人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 鬱シーンです。しかし、もう少し上手く書けないのかと首を傾げましたが、下手に直しても収集つかなくなりそうなのがジレンマです。


賭博師ト神殿騎士ト治療者

「もウ、遅いデすよ」

 

 胸部を貫かれたオーダー、FKX-6O-プリムラが循環液を口から流しながら言葉を話す。感情など存在しない機械のはずだが、その声には嘲笑が含まれているように感じた。宿屋の制服が赤く染まる事に対する無頓着が、彼女が機械であるか人間であるかを尚更曖昧にしていた。

 

「人間ノ、脆弱性ヲ、利用しましタ。モウ私は動く必要ハ無い……」

 

 オーダーを刺している加害者は、鼻を鳴らすと武器を引き抜いた。その加害者、加百列(ガブリエラ)は無感動に敵の死体を見下ろす。リリアーナの言う通り、この手の連中は言う事が一々陳腐だ。

 

 大方やったことは分かっている。民衆の負の感情を助長したのだろう。機械教会にも知恵者がいるようだ。しかし、加百列に焦りは無かった。

 

「もう遅い、ね。こっちのセリフよ。私達は止まらないわ。どんな犠牲を出そうとも」

 

 加百列とて、元は部品が寄せ集まった機械に過ぎない。黒い服も帽子も、たまたま近くに有ったものを纏っているに過ぎない。しかし、廷に敗北し、友人となってからその軌跡を共に歩んできた彼は廷に忠誠を誓っていた。

 

 エヒトなど神ではない。神となるべき存在がいるとすれば、それは廷であり、天人五衰だ。

 

 そんな加百列が急ごしらえの避難所を振り返ると、何やら嫌な展開になっている事が分かった。

 

(嫌になるわねえ。人間の愚かさは)

 

 

 

 

 

 避難所ではこの事態を解決せんと奔走する者達への憎悪が静かに燻っていた。自分達の街であるにも関わらず、何もできない劣等感。何人かは故郷を捨てられないと残ろうとする者もいたが、戦闘の邪魔になると避難所に連れてこられた。それでも残ろうとした者はハジメの〝折鶴〟による殲滅に腰を抜かし、それでもなお迫って来る敵の群れに恐れを為して逃げ出した。

 

 そして、神殿騎士の発した『神敵』という言葉が彼らの憎悪を加速させた。

 

 神から見放された種族の分際で自分達に施しを与えるという態度も、自分達がそれに縋らねばならないという事実も気にくわない。況や発信源である教会の騎士達の不満は頂点に達していた。

 

「『神敵』などに魂を売り渡すとは……この街も堕ちたものだ」

「じゃあどうしろってんですか騎士様。アイツ等に頼らなきゃ俺達全員土の下ですよ」

「フン、だから貴様らの目は節穴だというのだ。生活ならば愛子という豊穣の女神がいるだろうに」

 

 戦力が足りない事は上手い具合に避けて伝えるデビット。この辺りは腐ってもエリートということかもしれない。そして、再び教会への信仰を取り戻した人々の憎悪は『神敵』達へと向かう。

 

「え……」

「へ、へへ……異教徒のくせに、街を奪うから、デカい顔をするからこうなるんだ」

 

 その声はデボルの物だった。怪我人を治療している最中に背後から街人に刺されたのだ。それを見た神殿騎士は止めるどころか溜飲を下げたような表情をしている。

 

「デボル!!」

 

 薬を運んでいたポポルはそれらを投げだしてデボルの元へと駆け寄る。何度もデボルの背にナイフを付きたてる街人を引き剥がし、デボルを抱きかかえた。今正にデボルに治療されていた怪我人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

 

「良かった……お前は無事だったんだな……」

「は、はい……しかし、貴方が……!」

 

 デボルは心配そうな顔をする怪我人、〝水妖精の宿〟のオーナーであるフォスに笑顔を向ける。その後ろには同じくデボルに治療された怪我人たちが口々に心配の声を上げていた。

 

「喋らないで! 血が、血が止まらない……嫌、死んじゃダメ! 置いていかないで! 私を一人にしないで!」

 

 泣き叫ぶポポルは腕や背を傷つけられても意に介さなかった。代わりに、言葉を発さなくなったデボルを、彼女を心配していた怪我人たちに預けると幽鬼のような表情で立ち上がる。

 

 と、そこで声を上げた人物がいた。

 

「皆さん! もうやめてください! 今は争っているときではありません!」

 

 愛子だった。デビットの言葉で教師ではない自分のもう一つの役割を思い出したのだ。そして、何とか自分の有用性を売り込むという思考に辿り着き、それを実行しようとした。今争えば、全員が死ぬ。

 

 だが、愛子はまたも見落とした。もしくは既に正解など存在していなかった。

 

「やめよう? やめよう? やめようって?」

 

 ポポルが愛子の方を見ずに彼女の言葉を復唱する。それを同意と見做したか、愛子がポポルに言葉を尽くそうとする。

 

「はい。ここで争っては……」

「オマエ達にそんな自由があると思ッテルの?」

「え……?」

「デボルを殺しておきながら……ヨクモそんな」

 

 振り返ったポポルの表情は、声は、暗き気体に溢れていた。孤寂に耐えようとするその声は単純で、静かな音色だった。そして、何も持たない、無用のものとなった両手には黒いエネルギーが宿っていた。

 

「や、やめて……やめてください……! 今ならまだ!」

「もう遅ェンだよッ! 何もかもッ!!」

 

 愛子は突然発されたポポルの叫び声に腰を抜かす。愛子は生まれてこのかた、喉を引き裂くような叫び声など聞いたことが無かった。

 

「みんな殺す! コロしてやる!! ウア“アアアアアア!!!」

 

 ポポルは両手から闇の魔弾を放出した。それを受けた民衆の半分は怖気づくどころか狂喜の笑みを浮かべた。

 

「見ろよ! 悪魔が正体を現したぞ!」

「少しつついたら化けの皮が剥がれた!」

「やっぱり俺達を騙してたんだな!」

 

 刺されれば怒るだろう。誰でも。しかし、そんな当たり前の考えに民衆達は辿り着かない。誰もが自分を保つために無意識に思考から追い出している。

 

「いや、怒ったのはアンタが刺したからだろ!」

「俺はポポルとやらにつくぞ! 俺の妹の腕はアイツ等に踏みつけられて折られたんだ!」

「私は押しのけられたわ! 危うく岩に頭をぶつけるところだったわよ!」

「こんな時になっても教会は何もしてくれないじゃない!」

 

 しかし、怪我をしたもう半分の民衆はポポルの肩を持った。彼らの怪我の原因は魔物ではない。我先にと他人を押しのけて逃げ出した人間による人災だった。気丈に街に残ると言ったにも関わらず、敵の規模を見て逃げ出したという一連の行動は少なくないアクシデントを引き起こしていた。

 

 ウルの街の住人同士で内戦が始まろうとしていたが、ここでどちらにもつけない者達がいる。それは愛子と護衛隊達だった。現代日本において極めて普通の感性を持つ彼らにこの事態を鎮静化する力も無く、そして争いに加担する蛮勇さも無かった。

 

 そして、ポポルが次の攻撃をしようと構えた時、

 

「全く……私はどれだけ貴方達の評価を下方修正すればいいんでしょう?」

 

 その眼前にトランプのカードが刺さった。その真上には人間大の長方形のポータルのようなものが存在し、そこからリリスと清水、カイネが降りてくる。

 

「清水さん、貴方のそのアーティファクトなら、デボルさんを治せるはずです」

「……手遅れに見えるが?」

「普通なら。しかし、彼女等はゲシュタルト(データの集合)体です。精神や言葉に干渉する闇魔法ならば可能でしょう」

「そうか……」

 

 清水はデボルに駆け寄ると『黒ノ書』から天使文字を流し込む。再会したハジメに機能向上の改造をされた『黒ノ書』だが、こんな使い方があるとは思いもしなかった。

 

(多分、別人なんだろうけどな……)

 

 一方、清水は自然と込める魔力に力が入っていた。何故なら似ているのだ。清水とカイネが世話になっていた教会に住む双子に。片方は敷地内の噴水で弦楽器を弾きながら歌を歌い、もう片方は併設された図書館の館長を務めていた。

 

 確実に別人であろうと思いつつも、まるで第二の家族である彼女等を助ける気分になっていた。

 

「とりあえず傷は塞がったが……」

「ん……」

「デボル?」

 

 清水が治療をしていると、デボルが少し身じろぎする。それを聞き逃さなかったポポルがデボルに駆け寄る。

 

「クソ! 殺し損ねたか!」

「はい邪魔しない」

 

 悔しがって確実にデボルを殺そうとする街人に、リリスがトランプ銃で牽制する。その間も、清水による治療は続く。

 

「泣いているのか? ポポル」

「デボル……良かった……生きてる……」

 

 デボルはポポルの涙を拭いながら、語り始めた。ポポルは止めようかとも思ったが、そのまま語らせることにした。

 

「私達が双子で作られた理由が分かったよ。一人で生きるには、この世界も、()()()()も、広すぎるんだ。時間が、長すぎるんだ……それに耐えられるようには、出来てないんだ」

「うん……うん……」

「おかしな話だよな。涙が流せるのに、魂が無いなんて。魂が無いのに、人が増えて嬉しいと思うなんて」

 

 最後の言葉は清水とカイネを見ながら発された。それによって、清水は荒唐無稽な説が確信に変わった。

 

「それじゃ、アンタはやっぱり……」

「後で話すよ。それか、ポポルに聞いてくれ。あたしは少し、眠るよ」

 

 目を閉じたデボルをリリスはカードを展開して作り出したポータルに放り込む。そして、今なお自分達に敵意を向ける神殿騎士と群衆の半分に侮蔑に満ちた嘲笑を向ける。

 

「さて、随分なご高説を垂れていたようですけれど、神殿騎士の皆さん」

「な、何だ! 豊穣の女神を差し置いて異教の者共を頼るなど、背信と言わずして何という」

「はあ、まだそんな事を言っているのですか」

 

 そして、先は神殿騎士がわざと避けて語った事実を明け透けに話す。

 

「それならその自己中心的な信仰心に従って、敵の大群に突撃して無駄死にしてきたらいかがです?」

 

 その言葉で神殿騎士以外は怯んだ。群衆は仮に目の前の気に入らない者共を八つ裂きにした所で、自分達の末路が敵の蹂躙のみである事を思い出したのである。

 

「何が無駄死にだ! これはエヒト様に忠誠をつくした末の殉教である!」

「犬死って言葉がこれほど似合う事例も珍しいですよ。でもまあ? 少数派を食いつぶしてきたこの世界の住人が、大量の敵に押しつぶされるというのも皮肉が効いていていいですかねえ?(というか、一応私が王女だって分からなくはしてありますけど、今この人たち王族に歯向かってますねえ。まあ、今までの傾向を見るに、仮に正体をばらしても変わらないでしょうが)」

 

 リリアーナは神殿騎士や神官たちの横柄な態度を思い出して辟易していた。自分の血で喉を詰まらせてしまえばいいのにと思った回数は一度や二度ではない。

 

 なお、神殿騎士は依然として怒りを見せているが、群衆と愛子と護衛隊達はリリスの言葉に恐怖していた。彼らは今まで生きてきていて、これほどまでの悪意に触れた事が無かったのである。

 

 リリスは現状の敵が四人まで減った事を確認すると、眼前の敵ではなく後ろを振り向いて警告を飛ばした。

 

「敵の別働隊がやってきたようですね。清水さん、カイネさん、睚眦部隊と共に迎撃をお願いします。そして、神殿騎士の皆さんも。少なくとも治療者に対して狼藉を働くよりも有意義でしょう」

「言われずとも闘いに赴くに決まっているだろう! これ以上異教徒共に好きにされてたまるか!」

 

 リリスの言葉に肩を怒らせながら戦場に向かう神殿騎士の四人。しかし、避難所から離れた所に来たところで違和感に気付く。

 

「おい、敵は何処だ。押し寄せてきているのだろう?」

 

 デビットが付いて来たリリスに問うと、ギャンブラーは耳まで裂けようかという勢いで口元を笑わせると、異空間を展開した。

 

「な!? 何だこの能力は!? それより、何のつもりだ!」

「貴方達は弱いだけでなく、こちらに協力する意思もない。戦線に参加させたところで毒にしかなりません。故に少々嵌めさせていただきました」

 

 リリスの背後で少女趣味の空間が旧時代の様式を再現したカジノへと変貌してゆく。避難所の守りは加百列が戻れば盤石となるだろう。リリスは今までの鬱憤を晴らすべく、ダイスとカードを用意する。

 

「ご安心ください! 皆さんに楽しんでもらうのは快楽の饗宴! 一夜限りの賭博の遊戯! さあ、ゲームスタートです!!」

 




 次回、リリアーナが大暴れです。

備忘録

 ポポルさん暴走:NieR: Repricantのワンシーンの再現です。映像と声の無い小説で書くと物凄く難しいですが、今回はハッピーエンドに終わりました。

 闇魔法の使い方:清水を味方にした理由として、NieR: Replicantに『ゲシュタルト体』という設定が有り、それがありふれの闇魔法と噛み合うのではないかと考えたのが有ります。そして、原作とは逆に本を使って二人を助けました。

 転移前の清水とカイネの生活:どうやら教会に赤髪の双子がいたようです。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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