦山はそれらの攻撃を、スウェイやガードを使ってやり過ごし、反撃の隙を伺う。
そうしていく内に段々と錦山の目が大吾の動きに慣れていった。
(よし、これなら……)
「えぇいやァ!!」
そんな中放たれた右のオーバーフック。
錦山がこれを躱せば、大吾は致命的な隙を晒すことになる。
(行ける──!?)
その一撃を左に避けて返しのパンチを繰り出そうとした錦山だったが、その直後にその顔は驚愕に染まる。
「なっ!?」
錦山が拳を振り上げた時にはもう、大吾の右脚がすぐ目の前まで迫っていたのだ。
(何っ!?)
飛んできた右のハイキックを反射的に左手で防御する錦山。
だが、それは今の彼にとってそれは最大の悪手だった。
「ぐぁっ!?」
左手の甲に直撃したそのハイキックは、先の戦いで開いてしまった彼の手の傷口に甚大なダメージを及ぼした。
耐え難い激痛とハイキックの衝撃で防御がままらなくなった錦山は、大きく体勢を崩されてしまう。
「はァァッ!!」
その隙に大吾は、突き刺すような前蹴りを錦山の胴に叩き込んだ。
「ぉ、ごぉ、っ!?」
三日月蹴りとも言われるその技は相手の内臓にダメージを与え、耐え難い激痛を引き起こす。
錦山もその例に漏れず、その場に蹲ってしまった。
「せいッ!」
「ぶがッ!?」
大吾はさらに追撃として錦山の顔面を蹴り上げた。
仰向けに倒れる錦山にトドメを刺すために、上からマウントポジションを取る。
「オラッ、オラッ、オラッ、オラァ!!」
そして、錦山の顔面に拳の雨が降り注いだ。
殺意の籠った打撃の連打により錦山の顔面生傷が増えていく。
だが、ただでやられてるだけの錦山では無い。
(野、郎……!)
錦山は打撃によって口に含まれた血を大吾の顔面目掛けて吹き掛けた。
賽の河原の地下闘技場で錦山がゲイリー相手に仕掛けた目潰しの奇襲。
しかし。
「甘ぇんだよ!」
「!?」
大吾は左手を翳すことでその目潰しを防いだ。
まるでその行動を読んでいたと言わんばかりの対処の早さに、錦山は目を見開く。
「くたばれオラァ!!」
そんな彼の視界に映り込んだのは、スローモーションで自分に迫り来る大吾の右拳だった。
「ぶっ、が、……っ────」
大吾の右ストレートは顔面を正確に捉え、錦山の後頭部をコンクリートの床に叩きつける。
その一撃により、錦山の全身から力が抜けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
それを確認した大吾はゆっくりとマウントを解き、その場から立ち上がって仰向けのまま動かない錦山を見下ろす。
「意外と、呆気なかったな……」
ふと零した言葉が、大吾の率直な感想だった。
堂島の龍と呼ばれた桐生一馬の兄弟分であり、ここに来るまでにも多くの猛者とやり合ってきているはずの錦山。
しかし、蓋を開けてみればこの程度。
ろくな反撃も出来ぬまま、錦山は動かなくなってしまったのだから。
(だが、これも入念な準備のおかげだ。それが結果に結び付いたんだろう)
堂島組長が殺されてからの十年間、大吾は己の身体を鍛え続けてきた。
街での喧嘩や組織の抗争の際は誰よりも率先して殴り込み、実戦における経験やスキルにも磨きをかけた。
母である堂島弥生や他の組長達にも掛け合って人員や資金を調達し、元堂島組の幹部であった久瀬を引き抜いてからは一気に組織の拡大に力を入れ、任侠堂島一家を東城会の直系団体にまで押し上げた。
しかし、彼が最も心血を注いだのは鍛錬でも組織拡大でも無い。
(だが、重要なのはこれからだ……もっと情報を集めないとな)
それは、情報収集。
大吾は神室町に訪れてからの錦山の事を徹底的に調べ上げたのだ。
誰と合流しどんなやり取りをしたのかはもちろんだが、大吾が一番重要視していたのは錦山の"闘いの記録"だった。
三代目会長の葬儀で起きた嶋野との闘い。
ミレニアムタワーで起きた近江連合構成員との小競り合い。
賽の河原と呼ばれる闘技場での一戦。
バッティングセンターで起きた真島吾朗との死闘。
跡部組との対立や、闇金を運営するゴロツキ達との喧嘩。
松金組の若頭である羽村とのいざこざと、謎の暗殺者との交戦。
正体不明の謎の組織とやり合った銃撃戦。
そして今日の昼間に起きた新藤との殺し合いや先程 久瀬とやり合った"死闘"に至るまで。
大吾はあらゆる手段で情報収集をし、それら全ての情報を手に入れていたのだ。
誰との闘いでどのようにして勝ったか。
どこを怪我して、どこが弱点なのか。
その部分を徹底的に洗い出し、それらに対する策を入念に練った上で臨んだのが今回の"決闘"。
故に、この結果は決して大吾の元に偶然転がり込んで来たものでは無い。
彼自身が血の滲む様な鍛錬と努力の先に掴み取った必然なのだ。
(よし、トドメを刺してやる……!)
大吾は踵を返して脱ぎ捨てた服の下へと歩み寄る。
ジャケットを拾い上げると、その懐から一丁の拳銃を取り出す。
それは、大吾が来るべき時の為にあえて用意した"父を殺したモノと同じ型"をした代物だった。
これを使って桐生を殺したその時に、大吾の復讐は完遂する。
(まずは見せしめだ。桐生……錦山の死を以て思い知るがいい。お前がやった事の重さをな……!)
安全装置を外し、大吾は背後へと向き直りながら銃口を向ける。
そして。
────すぐ目の前に立つ錦山彰と、目が合った。
「なっ────!?」
大吾が呆気に取られた時には、もう既に錦山の手は大吾の手首を掴んでいた。
「ぐ、っ!?」
直後、発砲。
乾いた銃声が下から聞こえる喧騒以外に物音のないこの屋上に響き渡る。
「────」
しかし、発射された弾丸は錦山の頬にかすり傷を一つ負わせただけでその命までも奪う事は出来なかった。
至近距離で撃たれた拳銃にすらも臆する事無く、錦山は大吾の腕を捻りあげる。
「うぐぉっ!?」
「オラァ!!」
錦山は拳銃が大吾の手からこぼれ落ちたのを確認すると、大吾の顔面に全力の右ストレートを叩き込んだ。
「がぶ、っ、ぁ……!!?」
その一撃によって大吾は文字通り殴り飛ばされ、落下防止用の手すりに背中から叩き付けられた。
鼻が潰れ、脳震盪と三半規管へのダメージにより立つことすらままならない大吾に対し、錦山は生傷だらけの顔に不敵な笑みを浮かべて言ってのける。
「俺を仕留めようなんざ、十年早いんだよ……!」
(な……なにが、起こってる……?)
大吾は現状の理解に苦しんだ。
有り得ない。錦山はつい先程、自分の手で戦闘不能に追い込んだはず。
「……何が何だか分からねぇってツラだな」
その答えは、錦山の口から明かされる事になった。
「お前は最初、俺に対する怒りで頭が一杯な様子だった。パンチや蹴りも荒っぽいものが多かったからな。だがそれは違った。お前は……"冷静"だったのさ。誰よりもな」
ボディへの膝蹴りでガードが下がった所へと繰り出された顎への左フック。
右のオーバーフックの後を追いかけるように放たれた右のハイキック。
そして、怪我のある左手でガードし切れず体制が崩れた瞬間を狙った三日月蹴り。
怒り狂った極道が暴れた結果の偶然にしては、あまりにも出来すぎている。
(目潰しを防がれた時は流石に驚いたぜ……)
錦山にとって決定的だったのは、血の目潰しを防がれた時だった。
怒りで頭に血が上っている上にマウントポジションという有利な状況であと一歩でトドメを刺せるあの局面のおいて、文字通りの奇襲であるあの目潰しを冷静に対処するのは極めて難しいだろう。
その時に錦山は思ったのだ。
まるで、予め錦山が取る手段がわかっているかのようだと。
「お前の怒り心頭な態度は全て演技。一見荒っぽく見える大振りなパンチや蹴りも頭に血が上っていると見せかけるための演出だったんだ。その演技の合間に"本当に当てるための一撃"を仕込むためのな」
錦山が強者との闘いをする上での常套手段。
それは"先に仕掛けないこと"。
自分と互角、あるいは格上かもしれない相手と闘う時は先に相手の攻撃を待つことで出方を伺い、その上で相手のパターンなどを分析しながら闘うのが錦山のやり方だった。
情報収集する中でその特徴に気付いた大吾は"怒りに任せて大振りな攻撃ばかりをするパターン"という、比較的隙のありそうな演出をする事で錦山の油断を誘い、その間隙を突く作戦を編み出したのだ。
「現に、俺はことごとく不意や弱点を突かれて追い込まれていった。奇襲のつもりだった目潰しも封じられた時、俺は悟ったよ。俺の手の内は全て把握されてるってな」
「だったら、どうして…………」
どうして今、お前はそこに立てている。
それが大吾の抱いた最大の疑問だった。
それに対し、錦山はあっけらかんと答える。
「"死んだフリ"さ」
「なん、だと……?」
錦山の手の内は全て読まれ、その原因も分からない。
ただ、大吾が態度に反して冷静であることを見抜いた錦山は咄嗟に策を打った。
それこそが"死んだフリ"。
錦山はあの時、あたかも大吾の一撃でトドメが刺されたかのように振る舞うことで決着がついたと誤認させたのだ。
(もっとも、意識が朦朧としてたのはマジだったがな。あと数発喰らってたら危なかったぜ……)
もしも錦山の読み通りではなく、大吾が本当に怒り狂ってあのまま攻撃を続けていたのであれば結果は変わっていただろうと錦山は考察する。
己の分析を信じた錦山の博打とも言えるこの策は見事に嵌り、大吾は先程の態度から打って変わり冷静な態度でマウントを解いたのだった。
「あそこでやられたフリをすれば、お前はケリがついたと勘違いして攻撃の手を止める。そして……ジャケットにあった拳銃で俺にトドメを刺しに来る。だろ?」
「なに……!?」
大吾は目を見開いた。
彼はジャケットに拳銃がある事を組員はおろか母である弥生にすら伝えていない。
しかし、錦山は懐に拳銃がある事はおろかそれでトドメを刺そうとするプランまでも見破っていたのだ。
「お前が拳銃を持ってる事は会った時に気付いてたさ。ジャケットの左胸が中心から少しズレてたからな。後はいつそれを抜くかだったんだが……服を脱ぎ捨てた時に確信したよ。拳で決着付けた後にトドメを刺す気なんだってな」
「ば……馬鹿、な…………」
「俺の狙い通りマウントを解いたお前は拳銃のあるジャケットのところまで向かう。あとはお前に気付かれないように気配を消して立ち上がって距離を詰めれば、お前の不意を付けるって寸法さ」
元堂島組若衆。錦山彰。
彼は周囲から"堂島の龍" 桐生一馬の兄弟分として見られ、その影に隠れてしまっていた。
しかし、そんな錦山にあって桐生一馬に無いものが存在する。それは洞察力と判断力、そして分析力だ。
腕っ節や度胸、根性においては錦山を大きく上回る桐生だが、冷静な時に真価を発揮する彼の洞察力や判断力、分析力は決して桐生が真似出来るものでは無い。
桐生一馬を出し抜く事は出来たとしても、錦山彰を出し抜く事は決して出来ないのだ。
「着眼点は悪くなかったがな……相手が悪かったぜ。若造」
「く、そが……!」
悪態を付く大吾だが、彼の身体は未だに言うことを効かない。
反撃することは愚か立ち上がる事すら出来ないでいた。
「さて……」
錦山は脱ぎ捨てた衣服を拾い上げ、手早く着る。
その後は床に落ちた拳銃を拾い上げると、ゆっくりと銃口を大吾に向けた。
これで形勢は完全に逆転。
この決闘は錦山の勝利だった。
「大吾。まだ口は聞けるよな?さっきの問いに答えてもらうぜ」
「…………」
「お前にとって……堂島宗兵はどんな男だった?」
改めて尋ねる錦山。
大吾はその問いに対し、俯いたまま呟いた。
「……俺の知ってるあの人は、臆病な男だった。」
これより明かされるのは、十年前にこの場所で殺された男の真実。
「臆病で…………優しかった」
東城会直系堂島組初代組長。堂島宗兵。
嫌われ者だった男の、知られざる本当の素顔────
本来こういうボス戦の時のサブタイって戦闘時のサントラだったりするんですけど、2の時は共通BGMで、4の時は4ならではの感じが強くて、5は著作権的にちょっと怖いなぁというのが本音だったので、オリジナルのものを考えてみました
次回は、堂島宗兵について掘り下げてみようと思います。
なにぶん公式からのソースが少ないので私独自の解釈が入ってる部分も多いですが、そこはご容赦いただければと思います。
次回もよろしくです