錦が如く   作:1UEさん

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最新話です。
ラウの戦闘描写が上手いこと書けず苦戦しました……

よろしくどうぞ


Ogre has Reborn

横浜中華街に店を構える中国料亭"翠蓮楼"にて、俺は蛇華日本支部総統である劉家龍(ラウ・カーロン)との果たし合いに臨んでいた。

 

「カァーッ!!」

 

身の丈以上の長さを誇る青龍偃月刀を軽々と振り回すラウの斬撃はリーチが長く、変幻自在な軌道を持って迫ってくる。

対してこちらの得物はメリケンサック。

拳の周りに鋼鉄の手甲が加えられただけの武器であり、リーチは素手の時と殆ど変わらない。

 

「チッ!」

 

結果、ラウがその長物で自分の間合いを保ち続け、俺が自分の間合いに入れずに向かってくる斬撃をメリケンサックの打撃で迎撃し続けると言う防戦一方の状況が出来上がっていた。

 

(クソッ、やべぇかもなこりゃ……!)

 

加えてここは屋内。

総統の部屋である為 ある程度の広さはあるが、屋内である以上逃げ場所は限られてくる。

そして俺が知る限り、ラウは逃げ回るネズミを相手にいつまでも追いかけっこをしてくれるような奴じゃない。

追い詰められてトドメを刺されるのが関の山だ。

 

(何とかしねぇと……ッ!)

 

ラウの猛攻を躱しながら俺は周囲を見渡した。

そして、部屋の周囲にオブジェとして配置された大きめの壺がある事に気付く。

 

(アレだ!!)

「ハァァッ!!」

 

ラウの放った袈裟斬りを転がりながら避けてやり過ごし、俺は木台の上に置かれた壺を持ち上げると ラウと俺の中間に来るように放り投げる。

 

「!?」

 

僅かに面食らったラウ。

その間に俺は放り投げた壺を目掛けて右のストレートを放った。

 

「オラァ!!」

 

壺は甲高い音を立てて砕け散り、その破片がラウへと襲い掛かる。

 

「ヌゥッ!」

(貰った!)

 

得物を真横に降って破片を振り払うラウ。

俺はその間隙を突いて一気に距離を詰めた。

刃のリーチよりも深くに踏み込み、あと一歩で拳が届く程の間合いまで近付く。

 

《甘い!!》

 

しかし、ラウは俺の接近を許さなかった。

俺が振り上げた拳よりも早く、ラウの放った足刀蹴りが俺の胴へとくい込んでいたのだ。

 

「ぐ、ッ!?」

 

瞬く間に距離を離され、俺は再びラウの得物の間合いへと追いやられてしまった。

 

「フゥンァ!!」

「フッ!」

 

その途端、即座に襲い掛かる青龍偃月刀の刃に俺は右フックを放った。

メリケンサックを着けた鋼鉄の拳で刃の横を叩く事で軌道を逸らし、どうにかやり過ごす。

 

(ダメだ……全く距離を潰せねぇ!)

 

広範囲かつ遠距離のリーチを持つ青龍偃月刀。

それを突破しても中距離の足技が接近を許さない。

まさに鉄壁の布陣。隙の生じない二段構え。

 

(まずはあの得物をどうにかしねぇと……!)

 

このままではジリ貧。いずれ体力と余裕を削り切られ、トドメを刺されるだろう。

この状況を打破しない限り、俺に勝機はない。

 

(だがどうすりゃいい……!?)

 

青龍偃月刀による斬撃の連続をメリケンサックで弾きながら、俺は思考を巡らせた。

これまでもどうにか切り抜けてきた。

必ず何処かに突破口はある。

 

(ん……?)

 

ふと、俺は得物を振り回すラウの手に目が止まった。

正確にはその奥。袖の中が少しだけ見えたのだ。

手首の辺りに巻かれた白いものを。

 

(あれは、包帯か……?)

 

包帯を巻く意味はいくつかあれど、大抵の場合は怪我をした場合に限定される。

そして、息を付かせぬほどの苛烈な猛攻。

これを"余裕が無いこと"の裏返しと捉えるのならば。

 

(試してみるか……!)

 

いずれにせよ、こっちとしても時間や余裕は無い。

たった今浮かんだ仮説と己の直感を信じ、俺は脱力の呼吸をする。

 

「チュア!!」

 

繰り出された突きを冷静に見極めて回避し、俺は脱力からの瞬発力を活かした跳躍で大きく後ろへ飛び退いた。

その後、近くにあった壺と木台をメリケンサックを指に嵌めたままそれぞれ両手に持つ。

 

「フン、馬鹿の一つ覚えカ!」

 

先程の戦法を繰り出してくると思ったラウは俺を嘲笑いながらすぐに距離を詰めてくる。

俺はそんなラウに対し、まずは木台を投げ付けた。

 

「シェアッ!!」

 

そんな掛け声と共に振り下ろされた青龍偃月刀は、飛来する木台を真っ二つに斬り裂いた。

あまりの切れ味に内心で舌を巻きつつも、俺は即座にもう片手に持った壺を放り投げる。

 

「ハッ」

 

ラウはそれを鼻で笑いながら右に避けた。

コイツにとってそれは予想していた行動だったのだろう。

だが、これは予期していただろうか?

 

「オラッ!」

 

俺はラウが壺を避けた瞬間、ラウの顔面目掛けて左手に付けていたメリケンサックを投げつけた。

その顔の右半分(・・・・・)にメリケンサックが直撃するように。

 

「ッ!」

 

ラウは咄嗟に仰け反りながら左側に身体を傾ける。

その結果。

 

「なっ!?」

 

先程放り投げられて地面に落ち、割れて砕け散った壺の破片を踏み付けてしまいバランスを崩す。

この瞬間こそ、俺が待っていた状況であり作り出したかった状態だった。

 

「フゥッ」

 

足を強く踏み込み、地面を蹴って一気に距離を詰める。

 

「─────セェッ!!」

 

裂帛の気合と共に、右の鉄拳で真っ直ぐに正拳突きを放った。

 

「ぐッ!?」

 

反射的に得物の棒でその一撃を受けるラウ。

だが、木製のそれをメリケンサックを嵌めた右の正拳突きはいとも簡単にブチ折った。

 

「クッ!?」

「オラァ!!」

 

突如として得物を無力化されて戸惑うラウに、俺はすかさず追撃の前蹴りを胴体に叩き込んだ。

"硬い感触"を靴底越しに感じた直後、ラウの体が後方へと弾き飛ばされる。

 

「フッンゥ!」

 

ラウは身体を捻るようにして受身を取ると、中国拳法の構えを取った。

どうやらここからは肉弾戦を仕掛けてくるつもりらしい。

 

(こっからは未知の領域だ……!)

 

劉家龍は中国におけるあらゆる武術を極めた達人。

それは当然、拳法においても例外じゃない。

渡世入りしてから今に至るまで数多くの男達と闘って来たが、流石に達人とやり合うのはこれが初めてだ。

それに加えこっちは既に怪我の影響や連戦に次ぐ連戦もあって体力は残り少なく、いつ限界が訪れるか分からない。

故に。

 

(賭けるなら……"ここ"だ!)

 

俺は決断した。

この勝負、一気に確実に終わらせると。

 

「スゥー……、フゥー………………────────」

 

呼吸。脱力。

精神の昂りを抑え、心身ともに安定した状態を作り上げる。

身体は自然。頭脳は冷静。

それでいて、心は熱く。

そして。

 

「───────────、ッ」

 

"入った"。

明確にそれを知覚した途端、俺の世界は一変した。

視界は一気にクリアになり、相手の動きがスローモーションになる。

ラウの声はもちろん、衣擦れの音すらもハッキリと聞き取れた。

それだけではない。

鼻は互いの汗と血の匂いを察知し、肌はラウの纏った闘気と一発に込められた殺気を敏感に感じ取る。

全ての感覚が鋭利に研ぎ澄まされてラウの放つ拳法の動きが手に取るように分かるのだ。

 

(────倒せる)

 

根拠もなく、俺はそう確信した。

 

「ショワチャッ!!」

 

右。貫手による突き上げ。

僅かに首を避けて躱す。

左。左の肘打ち。

後ろに退いて躱す。

 

「ファーッ!」

 

右。後ろ回し蹴り。

腰を落として躱す。

左。三日月蹴り。

左脇で挟みこんで受け止める。

 

「ヌッ!?」

 

軸足となった右足にローキックによる足払いで転倒させ、追い討ちのパウンドを顔面目掛けて放つ。

 

「チッ!?」

 

転がるように避けて距離を取るラウを深追いせず、先程投げたメリケンサックを回収して手早く左手に装着する。

直後。

 

《総帥!!》

 

上階にいた蛇華の構成員が何かとラウに投げ渡した。

それは二振りの青龍刀。

ここに来てラウは再び武器を使った立ち会いに持っていくつもりなのだろう。

 

「八つ裂きにするヨ!!」

(────問題ない)

 

ラウの選択は悪手だ。

確かに刀を使えば殺傷力は上がるだろう。

だが、こちらの実戦経験が少なく対処法がハッキリしない素手の中国拳法とは違い、青龍刀は多少の型や基盤の動きはあれど素手ほどの自由度は無い。

それはつまり、ラウの取れる選択肢が減る事を意味していた。

 

「ソリャーッ!!」

 

ラウの振るう剣戟を、こちらの拳撃で迎え撃つ。

青龍刀とメリケンサック。

互いの得物がぶつかり合う度に、甲高い金属音が鳴り響き 火花が散る。

 

「シュ ェアーッ!!」

 

右。袈裟斬り。

左のアッパーでカチ上げる。

左。横凪ぎ。

距離を取って躱す。

 

「リャオッ!!」

 

右。真上から振り下ろし。

横に避ける。

左。斜め下からの斬り上げ。

左フックで迎撃。

 

(────見える)

 

研ぎ澄まされた視覚と聴覚からの情報。

その上 肌で感じる"殺気"による感覚的情報。

そこから導き出される"攻撃の予知"と、それに対する動きを導き出す肉体と神経。

高速で回転する脳細胞。加速する思考力。

その全てを100%、完全に解放する超集中状態。

言うなれば────無我の境地。

 

「ヌォォォッ!!」

 

左右。両腕を交差し同時の袈裟斬り。

 

「シッ」

 

刀身が交差する一点を狙い左のストレート。

文字通り腸を八つ裂きにする為の攻撃を、鋼鉄の拳で受け止めた。

 

「───フッ!!」

 

そして。

刃の動きが止まった一瞬の隙に、下から右のアッパーを振り抜く。

 

「馬鹿な……!?」

 

重なっていた二振りの青龍刀は真下からのその一撃に耐え切れず、刀身が砕け散った。

これでもうラウに武器は無い。

 

「──シュッ!」

 

懐へと踏み込み、左のボディブローをラウの胴体に叩き込んだ。

返ってきた感触は硬く、メリケンサックで殴り付けたにも関わらずラウに効いた様子は無い。

 

(────やはり腹に何か仕込んでいるな)

 

同時に俺は自分の予感が正しかったことも確信した。

負傷し、疲弊しているのは何も俺だけではない。

ラウもまた同じなのだ。

 

(────桐生に負わされたダメージの影響か)

「ッ!」

 

袖の中に見えた包帯。アレを怪我だとするなら納得が行く。

ラウは桐生と対峙する事の恐ろしさを身をもって味わったのだろう。

であれば服の中に何かを仕込むくらいはやってもおかしくない。

本来、組織の頭を張る上で大事な事は誰よりも生き残る事なのだから。

 

(────これならどうだ)

 

狙いを腹から顔へと切り替える。

メリケンサックを装着した鋼の拳なら防ぐ事も出来ない。

そう睨んで放った右ストレートだが、ラウはその一撃をガードした。

 

「グッ!?」

 

面食らうラウだが、ダメージを受けた様子は無い。

同時に、防御した腕から帰ってきた鈍い感触でラウが手甲を袖に仕込んでいる事を確信する。

 

(──あの包帯は手甲を縛ってたのか)

 

怪我の可能性はまだ残ってるが、手甲を固定する意味合いである事はハッキリした。

顔と腹は護られている。だが、弱点が無い訳ではない。

そして、その弱点は"既に見つけている"。

 

「チャァッ!!」

 

右。反撃の貫手打ち。

一歩後ろに下がって間合いを外す。

と同時に、右足を強く踏み込んで左足を持ち上げた。

 

「───────ッ」

 

踏み込みの力を右足から腰への回転へと繋げ、更に持ち上げた左足にも伝達させる。

そして視線はラウの側頭部へと向け、蹴りと同時に殺気を放つ。

 

「ハッ!?」

 

ラウはそれを感じ取ったのか、手甲の着いた右手を顔の横へと持っていく。

一瞬の後に襲い来るであろう俺のハイキックを防ぐ為だ。

 

(────"貰った")

 

直後。

俺は振り上げていた左の蹴り足の軌道を急転換し、斜め上から下に向かって振り下ろした。

 

「イギッ!?」

 

ブラジリアンキック。

下から上に振り上げる蹴り足の角度を急転換させる事で、上からの"蹴り下ろし"を可能とする蹴り技だ。

メリケンサックによる右ストレートで意識を上に向かせてからの、ブラジリアンキックによる変則的なローキック。

ラウが脛回りを防護していないのは、先程足払いをした時に確認済だ。

 

「ガ、ァァッ!!?」

 

膝の真横へと直撃したローキックは、ラウの右脚に甚大なダメージを与えた。

激痛に悶え動きが鈍るラウに、俺はもう一度ローキックを放つ。

 

「ウギャァァァァッ!!?」

 

確かな手応えと、骨が砕ける音。

体重を乗せ、真っ直ぐな軌道と確かな威力を持たせた渾身のローキックはラウの右膝を完全に破壊した。

 

「────終わりだ」

 

ラウのこめかみに右フック。

流血と共にラウが白目を剥く。

決着は着いた。

だが。

まだ遥の分が残っている。

 

「────セイッ、ハァッ!!!!」

 

左のアッパーで下顎の骨を殴り割り、カチ上げた顔面に上からトドメの右のフックを打ち下ろす。

その一撃はラウの鼻を折り潰し、顔面の骨を砕いて陥没させた上でラウの身体を地面に叩き付けた。

完全決着だ。

 

「遥」

 

メリケンサックを外し、遥の元へと歩み寄る。

動かなくなったラウにはもう見向きもしなかった。

 

「今、助けてやる」

 

口に貼られたガムテープを剥がし、縛られた縄を解く。

 

「……おじさん!」

 

抱き着いてきた遥の小さな体と確かな体温。

何処にも怪我が無い事を知覚した。

直後。

 

「無事だった、みたいだな。良かっ、た…………」

 

激しい立ちくらみに襲われた俺は、平衡感覚を失いその場に膝を着いた。

同時に全身を強烈な疲労感と虚脱感が一気に襲う。

明瞭だった思考が鈍り、視界が明滅する。

 

「ごめんね……ごめんね……!」

 

遥が涙ながらに何かを言っているが、著しく機能の低下した聴覚では上手く聞き取る事が出来ない。

遥の無事を確認したことで緊張が解れ、超集中状態の代償がここに来て一気に襲い掛かって来たのだ。

 

(ヤバい、気ぃ抜いたら今にもぶっ倒れそうだ……!)

 

混濁する意識を何とか保つ。

総統がやられたと知れればラウの手下達がいつ襲ってくるかも分からない。

長居は無用だ。

 

「遥……歩ける、か……?」

「う、うん!おじさんこそ大丈夫!?」

「あぁ……さっさと、逃げんぞ……!」

「動くな!!」

 

遥と逃げる為に何とか立ち上がった直後、日本語で叫ばれた俺は反射的に遥を後ろに庇う。

すぐに俺と遥を数人の男たちが銃を持って取り囲んだ。

日本の警察だった。

 

「あ……?」

「錦山彰だな?」

 

スーツ姿で眼鏡をかけた男が警官達の前に出る。

どうやらこの男が指揮官らしい。

男は警察手帳を見せながら、毅然と俺に言い放った。

 

「誘拐の現行犯で逮捕する」

 

2005年12月10日。

時刻は23時。

遥を命懸けで救出した俺は、警視庁捜査一課に身柄を拘束された。

 

 

 

 

 

 

 




ラウ撃破!と同時に逮捕!?
打つ手は無いのだろうか……

次回もよろしくです
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