「これで殲滅出来たりしてません?」
「リリスよ、この程度でレギオンやヨルハ部隊が殲滅できるわけなかろう」
リリスが楽観的な願望を口にするが、敵はそう甘くはない。そして、この襲撃の裏には魔人族の精鋭〝ヨルハ部隊〟が存在していることも調べが付いていた。オーダーが関わっている可能性が高かったが、どうやらそう単純な話ではなさそうである。
現に、空からシーラスやストラトスといったレギオンが投入されている。どれだけ高く重厚な防壁を作ろうとも、衛星軌道上から兵士を投下されれば意味が無い。街の方に直接被害が生じていた。
「ここは私が行きますね。わざわざ別働隊を動かす程の敵ではありませんし」
「そうか。まあ、別働隊は別働隊で会敵したようじゃ。確かにお主が行けるならその方が良いのう」
そう言ってリリスは敵の迎撃に動く。元々は正面の敵を排除するための配置だが、このように臨機応変に動かす事も重要だ。
「こちらにも来たようですよ」
見上げれば、シーラスとストラトス、更に刃で作られた羽を持つ女性のような人型が浮かんでいた。その敵の名は〝ジェニタス〟。翼は下級のレギオンを生成し続け、本体も高い攻撃力を誇る厄介な敵だ。
「〝永久なる制裁〟」
ユエが嘗て行商隊を守った技でジェニタスが生み出す兵士を撃ち落とす。百や二百の魔物なら殲滅して余りある技だが、レギオン相手ではそのようにはいかない。今はまだ勝っているが、ジェニタスの数が増えれば処理できなくなる。
更に、ジェニタスが背中から攻撃を発射した。それは落下式の対地レーザーであり、攻撃を妨害するユエを焼き尽くさんと多段発射されている。
「ユエ! 下がって!」
しかし、香織の声を合図にユエはその場から離脱する。代わりに香織の〝終嵐のコーダ〟が全方位の音響破壊を以てジェニタスとその兵士に大ダメージを与える。更にはハジメが右側の二本の腕でアストレイアで銃撃(左側は二丁拳銃で別の敵に応戦していた)し、瞬間移動した廷が薙刀で横薙ぎ、更に下から二度斬り上げてジェニタスを追い詰める。
最後の悪あがきにジェニタスは粒子砲を放とうとするが、廷に突き刺され阻止される。
「刃の上で舞い上がれ!」
そして足で梃子のように跳ね上げられた薙刀がジェニタスを更に傷つけ、流れるような横薙ぎでトドメを刺された。
「空母タイプか……結構面倒なの投入してくるわね」
「まあ、数で圧倒する戦術では効率的と言えますからね。僕もやってますし」
「ん。考え無しで戦える相手じゃない。一応まだ出力は上げられるけど……アレ一体じゃないでしょ」
「因みに、更に上がおるぞ」
廷が北の山脈を指差すと、楕円形の巨大な機械が浮いていた。初見の敵だが、ハジメ達には不思議と馴染みがある。言ってしまえばその形は地球で一定周期で話題になるUFOにそっくりなのだ。
なお、もはや説明不要かもしれないがそのUFOからは夥しい数の敵が投下されている。この機械の名前は〝ニンボストラトス〟。超巨大な空母である。また、
「おっと……」
ニンボストラトスの前方中心部が発光する。ハジメ達全員が嫌な予感を認識した直後、案の定、荷電粒子砲と推定されるレーザーが放たれる。そして、その攻撃が止んだ後、
「わお、第一防壁が分断されましたねー……」
防壁の中には結界を発生させる仕様にしたコイン型アーティファクト〝ザミエル〟を内蔵していたのだが、防壁はレーザーの軌道に沿って破壊されていた。
WARNING ニンボストラトス
「これあっという間に街まで到達するのでは?」
「じゃな。故に妾があれを撃ち落として来よう。ここは任せたぞえ」
「簡単に言ってくれる……」
しかし、他に方法は無い。ハジメ達に防衛は任せ、廷達は空に飛び立った。
「あ、そうだ。餞別です」
飛び立つ直前にリリスが指を鳴らす。すると空に穴が開き、大量のチップ、のように見えるザミエルが降り注ぐ。眼下の敵達は電流による妨害や爆撃によって一部が殲滅されてゆく。
しかし、眼下に広がる敵の群れは未だに勢いを衰えさせていない。
「アダージョ、アンダンテ、演奏開始」
今度は香織がワルドマイスターを構えて少しだけ宙に浮く。そして、楽器を奏でる事で敵に向かって三度の帯状の電撃と音波攻撃を行った。香織の技の一つ、〝雷鳶のワルツァ〟だ。
ハジメ達が天人五衰に本格的に加入した後、香織は与えられた権限を使ってとあるデータを閲覧していた。
それは九龍衆の一角、〝囚牛〟と呼ばれる部隊。
聖教教会でいうところの聖歌隊と言えばわかりやすいだろうか。音楽や演舞を担当する集団であり、戦闘を行うことも出来る。その映像の中で、部隊長と思われる女性が琵琶を手に宙で舞うように演奏していた姿が香織の心を捕らえて離さなかった。
あまりにも美しいと思ったのだ。それまであまり触れてこなかった東洋の楽器を学んでみようと思うくらいには。そして、自分の
宙に浮く事自体は重力魔法で簡単に出来たが、戦闘に取り入れるのにはそれなりに苦労した。
その後、同じ人物が簪を外して武器として扱う映像も閲覧し、途中から合流した優花ともども黄色い歓声を上げていたりもする。
「弦の
「
「喜んで。コンダクター」
ワルツを演奏し終えた香織に、ハジメが
そして、ハジメが敵に向かってゼロスケールを乱射する。その銃撃に合わせるように香織がアップテンポな旋律を奏でた。
「〝胡蝶のデュエット〟」
弾丸は敵に向かう途中に蝶の形のエネルギーを纏い、やや曲線的な軌道で敵に襲い掛かる。そして、先程の折鶴での攻撃に匹敵するような大爆発を次々と起こした。
ハジメの兵器と香織の演奏を合わせた美しき破壊の二重奏の完成である。
「ハジメ。余韻に浸ってるとこ悪いけど、手伝ってもらえないかしら。流石に同時相手はきついわ」
かけられた声にハジメが振り向くと、優花が空から直接送り込まれてきたジェニタスと機械生命体が寄り集まって出来た〝大型戦車〟と相対していた。確かに、これは辛い。
「初撃は重く、でしょうか?」
「そうね。同時に撃ちましょう」
優花はそう答えると、一本のナイフを起点に炎を弓のように象る。それをまるで射手のように引き絞った。同時並行で、ハジメは持っていた棺を変形する。こちらもアストレイアを中心に添えた巨大な弓のような形だ。ゼロスケールを持っていない三本の腕を巧みに動かし、敵に向けてそれを構える。
そして、両者の準備が整ったことをお互いに把握すると、ハジメは戦車に、優花はジェニタスに同時に放った。
「完璧な射線でした」
「ええ。惚れ惚れするくらい」
優花が放った技は〝
ハジメのアストレイアも同様に、普通にライフルとして使うよりも高い威力を叩きだしている。今はまだ研究段階だが、理論上は通常の8128倍にまで威力が上昇すると予想を付けている。残念ながら今の状態ではパニシングの補助を入れても武器やハジメに少なくないダメージが入ってしまう為に実用的ではない。今はとりあえず試運転も兼ねて8倍にして撃ってみた。
『ルシフェルと闘った時にはパニシングの収束により通常の4.5乗の威力が出ていましたが、安定しない上に僕にまでダメージが入りました。怪我の原因の半分くらいはそれが原因でしょうね』
と、いつかハジメが話している。そこまでしないと止まらない敵だったのだ。ルシフェルとは。
そして、嘗てのルシフェルが再び話しかけてくる。
「戦車の相手はそっちに任せていいかしら」
「ええ。優花はジェニタスの撃破を」
大量のエネルギー弾を撒き散らす戦車に対し、ハジメは銃撃で応戦する。その傍らで、優花はシニヨンヘアのようにしていた髪から簪を引き抜いていた。
嘗てハジメに貰った簪。囚牛のデータを閲覧した後にハジメに戦闘用に改造してもらい、単なる装飾品ではなく新たなる刃として新生した思い出。
逆手に持ったそれをジェニタスが生み出したストラトスに向かって横薙ぎし、跳躍して上のシーラスに一閃、更に着地した後は先のストラトスに簪を刺して引き寄せ、戦輪イエスタデイの一撃を加える。
そして最後にイエスタデイを迂回させるように飛ばし、自身は簪を持って逆方向に動く。イエスタデイに合流するようにシーラスとストラトスを切り裂いた後、本体のジェニタスに急接近、再び簪を刺し、遅れて飛んできたイエスタデイに切り刻まれるように位置を調整する。
髪を振り乱しながら闘うその姿は、さながら名画のようであった。
「さようなら」
優花が指を鳴らすと、最初に〝火鼠〟で刺したナイフが深くジェニタスを貫いた。オルニスへのトドメに使用した〝百舌鳥〟である。
「!」
何かに気付いた優花は簪を戻しながら背面跳びした。大型戦車を一刀両断したハジメの長刀〝朱樺〟が迫っていたのである。
「失礼」
「問題無いわ」
実際、ヘアスタイルを整える程度の余裕はあった。この『簪近接格闘スタイル』とでも言うべき闘い方は道中の特訓やライセン大迷宮でも地味に使用しており、優花の中では確立されている。(投術師=中~遠距離攻撃という先入観から、初めて使用した際に香織やユエ、シアはかなり面食らっていた)
優花が残心していると、今度は奈落にいた熊型の機械が群れで押し寄せていた。
「どちらがお好みで?」
「私はユエの援護に回るわ。害獣の駆除は任せたわよ」
「承知しました」
ハジメは背面の腕で朱樺を担ぎながら、弓にせずにアストレイアを取り出す。そして、優花が戦輪を熊に投げ、ハジメはユエが相対する敵に向けて発砲すると同時に後ろに下がり場所をスイッチした。
「ハジメじゃなくてごめんなさいね」
「別にいい。ユウカの戦闘スタイルも興味深いし」
優花とユエが軽口を叩き合っていると、新たな敵が現れる。瞬間移動して虚空から滲み出るように現れたのは『エクスキューター』。二刀を持った人型の機械生命体で、この瞬間移動により戦線を攪乱する。
「遊ぼうじゃない」
優花が再び簪を引き抜くと、エクスキューターの斬撃を簪で受け流すと、人間でいう所の腹の部分に強烈な蹴りを加える。更にその勢いを利用して逆さになるように跳び簪とイエスタデイによる回転攻撃をぶつけた。ついでに投擲ナイフも何本か刺しておく。
「……あれで実用性があるんだから不思議」
ユエはそれを見ながら独り言ちた。特訓の最中、中距離戦を挑まれる中で臨機応変に近接攻撃を加えてくる優花の戦闘スタイルは初見で対応するのは困難を極める。簪を武器にするという、ユエからすれば奇想天外な戦闘スタイルだがしっかりと実用性が有るのだ。
などと回想をしていると、ユエにもエクスキューターの瞬間移動が襲い掛かる。しかし、ユエはオズマを変形させた剣で弾き返す。長引かせても得が無いと判断したユエは剣を指でなぞり、自身の血液を纏わせた。
〝虧月剣・血戒〟
興が乗って自分で名前を考えてみた。悪くない。そう思いながら、攻撃を弾かれて隙を晒しているエクスキューターに斬りかかる。エクスキューターは間一髪避けようとするが、血液によって伸長された斬撃に狩られた。そしてすかさずユエの背中から伸びた蠍の尾のようなものによって刺されたエクスキューターの循環液は吸い取られてしまった。
ルシフェル戦を経て、優花程とはいかずとも効率よく血や循環液を奪取できないかと考え、機械と化した自分の身体を生成魔法で改造した。これならば相手に物理的なダメージを負わせ、拘束した上で回復ができる。
ユエが自身のアイデアに浸っていると、今度はナガミミウサギのような機械も現れた。
「ユウカ、代わって」
「分かったわ」
敵を攪乱できるのはエクスキューターだけではない。破壊された一枚目の防壁の上に敵を誘導しながら戦闘スタイルを敵に慣れさせないために定期的に入れ替わる。それはボードゲームのようであり、緻密に計算された数学であり、芸術的な演舞でもあった。
やりたい放題である。この機に解放しようと思ってた戦闘スタイルが次々と出てきました。ついでに敵も。
備忘録
ジェニタス:パニグレの修道女のような敵。刃の集合体である翼から雑魚を大量投入してくる。元ネタは母雲
ニンボストラトス:NieR: Automataに登場した大型飛行体のような敵。今回のボスの一体。元ネタは乱層雲。すなわち雨雲である。
大型戦車:NieR: Automataより。機械生命体が寄り集まって戦車の形をしている。
エクスキューター:パニグレより参戦。本家では特筆すべき点の無い雑魚敵だが、今作ではワープ能力が追加された。
雷鳶のワルツァ:パニグレのセレーナの技だが、今作では帯状の電撃+音波×3という攻撃になっている。
胡蝶のデュエット:ハジメとの合技。射出される銃弾に合わせて旋律を奏でなければならないため、非常に難易度が高い。
4.5乗:強いが安定しない自爆技に近いもの。なお、小数点を取るとカプレカ数の一つとなる。
8128倍:完全数の一つである。ハジメが完全に強くなればこの値を出せるかもしれない。
火鼠:優花のオリジナル技能。元ネタは呪術廻戦の宿儺。
アストレイア:棺型のアーティファクトに接続すると弓になる。
虧月剣:ユエのオリジナル近接剣技。
簪:『風ト共ニ去リヌ』でハジメがあげた簪。武器となった。
ユエの吸血器官:原典より効率よく血を吸える。が、絵面は大変惨い。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する