人形タチハ世界最強   作:三文小説家

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 ハジメが護衛隊から舐められてるの、多分原作と違って容姿が華奢で女性的だからってのもありそう。


魔ノ山―Movement-2―死神ノ手

 WARNING ガイスト 飛行ユニット=ノヴム・イドラ従属

 

「あーはいはい。分かってましたよ。こういう展開になるのは……お強いですねえ。こんちくしょう」

「こちらの攻撃を全て防いでおいてよく言う……」

 

 現在、ハジメとヨルハ部隊先遣隊長ガイストは拮抗した闘いを繰り広げていた。ガイストは飛行ユニットに搭乗して攻撃しているわけだが、どうやらこれが特別仕様のようで、最大四体の分身を出してハジメを追い詰める。ご丁寧に飛行ユニットまで分身に含まれているため、攻撃力は高い。

 

 そもそも、この飛行ユニット自体が曲者なのだ。飛行兵器特有の機動力は勿論、マシンガンやミサイルの火力も侮れない。更に、人型である機動形態はビームサーベルによる近接攻撃や全方位ミサイル、そして飛行形態、機動形態両方が使ってくる高威力のレーザー攻撃と、多種多様に嫌な攻撃が揃っている。

 

「その分身、いいですね。やはり闘いは数か」

「飛行ユニット、ノヴム・イドラ。我等死霊の軍団に相応しき兵装よ。お前も、冥府への遠征に連れて行ってやろう」

「一々言う事が瀟洒(しょうしゃ)だな、ヨルハ部隊は」

 

 ハジメがそう揶揄すると、分身二体がビームサーベルによる近接攻撃を仕掛けてくる。この剣は石や鋼鉄程度であれば焼き溶かす威力を持っており、当たれば昇格者とてただでは済まない。しかし、ハジメは難なく躱した。

 

 しかし、更に残り二体の分身がハジメの背後から突撃の航空支援を仕掛けてくる。回避の隙を狙ったものであり、ハジメとてそのままでは避けられない。だが、

 

「こちらも分身を使える者がいましてね」

 

 香織の〝ファントム・オブ・ジ・オルケストラ〟による分身が二体の飛行ユニットを撃ち落とす。更に、香織本体も雷撃と音波を駆使してヨルハ部隊の数を減らしてゆく。

 

「So long lives this, and this gives power to thee.(詩よ、どうか永久に力を与えたまえ)」

 

 香織はそう自分に言い聞かせると、ヨルハ部隊の歩兵に音波による殲滅攻撃を仕掛け、生き残りの心臓に細剣を突き刺して命を奪う。ヨルハ部隊には攻撃を回避する技能も備わっているが、神速の刺突攻撃である〝夜鳴のターゲリート〟の前には発動する前に絶命する。

 

「!」

 

 背後から斬りかかる攻撃にも、香織は音を聞いて回避する。下段攻撃である斬撃を宙返りで躱した後は、細剣で攻撃者の脳天を突き刺した。そして、素早く細剣を引き抜くと、ワルドマイスターの演奏で雷撃を放ち、敵を討ち取って行く。

 

「中々やりおるわ。(わっぱ)に付き従うだけの小娘ではないことは分かっておったが、意外と容赦が無いわ」

 

 そう零すのは廷であり、彼女はただその場に佇んでいる。無論、弾丸も刃も彼女に向けて放たれている。だが、当たっているはずの彼女に一切傷は無い。

 

「柔いのう……まるで春雨のようじゃ。その雨粒も雨雲も、刃の上で舞い上がるがよい」

 

 そして、動揺したヨルハ部隊の隙を突いて歩兵を槍で薙ぎ払い、更に飛行ユニットの一団を扇の風で飛行不良に追い込み撃ち落とす。

 

「雨の風情は嫌いではない。水に濡れれば妾の美貌も映えるものじゃ。しかし、鉄と爆風の雨では騒々しすぎる」

 

 廷がそう言った時、上空で飛行ユニットの生き残りが絡繰の手に貫かれた。それは手の檻から伸ばされたものであり、その操作を行ったのは勿論ハジメである。

 

「……血液の雨なら良いというわけではないぞ、童」

 

 ヨルハ部隊の血液を頭から被ってしまった廷はハジメに毒づく。だが、言葉とは裏腹にそれほど怒ってはいないらしく、顔についた血液を拭って唇に塗った。

 

「良い紅じゃ。ちと黒いが、な」

 

 背後に迫る中型歩行兵器の前で、廷は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 片や、列車の屋根の上でガイストと戦うハジメは香織や絡繰と連携して彼を追い詰めていた。

 

「……そこか!」

 

 〝超速演算〟で高めた敏捷でガイストの背後に回って銃撃する。飛行ユニットでガイストが回避すると、香織が細剣を振るう。それを掠めながらも少し無理な体勢で回避しても、ハジメが増やした腕でアストレイアを撃ってくる上に、

 

「……!」

 

 いつの間にか降り出した雨がガイストに纏わりつく。飛行ユニットをブーストして抜け出せば、今度はその先に不可視の糸が張られており、危うく首が落ちるところだった。

 

 この敵の、この檻の正体はなんだ。ガイストは闘いながらそんな事を考えていた。レイスはこの者達が神の使徒と言っていたが、これが後数十人いると考えると、いずれ戦う事になるであろう同胞に同情せざるを得ない。

 

「いかがですか? この檻、〝死神ノ手〟は。死霊の魂を刈り取るには、最適でしょう?」

「ああ、最高だ。レイス隊長がいれば、彼もそう言っただろう。お前こそが、我らを原罪から解き放つ者だ!」

 

 だが、そんな事よりもガイストにとっては、今だけは神に感謝しても良いとすら思っていた。天より遣わされた死神。これこそ、自分達が求めていた、魂の刈り手。

 

 ガイストはリミッターを解除し、四体以上の、それこそ無数の分身を生み出してハジメに迫る。

 

「……思惑に乗るのは癪ですが、弔って差し上げましょう。〝嘆く者、嘆く者、罪と共に哭いてくれ〟」

 

 ハジメがそう言うと、雨がガイストを襲う。空を飛ぶ洪水のような水流にガイストと分身は飛行不良に陥る。

 

「〝死神ノ手〟」

 

 それでもじぶとく生き残っているが、その大きな隙を突かれ、檻から伸びる絡繰りの手に刺し貫かれる。そして、最後に銃撃で頭部を破壊され、ようやく絶命した。

 

「良い笑顔ですね。死神に殺されるのは本望と言ったところか」

 

 〝死神ノ手〟。絡繰りの腕によって作られた、敵を殺すための檻。その手で敵を刺し貫き、折鶴を重力力場で補助し、不可視の糸で切り刻む。

 

 カラカラカラカラ

 

 キリキリキリキリ

 

 正直、今回のヨルハ部隊に対してはオーバーキルだったかもしれない。何故なら今回の戦闘では〝死神ノ手〟の性能の半分も出していないのだから。だが、どちらかといえばこれは儀式のようなものだ。死に取り憑かれた同類に、死神式の葬儀を与えた。これは謂わば、弔いだ。ハジメとて、これを展開するのは骨が折れる。毎回というわけにはいかない。

 

「性能も申し分無いようですね。もう少し早く完成していれば、魔物の侵攻時にも使えたのですが、まあ、栓無きことですかね」

「やれやれ、結局雨を降らせるか。先の紅が落ちてしもうたわ。じゃが、これも中々悪くはなかろう? どうじゃ? 婚姻を結ぶ気になったかえ?」

「いいえ、まったく」

 

 廷がぶつくさぼやきながらハジメに近づく。確かに、水に濡れた彼女は魅力が増していた。だが、香織に後ろから抱きしめられたハジメは間髪入れずに断った。廷は「まあ良い。時間は幾らでもある」と言って去っていったが、香織はハジメから離れない。

 

「どうしたのですか? 香織」

「さっきのコンダクター、凄く怖かった……」

「……霊的な現象は起こしていないのですがね」

「違うよ。さっきはまるで、君まであの魔人族達と同じになってしまったような、むしろ、それ以上に悪い予感がしたの。死を求める君が、生きるようになったのはいいけれど、今度は死を与える側になったみたいで……殺人鬼なんてものじゃない。もっと、根本的な何か」

 

 香織はハジメが本当に死神になってしまうのではないかと危惧しているのだ。ハジメが定理と数式に則って動くだけの、それこそ機械となってしまう事を危惧している。根本的な何か、とはそういう事であろう。死と殺害を定義づけられた存在。香織は「殺人鬼ではない」と言ったが、災害じみているという点は殺人鬼に似ている。

 

「……人を殺すという行為には二種類あると、僕は思っています。一つが殺人、もう一つが殺戮」

「数が違う……以外に違いは無さそうだけれど……」

「まあ、昔読んだ本の受け売りですが、人が自身の尊厳と過去を天秤にかけて、どちらかを消去した場合にのみ、それは殺人となります。人を殺した、という意味も罪も背負うんですよ。後述の殺戮もそうですが、この時、あまり数は関係ないです」

 

 香織は自説を否定され、少し驚いた。基本的に殺人と殺戮の違いは規模の差によるものだから。

 

「それじゃあ、殺戮は?」

「それらとは無関係に人を殺す事です。殺された側は人ですが、殺す側には人としての尊厳が無い」

「それなら、さっき私が言った〝殺人鬼〟は……」

「読んで字の如くでしょうね。人を殺す鬼。その本質はもはや災害や怪異に近い。巻き込まれた側に運が無いとしか言いようがありません」

 

 身も蓋も無いハジメの言説に、香織は閉口する。だが、分かった事もある。ハジメがなってはならないのは、殺人鬼だ。だとしたら、死神とは何であろうか。神と名乗るからには、人ではないのだろうが。

 

「死神とは、やはり魂を刈る存在ですよ。性質としては前者、殺人を(おこな)う神です」

「やっぱり人ではないんだね。それじゃあ、人を殺す鬼と、神の違いは何なの?」

「まず前提がズレてますね。死神は死を司る神であって、人を殺す神ではない。死を司る結果として、結果的に殺人をする事があるだけです」

「結果的に、殺人をする? なんだか無責任」

「そんな事は無いですよ。死を司るという事は、殺人に対して意味を背負わざるを得ない。ともすれば人よりも。神であるという事は、そういう事でしょう」

 

 あくまで、これはハジメ個人の見解である事も分かっている。神の定義は様々であり、森の熊や蛇や狐とて神と崇められることがある。

 

「それが、鬼と神の違い? 実行するか、司るか」

「ええ。そして、貴方の言う魔人族達は、本質的に鬼に近い」

「近い? 鬼ではないの?」

「限りなく鬼に近い何か。しかし、尊厳ある殺人を実行し、実行される事で人になろうとしている、といったところかと」

 

 形は違えど、あの魔人族達は災害や怪異のような性質を持つ。しかし、例えるならば僅かに残った人としての自我が騒ぎ、人に戻ろうとしている。殺戮を実行するごとに、彼等は人ではなくなってゆく。しかし、人間に戻るには殺人を犯すしかない。

 

 その矛盾が、彼等の言う〝原罪〟であろう。

 

 確かに死霊と言えるかもしれない。人と鬼の中間体という意味では。

 

「絶対、あんなのにならないでね?」

「……今日はやけに突っかかりますね? この世界にいる以上、殺人をすることは避けられないのは実感したでしょう」

「好きな人に苦しんで欲しくないっていう気持ちは、数学者的には不合理かな?」

「…………」

 

 香織は、ハジメの殺人を否定していない。病棟の惨劇において、ハジメが行ったのは紛れもなく殺人だ。そして、世間では否定されるそれを、香織は受け入れた。だが、トータスは殺人や殺戮が肯定される世界だ。そして、地球に戻ったとしてその性質が抜ける事は無い。

 

 ハジメの血は、死神の黒だ。それは本人も認めている。しかし、それは鬼に堕ちる可能性もある諸刃の剣。鬼の血も黒である以上、それは有り得る。そして、ハジメはそうなった時に苦しむであろうことは香織には容易に想像がつくのだ。

 

「コンダクターはきっと、鬼になったら夜鷹(よだか)(さそり)のように、己の身体を燃やすでしょう? その苦しみも、君にとっては救いかもしれないけれど、私は嫌。君が星になるまで苦しむのも、置いていかれるのも嫌。ともに燃える覚悟ならあるけど、私からすれば、コンダクターはそんな罪を背負うべきじゃない」

 

 香織は前に回ると、ハジメの胸に顔をうずめる。ハジメの白く長い髪が、夜風に導かれて香織を撫でる。ハジメもまた、香織を抱きしめているのだ。香織は殺人を肯定も否定もしない。ただ、ハジメが苦しむのを見たくないだけだ。

 

 あくまでハジメが死神であるというなら、香織は鎮魂歌(レクイエム)を歌う。ハジメも香織も、悪い人だ。どちらにせよ、善の、正しさの側から認められる事は無い。だから、香織はどこまでも彼を愛することにした。せめて、彼が鬼になってしまわないように。

 

 なお、護衛隊の事は完全に忘れていた。

 




 ヨルハ部隊。原作の魔人族よりも遥かに闇が深い模様。そして、ハジメは鬼か神か。

 備忘録

嘆く者、嘆く者、罪と共に哭いてくれ:折鶴の行動指令。雨を凝集し、空を飛ぶ水流を作り出す。

死神ノ手:死霊の魂を刈るための、絡繰りの檻。無数の手で構成されており、その手で刺し貫く、呪力力場で折鶴の操作を補助する、糸で相手を切断する力が今回判明した。

殺人考察:『空の境界』より。

ノヴム・イドラ∶ありふれ原作に登場するアーティファクト。幻影を作り出すことができる。

オルクスの隠れ家の作りかけのメイドロボの目が瞬く。まるで何かを伝えようとするかのように

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