錦が如く   作:1UEさん

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ヒッヒッヒッ……



この時をずーっと待っとったでぇ…………






桐生チャン



狂犬、襲来

2005年12月10日。

桐生が居るのが関東桐生会本部ではなくここ、第四倉庫街である事を本部前の門番から聞いた俺は伊達さんに頼みすぐに車を出してもらった。

そして、やっとの思いで辿り着いたそこでは今まさに桐生が組の連中に号令を掛けようとしていた。

慌ててそれを引き止めた俺は、桐生並びに関東桐生会の構成員達に事情を説明する事で 彼らとの協力を取り付ける事に成功したのだ。

ここまでは良い。

だが。

 

「ただ今を以て、錦…………錦山彰を────」

 

俺、錦山彰は。

あろう事かここに来て。

 

「関東桐生会の───若頭に指名する!!!!」

 

出所してから一番の驚愕と困惑の渦に叩き落とされる事になるのだった。

 

「な……なんだとぉぉぉ!!?」

「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 

俺の反応とは打って代わり、関東桐生会の連中は待ってましたと言わんばかりの大歓声。

理解が追いつかない中事が進んでいきそうになっていく中、辛うじて俺は言葉を紡いだ。

 

「桐生、ちょっと待て」

「え?」

「いや……え?じゃねぇだろ!?」

 

不思議そうに首を傾げる桐生に対し、俺は言及せざるを得なかった。

 

「俺が、関東桐生会の若頭だと?ノリと勢いだけで何言ってんだお前!?」

「いや、別にそんなつもりは無いが……」

「そんなつもりあっただろうが!?"よし、聞けお前ら"じゃねぇんだよ!?」

 

いくら何でも話が急すぎる。

それに、俺にそんな大役が務まるとは思えない。

桐生には悪いが辞退させてもらう他無いだろう。

 

「錦山さん、ここは自分がご説明致します」

 

そう言って進言して来たのは関東桐生会若頭代行の松重だ。

 

(そうだよ、俺が若頭になっちまったら今の松重の立場はどうなる?順当に考えりゃ、この人が若頭になるのが筋ってモンじゃねぇか!)

 

しかし、彼からの説明を聞いた俺はますます困惑する事になる。

 

「錦山さん、自分の役職はご存知ですか?」

「役職って……若頭代行、だろ?」

「そうです。俺は若頭"代行"。つまり、本来の若頭が復帰するまでの代役に過ぎないんです」

 

そう言われて俺はふと思い出した。

それは桐生と墓地で合流する前、運転手を務めてくれた斎藤と交した何気ない会話。

 

(あの時、本当の若頭は誰だ?って質問に対して、斎藤は"詳しくは自分も知らない。代行は時が来たら分かるとしか言わない"って答えてたはずだ……)

 

この返答を整理していくと、今の状況と符号する点がいくつか見えてくる。

本当の若頭。時が来たら分かる。

それは。つまり。

 

「まさか……俺が、その……?」

 

恐る恐る尋ねた俺に対し、松重さんは満足気に頷いて見せた。

 

「えぇ、関東桐生会の若頭。そのポストは、錦山さん。最初から貴方のために用意されていたものだったんですよ」

「な、何ィ……!?」

 

関東桐生会。

東城会から独立し、今や500人規模にまで成長した横浜の極道組織。

そんな組の若頭の地位が、知らず知らずの内に約束されていたと言う。

 

「錦……」

 

開いた口が塞がらない俺に対し、桐生が語りかけて来た。

 

「十年前、お前が俺を庇って逮捕された時に俺は誓ったんだ。いつか、シャバに出てきたお前の受け皿になると。そしてこの組を……お前に笑われないくらい立派な組織にしようと」

 

その言葉を聞いた時、俺は三代目の葬儀で親っさんから聞かされた話を思い出した。

当時の桐生は親殺しである俺を受け入れる組織を作るべく、直系昇格を目指していたと。

 

「だが 俺は東城会と袂を分かち、由美もあんな目に遭っちまった。俺は怖くなったんだ。このままお前がムショから出てきた時、本当にこの組織に招いていいのかと。勤めを終えてカタギになったお前を、またこっちの世界に巻き込んだら由美は……ましてや優子はどう思うだろうってな」

 

桐生は迷いがあった事を告白した。

だからこそコイツは、最初俺に手を引くように言ってきたのだろう。

 

「でも、いくら俺が手を引けと言っても結局お前は引かなかった。そして、多くの敵を相手にしながら生き残ってこの場に辿り着いた。なら……もう認めるしかねぇだろう」

「桐生……」

 

だが、桐生は俺を認めた。

堂島の龍の隣に立つ存在として、俺を受け入れる覚悟が出来たのだと、桐生は俺に告げたのだ。

 

「改めて言おう。錦……関東桐生会の若頭を、お前に任せたい。引き受けてくれるか?」

「…………」

 

優子が生きていると知ったあの日から、刑務所の中で己を磨く事は怠らなかった。

出所してからも、色んな奴らと拳を交えて経験を積んできた。

そして、それらの軌跡が今ここに結実した。

だが。

 

(いや、そんな事 急に言われてもよ……)

 

桐生の問に対し、俺は即座に返答する事が出来なかった。

あれだけ渇望していた俺の望み。

桐生の助けになるという願いが今、目の前に用意されているというのに。

 

「フッ、これで俺もようやく肩の荷が降りるってもんですよ」

「松重、お前そんな風に思ってたのか?」

「会長が無茶ばかりするからですよ。少しは自分の行動を省みたらどうです?」

「むぅ……」

 

軽口を叩き合う桐生と松重をよそに、俺は真剣に悩んでいた。

 

(そりゃ、桐生と比べりゃある程度器用にはこなせるかもしれねぇが……俺は別に組織運営のいろはがある訳じゃない。)

 

自分の組を持つどころか、以前の俺は立ち回りが小器用なだけのチンピラに過ぎなかった。

そんな俺がいきなり関東桐生会の若頭に就任したとしても、上手くいく筈が無い。

 

(それに、松金組や風間の親っさんの事もある。今、関東桐生会に入るのは良いタイミングとは言えねぇ)

 

東城会と関東桐生会は一触即発の状態だ。

そんな時に関東桐生会の、それも若頭に就任したりしたら東京中の極道から目の敵にされる。

神室町にも居られなくなるだろう。

もしもそんな事になれば俺も動きが取りづらくなってしまう。

 

「桐生、俺はまだ───」

 

お前の組には入れない。

そう、桐生に告げようとした時だった。

 

「オイ!なんだあれ!!?」

 

列の最後尾にいた一人の若衆が、後ろを向きながら声を上げる。

それにつられるようにして続々と皆が視線を向けた。

 

「あれは……!」

 

時刻は夜の21時過ぎ。

とっくに日も落ちて僅かな街灯が照らすだけのこの場所に、新たな光源が確認できる。

その光は唸るような音を響かせながらこちらへと迫ってきた。

 

「っ、みんな避けろォ!!!」

 

桐生が叫ぶ。

その声に呼応するように若衆達が一斉に回避行動を取る。

やがて、光の正体が明らかになった。

 

「ダンプ!?」

 

それは、猛スピードでこちらへと突っ込んでくる大型のダンプカーだった。

けたたましい程のエンジン音とタイヤの摩擦音を響かせながら、そのダンプは関東桐生会の群衆に突っ込む寸前にドリフト駐車の要領で横向きになるように急停車する。

 

「なんだってんだ一体……!?」

 

こんな事をしでかす以上、あのダンプに乗っている奴が俺たちの味方でない事は確かだ。

だが、一歩間違えば死人はおろかダンプの転倒で自身すら犠牲になりかねない程に無茶な行動。

敵であったと仮定しても、決して得策とは言い難いリスクだらけの行動だ。

十中八九ロクな奴では───

 

「───おい。これって…………」

 

その時。

俺は思い当たった。当たってしまったのだ。

これ程の無茶をやらかす人間が、東城会側に一人いる事に。

 

「まさか……!!」

 

俺の隣で目を見開く桐生。

どうやらコイツも思い当たったらしい。

ダンプのドアを開けて運転席から飛び出してきたのが、一体何者なのかを。

 

「ヒッヒッヒッ…………」

 

テクノカットの髪型。

素肌の上から着用した金色のジャケット。

左目に付けられた黒い眼帯。

右手には金属バット。

一目見たら忘れられないその強烈なビジュアル。

間違いない。確信した。

 

「お前……!」

 

そして。

奇抜な格好をしたその男は、大声で高らかと叫んだ。

 

「桐ぃ〜生ぅ〜、チャーン!!あっそびぃましょォー!!!?」

 

東城会直系嶋野組若頭兼真島組組長。真島吾朗。

かつて"堂島の龍"と並び称された、東城会の伝説──"嶋野の狂犬"の異名を持つ超武闘派極道。

それが、ダンプカーを突っ込ませながら登場したこの狂人の正体である。

 

「真島の、兄さん……!」

 

桐生が隣で息を飲んだのが分かる。

数日前に俺もやり合って分かったが、真島吾朗という男はそれほどの危険人物なのだ。

 

「真島!テメェ、どうしてここに……!?」

「あ?なんや、錦山も居るんか。気付かんかったで」

 

真島の隻眼は興味無さげに俺を見下している。

どうやら本当に桐生の事しか眼中に無いのだろう。

 

「何しに来たんだ、真島の兄さん。」

 

桐生は台から飛び降りて真島に向かって歩き出しながら毅然とした態度で言葉を発した。

それに対して真島は、これ以上無いほど愉快そうに笑いながらこう言ってのけた。

 

「決まっとるやろ?戦争や!!」

「なんだと?」

 

真島がそう宣言した直後、真島が乗ってきたダンプカーの後ろから何十台もの車が殺到してくる。

そして、真島の言葉が真実である事を裏付けるように車内から続々とヤクザ達が降りて来た。

 

「どういう事だ?」

「聞いたで?堂島のアホンダラを殺ったのがホンマは桐生ちゃんやった、ってな」

「!!」

 

真島の口からその情報が出たという事は、既にその情報は任侠堂島一家だけでなく東城会全体に及んでいるのだろう。

となれば、真島がここに来た理由にも説明が付く。

 

「それで、元は堂島組系列やった嶋野組……要はウチの親父から桐生ちゃんを殺って来いって命令が出たんや!」

「なに、嶋野が?」

「せや!それでワシは遠慮なく桐生ちゃんと殺り合える大義名分を得たっちゅう訳や!!」

 

水を得た魚の如くに目を輝かせる真島。

桐生と闘える事を心の底から喜んでいるのが分かる。

だが、今はそんな事をしている場合では無いのだ。

 

「さぁ、始めようやないか桐生チャン!」

「断る。こっちは今それどころじゃないんだ、さっさと引き上げてくれ」

「あん?何言うとんのや桐生チャン。」

 

真島は桐生の言葉に対してそう答えると、手にしていた金属バットを持ち上げ───

 

「でェヤ!!」

 

桐生目掛けて真っ直ぐに投げ放った。

 

「なッ!?」

 

砲弾のように飛来する金属バットを顔一つズラして躱す桐生。

しかし。

 

「イィヤァオ!!」

 

その時には既に真島は手にしたドスを桐生目掛けて振り抜いていた。

まさに一瞬。五メートルは離れていた距離を瞬く間に詰め、不意打ちの刃を閃かせる。

 

「ッ!」

 

だが、桐生の反応速度はそれを凌駕した。

刃が首元に届く刹那、桐生の手がドスを握った真島の腕を掴んでいたのだ。

 

「グッ……!」

「そんなもん───ワシが聞くとでも思っとんのか?」

「オラァ!!」

 

桐生が反撃のアッパーを繰り出すが、真島はそれを躱すと掴まれた腕を難なく振り解いてその場から飛び退いた。

 

「チッ、真島……!」

「甘いなぁ〜桐生チャン。アマアマやぁ」

 

真島は片手でドスを弄びながらそんな事を言ってのける。

今のはほんの挨拶代わりとでも言うのだろうか。

 

(なんてハイレベルな闘いだよ……!)

 

時間にして僅か五秒足らず。

たったそれだけにも関わらず、桐生と真島のやり取りには目を見張るものがあった。

これが"堂島の龍"と"嶋野の狂犬"。

生ける伝説とまで言われた極道同士の喧嘩だと言うのか。

 

「桐生チャンがこれから何をしようとしとるかなんてどーでもえぇ!ワシはただ、全力のお前と……関東桐生会とド派手な喧嘩が出来ればそれでえぇんじゃ!」

「真島……!」

 

その言葉を合図に背後に控えていた真島組の連中が手に得物を携えて臨戦態勢に入った。

ざっと見ただけでも、その頭数は200を下らない。

これだけの人数が一斉に衝突すれば、両組織ともタダでは済まない。

確実に損害が出る事になるだろう。

 

(クソっ、どうすりゃいい……!)

 

このままでは遥の身が危ない。

だが、真島組はここを行かせるつもりは毛頭無いらしい。

もはや衝突は不可避。

決して避けられない喧嘩が幕を開けようとしていた。

そんな時だった。

 

「松重!長濱!!」

 

桐生がファイティングポーズを取ったままその名前を口にした。

すると、名前を呼ばれた男達がすぐさま桐生の脇を固めるように馳せ参じる。

 

「「へい!」」

「真島は俺が抑える!お前らは若いのを連れて後ろの奴らをぶちのめせ!」

「「へい、会長!!」」

 

的確に作戦指示を飛ばし、それに従って若衆達が動き始める。

この非常時であっても的確に人が動くのは、一重に桐生のカリスマが為せる技なのか。

 

「ヒッヒッヒッ……やっとその気になりおったか、桐生チャン!」

「村瀬!斎藤!」

「「へい!」」

「お前らはここで離脱だ!錦の側につけ!」

「っ!」

 

その指示にしかと頷いた男達がすぐに方向を転換して俺の元へと現れる。

 

「錦山さん、ここからは俺達がお供します。」

 

村瀬と名乗ったオールバックのヤクザと、鬣のような髪型をした斎藤。

斎藤は桐生と合流する時に車を運転してくれたので顔見知りだが、村瀬とは初対面だ。

 

「お初にお目にかかりやす。村瀬ってモンです。錦山さん、お世話になりやす」

「……!」

 

そう言って頭を下げる村瀬。その全身からはただならぬ雰囲気が溢れている。

流石は関東桐生会の幹部。只者では無さそうだ。

 

「錦!!」

 

そして。

真島から目線を逸らさぬまま、桐生は振り返らずに俺の名を呼んだ。

 

「なんだ?」

「そいつらをお前に預ける。くれぐれも頼んだぞ……!」

 

それは信頼の証。

俺を男と見込んで、桐生は自分の兵隊を貸し与えてくれたのだ。

 

(桐生……!)

 

確かに俺は組織運営のいろはは無いし、桐生ほどのカリスマも持ち合わせちゃいない。

それでも、信じて子分を預けてくれた兄弟の期待を裏切る程 俺は腐っちゃいない。

 

「あぁ……任された!せいぜい派手にぶちかましな!兄弟!!」

「フッ……お前もな、兄弟!!」

 

俺は桐生から託された組員達を連れていく。

その数は約70人。

今の蛇華とやり合うには十分だろう。

 

「さぁ、みんな!俺について来い!」

「「「「「へい、カシラ!!」」」」」

 

背を向けて走り出す俺に、続々と男達が着いてくる。

そして、その背後では。

 

「ヒッヒッヒッ、行くでお前らァ!ぶち殺せェェえええええええ!!!!」

「関東桐生会……俺に続けェェえええええええええええええ!!!!」

「「「「「「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」

 

"龍"と"狂犬"の号令を合図に、関東桐生会と真島組による全面戦争の幕が上がっていた。




てなわけで、おどれら久しぶりやな!
真島吾朗、完全復活や!!

なんや桐生チャンが出たことで感想欄も盛り上がっとるようやけど……
ワシが来たからにはもっと盛り上がるに決まっとるでぇ!

次回は、いよいよ待ちに待った桐生チャンとの大喧嘩や!
気合い入れた殴り合いを見せたるから、楽しみにしとってや!

ほな!!
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