人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 VS魔人族


魔ノ山―Movement-1―The balance distinguishes not between gold and lead.

 その魔人族はハジメ達に向かって、飛行ユニットからミサイルを飛ばしてきた。

 

「ご挨拶ですね」

 

 ハジメはゼロスケールでミサイルを撃ち落としてからそう皮肉を言った。香織の方も音波の防壁により攻撃を防いでいる。

 

「そうだ。それでいい。まだこの闘いは終わってはいないぞ。お前達の圧倒的暴力により、我々に死を与えよ。お前達だけが俺を葬り、この抗争を終結する事が出来る」

「なるほど?」

「お前達はあの防壁を作り、敵の群を押しとどめていた。お前達が人間族に与するのならば、敵の長たる俺を討つことこそ本懐」

「……認識にズレがあるようですね。我々は巻き込まれたに過ぎません」

「何?」

 

 レイスは訝し気な表情でハジメに問う。

 

「お前達は神の使徒ではないのか?」

「肯定しますが否定もします。彼らに追い出されたものでして。葬儀の業者であれば紹介できるかもしれませんがね」

「残念ながら安らかな死では我々の罪は贖えない。お前達がどこの所属か知らないが、少なくとも味方ではあるまい。そして、その強さは見逃すには惜しい。さあ、審判を下せ!」

「あまり戦う事には興味がないのですがね……」

「その武器は何のためにある。人を殺す道具をその手に持っているのだろう! そして此処は戦場だ!」

 

 レイスは飛行ユニットに備え付けられたビームサーベルで斬りかかって来る。ハジメはそれを体勢を低くして回避すると、そのまま銃撃した。レイスも負けじと銃撃するが、ハジメは首を動かすだけで躱し、今度は〝白夜還流〟で直線的な吹雪を放った。飛行ユニットの機動力で回避したレイスは今度は錐揉み回転しての上空からの突撃を実行する。しかし、それは香織が細剣でいなした。

 

 今度は香織がレイスに対して口を開く。

 

「争いなんて勝手にやっててよ。この世界の人間と、勝手に殺し合えばいいじゃない。私達が興味を持つのは、生きる事だよ」

「死よりも重要な生など存在しない!」

 

 レイスはビームサーベルで回転攻撃を実行する。それをさらりと回避しながらハジメは笑う。

 

「良い言葉だ。思わず座右の銘にしてしまいたくなる」

「コンダクター……?」

「しかし、僕は貴方に殺意を以て殺す事は無い。貴方の原罪とやらは僕も分かりますよ。本能的にね。だから何を与えれば良いかも知っている」

 

 ハジメは語る。レイスとハジメが抱えるものは同じだと。おそらく、彼は香織と出会わなかった頃のハジメだ。だから分かる。思考の動脈がどう通っていて、静脈に針を刺すにはどの部位を選択すればよいか。そしてそれはレイスも同じだった。

 

 だが、今のハジメには香織がいる。たった一人の演奏者によって、ハジメは死霊ではなくなったのだ。

 

「なので、僕はあくまで機械的に処理するだけだ。The balance distinguishes not between gold and lead. 天秤は金も鉛も区別はしない。攻撃には攻撃を。我々のスタンスはそれだけですよ」

 

 レイスはその言葉に、深く息をついてこう言った。

 

「ならば見せてやろう。俺達の目に映る地獄を!」

 

 そういうと、ハジメの仲間と護衛隊男性陣がいるメフィストフェレスが爆破された。

 

「作農師はこちらにいる。取り戻したければ俺達に戦いを挑め!」

 

 レイスはそう言って北の山脈に消えていった。

 

 ハジメ達は爆破されたメフィストフェレスを見て、溜息を吐いた。焦る必要は無い。天人五衰の面々ならば爆発くらいでは死なないし、死ぬ可能性のある者はどうでもいい者ばかりだ。今までハジメには多少なりとも護衛隊やクラスメイトに感心はあったのだが、度重なる接触によってそれがなくなってしまった。

 

 総じて、ハジメ達が負ったダメージはメフィストフェレスの修繕費だけである。だが、放置して作り直す度に爆撃を喰らうのも面倒ではある。さてどうしたものかとハジメが考えていると、香織がそっと微笑んだ。

 

「良い言葉だね、コンダクター。The balance distinguishes not between gold and lead. 確かに天秤は金も鉛も区別しない。天秤は神話において、裁きの道具としても扱われるけれど、人間が扱える道具でもある。攻撃には攻撃を、友好には友好を、良いんじゃないかな」

「おや、なんだか久しぶりに褒められた気がしますね」

「私、そんなに怒ってたっけ?」

 

 ハジメと香織は笑い合う。そして、お互いの腰に手を回した。

 

「I know the moon, and this is an alien city.」

「エイミー・ローウェルの詩ですか。午前二時のロンドンの街道」

「この異世界で、完全に地球と同じ価値観でいろだなんて言わない。きっと帰った後も、私達の価値観は変わったまま。でも、きっと月だけは私達の旧友であり続ける」

 

 The balance distinguishes not between gold and lead.とは英語の諺だ。人間は平等であるという教訓だが、ハジメに言わせれば平等なのは死が訪れる事だけである。地球だってそうだ。ある一つの特性を異常と言って蔑み、またもう一つの特性を珍しいと言って持て囃す。そこに境界など有りはしないのに。

 

何を以って普通と言うのか、何を以って異常と言うのか。ならば平等なものとはなんだ。

 

それは死だ。

 

 生という関数を演算した結果の極限たる死だけが、人間に平等に与えられた権利であり、普遍性である。生には生を、死には死を、理不尽には理不尽を。金も鉛も区別しない天秤のように、その一点だけはハジメ達も変わらないのだろう。

 

 トータスも地球も、天の上に存在する月だけが旧友である。偽りの普遍を掲げる者共の傲慢のなかで生き残るには、天秤が必要なのだ。

 

 

 

 

 

 ハジメと香織が列車に戻ると、列車に乗っていた者達は案外落ち着いていた。屋根が吹っ飛び、備品が散乱してはいるが、死者や重傷者はいないようである。

 

「ここにきて魔人族か。流石に意表を突かれたのう。機械教会の襲撃の裏で細々とした準備を進めておったのじゃろうが……」

 

 ハジメ達から話を聞いた(ティオ)は、傷一つない身体で伸び伸びと答える。昇格者故の耐久力の高さに加え、彼女の《部分竜化》による鱗を貫通するのは魔人族のミサイル攻撃を以てしても不可能だったようである。

 

 また、被害はメフィストフェレスだけでなく、ウルの街にも及んでいるようだ。魔人族の使う飛行ユニットは塗装が黒く、夜の闇の中では見つけづらい。おまけに、人間族にとっては聞き慣れない航空機の音である。メフィストフェレスで宴会を開いていたのが幸いして、直接爆撃に晒された住人は少ないようだが。

 

(わっぱ)、お主はどうする? このまま出発するかえ?」

「分かっていて聞いてるでしょう。見ての通り、列車の屋根がエリセン付近まで吹っ飛びましたからね。修理しなければなりませんし、どうやら敵の狙いは僕のようです」

「ほう?」

「敵の首魁の名はレイス。神より見捨てられし死霊と名乗っていました。そして、その魂を解放できるのは僕だけであると思っている」

 

 それを聞いた廷は溜息を吐いた。

 

「なるほど、お主の亜種か。それは確かに、逃げても追いかけてくるじゃろうな。亡霊の追跡はしつこいと、相場が決まっておる……して、お主の最優先目標は死霊の討伐かえ?」

「そうですね。そうしなければ特大の背後霊を気にしながら旅を続ける羽目になる。この列車が破壊された以上、修理・改良もしなければなりませんし……それに―――」

「それに?」

「レイスに対してはああ言いましたが、どちらかと言うと同情してはいます。きっと、僕も香織に出会わなければああなっていましたから。俗な言い回しにはなりますが、おそらくあの男と僕は闘う運命なのでしょう。死霊と死神。惹かれ合う存在。あの男が望むような殺意は抱いてやれませんが、彼を罪の(くびき)から解き放ち、魂に救済を与えるとしましょう……」

 

 死霊、というのは言い得て妙だとハジメは思った。死ぬことも出来ず、生きることも出来なくなった憐れな存在。ハジメも半分は死霊のようなものなのであるが、精神面ではむしろ死神かもしれない。〝蝶葬〟などという機体名も意味深だ。ギリシャにおいては魂の、仏教においては輪廻転生の象徴とされる。新たな機体のモチーフとして直感的に蝶を選んだというのは、ハジメが死に関わらざるを得ないことの証左なのかもしれない。

 

「そうか。そこまで言うのなら、敵の首魁はお主に譲ろう」

「良いのですか?」

「うむ。魔人共には花火の礼をしてやろうかとも思うたが、気が変わった。死霊は死神に任せた方が良い。それに、先の戦では敵の首魁は九龍が討ち取ったからのう。今回は譲ってやるだけのことよ。武勲は立てておいて、損はないぞえ?」

「ふふ、では、遠慮なく」

 

 ハジメの恐ろしさは実際に相対した者でなければ分からない。遠目から見ても判断できる程の功績を立てておくことは重要だと廷は言った。

 

「尤も、実際に相対するまで恐ろしさが分からぬあたりが、お主の恐ろしさとも言えるがのう」

「買い被りですよ。僕は本質的な意味で、ありふれた人間だ」

 

 ハジメは列車の屋根を応急処置的に直しながら、妙案を思いついたように表情を変える。

 

「しかし、壊されたおかげで新たなアイデアが浮かびました。車両を少し増やしましょう。来客用の車両を、ね」

「そういう所じゃよ。全く。お主もお主の周りも、お主を過小評価し過ぎじゃ。妾はお主ほど敵に回したくない者はおらぬ」

 

 廷が溜息を吐きながらハジメが列車を修理するのを眺めていた。

 

 

 

 

 

 そうして修理が終わった後、その傍らで、北の山脈を調査している睚眦(ガイサイ)部隊に連絡しようとした時、ハジメに話しかける者達がいた。愛ちゃん護衛隊の男性陣である。

 

「なあ、南雲! 愛ちゃんの居場所が分かったんだろ!? 頼む! 助けに行ってくれ!」

 

 ハジメと廷は顔を見合わせる。彼等は頭でも打ったのだろうか。あれほど敵意を向けた相手に、どの口で頼みごとができるのか。廷はわざと聞こえるように揶揄(からか)った。

 

「仁義の通し方も知らぬと見える。掌を返し過ぎて手首が骨折しておるぞ。まあ、動乱時代の人間なぞ、そんなものという見方もできるがのう……」

 

 護衛隊達は廷を少し睨むが、尚もハジメに食い下がる。

 

「俺達じゃアイツ等に勝てねえんだ! 頼むよ! 南雲しか頼れねえんだ!」

「いえ、止めはしませんからご自分で行ってくださいよ。僕は別のことで忙しい」

「そんな! 愛ちゃんと俺達がどうなっても良いって言うのかよ!」

「はい」

 

 明け透けなハジメの返答に、護衛隊は押し黙る。ハジメとしても、何故そこで驚かれるのかが分からない。あれだけ懇切丁寧に自分達の株を下げておいて、まだ情があると思っているのだろうか。

 

「お主ら、護衛隊であろう? 護衛対象が誘拐された時点で九割は任務失敗。せめて救出に行かねば、お主らの価値はなくなるぞえ?」

「で、でも……」

「やれやれ、護られているのはお主らの方であったか。あの教師も、出来の悪い生徒を持つと苦労する……」

 

 護衛隊の面々は唇を噛んで俯く。尤も、護衛とは愛子にアプローチする神殿騎士からのものであって、外敵からのものではないのだが……と書いたところであまり言い訳になってないな……

 

「まあ、ここで助けに行くと答えるのが正しいのでしょうけどね。僕はその正しさの側から嫌われた人間です。そういう人間はね、使えない奴をこうするんですよ」

 

 ハジメはそう言うと何かを護衛隊に投げつける。咄嗟に防御姿勢を取る彼らだが、投擲物が刺さっているのは彼等の足元で、投げつけられたのは彼等の天職に合わせた武器だった。

 

「防御姿勢を取るくらいの能はあるようですね。結構結構、最近は転んだ時に手すら出せない人間が増えているようですから」

「…………」

「さて、装備は与えました。後は、貴方達次第ですよ」

 

 ハジメはそう言ったが、護衛隊達は動かない。もう放っておこうとハジメと廷が二人揃って溜息を吐いた時……

 

「……来たか」

「そのようですね」

 

 魔人族の飛行ユニットが数体ハジメ達を目掛けてミサイルを飛ばしてくる。すると、列車や棺から無数の機械の手が伸び、更にそこから指も伸ばして、ハジメ達を守護するように絡み合う。

 

 カラカラカラカラ

 

 キリキリキリキリ

 

「うわっわわわ!?」

 

 ついでに護衛隊も巻き込んで守っておいた。助けに行けと言った矢先に死なれても困る。

 

 そして、ハジメの故郷の絡繰(からくり)を模した機械の手は、ハジメ達を護るだけでなく、魔人族を捕らえる檻として展開されてゆく。

 

「他に敵はいませんね? 香織」

 

 ハジメが視線を向けた先には、愛する演奏者がいた。護衛隊も魔人族も、そして廷も音を消して潜伏していた香織に驚いたようである。

 

「おのれ、奇怪な技を……!」

 

 今回はレイスではない魔人族の部隊長は絡み合った手の檻を見て悪態をつく。歩兵も飛行部隊も併せて、それなりの大部隊を率いてやってきたのだが、逃げ出す前に檻が展開されてしまった。破壊を試みるが、軽そうなその見た目に反して案外丈夫であり、隙間を狙っても今度は別の手が伸びて攻撃を掴んでしまう。

 

「ここは貴方達を迎え入れる為の偽りの列車。本物はしっかりと隠しておきました」

 

 ハジメは魔人族にせよ、他の勢力にせよ、三度攻撃される事を警戒していた。そのための偽の列車である。まさか、こんなに早く使い時が来るとは思っていなかったが。

 

「しかし結果オーライですかね。僕が直接、芸術作品の出来を確認できる」

 

 この檻はハジメがこの場にいない事を想定して作ったものであり、直接操作することは考えていなかった。その場合、檻の隙間を狙った攻撃は重力力場で閉じ込める事を考えていたが、今回は直接操作して攻撃に使えそうである。

 

「ふう、巻き込まれてしもうたわ」

「暫しお付き合いください。その方がおそらく、早く終わる」

「年長者をこき使いおって……まあ、良いわ。魔人とて我等が敵。撃ち落としてやろうかのう」

 

 ハジメ、香織、廷、そして護衛隊と、ガイストという魔人族の率いるヨルハ部隊の先遣隊との戦闘が始まった。

 




 最近、ウチのティオさんが原作と違う容姿と声に思えてくる。多分、ウチのティオさん、原作より目が細いし声が低い。実はティオさんの変態化は原作において私が首を傾げた展開の一つなので、今作ではこんな有様となっています。MというかS。

 備忘録

手の檻(仮称):ハジメが偽列車と棺に仕込んでいた無数の絡繰りの手が形作る、防衛、捕獲用の檻。錬成師ならではの技かもしれない。詳しい性能は次回。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

  • 修理して連れていく
  • 見なかったことにして放置する
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