錦が如く   作:1UEさん

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最新話です。
最新シリーズが発表されて激アツ過ぎる龍が如くですが、こちらも更新していきます!



夜露死苦ゥ!!


逃亡

蛇華との闘いを終えた錦山彰は警視庁捜査一課に身柄を拘束され、横浜警察署の留置所に拘留されていた。

罪状は誘拐の現行犯。

彼は今、澤村遥を攫った犯人として扱われているのだ。

無論 真実は違う。だが、それをまともに聞き入れてくれるほど警察は甘くない。

ここに来て錦山は身動きどころか取れる手段のほぼ全てを失ってしまったのだ。

 

(参ったな……)

 

錦山の身分は完全な釈放ではなく、あくまで仮釈放。

ある程度警察の監視下に置かれ、もしも再び罪を犯せば即座に逮捕されるという立場だ。

それを踏まえた上での誘拐の現行犯となれば、情状酌量の余地は残ってないだろう。

更に言えば、今の錦山は叩けばホコリが出る身だ。

三代目の葬儀の場で乱闘騒ぎや今回の横浜中華街での一件等、神室町の外で起きた騒動でさえ二つの関与がある。ここに神室町の中で起きた出来事まで加えたら、それこそ両手の指では足りなくなってしまうだろう。

 

(相手は捜査一課だ。余罪に関しても徹底的に詰められる。 となりゃ……もうお手上げだ)

 

それに加え、今の捜査一課にはこの事件の"黒幕"の息がかかっている。

であれば、ただ余罪を追求されるだけでは済まされない。

覚えの無い罪も着せられて無期懲役刑に処される可能性すらあるのだ。

 

(あぁ、畜生……)

 

だが、今の彼にはどうする事も出来ない。

固く閉ざされた鉄格子を破壊するのは不可能に近く、仮に破壊して外に出れたとしても単独で警察から逃げ切るのもまた不可能の近い所業だった。

まさに万事休す。打てる手段は何処にも残っていない。

錦山はただ、失意と諦念の中でその時を待つ事しか出来なかった。

 

「おじさん」

 

そんな時、聞き覚えのある声が錦山の耳朶を打つ。

ふと顔を上げて鉄格子の外を見ると、そこには錦山が命懸けで救った少女の姿があった。

 

「遥……!」

 

鉄格子越しに向かい合う二人。

錦山は遥が無事である事に安堵した。

彼にとって今の警察は信用出来る組織ではない。

遥を保護と言う名目でどこかに捕える事も出来るのだからだ。

 

「ごめんね、おじさん。こんな事になっちゃって……」

「……なんでお前が謝るんだよ?」

 

バツが悪そうに目を伏せる遥に、錦山は素直な疑問を投げかけた。

彼女は何も悪い事などしていない。

悪いのは、遥を狙う裏社会の連中に他ならないのだから。

 

「私、本当はおじさんと一緒にいたかった。だけど、これ以上おじさんに迷惑かけちゃいけないと思って……」

「遥、お前……」

 

真島吾朗。黒服の組織。そして蛇華。

遥は、ここ数日の間だけで三回も拉致されている。

そしてその度に、錦山は彼女を救う為に尽力してきた。

その過程で錦山は左手に傷を負い、銃撃戦に巻き込まれ、今は囚われの身となっている。

 

「今回だってそう。おじさんは、私を助ける為に危ない目にあって……だから…………」

 

遥は 錦山達の前から立ち去ろうとしていた。

これ以上、自分のせいで錦山達を傷付けない為に。

 

「馬鹿だな、お前は」

「え……?」

 

遥の言葉を聞いた錦山は、そう言って遥の頭に手を置くと優しい口調で語りかける。

 

「確かにお前と知り合ってからのここ何日か、俺は色んな事に巻き込まれて来た。そりゃ……色々と追い詰められてお前に辛く当たっちまった事もあった。でもよ……今の俺は、お前のことを全く迷惑だなんて思っちゃいねぇ。なんでか分かるか?」

「……ううん」

 

首を振る遥に、錦山はこう続けた。

 

「それはな……お前が、俺にとって家族だからだ」

「家族……?」

「あぁ」

 

錦山にとって澤村遥という少女は、かつて自分が愛していた女の忘れ形見。

そして、かけがえのない親友であり兄弟分でもある桐生一馬の娘。

彼にとって遥を護るという行動は、決して義務感や同情から来るものでは無い。

数日間という短い時間の中でも、確かに芽生え育まれた家族としての絆。無償の愛によるものなのだ。

 

「血こそ繋がっちゃいねぇが、俺は桐生の……お前の父ちゃんの兄弟。それに俺とお前は同じ"ヒマワリ"で育った仲だ。つまり、俺からすればお前は可愛い姪っ子。家族であり仲間って事だ」

「おじさん……」

「大事な家族や仲間を護んのは、当たり前の事だろ?だから、お前が気に病む必要なんかこれっぽっちもねぇんだよ」

「……!」

 

目に涙を溜める遥の頭を錦山は優しく撫で、思わず笑みをこぼした。

 

(ホント……そっくりだよな、こういう所)

 

誰かのために自分の意志を引っ込めようとする。

そういった部分が錦山の親友であり、この子の父親でもある桐生一馬にあまりにも似ていたからだ。

 

「フッ、鉄格子越しだってのにカッコつけてんじゃねぇよ」

「っ、伊達さん!」

 

そんな錦山の前に現れたのは、彼が出所してからずっと行動を共にしていた神室署の刑事。伊達真だった。

 

「よう、遅くなって悪かったな」

 

伊達はそう言うと手にしていた鍵を取りだし、錦山のいる房の鍵を解錠した。

それを見た錦山が目を見開く。

 

「何やってんだ伊達さん!?」

「あ、何がだ?」

「何ってアンタ、こんな事したら……!?」

 

伊達の行おうとしている行為は明らかな犯罪。

法の番人たる彼が、最も行ってはならない禁忌だ。

懲戒免職どころか逮捕されてもおかしく無い。

 

「ヤバいだろうな。だが、もう遅ぇ」

 

それほどまでに重大な事を、伊達はいとも容易く行った。

まるで、仲間を助けるのは当たり前だと言わんばかりに。

 

「逃げるぞ、錦山」

 

扉を開けた伊達が言う。

錦山はその言葉に戸惑いを見せつつも、やがて深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2005年12月11日。

時刻は午前4時頃。

横浜警察署の留置所を出た俺は、遥と共に伊達さんが用意した車に乗って高速を走っていた。

幸い、俺が留置所から逃げた事はまだ気付かれていないらしく、サイレンの音も聞こえて来ない。

伊達さんが上手く細工をしたのだろうが、時間の問題だろう。

 

「やっちまったか……」

 

車を運転する伊達さんが呟くように言う。

無理も無いだろう。何故なら伊達さんは、自分の仕事であり誇るべきものであった警察官としての立場を捨ててしまったのだから。

こんな俺の事を助けるために。

 

「すまねぇ、伊達さん……」

「ま、どちらにしてもクビだったんだ。遅かれ早かれな。それに……」

 

伊達さんはバックミラー越しに俺に視線を向けると、口元を僅かに緩ませて言った。

 

「俺達は"ダチ"……なんだろ?お前が言い出したんだぜ?」

「伊達さん……」

 

数日前、伊達さんの娘である沙耶のイザコザを解決した時。

確かに俺は伊達さんをダチだと言ったが、まさかその時の恩のために警察を捨てるとは思ってもみなかった。

 

「要するに俺がやりたくてやってる事なんだ。お前が気にする事じゃねぇ」

「……そうか」

 

口じゃそう言うが、伊達さんの払った代償は間違いなく大きい。

それに報いるためにも、立ち止まる訳には行かないだろう。

 

「それよりも今回の事件、思ってたよりも根が深そうだぜ」

「ん?何かわかったのか?」

 

決意を新たにする俺に、伊達さんが新しい情報を共有して来た。

 

「あぁ、コイツの件でな」

 

伊達さんはポケットから一つのバッジを取り出す。

俺そのバッジに見覚えがあった。

 

「これって、例の組織のやつだよな?」

「そうだ」

 

遥をスターダストに連れ込んだ黒服の男達。

奴らと闘いの末に身柄を拘束した俺はそのバッジを伊達さんに預けて調査を依頼し、松金組は男達を拉致して追い込みという名の尋問をする事になったのだ。

つい数時間前に松金組若頭の羽村からの連絡では 尋問中の男たちは全て始末されてしまったらしく直接の情報は聞き出せなかったが、伊達さんの方での調査は順調だったらしい。

 

「花屋によるとコイツは"政府の地下組織"のものじゃないかって事でな。その線で調べてたら出てきたんだ。内閣府の地下組織……MIAってのがな」

「MIA?」

「"ミニストリー・インテリジェンス・エージェンシー"。内閣府が直接指揮を取る部隊だ。政治の裏工作から要人の護衛。責任者は……警察庁出身の代議士で"神宮"って男だ。コイツが遥とどう関わってくるかは、分からんがな」

「なるほどな……」

 

敵の正体は政治家。

その事に俺は酷く納得した。

警察の上層部に手を回して捜査一課を動かしたり、MIAのような特殊部隊を指揮出来るような人物は、表社会においてある程度の権力を持つ者でないと有り得ない。

 

「そう言えば……ラウカーロンが気になる事を言ってたんだ。遥には100億以外の価値があるってな」

「100億以外の?」

「あぁ。」

 

ラウの言っていた遥の価値。

そして、遥を攫ってペンダントを要求してきたMIAの男達。

伊達さんから聞いた情報を元にこれまでのことを考えると、辻褄が合う部分が出てくる。

 

(あの時MIAの連中は、ペンダントを最優先に動いているように見えた。でも、目的はペンダントだけじゃない)

 

ペンダントと引き換えに遥の身柄を引き渡す素振りをしていたあの男。

海藤の協力もあって無事に遥を救い出す事が出来たが、その後に連中とは激しい銃撃戦をする事になった。

 

(ある程度の広さがあるとはいえ、屋内での銃撃戦は跳弾の危険もある。まるで、ペンダントを回収出来れば"遥の安全は関係ない"と言わんばかりの行動だった)

 

つまりMIAの狙いはペンダントだけではなく、遥の命をも奪うつもりでいた可能性がある。

だからこそ連中は遥に銃口を突き付ける事も厭わなかった。

 

(遥を生かしておけば、後々神宮にとって何か重大な不都合を引き起こすって事か?)

 

だとするならば、ラウカーロンの言う"遥の本当の価値"とは遥の存在そのものという事になる。

 

(なにせ警察に手を回したり、お抱えの部隊を投入する程だ。よっぽどの不都合じゃない限りそんな事はしねぇだろう。それこそ、政治生命が関わるような事じゃなけりゃ……)

 

神宮にとって邪魔な遥の身柄を生かして手元に置いていく事で、政治家である神宮を強請って裏金を横流しして貰い利益を得る。

将来性を考えれば、その額はきっと100億では治まらない。きっと莫大な金が継続的に蛇華へと流れ込んでいたはずだ。

 

(なるほど、日本の極道が頭悪いってのも納得だぜ。目先の100億ばかりに気を取られて内輪揉めするより、継続的な資金源を確保出来る方が組織も安泰だ。)

 

蛇華日本支部総統。劉家龍。

奴の人間性はともかくとして、裏社会における政治的手腕は見習うべきだろう。

 

「どういう事かは分からんが……もう一つ、とっておきの情報がある。」

 

直後、伊達さんが打ち明けたもう一つの情報に、俺は"二つの意味"で目を見開いた。

 

「東京湾で見つかった死体だが、ありゃ美月じゃない」

「なんだと……!?」

「鑑識が身元を突き止めたんだ。全くの別人だったよ。確かな証拠もある。歯型だ」

 

一つは"驚愕"。

桐生でさえ本当の正体を知らない美月が、まだ生きているということ。

そしてもう一つは。

 

「じゃあ、お母さんはまだ……!」

「────!!」

 

"絶望"。

母親が生きていると目を輝かせる遥の希望を、俺はこれから否定しなくてはならない。

 

「………………」

「おじさん……?」

 

俺は言葉を失う。

再び芽生えた希望の芽を摘み取って、悲しい想いをさせる。

こんな情けない、やるせない事があるだろうか。

 

「どうしたんだ、錦山?とっておきの情報だろ?」

「そうだよおじさん!お母さんが生きてれば、優子先生の事だってきっと……!」

「いや……違うぜ…………」

「え……?」

 

不安げに俺を見る遥に、俺は顔を合わせられなかった。

 

「聞いてくれ、遥。伊達さん。これは……俺が聞いた"真実"だ」

 

俺はそのまま滔々と語った。

遥の母親は美月でなく由美であり、その由美は五年前に世良勝の指示で殺されている事を。

"美月"とは元々 桐生の女である由美が危険な目に遭わないようにと余所行きの時に名乗っていた偽名である事。

由美の死後に何者かがその美月を名乗ってセレナで働いていた事。

そして今、その真相を確かめるべく動こうとしている事を。

 

「由美お姉ちゃんが、私のお母さん……」

「っ…………」

 

ぼんやりと呟く遥。

意外な真実にまだ理解が追い付いていないのだろう。

そして、バツが悪そうにする伊達さん。

伊達さんからすりゃ自分の持ってきた情報が今の空気を生み出している事になるからだ。

 

「遥…………」

 

言わなきゃいけない。何かを。

だが何を?遥から希望を奪った俺が、一体どんな言葉をかけるというのか?

 

「俺は────」

「いいよ、おじさん」

 

震えながら発した言葉を遥は遮った。

思わず向けた視線の先で、遥と目が合う。

 

「えっ……?」

「私は大丈夫。まぁ、お母さんが生きてないのは悲しいけど……一度は、受け入れた事だから」

「で、でもよ……」

「それに、優子先生はまだ生きてるかもしれない。でしょ?」

「!!」

 

その言葉に、俺はハッとさせられた。

優子の安否そのものでは無い。遥の口からその言葉が出た事に驚かされたのだ。

 

「おじさんはまだ、優子先生と会えるかもしれないんでしょ?だったら、もっと喜ばなきゃ!」

「遥、お前…………」

「私も、久しぶりに優子先生に会いたい。だって優子先生は、私が小さい時から一緒にいてくれた……もう一人のお母さんだから」

 

無理をして振舞っているわけじゃない。

遥は純粋に、優子が生きている可能性を祝福してくれていた。

何度も危険な目に遭って 母親が死んだ事を聞かされてもなお、遥は強く 優しかった。

 

「遥……ありがとうな」

「うん!」

「フッ……ん?」

 

遥のおかげで話が纏まってその場の空気も良くなった矢先、伊達さんが怪訝な声を出した。

 

「どうした?」

「錦山。右車線。後ろの車だ。一定の速度でこっちを尾けてるぞ」

「なに?」

 

伊達さんの言う通り、振り返った先の車線には白い車が走っているのが見えた。

そしてその後ろには二台の黒い車と五台のバイクが追従している。

 

「ん?あれは……」

「署を出る時に尾けられたか……蛇華の連中かもしれんぞ!」

 

伊達さんがアクセルを踏み込んで速度をあげた途端、後ろの車が突如としておかしな行動を始めた。

 

「待て、伊達さん」

 

ハザードランプの点灯や、連続して押されるクラクション。ヘッドライトを使ったパッシングに蛇行運転など、ともすれば煽り運転とも取られない挙動を繰り返し始めた白い車。

黒い車達もそれにつられるようにおかしな動きをし始める。

バイク連中に至っては暴走族のようなコール音を鳴らし始めた。

 

「……速度を落としてくれ」

「なに!?だがもし敵だったら……」

「安心しろ。アイツらは敵じゃねぇ」

 

もしもこれが蛇華の連中ならこんなまどろっこしい事はしない。窓から銃でも撃ってくるはずだ。

ならばあの挙動は、こちらに気付いて欲しいと言う意味合いが強いだろう。

何より、あのメチャクチャな動きで察しがついた。

 

「大丈夫だ。信じてくれ」

「……分かった」

 

伊達さんがハザードを焚きながら速度を落とすと、後ろの車とバイク達もおかしな挙動を改めた。

やがて先頭の白い車が伊達さんの車に並ぶと 助手席のスライドガラスが開き中から男が顔を出す。

 

「突然のご挨拶失礼します!錦山さんですね!?」

 

柄シャツにパンチパーマ姿のその男はどう見てもヤクザ者ではあるが、決して蛇華構成員では無い。

何より、この局面でおいそれと挨拶してくる極道連中など決まっている。

俺は男と会話する為にスライドガラスを開いた。

 

「あぁ!関東桐生会の奴だな!?」

「はい!直参組長の長濱ってモンです!」

 

長濱と名乗ったその男は自分の運転手に指示を出すと、更に車をこちらに寄せてくる。

手が届く程度の距離まで車間距離を近付けると、長濱はあるものを差し出してきた。

 

「錦山さん、これを!」

「っ、そいつは……!」

 

長濱が持っていたのはスタンバトンと白鞘のドス。

蛇華と闘っていた時に村瀬と斎藤に渡してやったものだ。

 

「村瀬の兄貴と斎藤の叔父貴から預かったモンです!錦山さんにお返しするようにと頼まれました!」

「そうか……!アイツらは無事だったんだな!」

 

俺は手渡された二つの得物を受け取った。

闘いの中で付いたであろうキズがいくつか見受けられるが、返り血などは丁寧に拭き取られているあたりアイツらの生真面目ぶりが伝わってくる。

 

「こっから先は自分らが護衛致します!お任せ下さい!」

 

長濱の声に呼応するかのように黒いの車が伊達さんの車の後ろに付き、バイクを運転する男たちは伊達さんの車を先導するかのように前へと出た。

 

「護衛って……お前らの組の事は良いのかよ!?」

 

コイツらの申し出は有難いが、今の関東桐生会だって余裕がある訳じゃない。

何せ関東桐生会はあの嶋野の狂犬が率いる真島組とやりあったばかりなのだ。

桐生本人が負ける事は万に一つも有り得ないにしても、組織全体を鑑みればその被害は無視できるものじゃないだろう。

今は蛇華との抗争の一件を神奈川県警から突っつかれたり、組織の体制を整える方が優先のはずだ。

 

「いえ、それなら心配要りません!俺達は会長の命令でここに居るんです!」

「なに?桐生の!?」

「はい!今は錦山さんの……何より、遥のお嬢さんの安全が第一だと!」

「私の……?」

 

それを聞いて、俺と一緒に窓から顔を覗かせる遥。

それに対し長濱は笑顔で頷いた。

 

「えぇ!会長は……貴女のお父さんは、今でも貴女を大切に想ってらっしゃいますよ!」

「お父さん……!」

 

それを聞いた遥が、嬉しそうに顔を綻ばせた。

その直後だった。

 

「長濱の親父!後ろから車です!」

「なに!?」

「っ!?」

 

長濱の運転手からの言葉を聞き、顔を横に向ける。

すると、護衛役の黒い車のさらに後方から何台もの車が迫って来ているのが見えた。

同じ車種で一斉にこちらへ向かって来る所から察するに、明らかに一般の車両ではない。

それでいてパトランプなどもない事から覆面パトカーである可能性も消えた。

なら、考えられるのはただ一つ。

 

「蛇華だ!蛇華が来たぞォ!!」

 

長濱が叫んだ直後、車から身を乗り出した蛇華の構成員達が一斉に銃を発射してきた。

放たれた弾丸の風を切る音がここまで聞こえて来る。

 

「錦山さん達はバイクの連中と先へ行ってください!ここは俺らで食い止めます!!」

「長濱……!」

 

言うが早いか、長濱は拳銃を取り出すと蛇華の車目掛けて発砲した。

放たれた弾丸が身を乗り出していた蛇華構成員の頭を正確に射抜き、死体が高速道路へと転がり落ちていく。

 

(この距離でヘッドショットかよ……すげぇ腕だな)

 

あまりにも正確な射撃の腕に俺が舌を巻いていると、長濱は大声で指示を飛ばした。

 

「バイク班は錦山さん達と行け!関東桐生会、未来のカシラを担うお方だ!気合い入れて守れェ!!」

「「「「「押忍!錦山さん、夜露死苦ゥ!!」」」」」

「クルマ班はここに残って俺とシンガリだ!!死んでもここは通すんじゃねぇぞォ!!」

「「「「へい、親父!!」」」」

 

それを聞き入れた後ろの車二台がこっちの車との距離を離し、後部座席の構成員達が拳銃で応戦を始める。

ここに残っていては邪魔になってしまうだろう。

 

「錦山さん……どうかご武運を!!」

「ありがとよ、長濱……お前らの想い、無駄にはしねぇ!伊達さん、飛ばしてくれ!!」

「分かった!」

 

急加速する車。

窓ガラスを閉め、銃声がだんだんと遠のいていく。

やがて周囲には護衛役のバイク音だけが聞こえてきた。

 

「大丈夫だったか?遥?」

「うん。ねぇ、おじさん……」

「なんだ?」

「やっぱり……もう一個だけ、ワガママ言っても良い?」

 

遥は上目遣いにこちらを見つめると、真っ直ぐに俺の目を見てきた。

どこまでも真剣な表情で、遥は告げる。

 

「私……お父さんに会いたい」

「!!」

「会って……ちゃんと伝えたいんだ。"ありがとう"って。ダメ、かな?」

「……っ!」

 

そんな遥の言葉を聞いた途端、俺は遥を抱き寄せていた。

まだ幼く それでいて強く優しい心を持った少女が零した、ささやかな願い。

 

「おじさん……?」

「……あぁ」

 

涙腺から熱いものが込み上げてくる。

母に会いたい。父に会いたい。

幼子にとって当たり前であるべきはずの事でさえ、遥にとっては当たり前じゃない。

だったら俺が叶えてやる。

俺がその願いを、当たり前のものにしてやる。

その為なら、どんな奴とだって闘ってやろう。

 

「ダメな訳、ねぇだろう……!!」

「うん……ありがとう、おじさん」

 

そんな決意と覚悟を胸に、俺は遥を抱き締め続けた。

 

 




という訳で長濱さんでした。
出典はオブジエンドシリーズなので、やはりチャカの扱いに長けている人にしようと考えこのような形になりました。
また、原作でも小器用で立ち回りが上手い極道って設定なので頭脳派って程ではありませんが、ある程度頭脳労働班(にならざるを得ない立場)の松重の意図を汲み取れる稀有な人材でもあります。
なお、バイク班が仏恥義理上等の爆走天使な理由としては、彼らが族上がり(第十一章「"龍"の子」より)って設定だからですね

次回は間話かそれとも本編かで悩んでいますが、いずれにしても来月になりそうです。
それでは、次回も夜露死苦ゥ!
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