人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 ウル編終了です。少しやっつけ作業的になってしまいましたが……

 あとハジメ達は奈落にいた頃より人間性捨ててるのが……原典だと一番つらい経験が奈落だから地上で人間性を取り戻したけど、この世界では転移前から人間という脅威がいますからね。



悪魔ノ救済(ノブレス・オブリージュ)

 フックとウェンディ、オーダーの討伐を以てウルの街の襲撃は終了した。事実上の頭目の死亡により敵達は散り散りになり、今は残党狩りのフェーズに移行している。

 

 そんな中でハジメ達はこの地を離れる準備をしていた。(ティオ)とリリアーナ曰く、彼女等は事後処理があるので残るが、ハジメ達はもう離れてもいいとの事だ。最初に言った通り、ハジメ達がウルにいることは予定外の事なので敵がいなくなればハジメ達がいなくてもどうとでもなるのだった。

 

「で、この期に及んで何を作ってんだお前は」

 

 清水が呆れたように作業中のハジメに声を掛ける。ハジメは今、バイクや車を上回る巨大な代物を作っていたのだ。周囲には数式の書いた紙が散乱しており、幾つかはバツ印が書かれ、試行錯誤していることが見て取れる。

 

「見ての通りと言いますか、仲間が増えましたのでね。今までに代わる移動手段を作ろうかと」

「まあそりゃいい。俺達も同行する事になったんだからな。それで、その移動手段とやらが列車……なのか?」

 

 ハジメが作っているのは寝台列車だった。車と同じくどこかスチームパンクの意匠を取り入れており、歯車やリンク機構などが芸術的に噛み合っていた。そして、設計図を見る限り、ただの移動手段というわけではなさそうである。

 

「後部車両には食事や演奏のスペースもありますよ。香織と優花の希望でしてね。それに折角ですし、移動中くらいは旅行気分を味わってもいいでしょう? 内装は昔、雑誌やテレビで見た海外の鉄道を参考にしてみたんです。まあ、少々機械趣味が入ったものではありますが。因みに、名を《メフィストフェレス》といいます」

 

 ハジメの話が長くなりそうだと予感した清水はウルの襲撃時に従えた狼型の魔物を呼び出して寄りかかり、むしろ休息の体勢を取っている。

 

 そもそも、ハジメ達にはターミナルの作った転移装置が有るので、ここまでけったいな移動手段は不要に思えるのだが、転移装置には『機械でない者には使えない』『行ったことの無い場所には行けない』『転移先で何かしらのインシデントが起こっていると機能しない』などの弱点が存在する。

 今回は少なくともウィル・クデタという生身の人間を運ぶわけで、転移装置は使えない。なお、清水は割とあっさり機械化した。既に機械化しているカイネを支えたいという思いと、人間という存在に未練が無かったからだと本人は語る。

 何かとイレギュラーな状況下で自然と機械化した面々が多い中で、清水は珍しく人工的に機械となった人間といえる。

 

「車を二台とか、飛行艇なんかも良いですが、やはり列車の方が浪漫があるかなと。まあ、走るのは線路ではなく、空中なんですけどね」

「じゃあただの列車の形した浮遊物か」

「銀河鉄道ですよ」

「無敵かお前」

「遠慮なくご搭乗ください、カムパネルラ」

「その流れだと俺死ぬじゃねえか。ふざけんな」

 

 「重力魔法様様です」と言いながら列車を作るハジメに、清水が悪態をつく。だが、清水がここに来たのはハジメに悪態をつくためではない。

 

「で、その作りかけの列車で園部がスピークイージーを開いてるって言うから来てみたわけだが」

「スピークイージー……ええ、そのようですね。僕も一度休憩して顔を出そうと思っていたんです」

 

 ハジメはそう言って屋根から降りると、清水を該当車両へと案内した。

 

 スピークイージーとは、禁酒法時代の米国で多数発生した違法なバーのことである。根本からしてアウトローだが、そこは男女や違う人種が同じ席で酒を飲む差別の無い場所であったとか。

 違法な場所で殆ど唯一と言ってもいい平等主義の場であったとは皮肉も甚だしいが、実際に優花がバーテンダーを務める列車の酒場ではそれが現実になりつつあった。

 

「おう……こりゃまた随分と混沌に包まれた場所で……」

 

 やや暗めの照明に煌びやかなジャズスウィングで彩られたその酒場は、まさに非合法経営の許されない酒場。竜人、兎人、貴族、吸血鬼も座っている。そして、ピアニストと兼任のバーテンダーが、ここだけは史実と違う美味い酒を客に振舞っていた。

 カウンターの前では竜人がウルの町長と商談をまとめていたり、貴族の三男坊が街の住人から慰められていたり、各々がのびやかに過ごしていた。

 

「何を今更。転移前も大して変わらないでしょうが。学者、刑事、メイド、亡霊、シスターも座っていた。違うのはアルコールではなくカフェインで消毒していた点でしょうか?」

「違いねえ……俺ら学生だけでなく、随分と色んな奴が集まっていたな、思えば。立場を忘れて差別なき自由を享受するシャンバラ。忍者、チンピラ、ヤクザ、妖怪もいた」

 

 色々と表の世界からは拒絶された存在達も優花の実家である〝ウィステリア〟に集まっていた。ウェイターでも料理人でもあるある若きジャズピアニストや名を馳せた画家、その道では少し有名なチェス棋士、何故かイギリスに伝手がある影の薄い学生、ジャズに飛び入り参加する美貌の演奏者……最初は学生達だけの集まりだった〝D坂の思想犯〟が、いつのまにか巨大な集まりになっていた。愚痴や悪口を娯楽にして同調しながら楽しむアングラな集まりだったが、それが心地よいと感じるのは誰しも同じらしい。

 

『随分と不味い飯じゃねえか!』

『これで不味いとなると、工業用のアルコールがお望み?』

 

 そんなやり取りが冗談交じりに行われたことも有ったが、暴力沙汰はさりげなく混じっていた刑事と忍者が取り締まった。そのため、見た目の不穏さとは裏腹に治安は良く、一般的な客も入っている。というか、チンピラだったりはまず間違いなく逆らっちゃいけない相手を認識した時点で大人しくなる。ハジメにとっては絵を売る良い場所だった。

 

 翻ってトータスの列車内の酒場を見ると、地球の頃と変わらない混沌とした光景である。というより、ウェンディと成り果て、死んだ住民とその縁者以外はだいたい集まっているように思えた。

 

 清水は喧噪に隠れる隅の方で、トータスの人間には理解できない日本語で、かつ小声で毒づいた。

 

「現金なもんだねえ……仮にも街の住人が殺されてるが、英雄と瀟洒(しょうしゃ)にパーティーか。ウェンディとやらの〝材料〟は暈されてるとはいえ」

「……別におかしくもないのでは? ここは暗い情念渦巻く中世の欧州社会と考えれば、サバイバーズギルトよりも生存の喜びが勝つというのは不自然ではないでしょう。まあ、現代日本でも大して変わらないかもしれませんが」

 

 と、清水がある事に気付く。警戒用に外に虫を飛ばしていたのだが、それに何かが引っかかったらしい。共有した視界の情報からして、人間だと清水が告げる。それも、まるで機を伺う暗殺者のような気配だという情報も。

 

 それに対して、ハジメは「ああ……」と無感動に反応した。

 

「さっきまではいなかった。ようやくこの場所を探し出したってところか」

「なるほど……残念ながら、工業用アルコールの味を楽しむのは少し後になりそうだ」

「工業用アルコール……作った園部に殺されるぞお前……」

「心配ないかと。彼女自身がよく冗談で使うので」

 

 スピークイージーが存在したのは禁酒法の下の酒が手に入らない時代だ。正規品が手に入らない以上、工業用のアルコールで代用したという史実に基づいたジョークである。が、それよりも、

 

「……で、目下の問題を解決する当てはあるのか?」

「予想はしていましたからね。隠蔽しているとはいえ、真実に辿り着く者もいるでしょう。まあ、解決するのは簡単なのですがね……」

 

 それこそ、冷気一発で解決するだろう。そして、この世界ではそれ以外の解決方法は無い。裁判所なり警察機構に突き出すという手もあるかもしれないが、あの辺りは今、教会派と九龍派で派閥争いが起きているらしい。きちんと起訴されるかは微妙な所だ。やはり直接手を下すしかないだろう。殺すか生かすかはさておいて。

 

「さて、どうぞ?」

 

 ハジメは人気の無い所までやってくると、「うあ“ああああぁぁぁああ!!」と包丁を持った女が突撃してきた。

 

「美しき夜に刃物で刺されて死ぬのも悪くはないですが―――」

 

 ハジメは包丁を指で挟み、そして砕いた。

 

「貴方では僕を殺せない」

 

 昇格者の中でステータス最弱のハジメだが、量産品の包丁を砕くくらいの力はある。手の中にある包丁の破片を無表情に見つめた後、ハジメは襲撃者の名を聞いた。

 

「予想はついていますが、念の為お聞きしましょう。貴方は誰でしょうか?」

「……貴方が殺した人の妻で、貴方が殺した子の母よ」

「それはそれは……」

 

 先に示した通り、ウェンディについての情報は秘匿されている。だが、目の前に存在する情報から推測する事は十分に可能だろう。ただ、ウェンディの存在自体は既に公開されている。秘匿されているのはウェンディの材料が街の住人ということだけだ。故に、死人はハジメ達の広域殲滅攻撃に巻き込まれたと考えたのかもしれない。

 

 避難所を追い出された住人は避難所内で内乱を起こし、逃げる時すらも大小様々な損害を齎した。妻というくらいなら何故止めなかったのかともハジメは思ったが……まあ、家庭の事情はそれぞれなので何とも言えない。ハジメとて香織の行動を全て制御できるわけも無し。

 

(しかし、僕が今この人を正当防衛で殺したところで……まあ、殺人の範疇ではあるか)

 

 〝抹殺〟が視野に入ってきたハジメは生かした場合と殺した場合でどちらの方がリスクがあるか計算し始めた。できれば後顧の憂いを断つためにも殺しておきたいのだが。転移前と違って苦しませずに殺す方法も持っている。

 

「私が間違ってるのは分かってる……でも、私はもう貴方を恨むしか……」

 

 女がブツブツと呟き始めた。

 

 まあ、理解はする。と、ハジメは思った。この女が推測でありながらも真実に到達しているのか、それとも無知と蒙昧の中で夫と子の死に直面しているのかはあまり関係が無いだろう。いずれにせよ、目の前に実在して会話の成り立つハジメ達を恨むしかないのだ。

 

 この女自身は魔物に復讐する力は無いのだから。

 

 とはいえ、ハジメとてそれを正直に受けてやるつもりは無い。

 

「恨みたいなら恨めばよろしい。それは僕が干渉できない事だ。しかし、その〝獣性〟を僕達に向けた以上、僕は貴女を敵とみなす」

 

 点に神はいまし。世はことも無し。

 

 ハジメが引き金を引こうとした時、女をトランプの暴風が襲った。

 

「全く……こういう時にはハジメさんが異世界の住人であると実感しますね」

 

 現れたのはリリアーナだった。彼女の顔には感心とも呆れとも思える表情が浮かんでいる。

 

「こういうのに真面目に向き合うのは殊勝で結構ですが、貴方ほどの人が時間を浪費するのは得策とは言えません。あまつさえ、獣に堕ちた人間の相手をしている余裕など無いでしょう。絵画の一つでも生み出した方が生産的です」

「そうですか……まあ、この世界にいる間くらいはもう少しドライでもいいかもしれない、とは思っておりましたが……」

「それでも足りないほどです。この世界の住人は自分達が飢餓から逃れるために子どもや老人を森に置き去りにする事すらあるんですよ。そちらの世界は飽食の時代だったようで、羨ましい限りですが……獣性には獣性を、さもなくば博戯のチップにするべきです。せっかくですから、私は後者を取りましょう。秘密裏に抹殺するのは、ややもったいないですから」

 

 女は一瞬で気絶させられ、リリアーナが生み出した影〝ジェーン・ドゥ〟に抱えられている。彼女の末路を考えると、今死んでおいた方が幸せだったかもしれない。

 

「最後の広域殲滅は見事でした。我々の役割を肩代わりしていただいた事には、心からお礼を申し上げます。なので、貴方は英雄らしくパーティーに参加していれば良いのです。もしくは香織さん達と逢瀬を重ねれば良い。復讐者の排除などという雑務は、利権を貪る王侯貴族に任せておけば良いのです」

 

 リリアーナは感情を持たない眼で女を運ぶ影を見送ると、持論を展開する。

 

「あの女性は避難所で顔を見ました。緊急時であっても良き妻、良き母親という振る舞いでした。実に女性らしく、控えめで、(たお)やかで、夫を立てる人でした。やらされているわけではなく、本心から楽しんでいる印象でしたね。しかし、その女性的な側面を、復讐のためなら捨てられる。何故なら復讐と良き妻、母として振舞う事はベクトルが同じだから。数いる昇格者の中からハジメさんをターゲットに定めて計画を立て、凶器を用意し、衆人環境で実行しないだけの理性は働いたのか一人になる時を狙って尾行する。とても労力のかかる事です。きっと、楽しかったのでしょうね。死を弔う事よりも、葬儀の計画を立てる事よりも復讐に労力を使った。否定はしませんよ。愛の形は人によって違いますから。しかし、貴方が、感情を、割くほどの事ではないんです」

 

 最後はまるで呪詛のような声色だった。それか、共犯者を咎めるような口ぶりだ。だが、リリアーナは一頻り喋った後、何事も無かったかのようにハジメに向き直ってカードを差し出した。

 

「一枚選んでください。引いたカードがオスカー・オルクスなら、この先は安寧の道。ミレディ・ライセンなら、苦戦は必至。ナイズ・グリューエンなら……ふふ、怪訝そうな顔をしていますね。占いではありませんよ。神話が無ければ神は無力ですが、悪魔はどこにでも存在しますから」

「仮にも悪魔を名乗る僕からすれば、嬉しい情報ですね」

「ええ。リリスという偽名は、私が自分の名前を基になんとなく付けたものですが、そちらの世界では、自ら楽園を飛び出し、人間の欲望を糧にして人の道理を玩具にする魔女の名前だそうですね。悪魔の仲間として忠告しておきますが、このようなくだらない事で一々悩んでいるようでは、解放者達の二の舞です。思考実験のレベルにとどめておくのが最適かと。逆に貴方の思考実験は興味深い。今度ゆっくり、ゲームでもしながらお話ししましょう。親愛なる共犯者様」

 

 言いたいことは全て言い終えたのか、リリアーナは去っていった。彼女がいた空間を眺めながら、ハジメは呟く。

 

「……ままならないものですね、人生とは。パーティーで管を巻くのが英雄の責務……僕からすればそれこそが欺瞞にしか思えませんが、それでもやるべきなのでしょう。たとえ空虚だと思っていてもね」

 

 もしすべてが終わって地球に帰れたら、自分か誰かがパーティーでも開くのだろうとハジメは思った。それが欺瞞であれ偽善であれ、勝利の栄光の内に血に()んだ月桂冠を戴いて死にゆく者、(はげ)しい踊りの後で乙女の腕の中で死んでゆく者は幸せに違いないのだから。

 

 気高い精霊の力に撃たれて恍惚としてあの世に行ってしまえる時分はもう逃してしまった。

 




 原典よりもだいぶ人間性を捨てているハジメですが、リリアーナ曰くまだまだ足りないようです。流石は暗い情念渦巻く中世の欧州社会の、更に欺瞞と策謀渦巻く上流社会で奮闘する王女様といったところでしょうか。

 仮に異世界でなくとも、このような事は起こるでしょう。復讐の本質、人間性と獣性の違い。この解釈が絶対であるというつもりはありませんが、最後の方は『ファウスト』からの引用なので、ゲーテが生きていた時代ではそんな感じだったのでしょうね。

 備忘録

メフィストフェレス:ゲーテの戯曲『ファウスト』に登場する悪魔の名であり、ハジメ達の新たな移動手段の列車の名前。リンバスカンパニーに同名のバスが登場する。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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