人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 今作のリリアーナの場合、腹いせ三割:愉悦七割くらいの思考回路でやってそう。

 また、既に何処かで書いているかもしれませんが、この話に限らずリリアーナが地球の用語を使うのはギャンブラーというキャラクター性を示すためです。架空の用語とか作っても良いけど読みづらくなるだけでしょうし……チェスの代わりにシャッハと呼ぶとか、そのくらいが限度です。どうしても気になる人はトータスの言語を和訳するとこれに近い意味になるよ、と思ってください。



博戯ノ背信

 片手でダイスをジャグリングするリリスに、四人の神殿騎士達は警戒しながら小声で話し合う。余裕そうにダイスを弄ぶ忌まわしい女をどう倒すか策を巡らせているのだが、如何せん相手の手札が分からない。

 

「まずは俺が切り込んで様子を見よう」

「了解しました。その間、我々は魔法の準備をします」

「ああ、この闘い、勝つぞ。エヒト様の為に、何より愛子の為に!」

 

 話し合いが終わると、まずはデビットがリリスに斬りかかる。しかし、リリスを切ったと思えば彼女の身体が上下に分裂した。

 

「人体切断マジックを最初に見たがるなんて、なんて過激なんでしょう」

「貴様何故生きている!?」

 

 上半身だけの状態でリリスが軽口を飛ばすとデビットは幽霊でも見たかのような顔を向けた。トリックは単純である。先程も使っていたポータルをリリスの身体を通すように展開しただけである。そして、通したままポータルの方を、言い換えれば空間を繋げた出口を移動させた。

 

「油断大敵ですよ♪」

「何!? ぐっ!」

 

 なお、移動できるのは上半身だけではない。デビットが宙を舞うリリスの上半身を見ようと振り返った瞬間に下半身がブレードとなっている脚でデビットに蹴りを加える。

 

「隊長!」

「私はいい! チェイス! クリス! ジェイド! その女の上半身は無防備だ! 焼いてやれ!」

「りょ、了解!」

 

 三人は火炎魔法をリリスに向けて放つ。三つの火球は寸分の狂いなくリリスの上半身へと吸い込まれるが、リリスは笑みを零すとトランプの銃撃で全て撃ち落とす。

 

 だが、

 

「これで終わりではない!」

 

 デビットが霧散した炎を風魔法で集め、小規模な炎の竜巻を引き起こす。リリスの回避は物理的な攻撃をほぼ無効化するが、面制圧的な攻撃には弱いと踏んでの作戦。この辺りの判断と連携は流石にエリートと言ったところか。

 

「あらあら、悪くない手ですね。ストレートだけでは魅力が足りないと思っていたんです」

 

 一方、リリスはそれを見ても余裕を崩さない。下半身はデビットとの戦闘を継続しながらリリスは日傘を取り出し、自身の周りを旋回させる。それで炎の竜巻は散らされた。

 

「もうお終いですか? ではこちらからも仕掛けましょう」

 

 リリスはついでとばかりに下半身を絡みつかせてデビットを投げると、ポータルを解除して上半身と下半身を繋げた。そして、指を鳴らすと後ろに目の焦点が定まっていない巨大な少女を召喚すると、それに合わせた大きさの三つのダイスがリリスを護るように回された少女の両手の間に召喚される。

 

 そして、暫くダイスが空中で転がったかと思えば少女の右眼に『9』という数が表示された。

 

「1.6.2……まずまずですね。今回は単純に数だけを比べましょうか。さあ、次は貴方達の番です。剣や魔法でダイスを振ってごらんなさい」

 

 戦闘中に唐突に始まるビッグ&スモールに困惑する神殿騎士達。しかし、直接リリスを攻撃しようにもダイスが邪魔だ。神殿騎士達はリリスに聞こえないよう小声で話し合う。

 

「どうします? 隊長」

「俺がダイス勝負を受けよう。お前達は魔法であの女を攻撃するんだ。それならダイスを飛び越えて攻撃できる」

 

 そして、作戦会議が終わるとデビットがダイスに斬りかかり、三人の魔法がリリスに殺到した。まず、デビットが斬りかかったダイスが回転するが、それは一つだけであった。

 

「何!?」

「駄目じゃないですか。ちゃんと三つ全部回さないと」

 

 出た目は『6』。六面体ダイスでは最高の数字だが、三つのダイスを回したリリスの数字には及ばない。デビットはトランプに囲まれ、別空間に隔離されてしまった。

 

 続いて魔法がリリスに着弾するが、リリスは日傘を前に差し出すだけであっさり防いでしまう。

 

「スリーカード」

 

 更にリリスはお返しとばかりに火球を三枚のカードから放った。シビルカットのように展開された三枚の人間大のカードから火球が放たれ、チェイス、クリス、ジェイドの三人は必死に防御、もしくは回避する。そして、攻撃の後隙に反撃しようと顔を上げると、そこにリリスの姿は無かった。

 

「どこに!?」

 

 チェイスは辺りを見回し、そして反射的に頭上に剣を構えた。そこには踵落としのように脚のブレードを振り下ろすリリスがいた。チェイスがそれを防ぐ間にジェイドがリリスに斬りかかる。しかし、それは日傘によって防がれてしまう。更にクリスが別の方向から攻撃するが、

 

「な!? これは」

 

 リリスの姿は消失し、逆にクリスの周りを四枚のカードが旋回するように取り囲む。クリスがその内の一枚に斬りかかれば別のカードから錐揉み回転してリリスが飛び込んで来る。

 

「アハハハハハハハ!」

 

 ドリルのように攻撃してくるブレードを剣で防ぎ、少しでも仲間の為に隙を作ろうと試みるが、日傘を軸にしたリリスのブレイクダンスのような回転攻撃に全員が吹き飛ばされてしまう。

 

 と、そこに隔離されていたデビットが戻ってきた。

 

「隊長! 大丈夫ですか!」

「ああ、何とかな……」

「この傷……隔離されていた先で一体何が……」

「あの女の影と戦わされた。だが、終始嬲られていただけだ。一撃も入れる事ができない」

 

 それを聞いたリリスが不満そうに声を上げる。

 

「嬲るだなんて人聞きの悪い……私はただ麗しい殿方と踊ってあげただけです。エスコートはして頂けませんでしたけれど」

 

 飄々と宣うリリスをデビットが憎々し気に睨む。しかし、リリスは意に介した様子は無く、先程の三つのダイスを再び展開した。数字は3.3.2で合計『8』である。

 

「隊長は負担が大きい。ここは私が受けましょう!」

「すまないチェイス……頼んだ」

 

 デビットが回復薬を使う傍らで、チェイスがダイスに魔法を放つ。デビットの失敗から学んでおり、しっかりと三つ全てを回した。

 

 しかし、

 

「1.5.1.残念でした」

 

 チェイスの出したダイスの目の合計は『7』。今度はチェイスがトランプに攫われて隔離される。

 

 チェイスが気が付けばそこはトランプに囲まれた空間の中だった。そして、呆けている暇もなく背後から何度も見た人間大のカードが回転しながら飛んでくる。

 

 チェイスがそれを回避すると、上下に点対象にリリスが描かれた面がチェイスに向けられ、更にそのまま180度x軸回転した後に、続けてy軸回転して裏返ると、裏面に描かれた模様からリリスのシルエットを象った何かが生成された。

 

「私の名前はジェーン・ドゥ。待ち遠しかったこの舞踏会(ギャンブル)、楽しみましょう?」

 

 ジェーン・ドゥと名乗った影は目の前にカードを展開するとそこに銃を構える。すると、チェイスの背後から銃を持った腕が生えてきた。空間を繋いだのか、思考する暇もなくチェイスは反射で体勢を銃身から逸らす。

 

 銃からトランプが発射されるが、その軌道上にいたジェーン・ドゥがそれをキャッチすると、直ぐに人間大に広げて風球を放ってきた。

 

(炎ばかりというのも派手ですが味気が無いですし、かといって雷や氷では弾速が速すぎる。風くらいがちょうどいいですね)

 

 チェイスに限らず、神殿騎士の戦闘力はオーダーや真の神の使徒に遠く及ばない。正直適当にやっても勝ててしまうだろう。しかしそれでは瀟洒に欠ける。どうせ外とこの空間では時間の流れが違うのだ。多少楽しんでも作戦に支障が出る事は無いだろう。

 

「この外道が! 我々を甚振って何が楽しいのですか!」

 

 普通の人間とやらはこの行為を甚振ると言うのだろうか。戦闘に楽しみを持ち出すなど非道であるというだろうか。しかし、これこそがリリアーナの考える人間性。機械と化した身体で唯一保てる人の部分だ。

 

 幼少の頃から、〝人間〟という怪物に囲まれて生きてきた。カミサマなんて物を盲目的に信じられる宗教者も、絵や文字を見て喜びの声を上げる民衆や貴族も理解できなかった。リリアーナは王族であるが故に政治の話についてはよく聞かされたし、それはよく理解できて面白かった。利益に腐心する貴族を見て何処か安心したりもした。

 

 しかし、時々話される〝人柄〟や〝人間性〟についてはよく分からない。生まれた頃から心というものが無かったのだとリリアーナ自身は思っている。政治学の勉強で、人間というものは名誉と財産さえ奪われなければそれほど恨む事は無いというのは学んだが、もっと基本的な事は今も分からないままだ。

 

 そんなリリアーナにとって、人間性とは〝未知〟を指す言葉なのだ。リリアーナが泣いたり笑ったりしていても、それは周囲を模倣した演技に過ぎない。

 

 機械になる事を決めた時も、何の感慨も無かった。ジャマナニンゲンを排除するのに効率が良さそうだと思った程度か。

 

 機械となってからは、というより年数を重ねるほどに人間については分からなくなってゆく。堕落した個性に目を凝らし、黒き思考に満ちた絶望を経験した。何処まで言ってもお姫様の心はまるで鉛のよう。素晴らしき日々と陰鬱な会話。政治の駆け引きをしている時だけがリリアーナの安らぎだった。

 

 こんな光景を見せる目ならば要らない。こんな不協和音を聞かせる耳ならいらない。昔こっそりそれらを毇傷(きしょう)してみた事があった。しかし、機械の身体は直ぐに再生してしまった。

 

 しかし、その後代行者達に会った。機械と化した時に会ったターミナルとは唯一会話が成立する相手で、それ故に期待も大きかった。そして、ターミナルほどではなかったが、代行者達とはとても有意義な時間を過ごすことができた。

 

 少なくとも、人間よりも機械の方が会話ができる。

 

 そして、エヒトが昔滅ぼしたという旧時代のアーカイブを見たら、そこにあったのは機械やチップに満ちた賭博の光景。

 

「あはっ」

 

 リリアーナは直感した。これこそが人間のあるべき姿。感情も正義も何度込めても勝ちは上がら無い、確率論と論理の世界。ルーレットよ廻れ。私を嘲笑え。カードよ踊れ。私を昂らせろ。

 

 純粋で美麗な勝負を! イカサマさえも美味な博戯を!

 

 その後、エヒトが異世界から勇者を召喚したと聞いた時、邪魔だなと思いながらも少し期待した。もしかしたら、自分と思いを共有できる人間がいるかもしれない。

 

 結果は見事に期待外れだったが。誰も彼も、人間性という虚飾を身に纏っている。もったいぶった顔をして、単一の思考回路であろうとする。そのくせ自分達は獣でも機械でもない普通の人間だという汚辱を通り越して滑稽な執念に取り憑かれていた。

 

 機械だってもう少し複雑な思考回路をしているというのに、人間は〝普通〟という単一の状態になろうとする。皮肉にも程がある。

 

『ええ、そうですよ。彼らが主張する〝確固たる人間性〟など、自己保存本能に従った動物的欲求に過ぎない。物を知らぬか、考えられぬが故に陥る錯覚。いわば、素晴らしき勘違いです』

『過激ですね……私は理解できないながらも〝獣性〟とまでは思いませんでしたが……』

『無論、〝人間性〟の一面ではあるでしょう。しかし、断じて本質ではない』

 

 在りし日のハジメとリリアーナの会話の一部だ。ハジメに言わせれば、自称健常者が宣う人間性など獣性だけを切り取った一部に過ぎない。知性体を名乗りながら無意識に思考停止するその態度こそが、最も人間性を貶めている行為なのだ。

 

 リリアーナは初めてターミナル以外に大いなる理解者を得る事が出来た。

 

「私の考えを見抜けますか? 今、貴方の思考(チップ)は全て、私の物ですよ?」

 

 チェイスの剣を蹴り上げながら、ジェーン・ドゥは相手を挑発する。ジェーン・ドゥはリリアーナの分身体の一体であるリリスに過ぎないが、同時にリリスでありリリアーナでもある。本体と同じく、戦闘をギャンブルとして楽しむ心は揺るぎが無い。

 

「何を!」

 

 チェイスは負けじと宙に浮きあがったジェーン・ドゥを斬りつけるが、トランプの紙吹雪に隠れて瞬間移動する。すると、今度は反対方向からジェーン・ドゥが脚を振り下ろしてきた。

 

 受けきれないと判断したチェイスが後ろに下がりつつ衝撃を緩和すると、周囲のトランプとジェーン・ドゥが消えた。

 

 周囲を見渡せば、デビット、クリス、ジェイドの三人は床に倒れ伏している。無論、自分もこれ以上戦えるかと言われれば否定せざるを得ない。

 

「ゲームセットですね」

 

 リリスの無情にもそう宣告する。だが、もはや四人にそれを聞く余裕は無い。その様子を見下ろしながらリリアーナは言った。

 

「ご安心くださいな。殺しはしませんよ」

 

 一刻後、カジノは消滅し、リリスはウルの郊外に立っていた。手には四枚のカードがある。

 

「ええ。殺しはしません。時が来れば、ちゃんと出してあげますから」

 

 そのカードにはトランプの柄のように配置されたデビット達が描かれていた。

 




 或る意味では一番安全な場所に隔離されたデビット達でした。

 そして、今作のリリアーナのバックボーンも明らかになりましたね。そもそも人間の心を実感を伴って理解できない彼女は、周囲の人間を怪物のように思っていた。そして、唯一理性的に、人間的になれる賭博に惹かれていったという感じです。

 備忘録

 リリス:リリアーナの分身体の内の一体です。後三体います。リリアーナであってリリアーナではないというスワンプマン的な存在と言えます。

 ジェーン・ドゥ:分身体から更に分離した影、と思って頂ければ。因みに、ジェーン・ドゥとは日本でいう所の『名無しの権兵衛』です。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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