人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 重力魔法。やはり『数学者』に与えてはいけなかった。『演奏者』も悪さしているとはいえ。というか、中盤で出していい技なのかどうか今でも悩んでます。


厳粛ナル哀悼―finale

 香織の〝テンペスト〟で大半の影や残存敵性体は殲滅したが、ウェンディはしぶとく生き残っている。また、ウェンディの外殻兼触手は攻撃を弾く性質がある事も戦っているうちに判明した。それからはユエの高火力技や優花の正確無比な投擲、そしてハジメの援護射撃によって弱点である瞳の部分にできた隙間を縫って攻撃していた。

 

「〝貪狼〟!」

 

 優花がウェンディの魔弾を吸収してエネルギーに転用する。そして、ハジメ達をかつて壊滅させかけた『ルシフェル』としての砲撃をウェンディにぶつけた。だが、ウェンディは大ダメージを受けても直ぐに瞳を閉じて、逆に大出力のレーザーを撃ってくる。

 

「瞳が裏側に回ってる。ユエ、こっちから攻撃して!」

「んっ!」

 

 ハジメ達が回避した後、『エーリエル』に乗って回遊しながら雑魚処理をしている香織が瞳の移動を報告し、ユエが浮遊移動で向かい、更に『永久なる制裁』で攻撃する。すると、ウェンディはまた触手で全身を覆い隠した。

 

「また回復ですか」

「……ん。単純ながら厄介」

 

 撃破できそうという所でこのように回復されるという流れをハジメ達は数回経験していた。このままでは永久に倒せない。

 

「おまけに〝テンペスト〟を喰らっても元気に罵倒してきますねえ」

「殺ス! 殺ス! 殺ス! 殺ス! 殺ス! 殺ス! 殺ス! 殺ス!余所者ハ殺ス! お“どう”さ“ーーん”!!! 怖いよ!! やだよ!! あ“ああああああ!!! ウルサイ! 黙ッテ従え!! コレデヨウヤクコロセル!! エヒト様ヲ侮蔑シタあいつらを!! 街ヲアラシタアイツラヲ!! 最高ダロウ!? アハハハハハハハ!!!」

 

 優花もユエも香織も気付いた。誰がウェンディの核になっているのか知らないが、その人物は自分の憎悪に起因する野望に自身の子どもすら巻き込んだらしい。

 なお、仮にハジメ達を打倒した所で彼らの愛するウルの街は魔物に蹂躙されるであろうし、そうでなくともハジメ達はヒュドラの一つの首に過ぎない。更に強い(ティオ)やラングランス、ターミナルに叩き潰されるであろう。

 

 一方、優花はその様子を見て独白する。

 

「まあ、理解はするわよ……白鯨(私達)を見つけた今、彼等にとって人命なんてどうでもいい。重要なのは私達を悪と宣布したことであり、それが彼らの戒律であり法であり経典。彼の憎悪を自分達の憎悪として、また何人かはそれを強制して白鯨という名の悪に立ち向かう。そうしなきゃ耐えられないものね。限りなく弱いもの。不確実な人生の中で、誰よりも確実な物を持ってるっていうのは気分がいいでしょう。分かるわ。私だってそうだったんだから」

 

 優花とてハジメが死んだと思った時、その原因である人間達に対して憎悪を滾らせた。それがある種の安逸な逃避である事も、その復讐心が破滅を招く事も分かっていたにも関わらず。

 愛ちゃん護衛隊の面々が寝静まった後、優花はハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』に登場するスターバック一等航海士のように自分を諫めていた。

 

『園部優花は園部優花に警戒するべきよ。若き人間、ご自分に警戒するべきだわ』

 

 現に、優花は執着心を暴走させ、ルシフェルとなった。

 

 だが、優花は復讐心を肯定も否定もしない。善良に生きていれば報われるだとか、執着を捨てれば幸せになれるだとか、そのようなヤワな教訓はお呼びでないのだ。ハジメへの執着を捨てた所で幸せになれなかったのは分かり切っているのだから。

 

「だから否定はしない。ただ、私は足を喰われた船長としてこう言うわ。地獄の芯にまでくだりおりて、私は貴様を刺し貫こうぞ。憎悪を込めた最後の息で、私は貴様の顔に唾を吐く」

 

 優花は白鯨ではなく、あくまでエイハブとして復讐者の塊に宣戦布告した。集団の民意という名のリヴァイアサン(白鯨)と戦ってきた優花だからこそ、ウェンディに対する憎悪も深い。

 

 そして、それはおそらくハジメも同じなのだろうと優花は思う。初めて会った日に、世間に毒を吐いていたハジメを知る彼女には、少なくともそう思えた。優花にとっては、ハジメとはリヴァイアサンと闘う一人の捕鯨船の船長だった。

 

『人間が天賦の権利として持ち得る自然権を全てコモンウェルズ(国家)に譲渡するべきである』

 

 そして、そうやって成り立った国家こそが『リヴァイアサン』だと、かつてホッブズという哲学者はそう言ったらしい。実際は絶対王政の合理化だが、仮に民主主義であっても国家という形に膨れ上がった人間達は怪物と呼べる。

 

 そして、その怪物にとって悪魔というのは悪い意味で歓迎すべきものだ。何故なら、教会的及び市民的なコモンウェルズにとっての最大の敵は神や正義の実在なのだから。悪魔はむしろ必要なのだ。生贄として。

 

 人々によって作られた呪われた鯨は、ハジメの目も耳も手足さえも蝕んだ。ハジメと優花が千(たび)も艇を下ろしては怒り狂って、白泡を蹴立てながら、己が仇敵を追ってきた。常人はそれを悪鬼と呼び蔑むのだ。

 

(ふざけるな……!)

 

 民意とやらを体現していると勘違いする狂人に、ただ絶対悪が欲しいだけの愚かなる善人に喝破する。

 

「エイハブは永遠にエイハブよ!」

 

 その声は、ハジメの耳にしっかりと届いた。お互いがエイハブであり、スターバックでもあるハジメと優花。だが、ピークォド号に乗る船員としての魂は百足(むかで)さながらに百本の足で動いている。

 

「ええ、その通りだ。討伐を言いだしておいて何ですが、実は少し迷っていたのですよ。この街が滅ぶのも民衆の意志だとすれば、それは規定された『死』です。街という名の鯨が自殺するというだけのね……苦しむ者は苦しめばいい。落ちる者は落ちよ、と」

 

 ハジメが無意識にとどめを刺す事を躊躇っていた理由だった。おそらく、数個の力学的な点を改善すればウェンディを完全に消滅させることができただろう。しかし、ハジメの一つの理性が歯止めをかけていた。

 

〝全ての存在は滅びるようにデザインされている〟

 

 果たしてこのデザインされた死に自分達が介入する権利はあるのか? と。尤も、仮にハジメ達が去ったとしてウェンディは追いかけてくるであろうし、廷辺りがとどめを刺していただろうが。そこまで割り切れないのはハジメとてまだ若いという事であろう。

 

 そんなことを考えてしまったがために、自分の愛する彼女等を危険に晒している。全く、コンダクター失格だと自嘲した。

 

「愚かな熟慮は捨て、ただエイハブのように狂気をその身に宿すとしましょう。とはいえ、〝テンペスト〟では決定打に欠けるというのもまた事実……ウェンディはそれほどダメージを受けてはいなかった。香織、ユエ、すみませんがもう一曲お付き合いください。ヨーゼフ・シュトラウスのワルツ・作品235……そこから着想を得た僕達だけの音楽を」

「ん……」

「……Yes, my majesty. 今この瞬間は、コンダクターの意のままに」

 

 〝禍天〟〝蒼天・零式〟ユエとハジメはそれぞれ魔法を発動する。禍天とは重力魔法の一つで、重力球を作り出し、消費魔力に比例した重力で敵を押しつぶす魔法だ。そして、蒼天とは火属性の最上級魔法であり、(あお)い炎で敵を焼き尽くす。

 

 この二つの魔法がハジメとユエの手によって融合され、周囲の瓦礫も巻き込んで仮想の質量を与えられた炎は小規模の恒星となる。そして、香織がその音を増幅した。

 

「「「〝ガラクシア・スヴィーテ〟」」」

 

 紀元前6世紀にギリシャの哲学者であるピタゴラスは、天体の運行が人間の耳には聞こえない音を発しており、宇宙全体が大きなハーモニーを奏でていると考えた。そして、彼と弟子たちは宇宙の調和についての知識の根本としてこの音楽を研究した。

 

 無論、この研究は実際に演奏される音楽を作り出すための厳密な形式についてというよりは、どのように宇宙が構成され、その宇宙をどのようにわれわれは知覚できるかという数学的、哲学的記述である。

 だが、この古代ギリシャの思想は19世紀のロマン主義的雰囲気に合っていたらしく、当時ちょっとした流行となった。そして、ヨーゼフ・シュトラウスという名の作曲家によって『天体の音楽』という名の曲が作られた。

 

 香織はこのエピソードに感銘を受け、後に自分でも作曲した。天体の名を冠した楽章を幾つか作り、ハジメに聞かせたところ、ハジメはその曲を褒め、自らの手でキャンバスに書き起こした。これが、二人の共作である『ガラクシア・スヴィーテ』である。

 

「あのー、すみませんカオリさん。この曲を作る際に殺意以外の何かを込めましたか?(二回目)」

『天丼ってやつかしら』

「紅……あなた呑気ね……さっきよりも離れてるとはいえ」

 

 それがトータスにて現実のものとなった。ヨーゼフ・シュトラウスのワルツの優雅さと共に、グスタフ・ホルストの組曲『惑星』を彷彿とさせる壮大な曲は、増幅された知覚できない音波と恒星の巨大な質量によってウェンディを破壊してゆき、その攻撃によって発生した塵は星雲と化し、更に周囲を破壊して発生した瓦礫は新たな星となって攻撃に加わる。

 

 ヴェガ、アルタイル、プロキオン、シリウス……ガラクシア・スヴィーテを最初に考えた時は香織が小学生の時だった。当時は作曲できるだけの知識も技術も無かったが、成長してハジメと出会い、曲と絵が形になった。

 

 ウルの街に疑似的に召喚された宇宙は、全てを破壊しつくしてフィナーレを迎えた。

 

 それが齎したのは、耳が痛いほどの無音と、誰もいない荒涼とした星の残響だった。そしてそれは、〝寂しい生き方〟を選択したハジメ達の末路であるようにも思えた。

 




 これ、この後技のネタ切れて死にそう……まあ、こんだけデカい技だと撃ち放題とはいかないのでね。
 それと、『白鯨』のモチーフを入れる事は割と初期から決まっていました。ここでいう白鯨とは旧約聖書に登場する怪物であるリヴァイアサンを暗示する巨大な鯨であり、ハジメや優花を押しつぶした巨大な民意、もしくは無意識に誰かを攻撃する善人たちです。ハジメ達は転移前から白鯨との闘いを繰り広げており、世間と迎合させようとする大人たちのことをエイハブ船長と同じような狂気を以て憎んでいます。また、その『白鯨』側の価値観こそ人間性とする論理には、それこそ憎悪を込めた最後の息で唾を吐くでしょう。

 備忘録

エイハブ:

 ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』に登場する、白鯨への復讐を誓う狂気の老人。優花とハジメ、香織はエイハブであるという点において同じだった。

スターバック:

 同上の小説に登場する一等航海士。エイハブに苦言を呈する人物であり、優花、ハジメ、香織もまたエイハブであり彼である。

ガラクシア・スヴィーテ:

 ハジメ、香織、ユエの三人で発動する技であり、疑似的な恒星を作って人間に知覚できない天体のハーモニーによって敵を殲滅する技。〝テンペスト〟と違い、複数人がいないと発動できないなどの弱点はあるが、威力に関しては説明不要。
 元ネタはパニグレのセレーナ・幻奏の必殺技。壮大過ぎる気もするが、本家でも領域展開→宇宙召喚みたいなことしてたので、大差無いかもしれない(あくまでエフェクトだとは思うが)。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
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