錦が如く   作:1UEさん

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最新話です

活動報告でも上げましたが、この度Twitterを始めました。

1UE@錦が如く/ハーメルン

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Turning Point

2005年12月11日。

バッティングセンター裏に存在する、もう使われていない廃墟同然のビルの中に田中シンジはいた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

出血の止まらない身体に鞭を打ち、懸命に階段を登っていくシンジ。

狭くて逃げ場のない屋内よりも、ある程度開けた場所であれば生き残るチャンスはあるかもしれない。

そんな望みを抱いた彼が向かった場所。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ここ、だ……」

 

ビルの屋上。

照明で照らされた看板がある屋外に出たシンジは、室外機の裏へ隠れる事を試みる。

 

(なるべく……人目につかない、場所に……)

 

しかし。

その目的を果たす事は出来なかった。

 

「見つけたぞコラァ!!」

「っ!」

 

突如として隣のビルから聞こえた怒号。

それの主が追っ手のヤクザである事を知った時には、全てが遅かった。

 

「ぐぁ、っ!?」

 

銃声と同時に、シンジの左肩を灼熱が貫いた。

その衝撃で仰向けに倒れる事を余儀なくされる。

 

「ぅぐ、ぉ……ぁぁあ…………!!」

 

焼け火箸で貫かれたかのような熱さと痛みに苛まれ、悶え苦しむシンジ。

もはや、自力では動けない程の大怪我だった。

 

「クソが……散々手こずらせやがってよ……!」

 

シンジを撃ったヤクザはそう吐き捨てると隣のビルの手摺を足場にして跳躍し、シンジのいるビルの屋上へと着地した。

 

「だが……そいつももう終わりだ!」

 

仰向けに倒れて動けないシンジに対して銃口を向けるヤクザ。

逃げることは愚か立ち上がる事すら出来ない今のシンジにとって、この状況は完全に詰みだった。

 

(こ、ここまで……か……)

 

次の瞬間に訪れるであろう死を覚悟し、シンジは静かに目を閉じる。

 

(兄貴……親っさん…………すんま、せん…………)

「死ねや、田中ァ!」

 

ヤクザの怒号に合わせ、引き金が引かれる。

命が潰える。

その直前。

 

「待てやオラァ!!」

 

何者かの叫び声が、追手の男の引き金に待ったをかけた。

彼の背後にいたのは、レザージャケットを纏った一人の男。

ここに来るまでに散々暴れてきたのか、彼の両手には返り血と思われる赤い液体が滴り落ちている。

 

「ぉ……叔父、貴……?」

 

元東城会直系堂島組若衆。錦山彰。

今や東城会を揺るがす一連の事件の中心人物となった元極道。

彼はかつての弟分である新藤からの情報を元にここへ現れたのだ。

桐生一馬の弟分を、助ける為に。

 

「錦山さん……邪魔しないで下さい」

「黙ってろ三下」

 

錦山は男の言葉に耳を貸さずに殺気を剥き出しにする。

内に秘めた怒りのままに一歩足を踏み出した直後、彼の足元を銃弾が抉った。

ヤクザからの威嚇射撃だった。

 

「近付かんで下さい!これ以上……アンタや桐生に組荒らされたくないんだ!!」

「テメェ……任侠堂島一家か」

 

錦山はヤクザの言動から彼の所属している組織が任侠堂島一家である事を察した。

錦山と桐生が起こした騒動において一番被害を被ったのは間違いなくその組織だからだ。

 

「テメェ、自分が何やってるか分かってんのか?シンジは同じ東城会の人間だろうが」

「はっ、違うね!コイツは風間組のフリをした関東桐生会のスパイ。組を裏切った大罪人だ!」

「フリなんかじゃねぇ。ソイツは紛れもなく風間組で、ソイツの処遇を決めるのも風間組だ。お前らの出る幕じゃねぇんだよ」

「うるせぇ!!」

 

発砲。

弾丸が錦山の顔を掠め、赤い血の筋が頬に走った。

それでもなお、錦山は避ける素振りはおろか眉一つ動かさない。

 

「俺たちには親が絶対なんだ!"親殺し"が口挟むんじゃねぇ!!」

「撃ちたきゃ撃てよ三下。それとも何か?シンジは撃てて俺は撃てねぇか?あぁ!!?」

 

全力の殺気を放って吼える錦山。

それは紛れもないプレッシャーとなってヤクザを襲い、引き金を引くことを躊躇わせた。

 

「撃たねぇなら……こっちから行くぞコラァ!!」

「っ!!」

 

前傾姿勢になった錦山が地面を踏み込む。

慌てたヤクザが引き金を引くが、そのような状態で引いた弾が当たる訳が無い。

 

「ハァ、オラッ!!」

「ぶっ、ぅぎゃっ!?」

 

銃を持った手を左手で掴み、右の裏拳を顔面に振り抜いた。

そしてそのまま返す反動で右のフックを直撃させる。

古牧流 火縄封じ。

銃火器を持った相手に使える有効な技で瞬く間にヤクザを無力化する。

 

「シンジ、大丈夫か!?しっかりしろ!」

「お……叔、父貴……」

 

錦山はシンジの上体を起こすと、近くにあった手摺の柵に寄りかからせる。

腹部と肩口からの流血が止まらず、危険な状態である事は見て取れた。

 

「ど、どうしてここに……?」

「喋んなくていい、大体の事情は把握してる!待ってろよ、今すぐ病院に────」

「チッ、こんな所まで逃げ込みやがって馬鹿野郎が」

「!?」

 

後方から聞こえた声に振り向くと、そこには追っ手のヤクザ達が立っていた。

頭数は合計五人。

その中には、昨日 錦山をリンチしようとしていた任侠堂島一家の舎弟頭である岡部の姿もある。

 

「テメェらがシンジを……!」

「ほう、お前が噂の錦山とか言う奴か」

 

その中で、先頭に立つ赤いコートを着た男が錦山を見る。

まるで品定めをするかのような眼差しで見定めた後、愉快げに口元を歪めた。

 

「ククッ……なるほど、テメェがあの親父を倒した男か。こいつぁいい」

「なんだと……テメェ、嶋野組か?」

 

荒瀬和人。

"嶋野の狂い蜂"と呼ばれた殺しを専門とする嶋野組の極道。

それがこの赤いコート男の正体だった。

 

「本当は親父への手土産ついでに死にかけのターゲットから色々と関東桐生会の情報を聞き出す予定だったが……テメェをブっ殺す方がよっぽどいい土産になりそうだ」

 

そう言って荒瀬は顎をしゃくる。

すると彼の周りにいた三人の極道達が錦山を囲んでそれぞれ拳銃を向けた。

僅かでも身動きすれば命は無いだろう。

 

「お前らに構ってる暇はねぇ。退いてろクソヤクザ共。俺ぁな……早くシンジを病院に連れてかなきゃならねぇんだよ!」

 

しかし、錦山は一切動じずに男達を真っ向から睨み付ける。

今の彼の頭にはもはや、シンジを病院に連れていく以外の選択肢が一つとして無かった。

 

「その心配は無用だ。ここで弾いて二人仲良く終わらせてや──」

「ゴチャゴチャうるせぇ!!いいから────」

 

そして。

いつまでも退かないヤクザ達に痺れを切らした錦山は。

 

 

 

 

 

「────退けって言ってんだゴラァッ!!!!」

 

 

 

 

 

その全身から"覇気"を放出した。

 

「「「っ!?」」

 

少し距離のある所にいた荒瀬と岡部にはただの殺気にしか感じ取れなかったが、ほど近くにいた三人のヤクザ達は正しくそれをぶつけられ僅かに硬直してしまう。

錦山は、その隙を逃さない。

 

「あっ!?」

 

右側にいた一人目との距離を詰め、銃を持った右手を自身の右手で掴みながら背後へと回り込む。

そのまま一人目の指の上から自身の指を重ねると、無理やり引き金を引かせる。

放たれた弾丸は真ん中にいた二人目の脚を見事に撃ち貫いていた。

 

「ひぎゃぁぁっ!?」

「て、テメェ!?」

 

動揺した三人目が慌てて錦山に向けて銃を乱射する。

しかし錦山は引き金を引かせた一人目を肉壁にして身を守った。

 

「が、ッ、ぅごっ、ぁぁッ……ぐふ、っ──────」

「うおおおおおおおおおお!!」

 

そして、錦山はそのまま三人目との距離を詰める。

 

「く、来るなぁ!」

 

変わらず銃を撃ち続ける三人目だが、錦山は既に事切れた一人目の死体を盾にして突き進んでいく。

やがてその距離が錦山の間合いに入った瞬間、彼は肉壁を捨てて地面を蹴った。

 

「オラァ!!」

「ぶげぁっ!?」

 

そして、三人目の顔面に飛び膝蹴りを繰り出す。

数多くの男を屠って来たその技は三人目の頬骨と顎を砕き、意識を断絶させた。

 

「チッ、どいつもこいつもチンタラやりやがって馬鹿野郎が」

「やはり、ここは俺達が殺るしかねぇみてぇだな」

 

使えない部下達に嘆息する荒瀬と殺気を放って敵意を剥き出しにする岡部。

彼らはそれぞれ二丁拳銃と一本のドスを携え、戦闘態勢に入る。

 

「上等だ、かかって来いやコラァッ!!」

 

東城会直系嶋野組若中。荒瀬和人。

東城会直系任侠堂島一家舎弟頭。岡部。

二人の刺客を同時に相手取った闘いが幕を開けた。

 

「死ねやガキがァ!」

 

先に仕掛けたのは岡部だった。

右手に持ったドスを、錦山の目元や首などの急所を狙って振るう。

 

「シッ、フッ!」

 

しかし、"嶋野の狂犬"を相手取った事のある錦山からすれば、この程度の斬撃は児戯に等しかった。

上段、中段、下段。どこを狙って振るわれるかすらも一切予測が出来ない不規則な軌道を持って振るわれる致死の刃。

動体視力と反射神経を総動員し、振り抜かれる寸前の一瞬だけ垣間見える僅かな殺気だけで狙われる箇所を特定し捌くことを要求される鬼炎の如きドス捌き。

それに比べ、ただただ急所を狙ってくるだけの刃の何を恐れる事があろうか。

 

(いける!)

 

岡部の動きに隙を見出した錦山が反撃に転じる。

その刹那。

 

「へっ……!」

「!?」

 

岡部が不気味な笑みを浮かべたのを錦山は見逃さなかった。

"何かある"

自分も予測出来ない"何か"の思惑がある。

 

「ッッ!!」

 

しかし、繰り出された拳は既に止める事は出来ない。

本能的に危機を感じた錦山は、振り抜こうとしていた右フックを咄嗟に動きの小さいジャブへと変えた。

咄嗟に軌道を変えたその一撃は難なく避けられてしまう。

その直後。

 

「死ねや」

「!!!!」

 

岡部の背後にいた荒瀬が、すかさず拳銃を発砲したのだ。

放たれた弾丸は錦山の右肩を僅かに掠め、甲高い音を立てて後ろの壁へと着弾する。

 

「チッ、勘のいい野郎だな」

 

舌打ちをする荒瀬。もし錦山があのまま右フックを振り抜いていれば、その弾丸は彼の頭に風穴を開けていただろう。

 

「さぁ踊れや!!」

 

今度は両手の銃を同時に連射する荒瀬。

足元を狙って放たれる弾丸を辛うじて避け続けるが、それこそが荒瀬の狙いだった。

 

(っ、やべぇ!!)

「うらァ!!」

 

弾丸を避け続けた先にいたのは、ドスを振りかぶった岡部。

荒瀬はあえて錦山に避けさせる事で岡部の近くへと錦山を誘導させていたのだ。

 

「ぐぁっ!!?」

 

結果、回避の間に合わなかった錦山はその一振りを躱し切れずに太ももを浅く切り付けられた。

 

「チッ、浅いか……悪運だけは一丁前だなぁ、錦山」

「く、クソっ!」

 

拳銃を避ければドスの刃が襲い、ドスを躱せば拳銃の弾丸が襲う。

"どちらかを取ればどちらかを捨てる"事になるこの戦術は、孤立無援の今の錦山にとって最悪の手法だった。

 

「さぁ、まだまだこんなもんじゃ終わらねぇぞ!!」

「────!!」

 

しかし。

窮地に陥る錦山を見ている男が、ここには一人いた。

 

(このままじゃ、叔父貴がやべぇ……!)

 

風間組特務構成員 兼 関東桐生会舎弟頭。田中シンジ。

脇腹と肩を撃ち抜かれるという瀕死の重傷を負いながら、それでも彼は自分を助けに来た叔父貴分の危機を打破しようと足掻いていた。

 

(でも、どうすりゃいい……?)

 

柵にもたれ掛かる体勢になっているシンジは、深刻な出血量により満足に動く事が出来ない。

利き腕の右手が辛うじて自由に動かせるのが唯一の救いだった。

 

(チャカにはまだ、弾が残ってる……これで叔父貴を、援護出来りゃ……!)

 

しかし、腕を動かすのがやっとの今のシンジでは銃を撃つことは出来ても狙いを定める事はとても出来ない。

荒瀬達の注意を逸らす事は出来ても、再び同じ状況に持っていかれてしまえば元も子もない。

 

(何か……何かねぇのか……!?)

 

薄れゆく意識と、暗さを帯び始める視界。

重くなっていく肉体を知覚しながら、シンジは壮絶な激痛に耐えながら思考を巡らせる。

半端者の意地を貫くと決めておきながら、最後に何も出来ないなんて事は許されない。

一生ついて行くと誓った兄貴分の親友を救う一手を、シンジは求め続けた。

そして。

 

(ん……?)

 

シンジはふと荒瀬の顔に視線を集中した。

その目にはシャープなデザインのサングラスがかけられている。

そんな荒瀬は今、屋上を照らす照明の真下あたりの位置から銃を撃っていた。

 

(そうか……!)

 

荒瀬と岡部によるこの戦法。一見して隙がないように見えるが、重大な欠陥が存在する。

そこに付け入る隙があるのをシンジは見つけ出した。

 

(やってやる……!)

 

そしてシンジは静かに動き出した。

限界を超えた肉体に鞭を打ち、唯一自由が効く右手で手すりを掴んで身体を引き起こし、震える脚で静かに立ち上がる。

幸い、シンジのいる場所は照明に照らされて居ないのでシンジが立ち上がった事はまだ悟られていなかった。

 

(これが……俺に出来る、最後の足掻きだ……!)

 

腕を動かし、ポケットの中に手を入れる。

グリップの感触を確かめ、いつもよりも酷く重く感じる拳銃を握り締めた。

 

(絶対に…………決めて、やる……!!)

 

覚悟を決めたシンジは静かに銃を向け、チャンスを待つ。

己のすぐ側まで迫っている"死"を、間近に感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

岡部のドスと荒瀬の弾丸。

その二つの波状攻撃に晒された俺は、完全な窮地に追い込まれていた。

 

「ぜぇ、ぜぇ……ちょこまかと逃げやがって、いい加減くたばれや!」

 

悪態をつく岡部。

俺よりも歳が上である事もあってか、一時的にスタミナ切れを起こしている。

だが、その隙を付ける程 今の俺に余裕は無い。

この戦いでついた切り傷と火傷の数がそろそろ十を越えようとしているからだ。

 

「なかなかしぶといじゃねぇか。その生き汚さは認めてやるよ」

 

それに対し、拳銃を向けてくる荒瀬には余裕があった。

コイツの場合は殆ど自分から動く事無く銃を撃ってるだけなので当然と言えば当然ではあるが。

 

「だが、そいつもここまでだな」

(クソッ……どうすりゃいいんだ……!!)

 

これだけ生傷を作りながらギリギリの所を逃げ惑っていれば、この戦法のカラクリも見えてくる。

 

(荒瀬は照明の下の辺りを陣取って銃を撃ってくる。相方の岡部の位置や行動を把握する為だ)

 

灯台下暗しという言葉があるように、照明の下は影となるので明かりが来ない。

しかし、視界の先は照明からの明かりで俺と岡部の位置関係がハッキリと分かる。

 

(それで荒瀬は岡部と俺の動きを観察し、俺が岡部の攻撃を避けたり反撃しようとした隙を突いてくる……厄介過ぎるだろクソが……!)

 

この戦術を阻止する為には、あの明かりをどうにかしなければならない。

だが、それを許すほどコイツらも甘くはない。

万事休す。

もはや俺に、取れる手段など皆無だった。

 

「こいつで終わりだ。」

(クソッ……!)

 

次にあの波状攻撃を受ければ、今度こそ避けきれない。

弾丸か、それともドスか。

どちらで死ねるかを選ぶのが精々だ。

 

「あばよ、錦山」

 

荒瀬が引き金に指をかけた直後。

乾いた銃声が屋上に鳴り響いた。

 

「あ……?」

 

しかしその銃は荒瀬のものではなく、荒瀬自身は銃を持ったまま硬直していた。

俺も岡部も同様に驚きを隠せずにいる。

 

「終わ、んのは……お前ら、だ……!!」

 

背後から聞こえた声。

俺がその主を知覚した瞬間。

もう一度銃声が鳴り響く。

 

「なっ!?」

 

直後、荒瀬の真上にあった照明から光が失われ、俺と岡部の身体が夜の闇に紛れてしまう。

 

「なにっ!?」

「ナイスだシンジぃ!!」

 

俺は思わずそう叫ぶと、突然の事に反応が遅れた岡部の腹部に膝蹴りをぶち込み、右のストレートで顔面をぶっ叩いた。

 

「うげぁッ!?」

「なんだと!?」

「う、ォォォおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

岡部をぶっ倒した俺は荒瀬へと向き直って一気に距離を詰めようと駆け出した。

 

「く、クソッ!!」

 

咄嗟に拳銃を撃ちまくる荒瀬だが、突然照明を失った今 "夜の暗さでサングラスをかけたまま"じゃ俺の位置など把握出来るはずがない。

 

「フンッ!!」

 

手が届く距離まで接近した俺は荒瀬の両手首を両手で掴むと、至近距離からその腹部に膝蹴りを叩き込む。

 

「ぅぐぉっ!?」

 

鳩尾を深く突き刺したその膝蹴りは、一瞬で荒瀬の呼吸を断絶させて行動不能へと追い込んだ。

その後、両手を荒瀬の両手首から両肩へと移動させ、首の後ろで指を組んで固定する。

 

「シッ、シッ、シッ、シッ、シッ、シッ、シッ!!」

 

歯の間から鋭い息を吐き、錦山は連続の膝蹴りを何度も荒瀬の胴へと叩き込んだ。

首相撲と呼ばれるムエタイ発祥の体勢から放たれる膝蹴りは非常に危険で、格闘技団体が反則技として使用を禁止する事もある程の威力を持つ。

 

「ぁ、が……ッ!?」

 

内臓へのダメージを受けた荒瀬に、錦山は鼻柱に頭突きを叩き込んだ。

 

「ぐぶっ、ぁが、っ……!?」

 

直後、脳震盪を起こした荒瀬が平衡感覚を失い膝立ちになる。

 

「うぉぉッらァァァァ!!」

 

その顔面に右足の靴底を近付けると、そのまま体重を掛けて押し付けるように荒瀬の顔を前蹴りの要領で踏み抜いた。

 

「ぅぎッぁ、……が、ァ、ッ……────」

 

俺に体重と脚力で顔を踏まれコンクリートの地面に頭を挟まれた荒瀬は、そのまま意識と力を失う。

シンジの機転が勝利を生んだ瞬間だった

 

「はぁ……はぁ……!やったな!ナイスアシストだったぜシンジ────」

 

しかし。

勝利の余韻に浸りながら振り向いた俺の視界に真っ先に飛び込んできたもの。

それはしたり顔を浮かべたシンジの姿ではなく。

 

 

 

 

────シンジの腹部に、岡部がドスを深々と突き刺した瞬間だった。

 

 

 

 




次回 錦が如く


託された願い


お楽しみに
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