いよいよこの時が来てしまいました。
決別の刻
2000年12月25日。
世間がクリスマス一色に染まる今日この日。
関東最大の極道組織である東城会本部の応接室は、混乱と騒動の真っ只中にあった。
「────世良ァァァああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
絶叫にも似た雄叫びを上げて襲い掛かるのは、東城会直系風間組若頭補佐の桐生一馬。堂島の龍の異名を持つ伝説の極道。
「来い……桐生!!」
そんな彼を迎え撃つのは東城会三代目会長。世良勝。
東日本における極道社会の最高権力者だ。
「オラァッッ!!」
勢いのままに放たれたのは右のオーバーフック。
並の人間であればいとも簡単に躱されてしまう大振りな技だが、こと桐生一馬においては話が違う。
「ッ!?」
その拳はあまりにも速かった。
武術の心得を持つ世良でさえ、放つ直前の動きから実際に拳が繰り出された瞬間を目で捉える事が出来なかったのだ。
結果として回避行動が遅れた世良の頬を桐生の拳が僅かに掠る。
「ぬッ───!」
本能的危機を感じた世良は、がら空きになった桐生の横腹に掌底を叩き込んだ。
僅かに怯んだ隙をついて即座に距離を取る。
(なんて男だ!カラの一坪の時から一目こそ置いていたが、よもやこれ程とは……!)
世良が軽く頬に触れると、先程拳が掠った箇所に浅い傷口が出来ていた。
「ォぉぉおおおおおおおッッ!!」
桐生は直ぐに体勢を整えると、再び獣のように猛然と襲い掛かる。
「オラァ!でいやァ!はァッ!」
フック、アッパー、ストレート。
いずれもが大振りで動作が分かりやすいものばかり。
だが桐生の繰り出すそれらの速度は並外れており、どの攻撃が来るかが分かっていても回避そのものが間に合わないのだ。
(前動作を見てからでは間に合わん……!)
実際の振りかぶる動作よりも一拍だけ速く行動する事を求められる世良。
もしも彼に武術の心得が無ければ、既に決着は付いていただろう。
(な、なにッ!?)
それに加えてもう一つ。
世良はある事に気が付いた。
(手が、いつの間に!?)
純粋な回避だけでは間に合わず、世良は得意な武術の手さばきを用いて桐生の一撃をやり過ごしていた。
そんな彼の手の平が血まみれになっていたのだ。
(馬鹿な!?受け止めた訳じゃ無いんだぞ!?)
空気を引き裂きながら世良を抹殺せんと振るわれる"龍"の拳。
それらを素手で捌くとは即ち、大砲から発射された砲弾に触れているに等しいのだ。
「うぉぉおおおおおッッ!!」
いくら躱されようと攻撃の手を緩めない桐生に対し、世良はついに行動を起こした。
(風間さんには悪いが……殺るしかない!!)
これ以上の回避は困難。
防御など持っての他。
となれば、世良に残された手段は一つしかない。
「!!」
世良は敢えて桐生の懐へと入り込むように距離を詰めた。
「ウラァ!!」
好機と言わんばかりに拳を振り上げる桐生だが、その拳が振り抜かれるよりも世良の攻撃が僅かに速い。
「シャッ!!」
前足を強く踏み込み、体当たりと同時に肘を突き出す。
カウンターのように繰り出された世良の一撃は桐生の鳩尾を正確に捉えていた。
「ぐ、っ!?」
流石の桐生も僅かに動きが止まる。
世良はその隙を逃さずに連撃を叩き込んだ。
「フッ、セイッ、ハッ、テリャッ!!」
肩を回転させて上から打ち下ろす右フック。
ノーモーションで繰り出される掌底の左フック。
そのまま流れるように繰り出される右のエルボー。
そして僅かに腰を入れただけの軽めのショルダータックル。
一見すると高い威力が見込めないこれらの技だが、実際はどれも桐生に対して有効な一打となっていた。
「チッ、ぐぅっ……!?」
桐生のように圧倒的な力で押す"剛拳"とは違い、世良の放つそれらは脱力による瞬発力や柔軟性を重んじた"柔"の拳。
意識外から襲い来る攻撃は知覚するのが遅れる影響もあり、相手に得体の知れないダメージを与えるのだ。
そして。
「ハァッ!!」
桐生が明確に怯んだ瞬間を突き、世良はある技を繰り出した。
「ぐぉぁっ!?」
その技を喰らった桐生は大きく吹き飛ばされ、部屋の壁に背中から叩き付けられる。
「フゥ……───」
それを確認した世良は口の端から静かに息を吐き出す。
震脚と呼ばれる踏み込みで力を発生させ、発勁と呼ばれる技術でそれを増幅してその勢いのまま背中から相手に体当たりをぶちかますその技は鉄山靠とも呼ばれ、中国武術における八極拳と呼ばれる武術の一種だ。
達人の放つそれは、一説によればコンクリートの壁すらも容易に打ち砕くと言われている。
つまり世良は、そのような危険な攻撃を躊躇いなく桐生に使用したのだ。
しかし。
「世、良……ァァァああああああああああッッッ!!」
「何ッ!?」
それほどの攻撃を以てしても"龍"は殺せなかった。
即座に立ち上がって猛攻を再開する桐生。
「オラァ!!」
怒りのままに放たれた右の拳。
世良はその一撃を冷静に見切り、桐生の右拳に左の肘を添えて力を流す。
「セイッ!」
世良はその勢いのままに身体を反転させて桐生の後頭部に右の肘を叩き込む。
「ぐッ!?」
「トゥリャ!」
後ろからのエルボーで前のめりになった桐生の顔面に、今度は左脚を跳ねあげるように蹴りを入れる。
「テヤァァァィ!!」
変幻自在の攻撃に怯んだ桐生の隙を突き、世良は右脚で桐生の右膝の裏を蹴り抜いた。
強制的に膝関節を曲げさせられる形となった事で仰向けに近い形で文字通り崩れ落ちるように倒れる桐生。
(行ける……!!)
これ以上闘いを長引かせる訳には行かない。
自ら手繰り寄せた千載一遇のチャンスをモノにすべく、世良は全力のかかと落としを桐生の顔面目掛けて振り下ろした。
直後。
「!?」
世良の顔は驚愕に染まった。
「掴まえたぜ、世良ァ……!!」
かかと落としが桐生の顔面を捉える直前。
本当にあと数センチの所で、桐生は世良の右足首を手で掴んでいた。
そして。
「ぐ、ぉぁっ!?」
桐生の万力にも匹敵する握力によって世良の足首が握り潰され始めた。
骨が軋む程の激痛に悶える世良。
「ふん!ウォラァァァァッ!!」
桐生は仰向けで倒れた体勢のまま世良に足払いを仕掛けて転倒させる。
その後、あろう事か腕力だけで世良の身体を勢いよく投げ飛ばした。
「ぐ、っ……クッ!?」
何とか受身を取って立ち上がろうとする世良だが、直後に自身の足首が凄惨に折れ曲がっている事に気付いた。
(馬鹿な、こんなことが……!?)
「世良ァァァああああああああああッッッ!!!!」
桐生は世良にトドメを刺すべく距離を詰める。
世良が片足でどうにか立ち上がった時には、既に桐生は右の拳を大きく振りかぶっていた。
「オラァァァァッッ!!!」
龍の雄叫びと共に怒りの拳が世良の腹を捉えた。
(──!?)
刹那。桐生は己の右拳に違和感を覚える。
返って来る感触は非常に硬く、明らかに人間を殴った時のモノでは無い。
ここに来て桐生は、目の前の男が東城会の三代目といういつ命を狙われても可笑しくない立場である事を失念していた事に気付いた。
衣服の中に弾や衝撃を防ぐ何かを仕込んでいても何も不思議では無いのだ。
「グ、ォッ───!?」
しかし、桐生の感じた違和感とは対照的に世良は苦悶の表情を浮かべている。
桐生の放った拳による一撃は世良の着込んだ防弾チョッキ越しに衝撃を与え、甚大なダメージを与えていたのだ。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」
そんな世良の姿を見た桐生は、怒りのままに攻撃を続行した。
防弾チョッキの効果があるであろう腹部と胸部目掛けて両の拳を連続で叩き込む。
「グァッ、ゴォッ、ゲハッ!?」
一撃が銃弾と変わらない程の威力を持つ拳の嵐が世良を襲い、彼の着込んだ防弾チョッキが打撃と共に変形していく。
「ウッ、シェァアアアアアアアッッ!!」
そうして世良が完全に怯んだ瞬間、桐生は全力の前蹴りを世良の胴体に叩き込んだ。
衝撃を受け止め切れなくなった防弾チョッキは損壊し、文字通り蹴り飛ばされた世良は背中から壁に叩き付けられる。
「が、ッ───ぐゥッ!?」
力を失い前のめりに倒れ込もうとする世良の首を桐生は掴んで壁に押し付けた。
こうなってしまえばもう抵抗は出来ない。
桐生一馬の圧勝だった。
「終わりだな。世良」
「フーッ……フーッ……!」
至近距離で殺気をぶつける桐生に対し、世良は答えずに独特な呼吸を繰り返している。
桐生はその呼吸の仕方に見覚えがあった。
「……システマって奴か」
「──!」
かつて"ドラゴンヒート"で数多の強者と拳を交えてきた桐生は、その対戦相手の中に某国での戦場を経験した元軍人がこの呼吸法を使っていた事を思い出した。
その国の軍隊式格闘術に由来するその呼吸法は、極めればあらゆる痛みを軽減する事が出来ると言われている。
彼は今、内臓にまで至っている己のダメージとそれによって発生する耐え難い激痛を耐えるので精一杯だった。
「だが……そんなもんは許さねぇ!」
「が、ァッ……────!!?」
桐生は世良の首を掴んだ左手に力を込め、呼吸の為の気道を完全に塞いだ。
呼吸の出来なくなった世良は息苦しさと耐え難き激痛によって瞬く間に顔を青くしていく。
「最期の瞬間まで苦しめ。そして……────!!」
桐生が右の拳を振り上げる。
怒りのままに。憎しみのままに。
"闇"を纏った"龍"が、ついに世良をその手にかける。
「あの世で由美に土下座しやがれ、この外道がッッ!!」
その直前の出来事だった。
「ッ!?」
何かが弾ける乾いた音が桐生の耳朶を打ち、それとほぼ同時に桐生の真横にあった窓のガラスがひび割れる。
一拍遅れて、桐生は自分の鼻先に硝煙の香りがする事に気が付いた。
「……これは」
桐生はゆっくりとひび割れたガラスとは真逆の方向に首を向けた。
そこに居た一人の男が、左手に杖を着いたまま右手で握った拳銃を桐生に向けていた。
「……親っさん?」
東城会若頭 直系風間組組長。風間新太郎。
世良の頼みでここまで事態を静観していたこの男が、ついに動き出したのだ。
「そこまでだ、一馬。今すぐ三代目を離せ」
「親っさん……!」
今、桐生にとっては信じられない事が起きていた。
散々痛めつけられた世良というこの男は、風間にとって娘も同然の存在である由美を殺す命令を下した張本人。
桐生が世良を憎んでいるように、風間もまた世良を憎んでいるに違いない。
彼はそう思っていた。
「何で……何でなんですか親っさん……!?」
しかし、桐生の目の前にある光景はそんな風間が自分に対して銃口を向けているという信じ難いモノだったのだ。
あまりの出来事に、桐生は僅かに世良の首を掴んだ指の力を緩めてしまった。
気道が確保された世良は呼吸をするのと同時にむせ返り、応接室のカーペットに血反吐を吐く。
「ゲホッ、ゴホッ……!」
「アンタはこいつが……由美の仇が憎くねぇってのか!?」
「"桐生"!!もう一度言う。三代目を離せ」
静かに撃鉄を起こし、狙いを定める風間。
彼の全身からはかつて"東城会一の殺し屋"と呼ばれていた頃の覇気が溢れ出ていた。
「でなければ……殺す!」
「────!」
風間新太郎。
桐生にとっては育ての親であり、今や渡世の親でもある。
子にとって親の命令は絶対。それがこの世界における鉄の掟だ。
「…………」
桐生にとってここは、運命の分かれ道。
彼の知る風間新太郎という男は聡明さと男気を併せ持った極道だ。
もしも桐生がこの場でこの手を離せば、風間はありとあらゆる手段を用いて桐生が命を狙われない状態にまで持っていくだろう。
例え、己の命を犠牲にしてでも。
「────!」
それでも。
「………………そうか」
桐生一馬の中に、退くという選択肢は無かった。
再び世良の首を左手で締め上げ、憎い男の顔を睨みつける。
「ぐ、ッ────!?」
「なら……!」
由美の凄惨な最期が脳裏を過ぎる。
桐生が愛し、慈しみ、護りたいと願っていた女性の余りにも酷い死に様。
それを齎したのが目の前の男なのであれば、桐生の取るべき選択は一つしかない。
「それより前に、コイツを殺るだけだ!!」
「一馬!!」
右の拳に力を込める桐生。
次の瞬間に己の命が潰えたとしても構わない。
死なば諸共、世良を地獄へと道連れにする。
そんな悲壮な覚悟を決め、ついに桐生の拳が世良の顔面目掛けて振り抜かれた。
「終わりだ、世良ァァァあああああああああッッ!!」
「─────!!」
直後。
桐生の拳が世良の顔面を潰すよりも早く、再び乾いた銃声が応接室に響き渡った。
「ぐぁあッ!?」
声の主は、桐生だった。
彼は速やかに世良の拘束を解き、真っ赤に染まった己の左腕を抑え込む。
「ぐ……クッ、ぬゥ…………!!」
「………………」
呻き声をあげる桐生の姿を、風間は黙って見つめていた。
その手に持った拳銃の銃口からは、薄らと白い煙が立ち上っている。
桐生の暴虐を止める為に、風間が桐生の腕を撃ったのだ。
「ガハッ、ゲホッゲホ……!」
カーペットの上に無惨にも転がり、再びむせ返る世良。
そんな世良を見下ろしながら、桐生は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
あと一秒。あと一拍早ければ桐生は世良をこの手にかけていただろう。
「一馬…………大人しく投降しろ。そうすれば命までは取らねぇ」
「……出来んのか?アンタにそんな真似が」
「お前は知ってるはずだ。俺は……狙ったマトは外さねぇ」
風間は引き金に指をかける。
その目には一点の曇りなく、彼の顔は冷静に相手を見定める暗殺者としての表情を浮かべていた。
「…………そうか。そうだよな」
片や桐生は己の左腕を撃ち抜かれてもなお、その闘気は微塵の揺らぎも無かった。
それどころか、全身から溢れ出るそれは益々勢いを増していく。
「何せアンタは……由美の仇を護るような人でなしだ!!」
「一馬……!」
桐生一馬と風間新太郎。
"堂島の龍"と"東城会一の殺し屋"
互いに生ける伝説と称される極道たちが火花を散らす。
一触即発の空気が流れる中、その均衡は意外な所で崩れた。
「会長!」
「遅くなりました!」
「ご無事ですか!?」
応接室の扉を蹴破るように本家の若衆達が飛び込んできたのだ。
桐生の放つ覇気に圧倒されて身動きの取れなかった彼らだが、風間の銃声で目を覚ましたらしい。
「チッ……!」
桐生は思わず舌打ちをする。
銃においては百発百中の腕を持つ風間と言えどたった一人が相手なら制圧出来る自信が桐生にはあった。
しかし、相手側に頭数が揃ってしまえば桐生は手の打ちようが無い。
「もう終わりだ……諦めろ。"桐生"」
極道として最後の忠告をする風間。
その背後では十人を超える黒服達が銃を構えていた。
「なら……!」
絶対絶命のこの状況の中桐生の取った行動は、投降でもましてや玉砕でも無かった。
「────聞け!東城会の盃を受けた極道達よ!!」
突然そんな事を大声で叫び出したのだ。
桐生の行動に対して困惑する者、臆する者と反応は様々だが、彼の放つ言葉に一同は耳を傾けた。
「本日を持って、この俺 桐生一馬は東城会を抜ける!!」
「「「「「!!!?」」」」」
その直後、黒服の男たちは耳を疑った。
本部に車で突っ込んで乱闘した挙句に、三代目会長を半殺しにして堂々の脱退宣言。
東城会の顔と呼んでも過言では無かった桐生の今回の行動と宣言に、男たちは目を白黒させるしかない。
「それに伴い、俺の率いる桐生組も全員 東城会から脱退させてもらう!そして……!!」
桐生は左胸の代紋バッジを力任せに引きちぎると、ロクに抵抗出来ない状態の世良に対して無造作に投げ付けた。
「東城会三代目会長、世良勝!アンタとは今日限り、親子の縁を切らせてもらう!絶縁だ!!」
「なっ……!?」
絶縁。
その言葉は極道にとって最も重い十字架を意味する。
桐生はそれを全て承知の上で自ら宣言したのだ。
言うなればこれは、桐生一馬から東城会そのものへの宣戦布告に他ならない。
「一馬、お前……!?」
「これが、俺の覚悟だぜ……"風間"ァッ!!」
桐生の裂帛の気合いに気圧される黒服達。
唯一その気迫に飲まれていない風間も、戸惑いと驚愕から狙いを定められないでいた。
「東城会のヤクザ共!精々覚悟しておくんだな。今日から俺は……お前達の敵だ!!」
叫ぶだけそう叫んだ後、桐生は背後の窓目掛けて飛びかかった。
「!!」
風間が拳銃を構えるが、時は既に遅く。
窓ガラスをぶち破って二階から飛び降りた桐生は、応接室から姿を消した。
「に、逃がすな!追いかけろ!!」
「「「へ、へい!」」」
我に返った黒服たちが慌てて桐生を追って、応接室から出ていく。
「……世良!」
風間は拳銃を懐に仕舞い込むと、倒れて動けないでいる世良の元にかがみ込んだ。
「か……風間、さん……」
世良の意識は朦朧としており、このまま放置しておけば命が危ない状況だろう。
そんな中で風間が取った行動は。
「しっかりしやがれ!」
気付けのビンタだった。
傍から見れば壮絶なダメージがあるはずの世良に対して怪我人に鞭を打つような真似をする風間だが、意外にもその行為によって世良の意識は明瞭になった。
「今から救急車を呼んでやる。こんな所でアンタを死なせる訳には行かねぇ。だがな……!」
そこで風間が世良の胸ぐらを掴んで顔を近づける。
その顔は"鬼"が宿っているかのような形相を浮かべていた。
「覚悟しろよ、世良。お前には、やった事の責任を取ってもらう……!」
「──────!!」
そのあまりの形相と迫力で畏怖の念に心が支配されかけた世良。
だが。
「これから……ずっとだ……!」
「……風間さん」
その頬に、一筋の雫が垂れている事を目の当たりにした世良は。
「本当に……申し訳ありませんでした……!!」
不格好ながらも、精一杯頭を下げたのだった。
この日。
"堂島の龍"桐生一馬は東城会本部で乱闘騒ぎを引き起こした上に三代目会長に対して暴行を働き、その場で組織の脱退と宣戦布告を宣言した。
その後、左腕を負傷したままの状態で本家の構成員を全員叩きのめして逃走。
たった一人の男を相手に会長が殺されかけると言う前代未聞の事態にまで発展した。
なお、今回 東城会本部で起きた一連の出来事は本家預りの案件として本部所属の構成員には厳重な口外禁止命令を下した他、他組織からの干渉等を防ぐため徹底した情報統制が敷かれる事となった。
故に、この情報を知っているのは世良会長本人並びにひと握りの幹部達に限定されており、世間からは謎の内部分裂として認知される事となる。
そして、この日を境に東城会から独立した桐生組は後に"関東桐生会"と名前を改める事になるのであった。
以上が、桐生組が関東桐生会に至った経緯でした。
とりあえず断章としては一区切り着いた感じですが、もしかしたらまたつづくかもしれません。
とりあえず次回は本編です
よろしくお願いします