如く7が面白すぎる……!
今日の19時から新作発表もありそうですし、今から楽しみで仕方ありません!
では、本編をどうぞ!
横浜中華街、"翠蓮楼"店内に乗り込んだ錦山と関東桐生会の幹部構成員──村瀬と斎藤は、ホールに現れた蛇華構成員達を蹴散らし、厨房の奥へと進んでいた。
《襲撃だ!》
《殺せ!生かして帰すな!!》
中国語で叫びながら迎撃せんと三人に迫る蛇華たち。
その中には白いコック服を着た料理人らしき者も混ざっており、中華包丁などを振り回して襲いかかってくる。
「オラァ!!」
錦山は振り下ろされた中華包丁を躱すと、蛇華構成員の腕を掴んで関節をへし折った。
悲鳴をあげたコック服の首を背後から締め上げ、意識を落とす。
《死ね!!》
続く二人目は振り抜いてきた青龍刀の軌道を見切り、刀を持つ手首に掌底を当てて得物を弾き落とした。
丸腰になった相手を前蹴りで蹴り飛ばして無力化する。
「この!」
ついに拳銃を取り出した三人目には、厨房にあった中華料理の円筒形をしたまな板を投げ付けて意識を逸らす。
「セェヤ!!」
その一瞬の間に一気に距離を詰め、渾身の正拳突きを鳩尾に叩き込んだ。
《ぐぼっ!?》
蹲ってのたうち回る三人目の頭をサッカーボールキックで蹴り上げてトドメを刺す。
中国マフィアを名乗るだけあってその戦闘力は神室町のチンピラ達の比にはならない。
だが、これまで数多の強敵と闘ってきた錦山にしてみれば彼らは雑兵に過ぎず 大した脅威とは言えない。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
しかし、それが徒党を組んで襲いかかってくるのであれば状況は変わる。
彼らがここに来る前に桐生が正当防衛の為に暴れた影響もあって本来よりもその頭数は減っているが、それでも錦山はここに辿り着くまでに三十人は殴り倒していた。
それに加え錦山はここに来るまでの間に任侠道島一家やカラーギャング達とも闘っている。
度重なる激闘とダメージにより、錦山は酷く体力を消耗していた。
「クソっ……キリがねぇ……」
《貰ったぞ!!》
肩で息をしている錦山に、通算三十一人目のマフィアが襲いかかった。
錦山が対処するべく身構えた、その直後。
「ウラァ!!」
真横から突進してきた村瀬が蛇華の構成員を突き飛ばして、そのまま壁へと叩きつけたのだ。
「大丈夫ですか、錦山さん!」
「悪ぃな、助かったぜ……」
村瀬は顔色一つ変えずに錦山を援護すると、そのまま戦線へと戻って行く。
「イキがってんなよチャイニーズ風情が!!」
村瀬の闘い方は、剛と柔を併せ持ったパワースタイル。
全力で殴って蹴るヤクザらしい力任せの打撃を見せたかと思えば、相手の武器攻撃に対して関節技を極め、無力化したまま腕や足をへし折る。
ヘビー級のキックボクシングと重量級の柔術が融合したかのような、豪快かつ繊細な闘い方だった。
「セイッ、デリャァ!!」
そして、そのすぐ隣では斎藤もまた蛇華構成員達を次々と沈めている。
パワーが主体の村瀬と違い、斎藤はサバイバルナイフと小振りの投げナイフを使ったナイフ術で敵を圧倒するスピードスタイル。
青龍刀や中華包丁で武装した蛇華の男達が、次々と叩き斬られていく。
「はは、すげぇな……」
錦山は思わず舌を巻いた。
刃を振るう速度だけならば、あの真島吾朗にさえ遅れを取らないだろう。
これが関東桐生会の幹部。
武闘派として名を馳せた桐生の元に集った、紛れもない強者たちの実力なのだ。
「チッ……ナイフがイカレちまった」
舌打ちをし、刃こぼれしたサバイバルナイフを捨てる斎藤。
メインの武器であった得物が刃こぼれを起こし、満足に戦うのが困難となる。
「村瀬さん。とりあえず、ここの連中はあらかた片付けました」
「あぁ……ん?待て……」
村瀬は神妙な面持ちで錦山の傍まで駆け寄ると、そのまま背中を向けて錦山を守るように立った。
「どうした?」
「……新手です」
村瀬の言葉通り、増援と思われる蛇華の男達が厨房へと大勢なだれ込んで来た。
「クソッ……これじゃホントにキリがありませんね!」
「ったく、こんな所で足止め食ってる場合じゃねぇってのに……!」
悪態をつく二人だが、その表情は何処か楽しげだ。
大掛かりな喧嘩に極道としての血が騒いでいるのだろう。
しかし、村瀬の言う通り錦山達は足止めばかりを食らっている訳には行かない。
こうしている今も尚、遥は囚われたままなのだから。
「村瀬、斎藤!」
錦山は懐からスタンバトンとドスを取り出すと、それぞれを二人に投げ渡した。
二人は困惑しながらもそれを受け取る。
「に、錦山さん!?」
「こいつは一体?」
「俺が護身用で持ってる得物だ。そいつをお前らに託す。だから……ここは任せてもいいか?」
錦山がこの目で見た二人の実力は本物だった。
これだけの強さを持つ二人になら、錦山は気兼ねなく背中を預けられる。
だが、それはそれとして彼らの身に何かがあれば彼は桐生に会わせる顔が無い。
故にこの行動は、錦山が二人に少しでも生き残って貰うために行った投資のようなものだった。
「へい、錦山さん!」
「お任せ下さい!」
「あぁ、頼んだぜ!!」
錦山は彼らにその場を託し、厨房の更に奥へと足を踏み入れた。
《待て!》
《その先に行かせるな!》
錦山を追いかけようとする蛇華達だったが、そんな彼らの前に関東桐生会の二人が立ちはだかる。
「行かせねぇぞ雑魚共」
「ここを通りたきゃ、俺らを倒して行くんだな!」
村瀬がスタンバトンのシャフトを展開し、斎藤がドスを抜き放つ。
彼らの士気は、敬愛する会長の兄弟分たる錦山から男と見込まれ殿を頼まれた事で最高潮に高まっていた。
「「死ぬ気で来い!!」」
関東桐生会の若頭補佐と舎弟頭補佐。
二人の極道が今、蛇華達に牙を剥く。
2005年12月10日
時刻は午後の22時頃。
蛇華の本部である料亭「翠蓮楼」に殴り込みをかけた俺は、ついにその最奥部へと辿り着いていた。
「遥!!」
勢いよく扉を開けた先にいたのは、縄で縛られ口をテープで塞がれた遥。
そして、その横にいる白い中華服を身に纏った男だ。
後頭部で結ばれた俺以上に長い黒髪と顔の傷、猛禽類のような鋭い眼光に俺は見覚えがあった。
間違いない。コイツこそがこの屋敷の主にして遥を攫った張本人。
「まさか、キリュウカズマではなくお前がここに来るとはな。ニシキヤマ アキラ。数日ぶりカ?」
劉家龍。横浜中華街を支配する中国マフィア組織"蛇華 日本支部"の総統。
かつての桐生は愚か、足を怪我する前の風間の親っさんですら一目置いていた程の実力者だ。
「ほう、まさかあの劉家龍に名前を覚えてもらえるとはな」
「貴様の事は色々と調べさせて貰ったヨ。まさかあのキリュウカズマの兄弟分だったとはね。俺達が関東桐生会へ出向いたあの時にお前が本部に居たのも納得だ。余程の男だと思っていたが……よもや親殺しのチンピラとはな。なんて事は無いただの小物ダ」
「おいおいその辺にしといてやれよ?その小物のチンピラに良いようにやられたお前の弟子の立つ瀬が無いぜ?」
「……いちいち癇に障る男ダ」
ラウは俺に明確な殺気を向ける。
その表情にあるのは怒り。いや、苛立ちだろうか?
小物と見下していた俺に弟子を倒されたのが気に入らないらしい。
「ラウカーロン。お前の狙いは大体察しがつくぜ。どうせ嶋野辺りからビジネスとして100億の案件を振られたのが事の始まりだろうが……一番の理由は桐生への牽制だろ?」
今回の一件。俺は裏で糸を引いているのが嶋野であると睨んでいた。
消えた100億を追う中で遥がペンダントの持ち主であるのと同時に桐生の娘である事も知った嶋野は、真島を始めとした嶋野組傘下の全組織に命令して100億と同時に桐生へのアキレス腱である遥を手に入れようとした。
それが失敗した今、次に行ったのが蛇華との共謀。
蛇華に遥の誘拐とペンダントの確保を依頼し、100億に関しては後で取り分を決めて分け合うつもりなのだろう。
(誤算だったのは、関東桐生会と抗争を構える事になった蛇華が想定よりも早く遥の存在が入り用になった事……で、桐生の動きを止める為に嶋野が策を打ったって所か)
そう考えれば、倉庫街に真島が来たことにも説明が付く。
蛇華と一触即発の状態にある関東桐生会に真島をけしかける事で桐生の動きを封じ、その間に蛇華に仕事をしてもらう。
真島の扱いに慣れた嶋野らしい策だ。
「ほう……キリュウカズマと違い、お前は意外と頭が回るようだナ」
「そりゃどうも」
「だが、所詮は貴様も嶋野達と同じ頭の悪い日本の極道ダ。結局はこの娘の"本当の価値"を分かっちゃいなイ」
「なに……?」
ラウの言った"本当の価値"。
その言葉に俺は引っ掛かりを覚えていた。
100億のペンダントと桐生の身内である事以外に、遥にはまだ狙われる理由があると言うのだろうか。
「そいつはどういう意味だ?」
「フン、お喋りはここまでにしよう。俺は蛇華を力でのし上がった男だ」
ラウは俺の問いには答えず、上の階の廊下から部下が投げ渡してきた得物を受け取った。
「ホワチャ!!」
青龍偃月刀。
長い棒状の柄に分厚い刀身が槍のように付けられた、中国を代表する武器の一つ。
ラウはそれを手足のように自由自在に振り回し、切っ先を俺に向けるようにして構えた。
「────来な。マフィアの怖さ、思い知らせてやる!!」
どうやらこれ以上の情報をタダで話すつもりは無いらしい。
ならば俺の取るべき手段は一つだ。
「……上等だ」
ジャケットの両側にあるポケットに左右の手を入れ、鋼鉄のメリケンサックを取り出した。
備わった穴に指を入れ、しっかりと固定させてからファイティングポーズを取る。
「────極道の恐さ、教えてやるよ!!」
蛇華日本支部総統。劉家龍。
横浜の中国マフィアを総べるボスとの果たし合いが幕を開けた。
同時刻。
第四倉庫街で勃発した真島組と関東桐生会による全面戦争。
そのボス同士である真島吾朗と桐生一馬の闘いは熾烈を極めていた。
「イィーッヤァッ!!」
狂ったように笑いながらドスを持って襲い掛かる真島。
彼の繰り出す斬撃は不規則な軌道と圧倒的な速度を併せ持ち、回避する事は至難の業である。
「シッ、フッ!」
しかし、桐生は並の極道であればとっくに両耳と鼻が削ぎ落とされているであろうそれらの斬撃を持ち前の動体視力と反射神経で次々とやり過ごしていた。
「オラァ!!」
そして、針の隙間を縫うような僅かな間隙を突いて反撃の拳を振るう。
空気を抉るように放たれた右ストレートを真島は顔一つ分首をズラして躱すが、その一撃の余波により真島の頬が浅く切り裂かれた。
「────イヒッ!」
その事実に真島はより一層の笑みを浮かべる。
「最高やでぇ、桐生チャン!!」
「ウラァ!!」
飛び掛った真島に対し桐生が右のハイキックで迎撃を行った。
如何に真島吾朗が素早くとも、空中に躍り出てしまえば身動きは取れないと踏んだからだ。
「エヒャ!!」
しかし、狂犬はそんな常識すらも捻じ曲げて見せた。
真島は真横から接近する桐生の薙ぎ払うような蹴りに対し、空中で身体を捻った上で蹴りを受けた。
左の肘上辺りを直撃した桐生の蹴りだが、その威力は正しく発揮される事は無い。
(なにっ!?)
桐生の足が振り抜かれた直後、真島の身体が空中でコマのように回転した。
真島は空中で身体を捻って微弱な回転を生むことで、桐生の蹴りの威力を遠心力に変換して見せたのだ。
そして、今。桐生の身体はハイキックを蹴り抜いた勢いのまま後ろへと振り向こうとしている。
(マズイ──!!)
「アチャー!!」
桐生が危機を知覚した時には、既に遅かった。
空中で回転を加え放たれた真島のかかと落としが、桐生の後頭部を直撃する。
「うぐぁっ!?」
前のめりに倒れる桐生。
堂島の龍が喫した初めてのダウンに、周囲の男達は騒然としていた。
「ヒッヒッヒッ、背中見せたらアカンでぇ……桐生チャン!!」
明確な隙を晒して桐生を仕留めるべく、狂犬がすかさず動き出した。
ドスを逆手に持ったまま飛び掛かり、桐生の身体に刃を突き立てようと振り上げた。
「──シャァアッ!!」
それを本能で感じ取った桐生は、揺れ動く視界と朦朧とする意識のまま反射的に動いた。
右手で強く地面を叩いて身体を仰向けに反転させ、その勢いのまま真上へ回し蹴りを振り抜く。
「ぐぉぉっ!?」
その回し蹴りをまともに受ける事になった真島の身体は、桐生のちょうど真上で迎撃されて吹き飛ばされる。
「はぁ……はぁ……」
平衡感覚を取り戻した桐生がゆっくりと立ち上がり、地面を転がった真島を油断なく睨みつける。
彼の知る"嶋野の狂犬"はこの程度では止まらないからだ。
「ヒヒッ……ヒッヒッヒッ!」
そんな桐生の予想通り、立ち上がった真島が狂ったように笑い声を上げる。
この数年間闘いたくて仕方が無かった桐生との ようやく訪れた命懸けの喧嘩に、真島の心は踊り昂っていた。
「ヒャーッハッハッハ!!アカン!アカンで桐生チャン!!こんなに楽しい喧嘩は何年ぶりや!?やっぱりお前は最高やなァ!俺は嬉しいでぇ!!」
「チッ、相変わらずタフな野郎だ……!!」
対する桐生の表情は固く、苦いものが占めている。
彼は今、こんな事をしている場合では無い。
一刻も早く真島を撃破し、錦山の応援に行かなければならないのだ。
「まだまだ楽しもうやないか、桐生チャン!!」
「ッ!!」
直後。真島の身体が一瞬にして桐生の目前まで迫っていた。
顔目掛けて突き出されたドスを、桐生は間一髪で避ける。
「セイ、デリャ、リャォ、ィヤァ、シャラァ!」
ドスを空中に置くように手を離し、振り向きざまに逆手の一刺し。
ドスを上に放り投げながらの足払い。
跳躍で避けた先に待っている顔面への一刺し。
こめかみを狙ったハイキック。
蹴り足を振り抜いたままの勢いで放たれる逆手持ちの刺突。
そして、ドスの柄ごと殴り付ける最後の左ストレート
錦山が避けきる事の出来なかった"鬼炎"の如き猛攻を、桐生はいとも容易く捌き切った。
「イィィヤァッ!!」
しかし、狂犬の牙は未だ止まらない。
小刻みに放たれた二回の斬撃。
そしてそれを避ける為に後ろへ下がった瞬間を狙い撃つかのように放たれた下からの大振りな一振り。
「チッ!」
それを躱した先に待っている振り下ろしの斬撃。
どうにか避けた桐生だったが、真島はさらにそこへカポエイラのような動きで二発の連続回し蹴りを放つ。
「ヌッ、グゥ!」
息もつかせぬ程の怒涛の猛攻に歯噛みする桐生。
如何に堂島の龍と言えども、真島の攻撃を躱し続けるのには限界がある。
だが、自身の余裕が削られていくのと同時に桐生は待っていた。
いずれ来る"勝機"の訪れを。
「セイッ、デリャ、ウゥリャ!!」
ドスを上に放り投げ、足払い、左フック、アクセルキックとコンビネーションを続ける真島。
そして。
「遠慮せんと死ねやァ!!」
キャッチしたドスを逆手に持って振り抜かれるドスの刃。
これこそ、狂気に満ちた猛攻を続ける狂犬の計算された一手。
今までの攻撃は全て、この"本命"を確実に叩き込む為の布石だった。
現に今、桐生の体勢や立ち位置ではこの斬撃を躱す事は出来ない。
かと言って防御などすれば桐生の腕はいとも簡単に斬り落とされるだろう。
まさに窮地。桐生にとっては限りなく詰みに近い状況だ。
しかし。
(────来た!!)
この危機的状況において、桐生は確信した。
絶対に避ける事の出来ない狂犬の牙。
ここが。この瞬間こそが。
────勝機!!
「フン!!」
桐生はその致死の刃を、なんと素手で掴み取ったのだ。
本来であれば指が落ちかねない愚行だが、それを行うのが桐生であれば話は違う。
「な、ッ!?」
ドスの刃は桐生の手のひらを浅く切って肉へと食い込むが、それ以上のダメージを桐生の握力が許さなかった。
万力に挟まれたかのように微動だにしない己の武器に戸惑う真島だが、そこが致命的な隙になった
「オラァッ!!!!」
桐生の拳が唸る。
雄叫びと共に放たれた右フックは、真島のこめかみを直撃した。
「ぐぉ、ァ……────」
堂島の龍による鉄拳はあの真島吾朗の意識を一撃で混濁させ、致命的な程の隙を作り出す事に成功していた。
「デイヤァ!!」
桐生は振り抜いた拳をそのまま戻す要領で裏拳をぶちかまし、ドスの刃から手を離すと真島の右手首を掴まえて逃がさないように握り締めた。
「オラッ、オラッ、オラァ!!」
ここでさらに桐生は右のボディブローを直撃させる。
それも一発だけではない。
防弾チョッキすらも打ち砕く程の打撃が、何も身に付けていない真島の上半身に連続で叩き込まれていく。
「うぐぉァッ!?」
呻き声を上げる真島。
膝は笑うように震え、口からは血が零れ出す。
彼は意識の覚醒と引き換えに壮絶な痛みを被っていた。
「ぐ、ッ、ヒッ……!」
「────!!」
しかし、そんな状態でありながらも真島は獰猛な笑みを浮かべてみせた。
その事に悪寒を感じた桐生は、直後に自分の感覚が正しかった事を理解する。
「デェェェイ!!」
真島は右手で持っていたドスから手を離し それを左手で掴み取ると、桐生の首を目掛けて刃を振るった。
「ッ!」
桐生は新たにドスを握った真島の左手を右手で抑え込む事でどうにかその刃をやり過ごす。
もしほんの一瞬でも反応が遅れていれば、桐生の喉元は真横に掻き切られていたであろう。
「ウォォォオオオオオオッッ!!」
桐生は交差するような形で真島の両手を押さえ込んだ状態から、力づくで腕を引き戻した。
「ぬぉっ!?」
結果、真島の身体は桐生に掴まれたままの両腕を起点に反転し、そのまま投げ飛ばされる形となった。
背中からアスファルトに叩き付けられた真島は苦悶の声を上げる。
「グヘェッ!?」
「はぁッ!!」
身動きの取れない真島に対し、桐生はすかさず追い討ちをかけた。
仰向けに寝転がった真島の胴を全力で踏み付けたのだ。
「か、ッ───!?」
「フンッ!デェヤッ!!」
二回、三回と踏みつける度に真島の口からは血反吐が吐き出され、アスファルトを赤黒く汚していく。
そして。
「ォンラァッ!!」
叫び声と共に桐生は真島の顔面を踏みつけた。
桐生の靴底と硬い地面が真島の頭部を挟み込み、逃げ場のない衝撃が真島に甚大なダメージを与える。
「グガ、ッ、ァ……」
「ハァ……ハァ……」
確かな手応えを感じた桐生がゆっくりと足を離して僅かに真島と距離を取った。
荒らげた息を整えつつも依然油断なく真島を見つめて構えを解かない桐生に対し、真島は痛め付けられた身体を酷使してゆっくりと立ち上がった。
「ぬ……グ、ァ……ァあッ……」
顔は腫れ上がり、鼻は潰れ、頭部からは流血。
胴は何度も拳を受けて青アザだらけ。
まさに満身創痍と言った言葉が相応しい有様になりながら、真島は血走った右目で桐生を捉えていた。
「負けへんで…………」
最初の勢いが見る影もない程の弱々しい動きで桐生に迫る真島。
もはや彼の肉体は、闘争本能のみで稼働していた。
「シッ!!」
「ぶっ!?」
そんな真島に桐生は容赦なく右ストレートを叩き込んだ。確実にトドメを刺すために。
「ぐ、ぅぅ……ぬッ……負け、へんで……!」
だが、真島はその一撃を顔面に受けて大きく仰け反ったももの倒れることはなかった。
再びドスを持ってじわじわと迫ってくる。
「オラッ!」
桐生はもう一度右ストレートを真島に叩き込む。
顔面からは血が吹き出し 先程よりも大きく仰け反ったものの、やはり倒れる事は無い。
真島のスタミナとタフネスは、完全に人間の領域を越えていたのだ。
「ぬ、ゥ……ン…………負けへ────」
「オラァァァァッッ!!!!」
そんな真島のしつこさに激した桐生は、全力の拳を振るった。
喧嘩や格闘技の打撃ではない。もはや野球の投球フォームに近い動きで振り抜かれたその一撃は真島の顔面を打ち抜き、彼の身体を竹とんぼのように吹き飛ばして地面に叩き付けた。
「ぶげぁァッ!?ぁ……ぁが……く、ッ…………ぬ、ゥ……!!」
震える身体を無理矢理動かし、産まれたての子鹿のような有様になりながら、なおも立ち上がる嶋野の狂犬。真島吾朗。
しかし。ついにそんな彼に限界が訪れた。
「負、け……ぇ…………────────────」
全身の力が抜け、膝から地面へと崩れ落ちる真島。
前のめりに倒れて動かなくなったのと同時に、しばしの静寂が第四倉庫街を包み込む。
「ハァ……ハァ…………手間、取らせやがって」
やがて、桐生がそんな言葉を零す。
それをもって、伝説の極道と呼ばれた二人の闘いは決着したのだった。
ヘ、ヘヘ……ヒッヒッヒ…………
やっぱり……桐生チャン、は………………
ごっつい、のぅ…………──────────