また、本当は戦闘を全side書こうかと思ったけど、いつまで経っても終わらなさそうなので巻きで行く事にしました。どうせこの後も腐るほど戦闘あるし。そこで書けばいいかって。
戦場を一台のバイクが駆け抜ける。電流を纏い敵を轢き殺してゆくその姿は八重樫紅であった。紅は道中の魔物を辻斬りしながら後ろに乗るシアに伝える。
「シア! そろそろ目標地点に着くわ!」
「了解ですぅ! ロック、一発お願いします!」
「分かった」
ロックは了承の返事をすると咆哮を上げる。これで魔物達が紅達のもとへと寄って来る。ハジメ達の負担を少しでも減らすために攻勢に出る作戦だ。操られた魔物を逆に操る。逆転の冴えた発想であろう。
「ちゃんと寄ってきましたねぇ。しかし、それが貴方達の最後ですぅ!」
自分を取り囲む魔物を前に、シアがバイクから飛び降り両脚を変形する。そして、
「喰らいやがれですぅ!」
ブレイクダンスのように倒立回転し、超広範囲の斬撃を繰り出した。リリスのブレード脚のデータを閲覧して改造したのだ。思った通り、身体強化と併せて使えばかなりの威力を発揮する。
「油断しないで。まだまだ敵はいるわ」
「分かってますよ。にしても、ライセン大峡谷からも大勢連れてきてるみたいですねぇ。ご丁寧に改造まで施して」
双頭の恐竜であるダイヘドアや飛竜のような魔物であるハイベリアなど、見覚えのあるフォルムをした敵達が勢揃いである。おまけにエイリアン物の洋画に出て来そうな気味の悪いクリーチャーじみた姿であった。
「うへえ……エグイ改造しますね。言っちゃアレですけど気味が悪いですう」
「そうか? 我は中々に味のある姿だと思うが」
「独特な感性ですね……」
シアは気味が悪いと断じたが、ロックには好評なようだ。やはり魔物と人間では感性が違うのだろう。
シアが白ノ約定を構えると、紅ではなく雫から声がかかる。
「ごめんなさい。そっちは任せていいかしら」
「あ、はい! 雑魚の処理はお任せします!」
魔物との戦闘は苦痛じゃないのか……と、シアは訝しんだ。どれだけクラスメイトと話すのが嫌なんだ。
雫はウィリー走行で敵陣を強行突破し、ドリフトターンで抵抗も許さずに敵を吹き飛ばす。もう一度言う。紅ではなく雫である。どうやらバイクの操縦という点においては紅を上回るらしい。
香織曰く、地球にいた頃は常識的な人物であり人間関係におけるバランサーを担っていたとのことだが、あのバイク操縦を見る限り、元からあのような素質は秘めていたのではないかと疑ってしまう。
ただ、ハジメが言うには人間の性質は不変では有り得ないそうなので、やはりただ後天的におかしくなっただけなのかもしれない。
雫が最後にバイクのターンで勢いを増し、跳び上がって雷撃を伴う回転斬りを披露して大概の敵は殲滅された。
「まあ、私が考える事でもありませんか……」
シアはとりあえず地球人の精神性については考えないことにした。そもそも環境も違うし、自分があれこれ言った所で解決する問題でもないだろう。
シアが地球人だいたいイカレてる説を頭から追い出した時、改造されたダイヘドアが彼女に襲い掛かる。見れば、片方の頭はチェーンソーのようになっており、もう片方は花が開くような口が先端についている。なお、全て生体物質であるため非常にグロテスクだ。
更に、雫の暴走運転から逃れたらしい改造されたラットマン(オルクス大迷宮の第一層にいる魔物)が集団でシアを睨んでいる。どうやら棍棒をかなぐり捨ててBモードのシアよろしく鋭い爪で襲い掛かるスタイルになったようである。もはやラットというより突然変異したヤマアラシと言われた方が納得できる見た目になっていた。
「フン……食い物には困らなさそうだな」
「ええ、好きなだけ喰らってくださいな。おかわりは無限にありますよ」
お互いに軽口を叩くと、ロックは天に向かって雄叫びを上げた。すると、一匹狼であった彼の周りに群れのような分身体が生成される。
どこか懐かしいこの状況にシアは安心感を覚えていた。元々、シアは他のハウリア族と比べて闘う事への抵抗は少なかった。幼少期に出会ったロックや彼の少し後に出会ったアルテナと狩りに出かける事が多かったためである。ロックは魔物であるし、アルテナも長老の娘ということである程度の強さを求められるのか、弓を持って狩りに赴く事も多かった。そうして偶然を装ってシアに会いに来るというのが通例だったのだ。
なお、記憶の中のアルテナは魔物や植物から抽出した毒を使った毒矢であったり、硬い皮を持つ木の実の中身を様々な劇物に入れ替えた手投げ弾などかなりやりたい放題していた。
ドンナー・シュラーク強襲後もしつこくハウリアや機械達を襲撃しようとした亜人族達を、彼等の攻撃範囲外から催涙弾やら麻痺弾やらを括りつけた矢を撃ち続けるという方法で鎮圧していたりもする。
流石に機械化した相手には通用しなかったが、亜人には効いた。なお、ハジメ達が出発した後にハウリア達と談笑するためにパスカルの村にお忍びで来たりもしているらしい。不穏である。
閑話休題
「「狩りを始める」」
一人と一匹は攻撃を仕掛けた。まずシアがチャージして放った横薙ぎでラットマン達を薙ぎ払い、撃ち損じた、もしくは浮き上がった個体をロックが処理してゆく。
最後の改造ラットマンが地面を引っ掻き岩を飛ばしてくる。シアがそれを剣で薙ぎ払うとラットマン自身が襲い掛かってきた。
「甘えですぅ」
だが、シアは脚のブレードで攻撃を弾き返し、ロックが身体に取り付けられたチェーンソーを尻尾で掴んで追撃した。
「後はこのダイヘドア……と呼んでいいのか分からない魔物ですね」
「見た目は悪くないが、如何せん不味そうだな」
「味覚まではおかしくなっていないようで安心しました」
ダイヘドアの爪攻撃を白ノ約定で弾き、チェーンソー型の頭の攻撃も白ノ約定で受ける。もう片方の花型の方から何かしらの液体が噴射されるが、それはロックが攻撃して方向を逸らす事で失敗に終わる。
シアは内心でとても安堵していた。よしんば吐瀉攻撃を喰らったとしてダメージや不利益を受ける事はないかもしれないが、心情的に喰らいたくない。
そして、一人と一匹で頭を一つずつ潰す事でダイヘドアを倒した。
見れば、
ミュオソティスにそんな機能が有ったのかとシアは思い返すが、ライセン大迷宮以前は見なかったので、重力魔法を用いた新技なのだろう。地味に白ノ約定にも重力魔法が使われているのだが、本当に〝数学者〟に魔法を与えてはいけない顕著な例であろう。応用の幅が留まるところを知らない。
細かい武器の使用を片端から挙げていけば依然より格段に強化されている。無論、使用者が使いこなせることが前提だが。
更に、何の前触れもなく魔物や機械達の身体が切り裂かれるという現象が周囲で多発している。事前に
睚眦部隊の主な戦法は奇襲と隠密である。気配を悟らせず、姿を見せずに敵を屠る。過半数が笠と薙刀を装備している上に、この戦場で身を隠せそうなものと言えば敵の死体か背の低い岩くらいだが……笠はともかくどうやって薙刀を隠しているのか。なお、この手の戦闘方法を取る者にありがちな直接戦闘に弱いという特性は存在しない。たとえ見つけても普通に強い相手と闘わねばならないのだ。理不尽である。
なお、ハウリア達への訓練はこの睚眦部隊のデータを閲覧して参考にしたらしい。
「世界は広いですねえ……」
「全くだ」
樹海の外、というか大陸の外には未知の世界が広がっているようである。危険ではあるが、教会の手が及ばない故に好き勝手出来るのかもしれない。
上空で爆音がしたので上を見てみたら、
(何ですか? あの巨大な蛇みたいなんは。もしかしてアレが『龍』ってやつですかね)
シアはこの時点でハジメから『龍』の存在を聞いていたのでこの反応で済んでいるが、そうでなかったら時と場所を選ばずに呆然としていたかもしれない。ニンボストラトスを軽く凌ぐ大きさで、山でも破壊できそうな威圧と攻撃力を持つ『龍』。〝代行者〟という存在は昇格者たるシアから見ても埒外の存在である。
見れば茯神やミュオソティス、城壁の上から局所災害的な攻撃を連発するハジメ達は『龍』に動じてすらいない。
「バケモンに慣れた人間が一番のバケモンじゃねえですかね」
「お前も素質があるぞ。野犬と勘違いしていたとはいえ魔物と分かった今でも我と共にいる」
「いやー、ハジメさんと廷さんは別格じゃないですかねえ」
意外かもしれないが、加入初期の扱いが酷かった原典よりもハジメとシアの距離は縮まっていない。原典よりも優しく温和であるが、狂気的なまでに死に執着していることや、あまりにも哲学的すぎて何を考えているか分からないという点が距離を取らせているのだ。恋愛感情など抱けるはずがない。
ハジメ曰く『代行者の中では最も弱い』らしいが、シアからすれば他の代行者と並んで同等のバケモノである。
シアの印象だけで言えばハジメは〝人外〟というのが正確な所だろう。モノトーンで統一された外見も相まってこの世の存在とは違う雰囲気を纏っている。それは〝蝶葬〟の機体となってから更に顕著となった。かつて亜人が形容した〝死神〟という言葉が最も似合うとシアですら思う。
『数学者』の能力が『演算能力の向上』や『事象の観測』という抽象的な物であり、その作用がまるで世界を水面下から侵蝕するようなものであることも恐ろしい。武器や魔法だけでなく、もっと根本的な部分からじわりじわりと改変されているかのような、そんな言いようのない不気味さをシアは感じていた。
「あと香織さん達も……普通にヤバい人の集まりですよお……」
申し訳ないが、シアからすると地球人は総じて異常者の集まりである。まず、人外の思考回路を持っているとしか思えないハジメに純粋な愛情を向ける香織。話を聞く限りトータスに来る前から恋人同士らしいが、あの思想をナチュラルに受け入れる、もしくは理路整然と否定して矯正できる時点で何かしらに至っているようにシアは思う。香織は香織で地球の用語を差し引いても何を言っているのか分からない時があるし。
ユエと優花に関しては、ハジメに寄りかかっているという構図であるように思う。おそらく、人外の存在を以てしか救済できない何かを抱えているのだろう。
愛子達が標準と知った時は少し安心もした。だが、ハジメに言いくるめられている時は同情もしたが同時に冷めた眼で見てしまってもいた。
気付け。そもそもハジメは愛子に説得できる相手ではないのだ。嫌味でもなんでもなく、存在としての格が違い過ぎるのである。思考も力も次元が違う。文字通り、違う世界と物理法則の元に生きているとすら言っていい。同じものを見ていても、同一の視界が共有されているわけではないのだから。
こんな思考回路に至る辺り、シアももう普通ではないのだろう。きっと、ハジメや天人五衰が目的の為に殺戮の限りを尽くそうとも、それに対して完全に嫌悪や恐怖を抱けない自分がいる事は分かっている。
そもそもシアから見て地球の常識が突飛に思えるように、ハジメ達からすればトータスの常識はかなりジェノサイドしていると言える。
それならばただ、ハジメも雫も香織も優花もそれに適応しただけなのだろう。この苦痛に満ちた世界を生きるために適合した新人類。人間に及びのつく信念や善悪を超越した存在。それならば、シアは見届けるだけだ。魔王という名の哀悼者の行く末を。
一方、雫も雫でこんなことを考えていた。
(恋人が何人もいるなんて聞いた時は、香織を心配したけれど……)
愛子ほどではないにしてもハジメの現状を聞いた時は流石に面食らった。しかし、五本の腕を出す前から背負っていたように見えた棺を持つ蝶の哀悼者と
モノクロのオーケストラのような、言語化不可能な美しさと法則を四人から感じた。おかしな言い方をすれば、もはや新たな概念として確立されているとすら言っていい。恋人、仲間、友人……どれもが正しく不適格だ。彼らは正しく演奏者であり楽曲。
夏の雪、真空空間に響く旋律。
戦場の魔物が折鶴の舞によって凍り付き、それが
残酷な殺し方のはずなのに、美しさを感じてしまう。それは荘厳なメロディーに反して残酷な内容の
次元が揺らぐレベルの質量を内包していそうな恋人達は今日も音楽を奏でている。紅はともかく、雫はこれ以上に良い条件の集団がいたとしても鞍替えする気にはならなかった。
なんというか、愛子先生やクラスメイト達と仲直りできることは無さそうなんですよね。もう見てる景色が違い過ぎて根本的に会話が成り立たないというか。身内以外と会話が成立しないレベルで狂ってるのはLibrary of Ruinaの残響楽団を連想します。やってることも近いと言えば近いですし。
様々なありふれ二次を眺める中で、様々なハジメ達を見ました。暴君ぶりが加速していたり、多少マイルドだったり、或いは魔王化前のまま変わっていなかったり。その上でこの〝楽団死期〟、或る意味二次の中で一番狂ってるというか、理解しづらいハジメ達かなと思いました(異論は認めます)。
そもそもありふれの中で争点になりやすい『人間性』ですが、基本的に私が読んだ範囲ではどの『人間性』も楽団死期の掲げる物とは違います。そもそも今作のハジメは『人間性』を『確固たる信念』ではなく『流動的に切り替わる物』と定めているので少々反則技かもしれませんが。
現実にある物で比較するなら、西洋と東洋の文化の違いのような物を感じます。西洋の考え方はキリスト教などに見られるように『唯一絶対の目標』のようなものがあってそれに従う、もしくは目指すという思想が目立ちますが(故に勧善懲悪ものが多いそうです)、東洋の文化には『常に入れ替わる陰陽』や『未病を定義する』と言った、曖昧だったり変化する物という事を前提とする考え方が目立ちます。
ありふれ原作や他の二次作品の考え方は前者に近い物で、今作の考え方は後者に近いものなのかなと。『全ての存在は滅びる』という事が前提なので、まず不変の人間性にこだわるという事が成り立たない。そんな作品が今作なのかもしれません。
まあ、目立ってる理由として、シンプルに『数学者』と『演奏者』が個性としても戦闘力としても強すぎるのも有りそうですが……
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する