錦が如く   作:1UEさん

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あけましておめでとうございます
本年も、錦が如くをよろしくお願いします!




ヒッヒッヒ……新年一発目、ド派手に行くでぇ?
イイ音聞かせろやぁ!


狂犬、急襲

2005年12月13日。

高級ソープランド"桃源郷"を訪れた錦山と遥は、シンジが風間新太郎を託したと言う女が居る部屋へと足を踏み入れていた。

最上階の最も奥に位置する大きい部屋。巨大なベットはもちろん、洒落た家具やどこか豪奢な内装のそこに、白いキャミソールを着た女が三指を着いて二人を出迎えた。

 

「──いらっしゃいませ、アケミです」

 

彼女の名はアケミ。

桃源郷の中で人気ナンバーワンを誇るソープ嬢であり、錦山達が探していた人物だった。

 

「俺は……錦山だ。シンジから何か、聞いてねぇか?」

「!」

 

錦山が名乗った途端、アケミが反応を示す。

 

「錦山……貴方が?」

「あぁ……」

 

彼女が示した反応は僅かな驚き。

そして、何かを察したように俯くと唇を噛んだ。

 

「それじゃ……シンちゃんは、もう……」

「…………」

 

錦山はバツが悪そうに目を逸らす。

それが、アケミにとって何よりの答えだった。

 

「そう……彼、最後に会った時言ってたの。もし自分に何かあったら、錦山って人が尋ねてくるかもしれないって……いつもふざけてたあの人が急に真剣な顔してね」

「…………」

「そっか……シンちゃん 死んじゃったんだ……」

 

静かに背を向けて肩を震わせるアケミ。

そんな彼女にかける言葉を、今の錦山は持ち合わせて居なかった。

 

「おかしいと思った……だってあの人、今のゴタゴタが片付いたら結婚しようとか言い出してさ……」

(シンジ……)

 

愛する女を遺したまま、仁義に殉じたシンジ。

言葉にすれば格好が良く見える事もあるが、遺された側はたまったものではない。

決して消えない傷を一生抱え込まなくてはならないのだから。

 

「すまねぇ、アケミさん……」

 

もしもあの時、自分が間に合ってさえいれば。

自責の念を抱く錦山に対し、アケミは涙を拭いて答えた。

 

「いいの……私の方こそ、ごめんなさい」

 

煙草に火をつけて有害な煙をゆっくりと吐くアケミ。

再び錦山の方へと振り向いた時には、もう涙の跡は無かった。

 

「風間さんね……確かにここに居たんだけど、シンちゃんの知り合いが来て、連れてっちゃったの」

「知り合い?」

 

風間の息のかかった人間に違いないであろうその人物。

それは錦山にとってあまりにも意外過ぎる人物だった。

 

「"近江連合"の……"寺田"さん」

「なに!?」

 

近江連合。

それは東城会と対を成す関西最大の極道組織であり その歴史は東城会よりも古く、その規模は関東最大級の東城会を大きく上回っており、日本で最も有名かつ強大な代紋と言えるだろう。

そして、そんな近江連合は古くから東城会とは犬猿の仲にある。

 

「なんで近江の人間と親っさんが?そいつ、本当に親っさんの知り合いなんだよな?」

「えぇ。シンちゃんは信頼してた、だから私も」

 

風間は東城会の中でも別格とされるほどの極道である。そんな彼が近江連合の人間とのパイプを持っている事自体は不自然な事では無い。

しかし、今は東城会全体が揺れ動いている非常事態だ。

そんな中で神室町に近江連合の人間が現れたとなれば、この100億の事件に乗じて何かを仕掛けてくる可能性は十分にある。

ましてや錦山は出所してからすぐに、近江連合の"林"と名乗る男から襲撃を受けている。

いくら風間の知り合いを名乗るからと言っておいそれと信じる訳には行かない。

 

「場所は?」

「芝浦よ。埠頭に停めた船に連れて行くって言ってたわ」

 

東京湾の港町で、多数のコンテナが犇めく芝浦埠頭。

ついに錦山は、そこに風間がいるという情報を掴んだ。

 

(その近江のヤツってのがどうにもキナ臭ぇ。急いだ方が良さそうだな)

「それと、もう一つ」

 

アケミは更にシンジから伝え聞いていた情報を錦山に共有した。

 

「シンちゃん、こう言ってたの。"東城会のヤクザ達は100億の他に世良会長の遺言状を狙っている。そこに次の四代目が指名されている"って」

「遺言状?そんなもんがあんのか……」

 

錦山は冷静に状況を整理する。

もしもその話が本当なら、この事件をキッカケに東城会の跡目を狙う組にとっては無視出来る話では無い。

仮に100億を取り戻して手柄を立てたとしても、その遺言状に記された名前の人間が四代目になってしまっては意味が無い。

 

「そして、今それを持っているのは風間さんなの。世良会長が、亡くなる前にあの人に託したんですって」

「三代目が、親っさんに……」

 

今の風間は危険な状況だ。

東城会の若頭と言う最も跡目に近い立場にいる上に三代目から遺言状まで託されているとなれば、そんな彼を殺して遺言状を握り潰さない限り跡目を獲ることは出来ない。

三代目の葬儀の際にも襲撃を受けて怪我をしている今、命を狙われるのはもはや必然と言えた。

 

(ウカウカしてられねぇな。早く親っさんと合流しねぇと)

 

危機感を覚えた錦山は直ぐに行動を起こす事を決めた。

 

「遥、今から──」

 

まさに、その直後。

 

「きゃっ!?」

「ひっ!?」

「ぬぉっ!?」

 

凄まじい衝撃と共に轟音とでも呼ぶべき程の音が三人を──いや、桃源郷を襲った。

 

(なんだ!?地震か!?)

 

一瞬 地震を疑った錦山だったが継続した揺れは無く、一度の衝撃だった。

そして、数秒の間隔を開けてそれがもう一度。

 

「ぐっ!?」

 

断続的なそれは決して地震ではない。

何かが爆発したかのような破壊音が二度続いた後、築年数の古い桃源郷の内装に罅が入り始める。

 

「なんだ、何が起きてんだ!?」

 

錦山達が状況が整理出来ずに混乱していると、下の階から男達の怒号が聞こえてきた。

かなり大勢が居ると思われるそれが、段々と近くなっていく。

 

(まさか、襲撃?さっきの音も連中の仕業か!?)

 

状況は一刻を争う事態へと発展していた。

このままでは敵襲に遭うだけなく、桃源郷の崩落に巻き込まれかねない。

 

「遥、アケミさん!急いでここを出るぞ!」

「はい!」

「うん!」

 

錦山がドアを開けて部屋を出ると、そこには襲撃者と思われる三人の男達が得物を携えて待ち構えていた。

風貌や格好から、錦山は目の前の男達がヤクザ者であるとすぐに見抜く。

 

「おったぞ、錦山や!」

「とうとう見つけたでボケェ!」

「覚悟せぇやこんガキぁ!」

(関西弁……嶋野組か!)

 

風間組と双極を成す嶋野組は、東城会の跡目をどこの組織よりも狙っている武闘派である。

話が通じる相手では無いと判断した錦山はすかさずファイティングポーズを取って戦闘態勢へ移行した。

 

「ブチ殺したるわ!!」

 

一人目が振り上げた鉄パイプが振り下ろされるよりも早く錦山は間合いを詰めと、がら空きの腹部にレバーブローをねじ込んだ。

 

「うごっ!?」

「シッ!」

 

悶絶する一人目を捨て置き、すかさず隣に居た二人目にハイキックを振り抜いた。

 

「あがっ!?」

 

下顎を蹴り抜かれた二人目が吹き飛ばされてそのまま気絶した頃になって、三人目がようやくドスを構えて錦山に襲いかかる。しかしそれは決して、三人目のヤクザが手間取ったからでも臆したからでもない。

"やる"と決めてからの錦山の行動があまりにも早すぎたのだ。

 

「死に晒せぇ!」

「ハッ!」

 

錦山は突き出されたドスを真横から裏拳で叩き落とすと、三人目の腹部に膝蹴りを突き入れた。

 

「うぐほっ!?」

「オラァッ!!」

 

動きが止まった直後、全力の右ストレートを放つ錦山。

その一撃を顔面に受けた三人目のヤクザの顔面は陥没し、桃源郷の壁に叩き付けられるとそのままもたれ掛かるように倒れ込んだ。

 

「遥、アケミさんから離れずについて来い!」

「うん、分かった!」

 

錦山は構えを取ったまま先行し、桃源郷の階段を目指す。

 

「おい、こっちや!」

「死ねや錦山ぁ!」

 

そんな彼の前にヤクザ達の増援が現れた。

木刀や鉄パイプ、果ては日本刀や拳銃といった得物を持った男達を相手に、錦山は全く臆せず立ち向かっていく。

 

「オラッ、セイヤッ!!」

 

木刀持ちは拳で武器諸共打ち砕き、鉄パイプは奪って逆に頭を殴り付ける。

 

「ハッ、フッ!」

 

拳銃と日本刀を持った相手には、それぞれ古牧流の護身術である"火縄封じ"と"無刀転生"を用いて無力化していく。

ここに至るまで数え切れない程の修羅場を潜り抜けてきた錦山にとって、この程度の武装はもはや脅威にすらならない。

そんな荒事の中で、思考を巡らせる余裕すらをも今の彼は持っていた。

 

(それにしても、これは……)

 

向かってくるヤクザ達を相手取りながら、錦山は頭の片隅で今に状況を推察していた。

 

(カチコミをかけてきた嶋野組の連中……何よりさっきの衝撃……)

 

建物全体が大きく揺れ、亀裂が入ってしまう程の衝撃。

あれほどの衝撃を出す為に取れる手段は限られてくる。

手榴弾による爆発か、それともトラックで突っ込んだか。

 

(まさか……!)

 

そこまで考えた時、錦山は悪寒が全身に走るのを感じた。

彼には、それ程の無茶な真似をする人物に心当たりがあったからだ。

そして。

 

「オラァ!!」

「ぐへぇぁっ!?」

 

最後のヤクザを殴り飛ばし、一階へと通ずる階段を降りたその先で錦山を待っていたのは。

 

 

 

 

「よぉ、錦山。探したでぇ?」

 

 

 

血に飢えた"嶋野の狂犬"だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真島……!」

 

桃源郷へと襲撃をかけてきたヤクザたち。

その指揮を執っていたのは、先日桐生が相手取っていた筈の真島吾朗だった。

 

(やっぱりコイツだったか……!)

 

突如として桃源郷を襲った二回の衝撃。

そして俺を狙って襲って来たのが嶋野組の連中である事から、薄々と予感はしていた。

無論、悪い予感でしか無かったのだが。

 

「アンタ……やっぱりまだ生きてたんだな」

 

横浜の倉庫街で桐生と闘った真島。

当然、桐生が負けるのは万に一つも有り得ない。

だが、その時に負けたであろう真島は人間離れしたタフネスの持ち主だ。

この短期間で傷を回復させたとしても不思議では無い。それにいくら今の桐生であっても無闇に命を奪うような事はしないだろう。

となれば、真島が今この場にいる事自体は決して不思議な事では無い。

 

「助けて、お願い助けて!」

「おぉ、よしよし……静かにせんかい」

「レイコちゃん!」

 

逃げ遅れたソープ嬢を捕まえてドスを突き付けて脅す真島。

俺の後ろにいるアケミが、人質にされたソープ嬢の名前を叫ぶ。

 

「アァン?お前ベッピンさんやんけ。どや、俺の女にならんか?」

「っ……!」

 

恐怖で顔が引きつっているレイコ。

一歩間違えばその柔肌に傷が付くことになるだろう。

 

「────」

 

静かに臨戦態勢を整え、いつでも踏み出せるようにする。

万が一の事があってからでは遅いからだ。

しかし、この時点で俺はその心配が杞憂であるとほぼ確信していた。

 

「どやねん?えぇ?」

「…………」

 

何故なら。

 

「い、嫌です……私、他に好きな人が……ごめんなさい」

「なっ……」

 

俺の知っている真島吾朗という男は。

 

 

 

 

「……そぉか、正直な子や」

 

 

 

 

正直者の──ましてやカタギの女に手を掛けるような外道では無いからだ。

 

「えっ……?」

 

突如として解放されたレイコは、状況が飲み込めず硬直してしまっている。

そんな彼女に、真島は朗らかに声を掛けた。

 

「えぇ、それでえぇ!ほれ、ここ危ないで。はよ行き」

「っ……!」

 

人質に取られた挙句、告白を無碍にしたら解放されると言う奇怪な現象に襲われたレイコは、言われるがままにその場から立ち去っていった。

 

「フッ……安心したぜ真島。やっぱりアンタは、俺が思ってた通りの男だ」

「ハッ、俺は正直者が好きなだけや。人の顔色伺ったりせんと……俺がそうやからな」

 

そう言って真島は懐から黒塗りのドスを取り出す。それだけで、真島の意思は明確にこちらに伝わった。

 

「そうかよ」

 

ゆっくりと階段を降り、間合いを測るように桃源郷の広間を歩く。

次の瞬間には、命のやり取りが始まっても可笑しくない程の緊張感の中、真島は再び口を開いた。

 

「こないだはあと少しって所で引き分けになってしもた。あん時の喧嘩、俺はまだ終わったとは思うてへんで」

「奇遇だな。俺もそろそろアンタとはリベンジマッチをしようと思ってたんだよ」

 

油断なく真島を見据えながら、俺は己の野望を口にした。

 

「俺は、桐生を越える男になる。その為にはまず、アンタを越えなきゃならねぇんでな」

「桐生チャンを、越えるやと……?」

 

そして、突拍子も無く俺の野望を耳にした真島吾朗は。

 

「ヒッヒッ……ヒッヒッヒ……ヒャーッハッハッハッハ!!」

 

狂ったように笑って見せた。

考えるまでもない、明らかな嘲笑である。

 

「桐生チャンの影に隠れてただけのチンピラが随分大きく出たのぅ?身の程知らずもここまで来ると才能やな」

 

盛大に侮辱してくる真島だが、このリアクションは想定内だ。東城会の内外で伝説とまで呼ばれた極道の称号。"堂島の龍"。

それを一介のチンピラが越えていく等とほざいているのだ。

俺が逆の立場でもきっと笑ってるはずだ。無理に決まっている、と。

 

「身の程知らずか……あぁ、確かに今はそうだ。だがな……ここでアンタをぶっ倒せば、あながち夢物語でも無くなってくる」

「ほう……ほんなら、ワシはさしずめその為の試練。登竜門っちゅう事かい」

「そう言うことだ」

 

そこで俺は軽く重心を落とし、あえて脱力した状態でファイティングポーズを取った。

真島の操る変幻自在なドス捌きを凌ぐためには、柔軟かつ迅速な対応が求められるからだ。

 

「アンタには俺の野望の為の踏み台になって貰うぜ……覚悟はいいか?嶋野のワン公」

 

神経は鋭敏に、それでいて頭脳は冷静に。

思考は柔軟に、それでいて戦意は明確に。

己の体を形作る細胞、その一つ一つ全てを闘いの為に総動員させるイメージを持って、俺は"嶋野の狂犬"と相対する。

そして。

 

「えぇやろ……上等やないか」

 

狂犬が自らの牙であるドスを構えた。

決して広くない部屋に、張り詰めるような緊張感が充満していく。

 

「行くでぇ……錦山ァ!!」

「来い、真島ァ!!」

 

東城会直系嶋野組若頭 真島組組長。真島吾朗。

"堂島の龍"と並ぶ、伝説の極道との再戦が幕を開けた。

 

 

 




今度こそ……ぶち殺したるでぇ!?
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