リリアーナが神殿騎士達を始末している一方で、清水とカイネは愛ちゃん護衛隊や住人達が身を寄せる避難所の警備をしていた。住人の半分は尚もデボルとポポルを傷つけようとしたが、清水が〝黒ノ槍〟を威嚇射撃する事で黙らせた。
恐怖政治のようなやり方に愛子や護衛隊から顰蹙が飛んでくるが、結局他に方法など無いのだ。
「それとも、自ら守り神を手放すような愚民に言う事聞かせられるのかよ、先生?」
清水が死んだ眼でそう言うと、愛子も黙らざるを得なかった。護衛隊の面々も以前に清水とカイネを追い出した事もあって話しかけづらい。
誰も何も言えない空気の中、避難所が大きく揺れる。清水とカイネが外に出ると、魔物と機械の群れ、それから清水とカイネも目撃したオオトカゲが鎮座していた。
「さっきの騒ぎは半ば内輪揉めみたいなモンだが……今度は何だ?」
「
「もしくは、別勢力が参戦したか……まあいずれにせよ、俺達も戦わねえと死ぬぜ」
「分かっている!」
ウルの街の避難所の近くには大きな谷がある。そこに数々の岩の足場が存在した。敵はそれを使ってこちらに侵攻しようとしているらしい。
「カイネさんがいると思うと心強いぜ」
「世辞は嫌いだ」
「世辞じゃねえよ。戦闘は得意じゃねえ」
清水はそう言いながらも〝黒ノ弾〟を詠唱して魔物を掃討する。この〝黒ノ弾〟は魔弾を飛ばす魔法なのだが、ハジメの銃を見てから改良を重ね、遂に銃弾と同じような魔法を撃てるようになった。
「雑魚は任せた。私はあのデカブツを押さえる」
「了解。つっても、雑魚も普通にやべえんだぞ……」
カイネは人間離れした脚力でオオトカゲ〝フック〟のもとへと向かい、清水は魔法で仕留められなかった敵を剣で殲滅していく。
(やっぱり魔法が効いてねえ。抗元素個体か?)
更に、別の敵と相対せば唐突に電流が飛んでくる事も。ハジメ達が話していた『電盾』と呼ばれる魔法と当たりを付けた清水は〝黒ノ轟壁〟というバリアを展開する魔法で対抗した。
「悪いが、魔物を操るってアプローチはこっちも全くやっていないわけじゃねえんだな……」
きっかけは愛子との旅の途中で畑に巣食う害虫のような魔物をどうにか駆除しようと思案した事である。その時は諸事情有って派手な魔法が使えず、地味な闇魔法の出番となったのだ。そして、その後に勝手の分かった虫系統の魔物を中心に色々と従えているのである。
実は避難所周辺にも何匹か飛ばしていた。
「真空波、毒霧、溶解液、自爆特攻……多種多様に揃ってるぜ。畑を護るためってのも妙だが、蝗害の恐ろしさを味わいやがれ」
清水は蟲に食い荒らされた畑を見て、虫達を兵器転用できないかと思案したのだ。一緒にいた優花やカイネは鳥肌を立てていたが。彼女達は蟲に対する耐性は持ち合わせているが、研究サンプルに用いた蟲が大量であるため、流石に許容量を超えたのであろう。
清水によって放たれた虫達は魔物も機械も関係なく羽根から放つ真空波で切断し、毒の霧で足を止め、溶解液を投下して殲滅していく。
そして、敵の軍勢が勢いを増した所で一度虫達を退かせる。
「オーケストラってほど上品じゃあねえが、聞いていってくれよ」
清水がそう言った直後、夥しい数の別の虫達が魔物と機械の群れに突っ込んでいった。そして、耳障りな音を立てながら自爆していく。その爆発は敵に少なくない損害を与えたようで、絶え間ない攻撃が少しだけ止んだ。
この作戦は紛れもなく清水が思いついたものだが、ハジメも同じような発想の下に〝折鶴〟なる兵器を完成させていた。根本的な思考回路が似ているのかもしれないが、清水としてはその事実は複雑である。
「なるほど、敵が魔物を操るのならば此方も同じように虫を操る。その発想は我々からは出ませんでした」
「!? 誰だ?」
この場にいないはずの何者かの声に清水は自分でもありがちだと思うセリフを吐く。声のした方向を顧みてみれば、番傘を差した着物姿の女が崖の上に立っていた。
「お初にお目にかかります。九龍衆、睚眦の長、
「……ご丁寧にどうも。清水幸利だ。味方って事でいいのか?」
「ええ、微力ながら貴方方の助太刀に馳せ参じました」
そう言って縁璃は番傘を投げ、清水に向かっていた魔物の攻撃を弾くと同じく清水の背後に迫っていた四つ目の狼の魔物を刀で両断した。
「強え……」
「女性に対してその形容詞はどうかと思いますが。まあ、姫様直属の部隊だから、と答えておきましょう。それはさておき、この魔物達の首魁はどちらでしょうか」
「それならあっちだ。カイネさんが交戦してる」
清水の言葉を聞いた縁璃は了解の意を示してカイネのもとへと向かった。それを見届けた清水は全身から汗が噴き出るような思いをしていた。
(なんっだありゃ……南雲もそうだが、あの縁璃って奴も生物的に勝てるヴィジョンが浮かばねえ……)
正確には南雲ハジメは存在からして異質な感覚を覚え、縁璃は同じ生物として勝てないという印象だが。
いずれにせよ、天人五衰という組織は化け物だらけであると思い知るには充分であった。〝黒ノ書〟で魔法を操り、虫の大群を従えてもあの二人には勝てない。
(申し訳ないね先生。奴らを敵に回す勇気は、俺にはねえぜ?)
清水は既に、この闘いの後に誰についていくかを決めていた。転移前では卑屈だ小物臭いだと言われた事もあるが、だからこそ最悪の事態の想像はつきやすいのだと自負していた。
(英断と褒められるか、卑怯者と処断されるか……できれば後者は避けて欲しいね。南雲の奴がどこまで信用できるかと、天人五衰の懐の広さに賭けるしかないか……)
民衆よりも護衛隊よりも強く、昇格者達よりは弱い男の悲しい内心である。思えば、自他ともに認める卑屈で小心者な清水が何故ハジメ達『D坂の思想犯』と一緒にいられたのかと言えば、その卑屈さが上手くグループのブレーキになっていたという事なのであろう。
(いざとなったら事実陳列罪を吹っ掛けて俺の有用さを売りにするしかないかね)
とはいえ、清水の方はそれなりにハジメ達に恩義を感じていたりもする。性格の問題上、友人というものにそれほど期待してはいなかったが、彼等は確かに良き友人であったのは間違いない。
引きこもってばかりでは精神衛生上良くないと外に出てみたは良いものの、それがチェスを極めるという道に繋がるというのは清水が変わり者であるという自覚を与えた。普通に学校に行くという生活が自分に向いていないというのはおかしな納得を覚えた。
とはいえ、げに恐ろしきは攻撃対象を探し続ける十代の行動力か。
ここで、宮沢賢治の『猫の事務所』を引用しよう。簡単に言えば、
中学時代の清水はこれに対して大いに同情したものだ。『猫の事務所』という物語は中々に教訓を孕んだ話であり、つまりはその場にいない者の印象などいくらでも悪意で書き換える事が出来るし、その場にいない者の意思など悪意でいくらでも無視できるのである。
翻って清水の状況に置き換えてみれば、引き籠ったりチェスの大会で欠席すれば悪意のある噂が広まっていることも有った。ついでに家でも兄が悪口を吹聴していた。この生産性の無い行為に向ける情熱がいったいどこから湧いて出るのか。尤も、人間がやることが無い時は基本的に悪口を言うものであると学ぶこととなった。
これらを鑑みるに、学校を休むなという教訓であろう。教師に相談しても解決どころかむしろサボタージュの動きを見せた。学校に行ったところで碌でもない結果になる、端的に学校とは碌でもない場所だという事を身体を張って証明してくれた中学時代の教師には功労賞を与える事にしよう……
そこで、ハジメ達と一緒にいることで、多少は人間というものに絶望せずに済んだのは間違いなく僥倖と言えよう。変人一人がぽつねんと立っているよりも変人一味の一員である方が、周囲の評価はともかく心情的には楽であるし。
そんなわけで、ヨナの事でハジメを恨んでもいるが、友人としてみればそこまで悪い関係ではないという不思議な状態が清水の置かれている状況なのだ。
「動物ってのは偉いもんだ。家族が殺されても復讐一つせずに穏やかに暮らしている」
無論、動物達に復讐の感情が全く無いかと言われれば否であろう。しかし、人間の『復讐する事こそが美であり正常である』という意識は戯曲の読み過ぎであるように復讐に失敗した清水は思う。
ゲームのし過ぎだ漫画の読み過ぎだと口喧しく指摘する者達が、翻って見れば戯曲の読み過ぎであり、現実と虚構の区別がついていないというのは何たる皮肉か。別に復讐心を持つ人間を揶揄する意図も否定する意図も無いが、それが普通であると思わないで欲しい。
とはいえ、今更思う事も無い。オカシイなどという評価は随分とされてきた。二枚のカードを差し出されれば、当然選ぶべきカードを選ばずにもう一方を選ぶ。清水という男は、どこまでも生きるのに向いていない。
清水が以前と今後を憂いながら魔物を掃討していると、カイネと縁璃が向かった方向から音が聞こえ、大トカゲ〝フック〟が討伐された事が伝令で伝えられた。
>清水について
原作では可哀想な末路を迎える清水君ですが、正直彼の性格に関しては色々と意見が分かれると思います。ただの小心者とする作品もありますが、悪党として描かれる事もある。そのため、本作では間を取って絶妙な具合の社会不適合者のような感じで書いてみました。原作ほど虚栄心もありませんが、どことなく隙間を縫うように生きており『普通』の称賛は受けられない人間というか。
にしてはダークな過去を背負い過ぎですけどね。
ただ、性根が、というより悪党に堕ちる一面は確かに存在するので、他の小説ほど善玉ではないです。護衛隊を躊躇なく見捨てたりと、少しだけ原作だったり悪党っぽい行動もしていますしね。
オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように
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修理して連れていく
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見なかったことにして放置する