人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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まだ3話しか書いてないのに評価バーが赤くてビビっております。

荒ぶる藁人形さん、有馬 遊さん、合間な人さん、しゃあっ!さん、96 reitoさん、GREEN GREENSさん、高評価ありがとうございます。

では、第四話をどうぞ。


鍍金ノ勇者ト冬ノ魔女

 ハジメと香織は順調に愛を育んでいた。デートも何度かしたし、お互いの親に了解を得てからどちらかの家に上がったこともあった。香織がチェロを披露したり、画家として活動するハジメが自室兼アトリエを案内したこともあった。先の一件で見損ねた映画『ナルnア国物語』も、改めて二人で見に行った。ライオンの王のかっこよさについて盛り上がったり、好きな登場人物について語り合ったりした。香織は陽気な戦士ネズミの隊長が好きだと言い、ハジメは冬の魔女が悪役として好きだと言った。時々喧嘩をすることもあったが、幸せな日々を過ごしていた。

 

 

そして時は流れ、ハジメ達は中学を卒業し、今日高校の入学式を迎える。

 

「どうしたの? ハジメくん」

 

ハジメが高校の教室から桜を見ながら感慨深そうにしていると、香織が話しかけてきた。

 

「いえ、無事に生きて高校生になれたなと思ったら、なんだか安心しましてね」

 

ハジメの言葉を聞いた香織は、少し微笑んで恋人の手を握る。

 

「そうだね。高校でも、いっぱい思い出を作ろうね。ハジメくん」

 

するとそこに一人の生徒が香織の名前を呼びながら近づいてきた。

 

「香織」

「あ、雫ちゃん!」

 

 その生徒は八重樫雫という女子生徒で、黒髪のポニーテールに優しさを感じさせる切れ目の少女だ。なんでも剣道道場の娘で、美少女剣士として雑誌に載ったこともあるとか。香織とは親友で、学校ではよく一緒にいるようだ。

 

「あら、お邪魔だったかしら? 南雲君も久しぶりね」

「お久しぶりです。八重樫さん」

 

 自身の親友ということで、香織が何度か病室に連れてきたことがあるため、ハジメとは面識がある。雫はパニシング症候群に対して嫌悪感を示さない人間でもあるため、ハジメとはそれなりに親しく、本を貸し借りする仲である。尤も、要求される本が『若草物語』や『赤毛のアン』などの少女小説であったことは、見た目とのギャップに内心驚いたが。

 

 香織、ハジメ、雫の三人で談笑していると、後ろから「香織! 雫!」と呼ぶ男の声がした。香織がハジメの手を握る力を強め、ハジメは「誰だ?」と思って振り返ると、一人の容姿端麗な男子生徒が爽やかな笑みと共に近づいてくるのが見えた。二人の名前を呼んでいたため、知り合いだろうか、と香織の顔を見ると、微妙に怯えを含んだ表情になっている。その顔を見て、ハジメにとっては「名前は聞いたことがあるが顔は知らない」あの人物だろうかと思っていると、雫がその通りの答えを言った。

 

「…あら、おはよう光輝」

 

言葉を発するまでに一瞬間があったような、とハジメが思っていると、光輝はハジメと香織が手を繋いでいるのを見てやや顔をしかめると、ハジメを睨む。

 

「…南雲ハジメ、というのは君か?」

「ええ、そうですよ」

 

何かこの人物に恨まれるような事をしただろうか、と思いつつハジメが返事をすると、

 

「病気である事には同情するが、それで香織の優しさに付け込むのはやめろ。それにここは学校だ。軽々しく手を繋ぐんじゃない」

「ちょっと光輝!」

 

 …とりあえず前半部分はともかく、後半の「場を弁えろ」という指摘は分からんでもないので、ハジメは「香織、手を離してくれますか?」と言い、香織は少し躊躇うも手を離す。光輝はハジメが香織を呼び捨てにしたことに思うところがあるようだが、二人が手を離したことで溜飲を下げた。因みに呼び捨てなのは香織の要望であり、「恋人なんだから、出来れば呼び捨てにしてほしいな」とのこと。とりあえずハジメは自己紹介をすることにした。

 

「初めまして、南雲ハジメと申します。貴方は、天之河光輝君…で宜しいですか?」

「そうだ」

「どうやら誤解があるようなので訂正しておきます」

「誤解だって? 一体俺が何を間違えてるって言うんだ?」

「…天之河くん、ハジメくんは私の弱さに付け込んでなんかないよ。だいたい―――」

「香織は黙っていてくれ! 俺は南雲ハジメと話しているんだ」

 

 当事者である香織の言葉を遮ってハジメに敵愾心剝き出しの態度をとる光輝。何気に香織が光輝の事を名前ではなく名字で呼んだことも光輝の気に入らない事だった。

 ハジメは内心で溜息をつく。今の光輝の心情としては、悪者に騙された身内を取り戻そうという物だろう。光輝の中では、ハジメは映画の中で主人公の身内を騙して裏切らせた冬の魔女のように映っているのだろうとハジメは結論付けた。ハジメは冬の魔女については、キャラクターとしては好きだが、人間としては別段好きではない。不名誉極まりないので、誤解を解くことにした。

 

「僕は香織の優しさに付け込んだ覚えはありません。僕は彼女の負担を考慮し、一度交際を断りました。しかし、彼女は僕の事情を踏まえた上で改めて交際を申し込み、結果として僕はそれを受け入れた」

 

香織が大きく頷く。光輝が何かを言おうとするが、ハジメはそれを遮ってこう言った。

 

「嘘だと思うなら香織の両親にでも聞いてみるといいでしょう。今の言葉が事実だと証言してくれます」

 

ハジメが言い終わったところで入学式の予鈴が鳴った。

 

「どうやら時間のようですね」

「待て! 逃げるのか!」

「僕は貴方の質問には答えました。しかしそうですね、僕から言う事があるとするならば…」

「何だ!」

「香織の覚悟を踏みにじるな」

 

 明らかに怒気を孕んだ声。光輝は勿論、ハジメの傍にいた香織や、光輝を諫めていた雫でさえ一瞬動きを止めた。空気はなんだか肌寒く、春なのに冬であるかのように錯覚する。そして、ハジメの背後に冷気の中心と思しき白い女性を幻視した。

 

「香織は僕と恋人同士になる事によって生じる不利益を鑑みたうえで、それでもと交際を申し込みました。僕の事はどう思おうと結構ですが、彼女の覚悟を軽んじる発言は慎んでいただきたい」

 

ハジメはそれだけ言うと、入学式の会場である体育館へと向かい、香織もそれについていった。しかし光輝はハジメの事をずっと睨んでいた。

 

 

入学式が終わり、ホームルームも滞りなく終わった。今の生徒たちは各々交流を深めたり、帰り支度をする者などに分かれている。そしてハジメはというと、

 

「ごめんなさい」

 

香織と雫に謝罪していた。理由は、光輝に対する態度である。言いがかりをつけられたとはいえ、二人の幼馴染に対してあまりな態度を取ってしまった。

 

「いえ、別に大丈夫よ。元はと言えば言いがかりをつけた光輝が悪いのだし」

「私も別に気にしてないよ。寧ろ、ハジメくんが私の為に怒ってくれたことは嬉しかった」

 

そう言ってハジメと香織は桃色空間を作り出す。雫は無性にブラックコーヒーが飲みたくなった。

しかし、とハジメは思う。

 

(今後もこれが続くとなると、少し憂鬱ですね)

 

 実のところ、光輝の主張は子供の癇癪のようなものなので反論自体は容易い。しかし、入学式前のあの様子を見る限り、ハジメの言葉は光輝には響いていないだろう。寧ろ敵愾心を煽っただけかもしれない。はぁ~、とハジメは深い溜息をつく。現状を平和的に終わらせる手段が思い浮かばないのである。不良の時はパニシング症候群に対する忌避感や恐怖心を利用できたが、今回は同じ方法は使えない。

 残るハジメの手札は言葉と知識、画家やイラストレーターとしての活動で得た芸術性であり、言い方は悪いが、人の話を聞かない光輝には効果が無い。打開策が思い浮かばないことに、ハジメは自分もまだまだ十代の子供か、と内心で自嘲する。

 実際、ハジメは画家としてはそこそこの名声を得ている。『ゼロ』という名を名乗り、本名こそ公表していないが、本人にあまり隠す気が無いことと、絵画雑誌には顔を出したこともあるため、知っている人は知っている。因みに香織はハジメと恋人になってからアトリエを案内されて知った。

 しかしその名声故に忘れそうになるのだ。自分がただの子供である事を。そして自己嫌悪に陥り、「ゼロとかいう人物は随分と偉い奴じゃありませんか。貴方と同じ姿をしているくせして大変な差だ」と鏡に向かって皮肉を言ったりする。

 

「こちらこそごめんなさいね。光輝にも悪気があるわけじゃないのよ」

「まあ確かに悪気はないでしょうね」

 

 天之河光輝は悪意というよりは歪んでしまった善性で動いている。ハジメ自身、性格が良いと言うつもりは無い。寧ろ、善か悪かで言えば悪の方に傾く人間性であると自負している。とはいえ、そのような思考回路になったのは性善説よりも性悪説で考えた方が結果的に上手く纏まる事が多かったというだけであり、善にも一定の理解は示すし、相容れない思想であっても、全面的ではないにせよ、受け入れる部分は受け入れる。

 しかし、天之河光輝は話に聞く限りは善以外の思想を受け入れない人種かと思っていた(それだけでも面倒であることに変わりはない)のだが、実際は善に則った上で自分の都合を押し付ける人間である事が今朝のやり取りで分かった。

 

「…正義とは善人の失敗作に過ぎないのか、それとも善人こそ正義の失敗作に過ぎないのか」

「えらく哲学的に光輝の事をディスるわね…」

「すみませんね。しかし今日みたいな事が続くと思うと少し憂鬱なのですよ。なので今後こういうことがあればストレスに負けて皮肉を飛ばしてしまうかもしれません」

 

「幻滅しましたか?」と香織の方を見るハジメ。しかし、不良の一件でも「ハジメは善性ではなくエゴによって動いた」事を知っている香織は特段驚いた様子はない。

 

「あの夜病室で言ったでしょ。私はハジメくんを支えたいって。この程度の事で幻滅なんかしないよ。それに、天之河くんの言い分には私だって怒ってるんだから」

「私も別に何も思わないわ。寧ろもっと怒ってもいいと思うのだけど…」

「貴女が言っても説得力がありませんよ」

「ふふ、確かにそうね」

「分かりました。今後は基本的に天之河光輝君に対してはこちらからは不干渉で通します。向こうから突っかかって来たら…まあ、反論くらいはさせていただきます。というか現状それしかできません」

 

「火を消すには火をもって為せ」と『ロミオとジュリエット』にも書いてありますし、とハジメが皮肉気に言うのを香織と雫は何とも言えない表情で見ていた。

 

「相ッ変わらず性格悪いな。お前」

「ん?その声、清水君ですか?」

 

ハジメにとっては恋人と家族の次くらいに聞き馴染みのある声に返事をする。

 

「おう、お前にチェスでフルボッコにされた清水幸利だよ」

「やや久しぶりですね。同じ高校だったのですか」

「俺も今朝気付いた。しかしお前も面倒なのに絡まれてんな。よりによって天之河光輝か」

 

ハジメと清水が会話をしていると、雫が驚いたように声を上げる。

 

「清水幸利って…あのチェス棋士の!?」

「他にどいつがいるんだか知らねえが、全国大会に出場する程度の腕前を持つチェスの選手なら俺だ」

 

 まあそこの画家に負けたがな、と付け加える清水。一応言っておくが、清水はチェスでは全国三位の強さであり、決して弱いわけではない。ハジメに負けた清水は、ハジメをチェスの世界に誘ったが、ハジメは「画家の仕事があるから」と断った。しかしその後も交流は続いており、時々チェスで勝負をする。二人曰く、口と性格が悪い者同士気が合うとの事。

 

「今度また勝負しようぜ」

「おやおや、いいのですか? また貴方の敗北が増えるだけですよ」

「言うじゃねえかヘボ画家。今度こそお前の無敗の白紙のキャンバスに黒星を描いてやるよ」

 

雫は二人の攻撃的なやり取りに戸惑っているが、何度か見たことがあり、二人の仲が良い事を知っている香織は微笑ましそうに眺めている。

そんな中、この場においては誰も喜ばない人物の足音が近づく。

 

「香織、雫、遅くなって済まない。さあ、一緒に帰ろう」

 

件の天之河光輝である。とても良い笑顔だ。【吐き気がするほど眩しいよ、クソッタレ】と清水は内心で毒づく。

 

「南雲に清水か。いつまでも二人を引き留めるんじゃない。香織、雫、早く帰ろうじゃないか」

「俺はそこの二人にゃ用はねえ。後は勝手にやってくれ」

 

そう言って清水は場を離れる。光輝はそれに満足そうな顔をするが、ハジメが離れない事に不満を示す。ハジメが溜息混じりに口を開くと、

 

「天之河くん、私はハジメくんと帰るよ。学校の外でなら手を繋いでも文句は無いよね」

 

香織がそう言ってハジメの手首を掴み、教室の外に引きずっていく。掴んでいるのは手ではなく、その7cm程手前だから文句は言わせないという感じだ。

 

「え? ちょっと、香織?」

「ハジメくん、今すぐ学校の外に出よう。彼女からのお願いです!」

「ア、ハイ。えー、では皆さん、また明日」

 

ハジメは香織に連れていかれる直前に何とか挨拶だけは済ませた。

 

「…人攫いか。白崎は」

 

教室にはそんな独り言を呟いた清水幸利がいたとか。

 

「行っちゃった…まだ話しかけてないのに」

 

そんな事を内心で呟いた園部優花という女子生徒がいたとか。

 

 

ハジメは香織に引きずられるまま、校門の外まで来ていた。そこで香織は歩みを止め、ハジメの手を握り直す。今度は正真正銘、恋人繋ぎだ。

 

「…ごめんね? いきなりこんな事して。でも、こうでもしないと天之河くんはずっと絡んで来るんだもん」

「いえ、特に怒ってはいませんよ。しかし、彼には困ったものですね」

 

ハジメは苦笑いしながら言う。香織の行動ではなく、光輝の言動に対してだ。

 

「さてお嬢さん、今日はどちらへ?」

「ふふ、そうね。せっかくだから近くのカフェに行きましょう。流れてるジャズがお店の雰囲気に合っていて、とても評判がいいんですって」

「では、そこにしましょう」

 

ハジメと香織は手を繋いだまま、少し小洒落たやり取りをしながら歩き出した。

 




天之河光輝を書くのが難しい。ぶっちゃけ原作を何周してもコイツの思考回路がよく分かりません。今回もちゃんと書けてるか不安です。

そしてハジメに続く二人目の性格、設定改変、清水幸利君。詳しい設定や過去等はウル編とかで出す予定です。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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