人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 タイトルの元ネタはNieR: Repicantより『魔王』


魔王

 愛子がハジメ達の言葉に打ちのめされていた頃、街の外に何かが着弾した音が聞こえた。街の住人や愛子達は何事かと様子を見に行くが、リリスだけは待ち望んでいたものが来たことへ喜びの表情を浮かべていた。

 

 いざそこに行ってみれば、そこにいたのは煙管を持った和装の麗人。更に連なるは黒衣に身を包む長身の男性や龍の頭を持つ筋骨隆々とした人型、番傘と二刀を持った女性、そして薙刀を装備し、笠を被った十数名の戦闘者達だった。

 

「が、加百列(ガブリエラ)殿! これは一体どういう事か!」

 

 ウルの町長が何やら顔見知りらしい黒衣の長身の男性、名を加百列というらしい人物に問いかける。すると、加百列は何でもない事のように答える。

 

「約束通り、援軍を連れてきたのよ。私達と商売をする代わりに、危機に陥ったら戦力を提供する。そういう契約だもの」

 

 妙に女性らしい口調で話す加百列は、集まった者達の中に敵意を隠そうともしない神殿騎士を認めて面倒そうな顔をした。

 

「その身なり……神敵たる竜人族か……! 町長殿、此奴らと契約を結ぶ価値など有りませぬぞ! それどころか、教会から異端認定を受ける行為だ!」

「しかし……」

 

 町長に詰め寄るデビットに対し、話しかけたのは和装の麗人、(ティオ)であった。

 

「まあそう責めるでない。作農師を以てしても補いきれぬ兵糧に、日々の食い扶持や日用品、未開の地の開拓に戦力まで提供するとあれば、その誘惑に抗える為政者などおらぬよ」

 

 廷は煙を吐き出し、更に追撃を掛ける。

 

「おまけに、眼前に迫る強大な敵に対し、教会は碌な戦力も用意できておらぬようじゃからのう。これだけ条件が揃っておれば、誰も文句など言わぬ。金で平和を買おうともな」

 

 つまりは、札束でウルの街を買い叩いたという事である。神の威光以外の物を示さぬ教会よりも実利的な利益を取るのは指導者としては当然だ。それも、作農師を上回るほどの支援ともなればなおさらである。

 

「……この事態をどう対処するのか疑問でしたが、なるほど、天下の睚眦(ガイサイ)部隊であれば可能でしょうね」

「ええ、流石に最高戦力をブッ込んで来るとは思いませんでしたけどねえ。てっきり嘲風(チョウフウ)辺りを派遣してくると思っていたのですが」

 

 嘲風部隊は九龍において外征や海洋活動を中心に動く部隊である。夜航船に並んで環城を離れた地点における前線部隊と言える。一応言っておくが、嘲風は弱いわけではない。過去に環城の領海に侵入した上に攻撃してきたヘルシャー帝国の軍隊を一方的に叩きのめす程には強い。

 

 ただ、廷直属の部隊である睚眦が強すぎるだけである。

 

「おのれ……この神殿騎士を侮辱するか!」

「ほう、ではお主らが魔物の大群を制すことができるのかえ?」

 

 廷としては純粋な疑問として聞いたのだろう。何処に属しているにせよ、戦力となってくれるのならばありがたい。まあ、竜人族の歴史から言って、教会の騎士に対して何も思うところが無いというのは嘘になるが。

 

「……蝶の男に続いて貴様も神殿騎士をコケにするか。ならば良いだろう。エヒト様に、そして愛子に捧げるために鍛えたこの剣、受けてみるがいい!」

 

 理性を失った目で廷を見るデビットは廷に斬りかかる。廷の腹心や睚眦部隊が一斉に戦闘態勢を取るが、廷は「良い」とそれを制すると、持っていた煙管でデビットの剣を受け止めた。

 

「なっ!? ハイリヒにおいて最高級の品質の剣だぞ! 武器ですらない煙管で……!」

(摘まめばへし折れそうな剣じゃが、それも大人げないか?)

 

 少し考えた挙句に、結局煙管で押し返した廷。デビットはその膂力に抗えず、蹈鞴を踏んで後退した。

 

「さしずめ、その作農師の護衛と言ったところか。しかし、脆い盾では踏み台にすらならぬぞ」

 

 その言葉に激昂した騎士達が一斉に廷に斬りかかるが、廷は既に意にも返さずに街の様子を眺めていた。なお、騎士達の相手は番傘を差した女性、縁璃(ヴェンリ)や睚眦達が相手をしている。

 

「男って、馬鹿ね」

 

 後ろで見物している加百列がそう零し、龍の頭の茯神は腕を組んで憮然としていた。この二人では騎士達の首がへし折れると考えているのだろう。

 

 見れば、縁璃の番傘を変形した刃による不意打ちで二人の騎士の体勢を崩していた。

 

「しかし、まだ避難は終わっておらぬのかえ。未曽有の大災害という割には呑気な事よのう。可能な限り街への被害は抑える心算じゃが、これでは余計な犠牲まで生まれかねんぞえ」

 

 実際、ウィルをフューレンに帰そうにも、この混乱では限りなく困難である。

 

「というか、(わっぱ)は何故ここにおる」

「逃げ遅れました」

 

 ハジメが廷に事の経緯を説明すると、廷は鼻で笑って「不運な事じゃな」と零した。

 

「あの……」

「ん?」

「どうにか、この街を傷つけない方法は無いものでしょうか?」

「お主は……洞天より召喚されし作農師か」

 

 廷は愛子に向き直って再度煙を吐き出した。一応は街を救う意志のある廷ならば、避難が完了せずとも街を守り切れるのではないかと一縷の期待を寄せるが。

 

「残念ながら望み薄じゃな。敵を討つには、浮雲を裂き、大地を穿つ力が必要じゃろうて。街への被害は抑える心算じゃが、人がいるとなれば話は別。街路や家屋のように補充の効くものではあるまい? おまけに、妾達からすれば随分と脆い存在でのう。雷鳴一閃、百敵滅殺などと謳われる妾も、そこまで万能ではない」

 

 冷徹に現状を分析する廷に、愛子も俯くしかない。その間に、廷は加百列に指示を飛ばした。人民を誘導し、避難させる指示である。

 

「面倒だけど、やるしか無いわね」

「今後のお主の仕事も楽になるかもしれんぞ? この闘いが終わり、この街が復興したと喧伝すれば、我等九龍の評判を無視は出来なくなるじゃろうて」

 

 そして、傍らの愛子を指して続ける。

 

「いざとなればこの女を使うが良い。作農師としての評判は上々じゃ。民草を説得するのには適しておるじゃろう」

「え、わ、私にそんな力は……」

 

 しかし、自分の功績と評判に自信なさげな愛子の姿を見て廷は怪訝な顔をし、そして笑った。

 

「今の言葉が謙遜でないとするならば、紛うこと無き魔性の女じゃな」

「え……?」

「天然で、特に特別な努力も演技もせず、その愛嬌と仕草、そしてそれを慕う者共……うむ、昇格者などより余程妖怪じみておるぞ」

 

 何かショックを受けたような表情の愛子。ただただ善意で動いていたと思っていた自分の行動が、知らず知らずのうちに他人を操作していた。そんな彼女を他所に、廷は最後の言葉を投げかける。

 

「どちらにせよ、お主の戦闘力はからきしであると聞く。大人しく避難し、我らに戦場を明け渡す事じゃな」

 

 廷にそう言われて加百列の元に歩く愛子。今の彼女には、どんな言葉もアスベストのように精神を蝕んでいった。その影響なのか、後に避難所に辿り着いた時に身体がふらつき、通りすがりの赤毛の双子に抱き留められる。

 

「て、おい、アンタ大丈夫か?」

「貴女達は……?」

 

 抱き留めた人間は事前に情報を手に入れていたのか、愛子にとって最も繋がりやすい情報を提供する。

 

「南雲ハジメの知り合いだけど……具合が悪いなら相応の処置は出来るわ」

「南雲君の、知り合い……」

 

 今しがた新たにこの地にプリントアウトされてきたデボルとポポルに体調の心配をされるが、しかし、持って生まれた(さが)なのか、自分の行動の是非を聞いてしまう。それに対する二人の答えは……

 

「結果的にアンタの願いは叶いそうだけど、それがどんな結果を齎すかは、詳細には分からない。でも、その答えは、今宵誕生する〝魔王〟の御心にあるだろうさ」

「ま、おう……?」

「ええ、他勢力の協力ありきとはいえ、こんな事態を解決できる南雲ハジメに民衆が抱く印象は、恐怖か畏敬だわ。二度と、対等な立場とは思われなくなる。本人がどんな意思を持っていようと」

 

 その言葉を聞いて、今度こそ幻想が壊れた事を知った愛子。自分の行動がハジメを〝寂しい生き方〟へと誘い、それ以前にも自分達を庇って香織が致命傷を負った。

 

「私は……教師失格ですね」

 

 

 

 

 

 その頃、廷やハジメ一行、リリアーナは街の外に防壁を立てていた。

 

「〝錬成〟様様ですね。相手よりも低い位置で戦うのは愚か者の兵法。その不利もこれで少しはマシになりそうです」

「あの貴族を逃がすだけで、お主が逃げる余裕は無さそうじゃからの。どうせなら手伝ってもらうぞえ」

「やれやれ、何処の国でも王族は人使いが荒い……」

 

 なお、この防壁はハジメがバイクを走らせて錬成して作ったものである。ハジメがいないなら別案も有ったのだが、いるなら使うのだ。

 

「まあ、それほど心配はするな。お主は仲間と自分自身を第一に考えればよい。あまり睚眦を見くびってくれるなよ?」

 

 見れば、神殿騎士達は全員のされて避難者に混じって運ばれていた。睚眦の中では一般兵であっても神殿騎士を余裕で倒せる程度の強さは持っているらしい。廷の後ろに並ぶ加百列と縁璃を除いた睚眦部隊の面々は歴戦の戦士の風格を有しており、実際ステータスだけならハイリヒ王国やヘルシャー帝国の兵士を超えている。

 

「まあ、そんな相手から融資の提案があれば、そりゃ断りにくいでしょうよ。僕もそうですし」

 

 廷はハジメの言葉に不快感を示すかと思いきや、鷹揚に頷きながら肯定した。

 

「妾達の行為は言うなれば、金をやるから尻尾を振れと言っておるに等しい。それを厚遇と取るか不遇と取るかは、享受する側の立場、価値観、精神状態等に大きく左右されるじゃろうな」

 

 他人の弱みに付け込む、謂わば、足元を見る行為に難色を示す者は多いだろう。しかし、外交とは、商売とはそういう物だ。需要を調査し、それに見合う供給を用意する。今回で言えば、廷はウルの街が求める戦力や食糧と言った需要を供給したに過ぎない。

 

「敵に回るというならそれはそれで構わぬ。そうなった時は我が九龍の牙で噛み砕くのみじゃ。世界を愛し、友好を呼び掛けても良いが、それに固執しては解放者と同じ。先人の失敗からは、学ぶべきじゃろう」

 

 それが本当に皮肉なのだとハジメは思う。解放者達の善性が廻り廻って、彼らの忌むべき存在を生み出した。

 

「長さ七尺余寸、雲には届かず、地に刺さりて蚊の鳴くような音を出す。そのような武器に頼る事こそが、断天の悲願を成し得る為に必要とは……確かに、〝寂しい〟ことであるな」

 

 然るべき素材を使い、然るべき霊獣を取り憑かせ、然るべき者が使えば浮雲を裂くことも、大地を穿つことも出来よう。しかし、それはこの世界において目的を成就するためには力が無ければ不可能であることを示していた。

 

 そして、その独白はハジメと愛子の会話を少し前から廷が見ていたことを同時に示してもいた。

 

「この街と次に相見えた時、妾は敵か味方か、生きておるのか死んでおるのか、首か五体か、果たしてどちらであろうな。しかし、そのような些事に気を取られておっては、共同体の首脳になどなれぬよ。戦場洗礼、鉄騎出征を命じるこの身が寂しさを、孤独を恐れていては、何者もついては来ぬ」

 

 廷は語り終えると、煙管を薙刀に変えて未来の敵へと向ける。

 

「さて、未来の〝魔王〟、親愛なる共犯者よ。この万世に銘を打つ籌策(ちゅうさく)、その一端を、担ってもらうとするかのう」

 




投稿し始めて百話記念という事で、魔王登場……ですかね。まあ、既に一話投稿してるけど、百話記念にかこつけて自作とのクロスを進めてもいいかも。

 確か、ハジメが〝魔王〟とか呼ばれ始めたのってこの件がきっかけですよね? 先生は寂しい生き方を否定して、結局最後の枷を外してしまったかのような印象が有ります。

 備忘録

睚眦、嘲風:パニグレの九龍衆の名前より。元ネタは竜生九子と思われる。

縁璃:ありふれ原作にて登場した廷の従者の女性。今回は睚眦部隊の隊長を担っている。実は、廷が睚眦部隊を連れてきたのは、「そろそろ縁璃が臍を曲げそうだから」という理由もある。武装はパニグレに登場した睚眦を基にしている。

加百列:パニグレでは冷酷な昇格者であったが、今作ではもう一つのクロス先であるドラッグオンドラグーン3の影響でオネェになっている。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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