錦が如く   作:1UEさん

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お願いします






どうか




兄貴を止めてください、叔父貴─────




覚醒めの一撃

2005年12月13日。

桐生一馬の嶋野組系事務所襲撃により幕を開けた東城会と関東桐生会の全面戦争。

その最初の抗争として始まった劇場前広場における大乱闘は、熾烈を極めていた。

 

「ウォォオオオオオオオオオオッッ!!」

 

咆哮の如き唸り声を上げながら襲い来る極道をたった一人でなぎ倒すのは、関東桐生会初代会長。桐生一馬。

かつては東城会の極道としてその名を全国に轟かせた生ける伝説であり、この抗争の火種を作った張本人でもある。

そんな桐生の命を狙うべく襲い掛かるのは、東城会が代表する三つの直系組織。

 

「おどれら邪魔すんなや!桐生チャンを殺るのはこのワシやぁ!!」

 

跡目有力候補の嶋野組。

 

「死ねやボケがァ!」

「桐生ぅ!」

「どぉりゃぁ!!」

 

新進気鋭の任侠堂島一家。

 

「世良会長の恨み……思い知れ!」

 

そして暗部組織の日侠連。

彼らのほとんどが一度は桐生の拳の前に沈んだのだが、一部 意識を取り戻した極道達が再起して連合部隊を結成。

水面下で神室町の利権を食い合っていた東城会の極道たちが、堂島の龍と言う未曾有の天災を迎え撃つ為に一致団結し反抗に打って出たのだ。

しかし。

 

「ぎゃぁぁっ!?」

「ぶげぇっ!?」

「が、は───!?」

 

その尽くが返り討ちに遭い、再び地面へと沈んでいく。

元々受けていたダメージを負ったまま無理やり立ち上がっていた彼らには、もう一度桐生の攻撃を受けて耐えられるだけの余力は残っていなかったのだ。

 

「怯むなァ!このまま数で押し切れぇ!」

「総長達がトドメを刺してくれる!俺たちはヤツを消耗させるんだ!」

「囲んで取り抑えろ!動きを封じるんだ!」

 

だが、誰が言ったのか。

圧倒的な実力を持つ桐生を相手に対抗する術を口にする男たちが現れ、それらの行動に打って出る。

ある男たちは十数人で徒党を組んで一斉に襲い掛かり、ある男たちは多人数で足元にしがみつく事で桐生の動きを封じ、そしてまたある男たちは隙を見て背後や横側から桐生を捕縛するように拘束する。

 

「邪魔だァァああああああああッッ!!」

 

猛り狂う龍は、そんな雑兵達を力づくで蹴散らしていく。

足元にいるまとわりつく連中は踏み潰して蹴り飛ばし、拘束を仕掛けた男たちは力任せに振りほどいて投げ飛ばし、一斉に襲い掛かる連中には周囲のモノや人間を振り回して一掃する。

ただのヤクザなど恐るるに足らず。いくら雑兵達が束になろうとも"龍"の圧倒的な力の前には敵わない。

だが。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……!」

 

100人を超える極道を相手に何の休息も挟まないまま一歩も引かずにここまで闘い続けていた桐生のスタミナにもついに陰りが見え始める。

身を呈して桐生の消耗を図った極道達の思惑が成就した瞬間だった。

 

「今だ!畳み掛けろ!!」

 

そう叫んだのは任侠堂島一家総長の堂島大吾だ。

彼はこの機を逃せば勝利は無いと確信していた。

 

「桐生ぅぅぅ!!」

 

真っ先に攻撃を仕掛けたのは任侠堂島一家最高顧問の久瀬だった。

彼は閻魔の如き叫びを上げながら鉄パイプを振り下ろす。

しかし、桐生はあろう事かその一撃を片腕で難なく受け止めた。

 

「オラァ!!」

 

反撃の右ストレートを鉄パイプで受ける久瀬だったが、そのあまりにも強力な一撃は久瀬の持つ鉄パイプを飴細工のように変形させ、その身体を数メートルも後方に吹き飛ばした。

 

「このガキが……!」

「久瀬ぇぇぇ!!」

 

鉄パイプを投げ捨てて直ぐにボクシングの構えを取る久瀬だが、既に桐生は自身の間合いに久瀬を捉えていた。

 

「シッ!」

「ッ!!」

 

桐生の放った左のアッパーを即座にスウェイで躱す久瀬。往年と言えどその反応速度は微塵も衰えが無い。

だが、桐生の一撃はその速さを超えてくる。

 

「フッッ!!」

 

ジャブよりも早い右のストレートがアッパーを躱した直後の久瀬の顔面を捉えた。

力任せの喧嘩だけが堂島の龍では無い。技術を伴った撃ち合いもまた、彼の喧嘩の真骨頂であった。

 

「ぐほっ!?」

「フンッ!」

 

まともに一撃を貰いたたらを踏む久瀬に対し、追撃のボディブローを叩き込む桐生。

内蔵を抉るかのような衝撃に堪らず崩れ落ちる久瀬。

 

「が、ァ────」

「セイヤァ!!」

 

そんな久瀬にトドメを刺そうと足を振り上げる桐生だったが、その攻撃は中断を余儀なくされる。

 

「ハッ!!」

「くっ!?」

 

その瞬間を狙い済ましたかのように新藤が桐生目掛けて日本刀を振り下ろしたのだ。

直ぐに背後に飛び退いてその一太刀を避ける桐生だが新藤は次々と刀を振るい続けた。

 

「フッ、ハッ、セイッ!!」

 

大上段に構えてから振り下ろすその太刀筋は単調で軌道が読みやすいが、真上からどの方向に対しても斬りつける事が出来るので隙が少ないと言う利点がある。

実際、刀を持つ新藤と持たない桐生ではリーチの差に大きな違いがあり、桐生が拳の間合いに入る事を許さなかった。

 

「くっ……!」

 

剣道三倍段という言葉がある。

剣道初段は空手における三段に匹敵することを指す言葉で、それはつまり、刀を持つ者は拳を振るう者より三倍の強さを持つという意味だった。

 

「覚悟!」

 

しかし、新藤が放った何度目かの一振り。

"堂島の龍"は、そんな道理すらをもねじ曲げる。

 

「───シッッッ!!」

 

歯の間から鋭く息を吐きながら桐生が放ったのは、空気を引き裂く程の速さ───否 "疾さ"を持った鋭いフック。

その一撃は振り下ろされる刃の速度を超え、その刀身を真横から的確に打ち抜いた。

その結果。

新藤の持つ愛刀は甲高い金属音を立てて中央からへし折れた。

 

「なっ!!?」

 

絶対のリーチと殺傷力を持つ日本刀を真横から素手で叩き折る。その神業にも等しい信じ難い光景に唖然とする新藤。

それはこの場において、致命的なまでの隙となった。

 

「オラァ!!」

「ぐはっ!?」

 

桐生の放った前蹴りが、硬直する新藤の胴を捉えた。

その計り知れない威力は文字通り新藤を蹴り飛ばし、その身体を近くの自動販売機に叩きつける結果となる。

 

「ぅ、ぐ…………」

「────イィヤァッッ!!」

 

その直後、新藤にトドメを刺そうとした桐生に真島の変則的なドスの一刺しが休む間もなく襲い掛かる。

間一髪やり過ごした桐生だったが、ここで休む暇などない事を桐生は熟知していた。

 

「チッ……!」

 

真島という男が持つ強さと危険性をよく知る桐生は舌打ちをする。事ここに至ってこの男との命のやり取りはあまりにも危険であると、桐生の身体が危険信号を出した。

 

「シッ、ティ、デリャッ、ウゥリャァ!!」

 

己のドスを手足のように扱いながら、斬撃と体術を変幻自在に操って襲い掛かる真島吾朗の喧嘩。

彼のその攻撃の軌道は相も変わらず予測が出来ず、凌ぎ切るのは困難を極める。

そう思っていた桐生だったが、彼はここである事に気付く。

 

(真島の動きが、鈍い……?)

 

桐生は知る由もない事だが、真島はここに現れる僅か十数分前に錦山と拳を交えている。

つい先日、倉庫街で桐生と闘ったばかりの疲弊がある中で決行した桃源郷の襲撃。

そこに加えてバッティングセンターでの一件以来完治していなかった右足を狙う錦山の戦術や、遥が援護の為に投げ落とした消火器による三半規管への甚大なダメージも加わった事で、本来今の真島は闘うどころか立っていられる事が奇跡に近い状態なのだ。

にも関わらずここまで彼が出向いた目的はただ一つ。桐生一馬と喧嘩を楽しむ事に他ならなかった。

 

「オォラァ!!」

 

そんな真島の考えなど知らない桐生は、真島が攻撃の間隙を突くように拳の一撃を叩き込む。

 

「ぐぉぉおっ!?」

 

まともにその一撃を受けた真島が足元から崩れるように膝を突いた。

桐生は、その隙を確実なる勝機と捉えた。

 

「シャァッ!」

「ぐへぇっ!?」

 

膝蹴りで無理やり真島を立ち上がらせた桐生は、一度だけ呼吸を整えた直後。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!!」

 

ジャブ、フック、アッパー、ストレート、エルボー、正拳、裏拳、ローキック、膝蹴り、ミドルキック、ハイキック。

ありとあらゆる打撃が瞬時に真島の身体へと叩き込まれた。

真島という男がいかに頑丈で執拗な人間かを心得ていた桐生は、一切の出し惜しみ無く徹底的に真島の身体を痛めつけていく。

 

「トドメだァァああああああッッ! !」

 

そして最後に、桐生は真島の上からフックを打ち下ろして顔を下を向かせた後、その顔面を打ち上げるような左アッパーを振り抜いた。

 

「げ、ぁ……─────────」

 

糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる真島。

ここまで叩き殴ってもなお未だに油断出来ない桐生は、真島の顔面を踏み抜くべく片足を持ち上げた。

 

「ハァアッ!!」

「何ッ!?」

 

しかし、そのタイミングを見計らっていたかのように乱入した極道がいた。

任侠堂島一家総長、堂島大吾。

この男は虎視眈々と、桐生が消耗するのを待っていたのだ。

 

「オゥラァッ!」

「くっ!」

 

至近距離で放たれる飛び膝蹴りを左腕で防御する桐生だが、大吾はそれすらも想定していたのかすぐさま桐生の後頭部に両手を回して固定し、ムエタイで言うところの首相撲に近い体勢を整える。

 

「来いよ桐生!」

「!!」

 

そう言って挑発した直後、その首相撲の姿勢から桐生の脇腹に膝蹴りを放った。

 

「くっ、オラァ!」

 

桐生も負けじと同じ体勢から膝蹴りを放つ。

しかし、スタミナの奪い合いに等しいこの闘いにおいて 真島を相手に殆どのスタミナを使い切った今の桐生は圧倒的に不利だった。

これこそが大吾の狙い。他の連中に畳み掛けるように指示を出して桐生を追い詰めていき、真島吾朗という桐生にとって実力の近い相手を倒した直後に勝機を見出して勝負を決める。

もしもそれよりも前に桐生が仕留められる事があった場合はその瞬間に頓挫するこの計画だったが、桐生であればここまで乗り越えるであろう事を予期した上での計略と言う、ある意味での信頼が為せる業でもあった。

 

「ディヤ!」

「フン!」

「ハァッ!」

「オラァァ!」

「オゥラァ!」

 

しかし、ここで大吾にとって大きな誤算があった。

見事に嵌った彼の計略だが、結果として桐生が不利な状況と言うだけであり"桐生の負けが決まったわけでは無い"という事。

そして、桐生一馬という男はこのような土壇場を何度も切り抜けて来たという事だった。

 

「桐生ぅ!」

「大吾ぉ!」

 

至近距離での膝蹴りの打ち合いは未だ続いている。

その中で大吾は、スタミナが衰弱して弱体化していた筈の桐生の膝蹴りの威力が上がっていく事に気づいた。

 

(なにっ!?)

 

それに驚いた一瞬の隙を見た桐生が、首相撲の構えを解いたのと同時に顔面に飛び膝蹴りを放った。

 

「シャァァァッ!!」

「うわぁっ!?」

 

顎を蹴り抜かれた大吾はそのまま地面に倒れ込み、そのまま立ち上がる事が出来なかった。

桐生の飛び膝蹴りが、脳震盪を引き起こしたのだ。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……!」

 

度重なる強敵との激闘を繰り広げ、いよいよ息も絶え絶えになる桐生。

ここまで持ち堪えたその脅威的なタフネスとスタミナもそうだが、東城会の極道百人以上を相手取ってその全てに打ち勝つその所業はもはや人間の枠組みを超えていると言っていいだろう。

嶋野組、任侠堂島一家、日侠連。

東城会の直系団体である三組織が包囲網を敷き、一斉に襲いかかった今回の抗争。

結果は関東桐生初代会長。桐生一馬による独走状態の圧勝であった。

 

「は、反則やろ……あの強さ……」

「どうやら我々は……とんでもない相手を敵に回してしまったようだな……!」

 

残っている東城会側の極道はたったの二人。

嶋野組の兵隊を率いていた嶋野組系植松組組長の植松彰信と日侠連二代目総裁の国枝政志だけとなっていた。

 

「さぁ……残ってんのは、お前らだけだ……!」

「「!!」」

 

息を切らしながら迫る"龍"に、二人は息を飲む。

度重なる極道達との死闘により消耗していると言えど、その身から放たれる"覇気"には微塵も衰えが無い。

桐生はこの数分後には、澤村由美の仇である日侠連の国枝を抹殺し、残った植松から荒瀬の居所を聞き出すだろう。

 

「覚悟……してもらうぜ……!!」

 

二人が身構え。桐生が動く。

その直前。

 

 

 

「────桐生!!」

 

 

 

一匹の緋鯉が、荒れ狂いし龍に待ったをかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────桐生!!」

 

腹の底から声を出し、俺の唯一無二の兄弟分に呼び掛ける。

 

「!…………錦」

 

その声に振り返る桐生の周囲には、勇猛果敢に挑みかかっていた極道達が無惨に転がっていた。

任侠堂島一家の大吾や久瀬。日侠連と思しき白い服の男達や、それ以外の組織のヤクザ達もいるだろう。

そして。

 

「ま、真島……! ?」

 

先程 俺と闘ったばかりの筈の真島吾朗の姿もあった。

桐生が神室町に来ていると知り、あの怪我のままやってきたのだろう。

だが、いくら真島と言えどあの状態で桐生の相手をする事は叶わなかったようだ。

 

「あ……兄、貴…………」

「っ!新藤……!!」

 

自動販売機にもたれかかっていたのは任侠堂島一家の若頭であり、俺の弟分の新藤だった。

右手に握っていた新藤の愛刀は刀身がへし折れ、新藤自身もまた動けない程のダメージを負っているのが見て取れる。

 

「よ、よかっ、た……ご、ご無事、で……────」

 

そう告げると、新藤は意識を手放した。

おそらく新藤は呆気なく気絶させられてしまっていた俺を見て、その為に奮起していたのだろう。

立ち上がった俺の姿を見て、緊張の糸が切れたのだ。

 

「新藤……っ!」

 

俺は再び桐生に視線を向ける。

これ以上の暴虐を、もう許す訳には行かない。

 

「錦……お前……」

「もう止めるんだ……桐生」

 

身体に力が入らない。足元も覚束無い。

ダメージはとっくに限界を迎えていて、吹けば直ぐにでも飛んで行ってしまいそうだ。

それでも。

 

「これ以上……お前の好き勝手にさせる訳には行かねぇ……!」

 

それでも、俺は桐生に挑む。挑まなければならない。

挑んで、この一撃を。

右手に握り込んだメッセージを、伝えなくてはならないんだ。

 

「やめろ、錦……そんな身体で何が出来る」

「うるせぇ……」

 

一歩ずつ、桐生へと近づいて行く。

 

「言ったはずだ……お前じゃ俺には勝てねぇと」

「うるせぇ……!」

 

足を早める。拳を握り込んで、狙いを定める。

 

「なんで……なんでそんなになるまで俺の邪魔をするんだ、錦!!」

「うるせぇぇぇえええええええッッ!!」

 

一気に駆け出し、右の拳を振り上げる。

 

「───ウラァッ!!」

 

俺が突き出した拳に合わせ、桐生は右のボディブローを放った。それでいい。その攻撃は読んでいた。

 

「なっ!?」

「──────!!」

 

桐生のボディブローを俺は左手で受け止めた。

完全に塞がりかけていた手の傷が開き、バンテージのように巻かれた包帯を赤く染める。

それでいい。こんなもん必要経費だ。

 

「────桐生」

 

俺はそのまま桐生の手首を左手で掴まえた。

だが、この程度の拘束などこいつの前ではなんの意味も成さない。ほんの数秒で振りほどかれるのがオチだろう。

それでいい。その数秒があれば十分だ。

 

「────目ぇ覚ませや、この馬鹿野郎ッッ!!」

 

握りこんだ右の拳を今度こそ桐生目掛けて振り抜く。

 

「ぐっ……!?」

 

その一撃は、桐生の胸板を叩くだけで終わる。

今の俺じゃコイツに、ロクなダメージを与える事など出来ない。

でも、それでいい。

今の俺の目的は桐生を倒す事じゃない。桐生を止める事なんだ。

そしてこの一撃こそ、それを成し得る唯一の鍵。

 

「────受け取れ」

 

桐生の胸に当てたまま、俺はゆっくりとその拳を解く。

その中から零れた小さな何かを、桐生は反射的に受け止めていた。

 

「こ、これは……!?」

 

思わず目を見開く桐生。

なぜならそれは、かつて桐生が贈ったプレゼント。

桐生と俺が愛した────澤村由美の形見とも言うべき指輪だった。

 

「────百億が盗まれた現場に落ちていたらしい。これを……シンジが持っていた」

「なに?シンジが!?」

 

関東桐生会舎弟頭。そして 風間組特務構成員。田中シンジ。

桐生の弟分であり風間のおやっさんの子分でもあったあの男。そいつの遺志を、想いを。

ついに俺は、桐生に打ち明ける。

 

「────"俺の為に闘わないで欲しい"……シンジは、お前にそう伝えるよう俺に言ってきた」

「!!」

「────アイツは最期までお前の事を想って、関東桐生会の為に闘い抜き……そして、その役目を俺に託して逝ったんだ」

「シ、シンジ……」

 

桐生の声が震える。同時に、桐生の纏う覇気が収まっていくのが分かった。

届いている。俺の言葉が今確実に、我を忘れていた桐生の心に届いているのだ。

 

「────桐生。シンジの望みは、東城会と関東桐生会の仲を取り持って、親っさんとお前が、前みたいに笑い合える日常を取り戻す事だ。それは、お前だって分かっていただろう……?」

「…………」

「────それなのにお前は、東城会に喧嘩売って、暴れ回って、街を滅茶苦茶にして……こんなの、シンジが望んでるとでも思ってんのか……?」

「に……錦…………」

 

気づけば桐生は、完全に拳を解いていた。

シンジの想いが。アイツのメッセージが。

桐生の中で燃え上がっていた怒りを鎮めている。

 

「────シンジはお前にとって、たった一人の弟なんだろ……?だったら、アイツが死の間際に、俺に託してまで伝えたかったその想いを……汲んでやれよ……!」

「錦…………」

「────それが、兄貴分としてお前に出来る……弔いって奴なんじゃねぇのか……?なぁ……?桐生……!」

 

そして。

神室町を恐怖に陥れた天災────"堂島の龍"は。

 

「し……シンジ…………俺は…………!!」

 

シンジから託された最期の想いを受け止める事で、その矛を納めた。

 

「……ったく…………目、覚ますのが、おせぇ、ってん、だ…………きょう………だい……………────」

 

ここで、ついに限界を迎えた俺の身体が力を失っていく。

 

「錦……!」

 

前のめりに倒れ、胸元に項垂れるように力無くもたれ掛かる俺を、桐生はその体勢のまま受け止めた。

 

(シンジ…………約束、は……果たした、ぜ…………─────────)

 

充足感と達成感に包まれながら、俺は桐生の腕の中で意識を手放す。

これがシンジにとって、せめてもの手向けになる事を願いながら。

 

 

 




叔父貴















────ありがとうございました……!



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